複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- さぁ 正義はどっち ? 参照13600ありがとう御座います!
- 日時: 2016/08/23 00:57
- 名前: メルマーク (ID: KzMBmi6F)
戦争と平和は正反対のものと考える人が多い世の中
それは本当なの?正義って何?悪って何?
答えが見つからないなら探せば良い。
多分異色な今までにない、正義についてのお話し。
答えはありませんが、きっと終わった後 何が正解か思い浮かぶはず。
時代は古きよき時代、中世頃にしようかと
オリキャラ募集一応締め切らせていただきます!
終章にもうじき突入予定なので‥・もしかしたらまた募集するかも・・・?
名前
性別
年齢
容姿
A国B国どちらの味方?(国名は長いので省略
性格
武器
サンボイ「」
職業は?下から選択下になければ新職業を書いてくれるとうれしいです
騎士 傭兵 盗賊 貴族 海賊 海軍 王室(王族をのぞく外交官・メイド・執事・王族のいとこ)関連
占い師 科学者(錬金術師) 芸術家 哲学者 商人 国民 旅人 魔法使い など
武器や変わった特徴などの要望も即採用です
結構な確率で”死ぬケース”もあるのでご了承ください!!
◇目次◆
王国ルート001 >>5 帝国ルート001 >>43
王国ルート002 >>15 帝国ルート002 >>49
王国ルート003 >>20 帝国ルート003 >>50
王国ルート004 >>23 帝国ルート004 >>54
王国ルート005 >>31 帝国ルート005 >>63
王国ルート006 >>66 帝国ルート006 >>81
王国ルート007 >>67 帝国ルート007 >>83
王国ルート008 >>68 帝国ルート008 >>90
王国ルート009 >>71 帝国ルート009 >>91
王国ルート010 >>74 帝国ルート010 >>93
王国ルート011 >>101 帝国ルート011 >>114
王国ルート012 >>103 帝国ルート012 >>117
王国ルート013 >>106 帝国ルート013 >>118
王国ルート014 >>108 帝国ルート014 >>120
王国ルート015 >>110 帝国ルート015 >>122
王国ルート016 >>123 帝国ルート016 >>183
王国ルート017 >>127 帝国ルート017 >>184
王国ルート018 >>133 帝国ルート018 >>187
王国ルート019 >>142 帝国ルート019 >>191
王国ルート020 >>144 帝国ルート020 >>193
王国ルート021 >>194 帝国ルート021 >>207
王国ルート022 >>197 帝国ルート022 >>208
王国ルート023 >>200 帝国ルート023 >>209
王国ルート024 >>203 帝国ルート024 >>210
王国ルート025 >>204 帝国ルート025 >>212
王国ルート026 >>214 帝国ルート026 >>232
王国ルート027 >>217 帝国ルート027 >>238
王国ルート028 >>219 帝国ルート028 >>239
王国ルート029 >>223 帝国ルート029 >>246
王国ルート030 >>224 帝国ルート030 >>258
王国ルート031 >>286 帝国ルート031 >>298
王国ルート032 >>287 帝国ルート032 >>304
王国ルート033 >>288 帝国ルート033 >>309
王国ルート034 >>292 帝国ルート034 >>312
王国ルート035 >>295 帝国ルート035 >>314
王国ルート036 >>317 帝国ルート036 >>329
王国ルート037 >>319 帝国ルート037 >>331
王国ルート038 >>321 帝国ルート038 >>334
王国ルート039 >>325 帝国ルート039 >>335
王国ルート040 >>326 帝国ルート040 >>336
王国ルート041 >>340 帝国ルート041 >>372
王国ルート042 >>347 帝国ルート042 >>375
王国ルート043 >>352 帝国ルート043 >>378
王国ルート044 >>353 帝国ルート044 >>382
王国ルート045 >>357 帝国ルート045 >>386
王国ルート046 >>387 帝国ルート046 >>399
