複雑・ファジー小説

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さぁ 正義はどっち ? 参照13600ありがとう御座います!
日時: 2016/08/23 00:57
名前: メルマーク (ID: KzMBmi6F)

戦争と平和は正反対のものと考える人が多い世の中
それは本当なの?正義って何?悪って何?
答えが見つからないなら探せば良い。

多分異色な今までにない、正義についてのお話し。
答えはありませんが、きっと終わった後 何が正解か思い浮かぶはず。
時代は古きよき時代、中世頃にしようかと

オリキャラ募集一応締め切らせていただきます!
終章にもうじき突入予定なので‥・もしかしたらまた募集するかも・・・?


名前
性別
年齢
容姿
A国B国どちらの味方?(国名は長いので省略
性格
武器
サンボイ「」
職業は?下から選択下になければ新職業を書いてくれるとうれしいです

騎士 傭兵 盗賊 貴族 海賊 海軍 王室(王族をのぞく外交官・メイド・執事・王族のいとこ)関連
占い師 科学者(錬金術師) 芸術家 哲学者 商人 国民 旅人 魔法使い など

武器や変わった特徴などの要望も即採用です
結構な確率で”死ぬケース”もあるのでご了承ください!!

◇目次◆   


王国ルート001 >>5    帝国ルート001 >>43
王国ルート002 >>15    帝国ルート002 >>49
王国ルート003 >>20    帝国ルート003 >>50
王国ルート004 >>23    帝国ルート004 >>54
王国ルート005 >>31    帝国ルート005 >>63
王国ルート006 >>66    帝国ルート006 >>81
王国ルート007 >>67    帝国ルート007 >>83
王国ルート008 >>68    帝国ルート008 >>90
王国ルート009 >>71    帝国ルート009 >>91
王国ルート010 >>74    帝国ルート010 >>93
王国ルート011 >>101   帝国ルート011 >>114
王国ルート012 >>103   帝国ルート012 >>117
王国ルート013 >>106   帝国ルート013 >>118
王国ルート014 >>108   帝国ルート014 >>120
王国ルート015 >>110   帝国ルート015 >>122
王国ルート016 >>123   帝国ルート016 >>183
王国ルート017 >>127   帝国ルート017 >>184
王国ルート018 >>133   帝国ルート018 >>187
王国ルート019 >>142   帝国ルート019 >>191
王国ルート020 >>144   帝国ルート020 >>193
王国ルート021 >>194   帝国ルート021 >>207
王国ルート022 >>197   帝国ルート022 >>208
王国ルート023 >>200   帝国ルート023 >>209
王国ルート024 >>203   帝国ルート024 >>210
王国ルート025 >>204   帝国ルート025 >>212
王国ルート026 >>214   帝国ルート026 >>232
王国ルート027 >>217   帝国ルート027 >>238
王国ルート028 >>219   帝国ルート028 >>239
王国ルート029 >>223   帝国ルート029 >>246
王国ルート030 >>224   帝国ルート030 >>258
王国ルート031 >>286   帝国ルート031 >>298
王国ルート032 >>287   帝国ルート032 >>304
王国ルート033 >>288   帝国ルート033 >>309
王国ルート034 >>292   帝国ルート034 >>312
王国ルート035 >>295   帝国ルート035 >>314
王国ルート036 >>317   帝国ルート036 >>329
王国ルート037 >>319   帝国ルート037 >>331
王国ルート038 >>321   帝国ルート038 >>334
王国ルート039 >>325   帝国ルート039 >>335
王国ルート040 >>326   帝国ルート040 >>336
王国ルート041 >>340   帝国ルート041 >>372
王国ルート042 >>347   帝国ルート042 >>375
王国ルート043 >>352   帝国ルート043 >>378
王国ルート044 >>353   帝国ルート044 >>382
王国ルート045 >>357   帝国ルート045 >>386
王国ルート046 >>387   帝国ルート046 >>399
王国ルート047 >>390   帝国ルート047 >>402
王国ルート048 >>393   帝国ルート048 >>407
王国ルート049 >>395   帝国ルート049 >>408
王国ルート050 >>398   帝国ルート050 >>409
王国ルート051 >>425   帝国ルート051 >>431
王国ルート052 >>426   帝国ルート052 >>433
王国ルート053 >>428   帝国ルート053 >>434
王国ルート054 >>429   帝国ルート054 >>436
王国ルート055 >>430   帝国ルート055 >>437
王国ルート056 >>442   帝国ルート056 >>450
王国ルート057 >>443   帝国ルート057 >>451
王国ルート058 >>446   帝国ルート058 >>453
王国ルート059 >>447   帝国ルート059 >>454
王国ルート060 >>449   帝国ルート060 >>461
王国ルート061 >>462   帝国ルート061 >>471
王国ルート062 >>465   帝国ルート062 >>472
王国ルート063 >>466   帝国ルート063 >>476
王国ルート064 >>467   帝国ルート064 >>477
王国ルート065 >>468   帝国ルート065 >>480
王国ルート066 >>482   帝国ルート066 >>492
王国ルート067 >>483   帝国ルート067 >>493
王国ルート068 >>487   帝国ルート068 >>495
王国ルート069 >>488   帝国ルート069 >>496
王国ルート070 >>489   帝国ルート070 >>499
王国ルート071 >>504   帝国ルート071 >>516
王国ルート072 >>506   帝国ルート072 >>517
王国ルート073 >>507   帝国ルート073 >>520
王国ルート074 >>509   帝国ルート074 >>521
王国ルート075 >>510   帝国ルート075 >>525
王国ルート076 >>528   帝国ルート076 >>539
王国ルート077 >>533   帝国ルート077 >>543
王国ルート078 >>534   帝国ルート078 >>545
王国ルート079 >>537   帝国ルート079 >>547
王国ルート080 >>538   帝国ルート080 >>548
王国ルート081 >>551   帝国ルート081 >>560
王国ルート082 >>552   帝国ルート082 >>562
王国ルート083 >>553   帝国ルート083 >>563
王国ルート084 >>557   帝国ルート084 >>564
王国ルート085 >>558   帝国ルート085 >>566
王国ルート086 >>571
王国ルート087 >>574
王国ルート088 >>575
王国ルート089 >>578
王国ルート090 >>579


