二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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イナズマイレブン〜試練の戦い〜
日時: 2014/03/26 11:37
名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: 9kyB.qC3)

皆様、初めまして…の方がほとんどだと思われるしずくと申すものです。実は某大作RPGの二次もやってますが…
 今回、再びイナズマ熱が蘇って来ました。
 そこで、二年程前に挫折してしまった〜試練の戦い〜をきちんと完結させようと思い、再びスレッドを立てさせて頂きました!

*注意事項
:二年前の〜試練の戦い〜のリメイク版(当時のオリキャラは削除しています。すみません)
:時代遅れなエイリア学園編の二次創作
:オリキャラあり。男主人公です。
キャラ崩壊、設定捏造の類いがあります。
:荒し、誹謗中傷はお断りです。

長くなりましたが、よろしくお願い致します!

本編

序章
>>1

一章「それが、全ての始まり。」
>>4->>11

二章「全ては予定通りに。」
>>12->>13,>>17->>18,>>23->>27,>>30

三章「その風は嵐? それとも?」
>>31->>35,>>37->>39,>>41->>72

四章「その出会いは幸せか」
>>74->>83

おまけ
夜の出来事(蓮と風介。宗谷岬にて)>>73

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Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.124 )
日時: 2014/04/03 22:13
名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: I1RbCwCF)  


 蓮の低い声に、レアンとクララは蓮に向ける視線をますます厳しくした。蓮も目つきを鋭くする。蓮とレアン、クララの間には見えない空気がぴんと張り詰め、他のものが近づくことを拒んでいた。

 しばらく無言のにらみ合いが続いていたが、クララが口を開く。

「あなたがいると目障りなの」

 囁くような小さな声。けれど言葉はとても恐ろしい。円堂がクララに食って掛かろうとして、蓮が手を出して制する。風丸も鬼道も憤っているらしく、クララを睨む。続いてレアンが、

「あんたが雷門にいるとね、困る”お方”たちが居るのよ」

 クララの言葉は無視することにするが、レアンの言葉が引っかかる。僕が雷門に居ると困る人って誰だ? 

「それって、誰?」

「あなたに教える義務はないわ。ただ、一つだけ教えてあげる。あなたはね、その”お方”たちをとても傷つけているの」

 馬鹿にするような口調で言っていた言葉を切ると、クララは垂れている目を吊り上げる。今まで違い、無表情だった顔に怒りがはっきりと刻まれていた。瞳にも憎しみや怒りの感情がはっきりと見え、今までの冷静さが嘘のように思われる。

「あなたはなんにも知らずに、”お方”たちを悩ませているの。少しは罪の意識を持っているのかしら!? 答えなさいよ!」

 今までの冷静な口調とは打って変わり、激しい口調。唾が飛んできそうな勢いで、恐ろしい剣幕で蓮を問いただす。”気”が風となって身体に吹き付ける。円堂たちはクララの雰囲気に圧倒され、その場で立ち尽くしていた。蓮だけは、円堂たちの前に出た。円藤たちを守るように、腕を組んで仁王立ちになり、クララやレアンと対峙する。

「…………」

 何、わけの分からないことを言っているんだと言い返すように、クララに冷めた視線を送る。誰を悩ませているのかは知らないが、こいつらの言うことはいちゃもんの可能性が高い。根拠のないでたらめだ。嘘だけで、雷門をやめるわけなんてない。

