二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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イナズマイレブン〜試練の戦い〜
日時: 2014/03/26 11:37
名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: 9kyB.qC3)

皆様、初めまして…の方がほとんどだと思われるしずくと申すものです。実は某大作RPGの二次もやってますが…
 今回、再びイナズマ熱が蘇って来ました。
 そこで、二年程前に挫折してしまった〜試練の戦い〜をきちんと完結させようと思い、再びスレッドを立てさせて頂きました!

*注意事項
:二年前の〜試練の戦い〜のリメイク版(当時のオリキャラは削除しています。すみません)
:時代遅れなエイリア学園編の二次創作
:オリキャラあり。男主人公です。
キャラ崩壊、設定捏造の類いがあります。
:荒し、誹謗中傷はお断りです。

長くなりましたが、よろしくお願い致します!

本編

序章
>>1

一章「それが、全ての始まり。」
>>4->>11

二章「全ては予定通りに。」
>>12->>13,>>17->>18,>>23->>27,>>30

三章「その風は嵐? それとも?」
>>31->>35,>>37->>39,>>41->>72

四章「その出会いは幸せか」
>>74->>83

おまけ
夜の出来事(蓮と風介。宗谷岬にて)>>73

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Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.59 )
日時: 2014/03/19 14:50
名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: I6Mvfk2/)  

翌朝。今日も穏やかに波がさざめく音が聞こえる。朝日が窓から差し込む中、蓮はベッドの上で、腹に薄い掛け布団をかけ、丸くなるように上下ジャージ姿で寝ていた。時折、口から静かな息が漏れる。その姿は、眠りに落ちる猫などの小動物を連想させる。日光が顔に当たっても起きないのは、涼野とのパス練習ですっかり疲労がたまっていたのと、塔子に振り回された精神的疲労から来るものであった。

「大変だ! 白鳥!」

 そこへやはりジャージ姿の塔子が、乱暴に扉を開けて部屋に飛び込んできた。その手には女の子らしい明るいピンクの携帯が握られている。蓮はびくっとわずかに身体を震わせただけで、再び夢の世界に戻る。
 蓮の様子を見ていた塔子は苛立ちの表情を見せると、うつした行動は大変ストレートなものだった。ベッドのわきまでずかずかと大股で歩くと、携帯をベッドの上にある棚の上に置いた。そしてベッドの左はしに両膝で乗っかると、丸くなる蓮の肩を鷲掴み(わしづかみ)にした。

「お・き・ろ! お・き・ろ!」

 腹の底から大声で叫びながら、塔子は命令系をひたすら連呼する。掴んだ蓮の肩を関節脱臼を目論む(もくろむ)がごとく激しく揺らす。しばらくすると、蓮がかすかに眉をひそめて唸リ声を上げた。重そうに瞼を開き、目を半開きにして上半身だけを起こした。

「……なに塔子さん? 空から隕石が来た?」

 完全に寝ぼけているらしく、意味不明な問いかけが来た。
 塔子は盛大にため息をつき、棚の上の携帯をとった。そしてメールを呼び出し、蓮の半開きの瞼ぎりぎりに押しつけるように近づけた。
 
「そんなことあったら、あたしたちは死んでるよ! 白鳥も自分の携帯を見てみろ」
「携帯? なんことさ」

 欠伸を噛み殺しながら、ベッドから蓮は全身を起こした。ベッド下に置かれた自分の鞄から携帯を取り出すと、ベッド上にあぐらをかいて携帯をいじる。起動するなり、『新着メール1通』の文字が画面に表示。誰からだろう、と思いつつメールを開くと、差出人は円堂からであった。ボタンをクリックし、メールの本文を見たところで、

「え」

 蓮の眠気は一気に吹き飛んだ。目が驚きで完全に見らかれる。
 メールに、北海道で吹雪がすごいストライカーであることを確認した、と言うこととジェミニストームが雷門に勝負を挑んできたことが記されていたからだ。蓮は確かめるように視線を何度も上下させ、やがて塔子に向き直る。

