複雑・ファジー小説
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- シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【氷国の民編】
- 日時: 2019/09/08 08:53
- 名前: 姫凛 (ID: 9nuUP99I)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=19467
これから綴る物語は忌まわし呪われた血によって翻弄され
哀しき封印から少女達を救い
少女達と共に謎の不治の病に侵された小さき妹を
助けるため小さな箱庭を行き来し愛と絆の力で闘い続けた
妹思いな少年と個性豊かな少女達の絆の物語である
-目次-[シークレットガーデン〜小さな箱庭〜]
登場人物紹介 >>166-168
-用語紹介- >>169
-魔物図鑑- >>23
-頂きもの-
高坂 桜様(元Orfevre様)より シル(オリキャラ)>>10
はる様より リア・バドソン(オリキャラ)>>11
ブルー 様より ヒスイ(オリキャラ)>>12 ヒスイ(キャラ絵)>>205
レム様より エリス(オリキャラ)>>66
華那月様より ヨナ(キャラ絵)>>08 ランファ(キャラ絵)>>09 シレーナ(キャラ絵)>>38
むらくも(キャラ絵)>>39
むお様より リオン(キャラ絵)>>37
自作:エフォール(キャラ絵) >>217
-あらすじ(第九章)
山の国の何処かにあると言い伝えられている女神が誕生した遺跡 アンコールワットで見事試練を乗り越え真実の歴史を知ったルシア達は遺跡を出てリオン、リティと別れ時渡の樹が生えた広場でヒスイと合流を果たした。
新たに出来た旅の目的。四つの国にある四つの遺跡を巡りかつて女神と共に邪神と戦った王達の力を受け継ぐ旅の始まり。
——さてどこの国の遺跡から行こうか?
-章の目次-
*1分〜10分(読むスピードで個人差があります)で物語の概要が分かるスキップ物語☆
*本編を読むだけでも物語を楽しめますが個別の短編も読むことでより深く楽しむことが出来る作りとなっています。
序章 出会いと別れ >>05-07 -スキップ物語- >>22
第一章 物静かな看護師の闇
荒くれ者 ザンク編 >>13-20 -スキップ物語- >>40
シレーナの封じた過去編 >>24 >>26-36 -スキップ物語- >>50-51
(より抜き「 魔女と呼ばれた少女の物語」完結済み)>>152)
第二章 汚された草競馬大会 >>43-47 -スキップ物語- >>52
第三章 大都市で起きた不可解な事件
宿屋での選択肢 >>48-49 -スキップ物語- >>53
[ムラクモを探す- >>55] [後をついて行く- >>54 …正体END]
遺体のない葬儀編 >>56-61 -スキップ物語- >>68
立食パーティー編 >>62-63 >>67 -スキップ物語- >>79
第四章 監禁・脱走 >>69 >>73 >>76-78 -スキップ物語- >>124
(叢side「椿の牢獄」>>158完結済み)
(別side「菊の牢獄」>>)
第五章 美しき雌豚と呼ばれた少女
コロシアム編 >>82 >>85-90 >>93 >>97 >>100-101 >>104 >>107-108
-スキップ物語-上中下>>125-127
シルの封じた過去編 >>111-113 >>119-123 -スキップ物語- >>128
(続編「美しき雌豚と呼ばれた少女とおくびょう兎と呼ばれた少年」完結済み)>>153)
第六章 闇と欲望の国
アルトの封じた過去編 >>129-133 >>136-138 >>143-145 -スキップ物語- >>146
裏カジノ編 >>147-150 -スキップ物語->>151
(幕間「感情のない少女の物語」>>224)
敵の本拠地へ編 >>154-156 -スキップ物語->>157
第七章 賢者たちの隠れ里 >>159-163 -スキップ物語上下- >>164-165
第八章 からくり遺跡
女神の試練編 >>170
[勇気の試練>>183-186 ] [知恵の試練>>177-182] [力の試練>>171-176]スキップ物語->>187-189
[仲間->>185…生贄end] [友人->>186…見損ないend][本当->>181] [嘘->>180…神のお遊戯end]
[棺を開けない- >>173-176][棺を開ける- >>172…死神end]
隠された真実編 >>194-197 -スキップ物語->>193
(修正前>>190-192)
第九章 荒くれ者の最期 >>198-202 -スキップ物語->>207
(幕間「殺戮人形と呼ばれた少女の物語」>>224)
第十章 殺戮人形ト色欲妖怪
王家の墓編 >>208-216 -スキップ物語->>
リアの封じた過去編 >>218-2231
[受け入れる>>220-221]…喪失END [受け入れない>>222-223]…永眠end
(→狐の銅像「親殺しの青年の物語」>>)
第十一章 嘘ツキな臆病者
氷国の民編>>225-229 …達筆中
ひと時の休息編
第十二章 賽は殺りと投げられて
偽りの仮面編>>
真実の泉編 >>
???の封じた過去編>>
最終章 最終決戦
Aルート >>
Bルート >>
cルート >>
Dルート >>
-掲示板-
達筆開始日 2014/3/4
2017/11/25:URL先を新しくしました。雑談板にあります、設定資料集スレにしました。
2019/9/8:URL先を新しく書き始めたリメイク版の方に変えました。
-おしらせ-
2017夏☆小説カキコ小説大会【複雑・ファジー小説部門】で【銅賞】を頂きました。
投票してくださった皆様、本当にありがとうございました<(_ _)>
完走(完結)目指して頑張りたいと思います!
