二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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イナズマイレブン〜試練の戦い〜
日時: 2014/03/26 11:37
名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: 9kyB.qC3)

皆様、初めまして…の方がほとんどだと思われるしずくと申すものです。実は某大作RPGの二次もやってますが…
 今回、再びイナズマ熱が蘇って来ました。
 そこで、二年程前に挫折してしまった〜試練の戦い〜をきちんと完結させようと思い、再びスレッドを立てさせて頂きました!

*注意事項
:二年前の〜試練の戦い〜のリメイク版(当時のオリキャラは削除しています。すみません)
:時代遅れなエイリア学園編の二次創作
:オリキャラあり。男主人公です。
キャラ崩壊、設定捏造の類いがあります。
:荒し、誹謗中傷はお断りです。

長くなりましたが、よろしくお願い致します!

本編

序章
>>1

一章「それが、全ての始まり。」
>>4->>11

二章「全ては予定通りに。」
>>12->>13,>>17->>18,>>23->>27,>>30

三章「その風は嵐? それとも?」
>>31->>35,>>37->>39,>>41->>72

四章「その出会いは幸せか」
>>74->>83

おまけ
夜の出来事(蓮と風介。宗谷岬にて)>>73

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Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.9 )
日時: 2014/02/17 20:48
名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: wW0E9trr)  

頬に冷たい感覚がし、蓮はパッと目を開く。ゆっくりと上体を起こし、辺りを見渡すと、そこは自分の部屋であった。頬の冷たい感覚は、ベットのすぐ右横にある風のせいだったらしい。窓が開け放たれ、白いカーテンがはためいている。

「……あれ? 僕たしか——」

 そこまで言いかけて、蓮の脳裏に、黒いローブを着た人間たちのイメージがはっきりと浮かんできた。

「あいつらにシュートを打って……どうなったんだろう」

 腕を組んで唸る(うなる)蓮。そこへ、タイミング良くドアをノックする音がし、傘美野中学校前で出会った女性が入ってきた。

「え! あ、あなたは……どうしてここに!?」

 知らない女性が部屋に入ってくるので、蓮はたじろいだ。しかし女性の方はゆっくりと進むと、机から椅子を引っ張り出して座ってしまう。遠慮する気はないらしい。机に広がるノートやシャーペンをいじりながら、女性は話始める。

「勝手に家に入って悪かったわね。あなたのお母さんに連絡したら、仕事で帰れないって言うから、あがらせてもらったの」
「……そうだったんですか。えっと」
 
 相手を何て呼べばいいかわからず、蓮は言葉を詰まらせた。それを察したのか、ペンをいじるのを止め、女性は蓮をしっかり見据えた。美しい顔立ちなので、見つめられると心臓が激しく高鳴ってしまう。相変わらず惚れっぽいのは治らない。

「私は、吉良 瞳子(きら ひとみこ)。雷門サッカー部の新しい監督(かんとく)よ」
「瞳子監督ですね。あれから傘美野は……?」
「破壊されたわ」
「えっ!?」

 躊躇(ちゅうちょ)もせず、瞳子はあっさりと言い切った。

「雷門が試合に負けたから、約束通り破壊された。それに雷門イレブンの子たちも、何人か入院したわ。……しばらくサッカーは出来ないでしょう」
「あいつら……勝手なことばかりして」

 蓮は手をぎゅっと握った。倒れていた雷門のみんなを救えなかったことが、なによりも悔しい。彼らを思い出すたび、心に「あいつらを倒したい」と言う炎が燃え上がって行く。

「そこであなたにお願いがあるの」
「お願い? なんですか?」
「雷門サッカー部に入部してほしいの。私は、これから雷門サッカー部を、エイリア学園と戦える地上最強のチームにする。そのためにも、あなたの力が必要なのよ」
「そうだよ! 入ってくれよ、白鳥!」

 その言葉を待っていましたと言わんばかりに、一人の少年が部屋に飛び込んできた。短い褐色の髪、額の上にオレンジ色のバンダナをしている。目は黒いが、二重の大きな瞳なのでとても可愛らしい。彼は、確かさっきの試合でゴールに立っていた子だろう。