王国ルート047 >>390 帝国ルート047 >>402
王国ルート048 >>393 帝国ルート048 >>407
王国ルート049 >>395 帝国ルート049 >>408
王国ルート050 >>398 帝国ルート050 >>409
王国ルート051 >>425 帝国ルート051 >>431
王国ルート052 >>426 帝国ルート052 >>433
王国ルート053 >>428 帝国ルート053 >>434
王国ルート054 >>429 帝国ルート054 >>436
王国ルート055 >>430 帝国ルート055 >>437
王国ルート056 >>442 帝国ルート056 >>450
王国ルート057 >>443 帝国ルート057 >>451
王国ルート058 >>446 帝国ルート058 >>453
王国ルート059 >>447 帝国ルート059 >>454
王国ルート060 >>449 帝国ルート060 >>461
王国ルート061 >>462 帝国ルート061 >>471
王国ルート062 >>465 帝国ルート062 >>472
王国ルート063 >>466 帝国ルート063 >>476
王国ルート064 >>467 帝国ルート064 >>477
王国ルート065 >>468 帝国ルート065 >>480
王国ルート066 >>482 帝国ルート066 >>492
王国ルート067 >>483 帝国ルート067 >>493
王国ルート068 >>487 帝国ルート068 >>495
王国ルート069 >>488 帝国ルート069 >>496
王国ルート070 >>489 帝国ルート070 >>499
王国ルート071 >>504 帝国ルート071 >>516
王国ルート072 >>506 帝国ルート072 >>517
王国ルート073 >>507 帝国ルート073 >>520
王国ルート074 >>509 帝国ルート074 >>521
王国ルート075 >>510 帝国ルート075 >>525
王国ルート076 >>528 帝国ルート076 >>539
王国ルート077 >>533 帝国ルート077 >>543
王国ルート078 >>534 帝国ルート078 >>545
王国ルート079 >>537 帝国ルート079 >>547
王国ルート080 >>538 帝国ルート080 >>548
王国ルート081 >>551 帝国ルート081 >>560
王国ルート082 >>552 帝国ルート082 >>562
王国ルート083 >>553 帝国ルート083 >>563
王国ルート084 >>557 帝国ルート084 >>564
王国ルート085 >>558 帝国ルート085 >>566
王国ルート086 >>571
王国ルート087 >>574
王国ルート088 >>575
王国ルート089 >>578
王国ルート090 >>579
◇カメルリング王国味方
>>2 ルーク 主人公
>>1 ミルフィーユ 発明家・美食家・資産家
>>4 キリエ 牧師・哲学者
>>16 ノイアー 傭兵
>>25 ラグ 執事
>>28 サイト 商人
>>29 リグレット 僧侶
>>39 ツバキ 軍人
>>55 ユニート 魔導師
>>58 ラルス 騎士
>>58 リリー 暗殺者
>>75 ジョレス 傭兵
>>78 フランチェスカ 王女
>>87 ハニー 妖精
>>99 シラン 術士
>>221 カルマ 学者・錬金術師・魔術師
>>289 フランキール 王子
>>440 シュバルツ 海賊
>>457 リレーナ 竜騎士
◆ミカイロウィッチ帝国味方
>>14 エドウィン 主人公
>>6 ヴィトリアル 盗賊
>>11 アーリィ 魔女
>>12 ゼルフ 黒騎士
>>12 リン メイド
>>27 シフォン 貴族騎士
>>30 イヴ 術士
>>37 ウィンデル 大道芸人
>>59 クウヤ 剣士
>>60 ツヴァイ 科学者(薬学)
>>76 ミレア 傭兵
>>78 シェリル 皇女
>>85 ディルム 精霊
>>96 ライヤ 偵察兵
>>98 セイリーン ドッペルゲンガー
>>278 レイ 魔女
>>305 故)フィア 魔女の弟子
>>305 故)キオ 魔女の弟子
◎味方につかない者
>>163 ソーサラー(呼称) 占星術師・幻術師
>>163 スキンヘッドハゲ(呼称) 盗賊
>>227 ヨメナイヤツ アドバイザー
キャラ応募してくださった皆様心よりお礼申し上げます!素敵なキャラをありがとう!!
