二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- イナズマイレブン〜試練の戦い〜
- 日時: 2014/03/26 11:37
- 名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: 9kyB.qC3)
皆様、初めまして…の方がほとんどだと思われるしずくと申すものです。実は某大作RPGの二次もやってますが…
今回、再びイナズマ熱が蘇って来ました。
そこで、二年程前に挫折してしまった〜試練の戦い〜をきちんと完結させようと思い、再びスレッドを立てさせて頂きました!
*注意事項
:二年前の〜試練の戦い〜のリメイク版(当時のオリキャラは削除しています。すみません)
:時代遅れなエイリア学園編の二次創作
:オリキャラあり。男主人公です。
キャラ崩壊、設定捏造の類いがあります。
:荒し、誹謗中傷はお断りです。
長くなりましたが、よろしくお願い致します!
本編
序章
>>1
一章「それが、全ての始まり。」
>>4->>11
二章「全ては予定通りに。」
>>12->>13,>>17->>18,>>23->>27,>>30
三章「その風は嵐? それとも?」
>>31->>35,>>37->>39,>>41->>72
四章「その出会いは幸せか」
>>74->>83
おまけ
夜の出来事(蓮と風介。宗谷岬にて)>>73
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- Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.79 )
- 日時: 2014/03/24 17:25
- 名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: iAJranvs)
白恋中学校正門前には、既にイナズマキャラバンが止まっていた。雷門サッカー部のメンバーは、一番初めに来た瞳子を先頭に、ぞくぞくとキャラバン内に乗りこんでいく。風丸に先を譲り、風丸が先にキャラバン内へ入って行くのを見送っていると、視界に黒い物体が飛び込んできた。
「あ、ハト? それともカラス?」
イナズマキャラバンの昇降口の上あたりに、一匹のハトが止まっていた。
見た目こそ、神社や町中いたるところに出没するハトとなんら変わりはないが、その全身は黒。カラスと同じ色の体毛なのだ。しかも野生のハトにしては、その体毛は光沢があり、毛並みもいい。
そのハトは、太陽を思わせる金色の双眸で、静かにこちらを見下ろしていた。ただのハトにしてはずいぶん存在感を感じさせる。
「ハト? こいつはカラスじゃないのか?」
「え〜でも、これはどう見てもハトだと思うなぁ」
円堂が首をかしげ、蓮が腕を組んで、ハトと睨みあいをしていると、ハトはプイッと横を向いた。
小さな翼を広げ、羽音を立てながらみるみるうちに大空へと消えていった。
二人は呆気にとられてハトを眺めていたが、やがて既にキャラバンに乗っているメンバーが窓から顔を出して、こちらを見つめているのに気がついた。二人とも、バツが悪そうな表情で互いを見やり、
「ところで吹雪くん、キャラバンはどう?」
「イナズマキャラバンは、すごいだろ?」
話題をそらすかのように、後ろにいた吹雪に話しかける。吹雪はにっこりとほほ笑むと、
「イナズマキャラバンって、思っていたよりも広いんだね。うん、これならみんなと楽しい旅ができそうだよ」
感慨深くキャラバンを見た感想を述べた。そっか〜と言いながら、円堂がチームメイトの視線から逃げるように、そそくさと早足でキャラバンに滑りこんでいく。
蓮は吹雪と苦笑いをしながら、後に続く。むっとした車独特の匂いが鼻をついたが、もう慣れた。キャラバン内は、外に比べるとほんの少しだけ暖かい。蓮は自分の席に座ると、ジャージ上下を身にまとった。吹雪は蓮の席から数えて二列後ろの染岡の隣に座り、楽しそうに染岡と話し込んでいる。
「それで……瞳子監督。次はどこへ向かうんですか?」
ジャージを身に付けた蓮の横で、円堂が前の座席に座る瞳子に尋ねる。瞳子は立ち上がると、キャラバン全体に響くような大声で、
