二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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仮面ライダーウィザード〜終幕の先〜【完結】
日時: 2017/04/15 00:31
名前: 裕 ◆.FlbxpLDSk (ID: XGjQjN8n)

こちらでは初めて投稿させていただきます、裕と申します。
今回はこの場を借りて、平成仮面ライダーシリーズ第二期から
「仮面ライダーウィザード」の物語を積み上げてみたいと思います。

個人的解釈としましては、第二期である「ダブル」〜「鎧武」までの作品は、同じ世界観だと思って見ております。なので、今回の物語もそれに沿った流れで書いていこうと思います。それに伴い、第二期各作品(劇場版)の設定も拝借する予定です。

物語の時間軸は「ウィザード」本編の最終回後、さらに言えば冬の映画「戦国MOVIE大合戦」の後の話だと思っていただけると幸いです。

ではでは。


〜登場人物〜


・魔法使いとその関係者

操真晴人=仮面ライダーウィザード

仁藤攻介=仮面ライダービースト

稲森真由=仮面ライダーメイジ

奈良瞬平

大門凛子(国安ゼロ課・刑事)

木崎政範(国安ゼロ課・警視)

ドーナツ屋はんぐり〜・店長

ドーナツ屋はんぐり〜・店員


・財団X

シオリ・カナ(栞 可奈)=仮面ライダーサクセサー

ヤマト=メモリー・ドーパント

ネオン・ウルスランド(局長)


・宇宙仮面ライダー部

野座間友子

ジェイク(神宮海蔵)

仮面ライダーフォーゼ


・鳴海探偵事務所

左 翔太郎=仮面ライダーダブル(左サイド)

フィリップ=仮面ライダーダブル(右サイド)


・怪人

サザル=ファントム・グレンデル

ファントム・ラミアー

ファントム・ヘルハウンド(ログ)

ファントム・シルフィ(ログ)

ファントム・バハムート(ログ)

ファントム・メデューサ(ログ)

グール

クロウ・ゾディアーツ

ペルセウス・ゾディアーツ

黒ネコヤミー

オールド・ドーパント

マスカレイド・ドーパント(白服)

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九十二. 決着1 ( No.100 )
日時: 2017/03/15 11:52
名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: idHahGWU)

「ま、まさか……“女帝”の中にあの女の意識が……」
 傍らで起こるラミアーの異変に思わず気を取られたグレンデルは、その状況に困惑の表情を浮かべていた。
「よそ見してんじゃねえ! てめぇの相手はこっちだぜ!」
 そんなグレンデルに、ダブル・サイクロンジョーカーエクストリームは魔力を纏った左右の拳を交互に叩きつける。
 ダブルの怒涛のラッシュを前に、グレンデルはなす術なく追い詰められていく。
 サクセサーの魔力を得たダブルの攻撃は、今までと違う別次元のものへと生まれ変わっていた。
「ち、畜生……。いい気になってんじゃねえ!」
 反撃を試みようと、ダブルの攻撃直後の隙を狙って爪を振るうグレンデルだったが、その一撃を、
「おっと!」
 フォーゼ・コズミックステイツのバリズンソードがすかさず受け止めた。
「俺もいることを忘れんな!」
 刀身に力を込めて爪の攻撃を押し返したフォーゼは、バリズンソードを二度三度振ってグレンデルのボディに斬撃を与えた。
「ぐっうぅぅ……」
 ダブルとフォーゼ。二人の仮面ライダーの連携にたじろぐグレンデル。
 既に戦況は完全に逆転していた。
 フォーゼは33番のスイッチ、クロースイッチを召喚すると、バリズンソードの柄の部分に装填し、さらに胸部のタッチパネルに表示された10番のアイコンをタッチした。
『クロー・オン』
『エレキ!』
 10番のスイッチはエレキ——電気の力。
 爪の力に電気の力が付加され、バリズンソードから三又状の雷の爪が放出された。
「おらぁああああ!」
 フォーゼはバリズンソードを豪快に振り下ろし、雷の爪でグレンデルの身体を大きく縦に切り裂いた。
「がっはぁあああああ……」
 土砂降りの雨で全身が濡れていることもあって電気の攻撃は威力が絶大。帯電した身体にグレンデルはもがき苦しみ思わず膝を着いた。