20119/9/03→『氷国の民編』『新章』追加
参照100突破!3/6 200突破!3/11 300突破!3/15 400突破!3/21 500突破!3/28 600突破!4/4 700突破!4/9 800突破!4/15 900突破!4/22 1000突破!4/28 1100突破!6/2 感謝♪
2017年 2600突破!/1/30 2700突破!1/31 2800突破!2/7 3200突破!8/31 3300突破!9/1 3400突破!9/7
3500突破!9/12 3600突破!9/19 3700突破!9/26 3900突破!10/10 4000突破!10/17 4100突破!10/31
4200突破!11/6 4300突破!11/14 4400突破!11/23 4500突破!11/28 4600突破!11/3 感謝♪
2018年 5000突破!1/7
返信100突破!2014/4/28 200突破!2017/11/14 感激♪
-神様な読者の方々-
蒼欒様:初コメを下さいました!もう嬉しさMaxです♪
レム様:エリスちゃんの生みの親様です♪いつも温かい励ましコメありがとうござます!
ブルー様:オリキャラ ヒスイちゃんを投稿してくださいました!
出せるまでに一ヶ月以上もかかってしまったのに、見捨てずに見て下さっているお優しい方です(T_T)
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜 ( No.221 )
- 日時: 2017/12/26 12:04
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: hdgWBP0m)
小さくて可愛い金魚をすくいにやって来たはずなのに、なぜか大きくてあんまり可愛くない鯉をすくわれそうにになっちゃった……。屋台のおじさんには悪いけど、鯉すくいは低調にお断りさせてもらいました。だって、鯉なんて貰っても旅をしている僕達には飼ってあげれないから。あ……それは金魚でも言えたことだったかも。どっちにしても持って帰れなかったみたい。
「……ちょっと残念だな」
ぽつりと呟いた僕の脇を沢山の人たちが素通りして行く。左右に並ぶ屋台に挟まれた道のど真ん中で立ち尽くして、ぽつぽつと考え事をしている僕の事なんて誰も見たりなんてしない。みんな家族、夫婦で楽しそうに笑い話していて、他の事になんて興味がないって感じだ。真っ直ぐ真正面からやって来た人も、近づいて来たら自動的に横へ避けて僕の脇を通って行く。
「なんだろう……この変な感じ。まるでここの人たちに僕の姿が見えていないような。みんなが見ない壁を避けているように見えるのは、どうして?」
言葉にして出してみた疑問に、答えてくれる人は誰もいない。
それはみんなに僕の姿が見えていないから? それとも——
パンパンッ
「ふぅ」
『すげえや! このあんちゃん、百発百中で景品に玉当ててるぞッ!』
シュッシュッ
「ふふんっ」
『凄い! この姉ちゃん、百発百中で景品に輪っかかけてるぜッ』
それとも、屋台で遊んでいる二人にみんな釘付けだから?