「まずは京都に向かうわよ。今、SPフィクサーズに頼んで、京都でエイリア学園から襲撃予告があった学校を探してもらっているところ。場所がわかり次第、そちらへ向かいます」
「それじゃあ、まずは京都に向かうことになるんですね」
「そういうことになるわね」
「よし。それじゃあ出発するぞ!」
古株の声が合図で、エンジンが唸り始め、同時に白恋中学校がどんどん遠くなり始めた。
(イプシロン……いったいどんな奴らだろう)
*
同時刻。
「”ジェネシス”の座は……”ガイア”のものです」
「わかりました。父さん」
「なっ! 父さん、何故オレたち”プロミネンス”ではないのですか!?」
「我々ダイヤモンドダストも何か……」
「ガゼル、バーン。聞こえませんでしたか? ジェネシスの座はガイアのものだと——」
〜つづく〜
- Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.80 )
- 日時: 2014/03/24 22:01
- 名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: ilLKTbvz)
昼過ぎに白恋中学を出たせいか、北海道を出る前に日が沈んでしまった。ちょうど、その頃イナズマキャラバンは山中を走っていたので、適当な場所で一晩を明かすこととなった。ちょうどよく、木がない広場の様な場所が見つかり、イナズマキャラバンはそこに止まっていた。
その晩。やはり眠れない蓮は、一人キャラバンの屋場に乗り、物思いにふけっていた。ジャージをしっかり着て、体育座りになり、天を見上げていた。
ふーっと息を吐くと、すぐさま白くなり、やがて空気の中に溶けていった。まだ北海道にいるせいか、空気は澄んでいて肌寒い。蓮はぶるっと身を震わせた。
キャラバンの屋場には荷物を乗せるために、鉄製の柵で囲まれた小さなスペースがある。大人二人が楽々座れる程の広さはあり、キャラバンの後ろにかかっている鉄製の段から登ることが出来る。よくここに円堂や他のメンバーが座りに来るのだと言う。
円堂に乗ってみろよ! 気持ちいいぞ! と前々から勧められてはいたが、機会がなく、蓮は今日こうして初めて乗ったのであった。上に乗っているせいか、辺りの風景が良く見える。
キャラバンの前には女子メンバーが止まる、とんがり帽子の様な形をしたピンクのテント。辺りには針葉樹林が生え、空いっぱいに枝を伸ばしている。針葉樹林の下には短い雑草が惜しげっている。夜であるせいか、虫が鳴くどこか儚く(はかなく)弱弱しい音だけが聞こえてくる。嫌なくらいに静かである。
「星、綺麗だなぁ」
蓮は呟いた。
頭上を振り仰ぐと、枝と枝の間から、満天の星空が見える。冷たい風が吹き、ざわざわと葉を揺らす。その風情(ふぜい)がある光景に目を奪われていた蓮は、下から誰かの視線を感じた。
誰かと思い、落ちないよう柵を掴みながら下を覗き込むと、吹雪がこちらを見上げていた。白いマフラーが風に弄ばれている(もてあそばれている)。
「ふ」
吹雪の名を呼ぼうとして、蓮は言葉を飲み込む。
(あれ? なんだかいつもの吹雪くんじゃないみたいだ)
妙な違和感を覚えた。確かにそこにいるのは吹雪だが、”何か”が違うと己の第六感が、蓮に囁きかけてくるのだ。何だろうと思い、蓮は吹雪の顔を凝視し、蓮の相貌が獲物を狙うハンターのごとく鋭くなった。
集中してみると、吹雪の違いが驚くほどはっきりと見えて来た。雷門ジャージと風をはらんで揺れるタオルの様なマフラーだけは同じだが。
まず髪の違いに目が言った。いつもより青白くなり、上に跳ねている。そして何よりその瞳。今の吹雪には好戦的な色が宿っているし、第一彼の瞳はオレンジではないはずだ。
違和感の原因に気づいた蓮は顔をこわばらせ、
「……お前は誰だ?」
威嚇するように低い声で『吹雪』に尋ねた。恐ろしさからか、柵をつかむ手が小刻みに揺れている。
「誰?」
素っ頓狂(すっとんきょう)な返事がし、『吹雪』は高笑いをした。にいっと口元を不気味に歪ませ、蓮を見上げて嘲笑する。
「おいおい、白鳥。たった数日で、チームメイトのこと忘れちまったのかよ。オレは吹雪だ。吹雪 士郎」
「お前は、吹雪 士郎くんじゃない!」