◇番外編◆
参照四桁祝
・イヌ派ネコ派の王国日常 >>146
・絶対に信じちゃいけない言葉で帝国日常 >>150
・執事採用試験 >>156
・団長の足取り >>157-158>>160
・ある幻術師の思い出 >>162>>164>>170>>173>>175>>176
参照二千祝
・とあるメイドの追走劇 >>248>>254>>257>>260
・傭兵の黒と従者の白 >>263>>264>>269>>272>>274>>280>>281>>282>>283
参照三千&四千祝
・魔法使いの弟子 >>360>>363>>364>>367-368
・帝国サイド盗賊団と加担者でチビキャラ全員集合イラスト >>371
参照4500祝
・王国・番外ルートで抜粋チビキャラ集合イラスト >>404
銀賞&殿堂入り祝
・メイドと騎士と仲介人 >>415>>417-418>>421>>423
参照5000祝
参照6000祝
参照7000祝
金賞祝
参照8000祝
参照9000祝
参照10000祝!
参照11000祝!!
参照12000&13000祝!!!
保留
どんどん保留祝が増えて行っている…本編終わったら一気に大感謝祭とかやりたいなぁ、なんて考えてます
・・・業務連絡・・・
2014の冬の小説大会で銀賞もらえました!ありがとうございます!
2015の夏の小説大会で金賞もらえました!!ありがとうございますっっ!
参照5000祝いと6000祝、7000祝、8000祝9000祝そして10000祝。11000祝はのちほど…ッ!
時間軸まとめ >>234
- Re: さぁ 正義はどっち ? 参照11200ありがとう御座います! ( No.549 )
- 日時: 2016/03/13 20:33
- 名前: コッコ (ID: e83t2LuI)
カメルリング王国が遂に攻めてきましたね。この長く続いた小説がどんどん終わりに近づいてくると思うと少し寂しく感じてきます。頑張ってください。
- さぁ 正義はどっち ? 参照11200ありがとう御座います! ( No.550 )
- 日時: 2016/03/13 23:25
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)
今晩はコッコさん!やっぱりこんばんはの方がしっくりきますね。
丸2年ですからねw今年の夏に終わらなければ3年目に突入してしまうほど長い付き合いですねぇ…
心のどこかで終わらせたくないなぁ、という気持ちがあるからこんなに引きずっているのかもしれませんね。
私も終わると寂しいですし。
あえて〜〜月には終わる宣言は申しませんがw((これやると絶対破る上にパソコンが壊れるというジンクスがあることを発見しましたw
今年には終わるでしょう。……たぶん
こめんとありがとうございますっっ
- さぁ 正義はどっち ? 参照11200ありがとう御座います! ( No.551 )
- 日時: 2016/03/17 18:36
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)
カメルリング王国ルート 081
「いよいよ開戦、なんだな」
もうじき出発する。そう両親に告げると、二人とも息をひそめるようにそう答えた。
「シランなら大丈夫だと思うけれど…でも無理せず、ちゃんと帰ってくるのよ?」
円卓に並ぶ椅子に腰かけたシランは、静まり返った自宅で両親のその反応を紅茶片手に受け止めていた。
シランは紅色の目を伏せて、カップに置いた紅茶の水面に映りこむ飴色の自分を眺めた。
覗き込むその表情は無表情だ。
これから戦争に行く人間の表情じゃない。ましてや両親が最後の激励をしてくれた直後だというのに。
あの日、師匠たちを見失った日、樹海を駆け抜けたシランは、両親を信じていた。
”イヴとクウヤの兄妹もご両親と再会して無事に逃げた”。
(僕はあの言葉を信じて樹海から逃げたんだ———でも…)
樹海を脱出したシラン一家は、そのままの足で王国へと飛び込んだ。
帝国から亡命してきた幻術師を、王国は快く受け入れて住まいも用意してくれた。
希少な星の幻術師の待遇はよく、シラン自身も師匠たちの安否を心配しつつも何不自由なく過ごしていた。
(イヴもクウヤも両親と再会できたんだし、星の幻術師だから、どこの国に逃げても歓迎されてるはずだし——師匠だって…)
寂しくなればそう考えて、手作りのマスコットを見つめては心を慰めていた。
彼らときっと再開できるのだと信じていた。
(—————…ホントに?)
