二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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イナズマイレブン〜試練の戦い〜
日時: 2014/03/26 11:37
名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: 9kyB.qC3)

皆様、初めまして…の方がほとんどだと思われるしずくと申すものです。実は某大作RPGの二次もやってますが…
 今回、再びイナズマ熱が蘇って来ました。
 そこで、二年程前に挫折してしまった〜試練の戦い〜をきちんと完結させようと思い、再びスレッドを立てさせて頂きました!

*注意事項
:二年前の〜試練の戦い〜のリメイク版(当時のオリキャラは削除しています。すみません)
:時代遅れなエイリア学園編の二次創作
:オリキャラあり。男主人公です。
キャラ崩壊、設定捏造の類いがあります。
:荒し、誹謗中傷はお断りです。

長くなりましたが、よろしくお願い致します!

本編

序章
>>1

一章「それが、全ての始まり。」
>>4->>11

二章「全ては予定通りに。」
>>12->>13,>>17->>18,>>23->>27,>>30

三章「その風は嵐? それとも?」
>>31->>35,>>37->>39,>>41->>72

四章「その出会いは幸せか」
>>74->>83

おまけ
夜の出来事(蓮と風介。宗谷岬にて)>>73

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Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.4 )
日時: 2013/10/22 23:20
名前: しずく ◆14iGaWqIZs (ID: 5SQt.OF5)  

とんとん、と意識の片隅で断続的に軽い音が響いていた。それは一定のテンポではあるが軽快な乾いた音で、ボールが地に落ちる際の音によく似ている。

その周りですげえとかさすがだな、と言う声が聞こえてきた。軽快な音に対して大袈裟に驚いたり、興奮したような声がする。するだけだった。

辺りの風景は一面の黒であり、その中で、人の声だけがする。姿も風景も何も見えない。

だが、少年は黒に向けて話しかけた。

「ねえ、キミたちは……」

*

直後、頭に鈍い痛みを感じ少年は現実に引き戻された。

*

頭が痛い。痺れるような痛みが断続的に襲いかかってくる。

寒い。パジャマ一枚で冷たい床に寝ているせいか、寒さが直に伝わってくる。手足の温度が下がるのが分かる。少年はぼうっとしながら、己の寝相の悪さを責めた。

少年は床で寝ていた。

艶のある短めの黒い髪に、黒曜石のような漆黒の瞳。顔立ちは中々整っており、爽やかな好青年、と言う印象を与える。先程まではベッドで寝ていたが、寝返りをうった際に転げ落ち、床に寝るような体勢になったのだ。痛む頭を擦りながら起き上がり、ベッドのデジタル時計を手繰り寄せる。
時刻は朝の六時過ぎ。まだ学校が始まるまで時間は十分にある。

が、痛みですっかり目が覚めた。何とも悪い目覚めだ。もう寝るきもしない。デジタル時計のアラームを解除し、時計を元の場所に戻した。そして、ぼうっとクローゼットを見上げる。そこには、上下一式の学生服がハンガーにかけられ、吊るされていた。
今日から通う、雷門中学校の制服だ。

〜つづく〜

Re: イナズマイレブン〜試練の戦 ( No.5 )
日時: 2014/02/14 23:37
名前: しずく ◆CD1Pckq.U2 (ID: ErSo6VVm)

大急ぎで階段を下り切った少年は、目の前にあるドアノブに手をかけ、思いっきり押した。すると4人掛けの机の上に広がる朝食が目に飛び込んできた。どれもまだ作られたばかりなのか、かすかに湯気が立っている。
 
「蓮! 遅いわよ」

 赤いエプロンをつけた母親に怒られ、あたふたしながら少年——蓮は、席へと着く。鞄を机の下に、投げ込む。いただきます、と軽く言うと目にも止まらぬスピードで、テーブル上の食べ物を次々に胃の中へと消し去って行く。