「エイリア学園がこの北海道に攻めてくるだって!?」

 円堂からのメールを塔子に見せると、塔子は自分の携帯を蓮に手渡した。そこにはSPフィクサーズからのメール画面が映し出されており、北海道にエイリア学園が向かったと言う全く同じ内容が書かれていた。ただしこっちは、可愛らしい絵文字付きであるが。あちこちにハートマークとか顔文字とか。女子高生のメールの様だ。

「スミスたちからも連絡があった。エイリア学園が、この北海道に来ているらしいんだ」
「なんで僕たちの居場所が分かるんだろう」

 あくまで蓮は気になることを呟いただけだった。

 しかし塔子の面持ちが険しくなり、蓮は少しばかり不思議そうな顔をする。

「ん? 塔子さん、どうかした」

 塔子は腕組みをしながら、真剣な表情で答える。

「言われてみると、話が出来すぎていないか? あたしたちが北海道に向かっていることをエイリア学園は何故か知っていて、勝負を挑んできた。なんで知っているんだろ」

「確かに。偶然にしては、出来すぎているよな。どっかで情報が漏れたのかもしれないな」

 その時、ふっと頭に涼野が浮かんだ。

 エイリア学園がいた場所は奈良、そして北海道。どちらの近くにも涼野はいた。昨日会ったときは嬉しさのあまり大して気にも留めなかったが、深夜遅くに子供が一人でふらつくなどまずあり得ないことだ。親はどうした、所属するサッカークラブってまさかエイリア学園? 

 一度生まれた疑問は、やがて涼野を疑う疑念へと変わる。白恋にストライカーを探しに行くんだ、と昨晩彼に話した。そのせいで雷門の居場所がばれたのだろうか……?

「……風介。そういえば、エイリア学園がいる傍には、いつも風介が——」

 自分の内面世界にのめり込んでいる蓮は、塔子の話を全く聞いていなかった。

 漏れたってあたしたちが倒してやるよ! と言う返事のあたりからずっとだ。それでも塔子は蓮の返事も聞かず、独壇場のようにべらべらと話し続ける。

「だから早く宿を出て、みんなと合流するぞ……と言いたいけど」

 ようやく現実世界に戻ってきた蓮が、とりあえず話を合わせようと塔子に聞き返す。

「言いたいけど?」

「少し時間を調整するぞ。東京から白恋中学校まで、飛行機で行くなら半日はかかるんだ。だから昼過ぎくらいにつくように調整するよ」

 蓮は苦笑しながら、

「……塔子さん、ずるがしこいね」

「二人での観光旅行代、白鳥に請求するか?」

「ご勘弁」

「だろ?」

 得意げに塔子にふふんと笑われ、蓮はしてやられたりと言う気分になっていた。ベッドに思わず額をぶつけ、敗北感を紛らわせる。

〜つづく〜

Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.60 )
日時: 2014/03/19 18:32
名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: .iyGyIWa)  

午前十時過ぎまでコテージの外でパス練習をしたり、体力づくりとして走り回ったりしてから、再び迎えの車で二人は一路空港へと向かう。まずは飛行機で、白恋中学校のに最も近い場所にある空港へ。そしてスミスが手配したと言う黒いリムジンで、二人は白恋中学校へ向かった。
 初めてみる一面の雪景色に二人ははしゃぎ、しばらく雪合戦をしたりとじゃれ合っていた。やがて白恋中学校に足を踏み入れると、円堂たちが吹雪と共にこの雪原で特訓していると生徒に教えられた。詳しく場所を聞き、二人でその場所に向かって歩き出す。
 学校から5分ほどにある小高い丘。人工的に木は切られているのか、白い雪原と雪が積もった大岩の灰色だけしかない。もっこりとかまくらのように膨らんだ斜面に雷門イレブンはいた。ジャージの色が黄色や青であるため、白い雪原ではよく目立つ。
 みんな頭にヘルメットをし、足にはスキー板、手にはスキーの時に使うすべる棒が握られている。何故かスキーをしていた。
 そんなメンバーを見つけた蓮は微笑みながら、斜面へ塔子と共に近づく。

