「知る・触れる」編 ~知るきっかけづくり~

【第10回】 演劇を、知っていますか? 

ご存じのとおりエンタテイメント、ドラマは、小説媒体だけで展開されているものではありません。
小説が高尚でそれ以外は三下というわけでもありませんしその逆も同様ですね。
ふつうの客にしてみれば本当に余暇を存分に楽しめ元気になれることが大事で、高尚か下劣かといった点はあまり気にしていません。

はるか昔から、市井の人々によってドラマ空間を作る作業が行われてきました。
演劇の強みは何と言っても「体温」「呼吸」「風」「匂い」といった、生きた人間(の魂)が今ここで躍動する姿を直接伝えることのできる点が筆頭にあげられます。

基本的に演劇は、オペラやオーケストラで使用されるような巨大な劇場ではあまり行われません。
声の反響や拡張ではなく、人間の地の声をリアルに生っぽく伝えたいという目的があるからです。
また下の動画URLのように『レビュー映像』になってしまうと、脚本意思は伝わるものの演劇の命である上記要素は完全に切り離され、舞台ならではの良さまではなかなか伝わりにくいようです。

舞台では、演者と観客の互いの熱が伝わる『距離』が、この上なく大事にされています。
どんなに有名になっても演劇人の矜持をもち小劇場にこだわりつづけておられる方々が多いです。

演劇というと、アングラ左翼的な癖のあるレッテルイメージがやや先行しがちですが、マス理論のみにしばられない、実にバラエティ豊かで示唆に富む作品が目白押しです。
有名どころを少しあげるだけでも、劇団新感線、ラッパ屋、大人計画、キャラメルボックス、流山児事務所、道学先生、双数姉妹、NODAMAP、青年座、文学座、ナイロン100℃、第三舞台、遊機械全自動シアター、猫のホテル、カクスコ、ロリータ男爵…等、上記以外にも物凄くたくさんあり、方向性も本当に様々ですね。

泣けるの笑えるの怒るの悲しいの、何万通りにもごったまぜです。
それぞれの劇団に、他では得難い強烈な魅力がありますね。
その時その瞬間に居合わせなければ、決して得られない感動というものが一体どんなものであるかは、こればかりは実際に芝居小屋に行って見ないとわかかりません。

1.「スタンプぺったん」(破壊ランナーから)

2.Heaven's Sign(大人計画)

3.蛮幽鬼(劇団新感線)

4.贋作・桜の森の満開の下 劇団夢の遊眠社

5.『伝説の初演 ミーアンドマイガール』(宝塚 月組)

6.流山児★事務所 『田園に死す』

小説を書いていく中でも苦戦しやすい要素の一つ「存在感」。何万回耳で説明を聞くよりも、生のプロ集団の芝居を1回見ると、きっと感じるものがあるはずです。また「スピード(テンポ)」これもまた、生の芝居を見れば、観客と演者間の心のかけひきも演出で絶妙に制御されているのが分かります。あるいは「構成」。椅子に座って見続ける観客の生理的な限界や集中力の途切れも補う、演出上の様々な仕掛けや創意工夫にも気づけます。

小説は、いかに非現実なファンタジー小説であろうとも、生身の人間から離れたところでは書けません。
また、読者も当然生身の人間です。小説を読んだり書いたりするそれ自体が現実世界から遊離しているのではなく、今を生きる人間の魂や心、行動、言葉が存在しているからこそ、書くことができるし伝わります。

いくら有名劇団の芝居でも、人によって合う合わないはもちろんありますが、まずは評判のよいお芝居をまずは何本か観てみると楽しいです。地方都市では観劇空間が少ないので観劇機会で不利ですが、東京や大阪などには芝居小屋がたくさんあります。公演はだいたい夜なので、家族旅行や出張のついでなどに足をのばしてみるのも一興ですね。

一切迷いがないなら、自分の理想とする小説をひたすらに書けばよいと思いますが、同じエンタテイメントを追究する人々の(それも非常に多くの観客の支持を長年得ている)姿や作品に触れることは、とても貴重で執筆にもプラスになる体験になります。国内だけに限らず、様々なエンタテイメント作品や形態に触れてみることは、有名小説を読むことと同様にきっと素晴らしい体験ができるでしょう。

小説を書ける人は、一方で、誰にも負けないくらい他のエンターテイメント作品を愛でる力も持っています。
どうか埋もれさせないで、人の温度を感じるために外に出かけましょう。決して時間の無駄にはなりません。
小説初心者は、売れるものをとやっきにならず、まずは世にあるエンターテイメント作品を愛でようとする温かい心を育てていきましょう。
貴方自身が温かい観客、読者になったその先に、自分が作りたい世界の姿がきっと見えてくるはずです。