「確かそうよね」
「それがこんなに立派な幻術師に成長するとはなぁ」
誰に似たんだか、と両親が幼少期の思い出を語り合って微笑みあっている。
一時は帝国から亡命した一行を手引きしたとされ、拷問を受けかけたらしいがそこを脱走したらしい。
その折にシランと再会を果たし、王国で幸せな日々を送っている。
「ねぇ、父さん、母さんも」
紅茶から両親に目を移したシランに、あらなあに?と微笑みを溜めてこちらを向く二人。
その心からの笑みをじっと見つめようとするが、それが出来ずにそっと目をそらしてしまう。
「いままで、ありがとうね」
言えば両親ともに呼吸を止めてシランを一心に見つめた。シランが照れたように笑みをこぼすと、母は顔を両手で覆って泣き出し、父はな瞬きを繰り返しながら咳払いし、椅子の上で何度も姿勢を変える。
ニコリと微笑みながら紅茶を口に運んだシランは、吐きかけた言葉を紅茶と共に喉へ流し込んだ。
”ねぇ、父さん、母さんも、僕に嘘ついたことってある?”
「行ってきます」
言って手を振って実家を後にすると、夜の街を騎士達が同じように徘徊していた。
彼らも家族や大切な人とのもとへ訪問を済ませた帰りなのだろう。満足げな顔や不安そうな顔、寂しげな顔に恐怖に青ざめた顔、いろいろな顔が今度は同じ王城へと歩いていく。
彼らの後姿を眺めながら、シランは自分自身に心の中で問いかける。
(僕に嘘ついたことってある?)
知らないふり、してただけでしょ?どう考えたって話が出来すぎてる。
あの日樹海で両親に出会えたのは奇跡だろう。けれど、なぜ両親はクウヤたち兄妹と家族が再会できたなどと、知っているのか。
そもそも、同じ罪で帝国を負われた身なのに、なぜクウヤたち両親と共に行動していなかったのか。
そして……。
シランはため息をこぼして、今日こそはと意を決して考えたくはなかった思考を模索する。
普通に考えれば、兵士に追われ師匠からも逃げろと言いつけられ焦っていた少年が、長い間離れ離れとなっていた両親にであったら、その嘘を信じても仕方がない。
けれど安堵して少し落ち着けば、その嘘を信じ続けることがどういうことだかわかってもいいはずだ。
もしかしたら両親は安全地帯に息子と共に逃げる為に、嘘をついたかもしれない。
イヴとクウヤは両親に出会っておらず、まだ何も知らずに樹海にいるかもしれない。
そしてなにより、両親が嘘をついていようがいまいが、あの鉱山のてっぺんで一人取り残された師匠は、死んでいるかもしれないのに。
(僕は最悪の事態を考えるのが嫌で、ずっと嘘を信じてる方が良かった。それに両親が嘘をついていても、あの二人は僕を探しに来てくれた)
今度こそは、僕が帝国でみんなを探す。
こぶしを握りしめて、シランは決意した。
ホントはちょっと気づいてたシラン君
- さぁ 正義はどっち ? 参照11200ありがとう御座います! ( No.552 )
- 日時: 2016/03/17 20:28
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)
カメルリング王国ルート 082
”これは月下美人と言うんだ。ツバキにぴったりな簪だろう?”