◇カメルリング王国味方

>>2 ルーク 主人公
>>1 ミルフィーユ 発明家・美食家・資産家
>>4 キリエ 牧師・哲学者
>>16 ノイアー 傭兵
>>25 ラグ 執事
>>28 サイト 商人
>>29 リグレット 僧侶
>>39 ツバキ 軍人
>>55 ユニート 魔導師
>>58 ラルス 騎士
>>58 リリー 暗殺者
>>75 ジョレス 傭兵
>>78 フランチェスカ 王女
>>87 ハニー 妖精
>>99 シラン 術士
>>221 カルマ 学者・錬金術師・魔術師
>>289 フランキール 王子
>>440 シュバルツ 海賊
>>457 リレーナ 竜騎士

◆ミカイロウィッチ帝国味方

>>14 エドウィン 主人公
>>6 ヴィトリアル 盗賊
>>11 アーリィ 魔女
>>12 ゼルフ 黒騎士
>>12 リン メイド
>>27 シフォン 貴族騎士
>>30 イヴ 術士
>>37 ウィンデル 大道芸人
>>59 クウヤ 剣士
>>60 ツヴァイ 科学者(薬学)
>>76 ミレア 傭兵
>>78 シェリル 皇女
>>85 ディルム 精霊
>>96 ライヤ 偵察兵
>>98 セイリーン ドッペルゲンガー
>>278 レイ 魔女
>>305 故)フィア 魔女の弟子
>>305 故)キオ 魔女の弟子

◎味方につかない者

>>163 ソーサラー(呼称) 占星術師・幻術師
>>163 スキンヘッドハゲ(呼称) 盗賊
>>227 ヨメナイヤツ アドバイザー

キャラ応募してくださった皆様心よりお礼申し上げます!素敵なキャラをありがとう!!

◇番外編◆

参照四桁祝
・イヌ派ネコ派の王国日常 >>146
・絶対に信じちゃいけない言葉で帝国日常 >>150
・執事採用試験 >>156
・団長の足取り >>157-158>>160
・ある幻術師の思い出 >>162>>164>>170>>173>>175>>176

参照二千祝
・とあるメイドの追走劇 >>248>>254>>257>>260
・傭兵の黒と従者の白 >>263>>264>>269>>272>>274>>280>>281>>282>>283

参照三千&四千祝
・魔法使いの弟子 >>360>>363>>364>>367-368
・帝国サイド盗賊団と加担者でチビキャラ全員集合イラスト >>371

参照4500祝
・王国・番外ルートで抜粋チビキャラ集合イラスト >>404

銀賞&殿堂入り祝
・メイドと騎士と仲介人 >>415>>417-418>>421>>423

参照5000祝
参照6000祝
参照7000祝
金賞祝
参照8000祝
参照9000祝
参照10000祝!
参照11000祝!!
参照12000&13000祝!!!
保留
どんどん保留祝が増えて行っている…本編終わったら一気に大感謝祭とかやりたいなぁ、なんて考えてます

・・・業務連絡・・・

2014の冬の小説大会で銀賞もらえました!ありがとうございます!
2015の夏の小説大会で金賞もらえました!!ありがとうございますっっ!
参照5000祝いと6000祝、7000祝、8000祝9000祝そして10000祝。11000祝はのちほど…ッ!


