複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- さぁ 正義はどっち ? 参照13600ありがとう御座います!
- 日時: 2016/08/23 00:57
- 名前: メルマーク (ID: KzMBmi6F)
戦争と平和は正反対のものと考える人が多い世の中
それは本当なの?正義って何?悪って何?
答えが見つからないなら探せば良い。
多分異色な今までにない、正義についてのお話し。
答えはありませんが、きっと終わった後 何が正解か思い浮かぶはず。
時代は古きよき時代、中世頃にしようかと
オリキャラ募集一応締め切らせていただきます!
終章にもうじき突入予定なので‥・もしかしたらまた募集するかも・・・?
名前
性別
年齢
容姿
A国B国どちらの味方?(国名は長いので省略
性格
武器
サンボイ「」
職業は?下から選択下になければ新職業を書いてくれるとうれしいです
騎士 傭兵 盗賊 貴族 海賊 海軍 王室(王族をのぞく外交官・メイド・執事・王族のいとこ)関連
占い師 科学者(錬金術師) 芸術家 哲学者 商人 国民 旅人 魔法使い など
武器や変わった特徴などの要望も即採用です
結構な確率で”死ぬケース”もあるのでご了承ください!!
◇目次◆
王国ルート001 >>5 帝国ルート001 >>43
王国ルート002 >>15 帝国ルート002 >>49
王国ルート003 >>20 帝国ルート003 >>50
王国ルート004 >>23 帝国ルート004 >>54
王国ルート005 >>31 帝国ルート005 >>63
王国ルート006 >>66 帝国ルート006 >>81
王国ルート007 >>67 帝国ルート007 >>83
王国ルート008 >>68 帝国ルート008 >>90
王国ルート009 >>71 帝国ルート009 >>91
王国ルート010 >>74 帝国ルート010 >>93
王国ルート011 >>101 帝国ルート011 >>114
王国ルート012 >>103 帝国ルート012 >>117
王国ルート013 >>106 帝国ルート013 >>118
王国ルート014 >>108 帝国ルート014 >>120
王国ルート015 >>110 帝国ルート015 >>122
王国ルート016 >>123 帝国ルート016 >>183
王国ルート017 >>127 帝国ルート017 >>184
王国ルート018 >>133 帝国ルート018 >>187
王国ルート019 >>142 帝国ルート019 >>191
王国ルート020 >>144 帝国ルート020 >>193
王国ルート021 >>194 帝国ルート021 >>207
王国ルート022 >>197 帝国ルート022 >>208
王国ルート023 >>200 帝国ルート023 >>209
王国ルート024 >>203 帝国ルート024 >>210
王国ルート025 >>204 帝国ルート025 >>212
王国ルート026 >>214 帝国ルート026 >>232
王国ルート027 >>217 帝国ルート027 >>238
王国ルート028 >>219 帝国ルート028 >>239
王国ルート029 >>223 帝国ルート029 >>246
王国ルート030 >>224 帝国ルート030 >>258
王国ルート031 >>286 帝国ルート031 >>298
王国ルート032 >>287 帝国ルート032 >>304
王国ルート033 >>288 帝国ルート033 >>309
王国ルート034 >>292 帝国ルート034 >>312
王国ルート035 >>295 帝国ルート035 >>314
王国ルート036 >>317 帝国ルート036 >>329
王国ルート037 >>319 帝国ルート037 >>331
王国ルート038 >>321 帝国ルート038 >>334
王国ルート039 >>325 帝国ルート039 >>335
王国ルート040 >>326 帝国ルート040 >>336
王国ルート041 >>340 帝国ルート041 >>372
王国ルート042 >>347 帝国ルート042 >>375
王国ルート043 >>352 帝国ルート043 >>378
王国ルート044 >>353 帝国ルート044 >>382
王国ルート045 >>357 帝国ルート045 >>386
王国ルート046 >>387 帝国ルート046 >>399
