ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- あやかし荘 完結しました
- 日時: 2010/11/14 12:00
- 名前: アキラ (ID: STEmBwbT)
- 参照: http://www.youtube.com/watch?v=0V8-_hj3bcc
.
眠たがりですが、お付き合いくださいませ。
イメソン 紅一葉
urlにて。
用語説明>>103
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35
- Re: あやかし荘 ( No.121 )
- 日時: 2010/11/07 09:45
- 名前: アキラ (ID: STEmBwbT)
姫斗の事は徐々に明らかになっていくと思われます!
ちなみに、森の主はまんま名前が森の主です笑
>水妖さん
声も幼女です笑 ちなみに、性別は無いです。 女の子の姿ってだけで。
だから喋り方もおじいさん風です
>時雨さん
- Re: あやかし荘 ( No.122 )
- 日時: 2010/11/07 10:56
- 名前: アキラ (ID: STEmBwbT)
.
夜の空は澄んでいて、星が大きく一際輝いて見える。
姫斗は上半身を起こし、まじまじと森の主を見た。
「なんじゃ、そち。 ワシをジロジロと。 見世物ではないぞ」
「………ご、ごめんなさい」
外見が幼いため、敬語を使う事が少し不思議な気もする。
そして姫斗は、先ほど対峙した鬼倫を思い出し、不安げに辺りを見回す。
「ああ、鬼のぼうやか。 アレならもう去ったぞ。 ワシの森で妖気を漂わせるとは……いい度胸じゃのう」
森の主が忌々しそうな表情をする。
鼻をひくつかせ、匂いを嗅ぎ、 「血の匂いがしてたまらんわ」 吐き捨てるように言った。
「あの人……、私のお母さんを殺したかもしれない。 直接ではなくとも、半妖たちに……っ」
「妖怪共から聞いておる。 里深優香。 次期里深家の当主だと言われた人の子じゃろ? ……ああ、お主はその女の子供か───」
そこまで言って。
急に言葉が止まった森の主を、不思議そうに姫斗が見ている。
「ああいや、なんでもない。 ……ああ、そういう事か。 ふむ、なるほどな。 驚きはしない」
「えっと……どうしたんですか?」
「いやいや。 ちょいと、懐かしい人を思い出していただけじゃ」
言って。
森の主はそっと姫斗の頭を撫でた。 小さな子供をあやす様に。 そしてそれは、人から見れば不思議な光景だった。
「何してるんですか……?」
「いいじゃろ、別に。 ワシの方が長生きしとんじゃから。 ──にしても、なぜ主が夜に一人で出歩いておる。 この山は影妖もいるのじゃから危険じゃぞ」
暗くなった姫斗の表情に、森の主には大体の予想はついたのか、
「妖怪が、怖くなったか?」
静かに聞いた。
姫斗は無言で頷く。
「それは仕方ないのう。 母が死に、ましてや共に住む者が半妖となれば」
「林太郎さんたちの事、知ってるんですか?」
「知ってるも何も、伊月をあやしたのはワシじゃ」
「伊月?」
姫斗が身を乗り出す。
三人の過去など、彼らの口から聞いた事もなかったため、興味、好奇心が沸いた。
「あやつは随分虐げられたらしいのう。 濡れ雑巾のようにワシの森に倒れておったが」
「倒れて……?」
「なんでも、半妖のせいで里親に酷い目にあわされとったらしいぞ。 林太郎を見た時も、ひどく怯えておったからの」
当時の事を思い出しながら、森の主は嬉しそうに語った。
半妖である伊月が、森の主である自分に向かって、その力で襲ってきた事。 それを軽々と退けて、森の主は伊月を糸目荘に連れて言った事。
想い出話として語っていたのだが、不意に姫斗を見ると、
「うおぃ!?」
何故か泣いていた。
「ワシ、なんか変な事言ったかの? 泣くな、里深の子。 ワシが悪かったならこの通りじゃし──」
「──どうしよう……」
姫斗は、ボロボロ泣きながらしゃっくりあげる。
「私……、酷い事言っちゃった……っ。 半妖が怖いからって、みんなに……っ。 妖怪のみんなにも、林太郎さんたちにも、酷い事言っちゃった……っ」
嫌いだと、言ってしまった。
優香があれほど、妖怪にも良い妖怪がいると、教えてくれたのに。
「どうしよう。 みんな良い人ばかりなのに、私はみんなの事が、大好きなのに……っ」
いつも一緒に過ごしている三人の笑った顔がうかぶ。
林太郎の爆笑した顔、伊月の照れているけどはにかんだような笑顔、明弥の優しい微笑み。
里深神社で見えていた妖怪たちの姿に、おもわず笑ってしまった事もある。
必死で姫斗に姿を見られないように、慌てて隠れる妖怪たち。
「絶対、嫌われちゃった……っ。 もう嫌われちゃったよ……」
「──その心配は、なさそうじゃの」
森の主の言葉に、姫斗が顔をあげる。
そして、そこにいたのは。
- Re: あやかし荘 ( No.123 )
- 日時: 2010/11/07 12:41
- 名前: アキラ (ID: STEmBwbT)
.