 クララは呆れた顔付きで笑った。冷たい顔が哀れみを送ってくる。

「あなたは愚者ね。雷門中のサッカーは『仲間ごっこ』だってことに気づいていないんだもの」

「『仲間ごっこ』?」

 蓮は思わず尋ね返した。クララはレアンに目配せし、レアンが哀れむように——見下すようにせせら笑ってきた。

「あんた、エイリア学園との戦いで倒れてばかりで、大して活躍していないそうじゃない。試合で役に立てないような人が、どうして雷門にいるの?」

「……それは」

 蓮は頭に言葉が出てこず、口を閉ざしてしまう。レアンは、蓮の言葉尻を捕らえて畳み掛けてきた。クララと同じく、その瞳には強すぎる負の感情が渦巻いている。

「あら、咄嗟に答えられないの? やっぱり『仲間ごっこ』ね。どうせ『今は無理でも後で何とかなる』とか、言われていそうだけれど——それは、あなたを傷つけないための”嘘”。本当はみんな、あなたみたいに成長の見込みがない人は、やめてほしいと思っているの。でも、言えば双方の気分を害することになるわ。だから言わないの。自分が嫌な思いをしたくないから黙っている……雷門は、そんな自分勝手な人間の集まりよ」

 以前に悩んでいたことをぶりかえされ、それでも図星なことを指摘され、蓮は悲しくなった。今すぐ消えてしまいたかった。

 『試合で役に立てないような人が、どうして雷門にいるの?』と言うレアンの台詞が頭を支配し、何度も反芻する。円堂たちがレアンに噛み付く声も聞こえなくなっていた。

 

 ——チームのみんな本当は僕のことをどう思っているんだろう?

 倒れるたびに心配そうに優しい声をかけ、介抱してくれる仲間たち。しかし、それは”本心”ではなく、レアンの指摘するとおり”仕方なく”と言う可能性もある。今までもそう感じることはあったが、その可能性は打ち消してきた。本心は嫌だが、”チームメイト”として、仕方なく助けてやっているのかもしれない。早くサッカー部からいなくなってほしいと思われているかもしれない。

「……僕は、僕は……」

 蓮は頭を抱え、唸るような声を発した。何かを堪えるように唇をぎゅっと噛み、瞳を閉じている。身体が不安げに揺れていた。円堂たちが蓮に駆け寄り、三人で蓮の名前を呼ぶ。四人の様子を眺め、レアンとクララは顔を元の静かなものに戻した。レアンがすうっと短く息を吸い、

 

「ここまで言えば分かるでしょう?」

 静かな声で問う。蓮ははっとした顔でレアンを見て、円堂たちは厳しい目つきで応対した。

「さあ消えなさい、白鳥 蓮!」

 クララが怒りの炎を目に灯したまま叫んだ。

〜つづく〜

Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.125 )
日時: 2014/04/03 22:16
名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: g8YCqQvJ)  

消えろ、とクララに言われ、蓮の思考は混乱の渦の中にあった。

 雷門の仲間は、倒れたり、体調が優れないと優しい言葉をかけてくれる。あれは”建前”で本音ではないのだろうか。建前であんなに優しい響きを持つわけない。けど、もしかしたら——考えれば考えるほど、頭が熱を帯びてくる。

 北海道のあの言葉も嘘よ、とクララの冷たい幻聴が聞こえ、熱が引いた。追い討ちをかけるように、レアンがだからあなたは愚者なのよと囁く。蓮は、悶えた。わからない、わからない。誰を困らせているのかも、誰が自分を必要としているのかも。

 蓮が頭を抱えている間、円堂たちは蓮に己の思いを真っ正面からぶつけていた。

「白鳥! オレたちは、お前に雷門中サッカー部にいてほしいと思っている!」

 と円堂が、

「奴らの言葉に惑わされるな。イプシロン戦でのお前の活躍をオレは知っているぞ」

 と鬼道が、

「お前は、これから活躍するんだろ! ここでにげだすな!」

 と風丸が。

 三人の言葉を聞いた蓮は、頭から手を離した。三人の思いを確かめるように、円堂、鬼道、風丸の順に顔を向ける。蓮に顔をむけられるたび、三人は力強く頷いた。本当だ、と答えているようだ。

 三人の真意を確かめた蓮は、強い意思を秘めた黒い瞳でレアンとクララを睨む。同時に、仲間を疑った自分を恥じ、拳を握る。しかし、クララとレアンは蔑むような顔で四人を眺めていた。