王国ルート047 >>390 帝国ルート047 >>402
王国ルート048 >>393 帝国ルート048 >>407
王国ルート049 >>395 帝国ルート049 >>408
王国ルート050 >>398 帝国ルート050 >>409
王国ルート051 >>425 帝国ルート051 >>431
王国ルート052 >>426 帝国ルート052 >>433
王国ルート053 >>428 帝国ルート053 >>434
王国ルート054 >>429 帝国ルート054 >>436
王国ルート055 >>430 帝国ルート055 >>437
王国ルート056 >>442 帝国ルート056 >>450
王国ルート057 >>443 帝国ルート057 >>451
王国ルート058 >>446 帝国ルート058 >>453
王国ルート059 >>447 帝国ルート059 >>454
王国ルート060 >>449 帝国ルート060 >>461
王国ルート061 >>462 帝国ルート061 >>471
王国ルート062 >>465 帝国ルート062 >>472
王国ルート063 >>466 帝国ルート063 >>476
王国ルート064 >>467 帝国ルート064 >>477
王国ルート065 >>468 帝国ルート065 >>480
王国ルート066 >>482 帝国ルート066 >>492
王国ルート067 >>483 帝国ルート067 >>493
王国ルート068 >>487 帝国ルート068 >>495
王国ルート069 >>488 帝国ルート069 >>496
王国ルート070 >>489 帝国ルート070 >>499
王国ルート071 >>504 帝国ルート071 >>516
王国ルート072 >>506 帝国ルート072 >>517
王国ルート073 >>507 帝国ルート073 >>520
王国ルート074 >>509 帝国ルート074 >>521
王国ルート075 >>510 帝国ルート075 >>525
王国ルート076 >>528 帝国ルート076 >>539
王国ルート077 >>533 帝国ルート077 >>543
王国ルート078 >>534 帝国ルート078 >>545
王国ルート079 >>537 帝国ルート079 >>547
王国ルート080 >>538 帝国ルート080 >>548
王国ルート081 >>551 帝国ルート081 >>560
王国ルート082 >>552 帝国ルート082 >>562
王国ルート083 >>553 帝国ルート083 >>563
王国ルート084 >>557 帝国ルート084 >>564
王国ルート085 >>558 帝国ルート085 >>566
王国ルート086 >>571
王国ルート087 >>574
王国ルート088 >>575
王国ルート089 >>578
王国ルート090 >>579
◇カメルリング王国味方
>>2 ルーク 主人公
>>1 ミルフィーユ 発明家・美食家・資産家
>>4 キリエ 牧師・哲学者
>>16 ノイアー 傭兵
>>25 ラグ 執事
>>28 サイト 商人
>>29 リグレット 僧侶
>>39 ツバキ 軍人
>>55 ユニート 魔導師
>>58 ラルス 騎士
>>58 リリー 暗殺者
>>75 ジョレス 傭兵
>>78 フランチェスカ 王女
>>87 ハニー 妖精
>>99 シラン 術士
>>221 カルマ 学者・錬金術師・魔術師
>>289 フランキール 王子
>>440 シュバルツ 海賊
>>457 リレーナ 竜騎士
◆ミカイロウィッチ帝国味方
>>14 エドウィン 主人公
>>6 ヴィトリアル 盗賊
>>11 アーリィ 魔女
>>12 ゼルフ 黒騎士
>>12 リン メイド
>>27 シフォン 貴族騎士
>>30 イヴ 術士
>>37 ウィンデル 大道芸人
>>59 クウヤ 剣士
>>60 ツヴァイ 科学者(薬学)
>>76 ミレア 傭兵
>>78 シェリル 皇女
>>85 ディルム 精霊
>>96 ライヤ 偵察兵
>>98 セイリーン ドッペルゲンガー
>>278 レイ 魔女
>>305 故)フィア 魔女の弟子
>>305 故)キオ 魔女の弟子
◎味方につかない者
>>163 ソーサラー(呼称) 占星術師・幻術師
>>163 スキンヘッドハゲ(呼称) 盗賊
>>227 ヨメナイヤツ アドバイザー
キャラ応募してくださった皆様心よりお礼申し上げます!素敵なキャラをありがとう!!