 

「え? 君は……」

「彼は円堂 守(えんどう まもる)。雷門サッカー部のキャプテン。あなたを心配して、ついてきたの」

 瞳子から紹介を受けた円堂は、よろしくな! とにっこりとほほ笑んだ。そして、気がついたように

「身体、もう大丈夫か?」

「うん。もう大丈夫だよ」

「よかった! いきなり倒れるからびっくりしたんだぜ。風丸と壁山(かべやま)の二人が、助けたんだ。あ、二人とも雷門サッカー部の仲間だ」

 円堂が話終わるのを見計らい、蓮は切りだした。

「円堂くん、瞳子監督。僕はサッカーを……」

「サッカーをやると倒れてしまう。あなたのこと、色々と調べさせてもらったわ。……幼い頃にサッカー大会で意識不明になったことがあるとか」

〜つづく〜

Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.10 )
日時: 2014/02/18 16:13
名前: しずく ◆snOmi.Vpfo (ID: 9kyB.qC3)

「え、どういうことだ?」

 首をかしげる円堂の横で、瞳子は薄いベージュの上着のポケットに手を突っ込むと、何かを取り出した。それは小さくたたみこまれた新聞記事。瞳子は、それを円堂の前に突き出す。

「円堂くん、この新聞記事を読んでみなさい」
「えーっと」

 記事を受け取った円堂は、元の大きさまで広げる。本当に小さな記事で、名刺ほどの大きさだった。

「……意識不明の白鳥 蓮くん(8)目覚める。小学生サッカー全国大会中に倒れ、意識不明の重体となっていた蓮くんが、今朝午前5時ごろ目覚めた。医師によると倒れた理由もわからず、まさに奇跡だという」

 音読を終えた円堂は、顔を上げ、蓮へと視線を移す。

「でも、これは子供の頃の話だろ? 今は、大きくなったし、関係ないんじゃないのか?」
「確かに、サッカー以外は僕、人よりできるつもりでいる。でもね、サッカーだけは」

 蓮は一度言葉を切った。そして小さく息を吸い、

「……動いているだけで、異常に疲れてしまうんだ。どんなに頑張っても、10分が限界なのさ。そんな僕が、君たちのチームに参加してごらん? 間違いなくお荷物になる」

 一気に思いを円堂と瞳子に吐き出した。

「そうね10分しかでられない人間は、確かに邪魔になるわ」
「監督の言うとおりです」

 腕を組んだまま、瞳子はしごくあっさりと言い放つ。言われた蓮も蓮で、当然だと言わんばかりの表情をしている。ただその瞳は少しもの悲しげであった。
 
「白鳥、サッカーは好きか?」

 黙っていた円堂が、おもむろに口を開いた。蓮は、作り笑いを浮かべて見せる。

「疲れるし、倒れるし。好きではない」

 しかし最後に、本当に小さな声でぼそっと囁いた。

「……でも、嫌いではないかな」

 その一言でやや落ち込み気味だった円堂の顔が、花が咲いたように華やぐ。

「今、嫌いじゃないって言ったよな!?」
「さあ、どうかな」
「だったら! 何も始まってないうちから諦めるな! これから試合に出れる時間を、一秒でも長くすればいいじゃないか!」

 拳(こぶし)を握り、力説する円堂を見て、蓮は視線を下に向ける。

「円堂くん……でも。長くなるまでみんなは——」
「オレたちを信じてくれよ! みんなでやれば……仲間がいれば、きっとできる」

 蓮がバネにはじかれたように顔を上げる。その表情にはもはや曇りはなくなっていた。

「……監督。僕が雷門に入ったら、どうなりますか?」

 瞳子と顔を合わさず、窓の外に視線を向けながら、蓮は言った。

「全国を旅してもらうことになるわ。日本には、FF(フットボールフロンティア(中学校のサッカー全国大会)のこと)に出ていない学校が数多く存在する。下手をすると、雷門より強い子がいるかもしれない」
「オレたちはそいつらを探して、仲間にする。そして、エイリア学園に勝てる地上最強のチームになるんだ!」