 ウィザードは金色の指輪を右手にはめ込み、ベルトにかざした。
『チョーイイネ・フィニッシュストライク! サイコー!』
 魔法陣に包まれたウィザードの身体が変化を遂げ、究極の姿へと進化を果たす。
 仮面ライダーウィザード・インフィニティードラゴンゴールド。
 オールドラゴンのようにウィザードラゴンと融合した黄金色に光り輝くインフィニティースタイルの究極形態だ。
「これで終わりにする!」
 ウィザードは背中の両翼を広げ、灰色の空へと上昇する。
「さ、させるか……。この世に生まれたばかりだというのに……、このまま消されてたまるかぁ!」
 ラミアーもまた、肉体の主導権を取り戻そうと抗いを見せていた。
 シオリ・カナの意識を押さえつけ、邪悪な人格が再び表に現れようとしている。
「返り討ちにシテ……グァ……オ、お願い! 早く! もう、コイツを押さえ込むのも……限界……」
 カナとラミアー、二人の意志が一つの肉体を巡って激しくぶつかり合っている。
 それは発せられる言葉からも感じ取ることができるほどに。
「待ってろ! すぐに開放する!」
 ウィザードは徐々に加速しながらはるか上空に舞い上がると、今度はラミアー目掛けて急降下を始めた。
「…ク……く……くたばれぇ魔法使い!」
 辛うじて身体の自由を取り戻したラミアーが、絶叫しながらウィザードのいる空に向かって手を伸ばした。
 掌から無数の破壊光弾が放たれる。
 ウィザードは速度を落とすことなく飛翔しながら、胸部のドラゴンの頭部——ドラゴスカルから強力な炎を撃ち放ち、破壊光弾を相殺していく。
 爆炎の中を潜り抜け、ウィザードはさらに速度を上げる。



 ダブルとフォーゼの猛攻を受けながらも、グレンデルは尚も抵抗しようとしていた。
「こんなところで潰えてたまるか……。俺の……俺の悲願だ……」
「諦めの悪い奴だな!」
「どんなに頑張ってもてめえの望みは叶わねえよ! 俺達、仮面ライダーがいる限りな!」
 フォーゼと肩を並べながら、ダブルはグレンデルを指差した。
「翔太郎、フォーゼ、一気に決めよう!」
 フィリップの掛け声を合図に、ダブルとフォーゼは最後に攻撃に出る。
『リミットブレイク!』
 フォーゼはベルトから引き抜いたコズミックスイッチをバリズンソードに装填し、コズミックエナジーを刀身に集中させる。
「いくぜ! ライダー超銀河フィニィーッシュ!!」
 フォーゼが両手で構えたバリズンソードを渾身の力で一振りすると、その刀身からコズミックエナジーが圧縮された光の刃が放たれた。
 既に回避する力すら失ったグレンデルは、その一撃をもろに受け、背後に大きく吹き飛んだ。
「フィリップ!」
「ああ! この一撃に、メモリの中の魔力を全て込めよう!」
「あの子の想いも、一緒にな! これで決まりだ!」
 ダブルはメモリーメモリが装填された右腰のマキシマムスロットを勢いよく叩き、さらにベルトと合体状態にあるエクストリームメモリを一旦閉じてからすぐに再展開した。
『メモリー・マキシマムドライブ!』
『エクストリーム・マキシマムドライブ!』
 二つのメモリの力を同時に解き放つツインマキシマム。
 エクストリームメモリから放たれた竜巻を身に纏い、ダブルの身体は宙を舞う。
「「ダブルマジカルエクストリィーム!! はぁああああ!!」」
 右足を前に突き出し、雨足を切りながら急降下していくダブル。
 その途中、空中に出現した魔法陣を潜り抜けた瞬間、ダブルの姿がサクセサーのそれへと変化した。メモリーメモリに記憶されたシオリ・カナの想いがダブルに憑依したかのように。
 ダブル=サクセサーの全魔力を賭けた渾身の必殺キックがグレンデルに炸裂する。
「こ、ここまでか……。くっそぉおおおおおおお!! ぐわぁああああああ……」
 悔しさを爆発させたような壮絶な悲鳴を上げながら、グレンデルの肉体は爆炎の中に消えていった。
 黒煙をバックに着地を決めた瞬間、サクセサーの姿が蜃気楼のように揺らぎ、元のダブルの姿へと戻る。
 同時にメモリーメモリにも亀裂が走り、役目を終えたようにその機能も停止した。
「これで“彼女”の無念も、少しは晴れたかもな……」
「いや。後はウィザード次第さ……」
 自らのできる限りのことを果たしたダブルは、間もなく終わりを迎えるウィザードとラミアーの戦いに視線を向けた。

九十三. 決着2 ( No.101 )
日時: 2017/03/23 11:32
名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: UruhQZnK)