◇番外編◆
参照四桁祝
・イヌ派ネコ派の王国日常 >>146
・絶対に信じちゃいけない言葉で帝国日常 >>150
・執事採用試験 >>156
・団長の足取り >>157-158>>160
・ある幻術師の思い出 >>162>>164>>170>>173>>175>>176
参照二千祝
・とあるメイドの追走劇 >>248>>254>>257>>260
・傭兵の黒と従者の白 >>263>>264>>269>>272>>274>>280>>281>>282>>283
参照三千&四千祝
・魔法使いの弟子 >>360>>363>>364>>367-368
・帝国サイド盗賊団と加担者でチビキャラ全員集合イラスト >>371
参照4500祝
・王国・番外ルートで抜粋チビキャラ集合イラスト >>404
銀賞&殿堂入り祝
・メイドと騎士と仲介人 >>415>>417-418>>421>>423
参照5000祝
参照6000祝
参照7000祝
金賞祝
参照8000祝
参照9000祝
参照10000祝!
参照11000祝!!
参照12000&13000祝!!!
保留
どんどん保留祝が増えて行っている…本編終わったら一気に大感謝祭とかやりたいなぁ、なんて考えてます
・・・業務連絡・・・
2014の冬の小説大会で銀賞もらえました!ありがとうございます!
2015の夏の小説大会で金賞もらえました!!ありがとうございますっっ!
参照5000祝いと6000祝、7000祝、8000祝9000祝そして10000祝。11000祝はのちほど…ッ!
時間軸まとめ >>234
- さぁ 正義はどっち ? 参照11900ありがとう御座います! ( No.560 )
- 日時: 2016/05/02 19:39
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)
ミカイロウィッチ帝国ルート 081
沢山の船が見る見るうちに近づいてくることに恐怖を覚えるどころか、むしろありがたいとシュナイテッター侯爵は手を揉んだ。見張り番の輩が慌ただしく報告に走って、見張り人は双眼鏡を目に押し当てたまま硬直している。
このまま崖をこっそりと登って背後をとれば、たやすく城内へとあ通じる扉へ入り込めるだろう。そうすれば娘のエドウィンを探して、混乱に乗じて亡命できるはずだ。
犬死する計画に思えてしょうがなかったが、最後の望みは神に微笑まれたかのように幸先が良いらしい。
呼吸を整えて、声を殺して崖をよじ登る。兵士から目をそらさずに体制を低くして扉までにじり寄ると、素早く身をひるがえして突入した。
城内にまで続くと思しき階段の通路は、いたるところに別の通路へとつながる階段が続く、アリの巣のような狭い空間だった。
どこへ行けばいいのか全く分からないが、前方から足音が聞こえてきたため急いで隣の通路へと転がり込む。そのまま身を伏せたままでいると、兵士だろうか、鎧をまとう一団がすさまじい勢いで過ぎ去って行った。
このままでは見つかってしまうが、かといって進まないわけにはいかない。息を調えるとたまたままがった階段をゆっくりと登り始めた。
「わたくしに…カメルリングの降参を求めるのですか…?」
悲痛さを隠そうともしない表情で、苦痛に満ちた柔らかな声が部屋によく通る。これはよい予兆だとシェリルは微笑む。
反感、苦痛、懇願。そして最後に救いの手。フランチェスカのようなタイプはイラつきはするけれども扱いやすい人間が多い。
彼女ももうじき落ちるだろうと、そう思っていた矢先の出来事だった。扉の前を固めていたミレア・クロスヒィルムが、何かに気付いたようにはっと息を呑んだ。
「シェリル様!」慌てふためくその大声が、フランチェスカの思考を妨げたようで彼女が大きく深呼吸する。
「なにかしら」
出来るだけ彼女に大きなストレスを与え続けたかったシェリルは、ちょっとした小休憩を与えてしまったミレアに苛立ったように目を向けた。
ミレアは失礼いたしますと一礼してからシェリルのもとに歩み寄り、他の誰にも聞こえないように囁いた。
「我が国の物ではない船が幾船も帝国の海上に侵入してきています。距離はかなり近いため、あと一時間もしないうちに上陸すると思われます」
「確かなの。もしや…」
カメルリング?と口の形だけで伝えると、ミレアもおそらくは、と頷く。
