二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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イナズマイレブン〜試練の戦い〜
日時: 2014/03/26 11:37
名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: 9kyB.qC3)

皆様、初めまして…の方がほとんどだと思われるしずくと申すものです。実は某大作RPGの二次もやってますが…
 今回、再びイナズマ熱が蘇って来ました。
 そこで、二年程前に挫折してしまった〜試練の戦い〜をきちんと完結させようと思い、再びスレッドを立てさせて頂きました!

*注意事項
:二年前の〜試練の戦い〜のリメイク版(当時のオリキャラは削除しています。すみません)
:時代遅れなエイリア学園編の二次創作
:オリキャラあり。男主人公です。
キャラ崩壊、設定捏造の類いがあります。
:荒し、誹謗中傷はお断りです。

長くなりましたが、よろしくお願い致します!

本編

序章
>>1

一章「それが、全ての始まり。」
>>4->>11

二章「全ては予定通りに。」
>>12->>13,>>17->>18,>>23->>27,>>30

三章「その風は嵐? それとも?」
>>31->>35,>>37->>39,>>41->>72

四章「その出会いは幸せか」
>>74->>83

おまけ
夜の出来事(蓮と風介。宗谷岬にて)>>73

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Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.44 )
日時: 2014/03/06 18:00
名前: しずく ◆CD1Pckq.U2 (ID: 66F22OvM)  

「いいよ」

「いつのころだったか——私は”大切なもの”を失った」

 そして静かな涼野は口調で語りだした。

「失った?」

「……昔は手の届くところにいてくれた。あの頃は、近くにいるのが当たり前だとすら思っていたのだ。しかし——」

 ぶらぶらと揺れる涼野の足が、一度止まる。

「ある日を境に”それ”は、突然私たちの前から姿を消してしまった。まるで最初から存在しなかったかのように忽然(こつぜん)と、な」

 静かな口調で仏頂面だが、その瞳には悲しみの色が宿っていることを蓮は言葉の端端から感じ取っていた。

「私の友は”それ”に向かい、恨み事や戯言(ざれごと)を言っているが、私はそうは思わない」

 そのときだけ涼野はじゃっかん笑みを浮かべた。

「完全ではないが、見つかったからな」

「完全じゃない、か」

 繰り返すように蓮は涼野の言葉を呟く。自分だって、サッカーをやるようにはなったがまだ完全ではない。

「……しかし。ヒトというのは悲しい生き物だ」

 再び涼野の瞳が陰る。

「今はこうして仲良くしていても、時がたてば忘却の彼方に忘れ去られてしまう。記憶とは——どんどん風化していくものなのか」

「『人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香ににほひける』ってか」

 いきなり和歌の様なことを蓮が読み上げ、涼野が首をかしげる。

「何の歌だ」

「百人一首の詩。この前授業で習った。え〜っと。『あなたはさあどうだろう、人の気持ちは私にわからない。昔馴染みの土地では、梅の花だけが昔と同じ香りで匂うのだったよ』って意味で、人の気持ちは変わりやすいのに自然は変わらないって言っているんだよ。あ、関係ないか」

「いいや。関係はある。”それ”は気が変わり、私のことなど、どうでもよくなってしまったということだろう」

 涼野が憫笑しながら言うが、その横顔にはやはり悲しさと寂しさが入り混じっているような気がした。

「う〜ん。なんか事情があったとか〜。そういうことはないのか?」

「”それ”の事情など知らない」

「じゃあなんかあったんだろ。僕だって子供の頃に、階段から落ちて頭をうって記憶喪失になったんだから」

 その言葉に涼野がまた蓮の目をまっすぐ見据え、

「キミはドジだな」

「ほっとけ!」

 蓮が絶叫した。波の音が静かに響いた。

「……すまない、蓮」

「!」

 涼野はすくっと立ち上げると、蓮の背後に回る。そのまま腰辺りに手を回し、抱きついてきた。弱く、優しい抱擁。おかえり、と挨拶するような。

 いきなりのことに蓮は呆然とし、そのまま固まっていた。だが徐々に理性を取り戻し、自分が抱きしめられていることに気づく。

 首あたりに顔をうずめているらしい。はっきりと涼野の体温をそこから感じる。ポカポカとしていて温かい。性格とは真反対だ。ときおり彼の生ぬるい呼気が、はっきりとした呼吸音と共に首筋にかかる。