からかうように自分を指差し言った吹雪の言葉をいなし、蓮は言い放った。自分を奮い立たせ、攻撃的な口調で攻める。不気味な『吹雪』の視線を弾こうとするかのように、きっと『吹雪』を睨みつける。
初めは驚いたように『吹雪』は目を丸くしていたが、再び含み笑いを浮かべ、くく……っと引くように笑った。
「くく……オレを『士郎』じゃないと見破ったのは、お前が初めてだ。雷門には、とんだやつがいたもんだぜ」
そこまで言い切ると、『吹雪』は真顔に戻る。
「ああ。オレは吹雪 士郎じゃねぇ。オレの名は『アツヤ』だ。吹雪 アツヤ」
「……じゃあ吹雪くんは二重人格」
頭の中に浮かんだ可能性を独り言のようにポツリと言うと、アツヤはあっさり首を縦に振った。
「そういうことだ。よく覚えておきな。ちなみに試合の時に、FWとして出てんのはオレ。DFとして出てんのは士郎の方だぜ」
「吹雪 アツヤ——それがお前の名前なのか。お前はアツヤって呼ぶ。士郎くんの方は、これからも吹雪くんと呼ばせてもらうよ」
「好きにしろよ」
〜つづく〜
- Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.81 )
- 日時: 2014/03/25 13:20
- 名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: U9CqFAX7)
そうアツヤが言ったのを最後に、しばらく二人の間に沈黙が下りた。牽制(けんせい)しあうように睨みあい、そのまま固まっている。風が起こす葉擦れの音だけが、静寂の空間を切り裂いていく。
「……そっち行ってもいいか?」
不意にアツヤが口を開き、蓮は顔の警戒の色を消さないまま頷いた。アツヤは蓮から視線を外すと、キャラバンの裏手に回る。鉄が叩かれる高い音がし、アツヤがキャラバンの屋場に上がってきた。蓮は占領していた中央部分から少しそれ、アツヤが座れるようにする。アツヤは無言で蓮の横に腰をおろした。
「様子を見る限り、主人格は吹雪くんのほうだね」
沈黙が嫌で蓮はアツヤに話しかけた。アツヤは蓮の方を向くと、当たり前だろと言わんばかりの顔をする。
「白鳥の言う通り、士郎の方だ」
「じゃあさお前、何でわざわざ出て来たんだ」
蓮は語勢を強めてアツヤに聞いた。するとアツヤは薄ら笑いを口元に浮かべ、
「白鳥と一回話してみたかったんだよ」
急にアツヤが膝立ちになった。すっと人差し指を蓮のあごに当て、蓮の顔を無理やり上げさせる。とたんアツヤは蓮の瞳を覗き込もうとするかのように、顔を思い切り近づけた。二人の顔の距離は数十センチほどしかない。
アツヤは蓮の目をじっと見つめる。蓮は恐怖のあまり目を見開いたまま、動かない。
「……黒い瞳か。随分便利なもの持ってんじゃねぇか」
「な、なんのことだよ」
アツヤの冷たい眼光を真正面に受けながら、蓮は声を震わせて言った。
そらせない。何故だか目をそらせない。そらすことを許さない威圧感がそこにはある。アツヤの視線が、自分の奥へ奥へと進んでくる。まるで心の内を探られているかのようだ。圧迫感が心の奥を無理やり引きずり出そうとしている。心臓が早鐘をうつように激しく脈打つ。早く終わってくれと心の中で祈る。それしかできない。
「黒ってのは便利な色だよなぁ? 混ぜればほとんどの色は黒に染まって行く。混ぜれば混ぜるほど、黒味は増して——やがては漆黒に染まる」
ずぶずぶとアツヤの視線が、ますます心に突き刺さってくる。これがナイフなら血が出ているくらいに。
アツヤは確実に自分の心を見透かしている——蓮はそのことを言葉の端端から感じ取っていた。
「お前、その瞳の奥で幾重(いくえ)黒を重ねてんだよ?」
「え」
蓮は思いがけないことを聞かれ、一瞬目線を下げた。しかしアツヤは人差し指の力を強くし、容赦なく視線を合わせさせる。だが心を引きずりだそうとする嫌な感覚はなくなっていた。
「僕が、何か隠しているって言いたいのか」
嫌々ながら答えると、アツヤは目を丸くした。
「ほう。馬鹿じゃねぇ様だな。オレが言いたいのは、その漆黒の奥に何を隠しているかってこと」
蓮は目を瞬く。
「隠す? ひょっとして僕がチームのお荷物だとくよくよ悩んでいたことか? それならもう大丈夫だ。染岡くんに殴られて、円堂くんに励まされて……なんかふっきれた。みんな、僕のことを拒んだりしない。邪険に扱ったりしない。それどころか仲間として認めてくれている。だからこそ、僕は最後までエイリア学園と戦うつもりだ」
