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- あやかし荘 完結しました
- 日時: 2010/11/14 12:00
- 名前: アキラ (ID: STEmBwbT)
- 参照: http://www.youtube.com/watch?v=0V8-_hj3bcc
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眠たがりですが、お付き合いくださいませ。
イメソン 紅一葉
urlにて。
用語説明>>103
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- Re: あやかし荘 ( No.156 )
- 日時: 2010/11/13 09:28
- 名前: アキラ (ID: STEmBwbT)
- 参照: http://yaplog.jp/akirahayate/
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♪
姫斗が目を覚まし、鬼として覚醒したころ──、
「……まずいのう」
森の中で転寝していた森の主は、ゆっくりと口を開いた。
辺りは夕暮れで、仄かにオレンジ色に染まっている。
「妖気がダダ漏れじゃい、鬼の娘」
本当は姫斗と初めて会った時から、彼女の正体に気づいていた。
鬼倫襲撃の時、自分はその現場をきちんと目にしてきた。 しかし、亜鬼の行方だけは追う事ができなかった。
──あそこでワシが梅雪に力をかしていたら、鬼倫は滅んだか?
時々、そうふと思う時がある。
しかし、それはただの思いすごしだと気づく。
あの時、例え自分が梅雪と共に鬼倫と戦っても、絶対に勝てない。
鬼同士の本気の殺し合いに、ただの森の護り主が出向いても、何の役にも立たないだけだ。
「……妖気が、薄まったか」
先ほどまで感じていた、鬼倫とは別の鬼の妖気がおさまった。
しかし───、
「もう遅いのう。 きっと、彼奴等は気付いたぞ。 鬼がここにいると」
♪
「行こうか」
遠くから漂ってきた鬼の妖気に、鬼倫が気づいた。
その表情は、とても恍惚としている。
鬼倫の膝の上で泣いていた千登里も、顔をあげた。
「いつまでも泣いてちゃダメだよ、千登里。 もうすぐそこまで、彼女は───亜鬼はいる」
『……でも、翡翠がっ』
姫斗によって殺され、灰になった翡翠を思い出す。
「大丈夫。 彼の死は無駄じゃない。 あの子が鬼として覚醒したんだから。 オレも、見つけやすくなった」
そう言って。
鬼倫は千登里の頭を軽く撫でて、
「──妹に、会いに行かなきゃね」
- Re: あやかし荘 ( No.157 )
- 日時: 2010/11/13 09:55
- 名前: アキラ (ID: STEmBwbT)
- 参照: http://yaplog.jp/akirahayate/
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『 優香の記憶 』
わかっていた。
この子はいつか、“鬼” としての本能を思い出し、また戦場に返って行くのだと。
わかっていた。
アタシの手から放れて行って、妖怪の王として君臨するのだと。
わかっていた。
この子にとって、あの最悪で災厄の鬼は、血の繋がった家族なのだと──。
だからこそ、アタシは騙し続けた。
何も知らない事を良いことに、6年も。
人間としてのあなたは成長して、アタシの背くらいにまで大きくなった。
後々、あなたが “鬼” としての自分を思いだすことを知りながら、アタシは───、
「護ってね、あの子を」
そう言うと、林太郎は変な顔をした。
「アタシがいなくなっても、あの子を護って」
「……縁起でもねぇコト言うなよ、気持ち悪い」
「本気よ」
きっと、あの子は立ち向かえる。
彼らと一緒なら。
「最初で最後の、お願いなの」
林太郎、気づかないで。
アタシが今、震えていることに。
そして───、
あの子が、“鬼” であるということに。
♪
「……姫斗が鬼?」
体中に包帯を巻いた林太郎が、紅い目をした姫斗をじっと見た。
明弥も一瞬驚いたが、全てを理解した様子でそれ以上何も言わなかった。
「……ごめんなさい」
顔を見る事ができず、俯く姫斗。
その手には、しっかりと梅雪の日記を持っている。
「里深のじっちゃんは知ってんのか?」
「知ってると思う……」
確証はないが、里深の人間は知っているだろうと思った。
鬼倫も言っていた。
鬼は、里深家にいると。
「お前は……どこまで覚えてんの」
「──全部。 亜鬼としての記憶も、鬼としての本能も、力も」
そして、人間として育ったこれまでの事も。
だから、苦しい。 余計に。
せめて、どちらかの記憶が欠如していたなら、自分は亜鬼と姫斗の間で苦しまなくても良かったのに。
「それで私、決意したの」
「──何を?」
記憶が戻った今、姫斗にはやらなければならない事があった。
「兄さまを……鬼倫を、討つ」
自分は見てきた。 鬼倫によって無残に殺された両親の姿を。
転がった辰美の首、そこに残った梅雪。
──奏さんにも会いたいけど……もう亡くなってるか。
当時の里深神社の神主である奏を思いだす。
自分を抱き上げ、逃げてくれた。 助けてくれた。