 ラミアーは内側からのシオリ・カナの妨害を受けながらも、必死にウィザードを撃ち落そうと抵抗していた。
 ほとんどデタラメと言って良いほどに撃ち出される無数の破壊光弾。
 ウィザードはそれを螺旋を描くように滑空しながら回避していく。
「フィナーレだ!」
 終幕を宣言したウィザードの右足に、黄金色に光り輝く魔力が蓄積される。
 ウィザードは前転して体勢を変えると、右足を前に強く突き出し、さらにスピードを加速させた。
 流星の如く空に光の線が描かれていく。
「落ちろっ! 落ちろっ!! 落ちろぉ!!!」
 ラミアーは怒りに身を任せて破壊光弾の連発を続ける。
 しかしそれを、
「…サ……させないっ!」
 シオリ・カナの人格が引き下がることなく阻止する。
「や、やめろぉおおおおおおおおおお!」
 再び身体の自由を奪われ、憤怒するラミアー。
「……イ……今よ! 早く!」
 カナの掛け声を合図に、急降下するウィザードはその速度を限界まで引き上げた。
「はあぁあああああああああ!!!」
 刹那、ウィザードの究極キックがラミアーの巨体を貫く。
 その瞬間、ラミアーの身体から溢れ出た真っ白い光が一気に膨れ上がり、ヘリポート全体を包み込んだ。



 何も見えない、ただ真っ白いだけの空間の中、瞬平は意識をハッキリと保っていた。
 身体は相変わらず横たわったままだったが、どういう訳かこの時は傷の痛みもなく、眼もしっかりと見開くことができていた。
 瞬平の視界の中に、一人の女性が入り込んでくる。
 それは元の姿——人間の姿で現れたシオリ・カナだった。
 カナはゆっくりと歩み寄ると、瞬平の目の前でしゃがみこむ。
「栞さん……」
 大事な人の姿を目の当たりにし、安堵する瞬平。
 しかし、その身を起こそうにも何故か身体はピクリとも動かなかった。
 まるで金縛りにでもあっているかのように。
 身体の自由が利かない中で、視線だけは真っ直ぐとカナの姿を捉えていた。
 カナは瞬平の頬をそっと撫でながらその口を開いた。
「瞬平……」
 呟くように言った彼女の表情からは優しい笑みが零れていた。
 真っ白い空間の中、そこにいるのは瞬平とカナ、二人だけ。
 さっきまで戦っていた三人の仮面ライダーの姿も、瞬平を治療していたビーストの姿も、凛子や友子、ジェイクの姿もそこにはない。
 二人だけの時間が今、この空間の中に流れていた。
「ゴメンね、瞬平……。苦しい思いをさせてしまって……」
 瞳に涙を溢れさせながらカナは言った。
「何言ってるんですか……。僕の方こそゴメンなさい……。「あなたの力になる」なんて、格好つけたことを言っておきながら、何の役にも立てなかった……。大和さんとも約束したのに……。すみません……」
 言葉を震わせながら、瞬平も涙を流していた。
「瞬平が謝ることじゃないよ。幼い頃からずっと辛かったけど、貴方に会えたおかげで、最後の最後に楽しい人生だったって思えた。たった二日間の触れ合いだったけど、私にとってはかけがえのない出来事だった。貴方のおかげよ、瞬平」
「栞さん……。でも……」
「私がファントムの動きを封じることができたのも、こうして最後に直接言葉を届けることができたのも、貴方の指輪のおかげ。貴方は約束どおり、私の力になってくれたわ。だから気を落とさないで」
「……」
 カナの笑顔を前に、瞬平は言葉が見つからなかった。
 何を言って良いのかわからない。
 ただ一つ、彼女の瞳を見つめることしかできなかった。
「あ、そうだ。瞬平に見てもらいたいものがあるの」
 突然、カナはそう言って話題を切り替えた。
「見て……もらいたいもの?」
「そう。この姿になったおかげかな? 今の私、ほんの少しだけ魔法が使えるみたいなの」
 カナは瞬平の頬から手を離すと、その手をそのまま瞬平の服のポケットの上に重ねた。
 すると、カナの手からポウっと小さな光が溢れ、光は粒となって弾けて消えた。
「栞さん……今のは?」
「フフッ。今は秘密。後でね……」
 カナは悪戯っぽく笑いながら、再び掌を瞬平の頬の上に乗せた。そして、ゆっくりと口元を瞬平の顔に近づけると——。
 カナの紅い唇が、瞬平の口をそっと塞いだ。
 重なり合う二人の唇。
 カナの思わぬ行動に、驚きの表情を浮かべる瞬平。
 唇から確かに伝わる暖かな感触を感じながら、瞬平はこの時理解した。
 きっとこのキスは、お別れの挨拶なんだ、と。
 カナは静かに唇を離すと、ポロポロと涙の粒を零しながらとびきりの笑顔を見せた。
「これで私も、本当の意味で魔法使いになれた気がする。貴方のおかげよ、瞬平」
「栞さん……」
「……もう、行かなくちゃ」
 カナは名残惜しそうにゆっくりと立ち上がると、一歩、また一歩と後退りを始めた。
「栞さ……可奈さん!! 行かないでください!!」
 瞬平は今出せる有りっ丈の声で叫んだ。
 いなくならないでほしい。
 ずっとそばにいていほしい。
 そんな想いを込めて、瞬平は叫んだ。
 叶うはずがないとわかっていながらも、叫ばずにはいられなかった。
「瞬平が最後にウィザードの背中を押してくれたおかげで、私は満足のいく終幕を迎えることができた。本当に……ありがとう! 瞬平、元気でね……」
 最後の言葉を告げながら、シオリ・カナはゆっくりと遠ざかっていく。
 やがて、その姿は真っ白い光の中に溶けるように消えていった。