「僕は雷門を止めない」

 蓮が力強くいい放ち、レアンとクララは面白くなさそうに眉にしわを寄せる。感じる冷”気”が一層強くなる。肌に悪寒が生じる。

 これ以上何か言えば、恐ろしいことを起こす、とレアンとクララは無言でどすをきかせてきた。彼女らが発する冷”気”は、憎しみと怒りを交えた総身を粟立たせるものだ。でも、怖くない。蓮は、後ろに立つ三人に微笑みかける。三人は笑い返してくれた。——そう、仲間がいるから。

 勇気を得た蓮は、強い眼差しをクララとレアンに向け、続けた。

「僕はエイリア学園を倒すため、仲間と共に”ここ”にいる! ここが僕の居場所なんだ!」

 蓮が、今までに見せたことのない気迫で叫んだ。散々悩んだからこそ出てくる。はっきりとした、自信に満ちた叫び声だった。強い叫びは、冷”気”をかきけした。

 蓮の気迫にレアンとクララは圧倒され、目を限界まで見開いて固まっている。円堂たちは、「よく言ったな!」、「それでこそ雷門の一員だ」、「いいぞ、白鳥」と口々に蓮を誉めそやす。蓮は、親指を立ててウィンクしてみせた。それからクララとレアンに向き直り、みながかろうじて聞き取れる程の声量で、こぼした。

「……それに知りたいんだ」

 最後に晴矢と風介のことを、と誰にも聞こえない音量で追加しておいた。

 懐かしい気持ちを起こさせる彼ら。いつも、頭の片隅にもやががったように懐かしさの原因を思い出せない。しかし、旅を続ければわかる気がした。何となくと根拠のないものだが、その予感はある。

「やっぱりあなたは愚者だわ!」

 今まで黙っていたレアンが急に高く笑う。

「せっかく警告してあげたのに、突っぱねるんですもの」

 レアンが蓮を愚弄ぐろうし、蓮は挑発するような笑みを見せる。

「たった二人で何かする気?」

「……あなたに残された選択肢はひとつだけ」

 クララが哀れむように目を細め、細い声で呟いた。蓮は、円堂たちは身構える。ずっと立ち続けていたレアンが初めて動いた。スパイクが床を叩く音が、倉庫に何重にも響く。

「私たちに消されるって選択しか残っていないのよ」

 レアンが憎悪に満ちた声で言った。切れ長の青い瞳は、怒りに満たされ、背中からは怒りが赤く、憎しみが黒となって混ざりあっているように見えた。

「覚悟しなさい。<イグナイト・スティール>」

 レアンはその場で飛び上がると、勢いを保ったままスライディングを仕掛ける。その先にいるのは、——蓮。

〜つづく〜

Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.126 )
日時: 2014/04/03 22:18
名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: g8YCqQvJ)  

「あっ!」

蓮は、レアンの動きに敏感に反応した。スライディングが足に当たる寸前、飛び上がる。ジャンプで生じた僅な空間をレアンが滑っていった。その後には、炎が生じている。レアンが滑った後には、一本の炎の道。熱くはない上、すぐに消えた。
蓮の足の下を通りすぎると、憎々しい顔で振り向きながら、レアンは壁に激突した。
それでほっとしたが、

「ガゼルさまの痛みよ。<フローズン・スティール>!」

「白鳥! 避けろ!」

風丸の注意を促す叫びに振り返ると、クララがこちらにスライディングをしかけていた。普通のスライディングよりも速く蓮に襲いかかる。あっという間に蓮の前に来た。
先程のレアンと同じ体勢ではあるが、彼女がスライディングで通った道は凍っている。