懐に大事に大事にしまいこんでいた思い出の品を取り出して、ツバキは燭台の明かりにそれを翳した。
赤く燃えるような、それでいてどこか寂しげなヒガンバナの簪が、炎の色を受けて怪しく透き通って一層その美しさを際立たせている。
これはツバキの大事な宝物だった。大切にしすぎて、まだ身に着けてもいない。
まだ和の国にいたとき、もうじき成人式を迎える年齢のツバキにと、幼いころから慕っていた工芸細工の跡取り息子が贈ってくれたものだった。
その頃から好きだったヒガンバナの華を模した髪飾りに、早く身に着けて見たくてたまらないツバキだったが、成人式のその日までぐっと我慢していた。
”成人式の前に旅立ってしまうんだろう?残念だな、ツバキのはかま姿はさぞ美しかろうに。”
和の国の伝統工芸品であり、西洋の直接的なギラギラした眩さとは違う、闇に咲く一輪の花のような、その一見目立たないのだが存在に気付いた時一瞬で心奪われるような、そんな不思議な魅力を持つ簪。
それをめでたい成人式の儀に付けることを楽しみにしていたのだが、ツバキはその前に和の国を後にすることを決意した。
その決意を知らせると、きれいな簪を結った友人もあの人も、ひどく残念そうな顔をした。
”何もそんなに急いで渡らなくともいいのに。せめて俺達の婚姻式に友人代表として足を運んでくれればいいのだけどなぁ。”
「……」
西洋へと渡り、異国の地で成人の年を迎えたツバキだったが、ついぞその簪を身に着けることが出来なかった。
傷つかないようにとビロードでくるんで懐に大切にしまい込んでいるつもりが、いつのまにかその簪を手に取る回数が減り、目で見つめることもなくなった。
和の国を発ってからさすがに海を隔てての文通は不可能だったが、きっとあの二人は元気に幸せに暮らしていることだろう。
もしかしたら、これだけの美しい品を作ることが出来るのだから、有名な工芸者として名が通っている頃かもしれない。
何年振りかに戒めを解いて見直した簪は、今でも褪せることなくその輝きを放っていた。
懐かしく、淡く、もの悲しそうに、揺れる炎を屈折させてほんの少しツバキの心を癒すその簪。それを手に、鏡の前に立ってみる。
艶めく黒髪をかき上げて結い上げると、その簪を髪に刺そうとして手を止めた。
鏡の中から見つめ返す自分自身を見て、えもいえぬ気分に浸り、結局両手をぱたりとおろしてしまった。
そしてそのまま簪をビロードにくるむと、鏡に背を向け自分と目を合わせないようにしながら、再び大事に懐にしまい込んだ。
「あれ、ユニート、こんなところで何してんの?」
声を掛けられて振り返ると、ジョレスが小脇に相変わらずノイアーを抱え込んで突っ立っていた。
「はんなせ、このロリコン!私はシュタイン婦人のとこに行きたいんだ!」
じたばたと暴れるノイアーに目もくれず、ジョレスは周囲に目を向けため息をこぼした。
「改めて見るとほんっとにメッタメタになったよなぁ、ここ」
「そうだね。修道院があったとは思えない有様だよ」
王女のための箱庭だった修道院跡地は、襲撃事件から不思議な雰囲気の場所となっていた。
ところどころに転がる白亜の石柱や瓦礫の合間に、園庭だった中庭から派生した可憐な花たちがあちらこちらへと群生し、なぜか神々しい。
「俺はフランチェスカ様の最も長い間過ごされた場所を最後に見ておこうと思ってさ。あんたは?」
よっこいせ、と瓦礫の一つに腰かけると、無遠慮にたずねてくる。それにあきれたように視線を投げつつも、ユニートは瓦礫の合間を指差す。
星明かりを頼りにそちらに目をやれば、夜にもかかわらずつぼみの開いた花々の一隊が一部のみ見えるのがわかる。
「僕の使い魔はここの花が好きだったからね。最後の挨拶にと…」
目を凝らせば、見かけよりもずっと力持ちである妖精が、開いた花弁に顔を寄せて香りを楽しんでいる様子が見られる。
「あぁ、修道院襲撃事件の時はアイツが瓦礫をどかしたおかげで、大勢の命が助かったらな。あの小ささで力持ちって、不思議な生き物だよな」
うーうー唸るノイアーを小脇に、ジョレスが感心したように妖精の方へと数歩歩み寄る。
「?」
その足音に不思議そうに妖精、ハニーが顔を上げて、つぶらな紫色の瞳でジョレスを見つめる。
「なんだこれ!生きているのか?」
そこではっと気づいたようにノイアーが目を見開き、腕をばたつかせてハニーをとっ捕まえようと手を伸ばす。