「お行儀が悪いわよ。誰に似たのかしら」
 
 母親は蓮の正面に座ると、呆れた顔で悪態をついた。

「らてひゃひひんへへっほっほ(訳・母さんが、起こしてくれなかったんだろ。僕は、朝は苦手なんだから)」
「ほら、早く。傘美野(かさみの)中学校に、行きなさい」

 ずっと下を向いて食べていた蓮の手が止まった。パンを左手に持ったまま、不思議そうな顔で母親に尋ねる。

「は? 僕がこれから行く学校は、雷門(らいもん)中学校でしょ。傘美野は、隣町だろ。やだなあ、母さん僕をからかってるの?」

 蓮は笑い飛ばそうとしたが、母親の顔は真剣そのものであった。渋い顔をすると、う〜んと唸(うな)りながら腕組みをした。

「それがね、母さんにもよくわからないの。今さっき雷門中学校の方から電話が来て、急いでお子さんを、傘美野に向かわせてくれって言われたのよ」
「サギじゃない?」
「そうねえ。でも、時間も時間だし。蓮、傘美野まで道もわかるし、大丈夫よね」

 母親は立ち上がると、蓮の前にあった皿を片づけ始めた。扉の上にある時計に目をやると、既に8時15分——登校時間は8時30分だから、そろそろ出かけないと遅刻することは目に見えている。蓮は席を立つと、鞄を手に取り玄関へと走った。学校の指定靴……緑色で、かかと寄り少し右側に雷のマークがある上履きに履き替える。

「とりあえず傘美野に行く。遅刻したら、母さんのせいだからな!」

 転がりそうな勢いで玄関を出ると、蓮は家の前にある坂道を大急ぎで下って行く。鞄が左に右に激しく揺れ、蓮の邪魔をするかのように動く。

「ヤバイ! 初日から遅刻なんてありえないぞ……」
「…………」

 そう呟く蓮を見送る、一つの姿があった。
 黒いローブに身を包んだ人間。細いやせ形で背はすらっと高い。体格からして女性か。その人間はいつ現れたのか、蓮の家の屋根の上にのっかっている。動かず、騒がず、ただただじっと彼の背中を送っていた。

〜つづく〜

Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.6 )
日時: 2014/02/15 21:22
名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: ilLKTbvz)  

どんよりとした曇り空の下、緑が鮮やかな道を、蓮は必死になって走っていた。
 先ほど何故か母親に「隣町の中学校へ行ってね」と言われた、あの(不幸?)な少年蓮。ちなみに名前は白鳥 蓮(はくちょう れん)。中学二年だ。耳まである短い黒髪と、黒曜石の様な漆黒の瞳を持っていて、なかなか整った顔つきをしている。わりかしらほっそりとした、やせ形の体格だが、こう見えても身体は筋肉がしっかりとついていて、運動が好きな男の子らしい。

「この坂を登り切れば、傘美野中学校だッ」

 肩にかかっている鞄を揺らしながら必死に走る蓮だが、全く息があがっていない。こう見えても前の学校では、テニス部に所属していた。だから走ることには慣れているのである。
 ようやく坂が終わり、傘美野中学校が見えてきた。たくさんの豊かな緑の中に、校舎が見える。壁に塗られたオレンジ色が自分の存在を主張していた。

「あれ? ここって傘美野?」

 異様すぎる静けさだった。遅刻する生徒の叫びも、それを注意する先生の怒鳴り声も。体育でグラウンドを走るみんなの元気な声も……何一つしない。インフルエンザなどで学校が休校したかのように、静寂をもとっていた。
 
「誰もいないのか?」

 注意深く辺りを見渡しながら正門の方角へ歩くと、門の前に一人の女性が立っていた。初めは傘美野中学校を見ていたが、蓮に気がついたのか振り返る。

(美人だなぁ)

 蓮は思わず女性を見入ってしまった。
 背中まである緑がかかった黒髪は、シャンプーのCMに出てもよさそうな程、さらさらしている。おまけに目鼻立ちも整っているし、肌もきめが細かい。体格も蓮と同じく細身だが、彼女の方が足も細い。まさに絵に描いたような美人である。
 
