「推敲」編2

読点<とうてん>(、)の検証

「推敲」編1で使った、例【3】を使用して考えます。
まずは句点(。)だけつけて、読点(、)をまったく入れない状態はどうでしょう。

【例】実に20年がかりでまとめあげた研究報告書を7人の研究員が政府に提出した。

一切読点がないと意味のまとまりを少し見つけにくくなります。
このくらいのボリュームなら大したことはないのですが、一文が長くなるほど読点が重要になってきます。
なぜなら、長文の終わり(句点。)までたどり着く前に読むのをあきらめ投げ出す読み手が増えることを、読点が防いでくれるからです。 上の例文に読点<とうてん>(、)を1つだけ使用してみましょう。

【例】実に20年がかりでまとめあげた研究報告書を、7人の研究員が政府に提出した。

読点(、)が1つついただけで、意味のまとまりを先ほどよりも見つけやすくなりました。
読点は文章を読みやすくするためのものであることがわかります。


読点の数を変えてみる

さらにもうちょっと読点を増やしてみます。

【例】実に20年がかりでまとめあげた研究報告書を、7人の研究員が、政府に提出した。

またちょっと印象が変わりました。だんだんテンポがゆっくりになり、言葉をとめる印象が強くなっていきます。
読みやすくなりましたか?読みにくくなりましたか?

普段なにげなく使用する読点ですが、文章を読解するうえで大変重要な役割を果たしています。
読点をその作品にとって「ちょうどいい」数やタイミングで使えるようになりたいですね。
読点の使い方が上手い人の作品は、たとえ難解な語彙をつかっていてもスイスイ読めて理解もしやすいようです。
もっと読点を入れてみるとどうなるでしょうか。

【例】実に、20年がかりで、まとめあげた、研究報告書を、7人の、研究員が、政府に、提出した。

ここまで読点が増えてしまうと、言葉よりもむしろ読点の数の多さに意識が集中してしまいますね。
読点は、意味のまとまりごとに打つことが必要で、使い過ぎると逆に言葉の意味が伝わりにくくなる、といえます。


読点の位置を変えてみる

では、意味のまとまりと異なる位置に、読点を1つ入れてみるとどうなるでしょう。

【例】実に20年がかりでまとめ、あげた研究報告書を7人の研究員が政府に提出した。

読点を1つしか使っていないので「使い過ぎ」ではありません。
しかし、使う位置が悪いために、読み手に「『あげた』って何だ…?」という変な謎を与えてしまいます。
さらに、意味のまとまりを無視したまま読点を増やすとどうなるでしょうか。

【例】実に20年がかり、でまとめ、あげた研究報告書を7人の、研究員が政府に提出、した。

ロボットがショートした…などの状況でもないかぎり、なかなか理解しづらい文章が出来上がりました。
読点それ自体は一見さりげない存在でありながら、文章構造そのものを破壊しかねない力も持ち合わせる文章作成上の「裏ラスボス」といえるかもしれませんね。こうして見てみると、読みやすい文章の(すべてではありませんが)1つの特徴として、意味が理解しやすい順序で配置され、適度に読点が打たれていることだといえるでしょう。


読点のおさらい

読点は使うと読みやすくなる一方で、使いどころを誤ると読みづらくもなる、という特徴を覚えておくといいですね。
読点のたびに読者はそこでグッと立ち止まります。車や自転車の「ブレーキ」と考えるとイメージしやすいかもしれません。
句読点がブレーキなら、言葉は「アクセル」でしょうか。さいわい小説の世界には時速制限はありませんので「その作品らしさ」が最も生きてくるスピード・リズムで読者が読み進められるよう、読みやすさの調整(読点の数や位置の検証)をしてみてくださいね。※言葉の「アクセル」については、また別の編で説明しますね。