「……しつこいよ」

風丸の注意で、蓮はまた宙に舞い上がって難を避けた。クララは当たらないと見るや素早く立ち上がり、また体勢を整えて<フローズン・スティール>をしかけてけてくる。また、ジャンプでやり過ごし地に着陸。
その後もクララとレアンの猛攻は続く。
蓮ばかりがターゲットにされ、円堂たちは蓮を守ろうと動くが、レアンに邪魔される。その隙にクララは、蓮に<フローズン・スティール>で攻撃した。蓮は、持ち前の運動神経でかわしつづけるものの、だんだんジャンプするタイミングが遅くなってきた。着地の度に荒い息を吐いている。
なにもできず、歯痒い思いで円堂たちは蓮が疲れていくのを見もることしかできなかった。
しばらくクララを避け続けていると、クララは勢い余って壁に足を激突した。蓮は、肩で息をしながらクララを睨んでいる。しかし——それに夢中で背後から<イグナイト・スティール>で迫るレアンに気づいていなかった。

「白鳥!」

青ざめた顔で風丸が蓮の名を呼んだ時——蓮の身体は、仰向けで宙にふっとんでいた。吹き飛ばされた蓮は、呻き声を出しながら、つらそうに顔を歪めていた。レアンが下でほくそ笑み、素早く立ち上がる。そして、重力の法則で蓮が地面に落下する寸前、

「<フローズン・スティール>!」

楽しそうな声をあげながら、今度はクララが蓮の身体を宙に送る。蓮は、痛さから悲鳴をあげ、きつく閉じられた目から涙をこぼした。円堂たちが助けようと走り込み、レアンの<イグナイト・スティール>にまとめてぶっとばされた。壁際まで跳ばされて後頭部を強打し、崩れるように三人とも前にたおれこんだ。

「……み、みんな」

痛みに耐えながらも、宙にいる蓮は、倒れた円堂たちを心配そうに眺めていた。
その顔を見たかったと言わんばかりにレアンが高笑いをする。

「あはは! いいざまだわ。あなたのせいで仲間はきづついた。でも、バーン様の痛みはこんなものじゃない。もっともっと味わいなさい!」

〜つづく〜

Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.127 )
日時: 2014/04/04 20:26
名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: CMSJHimU)  

レアンが<イグナイト・スティール>で、蓮を空中に浮かせ。そして蓮が落ちると、クララが<フローズン・スティール>でまた宙に送り返す。下に行けばレアンが<イグナイト・スティール>で……蓮は、クララとレアンによって何回も空中へ撥ね飛ばされる。まるで蓮の身体をボールにし、バレーボールでもしているようだ。スライディングで蓮の身体を宙に浮かせ、落ちたらまたスライディングで打ち上げる。

蓮は、抵抗できずにされるがままになっていた。ジャージがあるのでまだよいが、身体に力はなく、動かすことすらできない。
跳ばされるたびに、焼けつくような痛みと刺すような痛みが交互に走り、激痛となって肌を蝕んだ。苦痛を耐える顔には冷や汗かびっしり張り付いている。息のテンポが速くなる。
レアンとクララは、スライディングが当たって痛くなるよう角度を計算しているらしい。やたらと腕を、弱い力で狙ってくる。どうやら長いこといたぶりたいようだ。
そのせいか足は平気だが、腕はもう感覚がなくなっていた。痺れていた。二人のスパイクが当たっても、痛くもない。スパイクの先が、肌をえぐるように当てられるのを感じるだけだ。

初めは痛みに耐えきれず、小さく呻き声や涙を漏らしていた。それでも唇をかんで、声を出さないよう必死に堪えていた。が、あまりにも早すぎる間隔で痛みが襲ってくるので、やがて声がでなくなる。息がつまり、視界が端から霞んできた。倉庫の窓や壁の輪郭が溶けるようにぼやけはじめる。

(……だめ、いしきが)