 光が晴れた時、瞬平は元のヘリポートの上にいた。
 いつの間にか、あんなに酷かった雨は止み、雲の隙間からはカナの唇と同じ紅い色の夕日が顔を覗かせていた。
 しかし、瞬平は溢れる涙を堪えきれず、夕日を直視することはできなかった。
 沈黙が広がる荒れ果てた戦場跡に、すすり泣く声だけが聞こえてくる。
 死闘を終えた仮面ライダー達は無言のまま、ただひたすら仲間の涙が乾くのを待ち続けた。

九十四. 終幕の先1 ( No.102 )
日時: 2017/04/05 00:55
名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: gK3tU2qa)

 戦いは終焉を迎えた。
 凛子の要請により、重傷を負った瞬平はすぐさま病院に救急搬送され、激闘を演じた仮面ライダー達も戦いで受けた傷を治療するために一応の精密検査を受けることになった。
 しかし、フォーゼだけは申し出を断り、そそくさとワープドライブで一足先に帰っていった。
 実はフォーゼ——弦太朗は、大学の補習授業の真っ最中だったところを抜け出して駆けつけたのだった。
 一段落して急にそのことを思い出したフォーゼは、慌ててワープホールを開いてその中に飛び込んでいった。
 間際に友子とジェイクに「お前らも気をつけて帰れよ!」と律儀に言い残して。

 凛子の連絡を受けて駆けつけた国安ゼロ課の警官隊たちの手により、シオリ・カナが所有していたこの研究ラボ施設は即座に封鎖された。
 財団Xを知る貴重な手がかりになる可能性があるため、近いうちに内部調査が始まるとのことだった。

 病院にて戦傷の治療を受けた晴人、翔太郎、フィリップ、攻介。
 翔太郎とフィリップの二人はその後、翔太郎の「照井一人に風都を任せておくのは不安だ!」という主張を理由に、次の日の朝一にバイクを飛ばしてこの街を去って行った。



 二日後。
 休息や事情聴取等で前日はほぼ丸一日警察署の中に缶詰状態だったが、ようやくそれにも開放され、晴人や攻介、凛子に別れを告げた友子とジェイクは、帰りの電車の中に揺られていた。
「あぁ〜……しんどかったぁ〜。やっぱ俺、どうも警察の中は苦手だわ〜」
 座席の背凭れに脱力したように体重を預けながら、ジェイクはため息混じりに言った。
「あんまり褒められるようなこと、してないものね……」
 向かいの席で笑みを浮かべながら、皮肉を口にする友子。
 ジェイクとは対照的に友子は姿勢良く座り、膝の上には手さげ鞄が大事そうに置かれている。

 警察署に束縛されていた間、友子とジェイクは今回の事件の中で自分達が見て聴いたこと全てを凛子に説明し、さらには仮面ライダー部が関わった過去の事件——天ノ川学園高校のゾディアーツの件やSOLUを狙ったレム・カンナギの事件の情報を可能な範囲で提供した。