正面から見て左側に建てられている、猟師さんが使うような細長い銃にコルクの玉を入れて、それを並べられたぬいぐるみとかの景品に向けて発砲、景品を落とすことでゲット出来る【射的】と呼ばれるゲームの屋台で遊んでいるのはリアさん。
始めてからずっと全ての玉を当て、並べられている全ての景品を手に入れそうな勢い。屋台のおじさんは半べそかいて、見ててずっごく可哀想な気持ちになってくるよ。
表面から見て右側に建てられている、斜めになった板に番号が書かれていて、その上に等間隔に棒が立てられている。棒に紐を編んで作った輪っかを投げてひっかけることで書かれた番号の景品が貰える【輪投げ】と呼ばれるゲームの屋台で遊んでいるのはパピコさん。
始めてからずっと全ての輪っかをかけているから、用意された景品を全部手に入れそうな勢い。屋台のおじさんはもう大号泣で何かをぼそぼそと呟いているよ。
二つの屋台は道を挟んで向かい合うように建てられていた。二人の好プレーを観たい野次馬さんたちが道を塞いでいる。僕はとちらにも加担せず、道のど真ん中で立ち尽くし、二人を呆然と見つめる。
「……早く終わらないかなあ」
†
「この紐はご主人様と私を繋ぐ運命の赤い糸なのですね♪」
いえ、パピコさんが掴んでいる紐は白色ですよ。
「寝言は寝て家よ? BBA。俺のはニシキヘビの如くぶっとくて丈夫な、ルシアとの友情の紐だけどな」
いえ、リアさんが掴んでいる紐はごく普通サイズの紐ですよ。
「なんですって!? でしたら私のはアナコンダの如くです!!」
…………。
射的屋さん、輪投げ屋さんで景品を総なめした二人が次にターゲットに選んだのは【ヒモクジ】と呼ばれるゲームの屋台。
目の前にある大きな箱の中に色々な景品が入っていて、そこから沢山の紐が伸びている。紐を引いて引っ張り上げた景品が貰えるゲームらしいんだけど……二人はなぜか言い争いをしていて中々紐を引こうとはしない。
『まだひかねーのかよぉ』
『はやくひけよー』
僕達の後ろには順番待ちをしている沢山の子供たちが並んでいた。僕はその子たち一人一人にごめんね、あともう少しだけ待ってね、と言って回る。
「うるさい! ガキは黙ってろ」
「これは大人の勝負なのです! 子供は口を出さないで下さいまし」
駄々をこねる子供たちをキッと睨み、鬼の形相で言う二人。
「お……大人げない」
†
「ふぉおおお」
沢山の屋台を回り、沢山のゲームで遊んでいる二人を見て持ちきれない程の景品を手に入れた僕達が最後にやって来た屋台は、
「まさかBBAと張り合う事に集中しすぎて金をすべて使い果たしてしまうとはっ」
「私としたことが、まさかご主人様と初めてのお祭りを満喫する前にこんなぱっとでのぽっとでの野郎なんかにお金を使い尽くしてしまうなんてっ」
桜色に着色されたラムネ菓子の板に模様が描かれていて、その模様の通りにくり抜く【型抜き】と呼ばれるゲームの屋台だ。
模様には値段が振り分けられていて、綺麗にくり抜くことが出来ると書かれた金額が貰えるそうで、ほぼ全てのお金を使ってしまったリアさんとパピコさんは、握りしめた最後の硬貨で一攫千金を狙ってるみたいだ。
「待ってろ、ルシア! この型抜きで成功したら、お前に俺のチョコバナナ食べさせてあげるからな!」
チョコバナナ? あのバナナにチョコをかけたお菓子のこと? 食べたことないからそれは楽しみだ。頑張ってと、リアさんを応援した。
「バナナですって!? なんてはしたない!
そちらがその気なら、私はご主人様のフランクフルトをいただきます!」
バナナの何がいけなんだろう……? あとごめん、パピコさん。僕、今一文無しだからフランクフルトをおごってあげらてないよ……。
「ふぉおおお」
背後から二人の頑張りをみているけど、なんだろう。この二人から発せられているどす黒いオーラのようなものは……。なんだか身の危険を感じさせるような、本能的な意味で危険を感じさせるこの不気味なオーラは何なんだろう……?