どさ、と身体が地面に落ちる音を聞いた。半拍ほど遅れて、床のひんやりとした冷たさが脳に伝わってくる。身体を動かしたいが、重りでもつけたように重く、動かなかった。

「……反省した?」

クララの冷ややかな声が降ってきた。蓮は力を振り絞って身体を震わせながら、頭だけを動かし、声の方を見上げる。霞ゆく視界にレアンとクララが、蔑むように見下ろす姿がぼんやりと映った。

「その顔だと、していないみたい。まあ何も知らずに消えた方が幸せね」

クララが静かに語りかけ、レアンも哀れむように口を開く。

「命は助けてあげるわ。”消えろ”って言うのは、エイリアとの戦いから”消えろ”ってことよ。この戦いであなたは、”いてはならない存在”なのよ。お仲間とおんなじで、病院で大人しくしていればいいのよ」

「……いやだ」

蓮は、レアンとクララを弱々しく睨みながら、ゆっくりと言葉を吐き出した。
かろうじて上半身を支えていた腕から力が抜け、蓮は床にうつ伏せになってしまった。

「あら、まだ話せる元気が残っていたの」

レアンが冷たい眼差しを送り、蓮はまた腕に力を込めて上半身を起こした。力ないが、強烈な光を宿した瞳で二人を捉える。速くなる呼吸のせいで、変な区切りかたをして話す。

「みんなと、仲間と、一緒に、戦うって、約束したから」

「バカじゃない」

クララは蓮を嘲笑うと、蓮の腕に軽く蹴りを入れた。蓮は、前につんのめりかかったが、歯を食い縛って、何とか持ちこたえる。

「仲間? あのおべっかをまだ信じていたのね」

レアンは小馬鹿にする口調で言いながら、勢いをつけ、蓮の背中に座った。

レアンの全体重をかけられ、腕で身体を支えられなくなった蓮は、呻いて、両手を前につき出すようにして上半身を伏せてしまった。レアンは椅子に座るように、伏せた蓮の背中の上で足を揺らしている。弱りきった蓮に抵抗する力はなく、少女の重みが身体を圧迫し、息がますます苦しくなるだけだ。

苦しむ蓮の前にクララが立ち、前髪をわしづかみにした。髪を引っ張り、蓮の顔をあげさせる。苦痛の色を顔に出しながらも、瞳は媚びていなかった。むしろ、抗うような意志を宿してクララを見据えていた。クララは、面白くなさそうに鼻をならして、蓮の顔を自分の顔に近づける。

「さっきから弱音の一つも吐かないけど、どうせ来ないとは言え、助けくらい求めたらどうなの? わたしに求めてもいいのよ」

「お前たちに、助けなんか求めない」

〜つづく〜

Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.128 )
日時: 2014/04/04 20:29
名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: CMSJHimU)  

蓮がはっきりと言い切り、クララは驚いたように目を少し見開く。レアンは、変わらず腕を組んで、痛みに耐えながら、顔をあげさせられてもなお、睨み付ける蓮を背中から見下ろしていた。

蓮に助けを懇願する様子はなく、抵抗しようとする意志がはっきりと表れていた。苦痛で顔を歪め、荒い息を吐き出しながらも。残ったわずかな力で歯を剥き出しにし、弱々しくも厳しい視線を二人に向けた。

レアンは、退屈そうに頬づえをつきながら、気絶している円堂たちを一瞥すると、

「つまらない意地ね」

視線は蓮から逸らしながら、レアンは吐き捨てるように言った。馬鹿にする一言に、蓮は震える声で必死に言葉を紡ぐ。

「ぼ、僕には、サッカーが、導いて、くれた、な、か、まが、いる。彼らは、絶対に、ここに、く、る……」

ほとんど聞き取れない、掠れた声が蓮の口から発せられた。レアンが「元気だけはあるのね」と、呆れた声を出した。

話すにつれ語勢ごせいは、徐々に弱まり遂には消える。蓮は、なおも口を動かしているが、言葉にならない。虚しく口だけが動いていた。それを見ていたクララは、蓮の髪を掴みながら冷笑を浮かべた。