「あ……あの風介?」

 たじろいだ蓮が涼野に話しかける。答えはない。

 そのときだった。首を、なにか生暖かいものがすべる感覚がしたのは。

 同時に涼野が抱きしめる力を少し強めてくる。ぬくもりがいっそう強く肌にしみる。

 初めはその”あたたかい感覚”は気のせいかと思ったが、違う。降り始めの雨のように、定期的に首筋をつたい流れて、ジャージに降り注いでゆく。優しくて、寂しい、不思議なもの。それはきっと——涙だ。

 なんで。なんで風介は泣いているんだ? やっぱり僕は彼のことを忘れてしまったのか。記憶の海には、まだ彼が眠っている……?

 

「…………」

 口をつぐんだまま蓮は揺れる黒い海を見る。

 頭の中では色々な思考が混じりあい、まさに混沌(こんとん)の世界が生じていた。

 また……また懐かしい感覚が身を包みこむ。霧の様な懐かしさだ。向こうにその正体はありそうなのに、靄(もや)がかかっていて見ることが出来ない。

 なんで靄があるんだ。風が吹いてきて飛ばしてしまえばいいのに——

 

〜つづく〜

Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.45 )
日時: 2014/03/08 17:45
名前: しずく ◆CD1Pckq.U2 (ID: 4nNMzbDf)  

 しばらくして、涼野は蓮の身体から手を離した。不思議なことに、まだ首筋には彼のぬくもりが残っている。本当に優しくて、温かい感触だ。そして二人に沈黙が再び訪れる。
 何気なしに蓮はジャージを脱ぎ、腰に巻く。立りあがり、海を見つめる涼野の横に。腰に巻いたジャージが潮風を受けてふくらむ。

「あ、あの風介」

 ためらいがちに蓮は涼野に尋ねようとする。
 『僕たちって、どこかで出会ったことがある?』と。
 しかし次に言葉を口に出そうとした時、

「……私の気まぐれだ。気にしないでくれ」
「え? あ、うん」

 海に視線を向けたまま涼野がそんなことを言うので、蓮は適当に返事をして口ごもった。
 
「蓮」

 すぐに涼野に名前を呼ばれ、蓮は横を向く。
 見ると涼野の片手に、水色の携帯電話が握られていた。

「ん? 写メ?」

 蓮が思ったことをそのまま言うと、涼野はこっくりとうなずく。

「そういえば。この宗谷岬って、すごく綺麗だよな。写真に撮っておきたい」

 ぐるりと夜の宗谷岬を見渡しながら、蓮が笑う。
 すると涼野の目つきが変わった。暗闇の中、青緑の瞳がいっそう強い輝きを放った気がした。
 
「風景ではない。私が撮りたいのは……キミだ」
「あ〜そっか。せっかく仲良くなれたんだしね」

 ポンと両手を合わせ、蓮は納得した。
 ふっと小学校の修学旅行を思い出す。あの学校の旅行では、カメラが持ち込み可能だったので、友達とぎゃーぎゃー騒ぎながらいろいろ撮っていた。旅と言えば、写真は醍醐味だ。
 今日だって塔子と写メを撮りまくり、『雷門のみんなには内緒だぞ?』と、約束をしたっけ。

「それもあるが」

 涼野が携帯をぎゅっと握った。

「私の気が変わらないように。自分自身を戒める(いましめる)のだ」
「大げさだなぁ。ひょっとして、さっきの歌をまだ気にしてるの?」
「そういうキミは、あの梅の歌をどう思う」
「僕? 僕は——」

 しばらく頭を抱え、悶える(もだえる)蓮。だがすぐにあ……と声を漏らし、涼野に笑顔を見せる。

「僕は確かに”変わるかも”しれないけど、”基礎部分は残して”変わって行くと思う。『人間って忘れてしまう生き物』って言うだろ? 今日の日だって、細かいことは忘れるかも。けど、風介への思いは絶対変わらない。少なくとも、風介のことは絶対に忘れたりしない。この46億年間だっけ? 変わらない海と同じで」