力強く蓮が話すと、アツヤは首を横に振った。
「そっちじゃねぇよ」
「え? 違うのか?」
「一言で言うぜ。白鳥、お前——一部記憶喪失になってるだろ?」
そこでアツヤが蓮のあごから人差し指を離した。
解放された喜びよりも、蓮は記憶喪失だと言うことをアツヤに言い当てられた驚きが増しアツヤの方に、身を乗り出した。
「な、なんで僕が小学校3年生の頃より前の記憶がないこと知っているの?」
興奮しているせいか早口になり、声が上ずった。
アツヤは冷静に蓮をまっすぐ見据えて、
「瞳(め)でわかる。お前は、自分で自分の記憶を封じ込めてんだよ。意識的にじゃない。無意識に……な。士郎とある意味で同じだ」
「え? 吹雪くんと?」
吹雪の名が出て蓮はきょとんとした。アツヤは腕を組み、なおも淡々と語りつづける。
「士郎は白鳥と逆だ。意識的に、自分の記憶を抑えつけようとしている。だけどな、無理して自分を抑えつけてんのはお前も士郎も同じだ。オレはな、お前の”月”になるつもりだ」
「つ、き……?」
蓮が不思議そうに首をかしげると、アツヤは天を見上げる。蓮も上に視線をやると、ちかちかと輝く星の中でも、少しだけ優しい光の満月があった。アツヤはあんなに優しくない。
「お前の光はナイフだ。鈍く不気味に輝き、僕から全てを剥ぐ(はぐ)つもりなんだろ」
蓮がアツヤに視線を戻しながら素っ気なく(そっけなく)言った。
「どうだろうな。お前の瞳は、例えるなら夜を移す水面(みなも)……オレはその真っ暗闇を照らしたいだけだ。お前が本当に嫌いなら、ここまでしねぇよ」
アツヤが自虐的な笑みを浮かべ、蓮はそっぽを向いた。
恐怖感こそ消えたが、アツヤには不信感を抱かざるを得ない。何を考えているのかわからないその不敵な顔に、蓮は憮然(ぶぜん)とした表情を一人浮かべた。
「じゃあ、オレはそろそろ帰るぜ」
「は?」
一瞬理解に苦しみ、蓮は驚きの声を口から零してアツヤを見なおす。アツヤは左手で白いマフラーを触ろうとしている姿勢のまま、蓮を見ていた。
「言っておくが”アツヤ”のことは、士郎にも雷門イレブンにも話しても無駄だ。白い目で見られたくなかったら、黙っていることだな」
「ちょ……どういうことだよ!」
蓮が吠えた瞬間、アツヤは目を閉じて白いマフラーに触れる。冷たい風が吹き付け、蓮の前髪と吹雪の白いマフラーを揺らした。
アツヤが見る見るうちに戻って行く。上から押さえつけたかのように髪は下向きになり、色も元の濃さを取り戻した。やがて目をあけると、そこに濃い緑の瞳があった。——吹雪 士郎であった。
〜つづく〜
- Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.82 )
- 日時: 2014/03/25 17:59
- 名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: a7WresCQ)
主人格——吹雪は、何が起きたのかわからないといったようにせわしく首を動かし、辺りの様子を見渡していた。蓮も急に”アツヤ”が”士郎”に戻ったことに驚きを隠せず、口をあんぐりと明けて吹雪を見つめることしかできなかった。
風が生み出す葉擦れの音が蓮と吹雪の間を駆け抜けて行った。身が震えるような冷たい風で蓮は一気に現実に引き戻される。きょろきょろとする吹雪を見つけ、蓮はおそるおそる吹雪に声をかけた。
「ふ、吹雪くん? 吹雪 士郎くんだよね?」
すると、吹雪は蓮の存在に気づいたらしくはっとした顔で振り返った。濃い緑の瞳には不思議がる色が宿っていたが、すぐに吹雪は何事もなかったかのように温和な笑みを浮かべる。
「そうだよ。何かのギャグかな? 白鳥くんは面白い人だね」
聞こえた声は澄んでいてよく通る、いつもの吹雪の声だった。さっきまでの”アツヤ”の声は、どすがきいたような低く恐ろしい声だったから、まるで別人のようだ。
(……さっきのこと覚えてないのか。やっぱり吹雪くんは二重人格なんだ)