 不意に蓮がベッドから降り、自分の部屋の扉の方にゆっくりと歩き出した。逃げてしまうと思ったのか、円堂が慌てて蓮の後を追いかけてくる。


「待てよ、白鳥!」 
「……親に電話してきます。許可がもらえたら、一緒に行くよ。円堂くん」



「うん。……大丈夫だって。わかった。それじゃあ」

 親への電話が終わった蓮は、受話器を置く。とたん、円堂が大きな音を立てながら階段を転がるように下りて来た。

「どうだった!?」
「あっさりと承諾してくれた」
「よっしゃあ!」

 その言葉を聞いた円堂の顔は、また明るくなった。拳を宙につきだし、嬉しそうに声を張り上げる。その後を瞳子がゆっくりと降りてくる。はしゃぎまわる円堂を尻目に、蓮に向き直る。

「参加してくれるのね。だったら、旅の支度を今日中にしてちょうだい。明日の朝8時に雷門中学校のグラウンドに来てもらえるかしら?」
「わかりました」

 蓮が頷くと、瞳子は玄関の方へ進みだした。女性ものの靴を優雅に履くと、勝手に鍵をいじる。カチャ、と鍵が外れる音がした。

「私は準備があるから、そろそろ帰らせてもらうわ」
「はい。今日はいろいろとありがとうございました」
 
 そんなことを言いながら、瞳子はドアを押して出て行ってしまう。蓮は深々とお辞儀をしたが、瞳子が振り返ることはなかった。

 瞳子を見送った蓮は、朝食を食べた席に円堂と共に腰かけ、愚痴をこぼしていた。

「ああ……明日まで一人だぁ。息子が旅立つのに、誰も送ってくれないなんてさみしぎる」

 蓮は思いっきり机につっぷし、悔しそうに足を前後に揺らす。

「母ちゃんと父ちゃん、帰ってこないのか?」
「うん。研究者だからさ、滅多(めった)に帰ってこないんだ。今日は久しぶりに帰ってきてたけど、また仕事に行った」
「夕飯は一人で食べるのか?」
「うん。食材は買い込んであるから、自分で作って食べられるんだ。う〜一人だよ。ろんりーだよ」

 そこで円堂が、ふっと思いついたように口を開く。

「だったらオレの家にこないか? 一人で食べるより、みんなで食べる方が楽しいって」
「いきなりお邪魔して大丈夫なのか?」
「大丈夫だって。そうときまったら、母ちゃんに電話しなきゃ! 電話、借りるぜ!」

 円堂はすくっと立ち上がると、電話をかけ始めた。


〜つづく〜


Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.11 )
日時: 2014/02/19 16:50
名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: ixDFu4/i)  

アスファルトに二つの長い影が伸びる。円堂と蓮だった。
 辺りは住宅街で、家の前にあるブロック塀が道路で言う街路樹のように左右にずっと続いている。もう夕暮れなせいか、家へと駆けていく子供たちや、帰宅が早い大人の姿が時折見受けられる。
 蓮は学校の制服から、雷門中指定のジャージに着替え、肩から白い肩掛け鞄を提げていた。ジャージは青い長ズボンに、ズボンと同じ色の上着だ。上着の袖には、黄色で雷模様がデザインされている。
 空はすっかり茜色に染まり、上に行くほど藍色の夜の空へと変わろうとしている。天気というのは非常に気まぐれだ。さっきまで曇っていたくせに、もう晴れているのだから。きっと太陽が出てきたい気分なのだろう。変わっていく。天気も。そして人も……