確認するために窓際にそれとなく移動すると、確かに海上には幾つもの船がまばらに点在している。他の者たちは気づいていないのだろうか。
(やってくれるわね)
心の中で悪態をつきつつも、この事実はフランチェスカには伝えてはならない。彼女が魔力を暴走させない理由は、彼女がただ単に平和主義であるからではない。誰も助けに来ないという絶望心から逃走すること自体を無意味と感じているからである。
(王国が乗り込んできたと知れば魔力の大暴走を起こすかもしれない。さすがにそれを起こされてはひとたまりもないわね)
しかし、と船に目をやりながらシェリルは唇をかんだ。
まずい時に王国が攻めてきたものだ。王女をはやいところどうにかしなければならない。
王女を立てにとって王国を屈服させるためには、王女自身の言葉で降伏を伝えさせねばならなかった。しかし、王女を縛り続けるには帝国一の魔女を縛ることになり、魔女を解放するには、逆に幻術師を縛ることになる。
どちらも主要な戦力で、こうも奇襲をかけられた際に最も動いてくれそうな駒が封印されると困る。
「いいわ、あなたはすぐに宮殿内に奇襲を伝えてちょうだい」
ミレアにそう伝えると、シェリルは踵を返してスカートの裾に手を這わせた。目当ての物を指に絡めたまま、フランチェスカの前まで戻る。
「どう、決心はついたかしら」
覗き込むようにフランチェスカに顔を近づけ、彼女が心底困り果てたような顔をするのをじっと見つめる。
「まだ時間はあるわ、考えていいのよ、答えが出るまで」
「あなたは—」
フランチェスカが怪訝な顔をしてシェリルを見曲げた瞬間、隠し持ったナイフを彼女の体に突き立てた。
「—!!」シェリルが素早く動いたことに最初驚いていたようだったが、体に突き刺さるナイフの焼けつくような痛みに声一つ上げられずフランチェスカは床に頽れた。
条件反射の様に放たれた彼女の魔力攻撃がシールドを破壊したが、何重にも張られたシールド全てを壊すことは出来なかったようだ。
なにがおきたか理解できないという様に弱弱しく閉じて行く目でシェリルを眺める彼女に、「ただの神経毒よ、解毒剤はあるわ」
優しく笑いかける。
「あなたの返事は、誰か別の人にしてもらうことにしたわ。その返事を私が気に入ったら、もう一度あなたとこうしておしゃべりできるわね」
フランチェスカが最後に何か言ったような気がしたが、彼女の意識は途切れたようだった。
それを確認すると、シェリルは立ち会っていた盗賊団に振り返り、告げる。
「王国が攻めてきたようね。戦争には必ず国王が来るわ。殺してきなさい。もしくは、戦力をそいだ状態でここへ連れてきなさい。彼女の返事の代わりをソイツにさせるわ」
三人—アーリィ、ヴィトリアル、クウヤは目を合わせると、小さくうなづき合った。
- さぁ 正義はどっち ? 参照11900ありがとう御座います! ( No.561 )
- 日時: 2016/05/02 19:43
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)
こんばんはコッコさん!
久しぶりすぎる更新です!
勝利をつかむのはどちらでしょうねェ←
コメントありがとうございますっっ
- さぁ 正義はどっち ? 参照11900ありがとう御座います! ( No.562 )
- 日時: 2016/05/02 21:31
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)
ミカイロウィッチ帝国ルート 082
「………」
血のしみついた床にへたり込んで、顔を覆うことしかできない。リンはあたしを救いに来るためにここへきて、皇女に魂を売ってしまった。
そして重傷を負って帰ってきたのに、あたしにはリンを救うことが出来ない。
何もしてあげることが出来ない。神様に祈って助かるなら、祈る。悪魔に魂を差し出して彼女が治るというのなら、差し出すのに。
「なんか上が騒がしいね。ボク、見てくるよ」
リンがどういうわけで王女のもとに加わったのかを説明した後、エディが再起不能なほどにダメージを受けたのを見て取ると、ツヴァイはそうつぶやいた。
しばらくレイがエディの肩をそっと撫でていてくれたが、やがて何も言わずに拷問部屋を出て行った。
「リン……」