「…………」

 蓮に見られた女性は、冷静な表情を崩さず、蓮に冷ややかな視線を送った。それに気がついた蓮は、慌てて頭を下げる。

「あ、すいません」
「あなたは、雷門中学校の転校生白鳥 蓮くんかしら?」
「え?」

 見ず知らずの女性に自分の名前を呼ばれ、蓮は反射的に頭を上げた。

「……そう、ですけど? 何か用事ですか? 僕に」
「ええ。その傘美野の中にいる、雷門中サッカー部を助けなさい」
「サッカー……」

 「サッカー」の単語を聞いた蓮は、顔を曇らせた。そしてその表情のまま女性に、断わりを入れようとした時。校舎の奥の方で、人間の叫び声がした。続いて、朝と同じく何かが爆発する音。

「これ預かっててください!」

 蓮は女性に鞄を投げると、正門の前に立った。 
 正門は二対の横びらきのタイプで、縦に何本か棒があり、その中央を貫くように横に向かって長い棒がある。蓮は正門の一番上に手をかけると、横棒の上に足を引っ掛け、門をよじのぼる。門の一番上にお腹をのっけると、器用に身を回して反対側へと降りた。

「よし! 小学校のころからやってた甲斐があった」

 少し痛む腹をさすりながら、蓮はグラウンドを一気に駆け抜ける。そこへ何かが飛んでくるのが見えた。気を利かせて頭を下げると、それは頭上を通り抜け、じゃり、と言う音を出して静止した。
 恐る恐る振り向くと、サッカーボールが白煙を出しながら、地面にめり込んでいた。ただサッカーボールとはいえ、本来白い部分は黒く塗られ、黒い部分は濃い翡翠のような色で塗り分けられている。

「まだ雷門サッカー部が残っていたのか」

 ボールが飛んできた方向から、一人の人間が歩いてくる。黒いローブに身を包んでいて、顔を伺えない。蓮はその人間を、思い切り睨みつけた。

「お前は……誰だ?」
「ボク?」

 蓮の睨みを気にしないのか、ローブ人間は歩みを止めない。蓮の横を通り過ぎると、サッカーボールの前でかがみ、ボールを持ち上げた。そのまま、

「今日で2回目だ。本当に雷門の人間たちは、名乗らせることが好きなんだね。ま、いっか。ボクたちは……「エイリア学園」。遠い星「エイリア」からやってきた、宇宙人さ」

 聞いたこともない学校名を名乗った。

「エイリア学園? 偏差値高そうだな……」
「サッカーっていう秩序の元に、世界に力を見せる。それが「エイリア学園」さ」
「早い話が、サッカーで世界侵略する気の学校ってことか。でも。サッカーだけじゃ、相当難しいと思うけど? 侵略」

 蓮は強がりから、相手を嘲笑(ちょうしょう)した。こうでもしていないと怖い。今、話しているのは自称であっても宇宙人。油断はできない。
 構える蓮に対し、黒いローブの宇宙人(自称)は、淡々とした口調で返してくる。

「だったら教えてあげる。試合に参加しなよ。ちょうど雷門イレブンもぼろぼろで、手ごたえがなくなってきたし。……まあ、後5分しかないけど、試合に参加したらどうだい?」
「5分? むしろ5分で有難い」

 蓮は腕まくりをすると、黒いローブの宇宙人(自称)を見据えた。

「試合、やってやるよ」
「いいよ。楽しませてね」

〜つづく〜

Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.7 )
日時: 2014/02/16 09:15
名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: C6pp1bGb)  

「お……おい」

 傘美野のサッカーゴール前に立った蓮は、言葉を失った。フィールドにあるのは皆が楽しくプレイする姿ではなく、黒いローブのチーム相手が苦しむ光景。鮮やかな黄色と袖の青い部分が特徴的なユニフォームを着た選手たちは、そのほとんどが地面にその身体を横たえ、苦しそうに顔をゆがめている。かろうじて立っている選手たちも、全身切り傷だらけで、ユニフォームに赤い斑点ができてしまっている。