数分後。
「いやー」
「おほほ」
二人は互いの顔を見つめ合い。
「駄目だったな」
「駄目でございましたね」
大きな声で苦笑した。
「二人とも見事に最後の一手で粉砕してたよね、ラムネ」
二人は笑うのを止めて僕の方を向き、少し悔しそうに言う。
「私、こうゆう繊細な作業は苦手でして……」
「俺は壊すの専門だからな……」
確かに二人のとも色々な意味で破壊的な人ですもんね。と、言ってしまいのうなった口を慌てて塞いだ。落ち込んでいる二人にこんな止めの一言は言う事なんて僕には出来ない。
「で、ルシア。祭りはどうだった? 楽しめたか」
近くにあった鳥居にもたれてかかり、腕を組みそう僕に訊ねた。
「ご主人様と二人っきりになれなかったのはいささか残念でしたが、それなりには楽しめましたわ」
少し棘のある言い方でパピコさんが僕の代わりに答えた。リアさんと向かい合うように反対側の鳥居を背もたれにして立つと、パピコさんも横へやって来て同じようにもたれた。
「は? BBAには聞いていないんだけど?」
「はい? もしかして喧嘩売ってます?」
「俺は売らねーけど、売ってるなら買ってあげてもいいぜ?」
挑発に挑発を売る二人。本当、この二人は仲が悪いのか良いのか……よくわからない所があるよ。一緒に遊だり、同じ目的をもって協力しあったりするのに、いざ顔を合わせると言い争いを始めて喧嘩しかしない。喧嘩するほど仲が良いっていうことわざがあるけど、それはこの二人にも言えることなのかな?
——お兄ちゃん。
「え……?」
とても懐かしい声が聞こえたような気がした。誰かが僕の事を呼んでいるような、そんな気がしたのだけどそれは、
「ルシア」
「え……あ……リアさんか」
リアさんが僕を呼んでいたからだったみたい。呼びかけているのに中々返事をしない、僕に苛立ちつのらせ、眉間に少ししわがよっている。
ごめんと謝るとリアさんはすぐにいつもの能天気な笑顔に戻って、楽観的な明るい声で訊ねた。
「"ここ"は楽しいだろ」
僕は答える代わりに、首を縦に動かした。
「すっげぇ楽し過ぎて"外の世界"の厭な事なんて全部忘れられるだろ」
僕は答える代わりに、首を縦に動かした。
「ここには外の世界にあるような、怒りも憎しみも哀しみも辛いも痛いも何もない、嬉しいや楽しい事しか感じない」
リアさんの言葉は甘い、甘い蜂蜜のように僕の中に入り脳何浸透する。とろけるようにぐにゃりとなる視界。どろどろになったように何も考えられない思考。今僕の頭の中に在るのはリアさんの甘い囁きだけ。
「もう辛く苦しまなくていいんだぜ?
もう悲しい思いをしなくていいんだぜ?
もう一人で全部抱え込まなくていいんだぜ?」
とろとろにとろけて何も感じなくなった身体はもう動かない。
真っ暗になって何もうつさなくなった視界はもう機能を果たさない。
甘い囁きを反響するばかりの脳髄はもう何も考えられない。
何か使命があったような気がする。大切な誰かを求めていた気がする。でもそれが誰だったのか、僕にとってどんな存在の人だったのか、思い出せない。違う、思い出せないないという事は、思い出す必要性もないという事。今の僕には関係の無い事だ。
——このまま全てを忘れて、俺に身を委ねちまえよ。俺と二人、仲良くここで愉快に暮らして行こうぜ。なあ?
そうだね……こんなに気持ちいいのならこのまま沈んもうかな。
甘い 甘い 甘い 蜂蜜の海の中に僕はどっぷりと浸かる。
僕?
僕は
僕は
僕は——誰?
-喪失END-
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜 ( No.222 )
- 日時: 2018/01/05 09:13
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: f..WtEHf)
[受け入れない]
悲しい記憶/哀しい記憶。苦しい記憶/苦い記憶。厭な記憶/辛い記憶。それは誰しもがもっている負の記憶。世界という汚れに侵され、身体を汚されてしまった責任の大人の記憶。もっているだけで深いな気持ちにさせ、心を蝕む邪悪なるもの。
嬉しい記憶。楽しい記憶/愉しい記憶。良い記憶/善い記憶。それは誰もが忘れてしまった純粋無垢な子供の頃の記憶。もっているだけで何も知らず、楽しめたあの頃に帰る事の出来る魔法の記憶。この世界で最も美しい宝石。
この世界に汚物はいらない。美しいものだけあればいい。辛く苦しいだけの現実になんて戻らなくていい、ずっと此処で"俺と二人っきり"楽しく暮らそうぜ。なあ——ルシア?