一番つらいのはリンと、そしてゼルフのはずだ。あたしが被害者ずらしていてはいけない。
床に爪を立てて痛みで自分を奮い立たせようとすると、ふと、拷問部屋の隅の本棚に目がいく。
何か彼女のためにできることがないか、それを探さなくてはいけない。ないとわかっていても、何かしなければ気が狂いそうになる。
よろよろと本棚まで歩くと、本を引っ張り出した。どれも難しい医学書や、解剖図、薬品の不思議な記号が掛かれたものであふれていた。
とても理解できそうもないことしか書かれておらず、ページをめくるたびに悔し涙が出てくる。
「王国が奇襲を仕掛けてきたみたい」
そんな背中に、慌てて階段を駆け下りてきたレイが声を掛けた。
「—え?」
涙をぬぐいながら振り返ると、レイが肩で息をしながら拷問部屋を突っ切り、リンとゼルフのいる部屋を開けた。
「兄さん、ごめんなさい、王国が攻めてきて——」
くぐもったやり取りがした後、ゼルフが剣を抜いてレイのあとに続き、ふとエディに目を止めた。
悲しそうな瞳で、「リンを頼む」と告げると、ゼルフは答えも聞かずに階段を駆け上がって行った。
「待って…!」
その背中に本を放り出して声を掛けるが、彼らは止まらずにすぐに見えなくなった。
開け放したままのリンのいる部屋を見て、エディは呆然と立ち尽くす。
「リンが側にいてほしいのはゼルフさんなのに…」
リンから沢山の物を奪ってしまった自分に、どうしろと言うんだと、絶望感がまた色濃く心をつぶす。
しかし、開いた扉からはエディを呼ぶリンのか細い声が聞こえてくる。
その声は明らかに弱弱しく、声を出す事でお腹の怪我にも響くだろうに、何かをつかえようという一心でしぼりだされている。
遺言でも伝える気なのか、それとも最後に恨み言を伝える気なのか、どちらにしても、リンが何かを死の間際にどうしても伝えたがっているのがわかる。
けれど最後の言葉を聞く資格など、あたしにはないのだ。
「行ってあげないの?呼んでるみたいだけど」
その場に釘づけになって硬直するエディに、階段から降りてきたツヴァイが不思議そうに首を傾げてつぶやく。
「というか、こんな悠長なことしてる暇ないよ。レイから聞いたでしょ、王国がもうじき乗り上げてくるん—」
「リンを助ける方法はないの?」
言葉をさえぎって冷え切った言葉で尋ねると、リンの呼び声までが途切れた。
「ツヴァイは人体実験とか、沢山してきたんだよね。薬だっていろいろ作ってきたんだったら…、だったら…死にそうになっている人を助ける方法も知ってるよね?」
床に散らばる人体解剖図や資料の中に、何か一つでもいい、あたしにわからないリンを救う方法があるのならば、それに命だって賭けたい。
しばらく黙ったままでいたツヴァイは、本棚にしゃがみこんでひどく古い紙束を取り出して机に広げ始めた。
期待して見守っていると、折れた紙の角を指でこすりながら、ぽつぽつとつぶやき始める。
「ひとつだけずっと試したい実験があったんだ……これ」
指差された古い書面には、羊と人間が描かれている。バツ印が掛かれているものの、なにやら羊と人をつなぐ赤い線が見える。
それを指でなぞりながら、ツヴァイが目を伏せてつぶやく。
「皇女様にも頼んだけど、あまりにもたくさんの人が必要だからって却下され続けてきたんだ」
でも内緒で少しずつ試して、ようやく一つの仮説を立てることが出来たんだと、熱っぽくしゃべるのだが、彼が何を言っているのかが理解できない。
それを見て取ったのか、ツヴァイは一から説明しだす。
「今から何十年も前に、この拷問部屋を管理していたある人が、出血多量の人が生き続ける為には無垢な血が必要なのだと定説したんだ。そしてある一人の青年に、羊の血液を輸血した」
え、と声を漏らすが、次の言葉にさらに驚いてしまう。
「そして青年は息を吹き返したように元気になった」
でも、それじゃ駄目だったんだ。と羊の上についている×を指差す。
「何回目かの羊との輸血実験で、人が死んでしまった。では次、気を取り直して人と人で輸血実験を行った。成功すると思うよね?」
でも死んじゃったんだ、と紙の束に目をやりながらそうつぶやく。
「いくら人を変えて実験しても、なぜか血が固まってみんな死んじゃうんだ。だから、この実験は禁止され続けてきたんだ」
血のしみこんだ、一度は自分も座った机の上で、いったい何人の人々が実験台になったのだろうか?