「これはサッカーじゃないだろ!」

 蓮は宇宙人(自称)に頭ごなしに怒鳴りつけた。相手は蓮に全くひるむことなく、1+1は2だと言う口調で言葉を返してくる。

「サッカーだよ。ルールさえあれば、人はそれを「サッカー」と呼ぶ。違うかい?」
「う……」

 反論できず、蓮は悔しそうに舌打ちをした。この宇宙人は何を言っても、的確に言葉を返してくる。何を言っても、冷静でいられる。それが非常に腹立たしい。サッカーで人を怪我させて、何も感じないのだろうか。苦しむ雷門の皆を見ると、心に針でつつかれたような痛みが走る。手が震える。

「でも。人を傷つけていいなんてルールは、サッカーにはないはずだ」

 ようやく口をついて出た反論の言葉に、蓮は手をぎゅっと握りしめ、頭を垂れた。

(くそ……もっといい言葉はないのか)

 そこへ畳みかけるように、宇宙人(自称)の言葉が耳に飛んでくる。

「これはボクたち、エイリアのルールさ。先に名乗った方が勝ち。触らぬ神にたたりなしってことだね。わかる?」

 バッと蓮は顔を上げると、激情にかられ、顔を猿のように真っ赤にしながら、づかづかと宇宙人(自称)に詰め寄った。

「雷門が悪いって言いたいのか」
「うん。怪我をしたくなかったら、やめろと止めた。勝負に乗ったのは、雷門さ。ボクたちの邪魔をするものは排除……それ以外は、ごくごく普通のルールだから安心しなよ」

 そこまで言うと、宇宙人(自称)はローブのマントを翻して、フィールドの中へと入って行った。もがく雷門サッカー部の人々の横を、普通に道を歩くのと同じ調子で進んでいく。そこへ、同じく黒いローブの人間の一人がかけよってきた。小柄で、まだ子供のようだ。

「フィー。あいつは?」

 まだ若い男の子のような声。声変わり前らしく、少々高めだ。「フィー」は進み続けながら、

「雷門イレブンのスケット」

 呟くように返答した。
 
「ふ〜ん。じゃあ、そこのペコポン人。さっさとフィールドに入るであります!」
「フェーン、地球のアニメに毒された?」
「言われなくったって入るさ」

 小柄の宇宙人(自称)に手を振られ、蓮はむっとしながらフィールドに入って行く。まだ動けるらしい雷門メンバーが、目を剥いて、蓮に注目の視線を注ぐ。

「お前……俺たちを助けてくれるのか?」
「もちろん」

 蓮はふっと笑ってみせ、Vサインを作って見せる。

「宇宙人と戦うなんて、わくわくするよっ」

〜つづく〜

Re: イナズマイレブン〜試練の戦い〜 ( No.8 )
日時: 2014/02/16 14:15
名前: しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: U2fmuc/y)  

「よし、プレー再開だ」

 フィーは呟くと同時に、フェーン……フィールドの中央にサッカーボールを投げた。ヘディングで受け取り、地面に下ろすと同時に、フェーンは一気に雷門側のゴールへと走り出す。まだ、動ける雷門のユニフォームを着た選手が行動を起こすのもほぼ同じだった。

「<疾風ダッシュ>!」

 緑色の髪を赤いヘアゴムでポニーテールにしている少年が、フェーンに向かってかなりの速さで近づいた。右に左にちょこまかと動くのだが、あまりにも速いため、分身して二人で走っているような錯覚を起こさせる。風も起こり、地面から砂埃が立つ。
 今のは<技>。色々あり、ドリブルやシュートキャッチの3つがある。これをぶつけあって戦うのが、この世界のサッカーなのだ。

「ゴールへは……円堂のところへは! 行かせるか!」
「よ〜いしょっと」

 ポニーテールの少年がスライディングをしかけると、フェーンは気の抜けたような声と共にボールを空中に蹴りあげ、自身も一緒に跳び上がった。

「なに!?」
「フィー! 軽くうつであります!」

 戸惑う少年の頭上で、フェーンはちょうど自分の足の高さにまで落下してきたボールを、フィーへと蹴った。そのフィーは、既にゴール前へと移動している。あっけなく胸をそらして、上手いことキャッチする。そして、ボールを地面に下ろし、上から足で押さえつけた。