「来るわけないじゃない」

「来る!」

それを否定するがごとく——突如、蓮が大声をだしたことにクララとレアンは瞠目する。場を支配するような圧迫感が一瞬、流れた。あまりの気迫に、レアンは転がるように蓮の背中から飛び降りた。クララの手から、蓮の頭が落ちた。蓮は額を軽く床に打ち付けたものの、最後の力を腕に込め、手のひらを床につけた。震える上半身を起こしながら、凍り付く二人を睨む。ライオンが睨むような迫力にクララとレアンは、たじろいだ。

「僕は仲間を信じて待つんだ! だって、これが仲間たちを信じていると証明する……」

蓮は力の限り叫び、最後に「から」と続けようとした。しかし急に息がつまる。それに気づいた瞬間、全身から力が奪われていった。両腕が折れ、身体が床に引き寄せられる。冷たい空気が風となって吹き付けてくる中、視界がどんどん床の灰色に染まる。

倒れる直前、蓮の口がはっきりと動く。”ご”、”め”、”ん”と。特定の誰かに向けられたものではない。ただ、雷門のみんな、そして晴矢と風介に向けられたものであることは間違いない。

もうエイリア学園とは、戦えないみたいだ。そんな絶望が胸を支配する。でも、と蓮はその絶望を心のすみに追いやる。

その時。蓮は顎を床につけ、うつ伏せの姿勢のまま動かなくなっていた。意識はあるが、身体に力は残されていない。ただ、異様な達成感が身体全体を包み込んでいた。仲間を信じ、待つんだと言ってやれたから。そう、それでいい。……でも、ごめんね。この思い、みんなに伝えたかったよ。……ごめん。晴矢のことも風介のこともまだまだ知らない。キミたちは、僕の一体なんなんだ。はるや、ふうすけと言う響きは、いつも懐かしくて暖かい。暖かさの先にあるものは何なのか。それを知りたい——そう考えた瞬間、ここで旅が終わるのは嫌だと、頭の細胞たちが訴えてきた。本当の雷門の一員になるため、南雲と涼野を”探す”ため、ここで旅は終わってはいけないと蓮に告げる。しかし、

「……バーンさまとガゼルさまが手を下せないなら、あたしたちがくだすまでよ」

「あなたがいると、バーン様とガゼル様の居場所がなくなってしまうの」

クララとレアンが、自分を説得するように呟くのを聞いて、やはり見逃してもらえないことを悟る。視界の霞も一層酷くなってきた。目眩が波のように押し寄せてくるし、耳を貫くような耳鳴りもする。身体が悲鳴をあげているのだ。蓮は、消えかかる意識の中、バーンとガゼルのことを考えた。何故、バーンとガゼルは自分が雷門にいると困るのだろう。だが、考える間もなく、

「<フローズン・スティール>」

「<イグナイト・スティール>」

なんの感情もこもっていない声がはっきりと聞き取れた。これで最後だと通告する冷えきった声。蓮は、覚悟を決めて目を瞑った。

熱気と冷気がじわじわと両側から迫ってくるのを感じる。二つの気はぶつかり合い、蓮の辺りでは心地よいそよ風と化していた。その時間だけは、ゆっくりに思われた。レアンとクララの行動が、スローモーションで再生されたように——近づいてきた。イグナイト・スティールが生み出す炎が陽炎のように揺れ、フローズン・スティールが作った氷が光を反射して輝く。その二つは、とても美しく思えた。自分の最期を美しく飾るために光っているように思えた。クララとレアンのスパイクの底が、腕から僅か三十センチ位の場所に来て、蓮が瞳を一層強く瞑り、意識を投げ出そうとした——その時。

「<アトミック・フレア>!」

「<ノーザン・インパクト>!」

倉庫の入口から、立て続けに声がした。

〜つづく〜


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