研究の成果がまとめられた紙は相当古そうであり、そしてもう木の色ではないこの机もまた、相当の年季を持っていそうだ。
「ボクは人を殺すのが趣味じゃないよ。ただ、好奇心が抑えられなかっただけだし、沢山の薬だって、そうやった犠牲から生まれるんだ…」
肩をすくめて、白衣のポケットからラベルの付いた薬品を取り出す。
「実験を繰り返すうちに、血液が固まらないようにする方法を見つけたんだ。これを使えば、長い失敗記録を持つ輸血実験も成功に終わる」
掲げられた薬品瓶を眺めながら、エディは黙り込む。
「その実験はもう成功したの?」
尋ねれば、にやりと微笑まれる。
「何言ってるのさ、今からそれを試すんだよ。リンを助けたいんでしょ?協力してれるよね」
この輸血実験、実話です。
輸血医ドニが、羊と青年の輸血を実際に行い、(たしか)4人まで成功を収めました。けれど、五人目にして被験者が不幸にも死亡してしまいます。
そして国全体で禁止された人体実験は、ついに国を超えたある場所で、人対人で行われました…!
本当に精神的に参ってくるのはルークじゃなくてエディの方なのかもしれない・・・
- さぁ 正義はどっち ? 参照12000ありがとう御座います! ( No.563 )
- 日時: 2016/05/30 23:21
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: kphB4geJ)
ミカイロウィッチ帝国ルート 083
ぜいぜい息を荒げながら、額に滲んだ汗を袖で拭う。こんなに緊張し、心拍数が上がる体験をするなど、ほとんどない。
(妻の病気が治らないと悟った時と、帝王に爵位を授与されたとき以来だな…)
苦々しげにもう一度口元をぬぐったシュナイテッター侯爵は、階段の奥の通路をうかがう。
あれから適当に転がり込んだ通路は行きどまることを知らないように直進しており、時折、分かれ道の通路から騎士が甲冑を鳴らして走る音が聞こえるだけだ。
どこか騎士たちの休憩室にでも通じているのかもしれない。城内に通じていることに安堵しながらも、もしもばったり出くわして切り殺されたらと思うと、汗が噴き出す。
護身用のナイフではたちまち斬り殺されてしまうだろう。
さらに、王国の連中が上陸してしまえば、乱闘騒ぎになり混乱に乗じて場内をうごくには楽そうだが、エドウィンを見つけたとしても殺されずに抜け出す方法が未だ考え付かない。
(なるようになる…)
緊張のあまり乾いた唇を舐めて、侯爵は壁に手をついてよろよろと前進した。
明かりなど差し込まないほど暗くなった通路が、ついに行き止まりを示した。
息をひそめながら、手を伸ばして壁を撫でる。ざらついた岩の感触が、ふと、滑らかな石の感触に変わる。
そのまま手を滑らせていくと、一部分だけぽっかりとくぼんだ穴を見つけた。おそらく昔のドアノブなのだろう、そのくぼみに手をかけて、体重をゆっくりかける。
案外軽く開いたその扉の奥には、ほのかに灯りの指す小部屋に続いていた。空気のよどみ具合から、ここ何年か一切使われていない部屋らしく、思わずむせそうになった。
呼吸を調えながら耳を澄ますと、誰かが細々と話す声が聞こえてくる。薄い壁の向こうから聞こえてくる声は、おそらく騎士か何かの物だろうか。
明かりが漏れ出ている一角へ来ると、そこも滑らかな石の扉だった。
そこ以外通路がないことを悟ると、しばし悩んだ末、侯爵は扉に手をかけて、深呼吸を繰り返した。
そして今日まで続いてきた自分の運にかけて、扉を強く押し開いて叫んだ。
「大変だ!王国が攻め込んできたぞっ!」
浅い眠りに落ちてすうすうと柔らかな呼吸音を立てていたウィンデルは、突然誰かが大声を出したことに驚いて飛び起きた。
「っえ…なに…?」
パペットをはめた手で身を起こして首を巡らせると、隣の寝椅子で眠っていた立派な身なりの騎士も、不機嫌そうに髪をかき上げていた。
「静かにしてほしいんですけどねぇ…」
金糸の施された純白の軍服の騎士は、大声を出したであろう男へと不機嫌そうに眼をやる。
ウィンデルも全くもって同じ心境であり、びっくりして飛び跳ね続けている心音を抑えようと、胸を撫でた。