「なんかみんなずいぶん辺鄙な場所に——」

 発せられるはずの言葉は飲みこまれてしまった。
 嫌な視線を背中に感じる。刺すような、それでいて探るような、不快感に満ちた冷たい視線。蓮の足がすくむ。まるで背中に重い”何か”が乗っているかのように、身体全身が重い。それはたぶん威圧感のせいだろう。見ている何者かが発する禍々しい(まがまがしい)空気が、蓮の身体を潰そうと乗っかってくる。ちょうど肉食動物に睨まれる獲物の気分だ。とても怖い。体中の毛穴が開き、冷や汗がだらだらと流れていく。心臓の鼓動をいつもよりもはっきりと感じられる。顔が青ざめる。
 視線の主がニタァと不気味に笑った。ゆっくりと感じる視線の距離が短くなる。どんどん近づいてくる。蓮は自分を奮い立たせた。逃げない、こいつと戦わなきゃと無理に言い聞かせる。おそるおそる後ろを振り向くと、そこには——

「やあ、キミたちが白鳥くんに塔子さんかい?」

 吹雪がいた。白恋のジャージを身につけ、頭には青いヘルメット。片手で地面に刺した青字のスキー板を支えている。柔らかい笑みを口元に浮かべている。
 いつのまにか圧迫するような威圧感も、辺りを凍てつかせる視線もなくなっていた。こんな穏やかな人間がさっきの人物だとはとうてい思えない。

「白鳥どうした? 顔が青いぞ?」

 蓮の顔が青ざめていることに気づいた塔子が、蓮を心配そうに見つめた。蓮は顔に生気を取り戻しながら、

「今、誰かに見られていた気がする……」

 言いながら辺りを見渡す。
 聞こえるのは雷門イレブンがスキーで上げる歓声と悲鳴だけ。
 見えるのは雷門イレブンがスキーを行う姿と、白銀のこの広い世界だけ。
 塔子も同じように辺りを見るが、異変などないことに気づき笑い飛ばす。

「気のせいじゃないのか?」
「ん〜……」

 唸り声を上げると、蓮は腕組みをした。

 と気付いたように塔子が吹雪に話しかける。

「ところで、おまえは誰だ?」

「初めまして。ボクは吹雪 士郎」

 にこやかに自己紹介をした吹雪を、塔子と蓮は好奇と驚きが入り混じった瞳で見た。

「え! お前が吹雪なのか!」

「イメージと全然違うなぁ」

「やっぱり……噂に惑わされていたんだね」

 それから吹雪が噂は勝手に人が作ったものに尾ひれが付きすごく大げさになった事、自分はこれからジェミニストームと戦うために雷門イレブンを特訓していることを話してくれた。

「思うんだけど、雷門イレブンにはスピードが足りないと思うんだ。これを使えば、きっと早くなるよ」

 背後にあるスノーボードを見ながら吹雪は言った。蓮と塔子が互いを一度見合い、首をかしげる。

「スキーで早くなるのかな」

「ボクはこうやってスピードを上げて来たんだ。風と身体を一体化する感覚を覚えれば、もっと早くなると思うよ」

「モノは試しだ! 白鳥、やろうぜ!」

 はりきりだして蓮の袖を引っ張る塔子を見て、吹雪は丘の上を指差した。

「スキーの道具は上にあるから、とりあえず持ってきてもらえるかな。二人にはボクが一から教えるよ」

「よ〜し! あたしが一番乗りだぁ!」

「僕だって負けないぞ!」

 言うが早いか蓮と塔子は、はり合いながら丘の上にかけだし始めた。雷門イレブンに挨拶をしながら、必死に丘を走って登る。蹴りあげられた雪の切片が、日を反射してきらきらと輝く。