「変わっていくんだ……」

 いつのまにか独り言になっていた。横から円堂が不思議そうな顔で覗き込んでくる。その頭上で蓮を馬鹿にするようにカラスが鳴いた。

「何が変わっていくんだ?」
「ん?」

 蓮は視線を上に向けた。どこまでも広がる藍とオレンジのコントラストの空が広がっていた。

「いや……僕さっきまでサッカーやる気なかったのにさ。いつのまにかやる気になったなぁって」
「それはお前がサッカーを好きだから、だろ?」

 視線を円堂の方に戻すと、蓮はふっと微笑を浮かべた。

「サッカーが好きかぁ。大会で倒れてから、そんなこと一回も言ったことがなかった。……でも、考えてみればそうなのかも。親に無理やりサッカークラブやめさせられても、ボールを持って一人で勝手に出かけてた。休み時間は、友達とサッカーをしていた」
「やっぱりサッカー好きなんだな!」

 そうだね、と蓮が笑って返す。と、円堂がとある家の前で止まった。蓮の家とほぼ変わらない大きさの、一戸建ての家。屋根の色は赤い。ブロック塀には「円堂」と白い表札がくっついている。

「ここ円堂くんの家?」

 首をかしげる蓮の前で、円堂は家の扉に手をかける。鍵は開けてないはずなのに、あっさりと開いた。かなり不用心である。お母さんは少しだらしがない人かも……と考えながら、少々遠慮がちに、円堂の後に続き家の扉を閉めた。

「ただいまー!」
「あら、守。お帰りなさい」

 円堂が元気に帰宅の挨拶をすると、家の奥から一人の女性が顔をのぞかせる。恐らく円堂の母親だろう。ちょっとふくよかで、しっかりしていそうな表情の女性だった。円堂とは、あまり似ていない。

「この子が電話で言っていた蓮くんね。なかなかかっこいい子ね」
「いきなりお邪魔して申し訳ありません」
「いいのよ。まだ中学生の子が家で一人でいるなんて危ないでしょう? 遠慮しないでね」

 円堂の母親の言葉が終わるのと同時くらいに、円堂が靴を乱暴に脱いで家に上がり、それから蓮の腕を引っ張ってきた。

「白鳥! 早く夕飯食べようぜ!」

 すると円堂の母親が若干目を吊り上げながら、

「守! 先に手を洗ってきなさい! 汚いままじゃ、食べさせないわよ!」

 と怒鳴ってきた。よく通る声なので、耳の鼓膜を針でつつかれたような感じがした。耳が少し痛む。

「わ、わかったよ。母ちゃん」

 耳をさすりながら、円堂は廊下のすぐ近くにある部屋に入っていった。蓮も靴を脱ぎ、きちんと揃えるとその部屋に入る。居間だった。

 入ってすぐの場所にキッチンがあり、その横にはテーブルと二人づつ座れるソファが向かいに並んでいた。その向こうはテレビがあり、その前はちゃぶ台がおかれ、座布団が周りにやはり4つ置かれている。

「円堂くんってせっかちだね」

 

 手を洗う蓮の横で、円堂はお腹をさすって見せる。

「もう腹ペコペコなんだ〜」

「僕も」

 同意した時、返事をするようにお腹が情けない音を出した。と同時に円堂のお腹も鳴った。ふいに二人の視線が混じり合う。そのままよくはわからないが、蓮の口から笑いが漏れる(もれる)。円堂もつられたのか、大笑いし始めた。

「白鳥は素直だなぁ!」

「なんだよ! 円堂くんだって!」

 怒ってみるが、声が震えた。笑っているせいだ。そのせいで怖く聞こえない。ますます円堂が大爆笑する。蓮の笑いも過熱する。しかし——

「守! 蓮くん! 早くしないと夕食食べさせないわよ!」

 母親の怒鳴り声に鎮圧されたのであった。

〜一章完〜

Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.12 )
日時: 2014/02/20 22:49
名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: gmbFTpMK)  

二章 始まりの代わりに

 翌日の朝。空は蓮の旅立ちを喜んで送ってくれるらしい。空はうっすらとした青がどこまでも広がり、すでにのぼっている太陽は大きな光の輪を作り、にっこりと穏やかに微笑んでいた。
 そんな青空の元にお礼としばしの別れの意味を込め、蓮は思い切り背伸びをした。それからふうっと深呼吸をし、