心の中で呟き、改めて吹雪をまじまじとみた瞬間——鼻が急にむずむずしはじめ、蓮はそのまま両手で口を覆い、くしゃみをした。同時に身体が小刻みに震え始める。今更ながら、手足の感覚が麻痺していることに気付いた。同時に寒いことに気づいた。
長居をするつもりはなかったのだが、アツヤのせいですっかり身体が冷え切ってしまったらしい。さっきまで寒いことも気付かないほど、アツヤと対峙することに集中していたせいだろう、と蓮は考えた。そうかもしれないがアツヤにも責任はあるので、内心でアツヤに悪態をつき、鼻をすすった。吹雪が苦笑した。
「そろそろ寒くなってきたね。白鳥くん、長いこと北海道の夜の風に当たっちゃだめだよ。風邪をひいちゃうよ」
吹雪に諭され、蓮は困ったように笑った。
「北海道をなめてたかな〜じゃ、中に戻ろうか」
梯子を降りると、蓮は吹雪と共にキャラバンの中に戻った。少し肌寒いとはいえ、やはり車の中の方がだいぶ暖かい。蓮の体の震えが止まる。
円堂たちは眠りに落ちているらしく、静かな寝息があちこちから漏れていた。が、壁山だけは大きないびきをかいていて、隣に眠る栗松が少し寝苦しそうな顔をしている。その光景を見た二人は思わず微笑みあう。
「吹雪くん! また壁山くんいびきかいてる」
「あははは。本当だね」
チームメイトを起こさないよう、二人は小声で囁いた。だがすぐに吹雪の口から小さな欠伸が漏れた。吹雪の目がまどろみはじめ、今にも閉じてしまいそうだ。蓮は一番前の席にそっと入ると、
「吹雪くん、おやすみ」
小声で言った。吹雪もまた欠伸を噛み殺しながら、
「おやすみ、白鳥くん」
眠そうな声で答えると、自分の席に座った。
様子が気になった蓮はそっと吹雪の席に近づいてみる。吹雪は、染岡に寄り掛かり、両の手を膝の上できちんと組んで寝ている。寄り掛かられた染岡は、明らかに顔をしかめて眠っていた。
染岡を不憫(ふびん)に思った蓮は、吹雪の身体を横に引っ張って染岡から少し離すと、そのまま座席にもたれかからせた。吹雪は起きるどころか、能天気に穏やかな寝息を立てている。そのリスなんかの小動物を思わせる可愛い寝顔に、蓮はアツヤを思い出した。
(アツヤって誰なんだ——それに僕が、自分で自分の記憶を封じてるってどういう意味なんだよ)
「……アツヤ」
蓮は独りごつ。しかし、吹雪は眠りに落ちているだけだった。
〜つづく〜
- Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.83 )
- 日時: 2014/03/25 23:31
- 名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: xwXeKUvt)
蓮がバスの中で夢の世界に入り始めていた頃、新幹線は東京を出発し、博多へと進んでいた。深夜であるし、時期が時期なので車内はガラガラ。ところどころぽつぽつと座る人々も大人の風貌の人間が多い中——明らかに周りから浮いた人間が二人、隣同士に座っていた。一人はまた私服姿の涼野であったが、横には見慣れない少年がいた。
年のころは涼野と同じくらいだろう。炎を思わせる横に跳ねた真っ赤な髪。頭の上では何やらチューリップのような形になっている。少しきつめな金色の瞳は自信に満ち溢れたような光を宿し、鋭い観光を宿している。服は両袖部分は白く地の部分は黒いジャンパーの様な上着に、緑がかかった黄色の短パン、藍色のスニーカーを履いている。今は足組みをし、頭の後ろで手を組みながら、不機嫌そうに涼野を見ている。
「涼野 風介、おまえ長い間どこに行ってたんだよ」
窓に頬杖(ほおづえ)をついて外の景色をボーっと眺めていた涼野は、めんどくさそうに横にめをやった。めをやっただけであった。何事もなかったかのように、再び視線を窓の外に向ける。外は真っ暗で、時折見える街灯の光を除いては何も見えない。
「雷門イレブンを追っていただけだ、南雲 晴矢(なぐも はるや)」
涼野はめんどくさそうに答えた。横に座る『南雲 晴矢』と呼ばれた人間は露骨に嫌そうな顔を作る。
「それだけのためには、ずいぶんとなげー外出だったよなぁ?」
「キミには関係のないことだ」
ガラス越しに涼野が嘲笑う表情が見え、南雲の顔はますます強張った。涼野はまだ嘲笑うような表情を浮かべながら、南雲の方に身体を向けた。
「キミこそ、何故私の後をついてくるのだ」