 そんな二人を笑顔で見ていた吹雪に、弱い冷風が吹きつけた。白いマフラーがはためく。みるみるうちに目がオレンジになり、髪の毛がツンと上に尖る。『吹雪』であった。『吹雪』は塔子に負けじと、歯を食いしばって丘の上にのぼる蓮に視線を向ける。口元を不気味にゆがませた。

「白鳥か……くく、おもしれえ野郎だぜ」

 

〜つづく〜

Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.61 )
日時: 2014/03/20 17:23
名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: 5prxPZ/h)  

特訓を続けていたら、あっという間に空が夕日でオレンジに染まった。
 夕日は北ヶ峰の稜線(りょうせん)をはっきりと浮かび上がらせながら、山の向こうへと沈もうとしていた。夕日が差す雪原は、光が通る部分は道のようにピンク色に輝き、影の部分は青色になっていて、コントラストが美しい。
 夕暮れ時まで、蓮は吹雪とワン・ツーマンでスキーの特訓を受けていた。
 元々不器用なためか、スキーで滑ろうとしてすぐに蓮は顔から転んだ。ちなみに雷門のメンバーは昨日からの特訓でみんなそこそこ滑れるようになっていた。
一緒に練習を始めた塔子は、昔パパとやったとか言って、踊るようにきれいなスキーを見せた。つまり、滑れないのは蓮ただ一人。

「負けないぞ」

 そう悔しそうに呟くと、蓮は吹雪に頼んで昼食も忘れて熱心に練習した。何回も転んだ。木に衝突もした。それでも、みんなから遅れた分を取り戻そうと、必死に斜面を滑りつづけた。
 やがて吹雪の教え方がいいおかげか、日が傾くころにはそこそこスキーで進めるようになった。

「いいよ、白鳥くん! もう滑れるようになったね」

 斜面を下りきった蓮に、吹雪からねぎらいの言葉がかけられた。蓮はスキーを八の字の形にして止める。靴をスキー板の金具から外し、板を脱ぐと、頭に被っていたオレンジ色のニット帽を取り、愛嬌のある笑顔を吹雪に見せる。

「吹雪くんのおかげさ。教え方、とても上手いな」

 吹雪は蓮にほめられて小さく照れ笑いをすると、首を軽く横に振った。

「ううん。白鳥くんの努力の賜物(たまもの)だよ。キミって、とても負けず嫌いなんだね。ボクが教えたこの中で、一番熱心な子だと思う」
「みんなよりできないって恥ずかしいからさ……今日中にできるようになってよかったよ」

 蓮は頬を軽く朱に染めながら、頭を掻いた。

「うん。ところで、そろそろ夕食の時間だって。白恋中学校まで戻ろうよ」
「あ、ごめんな吹雪くん。遅くまでつきあわせて。でも、もう少し滑っていたいんだ」

 蓮は申し訳なそうな顔で吹雪に謝る。
 とっくに雷門メンバーは白恋中学校に引き上げたらしく、雪原は閑散(かんさん)としていた。風が起こす外れの音だけが、雪原を包んでいた。
 こんな場所で一人で滑るのは寂しいものがあるが、明るいうちは大丈夫だろう。早く雷門イレブンとしてサッカーをやるためにも、もっとスタミナをつけたい。だから蓮は、できるだけ身体を動かすことにしたのだ。
 それを聞いた吹雪は、みんなに伝えておくよ。と答え、スキー板を抱えながら小走りで、白恋中学校の方角へと駆けていってしまった。
 吹雪の背中が小さくなる頃、蓮はスキー板を脇にかかえると再び丘を登ろうとした。その時。

