複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- さぁ 正義はどっち ? 参照13600ありがとう御座います!
- 日時: 2016/08/23 00:57
- 名前: メルマーク (ID: KzMBmi6F)
戦争と平和は正反対のものと考える人が多い世の中
それは本当なの?正義って何?悪って何?
答えが見つからないなら探せば良い。
多分異色な今までにない、正義についてのお話し。
答えはありませんが、きっと終わった後 何が正解か思い浮かぶはず。
時代は古きよき時代、中世頃にしようかと
オリキャラ募集一応締め切らせていただきます!
終章にもうじき突入予定なので‥・もしかしたらまた募集するかも・・・?
名前
性別
年齢
容姿
A国B国どちらの味方?(国名は長いので省略
性格
武器
サンボイ「」
職業は?下から選択下になければ新職業を書いてくれるとうれしいです
騎士 傭兵 盗賊 貴族 海賊 海軍 王室(王族をのぞく外交官・メイド・執事・王族のいとこ)関連
占い師 科学者(錬金術師) 芸術家 哲学者 商人 国民 旅人 魔法使い など
武器や変わった特徴などの要望も即採用です
結構な確率で”死ぬケース”もあるのでご了承ください!!
◇目次◆
王国ルート001 >>5 帝国ルート001 >>43
王国ルート002 >>15 帝国ルート002 >>49
王国ルート003 >>20 帝国ルート003 >>50
王国ルート004 >>23 帝国ルート004 >>54
王国ルート005 >>31 帝国ルート005 >>63
王国ルート006 >>66 帝国ルート006 >>81
王国ルート007 >>67 帝国ルート007 >>83
王国ルート008 >>68 帝国ルート008 >>90
王国ルート009 >>71 帝国ルート009 >>91
王国ルート010 >>74 帝国ルート010 >>93
王国ルート011 >>101 帝国ルート011 >>114
王国ルート012 >>103 帝国ルート012 >>117
王国ルート013 >>106 帝国ルート013 >>118
王国ルート014 >>108 帝国ルート014 >>120
王国ルート015 >>110 帝国ルート015 >>122
王国ルート016 >>123 帝国ルート016 >>183
王国ルート017 >>127 帝国ルート017 >>184
王国ルート018 >>133 帝国ルート018 >>187
王国ルート019 >>142 帝国ルート019 >>191
王国ルート020 >>144 帝国ルート020 >>193
王国ルート021 >>194 帝国ルート021 >>207
王国ルート022 >>197 帝国ルート022 >>208
王国ルート023 >>200 帝国ルート023 >>209
王国ルート024 >>203 帝国ルート024 >>210
王国ルート025 >>204 帝国ルート025 >>212
王国ルート026 >>214 帝国ルート026 >>232
王国ルート027 >>217 帝国ルート027 >>238
王国ルート028 >>219 帝国ルート028 >>239
王国ルート029 >>223 帝国ルート029 >>246
王国ルート030 >>224 帝国ルート030 >>258
王国ルート031 >>286 帝国ルート031 >>298
王国ルート032 >>287 帝国ルート032 >>304
王国ルート033 >>288 帝国ルート033 >>309
王国ルート034 >>292 帝国ルート034 >>312
王国ルート035 >>295 帝国ルート035 >>314
王国ルート036 >>317 帝国ルート036 >>329
王国ルート037 >>319 帝国ルート037 >>331
王国ルート038 >>321 帝国ルート038 >>334
王国ルート039 >>325 帝国ルート039 >>335
王国ルート040 >>326 帝国ルート040 >>336
王国ルート041 >>340 帝国ルート041 >>372
王国ルート042 >>347 帝国ルート042 >>375
王国ルート043 >>352 帝国ルート043 >>378
王国ルート044 >>353 帝国ルート044 >>382
王国ルート045 >>357 帝国ルート045 >>386
王国ルート046 >>387 帝国ルート046 >>399
王国ルート047 >>390 帝国ルート047 >>402
王国ルート048 >>393 帝国ルート048 >>407
王国ルート049 >>395 帝国ルート049 >>408
王国ルート050 >>398 帝国ルート050 >>409
王国ルート051 >>425 帝国ルート051 >>431
王国ルート052 >>426 帝国ルート052 >>433
王国ルート053 >>428 帝国ルート053 >>434
王国ルート054 >>429 帝国ルート054 >>436