「鬼倫は、許せない。 絶対に仇を討つ」
「お前、待てよ。 覚醒してまだ日も明けてねぇだろ。 それでも行くのかよ」
「行くよ」
キッパリと、姫斗───亜鬼は言い切った。
もう迷いはなかった。
「一人でも、行く」 「でも、姫斗──」
自分を呼んだ伊月を、亜鬼はそっと拒んだ。
「私は、亜鬼なの。 姫斗じゃない」
「…………っ」
伊月が泣きそうな顔をする。
亜鬼は磨かれた林太郎の日本刀を持ち、
「必ず、返しに来ますから」
そう約束した。
日は傾き、辺りは暗くなる。
「待ちなよ」
呼びとめたのは、明弥だった。
「女の子一人で行かせるのなんて、ナンセンスでしょ」
「まあ……それもそうだな。 目、キレイって言ってくれたしよ」
「明弥……伊月……」
「そこの不貞腐れ屋さんは? どうするの」
明弥に言われ、林太郎が苦い顔をする。
傷は、塞がっていない。 未だに、痛みも続いてる。
だけど──。
「しゃーないな。 ガキ三人の面倒押しつけられてんのオレだしい? なんかお転婆娘もしゃしゃりでてるし〜」
立ち上がり、羽織りを纏い、林太郎は笑う。
「ここは、大人のオレがいっちょ絞めてやりましょか」
涙が出そうになるのを堪えながら、姫斗も笑う。
「ありがとう」
- Re: あやかし荘 ( No.158 )
- 日時: 2010/11/13 10:15
- 名前: 水妖 (ID: 8hgpVngW)
皆、かっこいいですっ
林太郎、素直に行くって言えばいいのに(笑)
- Re: あやかし荘 ( No.159 )
- 日時: 2010/11/13 10:55
- 名前: アキラ (ID: STEmBwbT)
- 参照: http://yaplog.jp/akirahayate/
いつまでも素直じゃない林太郎です笑
ラストまで頑張ります!
- Re: あやかし荘 ( No.160 )
- 日時: 2010/11/13 12:44
- 名前: アキラ (ID: STEmBwbT)
- 参照: http://yaplog.jp/akirahayate/
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辰美と梅雪は、望んでいなかったはずだ。
自分の子供たちが対峙する事を。
こんな形で亜鬼が記憶を取り戻し、鬼として覚醒し、鬼倫と再会する事を。
望んでいなかったはずなのに。
目の前に、鬼倫はいた。
「驚いたな……何時ぞやの人の子か。 ああ、確かに梅雪に顔がそっくりだ」
「──あなたも、そっくりだよ」
鬼倫の隣に千登里がいた。 ジロリと亜鬼を見て、舌うちをする。
半妖化しており、殺意が妖気と共に伝わってくる。
「千登里、離れていなよ。 覚醒した直後とはいえ、アレは鬼だ。 鬼同士の喧嘩の時に近くにいると、怪我するよ」
「喧嘩じゃない。 殺し合いだよ」
亜鬼が言い切った。
それを聞いて、鬼倫は嬉しそうに笑う。
「嬉しいな。 オレと殺し合うっていうんだ。 人間に慣れ染めいた鬼風情が」
その笑みにほんのりと狂喜が浮かぶ。
「姫斗……っ」 『お前らはここでずっと見てるの』
千登里は三人の前に立ちふさがる。
すると、半妖が数匹現れた。 虎のような姿だが、黒い影を纏っている。
『翡翠を殺したあの女は鬼倫が殺してくれる。 おかしいったら!』
「………このくそったれ」
感情的になった伊月が、千登里に殴りかかろうとした。 しかし、半妖に遮られてしまう。
「な……っ」 『ダメだよ考えなしに来ちゃあ。 理性は無いとはいえ、血に飢えたケモノだよ? 喰い殺されるよ〜』
「狐火っ」
林太郎の不意打ちの狐火で、千登里の着物の裾が少しだけ縮れた。
「あんましゃしゃりでるなよ、ガキがっ」
『……カッチーンときたよ、今』
横目で千登里たちを見ながら、鬼倫がほくそ笑む。
亜鬼は刀を抜刀し、距離を置く。
「なにがそんなに楽しいの?」
「……汚らわしい人間と妖怪の混じり合いがどこまでやれるか───楽しくはないか?」
「最低だね」
聞きたかった事がある。
どうしても分からなかった事がある。
どうして。
「どうして、お母さんたちを殺したの」
「──キミの言うお母さんって、どちらのこと?」
「梅雪さんのほうだよ」
記憶では、鬼倫も最初から殺人鬼じゃなかった。
変わってしまったのは、そう。 途中から。
「辰美のやり方に不満があったんだよ」
「やり方?」
「人間と親しくなろうってやり方だよ。 誇らしき鬼の血をなんだと思ってる。 オレだって、人間の女と婚約されそうになっていたんだ」
汚らわしそうに顔をしかめて。
「だから、純血であるキミを喰うのは、少し気が引けるな。 そうなると、鬼はオレ一人になるから」
寂しいなと、付け足した。
亜鬼は心を揺るがさないよう努力をしながら、両親を殺した動悸に怒りを爆発させた。
「それだけの事で殺さなくても良かったのに。 なにもあんな惨い殺し方しなくても良かったのにっ」
「──鬼は心臓を突き刺ささないとなかなか死なないんだよ」
鬼倫の言葉に、亜鬼は一瞬泣きそうな顔になった。
それは、この手で鬼倫を殺すためには、惨く残酷に刃を突き刺さないといけないわけで。
「もう、ここで終わりにする」
何百年も月日は流れた。
今、ここで。
「あなたを斬る」
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