「なにメソメソ泣いてんだよ」
目の前にいたのは、ムスッとした顔の林太郎だった。
どこか恥ずかしげに、 「ん」 と右手を差し出してくる。
「…………え?」
「ガキを慰めるのは、得意じゃねんだよ。 バーカ」
口調は悪いが、明らかに心配している。
髪と着物は乱れ、下駄の鼻緒も切れたのか、裸足だった。
「林太郎さ……』「一人だけイイ所見せるのは、ズルじゃないの?」
林太郎の後ろから、明弥が顔を出す。 いつもの優しげな笑みでそっと姫斗を見据える。
二人の間に割って入った伊月も、諦め顔で姫斗を見ている。
「みんな……」
「ほら、帰るぞ。 腹減ったんだし」
一瞬、その手を握るのに躊躇った。
だけど。
「ごめんなさい」
手を掴むと、あたたかくて。
また泣きだしてしまって、その胸に抱かれたとき。 震えていたはずの体が、嘘みたいにおさまった。
安心、していた。
──男の人の、匂いだ。
──林太郎さんの匂い……だ。
「もうちっと早く来れなかったもんかのう。 ナイト失格じゃろう」
「うわっ、森のババア」
伊月が思わず口を開く。 森の主はそれを見逃さず、勢いよく伊月を睨みつけ、
「このあまちょん野郎がっっ!!」
蹴りつけた。
しかし、伊月の方が体格的に大きく、差が十分あるため、簡単に森の主をひっぺがえす。
「アンタ、本当に行動パターンに変わりないよな」
「このあまちょん! ワシが貴様を介抱したのじゃっ! もうちっと労わらんか。 それにワシは女ではないわっ、なんじゃババアとは!」
「姿が女なんだからいいだろうが」
いつもあまり喋らない伊月が、森の主に反抗している。 兄妹のような光景に、思わず涙も止まってしまう。
「姫斗、お前なんか……昼より髪、伸びてねぇか?」
「え?」
気づかなかったが、確かに。
もともと腰まである髪が、腰以上にまでなっている。 あと少ししたら、地面にまで届きそうだ。
「あら……、知らなかった」
「結べ。 もしくは切れ! なんか鬱陶しいわっ」
「わかりましたよ」 「アンタの着物の執着心がよっぽど鬱陶しいよ」
文句を言っている林太郎も、その林太郎につっこみを入れる明弥もいつも通りだった。
「あ、そうじゃ。 里深の子。 お前に渡しておきたいものがある」
そう言って、森の主が手渡したのは、一冊の日記帳だった。
手にとり、姫斗が不思議そうに見つめる。
「これは?」
「それは、昔この田舎町をワシと共に束ねた、女鬼の日記帳じゃ」
「鬼の──」
見ると、日記帳の裏に名前が記載されている。
「梅雪?」
キレイな筆記体の字で書かれた、『梅雪』 という名前。
先ほど、森の主が言っていた、『辰美』 と 『梅雪』。
二人の、鬼。
そして、鬼倫。
ページを開けてみる。
そこに書かれていたのは──、
梅雪という鬼が愛した、三匹の鬼の話だった。
- Re: あやかし荘 ( No.124 )
- 日時: 2010/11/07 14:49
- 名前: アキラ (ID: STEmBwbT)
.