時間軸まとめ >>234

さぁ 正義はどっち ? 参照10200ありがとう御座います! ( No.539 )
日時: 2016/01/21 18:17
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: A1qYrOra)

ミカイロウィッチ帝国ルート 076


 血が滴る光景を見て、エディは気絶しそうになった。
「何してるの?!」
絶叫したい気分だったが、かすれた声しか出ない。対するツヴァイは血に濡れたペンを投げ捨て、血があふれ出す傷口を確認すると、痛そうに息を呑みながらつぶやく。
「魔術でこれ…治して」
何を言っているのか訳が分からず、唖然としてエディはツヴァイを眺めた。自分で切り裂いておきながら、今度は治せと言う意味が解らない。
腕を伝って血がぽたぽたと絨毯に零れ落ち、白衣にまた新しい血の斑点が付く光景に頭がおかしくなりそうだが、そのままにしておくわけにもいかず必死に呪詛を思い出す。
「『ミレレラティール』!」
リンの傷口の様に、皮膚がくっつき、血のあふれ出る速度が弱まる。そのまま直視し続けると貧血を起こしそうになり、エディは目をそらすが、ツヴァイは息を止めてその様子に歯を食いしばって見入っている。


 ようやく傷口がふさがると、ふーっとため息をこぼして脱力する。
傷口のふさがった感触を確かめているのか、ツヴァイは傷があった部分に触れて難しそうな顔をしている。
「それで、何が確認できたの?」
「まだ確認は終わってないよ。むしろこれからだよ」
げんなりした顔をしたまま、「ボクの考えが外れてたらいいけど」と呻くようにつぶやいた。
また何かしでかすのかとひやひやしながら見守っていると、傷があった場所に手を走らせて思い切り皮膚を上下左右に引っ張った。
 途端に閉じていた傷口がぴっと線を引いたようにざっくりと口を開く。
ものすごく痛いが、正しい状況を判断するためにじっくり観察を開始する。
先程の傷口に似ているが、傷口同士が接着した部分がさらにズタズタになっている。
出血点は主にそこであり、すぐに血で見えなくなる。
その血を白衣に吸わせてじっくりと組織同士を観察すれば、やはりと顔をくもらさざるを得ない。
「やっぱり、新しい組織が作られているわけじゃない…」
普通、傷が癒えるとき傷口の周囲で死滅した細胞を消化する反応が起こり、そこから発生する化学物質で新たな細胞の発生が誘発されるのだ。そして新たな細胞と無事だった細胞同士が手を取り合って傷口を塞いでゆく。
 ところが魔術による治癒では消化されるはずの死んだ細胞がそのまま残っている。
これが意味することは、魔術での治癒は新たな細胞を作り出しているわけではないという点だ。そもそも血栓(つまるところカサブタ)もなしに傷が消えていく光景も異様である。
ここから考えられる事実は、自然治癒と魔術は全く違うメカニズムで傷を閉じており、魔術では傷口をただ単に元通りにくっつけているだけで、治したことにはならないというわけだ。


 「ちょっと…よく、わからないけど…」
それを、歯を食いしばってエディに伝えるのだが、彼女はひきつった顔のままこちらを見る。完全に不審者に対する目つきをされているが、それも無理はないだろう。目の前で核心をえるために傷を自分でこじ開けたのだから。
しかしそのおかげで魔術での治癒に対する理解が深まったのだからまだましだ。
「つまり、魔術では死んだ細胞を本来あった場所にそのまんまくっつけただけだから、こんな風に無理に引っ張れば傷口が開くんだ」
「でも、クウヤは……それに私の足の傷だってもうふさがってるし…シフォンさんの額の怪我も—」
出血を止める為にもう一度エディが呪詛を唱えて、傷口を魔術でくっつけながら尋ねる。傷が治る際に痛みが生じるのは、無理やり細胞を引っ張って元の位置に戻そうとするからで、大抵の場合武器によって細胞は失われる為その分しわ寄せが来るためだろう。