「どけええぇえええええっ!」

 大きな怒鳴り声が近づいてきた。
 びっくりして声の方角を見やると、スキー板に乗った染岡がまっすぐこちらへと下ってくるのが見えた。焦りの色を顔に浮かべ、両手をまっすぐに伸ばし、鳥のように上下にばたつかせている。びっくりするバランス感覚だ。もちろん人は飛ばない。

 すぐに蓮は染岡が、スキーを止められずにいることに気づく。何度か声をかけるが、染岡が下るスピードは加速する一方。どうやら止め方がわからないらしい。

 染岡が風を纏(まと)っているように思えるくらい、空気が染岡と共にうごめくのをはっきりと感じた。それだけ近いと言うことだ。染岡は叫ぶのを止め、ひたすら羽ばたこうとしている。蓮が何もできないまま、距離はじりじりと縮む。ついに染岡と蓮の距離は30cm程になり……

Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.62 )
日時: 2014/03/20 17:23
名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: sIzfjV5v)  

「うわぁっ!」

 素っ頓狂(すっとんきょう)な悲鳴を上げると、蓮はスキー板を抱えたまま地面に倒れ込んだ。冷たい雪が頬をなでて、ひんやりとする。

 蓮の額近くの空気が切られ、前髪が舞う。直後、どがっと派手な音が上がり、どさどさと雪が落ちる音がした。

 髪についた雪を払いながら起き上がると、木立の根元に大きな雪玉があった。青と黄色の鮮やかな袖から出た手が露になっている。

 

「そ、染岡くん大丈夫!?」

 それが染岡だと理解した蓮は、スキー板を近くに放り投げた。染岡の救助にかかる。

 手袋をした指を関節でしっかりと折って、猫の手にすると、そのまま手でひっかくように無我夢中で雪を掘った。上部分から掘り下げると、染岡の頭が出て来る。いかつい目と蓮の黒い目が合い、蓮は肉食獣を前にした草食獣のように凍りついてしまった。

「ありがとよ、白鳥!」

 にっと得意げに笑うと、染岡は木に手をついて、立ち上がる。雪が食器を割るように砕け、地面へと還る。ひどいめにあったぜ、と文句を言いながら、染岡は体中の雪を手ではたく。

「あ、あの大丈夫?」

 再起動がかかった蓮が、控えめに染岡に尋ねる。

 顔で人を判断してはいけないと言うが、どうも彼の強面(こわもて)な顔つきが苦手なのだ。いつ怒られるのかわからず、少々びくついてしまう。

 染岡は、ん? と不思議そうな顔をした後、笑い飛ばす。

「そう怖がんな。オレは白鳥のことを食ったりしないぞ?」

「あははは……そ、そうだよね」

 苦笑する蓮を前に、染岡は瞳を陰らせた。口を真一文字に結び、すぐにぐっと歯ぎしりをした。

「くっそ! なんで滑れねぇんだ……」

 そしてスキー板を脱いで持つと、頂上へ登り始める。蓮も後に続く。雪がさくさくと心地よい音をたてた。

「染岡くん、焦りすぎてるよ」

 頂上について二人はスキー板の金具に再び靴をはめる。

 蓮がまずお手本にと滑って見せる。傾斜のない斜面は、スケートをするみたいになめらかに進んだ。染岡は蓮の姿を食い入るように見つめる。

 少し下で止まると、蓮はここまで下りてきて! と両手を振りながら、染岡に向き直る。

「おら! 行くぞ!」

 つるーっとスキーは斜面を滑りだし、蓮の方へ。両腕でバランスを取ろうとするが上手くいかず、前に転びそうになりながら下って行く。

 このままだと転ぶ! と思った瞬間、下に待機済みだった蓮が両手で穏やかに身体を止めてくれる。染岡は、ほっと安堵の息を漏らした。

「僕が後ろで支えるから、頑張ってみようよ」

 蓮は一度染岡から手を離すと、軽くスケーティング。染岡の背後に回ると、脇の下に手を差し入れてくる。その体勢のまま、開いたスキーの間に染岡のスキーをまたいで重なるようにする。そしてスタート。二人のスキーはゆっくりと斜面を下りる。