「……私、いつか本を出そうと思うの」
 車窓の景色を眺めながら、唐突に友子が切り出した。
「本って何? 友子ちゃん漫画家にでもなるの?」
 出発前に駅の売店で買ったお菓子を食べながら、ジェイクは素っ気なく言葉を返す。
「違う! そうじゃなくて……。シオリ・カナさんのことを知って思ったの。あの人の気持ちを、もっと多くの人に知ってもらいたいって……」
「まさか友子ちゃん、今回の事件をそのまま本にして儲けようってこと?」
「バカッ!」
 珍しく友子の怒号が飛んできた。
 驚いたジェイクは思わず肩をビクつかせる。
「いや、ゴメン! 冗談だから……」
 会話の腰を折るジェイクに不快な表情を浮かべながらも、友子は話を続けた。
「私、あの人の気持ちがわかるの……。魔法使いに憧れる気持ち……。私も同じように魔法や魔女に憧れていたことがあったから……。そして一度はその想いに振り回されてゾディアーツスイッチにも手を出しかけた……。でも、弦太朗さんや……仮面ライダー部の皆が私の気持ちを受け入れてくれたおかげで、私は過ちを犯さなかった……。シオリ・カナさんの周りにも、そういう理解者がもっと沢山いれば、あの人の運命もまた違ったのかなって……。だから、きっと世界中にいる、私やシオリ・カナさんと同じような気持ちを抱えている人達に、何かを伝えられるような、そんな本が書きたいの……」
「……へぇ〜。良いんじゃない? 友子ちゃんらしいって言うか、友子ちゃんだからこそって言うか……ピッタリだと思うよ」
 ジェイクのリアクションはとても軽いものではあったが、彼の言葉が上辺だけではないことを友子は知っていた。
 仮面ライダー部の部員同士、共に何度もピンチを潜り抜けてきた仲なのだから、それぐらい今となっては当たり前のように理解できる。
 きっと内心では、素直に感心してくれていることだろう。
「ちょっと。適当に聴いてるでしょ……」
 友子はムッとした表情を見せながらも、なんだか清清しい気持ちに駆られていた。
 車窓から見える空は青く、ビルの隙間から時折顔を覗かせる陽の光が二人の帰りを待ちわびているようだった。



 大門凛子は国安ゼロ課の木崎の下を訪れ、事件の顛末を報告していた。
「——以上が、私が知る限りの事件の真相です」
「……わかった。話を聞くだけだと何とも信じがたいことだが、大凡のことは理解した。ご苦労だったな、大門凛子」
「ありがとうございます」
 上司である木崎に労いの言葉をかけられた凛子は、嬉しそうに頭を下げた。
「それにしても、まさか我々の知らない時代から生き長らえたファントムがいるとはな。ファントムの殲滅は近いと思っていたが、どうやらとんだお門違いだったようだ」
 木崎はうんざりした面持で言いながら、熱いお茶を一口飲んだ。
「ええ。鳴海探偵事務所のフィリップ君の話によると、仁藤君の持つビーストの力が生み出された時と同じ時代から存在していたようですが……。仁藤君もそのことをもっと詳しく調べるために、ビーストのベルトが発掘された遺跡の再調査に向かったようです」
「そうか。鳴海探偵事務所からも、後日、今回の事件の詳細をまとめた調査報告書が送られてくるそうだ。これを機に、今後は捜査の協力も惜しまないと言ってくれた。これからは互いに情報を共有することも多くなるだろうな」
「頼もしい協力者ができましたね。紹介してくれた天高の二人に感謝しないと」
「まあな。シオリ・カナが利用していた研究施設の調査の進展も含めて、これからはファントムと財団X、両方の対応が必要になるだろう。今後、より一層忙しくなるぞ。覚悟しておけ」
「はいっ! 勿論です!」
 凛子は真っ直ぐな瞳で力強く返事をした。
「ところで……、操真晴人はどうしてる?」
 お茶をまた一口飲んでから、木崎は話題を切り替えた。
「晴人君ですか? 彼なら今、多分瞬平君のお見舞いに行ってると思いますよ」
「……そうか」
「どうかしました?」
「……いや、実は奴の耳に入れておきたい情報があってな……」
「入れておきたい情報……ですか?」
「……」
 木崎は唐突に表情を強張らせながら、少しの間沈黙した。
「木崎さん?」
「実は……、少し前に稲森真由から連絡があってな」
「真由ちゃん!? 真由ちゃん、どうしたんですか? 晴人君から聞いて、メデューサと戦っている最中に姿を消したことは知っていますけど……」
「彼女は無事だ。ただ、どうやら別の事件に巻き込まれているようでな」
「別の事件?」
「連絡があった時、何やら急いでいる様子だった。ろくに会話もできなかったが、一言だけ、メッセージを残していった」
「メッセージ? 一体どんな?」
「……“太陽から不死鳥が逃げた”」
 木崎が告げた真由の言葉を耳にした瞬間、凛子の表情が凍りついた。
 太陽に消えた不死鳥。
 凛子の脳裏に一人のファントムの姿が浮かび上がる。
 かつて、操真晴人——仮面ライダーウィザードに敗れた火の鳥。
 破壊の限りを尽くし、凛子自身の命までも危険に晒した凶暴な怪物。
 何度倒しても蘇る不死身の存在。
 ウィザードの必殺技を受けて太陽の中に送り込まれたはずなのになぜ?
 凛子は呼吸を乱しながら、木崎に向かってその“不死鳥”の名を口にした。
「その不死鳥ってまさか——」

九十五. 終幕の先2 ( No.103 )
日時: 2017/04/14 23:03
名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: XGjQjN8n)