第7の書
『 』
♪
第2児として生まれたのは、女の子だった。
外の空気の冷たさに産声をあげた時、感動して涙が出そうになった。
二回目の出産だけど、いつまでたってもこの喜びは母親にだけしか分からないだろう。
──あれから。
そう、二人目の鬼の子が生まれて、10年。
梅雪は自分の膝の上で眠っている愛娘を眺めていた。
とても愛らしい、可愛い我が子。
そっと撫でると、寝返りを打って膝から頭を落としそうになる。
「……そろそろ足が疲れちゃったわ、亜鬼」
「んー」
亜鬼と名付けられた鬼の少女は、うっすらと目を開け、コロリと膝から頭を落とした。
寝返りを打ち、微笑む。
「おはよう、母さま」
「もうお昼です。 亜鬼は本当によく寝るんだから」
「父さまが、よく寝る子は大きくなるって言ったのよ」
そう言い、藍色の浴衣の裾を摘まんだ。
亜鬼はふと、客室を見て、
「兄さまは?」
「鬼倫は、午前中から見てないの。 どこ行ったのかしらね。 最近しょっちゅう隠れてコソコソしてるから、心配だわ」
ここ数日、亜鬼の6歳年上の兄である鬼倫の行動がおかしかった。
夜になっても帰ってこなかったり、顔を見合わせても無視をしたり。
「難しいお年頃ね。 反抗期かな?」
「ハンコーキ……。 母さま、兄さまと喧嘩しているの?」
「いやだ、違うわよ。 大人になったら誰もに訪れることだから。 亜鬼にもよ」
「私にも?」
まだ10歳の彼女にとって、反抗期という言葉はそう程遠くない言葉だったが、今の亜鬼には必要なさそうだ。
「そのうちにね。 あら、いらっしゃったわ」
梅雪が何かに気づき、笑顔になる。
亜鬼もその方向を見て、
「父さまっ、里深おじさんっ」
やってきた二人の男に笑顔を向けた。
一人は、鬼の若頭であり、妖怪をまとめる総大将である、辰美。
もう一人は、人間の中で最も妖怪と関わりのある、里深神社の神主、里深奏だった。
「遅かったわね」
「森の主がなかなか承諾してくれなかった。 まったく、あの人も若いながら幼い容姿だから、言葉遣いに手間取ったよ」
明るい口調でそう言った辰美は、駆け寄ってきた亜鬼の頭を撫でる。
辰美の大きな手。
「亜鬼ちゃん、大きくなったなぁ」
「里深のおじさん、私ね、いっぱい寝てるから大きくなったんだよっ」
「そうかそうか。 亜鬼ちゃんはえらいの」
10歳にしては幼い性格の亜鬼。 奏にとっては、孫のような存在だった。
「………梅雪。 鬼倫はどこ」
「ああ、鬼倫は……まだ、帰ってきてないの」
「まだ? ──何してんだ、アイツ」
不運な影が胸を覆う。
親として、鬼としての、不安。
「今日の夜帰ってくると手紙があったのだけど」
「そうか。 ──約束は守る奴だから、まあいいが……。 あんまり遊んでたら、説教だな」
「辰美に言われたくはないと思うわ」
若い頃は散々遊びまわっていた辰美を知っている梅雪は苦い顔をするが、天真爛漫に彼は笑う。
「男は遊び方を忘れちゃいけねーよ」
- Re: あやかし荘 ( No.125 )
- 日時: 2010/11/07 15:32
- 名前: アキラ (ID: STEmBwbT)
.
その夜。
鬼の屋敷に奏を招き、辰美は酒を用意した。
「人間とは、オレらも分かち合いたいと思ってる」
「私もだ。 だけど、反論している妖怪もいるんだろう?」
その言葉に、辰美は顔を曇らせる。
実際、人間との共存に、不安やいら立ちを感じている妖怪も少なくない。
「まあ、分かってくれるさ。 あいつらなら」
「そうですよ、里深さん」
屋敷に住みこみで働く妖怪たちが、気さくに奏に話しかける。
「きっと、ワシら上手くやっていけますよ!」
「里深さんの言うとおり、良い人間もいますからっ」
妖怪と人間の共存に胸を膨らませる。
きっと、大丈夫だ。
と、その時。
「彼」 は、屋敷に帰ってきた。
それに最初に気づいたのは、辰美だった。
「鬼倫」
息子の名前を呼ぶ。 縁側に、鬼倫がいた。
手には日本刀を持ち、灯りでそれに血がついているのが分かる。
「どうした、怪我したのか?」
辰美が近寄る。 他の妖怪たちも心配そうに見ていた。
辰美の手が、鬼倫の肩に触れる。
「おつまみ、用意できたわよ」
梅雪が襖をあけたのと、辰美が斬られたのが同時だった。
血が噴き出し、辰美が倒れる。
それを、無表情に見つめる鬼倫。
「辰美っっ!!」
突然のことに、梅雪が手からお盆を落とし、辰美に駆け寄る。 奏は立ち上がり、冷静に傍に居た妖怪に告げた。
「即刻知らせろ。 “裏切り者” が出たと!」
「りょ、了解しましたっ」
妖怪はスゥッと消え、そして。
少し離れた山奥で、森の主は呟やいた。
「“裏切り者”は──、鬼倫じゃったか」
鬼倫の突然の襲撃により、辰美が斬られた。
「くっそ……、鬼倫ァァァッッ!! 」
辰美が覚醒し、鬼の姿となる。 角が生え、瞳が紅く燃えたぎる。 低く唸り声をあげ、牙を光らせた。
軽く腕を振り下ろすと、突風が巻き起こる。
「奏さん、梅雪。 ここはオレが何とかすっから、亜鬼を頼んだ!」
「でもっ、辰美!」
「行けっ。 奴、かなり喰ってやがるっ」
それを聞き、梅雪は涙を流しながら走った。
廊下を走って、走って。 亜鬼の寝ている和室へと。
「梅雪さま、我らもお供いたします」
「我らが辰美さまの元へ残っても、足手まといになるだけでござんすからっ」
「……ありがとう」
お礼を言ったものの、梅雪は苦しかった。
鬼倫が辰美を斬ったという事実を、受け入れられなかった。
だけど。
──しっかりしなさい、梅雪。
──あなたは、妖怪の若頭の妻なのだから!