「おお、なんか違う気がするぜ!」

 バランスはしっかりと保たれ、染岡も自然と前傾姿勢になる。風を切って、あまりなだらかでない斜面をスキーはいいリズムで進んでいく。

「スキーが重ならないように気をつけてな!」

「おう! なんか……気持ちいいな、白鳥!」

「うん。風になるのってすごく心地いい」

〜つづく〜

Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.63 )
日時: 2014/03/20 19:33
名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: hFu5/zEO)  

吹雪にさっきこうして教わったのだ。
 自分の体の脇に吹雪が手を入れてくれて、支えながらやってくれると、驚くくらいに上達のスピードが速くなった。だんだんハの字を重ねた形できれいに進めるようになり、バランスをとるのにも慣れた。初めて風と身体を一体化できた感動は、心にはっきりと残っている。

「よし、そろそろ手を離すぞ!」

 染岡がだいぶバランスをとるのに慣れて来たようなので、蓮は染岡の脇から手を離した。染岡はいきなりかよ! とたじろぎ、一人で下って行く。また、バランスが崩れ下半身がぎくしゃくし始める。

「染岡くん、風だ!」

 スキー板から足を外すと、蓮は吹雪に教わったことを反芻(はんすう)して、腹の底から叫んだ。
 ——いい? 白鳥くん。スキーでは、怖がっちゃだめだよ。風になるんだ。風と自分を一つにする。そうすれば、きっと上手く滑れるようになるんだ。さあ、風になろうよ!

「風ってあんだよ!」

 意味がわからないと言った調子で、染岡の声が下から流れて来た。スピードはさらに増し、今度は染岡がどんどん見えなくなっていく。目の前に木立が迫る。

「空気の流れに身を任せて! そのまま進むんだ! 風になれ!」

 心の底から叫びながら、蓮は息せき切りながら走る。見逃したくなかった。染岡は、自分より上達のスピードが速い。ただ怖がっているだけなのだ。
 その直後だった。染岡の身体に安定感が戻る。身体をしっかりと前傾させ、スキー板もハの字を描いている。目の前に差し迫った木を、体重を片足にかけて、きれいなカーブを描いて避けた。

「染岡くん、いい調子! いい調子!」

 蓮は転がりそうになりながら走り続け、応援の手拍子を合わせた歓声を送る。
 やがて染岡は自力で丘を下り切ると、蓮にガッツポーズをしながら止まった。
 蓮の心に熱いモノが生まれた。その衝動に駆られるがまま、染岡の元までたどり着くと、彼の身体に思い切り飛びつく。染岡は驚く素振りも見せず、両手を広げて蓮を受け止めると、お礼の意味も込めて蓮の髪がぐしゃぐしゃになる程、激しく擦った。