王国ルート055 >>430 帝国ルート055 >>437
王国ルート056 >>442 帝国ルート056 >>450
王国ルート057 >>443 帝国ルート057 >>451
王国ルート058 >>446 帝国ルート058 >>453
王国ルート059 >>447 帝国ルート059 >>454
王国ルート060 >>449 帝国ルート060 >>461
王国ルート061 >>462 帝国ルート061 >>471
王国ルート062 >>465 帝国ルート062 >>472
王国ルート063 >>466 帝国ルート063 >>476
王国ルート064 >>467 帝国ルート064 >>477
王国ルート065 >>468 帝国ルート065 >>480
王国ルート066 >>482 帝国ルート066 >>492
王国ルート067 >>483 帝国ルート067 >>493
王国ルート068 >>487 帝国ルート068 >>495
王国ルート069 >>488 帝国ルート069 >>496
王国ルート070 >>489 帝国ルート070 >>499
王国ルート071 >>504 帝国ルート071 >>516
王国ルート072 >>506 帝国ルート072 >>517
王国ルート073 >>507 帝国ルート073 >>520
王国ルート074 >>509 帝国ルート074 >>521
王国ルート075 >>510 帝国ルート075 >>525
王国ルート076 >>528 帝国ルート076 >>539
王国ルート077 >>533 帝国ルート077 >>543
王国ルート078 >>534 帝国ルート078 >>545
王国ルート079 >>537 帝国ルート079 >>547
王国ルート080 >>538 帝国ルート080 >>548
王国ルート081 >>551 帝国ルート081 >>560
王国ルート082 >>552 帝国ルート082 >>562
王国ルート083 >>553 帝国ルート083 >>563
王国ルート084 >>557 帝国ルート084 >>564
王国ルート085 >>558 帝国ルート085 >>566
王国ルート086 >>571
王国ルート087 >>574
王国ルート088 >>575
王国ルート089 >>578
王国ルート090 >>579
◇カメルリング王国味方
>>2 ルーク 主人公
>>1 ミルフィーユ 発明家・美食家・資産家
>>4 キリエ 牧師・哲学者
>>16 ノイアー 傭兵
>>25 ラグ 執事
>>28 サイト 商人
>>29 リグレット 僧侶
>>39 ツバキ 軍人
>>55 ユニート 魔導師
>>58 ラルス 騎士
>>58 リリー 暗殺者
>>75 ジョレス 傭兵
>>78 フランチェスカ 王女
>>87 ハニー 妖精
>>99 シラン 術士
>>221 カルマ 学者・錬金術師・魔術師
>>289 フランキール 王子
>>440 シュバルツ 海賊
>>457 リレーナ 竜騎士
◆ミカイロウィッチ帝国味方
>>14 エドウィン 主人公
>>6 ヴィトリアル 盗賊
>>11 アーリィ 魔女
>>12 ゼルフ 黒騎士
>>12 リン メイド
>>27 シフォン 貴族騎士
>>30 イヴ 術士
>>37 ウィンデル 大道芸人
>>59 クウヤ 剣士
>>60 ツヴァイ 科学者(薬学)
>>76 ミレア 傭兵
>>78 シェリル 皇女
>>85 ディルム 精霊
>>96 ライヤ 偵察兵
>>98 セイリーン ドッペルゲンガー
>>278 レイ 魔女
>>305 故)フィア 魔女の弟子
>>305 故)キオ 魔女の弟子
◎味方につかない者
>>163 ソーサラー(呼称) 占星術師・幻術師
>>163 スキンヘッドハゲ(呼称) 盗賊
>>227 ヨメナイヤツ アドバイザー
キャラ応募してくださった皆様心よりお礼申し上げます!素敵なキャラをありがとう!!
◇番外編◆
参照四桁祝
・イヌ派ネコ派の王国日常 >>146
・絶対に信じちゃいけない言葉で帝国日常 >>150
・執事採用試験 >>156
・団長の足取り >>157-158>>160
・ある幻術師の思い出 >>162>>164>>170>>173>>175>>176
参照二千祝
・とあるメイドの追走劇 >>248>>254>>257>>260
・傭兵の黒と従者の白 >>263>>264>>269>>272>>274>>280>>281>>282>>283
参照三千&四千祝
・魔法使いの弟子 >>360>>363>>364>>367-368
・帝国サイド盗賊団と加担者でチビキャラ全員集合イラスト >>371
参照4500祝
・王国・番外ルートで抜粋チビキャラ集合イラスト >>404
銀賞&殿堂入り祝
・メイドと騎士と仲介人 >>415>>417-418>>421>>423
参照5000祝
参照6000祝
参照7000祝
金賞祝
参照8000祝
参照9000祝
参照10000祝!