 蓮が長い言葉を言いきると、涼野は口元に微笑をたたえていた。それから携帯を開き、階段を下りて、こちらに携帯のカメラ部分向けてくる。

「撮るぞ!」

 いつもとは違う、明るいトーンの声だった。

「は〜い」

 応えるように声の調子をいつもよりも上げ、蓮はおちゃらけてみせる。再び台座に腰かけ、TVのお姉さんのように夜空でも光る笑顔を見せながら、手を振って見せる。

 カシャ! と音がし、暗い辺りをわずかに照らした。

「どうさ?」

 すぐに蓮は立ち上がると、台座から飛び下り、写真を撮って満足げな表情を浮かべている涼野の横から、画面を覗き込んだ。

 背景が黒い中、台座に座っている自分が満面の笑みで片手を上げている姿が、しっかり映し出されている。暗いから映らないかと思ったが、そんなことはなかった。何がそんなに楽しくて笑っているのか知らないが、笑顔が非常に子供っぽすぎて恥ずかしい。と蓮は思う。

 

「次は二人で撮りたいな」  

 

 写真のことを半ば忘れたい蓮は、涼野に提案する。写真の閲覧を止めた涼野は、携帯から顔を上げた。

「しかしこの時間では、人がいないだろう」

 ん〜と蓮が唸り、ポンとまた手を叩く。

「コテージのおじさんがまだ起きていると思うから、その人に撮ってもらう?」

「そうだな。ところで、コテージは近いのか?」

「すぐさ。すぐに呼んでくる!」

 蓮は言いながら、鞄をそこらへんに放り投げた。そして脱兎のごとく丘を下り、その姿は見えなくなった。

 その光景を呆然と見つめていた涼野は、携帯をズボンのポケットに仕舞う。それから、蓮が放り投げた鞄を拾い上げ手で軽くはたいた。

「まったく。雑な性格も相変わらずだな」

 

 悪態をつくと、蓮の鞄を階段の下に置いた。涼野は階段を登り再び台の上に立った。

 変わらず黒に飲まれた海と、散りばめられた星たちが輝いているのが目に飛び込んでくる。潮風は、いたずらに銀の髪をめちゃくちゃにしていく。

「……私のことを絶対に忘れない、か。蓮らしい」

 眩しそうに星を見つめながら、涼野は独りごちた。そして軽く俯く。

「確かにこれから先、互いに忘れることはないだろう。が、”壊れる”可能性はあるんだよ、蓮。キミが雷門に居続ける限り——いつかは」

 そこまで言い切ると、再び顔を上げる。星達に何かを訴えるような表情を浮かべ、左手で右手首をつかんだ。

「お〜い風介!」

 そこへ蓮の呼び声がし、涼野はいつもの冷徹な表情で振り向く。

 50代ほどの恰幅のいいおじさんを連れ、丘の中腹からこちらに手を振っている。蓮は息切れもせずに全力疾走。もう台座の前に来ている。さすがと言うか、サッカー部なだけはある。対するおじさんは顔を真っ赤にしながら、だいぶ遅れて到着した。ぜえぜえと荒い息を吐いている。

 手を振り返しながら涼野は階段を駆け降りると、鞄を手に蓮の元へ歩み寄る。

「鞄を放り投げるな。大切なものも入っているだろう」

「あ、ごめん! 邪魔だから投げ捨ててた」

 叱咤された蓮は、謝りながら鞄をもらった。

 おじさんの息が整い終わるのを待ち、二人はそれぞれ携帯電話を手渡した。ちなみに蓮の使用する携帯の色は、藍に近い黒。

「ほうら。並んだ、並んだ」

 携帯のカメラを向けながら、おじさんが手で右にずれろの合図を送る。

「この辺かな」

「そうだろう」

 宗谷岬のシンボルをバックにした方がいいと言う、おじさんのアドバイスに従い、蓮と涼野はモニュメントの階段部分に立っていた。おじさんの画面には、直立する二人がしっかりと映っている。

 〜つづく〜

Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.46 )
日時: 2014/03/09 18:33
名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: dfpk6DJ/)  

