小説の書き方 「技術」編~其ノ2

執筆をするにあたって、より具体的な技術を身につけましょう。「技術」編~其ノ1の続きです。

人物設定を掘り下げる

ストーリーの文章中に描くかどうかはさておき、できるかぎり詳しく頭の中に設定しておくといいでしょう。

  • 《例》
  • ・立ち居振る舞いは?…物事に対してどんな感情表現・行動タイプ?
  • ・癖はある?…どんな癖でどんなときにでる?
  • ・現在に至る生い立ちは?…たのしかったことや辛かったことは何?
  • ・この人物を大事に思っている人はいる?憎んでいる人は?…いつから?
  • ・どんな外見・声?…平凡、非凡?大柄、小柄?
  • ・大切にしているモノや主義は?…一つ?たくさん?どんなもの?
  • ・趣味、特技、悩み、職業、年齢、家族構成、…などなど

たくさん挙げていって人格をかたどっていきます。その人物を自分が動かすまでもなく、勝手に動いちゃいそうなくらいにまでイメージできたら、すごいです!設定がきっちりできると、人物Aと人物Bを同じ場所に引き合わせただけでも、ドラマがグングン動き始めますね。

人物設定の目的は、なによりも自分の、執筆における矛盾や忘却防止のためです。
読者に開示する目的ではないということを、1つ覚えておきましょう。


設定情報の抽出とタイミング

長編にしてもいいくらい設定を作りこんでいた場合、どうしても情報を随所につめこみたくなってしまいますね。
けれど、短編の場合などは特に、設定情報から絞りこみを行いましょう。
今回のストーリーに関係していかない不要な情報は、基本的には書かない、ということです。

<例>16才のカキオは、実は3歳から私立クラブに入っててサッカーがめちゃくちゃうまい設定だが、今回の小説本筋にあまり関係しない情報だ⇒「これは省こう」

<例>16才のカキオは、実は幼い頃行方不明になった父親の安否をずっと気にしていた。今回の本編に関わる一つの伏線で必要だから⇒「これは書く必要があるな」

大きな土台となるストーリーに、直接または間接的にかかわっていくネタを、タイミングよく小出しにしていきましょう。
そのストーリーにどれだけ関係するかによっても、書くべきタイミングや情報量は異なっていきますね。


人物の立ち位置に応じた適切なボリュームを割こう

ぜんぜん本編に関係してない雑魚キャラに、執拗なまでに描写しすぎると、相対的に主要なキャラが霞みます。読者にもこの人主要なキャラなの?と誤解を与えてしまいます。ノリや勢いだけで執筆していると、このようなことが起こりがちです。

たんなるサブキャラクターのつもりで登場させて書いていたら、強烈なキャラクターになっちゃった、作者もノッてきちゃったから「本編と関係ないけど、いいやこのまま書いちゃえ!」と流すのはあまり良い手とはいえません。気づいているのなら、面白くても外しましょう。本編の面白さと別編の面白さとは異なります。本編の流れを断つほどの面白さならばよけいに、読者を混乱させてしまいます。

「主要人物並みにくわしく描写する必要がない」「思いのほか楽しいキャラクターや場面ができたけど、作品バランスを壊しそう」と予想できるものは、本編終了後にするか、別編にしましょう。意外とできていなかったりもする要素なので、エゴ暴走しはじめる自分に『気づいた』なら、早いうちに戒めましょうね。エゴに対して負けグセがついてしまいます……。※主要人物が大勢いたり、タペストリーのように各登場人物のストーリー上の重みが等しい「群像劇」を目指す場合などは除きます


場面設定を掘り下げる

またストーリーを支えるうえで、そのキャラクターや設定でなくてはいけない、必要不可欠な根拠をきっちり固めてみましょう。

  • 《例》
  • ・性別、年齢、外見の設定はそのストーリーにふさわしいか?
  • ・場所、天候、日時等はその場面に適切か?

詳細な場面設定をすることは、執筆イメージを固めるうえで必要な作業なのですが、人物と同じで必ずしもその設定全部を『文章化』してしまう(本文中に書く)必要はありません。


読者がどんなふうに「引っかかって」ほしいか考える

たとえば読者に『どうして悪魔になったのか?を知りたい!』と思ってもらうように書きたい、と考えたとします。
ここでは、あるシーンの文章全体を100%としますね。

  • 《例》
  • ・「おりゃー!こんだけ書いたらさすがに気になるだろ方式」(悪魔関連描写…99%)
    悪魔の描写をとにかく書きまくり、読者の頭のなかに悪魔の姿態を詳しくイメージしてもらう方法
  • ・「チラ見せだから…イイ!方式」(悪魔関連描写…1%)
    ともかくすごいやり合いの後やその最中に、悪魔の姿態をほんの一瞬だけ見せるという方法

どっちの方法が客観的に良い悪いの話ではないです。
執筆しようとする話の流れによってどちらがより効果的かを考え、そのつど使い分けてください。もう一つ『血が赤い』ということを印象づけたい、と考えたとします。貴方ならどのように描きますか?

  • 《例》
  • 傷口から大量に、ビューッとふきだす
  • ポタリと1滴、白い紙の上にしたたる
  • トマトジュースかと思って間違って飲んだら血
  • 視界が真っ赤になってきて気絶
  • 日本国旗の赤丸
  • 夕日かと思ったら血

1次的には、どうしても感覚的な判断になりますから、まずは自分が良し!と思った描写方法を選んでください。
何度も何度も、飽きるほどこうした判断をかさねていくことで、自分らしい表現方法が生まれてきたりもしますね。
より多くの読者様が、一番自然な流れでハラハラわくわくして狙い通りに伏線に引っかかってもらうために、どのようにそのシーンを魅せますか?


「自分が読者ならこう描写されると悪魔のことが気になるわー」というような『自分なりの判断基準』をしっかり形成していくことは、とても立派な訓練です。