 重傷を負った奈良瞬平は病院に入院していた。
 清潔感のある病室に置かれた真っ白いベッドの中で、上半身を起こした姿勢のまま、瞬平は一枚の黄色いハンカチを握り締めながら窓に映る景色をただぼんやりと見つめていた。
 緑色の木々が、風に吹かれてざわざわと音を立てながら揺れている。
 枝を離れて宙を舞う無数の葉っぱを無心の表情で眺めていると、不意にコンコンと扉を叩く音が聞こえてきた。
 視線を向けるとガチャリと扉が開き、隙間から一人の青年が顔を出した。
「よお! 大丈夫か? 瞬平」
「……晴人さん」
 病室に入ってきたのは操真晴人だった。
 晴人は見舞い品のフルーツバスケットを片手にベッドの傍まで歩み寄る。
「もう起きても大丈夫なのか?」
 フルーツバスケットをベッドに備え付けられたテーブルの上に置きながら、晴人は尋ねた。
「はい。おかげさまで……」
 ファントム・グレンデルの攻撃により、腹部に大きな穴を開けられた瞬平だったが、不思議なことに病院に搬送された頃には腹部の傷は完全に塞がっていた。
 それは恐らく、コズミックエナジーを取り込んだビーストの治癒魔法の効果の賜物なのだろう。
 傷跡を見た多くのドクターが言葉を失ったと聞く。
「そうか。その様子なら、もう大丈夫そうだな」
 一見安堵した表情を見せる晴人だったが、その脳裏には別の不安が過っていた。
 晴人は瞬平の身体よりも、心の方を心配していた。
 現に今の瞬平の表情からは、いつもの子供のような明るい笑顔は消え失せている。
 シオリ・カナを眼前で失った瞬平の、今の心境は——。
「晴人さん」
「ん?」
 出し抜けに瞬平が晴人に声を掛けた。
「栞さん——可奈さんの人生って、一体なんだったんですかね……?」
「……」
「あの人は本当は、“魔法使い”に憧れる優しい普通の女の子だったはずなんです……。それなのに、一人のファントムが……全てを狂わせた……。あのファントムが現れなければ、可奈さんは幸せな人生を送れたと思うんです……。正直、今でもあのファントムのことが憎くて堪りません……。でもそれ以上に、可奈さんを救えなかった自分が……、足手纏いにしかならなかった自分が……情けなくってしょうがないんです……」
 瞬平は悔しさに駆られた気持ちを表すように、手の中にある黄色いハンカチを力任せに握り潰した。
「あんまり自分を責めるなよ、瞬平。俺にだって、お前の気持ちは痛いほど良くわかる。俺もコヨミを救えなかった時、どんなに悔しい思いをしたか……。でもな、前に進むには、どんなに辛い今も受け入れるしかないんだ」
「辛い今を……受け入れる……」
「ああ。受け入れて、前に進んだ先に……きっと希望があるはずだ」
「希望……」
 晴人の言葉を受けた瞬平は、徐に黄色いハンカチに視線を移す。
 それは、シオリ・カナと過ごした楽しくも短い時の中で、彼女が手渡してくれたハンカチ。
 そのハンカチを両手で大きく広げてみると、メッセージが一言、確かに記されていた。

 “You are my wish(あなたは私の希望)”

 最初にこのハンカチを見たときにはこんな言葉は書かれていなかった。
 明らかに後から加えられたメッセージに、瞬平は心当たりを感じていた。
 ウィザードの攻撃にファントム・ラミアーが光に包まれた直後、真っ白い空間の中で再会したシオリ・カナが、「ほんの少しだけ魔法が使えるみたい」と言って服のポケットに掌を重ねていた。
 彼女が魔法をかけたのが、ポケットの中にあったこの黄色いハンカチだとしたら——。
「これは……可奈さんからの……言葉……」
「どうした瞬平?」
 広げたハンカチを見つめたまま硬直している瞬平の姿に、晴人は首を傾げる。
 少しの沈黙の後、瞬平はそっと口を開いた。
「晴人さん、僕、退院したらやりたいことがあるんです……」
「やりたいこと?」
「はい。お墓を——可奈さんが生きた証として、お墓を作ってあげたいと思うんです」
「……」
「可奈さんの人生はとても辛いものだったかもしれない。でも、確かにあの人はこの世界を生きて、存在していたんです。そのことを無かったことにしないためにも、生きた証——証明として、お墓を作ってあげたいんです。そして、可奈さんが生きたこの世界を守る手伝いを一生懸命果たしたい。……希望の魔法使いである晴人さんの弟子として、指輪職人の見習いとして……」
「……そうか。頼りにしてるぜ、瞬平。お前はもう、魔法使いの弟子としても、指輪職人としても一人前だよ」
「はいっ! ありがとうございます! 頑張りますっ!」
「まっ、指輪作りのほうは、実際は輪島のおっちゃんの太鼓判が必要だけどな」
 ベッドの上で張り切った様子を見せる瞬平に、晴人はからかうように言った。
「あぁ〜……そうでした。でも、輪島さんにも認めてもらえるように、全力で頑張ります!」
「ああ。その意気だ」
 ようやく瞬平の表情にいつもの笑顔が戻った。
 安心した晴人もまた、笑顔を返す。
「そうやって笑っている方がお前らしいよ、瞬平」