自分で自分を励まし、走る。
「亜鬼っ!」 「母さま、なにかうるさい……」
目をこすっている亜鬼を見て、梅雪は安堵する。
強く強く抱きしめた。 亜鬼は震えている母親を不思議そうに眺めている。
「……かあ、さま?」
「──奏さん、亜鬼を連れて逃げて下さい」
そう言われ、戸惑ったのは奏だった。
「そんな事できるわけがない! 第一、辰美さんに叱られますっ!」
「私はっ、この妖怪若頭の妻です! こんな所で死にもしないし、やすやす息子に殺される事もないっ!」
ハッキリ言い切り、梅雪の軽く亜鬼の額を撫でた。
「かあさま 「亜鬼、私も辰美もあなたを愛してる。 本当よ? だから、ねえ。 お願いだから……あなたも人を愛せる子になってね」
耳元で囁かれる言葉。 コトバ。
突如、物凄い音がして窓ガラスが割れた。
「奏さん、早く!」
「亜鬼ちゃん、こっちだっ」
「や………だ、かあさっ! だって」
亜鬼が見たのは、
「にいさまが……、怖いよ」
後ろで日本刀を振り下ろそうとする、鬼倫の姿だった。
梅雪はそれに気づき、腰にしまっていた小太刀を抜き、間一髪でその一撃を喰いとめる。
「鬼倫……ッ」 「母上、父上の次はあなただ。 その身、喰らわしてもらいます」
紅く目を光らせる鬼倫。 殺意が、伝わってくる。
「奏さんっ、早く! 亜鬼を連れて!」
「亜鬼ちゃん、早くするんだっ」
しかし、亜鬼は動こうとしなかった。
見てしまった。
鬼倫の後ろで倒れている、無残に殺された、辰美の──父親の首を。
「あ、あああっ、あああ あ ああああああ ああ」
震える体を抑えながら、嘔吐する亜鬼。
血、だった。 初めて感じた、血の匂い。 色。 感触。
見ていられず、梅雪は小太刀を捨て、亜鬼を抱きしめ、その額にある紋章を描いた。
「もう、会う事もないわ」
言って。
亜鬼がそっと気を失う。 その体を半ば強引に奏に押し付けた。
「行ってちょうだい」
亜鬼を抱きかかえ、暗闇の中を行く。
「逃がしたか。 ──まあいい。 どうせ後から追い付く。 それより、戦線で刀を放りだすとは、間抜けなですね。 母上」
鬼倫の冷たい声にも挑発されず、梅雪は捨てた小太刀をもう一度握りしめる。
鬼同士の、戦い。
他の妖怪が入る隙など、なかった。
「来なさい、鬼倫。 あなたを殺します」
「………母上らしくないですね。 息子のオレに、刀を向けられるんですか?」
「なめないでください、鬼倫。 あなたはもう、息子ではない」
たち切った縁はもう二度と、修復される事はないだろう。
それでも梅雪は構わなかった。
今彼女を突き動かすのは──怒りだった。
「だあああああああああああああああああああっ」
『 』
鬼倫と亜鬼はとても仲がいいです。
できれば、この幸せがずっと続きますように。
まあ、でも。
鬼倫は今反抗期だし、ちょっと不安かしら。
それでも私は、鬼倫も辰美も亜鬼も、とても愛してる。
明日は、辰美と奏さんが帰ってくる。
夜には鬼倫も帰ってくるので、みんなでお酒を飲みましょう。
亜鬼は、寝ちゃっていると思うけど。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35