ハニーは自分にむかって伸ばされた腕ををひょいとにぎると、ノイアーを抱えていたジョレスごとひょいと持ち上げ、花の咲いていない草だまりに柔らかく放った。
「なんだコレ、今なにがおきたんだっ」
放られた勢いをそのまま生かしてジョレスの腕から逃れたノイアーは、素早く立ち上がって仰天したように小さな妖精を凝視する。
ハニーは気にも留めないようで、今まで二人が立っていた場所に何やら囁きかけている。
しばらくすると踏み固められた草の合間から、新しく芽が吹き出しつぼみが優雅に花弁を広げた。
「ハニーは力が強いだけじゃなくてね、花も自由に咲かせられるんだ。この能力のおかげで、僕は珍しい花を売り歩きながら旅費を稼いでたんだ」
瓦礫から腰を上げてほこりを払うと、ハニーが羽をはばたかせて近寄り、魔導書にしがみついた。
「ハニーは結構かわいらしい姿をしているからね、マスコット的な感じで客寄せもしてくれたから旅行中もひもじい思いはしたこと無かったかな」
感謝する様に桃色の柔らかな髪を撫でると、嬉しそうに目をつむる小さな妖精。
「おまえ花屋だったのか。ずいぶんと女々しい職業だったんだな」
「ロリコンに言われたくはないね」
その様子を険しい顔で眺めたジョレスが言い放つが、ユニートもぎろりと彼を睨んで減らず口を叩く。
「若々しく初々しい、しわもシミも癖もない少女が好きで何が悪い?」
「…それシュタイン婦人の前では言うなよ?」
けれどけろりと開き直るジョレスに、コイツはもうダメだと頭を押さえつつ、「最後には絶対シュタイン婦人の肉を食うんだ!」と喚くノイアーを先頭に、仲良くシュタイン婦人の元へと歩き出した。
江戸時代、男性から女性へと簪を送るのはほぼプロポーズだったとされるらしいです…が、ツバキさんの場合ただのプレゼントでした…残念ッ
- Re: さぁ 正義はどっち ? 参照11300ありがとう御座います! ( No.553 )
- 日時: 2016/03/21 19:16
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)
カメルリング王国ルート 083
暗闇の中に燭台の灯がともる。
その暖かな光の中で、膝を折った聖職者たちが一身に祈りの言葉を口ずさんでいる。
「……」
その中でキリエも、礼拝堂の長椅子に腰かけて両手を組み合わせていた。少しでも体を動かせば、首に掛けた十字架が胸を打つように揺れる。
それが合図の様に、キリエは膝に乗せた聖書に指を這わせ、開いたままのページへとそっと目を落とす。
人目をはばかるように遠慮がちに目を伏せると、その印象的な一枚絵が淡い明かりに照らされて光の下で見るよりも一層その不気味さを際立たせている。
剣を手に取り罪人を串刺しにした男が、罪人を刺し貫いた剣が罪のない人をも刺し貫いている事に気付き、涙を流しながら炎の中に沈み込んでいる。その様子を神が、悲しげな表情で見つめ、祈るように手を組み合わせている挿絵だ。
(争いに身を落とし、その手を罪びとの血で汚すものは、罪なき羊を守る事も出来ず、神の手によりその穢れごと永遠の炎の中に堕とされる。罪びとを愛し、罪びとを許し、罪びとを助け、罪びとと共に祈らねば、罪なき羊を守る事など出来ない)
その紙面に記された文字を指でなぞりながら、すっかり暗記しているこの一節を黙読する。
私もこのように神の炎の中へ、地獄へと落とされてしまうのか…。こんなにも平和を願っているというのに。
神様など存在しない。そういう風に考えれば、今までどんなに祈ってもこの世界が平和にならなかったわけがすんなりと受け入れられる。
祈ったところでそれをかなえてくれる神様がいなければ、叶うはずがないのだ。
そもそも、暴力に対して無抵抗でい続ければ簡単に制圧され、好き勝手にされてしまう事はわかりきったことなのだ。
けれど、聖書にはこう書いてある。
該当するページをめくってその絵を見つめると、胸騒ぎがする。
剣を向けられた少女と老人が、そろって首を差し出す一枚絵だった。
(頬を打たれればもう片方の頬も差し出しなさい。腕を斬られたら、もう一方も差し出しなさい。脚を斬られたら、もう一方も差し出しなさい。やがて罪びとの手から罪なき者の血に濡れた剣は落とされる)
剣がその手から落ちなかったその時は…?いったいどうすればいいのだろうか。
多くの無抵抗な人々が自らを差し出して、誰もいなくなるまでそれが続いたら?そんなことがおこるのなら、誰かが地獄に落ちる覚悟で罪人を切り捨てさえすればいいのでは…?