「これでようやく吹雪のスピードに追い付けそうだぜ」

 スキー板を立てながら、染岡は満足そうに言った。蓮が首をかしげる。

「え、吹雪くんに?」

 すると染岡は難しい顔をすると、蓮の顔をじっと覗き込んできた。その視線は強い敵愾心に燃えたもので、蓮は染岡を直視するのがやっとな程、とても強いものである。

「白鳥は、吹雪を認めるのか?」
「うん。えっと、まあ……」

 強く詰問(きつもん)され、蓮が語尾を濁らた。曖昧な返事をあうる。

 染岡は満足な同意が得られなかったせいか、ふんっと不機嫌そうに鼻息を吐くと、腕組みをして目を吊り上げる。

「俺はあいつを認めねぇ」

「どうして?」

 そう蓮が聞くと、染岡は怒りと悲しみとが混ざった複雑な表情を見せた。

 今日、染岡の様子がおかしいことに蓮は気付いていた。いつもむっとした顔で、一人で滑っていた。その視線の先は、そういえば自分と特訓していた吹雪。何故だろうか。

 しばし返答に困ったのかだんまりとしてた染岡だが、ポツリと呟く。

「あいつを認めたら」

 そして覚悟を決めたような顔をし、蓮をしっかりと見て語りだす。拳を作り、それを震わせながら。

「豪炎寺が帰ってこなくなっちまう気がするんだ。あいつはチームのエースなのに」

「豪炎寺くんは、チームをずっと支えて来たのか」

「初め、俺は豪炎寺を嫌っていた。でも、あいつはすごいストライカーだってことが、一緒に戦ってきてわかるようになった。だから俺は、豪炎寺の力を認め、共に戦うことを選んだ。そうしたらあいつ、本当にすげえんだ。でも、あいつ一人じゃできないこともたくさんあることにも気がついた。そうだからこそ、俺は二番手でもいい、豪炎寺と共に2TOPを組んでやってきた」

 そこまで言い切ると、染岡は長い溜息をつく。

 顔がみるみる曇り、寂しさを漂わせ始める。

「だけど吹雪は豪炎寺とは違う。確かに強い奴だが、あいつを認めると豪炎寺がいなくなる気がするんだ——チームのエースは豪炎寺なのに。円堂も『豪炎寺が帰って来た時がチームが完成する時だって』言ってたが、オレはどうすればいいのかわからねぇ」

 黙って聞いていた蓮が、何か思いついたような顔をした。優しい口調で、

「んっと、じゃあ染岡くんに聞くよ。例えばの話、僕とキミの二人は、小舟に乗って夜の大洋を航海していたとする。だけどうっかりして、明かりを海に落としてしまった。だけど、目の前には運よく漂流してきた明かりがある。……さあ、どうする?」

 染岡に質問を投げかける。

 しばらく考え込んだ後、染岡は逆に強い口調で問い返してきた。蓮にかなり詰め寄る。

「その明かりが強すぎたらどうすんだよ。俺たちは、そのまま水の泡になっちまう」

 蓮は怖がらなかった。まっすぐに染岡を見据えた。微笑をたたえると、地平線に沈もうとしている巨大な火の玉を見つめた。

 真っ赤に輝くそれは、確かに強すぎることもある。昔近づきすぎて翼を焼かれた人間がいたと学校の歌で習った。だが、無ければ生きていけないと言う事実も学校で習った。

「明かりがイカロスの翼を焼く灼熱だったらどうする? ってことか。でも、その光は僕たちを導いてくれる太陽かもしれないよ?」

「……確かに、な」

 盲点を突かれて驚いたのか、染岡は俯きながら、自分に言い聞かせるように呟いた。

 そして蓮はまだ太陽に視線を送りながら、話を続ける。

「答は使うまでわからないさ。どう思うかなんて、自分自身の問題だから。……とにかく試して体感してみなよ。それから、染岡くんが選べばいい。灼熱だと言って捨てるか、光だと受け入れて共存するかは、さ」

「吹雪の力を……感じろってのか」

 ゆっくりと染岡が顔を上げる。その顔には、怒りも悲しみもなくなっていた。

 蓮はにっこりと笑ってみせると、背伸びをする。そして軽くウィンクして見せる。

「食わず嫌いはよくない。食べてみると、あんがい上手かったりするもんだよ」

「へへ、そうだな。白鳥の言う通りだぜ。俺も昔はゴーヤがまずそうだから食ったことがなかったが、食ったら上手かったぜ」

 釣られたのか染岡も口元に笑みを浮かべると、懐かしそうに言う。くすっと思い出し笑いが時折漏れる。

「そうそう」

 試してみなきゃわからないのだ。

 吹雪の穏やかな人柄はスキーの特訓で理解した。蓮としてはいい人間だと思っている。後は、染岡がわだかまりを解き、直接理解してくれればいいのだが……

〜つづく〜


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