南雲は苛立ったのか舌打ちをすると、
「風介、てめーがオレを京都行きに誘ったから、し・か・た・な・く! 着いてきてやったんだ」
”仕方なく”の節々に力を込め、南雲は吐き捨てるような勢いで涼野に噛みついた。金色の瞳でぎっと涼野を睨む。猛獣が見つめるような恐ろしい視線だが、涼野はまったく物怖じしない。鼻で笑うと、冷笑を浮かべた。
「”仕方なく”? 冗談も休み休み言うことだね。キミも私も考えることは同じだろう。京都に行けば、確実に蓮に会える。彼に会いたいからこそ、私に着いてきたのだろう」
正鵠を射る(せいこくをいる)ことを涼野にずばり指摘され、南雲はばつが悪そうに俯いた。そして悲しげに蓮の名を呟いた。
「……蓮」
「彼とは5年ぶりの邂逅(かいこう)だったが」
涼野は口元にほほ笑みをつくると、再度窓の外を見やった。また南雲に背を向けた。
「印象はずいぶんと変わった。あれほど私とキミの背に隠れて泣いていた蓮はずいぶんと強くなったぞ。いや、今も泣いていたらおかしいな」
自分に言い聞かせるかのように涼野は、南雲に語りかけ、自嘲めいた笑みを浮かべた。南雲は顔を上げ、席わきの窓ガラスが映す涼野の表情を黙って睨んでいる。と、急に涼野が少し顔を下げ、しゅんとなった。傍から見てもわかるほど寂しげな面持ち。南雲は目を瞬く。
「だが。あの……愛嬌(あいきょう)のある笑みは、昔と変わらないね」
何か思うところがあるのだろう、涼野はそれっきり口をつぐんでしまう。憂いに満ちた瞳がガラスを通じて南雲の瞳に飛び込んでくる。正確には涼野は視線をげていて、南雲を見てはいなかったが、嫌でも窓ガラスを見ていれば涼野の瞳は見えてくる。
南雲もまた口を閉ざしていた。退屈そうに席前の網に手を突っ込んでペットボトルを取り出すと、ごくごくと飲んだ。列車が線路を走る音だけが定期的に聞こえてくる。
「あいつ。なんでオレ達の前から姿を消した」
ややあって南雲が恨みがましく口を開いた。ペットボトルにふたをし、乱暴に網の中につっこむ。涼野が振り向く。
「また蓮が私たちを裏切ったと言うのか」
非難するような口調で涼野が尋ね、南雲は目を細め、苛立ち混じりの口調で答えた。
「いなくなるタイミングがよすぎるんだよ。お前が作り話してなきゃ、確かになんかあったのかもしんねーけどよ。……オレは自分の耳で蓮の言葉を聞かない限り、あいつを完全に信じることはできない。それにあいつは雷門イレブンなんだろ?」
「ああ」
「話は変わるが、風介こそ正体がばれたらどうする気なんだよ」
涼野は考え込むように視線を数秒宙に彷徨わせ、南雲をしっかりと見据える。青緑の瞳に強い意志の様な光が宿っていた。
「そのことなら何度も考えた」
瞳に宿る光同様、迷いのない声で涼野は続ける。
「正体が判明していまえば私と蓮は今のままではいられないだろう……だが」
ためらうように涼野は一度言葉を切った。顔に戸惑いの色が出ている。
「だが?」
南雲がせっつき、涼野は迷いを払った顔で南雲をまっすぐ見つめる。
「だがこのまま敵同士でいれば蓮とは必ず会える。それだけで私は幸せなのだ」
「…………」
「5年前のように行方知れずになることもなく、ずっと蓮と会い続けることが出来る。それがどれほど幸福なことかわかるか?」
「わかんねーよ」
南雲は呆れたように返事をした。涼野がふっと笑う。
「なら、たとえ話をしようではないか。たまたまスーパーで何でもよい、私がある菓子を買うことをためらったとする。欲しい私は翌日再度買いに行く。すると、そのある菓子はスーパーの棚から既になくなっていた、つまりは入荷しなくなっていて、二度と買えなかった——そんな経験は一度や二度、キミにもあるはずだろう」
「……まーな」
「この話と同じだ。菓子を買わない……ためらっていては、私は菓子を二度と買うことが出来ない——つまりは蓮と二度と会うことが出来なくなってしまうと思うのだ。彼がどこに住んでいるかなど私は知らないし、この戦いが終わったら蓮がどこへ行くのかわからない。敵だからと躊躇(ちゅうちょ)していては、彼は名字の通り、渡り鳥のごとく、どこか遠くの地へ——行ってしまう。そんな気がするのだ」
〜つづく〜
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