「風介、もっと笑ったらどう? にぱ〜って」

 蓮が右横にいる涼野に笑って見本を見せる。

「失敬だな。私の中では最高の笑顔なのだぞ?」

 涼野は少し尖った口調で応対する。
 確かに口元はちゃんと笑っているし、目もいつもより笑っているとわかる。さすがに本人が言うだけはある。
 しかし蓮としては、目元をほっそりとさせた『完全に笑った涼野が見たい』とひそかな野望を抱いているのだ。

「それじゃあ撮るぞ?」

 ただ本人が応じてくれそうもないので、ここはいったん退却。
 涼野の肩に親しげに蓮が腕をまわし、口元を笑わせ、ピースサイン。シャッターを切る音がし、フラッシュが闇夜を一瞬だけ昼に変えた。おじさんは、もう一つの携帯を取り出し、同じことをする。その間、二人は彫刻のように同様の体制で固まっていた。

「撮れたぞ?」

 おじさんの声に蓮はすぐに階段から跳び、礼を言いながら携帯を受け取った。
 そうしておじさんは欠伸をしながら、ゆっくりと丘を下り始めた。

「わしは帰るが、キミも友達と遊んでいないで早く戻ってきなさいよ?」
「知りません! 身体が疲れたら戻ります」

 そう声をかけるが、蓮には適当な返事をされた。
 早くも涼野と写真を見て盛り上がっている。
 おじさんは蓮のことを気にも留めず、さっさと進んで行った。丘には二人が残された。

「もっと笑えばいいのにな〜風介」

 蓮は自分の携帯に撮ってもらった写真を見ながら、涼野を肘で小突く。

「笑えと言われても……どう笑えばよいのだ?」
「ど、どうって? う〜ん」

 悩みこみ、数秒後蓮は思いついた! と叫ぶ。

「ピースをするとか。こんな具合に」

 左手でピースサインを作り、頬に当てて見せる。
 それを涼野は見て、

「こうか?」

 蓮の真似をし、ピースをして見せる。
 だが冷たい顔つきとピースは笑えるほど相性が悪い。蓮は噴き出しそうになるのを、必死にこらえていた。

「ま、さっきよりはましだね」

 感情を必死に抑え込み、蓮は大急ぎでカメラモードを起動。珍しい姿の涼野をきちんと携帯に納めた。

 とここで、蓮がパンと両手をあてる。

「あ、そうだ。今から風介を笑わせてみよう」

「は?」

 涼野がきょとんとした。

「大声で笑えば笑顔になるだろ? そうしたら風介も完全に笑えるんじゃないか!?」

 そう蓮に力説され、涼野は渋い表情になる。

「それはそうだが……私は、あまりお笑いなどでは笑わないほうだぞ?」

「難攻不落(なんこうふらく)の要塞ってとこか。よ〜し」

 渋い表情を浮かべながら、涼野は首をかしげる。

 その横で蓮ははり切りながら、携帯のボタンを押している。まず、『ミュージック』のフォルダを開く。いまどきの流行歌もぽつぽつとあるが、大部分はアニメのOPやらEDである。風介や雷門イレブンに見つかったら、もう生きていけない。

 その中から、某動画サイトから拾ったものを選ぶ。それはよくある『おかしな次回予告』と言う奴で、村の観光案内をしているのに、むちゃくちゃ怖いスポットばかりを紹介する内容。蓮的にはいいと思ったが、

「彼女は、ずいぶんと紹介する箇所を誤っているな」

 涼野には、理性的な突っ込みをいれられただけで終わってしまった。目論みとは違い、涼野の顔色は全く変わらず、効果なし。

 

「現実ツッコミするかっ! 次!」

 蓮はめげずに次の曲を再生。

 声優さんが、キャラクターの声で歌ういわゆる『キャラソン』である。アップテンポの曲で、叫びまくる、吠えまくるの嵐。なのに、突然綺麗な美声に切り替わる。歌詞の内容も萌えについて語ったもの。突っ込みどころが多すぎる歌だがこれも、