 数ヵ月後、瞬平の言葉通りシオリ・カナの墓が建てられた。
 海の見える丘に並ぶ二つの墓石。
 瞬平の要望により、カナの墓と共にヤマトの墓も建てられた。
 天国に行っても二人がまた一緒になれますようにと、願いを込めて。
 二人の墓石の傍には、二つの指輪が供えられていた。
 瞬平が作った魔法石の指輪。
 オレンジ色に輝くお揃いの指輪。
 二人の旅立ちを見送るように、指輪はいつまでも光り輝いていた。

エピローグ. 事後報告書 ( No.104 )
日時: 2017/04/15 00:21
名前: YU-KI ◆.FlbxpLDSk (ID: XGjQjN8n)

「……やはり、彼女の計画は上手くいかなかったようね」
 白い服に身を包んだ女性が、報告書に目を通しながら無表情に呟いた。
 広い会議室に女性が一人。
 詰襟の白いスーツを着た、首にストップウォッチをぶら下げたハーフ人——ネオン・ウルスランドだ。
 財団Xで局長を務める彼女が目にしていたのは、シオリ・カナが統率していた魔力応用型兵器開発部が行った計画——サクセサー開発計画の最終事後報告書だった。
 シオリ・カナが計画を進めるに至った経緯から結末まで、事細かに記されたそれを、ネオン・ウルスランドは一切の感情を表に出すことなく機械的に読み進めていた。
 最後まで読み終え、内容を全て把握したネオン・ウルスランドは、まるでゴミ捨てるかのように報告書をテーブルの上に放り投げた。
「まあいいわ。最初から彼女には期待はしていなかった。やはり魔法なんて不確定な要素は、我が財団の技術化には向いていなかったってことかしら」
 常に冷徹に徹するネオン・ウルスランドにとって、既にシオリ・カナの存在も彼女が築き上げた計画も、それが招いた結果すらも興味のないものに成り果てていた。
 成功しないもの、失敗したもの、結果の残せなかったもの、組織にとって利益にならないもの、それら全てがネオン・ウルスランドにとっては不必要な存在だった。
 彼女にとって大事なのは、組織の利益になるかどうか、組織が兵器利用するに値する技術かどうか、そして何よりも金になるかどうかだ。
 死の商人と称される財団Xにとって、商品になる可能性のある技術に不完全的要素は許されないのだ。
「それにしても驚いたわ。まさか、今回の一件の中で“あなた”だけが、生き残るとはね……」
 そう言いながら、ネオン・ウルスランドは徐に背後を振り返る。
 彼女の背後には、一人の男が腕組をしながら佇んでいた。
 筋肉質な巨体と腰まで伸びた長髪を後ろで束ねたポニーテールの男。
 ネオン・ウルスランドは相変わらずの無表情で男の名を口にした。
「サザル……」
 シオリ・カナが立ち上げた魔力応用型兵器開発部のメンバーであり、彼女の直属の部下だった男。
 その正体はファントム・グレンデルであり、シオリ・カナにとっては両親の仇だった男。
 最終決戦の中で仮面ライダーダブルに止めを刺されて爆死したはずの男が、なぜかこの会議室の中に姿を見せていた。
「まあな。“死んだふり”って奴が俺の得意技でね。こうして何度も死を偽って長い時の中を生き延びてきたのさ」
 サザルは組んだ腕を解きながら、してやったと言わんばかりに笑みを浮かべた。
「そう。あなたの正体がファントムだったことには驚いたけれど、あなたがどうやって生き延びたかなんて、私にとってはどうでもいい話よ」
「そうかい。相変わらずノリの悪い女だな」
「……それで? あなたはこれからどうするつもりなのかしら? 今後も財団の一員として働く? それとも……」
「ふん。組織の歯車になるのはこれ以上はゴメンだな。俺には俺のやりたいことがあるからな」
「やりたいこと? 念のために聞いておこうかしら」
「はっ。その報告書を見てとっくにご存知だろ? 俺の目的はファントムが支配する社会を作り上げることだ。“女帝”は失ったが、その目的は今も変わらねえ。次の計画の準備も既に始まっているからな」
「……つまり、財団にはもう未練はないと?」
「ああ、ないね。というより、最初からそんなもの持ち合わせてねえよ」
「そう。わかったわ……」
 ネオン・ウルスランドは冷徹な眼差しでサザルを睨みつけたまま、白服のポケットにスッと手を潜り込ませた。