参照11000祝!!
参照12000&13000祝!!!
保留
どんどん保留祝が増えて行っている…本編終わったら一気に大感謝祭とかやりたいなぁ、なんて考えてます
・・・業務連絡・・・
2014の冬の小説大会で銀賞もらえました!ありがとうございます!
2015の夏の小説大会で金賞もらえました!!ありがとうございますっっ!
参照5000祝いと6000祝、7000祝、8000祝9000祝そして10000祝。11000祝はのちほど…ッ!
時間軸まとめ >>234
- さぁ 正義はどっち ? 参照7200ありがとう御座います! ( No.514 )
- 日時: 2015/09/13 11:57
- 名前: コッコ (ID: hF19FRKd)
メルマークさん
金賞おめでとうございます。最近更新がありませんが応援してます。
- さぁ 正義はどっち ? 参照7600ありがとう御座います! ( No.515 )
- 日時: 2015/09/17 13:47
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: A1qYrOra)
?!
金賞・・・?
パソコンがぶっ壊れている間に何があったんだ?!
端末でも確認してなくて完全放置をしてたので…
と、とにかくとにかく、ありがとうございます!!!!
嬉しいです!
今まで書いてきた別の作品なんかは途中で飽きてしまってやめてしまうのがほとんどだったんですけど、
今回はオリキャラを初めて貰ったってのもあって、自分でもラストまでの道筋が読めない楽しさがあり実に面白いです
例えるなら途中でピースが増えていくパズルをやっている気分ですね!楽しいです。
もうちょいと続きそうですが、よろしければお付き合いいただけたら、嬉しいです。
最後になりましたが、参照7600の方もありがとうございます!
- さぁ 正義はどっち ? 参照7600ありがとう御座います! ( No.516 )
- 日時: 2015/09/20 03:20
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)
ミカイロウィッチ帝国ルート 071
茜色の空とおそろいの色に染まった海が、船の舳先に当たって砕け散る。船のへりから身を乗り出せば、その芸術的な瞬間を見ることが出来るが、あいにくとしゃがみ込んで一心に吐き気をこらえるウィンデルにはその光景を楽しむことが出来ないでいた。
「あと三十分もしたらつくからな。それまでの辛抱だぜ?」
「……」
あと三十分もあるの、というように無言で青ざめながら項垂れるウィンデルに、ヴィトリアルがやれやれと首を振る。
「夕飯は食えないだろうが、ここに置いとくぞ」
手にした皿をウィンデルの背後に置くと、ヴィトリアルは簡易夕食をぱくつきながら甲板に座り込み、ライヤの眺望報告書を眺めだす。
その向こう側ではアーリィが同じように本を読んでおり、顔をしかめながら小首を振っている。王国から盗んできた治癒の魔導書らしいが、魔法使いであるにもかかわらず彼女には読めないらしい。
「……っ」
視線を海から上げたことで吐き気がこみ上げ、慌てて口元を押さえ、そこでまた悲しそうに目を潤ませた。
口元を抑えるウィンデルの両手からは、彼のトレードマークである愛らしいパペットが二つとも失われていた。
吐き気と悲しみでうるんだ目を紅色に染まった帆に向けると、そこに風を受けて膨らむ帆と並び、じっとりと湿った犬と三毛猫のパペットが風に重そうに揺れている。
小一時間ほど前だろうか、おびただしい血と手術の生々しい様子を聞かされこみ上げた吐き気が船酔いと合併して、ウィンデルは船の舳先にしがみついて必死に吐き気をこらえていた。
運悪く昼食をとった直後であり、胃が船の振動で揺れるたびに目を閉じてしゃがみ込み、力の抜けた手でヘリを掴む。
その時、うねるような波が叩きつけるようにウィンデルに降りかかり、咄嗟に突き出した両手から滑り取るようにパペットが海へと攫われた。
近場の乗組員が網で救い上げてくれたものの、海水をすったパペットはきつく絞られた上でピンで止められる羽目となり、湿った潮風にあおられながら乾く当てのないまま一応干されている。