「いい天気だね! 秋(あき)さん。夏未(なつみ)さん」

 笑みを浮かべながら、自分の両脇を歩く重い空気たちに元気よく話しかける。しかしながら反応が悪い。うん……と戸惑いがちに答えただけで、重い空気たちはまた視線を下に向けてしまう。さっきからこうだとはいえ、上手くいかないものである。

(う〜ん。うまくいかないなぁ)



 話は十分ほど前にさかのぼる。
 蓮は、昨晩円堂と学校へ行く約束を取り付けた。一人で行くのはさみしいし、サッカー部の顔なじみは彼くらいしかいないからだ。頑張って早起きし、円堂と合流した。それから学校へ行く途中でのことであった。
 
「「あ……円堂くんっ」」

 歩き始めてすぐに、二人の女の子が二人の前に立った。一人は深い緑色の髪を耳の下まで伸ばし、右側の前髪をヘアピンでとめている少女——木野 秋(きの あき)。もう一人はウェーブがかかった栗色の髪を肩にかかるくらいまで伸ばしていて、なかなか端整(たんせい)な顔立ちをした少女——雷門 夏未(らいもん なつみ)。円堂の話によれば、二人ともサッカー部のマネージャーらしい。

「夏未! それに秋も! どうしたんだ?」

 円堂に名前を呼ばれた二人は様子がおかしい。頬は紅潮し、やけにもじもじしている。視線は泳いでいて、円堂をまっすぐ見ようとしていない。時々二人で顔を見合わせては、はっとしたような顔になり、また視線をずらす。

「あの……秋さん? 夏未さん?」

 蓮がいることに気付かなかったらしい。声をかけると、二人とも驚愕(きょうがく)の顔つきでこちらを向いた。

「あっ。白鳥くん」
「どうしてあなたが円堂くんと歩いているのよ!? あなたの家は逆方向じゃなくって?」

 いきなり夏未にくってかかられ、蓮は少々むっとしながら答える。

「今日は一緒に行く約束をしていたんだ」

 そしてわざとらしく、

「……ひょっとして、ボク邪魔かな?」

「そんなことないぜ! 人数が多いほど楽しいだろ?」

 男円堂、まだまだうとい。

〜つづく〜

 

Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.13 )
日時: 2014/02/21 17:39
名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: Heq3a88y)  


 そんな調子で10分間、重い沈黙をまといながら進む女子二人。傍から見るとこの恋の調子が見えてきた。
 想う彼は女子二名の気持ちにはどうやら気がつかぬ様子だし、女子二人のほうも告白はまだの様子。この前の理科でやった”ていたいぜんせん”のよう。そんな”ていたいぜんせん”を見ると、手を出したくなるのは蓮の性分である。さっきから何かにつけて、二人をフォローしようと立ち回る。

「ねえ、円堂くんって好きな子とかいないの?」

 その途端、秋と夏未の顔がいっそう紅潮した。でも少し興味がありそうな顔つきでじっと円堂におそるおそる視線を向ける。円堂は笑顔で、自信に満ちた表情で、

「好きな子? 蓮みたいに、サッカーをやっているやつはみんな好きだぞ!」

 見事に勘違い。彼にとってその言葉は疎遠のようだ。
 秋と夏未はある意味期待はずれ、ある意味安心と言いたげな複雑な表情をしていた。

「じゃあ〜……」
「お〜い白鳥。ついたぞ」

 次の質問を考えようとしたとき、円堂が声を上げた。

 目の前にとうとう雷門中学校——昨日から本来通うはずだった中学校が遠めに見えてきてしまった。
 いつもなら立派にそそり立つ校舎が見えるのだろうが、今は山のような形となって目に飛び込んでくる。

「あれが雷門中学校か……壊れる前に来たかったな」
「オレたちがエイリア学園を倒したら、きっと見える! だから早く校舎に行こうぜ!」

 言うなり円堂は校舎のほうに思い切り駆け出していった。なんというか、早く旅をしたくてうずうずしているように見える。だがこんなキャプテンだからこそ、FFで優勝できたんだろう。
 確かに落ち込んでいる暇はない。今朝もニュースで多くの学校が、エイリア学園に破壊されていると聞いた。壊された校舎の映像も目に焼き付けた。そう——今この瞬間にもあのローブのやつらは学校を壊し、たくさんの人をケガさせているのだ。これを許すわけにはいかない。一分でも早く行動し、エイリア学園を倒さなければならない。