 すぐに引き戻し、露になった手には、一つのあるアイテムが握り締められていた。
「ほう。そいつは?」
 それを目の当たりにしたサザルは、興味深そうな表情を浮かべる。
 ネオン・ウルスランドの手に握られているもの、それは表面にヒマワリの種の絵が描かれた不思議な南京錠型の物体——ロックシードだった。
「これは今、財団が投資を検討しているある企業が開発したモノ。様々な機能があるらしいけど、これを使えば異世界の怪物だって呼び出せる」
 そう言って、ネオン・ウルスランドはロックシードの側面のスイッチをスライドさせ、鍵を開錠させた。
 次の瞬間、空間に裂け目が生まれ、そこから一匹の灰色の怪物が飛び出してきた。
 全体的に丸みを帯びたフォルムの人間大の怪物は、一目散にサザルに襲い掛かっていく。
「おっと!」
 怪物が振るった一撃を、サザルは難無く回避する。
「財団の内部事情を知っている以上、あなたを生かしておくわけにはいかないの。死んでもらうわ」
 冷徹に言い放ったネオン・ウルスランドの意志を受けた怪物が、サザルに向かって再度攻撃を仕掛ける。
「面白い!」
 怪物の敵意に闘争心を刺激されたサザルは、思わず笑みを浮かべると一瞬にしてその姿をファントム・グレンデルのものへと変化させた。
 グレンデルは向かって来る灰色の怪物の頭部目掛けて鋭い爪を突き立てた。
 刹那、グレンデルの爪は怪物の頭皮を突き破り、血飛沫と共に脳みそをずるりと抉り出した。
「ギキャァアアアアア……」
 頭の内部をグチャグチャに破壊された怪物は、その場で断末魔を上げながら爆発した。
 再び人間の姿に戻ったサザルが爆煙の中から姿を見せる。
 その様子を、ネオン・ウルスランドは何事もなかったかのように無表情のまま見つめていた。
 会議室の中はグレンデルと灰色の怪物の戦闘により、随分と荒れ果ててしまっていた。
 綺麗に整頓されていたはずのテーブルや椅子は大きく乱れ、壁や床には怪物の不気味な色をした血液がベットリと広がっている。
 靴が汚れることも構わずに、サザルは血溜りの上を歩きながらゆっくりとネオン・ウルスランドの方へと近づいていく。
「なかなか面白い力だな。良い事を思いついたぜ。……なあ、あんた、俺と契約する気はねえか?」
「契約? どういうことかしら?」
「俺は組織に戻るつもりはねえ。だけど、ビジネスパートナーにならなっても良いって言ってるんだ」
「ビジネス? 今のあなたにビジネスするだけの力があるというのかしら?」
「ああ、あるぜ。既に俺の下には多くの同胞が集まりつつある。一個の組織として確立するほどにはな。それにさっき言ったように計画も準備している。後はそれらを円滑にする資金があれば、言うこと無しなんだが……」
「……財団の目に留まるほどの技術を、あなたに用意できるのかしら?」
「これでも長いこと財団Xにいたんだ。あんた達の評価基準はわかっているつもりだ。なあに、心配はいらねえ。ちょっとした協力が頂ければ、あんた達が思わず唸るような商品をご覧に入れてやるぜ」
「……」
 サザルの自信に満ち溢れた態度を前に、ネオン・ウルスランドは少しの間考えた。
 そして決心し、口を開いた。
「……いいでしょう。不安が取り除かれた訳ではないけど、あなた達“バケモノ”の実力、お手並み拝見しようじゃない」
「それはつまり?」
「契約してあげる。“バケモノ”の集まりに組織としての価値があるか心配だけど、投資してみましょう」
「そうか。良い返事が聞けて嬉しいぜ。これからは良きビジネスパートナーといこうじゃねえか」
 そう言って、サザルは右手を差し出し、握手を求めた。
 しかしその手は、灰色の怪物の血で真っ黒に染まっていた。
「……ええ。良い関係を築けることを願ってるわ」
 ネオン・ウルスランドは躊躇いなくサザルのその手を握り締めた。
 侵食するように、彼女の手もまた血の色に汚れていく。
 互いの腹を探り合うように、二人は暫くの間手を重ね続けた。

 希望が輝き続ける一方で、邪悪もまた、この血のように広がり、常に世界を黒く染め上げようとしている。
 物語は舞台を変え、更なる混戦を極めていく。


 完


 The next stage is 沢芽市


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