「何を言っているのだ?」

 涼野には通じない。冷淡な反応の元、『固有結界』撃沈。

「うわ、強いなぁ……次!」

 これならとありとあらゆる曲を流すが……やはり結果はどれも同じ。微かに眉根が動くことはあっても、冷静な表情は崩さなかった。

「うへ〜怖すぎる」

 蓮は力なく階段に座り込むと、顔を月に向け、祈るように両手を握る。

「あ〜神様よ、この人を笑わせる方法を教えたまえ」

 一発芸の類ではなく、蓮は全身全霊本気だった。しかし——

「……ふふふ」

 わずかに笑い声が漏れた。もちろん蓮ではない。

 びっくりして振り向くと、涼野が手を口に当てて必死に笑いをこらえている。顔は少し強張り、目にはうっすらと涙が浮かんでいる。

 だがダムが決壊するように、涼野が小さく笑いだした。ここまで声を上げて笑う涼野は、やはり不思議だ。そんなイメージがないからか。

 目は完全に細められ、月光を宿す雫が時折散る。

「はははは……素晴らしく滑稽だよ、蓮。この私を笑わせるなんて」

 涼野は指先で涙をぬぐいながら、片目だけを開けて言った。

「む〜少し屈辱的だが、まあいいか」

 蓮は少し頬を膨らませ、笑いつづける涼野の横に立つ。そしてカメラ部分をこちらに向け——シャッターを切った。

 カメラにばっちりと本当に心から笑う涼野と蓮が映る。

〜つづく〜

Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.47 )
日時: 2014/03/10 10:42
名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: DWh/R7Dl)  

 時は少し遡る(さかのぼる)。
 蓮と塔子が、のんきに旭山動物園を見学していた頃——雷門キャラバンは、すでに北海道の大地に入っていて、のんびりと白恋中学校へと向かっていた。
 キャラバンの中の円堂は、指で窓の水滴をぬぐう。理科で習った”凝結”というやつだ。寒すぎて空気が凍ってしまい、窓にびっしりと雫が張り付く。子供の頃、よくふざけて雨の日の教室の窓に落書きをしたものだ。
 円堂は退屈で、なんとなく指先を動かし続け、サッカーボールのイラストを描いた。やがてそれにも飽き、手のひらでサッカーボールのイラストを消した。すると、外の様子が見えてきた。
 
 窓の外は一面の白い海原だ。もし晴れていたら、この海原一面はきっとキラキラと光り輝くだろう。しかし今日の天気はあいにくの曇り。分厚い鼠色の雲が、空を覆い尽くしている。天気予報で雪が降るとか言っていた。
 周囲の視界全てはほとんど白銀の雪に覆われ、ところどころ点々と立つ木々ですら茶色い幹部分を残し白化粧。
 こんな場所だからか、窓を閉め切っていても中は肌寒い。さすような冷たさが、ジャージを着ていてもはっきりと感じられる。まさに天然のクーラーである。

 その時、円堂は窓に映る自分の顔を見る。
 憂いに満ちた瞳が、まっすぐと見つめ返してきた。一度目を閉じ、再び開いた。不安げな眼差しは消えなかった。 
 なんで落ち込んでいるだろ……と、円堂は思う。
 これから新しいストライカーに会いに行くんだ。わくわくしないはずはないのに。すっげー楽しみなのに。
 いたずらに流れていく風景の中で、不意に声がはっきりとした。
 ——『オレがいるとチームに迷惑がかかる。……監督の言う通りだ。悪いがオレはチームを抜けさせてもらう』
 はっと我に返り、円堂は雪原にいるはずのない豪炎寺の姿を求めた。だがそこに広がるのは永遠に続く純白だけ。もちろん豪炎寺はいない。

「豪炎寺……」

 悲しそうに彼の名を呼ぶと、円堂はバスの背もたれに身体を預け、長い息を吐く。
 そして自分の両手で頬をビシビシと叩いた。きっと目を吊り上らせ、窓の外へと視線を向ける。

「絶対に帰ってくるよな」

 そう信じている。だからあの時、学校で友達にお礼を言うように明るく見送ったのではないか。
 豪炎寺は、仲間を見捨てるやつではない。きっと何か理由があってチームを離れたのだ。けど、あいつは絶対に帰ってくる。だから……だから。

(オレたちは進むけど、絶対に戻ってこい!)