「そんなに気持ち悪いなら、アンタ、睡眠薬か何かもらって到着するまで眠ってたら?」
いつもの無邪気な微笑みを一切消して無表情でパペットを見上げるウィンデルに、アーリィが魔導書を閉じてしゃべりかける。
「……」
「…なんか喋んなさいよ」
しかしウィンデルが口元を押さえながら無言でアーリィを見つめ返す為、アーリィがむっとして頬を膨らませる。
「無駄だぜ」その光景にヴィトリアルも本を閉じ、半笑いを浮かべながら胡坐をかいた。
「ウィンデルはパペット外すと喋んなくなるんだよ。最初皇女サマから聞いて冗談かと思ってたが、ホントらしいな」
「何よそれ」
しげしげとウィンデルを眺めるヴィトリアルにアーリィが食って掛かるが、ヴィトリアルが口を開く前に話題の張本人であるウィンデルが無言のままよろめく足取りで船室に入り込んだ。
よろめく足取りで船室を覗き込むと、それぞれが暗くなったため灯されたカンテラの明かりに照らされて、各々の場所にたたずんでいた。
王国から攫ってきたフランチェスカ王女は部屋の隅で相変わらず微笑んでいる。
腹部に刺し傷を負ったリンは膿切除の手術後、腹部を縫われたと聞いていたが様子を見る限り無事成功したように見える。
出血のせいで顔色は悪いが、傷口の化膿が収まったことで熱が引き、寝息が穏やかになっている。
「添え木もこれで平気だし、痛み止めも服用したし、あとは打撲した箇所をこのまま冷却し続ければ腫れも内出血も減るよ」
そのベッドの足元で足を投げ出してクウヤの手当ての最終確認をするツヴァイが、白衣のポケットを探りソラマメ程度の錠剤カプセルを取り出した。
「なんだそれ?」
疑い深そうに目を細めるクウヤが、添え木された手首をかばいながらそのカプセルを眺める。
「造血幹細胞活性剤だよ。飲めば貧血も治るよ」
冷たい海水の入った酒瓶で兄の打撲した腹部を冷却していたイヴが疑いの目を向けているが、ツヴァイは気にせずにクウヤに開発した新薬を薦めている。
「……」
全然気づてくれない彼らにしびれを切らし、ウィンデルは彼らのもとに歩み寄り無言のまま彼らの側にしゃがみ込んだ。
「あぁ、ウィンデル…どした?」
薬を飲みかけたクウヤが手を止めて声を掛けると、ツヴァイがむっとしてさっさと服用するように促す。
「早く飲んでよ。たぶん安全だから」
「たぶん……?」
イヴが眉をひそめてつぶやき、クウヤが妹が俺の心配をしてくれている!と嬉しそうにしているのを横目に、ウィンデルは口を閉ざしたままツヴァイの白衣を引っ張った。
それを「危ない薬を人に勧めるの止めなよ」という意味にとらえたツヴァイが君もボクにケチ付けるのか、とうんざりしたように目をくるりと回した。
「これは骨髄に作用して血液を造るように促す反応を引き起こすように作ったんだ。クウヤでの人体じっけ—…治療が成功したらリンにも服用できるし」
別にそういうことが言いたかったわけじゃないのに、と困惑した顔のウィンデルは肩をすくめて見せた。
「兄さん…飲むの…?あと三十分もしないうちにエディかレイに治療してもらえるのに…?」
「いやもうイヴに心配してもらえるなら俺はこの薬いくつでも飲むぞ。どうせやばい薬品だったとしても魔術で治療してもらえるし」
感無量と言いたげに薬を飲み込んだ。
「それでウィンデル、何の用があるんだ?」
「……」
実の妹に心配されただけで危険な薬品を丸呑みするような人物を目の当たりにして、ウィンデルはパペットを装着していないため呆れた顔をして目を細めた。
「パペット、ないけどどうしたの…?」
どうせまずい事態になっても魔術での治療で治る、という事実に妙に納得したのかすでに兄の心配をやめたイヴの言葉に、ウィンデルは頷きつつも思わず声を出さずに笑ってしまった。
「なんか寡黙だね。ひょっとして喉でも痛めたの?薬、いる?」
黙って笑うウィンデルに、早くもポケットに手を突っ込んで薬品を探し始めたツヴァイが声を掛ける。
慌てて要らないよ、と首を振って断った瞬間、気が紛れておさまっていた船酔いがまた鎌首をもたげ、ウィンデルは真っ青になりながら深呼吸を繰り返して吐き気をこらえた。
その時最後の大揺れのあと、ゆっくりと船の揺れが静かになった。
続いて乱暴に扉が開き、船長がナポレオン帽を押さえつけながら怒鳴りこんだ。