「……うん」

 蓮は覚悟を決めるように肩にかけた鞄の紐(ひも)をぎゅっと握り、円堂の後をゆっくりと追いかけ始めた。

 雷門中学校は完全に崩壊していた。
 正面にある本校舎は斜めに傾き、学校のシンボルであるイナズママークが根からぼっきりと折れている。その下には瓦礫という瓦礫が積み重なり、まさに山のようになっている。本校舎はまだいいほうで、体育館や部室棟は完全にその姿を石の塊に変化させていた。——TVで見る地震が起きた土地のよう。ケガ人、死人がいたら完全に『地獄絵図』の風景になってしまいそうである。
 しかしそこに”希望”は待っていた。崩壊した雷門中学校の中でただひとつ——朝日を受けて輝いていた。

「あれ? なんだ?」

 本校舎の手前、グラウンドに一台のバスがあるのに蓮は気がついた。
 大きさは市営のバスほどか。前面は少しでっぱっているし、屋根の上には籠(かご)のようなものがあり、大量のサッカーボールや旗が紐(ひも)で何十にも巻かれていた。

 深い海を思わせるような濃い青いボディ。乗降口がある方の側面には大きく黄色いイナズママーク。乗降口の左横には、「INAZUMA」と中は黄色く太い自体だが、外側は緑で縁取り(ふちどり)されている。

「これは”イナズマキャラバン”だ」

「”イナズマキャラバン”?」

「これに乗って全国を旅するんだぜ!」

「へぇ……」

 

 蓮は改めて「イナズマキャラバン」をしげしげと見つめてみた。これに乗って旅をするのだ、と考えると色々な空想が頭を駆け巡る。

 サッカー部のみんなと走る姿……新しい選手。そうだな女の子がいいな。顔は美人。もしくはかわいい感じで——

 脳裏に美少女選手を浮かべ惚けた顔をしていると、円堂に思い切り肩をたたかれた。妄想が一気に吹き飛ばされた。

「白鳥! みんなお前を待っているぞ!」

「今行くよ」

 半分美少女の選手に会えることを期待しつつ、蓮はいそいそとキャラバンに乗り込んだ。

 車独特の臭いが鼻を突く。はっきり言って苦手である。入ってすぐに運転席があった。ひげをたっぷりと蓄えた初老の男性が座っている。運転手の古株さんだ、と円堂が教えてくれた。蓮は軽い挨拶をすると、運転席をまっすぐ進んだ。中にはサッカー部の面子が思い思いの席に座り、楽しそうに雑談している。

 内部は3にん掛けの席が縦に4つずつ左右に配置され、一番後ろは5、6人は座れそうな広い席になっている。が、みんなの荷物置き場にされていた。

「円堂くん、白鳥くん。遅いわよ。早く席に着きなさい」

 興味深く内部を見渡していると、後ろから瞳子の声が飛んできた。蓮と円堂は一番後ろの席に荷物を置くと、右側の前から2番目の席に腰掛ける。

「みんな揃った(そろった)わね」

 その声にみんなははい! と声をそろえて返事をした。それから瞳子は円堂と蓮の目の前の席に座る。

「古株さん。発進してください」

「ほいきた! イナズマキャラバン発進!」

 古株さんの声を合図に、エンジンがうなり始めた。続いてバスが上下に小刻みに揺れる。

「いくぞーっ!」

 景色が流れ始める。蓮はバスの窓をスライドさせ、顔を出した。冷たい風が蓮の黒髪を揺らす。雷門中学校が遠くなっていく。普通の学生生活が遠ざかっていく。

「いつになったら僕の学生生活は始まるのかな」

 そんな呟きは風がきれいに流してくれたのであった。

〜つづく〜


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