「これで10点目」

 フィーが片足を引いた——その時。

「させない! <アイス・スパイクル>!」

 蓮は回転しながら、四方八方にジャンプする。彼が地に足をつけた途端、地面は何故か凍りつき、黒いローブの人間たちが何人も氷の彫刻にされていた。もちろんフィーもカチンコチンにされ、ボールは蓮の手に渡っていた。

「よし!」
「…………」

 氷漬けにされた人々の間を、蓮は縫うようにドリブルしていく。凍っていないローブの人間たちは、何故か動かない。ただ、蓮の行動をじっと見やっているだけである。

「面白いね」

 氷漬けの時間は、さほど長くない。背後で、氷が砕ける音がし、黒いローブの人間が、次々とフィールドに立つ。

(行けるか……?)

 ゴール前には、DF(ディフェンス)*サッカーで、防御をする位置のこと。相手からボールを奪ったり、キーパー(後述)の元へ行かせないようにするのが役目)らしき人間が二人もいる。一人ならまだしも、このまま単独でつっこめば、ボールを奪われてしまう。

 なすすべなしか、と蓮が諦めかけた時だった。パチン、と言う指を鳴らす音が、フィールドを震わせる。その瞬間、波が引くように前にいたDFの二人がフィールドの左と右に、それぞれ分かれた。そのまま棒立ちになっているだけで、襲ってくる感じはしない。

「ペコポン人、うつであります」

 挑戦的な口調に振り向くと、フェーンがいた。さっきまでフィールドのほぼ中央にいたはずなのに、ゴール前にあがってきたらしい。

「な……お前、いつのまに!?」

「こんなの実力の1%にも満たないぜ」

 驚きの声を発する蓮を尻目に、フェーンは蓮とは逆方向に走り去って行った。強気な発言を残して。その発言に、蓮は目の前にあるゴールを睨みつけた。

 そこにいるGK(ゴールキーパー(サッカーでゴールを守る位置。ゴールにボールが入ると、点が入ってしまう)は、だらーと力なく両手の力を抜いている。蓮を見くびっているらしい。

「ずいぶんと余裕……な……ん……だ……な」

 GKが二人に見える。呼吸のテンポが速くなる。目の前に見える世界が左に、右に揺れる。靄(もや)がかかったように、視界が薄い白に染められていく。

「くッ」

 蓮は悔しそうに舌打ちをすると、ボールを頭上に蹴りあげた。それと同時に蓮の背に1対の白い羽が生える。白鳥のような白く、穢れを知らない羽であった。

 羽を纏った(まとった)少年は、ボールの元へと舞った。ボールは重力がなくなったように、蓮の前で固定された。そして、ゆっくりとボールは白い電気を帯び始めていく。バチバチと火花を飛ばしながら、電気はボールをすっぽりと包み込んだ。心なしか、ボールを鳥かごに入れたように見える。もちろん、電気の籠の方が大きいので、ボールは中央で浮いている。

「<シュート・ウイングスブースト>!」

 最後の力を絞り切り、蓮はボールに踵(かかと)を思い切りぶつけた。衝撃からか、蓮の背の羽が何枚か宙に舞った。

 舞った羽もボールと同じく帯電を始め、電気が作った球体の中に閉じ込められる。それらが、ボールを追い越し、ゴールへと向かった。

「え? え?」

 GKの横に落ちた羽は、地面に着くと同時に爆発し砂塵(さじん)を起こした。ゴールが見えなくなるほどの砂煙が辺り一面を覆う。その煙の中に、白い電気を身にまとったボールが飛び込んで行った。

「…………!」

 砂煙がやむと同時に、サッカーボールがネットから転がり出て来た。ゴールを告げる笛の音が、静寂した空間を切り裂く。

「ゴール! なんだ! 今のシュートは!」

「へへ……当然だぜ」

 蓮は力なく微笑むと、がっくりと頭を垂れた。背中にあった羽は溶けるように姿を消していき、身体が地面に引っ張られる。顔に当たる風が、やけに冷たく感じた。視界はもう黒しかない。自分を飲み込むとしている。空気を切りながら、蓮の意識は薄れて行った。

 

 

〜つづく〜


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