「おい起きろ!さっさとしねぇと海水ぶちまけるぞ!ミカイロウィッチ宮殿に着いたぜ!」
- さぁ 正義はどっち ? 参照7700ありがとう御座います! ( No.517 )
- 日時: 2015/09/29 20:54
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: A1qYrOra)
ミカイロウィッチ帝国ルート072
船から飛び降りるとすぐ、盗賊団たちは怪我人を従えたまま拷問部屋の奥へと急いだ。
リンの横たわる担架を絨毯の上におろすと、ヴィトリアルとアーリィはいくつもある扉のうち一つに手を掛けた。その扉は、盗賊団アジトと皇族の住まう最上階とを結ぶたった一つの階段通路である。
「俺たちは皇族サマんとこに報告に行くから、怪我人の手当てとか頼んだぜ」
「怪我人を診てて…」戦利品である王女を連れて出て行った二人の背中を見送ると、イヴが兄を肘掛椅子に座らせながら辺りを見回す。
「私…探してくる…」
「……」
イヴが立ち上がると、ウィンデルがその服の裾を素手で急いで握りしめてイヴを振り向かせた。
ぼくも探す、とドアと自分の顔を指差しイヴに伝えると、イヴはためらうそぶりを見せた。
湿ったパペットを両手で抱え込み、上目遣いで小首をかしげる仕草をすると、しばらく迷った後イヴも無言で頷いた。
「ウィンデルおま—」俺の妹に媚び売ってんじゃねぇ!と青筋を浮かべながら叫びかけたクウヤを無視するように、イヴはウィンデルを連れてさっさと出ていく。
「あーうるさい。鎮静剤でも飲む?」
迷惑そうに耳を塞ぎながら、ツヴァイも扉の一つに手を掛けた。拷問部屋へと続く扉を開け、クウヤをぞっとさせたが手にして帰ってきたのは鎮静剤と痛み止めだけだった。
もっともそれが安全かどうかは疑わしいけどな、と内心呟きながら、お菓子でもかじるように手渡された薬を口に放り込んだ。
できるだけニヤついた顔を見ないようにしながら、クウヤはシランと師匠の事を再び思い返した。
(王女が手に入った今、帝国は圧倒的に有利なはずだ。さっさと停戦条約かなにか結ばせて、シランと師匠を探しに行かないと…)
やっと消息を掴めたのだ。これを逃したらもう二度と機械は廻ってこないかもしれない。
薬の副作用化軽いめまいを覚えながら、腹部をかばう様にして椅子にもたれかかり、いつになれば願いが叶うのかと、もう何百度目かのこの問いを逡巡した。
「あら、やっと帰ってきたのね」
謁見の間の扉が開かれるとすぐ、シェリルが玉座の上から声を投げた。
退屈し切っていたところにおもちゃが転がり込んできたかのように、口元に笑みを浮かべている。その隣では帝王が押し黙ったまま彼らにじっと眼を注いでいる。
「いろいろと報告することがあるんですが…まぁ、一番気になるだろう戦利品から」
団長であるヴィトリアルが、フランチェスカを引っ張り歩かせ、玉座にさらに近づいた。
相変わらずの王女は微笑みを浮かべている。
「まさしくカメルリングの次女であるな…」
「この人があのフランチェスカ王女、ね」
閉じた瞳に生えそろう長いまつ毛や、腰に流れる薄茶色の髪に至るまで、人間であることを疑いたくなるほどの美貌に帝王でもさすがに感心したように唸る。目をつぶり微笑む彼女は、人形遣いが特別にこしらえた上等の等身大の人形に見える。
「直接話がしてみたいわ。言いたことが山ほどあるのよ、同じ立場の人間としてね」
同じ立場、と言いつつも小馬鹿にするような笑みを唇に浮かべるシェリル。その目にはなぜだか苛立ちできらめいている。
「それで、例の幻術師と魔導書、魔法剣の方はどうなったのかしら」
フランチェスカから興味を亡くしたように肩肘をつき、大きなリボンを揺らしながら報告をしなさい、と促すシェリル。
帝王も視界の端にフランチェスカを捕えるものの、敵国である王国の情報の方が勝ったようだった。
アーリィとヴィトリアルが顔を見合わせていったん頷き合うと、アーリィは謁見の間の扉に手を掛けた。怪訝そうにチビ魔女に視線を送りつつ、皇族達は黙ったままその様子を眺める。
「まずこれを」
その言葉でアーリィを追いかけていた視線が、ヴィトリアルの差し出した分厚い歴史書に注がれる。