そのほうがきっと、神に祈り続けるよりは、ずっとはやく戦いは決着を迎えるのではないか…?
キリエは聖書を閉じ、立て掛けてあるミセリコルデをそっと一瞥した。
自然と片手が胸元の十字架に伸びて、ぎゅっと握りしめる。
(主よ、あなたがいてもいなくとも、もう私は…ただ祈るだけで終わりにすることを止めます。たとえ、地獄へと落とされても、私はきっと後悔いたしません)
青色の瞳をそっと閉じて十字架を握り、キリエは最後の祈りをささげた。
開け放たれた礼拝堂の前に立ち、リリーは無言で扉の向こうを見つめた。
闇に天からぶら下がる十字架がぼんやりと浮かび上がっている。その下では歌う様に祈りをささげる聖職者たちが、こんなに夜深いというのに席を埋めるほどいる。
赤毛を覆っていたフードを背後へと放ると、リリーはその扉の前を通り過ぎた。平和を祈る聖職者と人を殺すことを生業とする暗殺者は相いれないからだ。
カメルリング王家が王室専属の暗殺者を雇っていること自体、聖職者たちは良い顔をしていないのだ。言葉には出さないだろうが、会話したところでまったくの無益だ。
そんなことを考えながら分厚いマントを揺らして階段を上り、目当ての部屋まで来るとノックする。
すぐさま入るようにと声が聞こえ、扉を開ける。
開け放したバルコニーから夜風を受けて、金髪をなびかせたその青年は振り返り、安堵したようにリリーに微笑んだ。
「来てくれてありがとう、リリー。掛けてくれ」
「はい、キール様」
指し示された椅子の側に立ち、フランキール王子ことキールが座る気配を見せずにうつむくのを見ると、首を傾げた。
キールがリリーを呼ぶ時はたいてい椅子に座っているか、立っていてもすぐに向かい合って座るのが常だったのだが、今日に限ってはバルコニーに手をついて座ろうとしない。
「いかがなさったのですか、キール様。お加減でも…」
「リリー、お前には良く世話になっている」
言いかけたリリーをさえぎって、夜の向こうをじっと眺めたままつぶやいた。リリーのもとにまで届いてくる夜風は、城の最上階ともあって冷たすぎる風だった。
「お前の変装術で、この城を時おり抜け出すことが出来、城下の様子を視察できてとてもためになっている。それから、相手を的確に倒すための武器の手ほどきなど、誰にも言わずに協力してくれて、とても感謝している」
「ありがたきお言葉です」
キールがここに呼び立てた理由は、戦争へと向かうリリーへのねぎらいのためであったのだろうか、と小首をかしげているとキールは意を決したように振り返った。
「リリー、最後の頼みを聞いてほしいんだ。無茶な申し出だとは思う。けれど、叶えてほしい」
「…どういった頼みなのでしょうか」キールの言葉を受けて戸惑ったようにリリーが声を上げると、うんと頷いてキールは口を開いた。
「お前の変装術で、この俺を兵士の一人に紛れ込ませ、此度の戦争に参加させてほしい」
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