 北海道の先の先——南か北か西か東か。どこかわからない、豪炎寺がいる場所を見据えて円堂は心の中で強く祈った。あいつになら、きっとこの祈りも届く気がして。

 そんな窓の外を食い入るように見つめていた円堂を、ウェーブの藍色のボブカットで、赤い縁の眼鏡をカチューシャのようにしている少女——音無 春奈が見て、となりの席の夏未の肩を叩き、そっと耳打ちする。

「夏未先輩……」
「なにかしら? 音無さん?」
「キャプテン静かですね。静かすぎて、怖いです」

 夏美は一度円堂にちらりと視線をやると、すぐに春奈に向き直る。

「仕方がないでしょう。豪炎寺くんが、チームを離れてしまったのだから」

 そこへ秋が、

「豪炎寺くんは、チームの”柱”の一つだもの。この雷門サッカー部を廃部の危機から救ってくれたし、いつも前線で相手からゴールを奪ってくれていた」

 懐かしむように視線を宙にやりながら話した。

 それに夏未と春奈も豪炎寺の姿を回想し、頷く。

「その彼がいなくなって……円堂くんだけではなく、みんな動揺してしまっているのね」

 くるりと四方を見渡した夏美が呟いた。

 

 キャラバンのメンバーはさっきの円堂のように、不安げな面持ちをしていたり、悲しみを瞳に宿らせながら、黙ってしまっているものがほとんどだ。おかげで中は葬式の会場のようになってしまっている。

 例外と言えば冷静な鬼道とピンク色の坊主頭で、ちょっぴりいかつい顔の染岡 竜吾(そめおか りゅうご)。鬼道は腕組みをし、何やら思案にふけっているようだ。染岡と言えば、侮蔑を含んだまなざしをじっと瞳子に送りつづけている。しかし相手にもされておらず、時折悔しそうに窓に拳をぶつけている。

「豪炎寺くんを外すなんて、本当に瞳子監督は何を考えているのかな?」

 秋が考え込む横で、

「さあどう……あっ!」

 『どうかしら』と言いかけ、突然甲高いキキーっと言う音が声をかき消した。同時に夏未の身体は前につんのめる。春奈と秋が左と右から同時に手を伸ばし、夏美の身体を支える。そのおかげで前の席に軽く頭をぶつけただけですんだ。

 キャラバン内に目をやると、全員身近なものに捕まり、難を逃れていた。

 軽くぶつけ少し痛みがする頭を擦りながら、夏未は支えてくれた二人に声をかける。

「木野さん、音無さん、ありがとう。大丈夫かしら?」

「うん。なんとか」

「それにしても……急ブレーキなんてどうしたんでしょう?」

 眉をひそめる春奈にこたえるように、円堂が席を飛び出し古株さんの元へと向かう。

〜つづく〜

Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.48 )
日時: 2014/03/10 20:10
名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: 8HM4KmaQ)  

「古株さん! どうしたんですか?」

 口をあんぐりと開けていた古株さんが、円堂に気づいて前を指差す。その先には、まだまだ白い雪原が。だが、その先に黄色が混じっていた。暗めな黄色が、白の中で小さく揺れる。

「人だ! この雪原の中に人がいるんじゃ!」

「人? オレ、ちょっと見てきます!」

 言うが早いか、円堂はキャラバンを飛び出た。

 瑞々しい(みずみずしい)空気が肺に流れ込んでくる。外は寒く、円堂は身を震わせたがすぐに”黄色”の元へとかけだす。

 その後ろ姿を見ようと、キャラバンの窓を開け、雷門中サッカー部のメンバーが顔を出す。

 シャーベット状の雪を踏みつけ、靴下が濡れる。

 その黄色がいるのは雪原の真ん中で、進めば進むほど円堂を拒むかのように雪が深くなる。

 初めは足ほどもなかったのに、今はもうスパイクが雪に埋もれている。雪を踏む感覚は心地よいが、靴下が濡れて肌に張り付き気持ちが悪い。

 進むのも大変だ。普通に歩けないので、足が埋もれたら素早く次の足を出す。また埋もれる。また出す。その繰り返しだ。おかげで進みずらい。

「あ。いたいた」

 進みにくさに円堂のイライラが始まったころ、ようやく黄色の元にたどり着いた。

 それは予想通り人であった。黄色い地に雪を思わせる黒いラインマークが入ったジャージを身につけている少年。目を大きく見開き、身体を抱くようにして震えていた。

 少年は、歳も背丈も円堂と同じくらいだろう。北海道人らしく雪の様な色白の肌。きめが細かく、目をひかれる。しかし今はさらに白さが増し、血の気がうせている。

 顔立ちは端整で、垂れ目で少し色素が薄い緑の瞳がなんとも可愛らしさを演出している。が、目のせいで頼りなさそうな印象を受けるのも事実である。雪の日の雲を思わせる灰色の髪が横に跳ねていて、その首には白いタオルの様なマフラーがまかれていた。