 脳内で痛みの原因について考えながら、閉じた傷口を今度こそ刺激しないようにいたわりながらツヴァイは口を開く。
血を吸わせた白衣が皮膚にまとわりついてちょっと気持ち悪い。
「クウヤの場合は、骨は体の外には出なかった。だから、骨全部がまるまる存在した状態だったから、骨が元の位置に戻っただけ。君とシフォンは、リンのと比べると恐らく怪我した状況によると思う」
どうやって怪我したのさ?と尋ねられてエディはその当時を思い出す。シスターの姿で修道院に潜入していた際、背後から短刀のようなもので刺された。
シフォンは魔術師対決で砕け散った修道院の漆喰があたって怪我をしたのだが、その光景を見ていないエディは知る由もない。
「鋭利な刃物で切られても、傷口の細胞ってほとんど死なないんだよ。だから魔術でくっつけられただけでも、無事な細胞同士が強固に結びついて傷が開きにくくなったんだろうね」
その点、とツヴァイはリンの方を血に染まった白衣の裾を振り回して指差した。
 リンは相変わらず天井を眺めたまま、絨毯に沈み込んでいる。
「リンは木材が高速で突き刺さったんだ。衝撃で傷の周りの細胞はかなり死んで、最小限に抑えたけど感染症にもかかったから、魔術でくっつけても自然治癒はあまり望めないね」
ボクの傷もペン先で削り取ったから、かなり細胞が死んでるはずだよ。だから傷口が開いたんだ、と肩をすくめる。
「さらに言えばリンの場合腹部が患部だよ。どうしたって腹部には力が入るからね。動かすだけでさっきみたいに傷口が簡単に開くよ」
 その言葉に絶望的な気分で、リンを眺める。
なんともなしに万能と思っていた治癒の魔術の正体が暴かれた今、もはやエディの手でリンを救うすべはなかった。




以上、魔術の本来の姿でした。
しかし、これがすべて、ではありませんがね←
そして参照10200ありがとうございますっっ



Re: さぁ 正義はどっち ?  ( No.540 )
日時: 2016/02/15 05:01
名前: モンブラン博士 (ID: MQ1NqBYl)

今は春休みですので久しぶりに最初から一気読みしましたが、この物語は最高です!クライマックスが近づいていますので、早く読みたいと思う半面終わるのが寂しいです。今1番気になるのはウィンデルですね。個人的に大好きなキャラですので生き残り改心して発明家一家の弟子になったらいいなーなんて考えている私がいます(笑)
まあ、ミルフィーユとラグが死んでしまうかもしれませんが……

Re: さぁ 正義はどっち ? 参照10100ありがとう御座います! ( No.541 )
日時: 2016/02/21 00:13
名前: メルマーク (ID: kphB4geJ)

モンブランさん、
こんばんは!ものすごく嬉しいお言葉ありがとうございますっ!
嬉しすぎてのたうち回りそうです!
しかし、更新はもうしばらく先延ばしになりそうです…
パソコンが壊れてしまいまして、修理中なんです…
もうしばらく、エンディングをお待ちください!

さぁ 正義はどっち ? 参照1000ありがとう御座います! ( No.542 )
日時: 2016/03/02 10:40
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)

ようやくパソコンが修理から帰ってきましたー!
復活できそうですっ
そして参照10900とすごいことになってまして、とてつもなくうれしいです!
ありがとうございますっ

Re: さぁ 正義はどっち ? 参照10100ありがとう御座います! ( No.543 )
日時: 2016/03/12 01:34
名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)

ミカイロウィッチ帝国ルート 077



 乱暴に扉が開かれて、ゼルフは首だけを巡らせたまま音のする方を見つめた。
切り立った崖の一角だけのために備え付けられたその扉を開ける人物は、大抵決まっている。
集中して剣の鍛錬をしたいゼルフの他にも、幾人かの人物がこの扉を開けるのだが、大抵はゼルフがここにいることを知って来訪する者たちである。
今回もそれは当たっており、妹のレイが扉から顔をのぞかせるようにして突っ立っていた。
 「レイ、どうした?」
 構えていた剣を下ろしながら尋ねると、レイはそのまま一歩も動かずにゼルフをじっと見つめたまま小さな声で何か言った。
崖下に打ち付ける小波のせいで聞き取ることが出来ず、ゼルフは剣を鞘に納めながらゆっくりと歩み寄る。
潮風にあおられて軽くなびく草を踏みしめてレイに徐々に近寄れば、廊下の明かりに照らされたその顔が不自然なほど硬直している事に気付いた。
たしかに表情が少し硬いところのある妹だが、今回は何か異常だ。
気遣うように眺めると、レイは伏せていた目を上げてゼルフを直視した。
 「…リンさんが怪我して帰ってきたの」
「え?」
「お腹にひどい傷が出来てた。手当てしてる最中だけど…兄さん…もしかしたら…」
(リンが怪我をした…ひどい傷…もしかしたら…?)
レイの顔をじっと見ながら、ゼルフは小さく絞りだす。
「リンは、今どこにいるんだ?」