大声を出した男は、身なりの良い服を土埃で汚した紳士だった。顔を緊張でこわばらせ、何年も開いていなかったと思しき扉を開け放ったその人は、こちらの反応を見ると拍子抜けしたような顔を一瞬した。
が、彼が再び何か言う前に、休憩室の廊下をすさまじい勢いで走り抜ける金属音が聞こえた。そして半開きの扉に手が差し込まれ、軽く息を切らしながら緑髪の女性が駆け込んでくる。
「あ…シフォン!ちょうどよかった—!」彼女はウィンデルの隣の寝台にいる白い騎士、シフォンに慌てて詰め寄る。
「ミレア、そんなに慌ててどうしたんです?」まだ眠そうに眼を瞬いたシフォンは、純白の軍服についた小さなほこりを摘み取って不快気に叩き落とした。
眠そうなシフォンとは対照的に、ミレアはずいとシフォンに詰め寄って早口に告げた。
「王国よ、王国が攻めてきたの!はやくあなたも迎え撃ちに行く準備して!私もゼルフを見つけて合流するから!」
そして踵を返しながら、休憩室の奥でたむっていた別の騎士達にも、ほら貴方たちも早くっ!と声を掛けて部屋を走り抜けていく。
「王国が攻めてきた…ですって?」
「なんで……」
シフォンとウィンデルが同時に呟くと、それまで息をひそめていたように黙り込んだ例の土埃の紳士が水を得たりと叫んだ。
「言った通りだろう?!王国が幾船もの船で海から攻めてきた…上陸まであと三十分もないぞ!私はこのことをみんなに知らせてくる!」
気違いじみた叫びをあげた紳士は、部屋を駆け抜けながら振り返りざまに唖然とする騎士たちに叫ぶ。
「私の出て来た通路は宮殿の裏の見張り台から続いている。そこから出撃すれば王国の連中と対面できるぞ!」
言い切ると、土埃の紳士は扉に飛びついてさっと廊下に飛び出していった。
「しようがないですねぇ…!」シフォンが豪奢な金髪を手ですきながら、腰に下げた剣を構えて苛ただしげに紳士の飛び込んできた通路に歩み寄る。休憩室にいた騎士達も、剣呑な顔をしながら武器片手にシフォンの周りに集まっていく。
「優雅さのかけらもない平民上がりどもと戦ったところで名誉は一向に上がらないというのに」
ブツブツと文句を言うシフォンだったが、剣を持つ姿が様になっているところを見るとそこそこ強いらしいことがうかがえる。
k氏を引き連れて通路へ消えていく彼の後姿を心細そうに眺めて、ウィンデルはパペットをぎゅっと抱き寄せて小さく身震いした。
「…イヴ、イヴを探さなきゃ」
怖いけど、イヴを見つけるって約束したから…。息を呑んで、震える足を絨毯におろし、ウィンデルは廊下へと続く扉に手を掛けた。
参照12000感謝ですっ
- さぁ 正義はどっち ? 参照12200ありがとう御座います! ( No.564 )
- 日時: 2016/06/03 18:23
- 名前: メルマーク ◆kav22sxTtA (ID: A1qYrOra)
ミカイロウィッチ帝国ルート 084
まずはこれで血をとって、と差し出されたメスを恐る恐る握ると、呻くような声が何度もエディに呼びかける。
「お嬢様…おやめください…!」
悲痛そうな声で静止するリンの声は、皮肉なことに逆効果を与えてしまうようだ。ためらいがちに握っていたメスを、エディは強く握りしめた。
視線を拷問部屋の奥へと移すと、ツヴァイが刃物を小さな炉の中に突っ込んでいる。地下で炎を起こすのだから、どこかに換気のための空気の通路があるのだろう。
振り返ったツヴァイは、エディが突っ立っているのを見ると小首を傾げて何してるのさ、と肩をすくめた。
再び弱弱しいリンの声が聞こえ、エディは震える指先でメスを操り、皮膚の上で滑らせた。
小さなくぐもったやり取りがずっと聞こえていた。痛みはあまりないが、少しでも身をよじると、切り裂かれるような痛みに心臓が止まりそうになる。
王国が攻めて来たという言葉を聞いて、リンは傍らを離れる気のないゼルフに、黒騎士としての責務を果たすよう、苦しい息の下から懇願した。
ゼルフは嫌がっていたが、死ぬ定め自分の所へ留まるよりも、今生きている人たちを救う方が先決であると訴え続ければ、悲しそうな顔をして去って行った。
そして最期の挨拶を告げようとエディの名前を呼んだ直後のことだった。
「協力すれば、リンを助けられるの?」
ふと、涙ぐんだ声がそうつぶやいた。
「もしかしたらね。でも、君も死ぬかも」
無邪気そうな声が重々しく返答する。
(何を言って…?)