「お〜い。キミ、大丈夫か?」

 円堂が呼びかけると、少年は助けを求める視線を円堂に投げかけてくる。身体を震わせながら、片手を上げて弱弱しく振る。

「あ……あ、あ……」

 何か口が言葉を紡いでいる。

 しかし呂律(ろれつ)が回らないらしく、うまく聞き取ることが出来ない。

 どうしたんだ? と声をかけながら、円堂は少年に歩み寄る。揺れる片手を掴んで——外にも負けない切られるような冷たい体温を感じ、反射的に離した。

 どうやら彼は立派な遭難者である。さすがの円堂も状況を素早く理解した。

「身体が冷たいじゃないか! こっちに来て休めよ」

 

 片手を差し伸べながら誘うと、少年は強張った笑みを浮かべ

「あ……あ、ありが……と、と、と」

 必死に口をもごもごさせ、お礼を言った。

 そして数歩歩いたところで……円堂の手を取った。

 円堂に手をひかれ、ゆっくりとキャラバンに戻った少年は今は留守である蓮の席——円堂の横に座らせる。少しは寒さが和らぐキャラバン内にいても、少年の身体はまだ悪寒で震えていた。

 円堂がキャラバンのみんなに少年と会った経緯、遭難者であることを説明した直後、キャラバンが忙しくなる。

 

 悪いが女子全員をキャラバンから一度外に追い出し、少年の濡れた服一切合財を着替えさせる。服と言えば予備のジャージしかないので、応急手当に雷門ジャージを着せた。靴下とスパイクもはぎとり、雷門用のものを身につけさせる。

 そして女子たちを呼び戻し、毛布で何重にも少年を包む。少年はあっというまにごわごわになった。顔色もだいぶ良くなり、血の気が巡ってきたようだ。頬に赤みが差している。震えも止まっている。それどころか逆にうっすらと汗が浮かんできてしまっていた。

 途中、春奈が「ぬいぐるみみたいで可愛いです!」と叫んでいた。

 それからしばらくして、少年の頬が完全に火照ったのを確認。毛布を外し、春奈が湯気の立ったココアが入ったマグカップを手渡す。

「大丈夫ですか?」

「ふ〜」

 少年は安どの様な長い溜息を吐くと、キャラバン内の全員を見て、

「ありがとう。おかげで助かったよ」

 澄んだきれいな声でお礼を述べた。

 それに対して夏美が顔をしかめ、

「全く。こんな雪原の真ん中で一人で歩くなんて、不用心じゃなくて?」

「あははは……でも、あの北ヶ峰(きたがみね)はボクにとって大切な場所だから」

 少年は苦笑して、白い一点を指し示した。

 さっきまで気がつかなかったが、白くそれなりの高さがある山がそびえている。なるほど。北ヶ峰と言うだけあり、険しそうな山だ。

 そこへ古株さんが口をはさんでくる。

「北ヶ峰じゃと? あそこは雪崩が多くて危険な場所じゃろう? 何年か前も大きな事故があったらしいじゃないか」

「……雪崩」

 ”雪崩”を恨めし気に囁いた少年は、マフラーを片手でぎゅっと握りしめ口をつぐんでしまう。カップの中のココアが静かに波紋を広げる。その瞳には、悲しみの色がたたえられていた。

「ところでお前、どこの学校に通ってるんだ?」

 話題を転換するように、円堂が少年に聞く。

「この先の白恋中学校だよ」

「へぇ〜。奇遇だな。オレたちもこれから、『吹雪 士郎』ってやつに会いに行くところなんだ」

 そう円堂が言うと、少年は自分を指差して誰もが耳を疑う言葉を口にした。

「え? ボクに会いに来たのかい?」

〜つづく〜


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