 レイに導かれて開けた扉の先に、赤い絨毯に寝転ぶその姿が見えた。投げ出された身体には全く力が込められていない。
そんなリンの側にシュナイテッター家の少女と血の付いた白衣の少年がおり、こちらを見上げている。
「リン」
その横たわる姿に思わず嘆息しながら名前をつぶやくと、放り出されていた指がピクリと素早く反応した。
そのまま指が握り拳を作ると、かすかに震えながらリンが声を上げた。
「…ゼルフ」
天井を眺めたままのその横顔に、涙が幾重にも筋を作って転げ落ちた。
「わたし…」
涙声で震える声に反応して、ゼルフが歩み寄ってしゃがみ込むと、小さく手を伸ばしてきた。
それを受け取ってリンの疲れ切った生気のない顔を見ていると、リンが再び弱弱しく口を開いた。
「ゼルフと…お話しても……」
「…立ち上がったりとか、大声でわめくとか、腹部に力を入れなければ、傷は開かないから」
最後まで言わせずに白衣少年が立ち上がって頷くように言い、ゼルフとリンを一瞬気の毒そうな目で見つめた。
そして目をそらすように本を拾い上げると、伯爵の娘を立ち上がらせ「ボクたちは外に出てるから」と退出していった。


 「ありがとう…ございます…」
リンがかすれた声でお礼を言うと、扉の側で立ち尽くしていたレイも目を伏せて何も言わずに退出し、部屋には二人だけになった。
部屋に誰もいなくなると、リンのか細い呼吸音に嫌でもきずかされてしまい、ゼルフの心は沈み込む。
「頑張ったんだな…」
片目に掛かった髪をやさしく払いのけてやりながらゼルフが呟くと、リンは弱り切った眼に笑みを溜めた。
「はい…わたし…がんばって…」
笑った拍子に再び涙がこぼれるが、リンは微笑んだままつづけた。
「帰ってくる途中…なんども…もうダメだとあきらめかけたけど…でも」
いたわる様に見下ろしたゼルフの手をリンが力強く握りしめ、ゼルフも握り返した。
「でも、頑張って、耐えて…死ぬ前に、もう一度…一目だけでいいからと…」
「…大丈夫だ。傷が癒えるまで安静にしていれば…」
リンを落ち着かせようと、頬を撫でると、リンは首をゆっくりと降った。
そして何も言わずに、黙り込む。
「リン?」
心なしか微笑みに陰りが見えるような気がする。たまにある、リンの自分の身よりも誰かを優先する癖が出る時の笑みに似ている。
リンのその笑顔が自分に向けられるたびに、リンが犠牲になる必要はないといい続けてきたが、リンは口では承諾するものの、もとからの気質なのだろうその笑顔をたくさんの人に向け続けた。
「また何か抱え込んでいるのか…」
「ほんと、ゼルフには…隠し切れないみたいで…」
すまなさそうにかすかに笑うリンは、言ってみろと催促すると、悩んだ末に頷いた。
「黙っていても…いずれわかってしまうし…わたしは魔法でも治せないほど、重症だって…なおせないって…そう、お嬢様たち、はなしてたの」
「……」
「今はお嬢様に…傷を閉じて貰ったけれど…閉じた傷が治ることはなくて、動けばすぐ傷は開いてしまうって」
一気に話したリンは、目が回ったように一度呼吸を整えてから天井をじっと見上げた。
健気に話しているが、やはり会話するだけでも体力をかなり消耗しているらしい。
「それに…こうして喋るだけなのに…少しずつ目が回ってくるの。たぶん、わたしはもう…」
喋り続けた影響だろうか、リンの顔色が少しずつわるくなってきている。その様子は、数多の戦火を潜り抜けてきたなかで見てきた命の消えかかる人々とだぶった。
「…大丈夫だ。側にいるからな」
瞼の裏にそうして死んでいった仲間たちを思い出しながら、ゼルフはリンの手を握って安心させようと、ちいさくつぶやいた。




おまたせいたしました!
ようやくの更新です!
参照11000越えありがとうございますっっ
久しぶりすぎてゼルフさんに話しかけるリンさんの口調が、敬語だったか普通だったか忘れてしまってましたw


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