寝ころんだまま、リンは首だけを巡らせて、どうにか拷問部屋の方を見ようとする。しかし腹筋に力が入り、たちまち体が分裂しそうなほどの痛みが腹部を襲う。頬を絨毯に押し付けながら、痛みをやり過ごそうと深呼吸を繰り返す。
「…わかった。協力する。何をすればいいの?」
けれど、エディのその言葉に、痛みを吹っ飛ぶほどの衝撃を受けた。
「まずこれで君の腕を切ってよ。失血死されると困るから、深く切りすぎないでよね」
唖然としていたリンは、あわてて叫び声を上げた。
大声を出すとお腹に力が入るため、意識が遠くなるような痛みに襲われる。
走り寄ってその手からメスを叩き落としたかったが、立ち上がれない。
「お嬢様…おやめくださいっ」
嘔吐しそうな痛みをこらえて腹這いになると、必死に絨毯にしがみつきながら前進し、拷問部屋へ顔を突き出す。
肩で息をする瀕死状態のリンが見たものは、自身の血だまりの中でへたり込んだエディの背中だった。
「言ったじゃないか、深く切りすぎると死んじゃうって」
瓶の中に適量の血液を採取し終わった後、ひろがっていく血だまりを呆然と眺めているエディにツヴァイはあきれたように声を掛けた。
拷問部屋の入り口にリンが顔をのぞかせており、信じられないという顔でこちらを見つめ、震えている。
「君もほら、動くと傷口が開いて死んじゃうよ」
包帯できつく締め付けて止血し終わると、ツヴァイは白衣から薬品を取り出し、エディの血液の中に数滴たらした。フラスコを撹拌しながらリンに近寄ると、リンが親の仇でもそんな目で見ないだろうというような怒りをあらわにした目で見上げてきた。
もしリンが無傷だったのなら、すぐに息の根を止められていたのかもしれない。
「なんてことを—!」
怒りで目を見開いたリンだったが、腹部の傷が完全に開いたのだろう、激しく咳き込んで吐血し始めた。
鮮血の方が実験に適しているため、項垂れているリンの腕を押さえ、手の甲にメスで線を入れると、絞り出すようにリンの血をフラスコの中へと垂らした。
撹拌しながら半ば気絶しかけているエディの側に戻ると、炉の中に入れておいた刃物がちょうどよいくらいに熱されたようで、部屋の中が温かくなってきている。
リンが苦しげにせき込んでいるが、もう少しで助けてあげられる。
切り裂きすぎてしまった自分の腕が、ジンジン痛む。けれど、リンを助けるためには必要だったのだ。そう思うと少しは我慢できる。
ふと、前方で黙り込んだままフラスコを覗き込むツヴァイが、ゆっくりとテーブルにフラスコを置いた。
撹拌が終わったのだろうか、眺めていると、炉の中からよく熱された刃物を取り出して、こちらに近づいてしゃがみ込んだ。
色違いの目を思案気に伏せながら、エディの血塗れの包帯を外す。
「だめだね、エディ。君の血液はリンのとは適合しないみたい」
「どういうこと?!それじゃリンは?死ぬの?!」
エディが戦慄して叫ぶと、小さくかぶりを振って熱された刃物を持ち上げ、不思議な表情でかすかに笑っている。
「別の人の血液で試してみようよ。リンを助けられないかどうか決めるのは、それからでも遅くないでしょ?」
そういうと小首を傾げたまま、高温に熱された刃物の面をエディの傷口に押し当てた。
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