その歴史書の正体は帝王もシェリルも百も承知のようで早速受け取るが、開いたまま渡されたそのページに視線を落とすと、解せないという様にぽつりとつぶやいた。
「…なにかしら」
時間が経過して酸化し黒ずんではいるが、それが血で描かれたものだとは見るに難くない。
しかしなぜそんなものが付着しているのかと、説明を求めているらしい。
「それはライヤの遺言ととってもいいくらいの情報が記されてる。その血絵文字のバケモノも、その一つ。アイツが—」
アーリィが扉から出て行った様子を横目で見ながら、ヴィトリアルはこれまでの事—王国の晩餐会の夜、樹海で迫ってきたバケモノ、ライヤの犠牲、王国にいるらしき小型のバケモノ—を説明しようと口を開く。
「あいつ等が帰ってくる前に説明を終えた方が混乱も防げるでしょうね。俺たちが帝国に帰ってくる間に起きたことは—」
謁見の途中で扉から出て来たアーリィを見て、扉の警護についていた近衛兵は困惑したような表情をした。深い緑の髪を腰まで流したその女兵はシェリルの護衛を任されているということで、名前は知らなかったが顔は何度か見たことがある。
しかしそれ以上の関係ではないため、アーリィとその女兵士は無言のまま目をそらし合った。
展望台の様に開けた見晴らしの良い窓ガラスに両手を張り合わせると、ルビーのように赤い瞳をきょろきょろと動かし目当ての物を探す。
おそらく探されていることを本能でキャッチしたのだろう、鱗を月に濡らしてうねるように夜空の奥からこちらへと、優雅に羽ばたきながらセイリーンがやってきた。
「なっ?!」
窓から巣に顔を押し付けているアーリィをひそかに眺めていたのだろう、女近衛兵がセイリーンを発見して驚きに声を上げた。
「心配ないわよ。あれはアタシの使い魔なんだから」
セイリーンにそのまま飛び続けるように指図すると、アーリィは再び謁見の間の扉を開く。
女近衛兵は扉が開いたままに保たれても、驚愕と困惑とで一瞬思考停止していた為、無作法を注意することが出来ずにいた。
「そう、それでライヤがこれを…」扉を開けるとちょうど要約した説明が終盤に差し掛かるところらしかった。開け放たれた謁見の間の扉へちらりと目を走らせる皇族は、少しぎょっとした顔をしたが叫びはしなかった。
「あれが例のバケモノとやらか」険しい顔をしながら国王が顎をしきりにこする。
焦った時や困惑した時によくする癖であり、さすがのシェリルも目を細めてどうしたものかと頭を悩ませているようだった。
「とにかく、王女が無事さらえてよかったわ」珍しく焦りを感じさせる口調でシェリルが顎でフランチェスカを差し、考えをまとめようと床に目を落とした。
「樹海で襲ってきたバケモノと、王国にいたバケモノ、きっと何か関連があったはずよ。… ライヤの事は残念ね。とても優秀に役目を果たしてくれたわ」
ため息を混ぜながら玉座を飛び降り、シェリルは靴音を響かせながら小型のバケモノをよく見ようと鞭を片手に窓ガラスに詰め寄った。
人好きのセイリーンでさえ一瞬たじろぐようなもの欲しそうな目で、じっくりと値踏みするように眺めるシェリルは、突然笑顔のまま床に鞭を叩きつける。
「シェリル様!どうなさったんです!」
絨毯が切り裂かれ、近衛兵がびっくりしたように声を上ずらせて尋ねるが、シェリルは笑顔のまま目をセイリーンから離さない。
そしてくるりと振り返ると、何事もなかったように鈴のなるような声で命令を飛ばす。
「治療はそろそろ終わった頃でしょう?早く王女フランチェスカと会話がしたいわ。ライヤがいないのなら、このお客さまに尋ねるしかないわ」
「はいはい、おおせのとおりに」
俺はもうコイツの相手すんのやだぜ、と言いたげにアーリィと目を合わせると、ヴィトリアルはアジトに向かって歩き出した。
- さぁ 正義はどっち ? 参照7700ありがとう御座います! ( No.518 )
- 日時: 2015/09/29 21:14
- 名前: コッコ (ID: jmwU8QL1)
帝国側の人たち無事に帰れましたね。ワイバーンの存在でシェリルが焦った姿を見たのは驚きました。これからも頑張っください。
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