僕の耳元で甘く囁くのは誰の声? よく知っている人だったような気がする。けど暗闇しかうつさない僕の目にその顔はうつらない。何もうつさない。
僕のの耳元で甘く囁くのは悪魔の声? それとも別の誰か? 身体が縄で縛られているかのように、ぎっちりと締め付けられて痛い。まるでここから逃げ出せないように、誰かが縛り付けているみたいだ……誰がそんな事をするの? 甘く囁く悪魔の仕業? それとも別の誰か?
悪魔は……誰かは……言っていた。この甘い囁きに流されてしまえと。川を流れる木の葉のように、流れに身を委ね、堕ちるところまで堕ちてしまえばいい、確かに闇しかない僕にはそれもいいのかもしれ——騙されたらだめだよ、お兄ちゃん!!
「…………ぁ」
一瞬、誰かの声が底なしの闇へと堕ちようとした僕を引き留めた。もう声は聞こえない。僕を「お兄ちゃん」と呼び、叱った声はもう聞こえない。……待って。お兄ちゃん? お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん……頭の中で同じ単語が何度も繰り返し流れる。"あの子"が生まれてからずっと、僕はお兄ちゃんだった。"あの子"を産んでくれた母さんが最初に言った言葉、「今日からあなたはお兄ちゃんよ」 誰のお兄ちゃん? 呼び止めてくれた女の子のお兄ちゃん? ……どうして僕は声の主が八歳くらいの女の子だという事を知っているの?
「ああ——ッ! 記憶が溢れてくるッ!」
欠けたピースが見つかった。一つだけ無くしたパズルのピースが見つかった。空白だった記憶の箱に次々とピースがはまっていく、ぽっかりと空いた穴に記憶という濃厚な思い出が詰まって行く。
自分の名前、大切な家族の名前。
僕はルシア。都心から離れた村で皆と妹のヨナと、貧しくても楽しく暮らしていた十八の男です。
偶然出会った女の子名前。
僕と同じ白銀色の髪と赤いポンチョが印象的な女の子、ランファ。言ってる事とやってる事がいつも無茶苦茶で、訳わからなくて、ノリだけで生きているような子。……だけどどこか寂しそうに感じる瞬間があるのは気のせい?
隣町に住んでいる幼馴染の女の子の名前。
看護師の卵をやっている女の子。、シレーナ。薬剤の知識が豊富だから普通に薬剤師としてやっていけそうなのに、彼女は一人でも多くの人を救いたいからって訪問看護の道を目指した。
旅をしてる間に出会った仲間たちの名前。
馬の町で馬の乗り方を教えてくれた先生であり、過去に賞金首として生かされた女の子、シル。
和の国で出会い、闘技場(コロシアム)で一緒に戦ってくれて、裏カジノではすれ違いがあったけど、でもまた分かり合う事が出来た女の子、ヒスイ。
僕が倒そうとしている人たちの名前
ヨナ攫った紅き鎧の騎士。シレーナの故郷で暴れアトランティスで行方不明になったザンク、シルさんを護るために開催した闘技場(コロシアム)で闘い行方不明となったユウ、ヒスイを産んだお母さんなのに彼女の目の前で暗殺されたナナさん、彼らのボスで邪神復活を企て世界を自分の物にしようとしているバーナード。
やっと全部思い出せた。どうして僕がこんな妖艶と輝くいかがわしい空気で包まれた世界にいるのか。
「全部……思い出したよ……リアさん」
腕を組み荘厳たる面持ちで佇んでいる、僕をこの世界へと攫い閉じ込めようとした犯人に、事実を突き付けるように言った。
何処か遠くを見つめていた彼は、黒い眼球だけをゆっくりと動かし、その瞳は眉間にしわをよせた僕の姿を映し、悪びれることも同様することもなく、ただ平然と一言。
「…………で?」
軽く首を傾げた時の彼の顔は腹が立つ程にいつも通りだった。ランファとふざけ合っている時と同じお茶らけた表情。
「帰してよ! 元居た世界に! リアさんと違って僕には遊んでいる余裕なんてないんだ!! もしこうやっている間にヨナの身に何かあったら……」
女神さまは邪神復活に必要な手順が全部揃う、その間まではヨナの身の安全は確保されているでしょうと言っていた。だけど最悪な想像ばかり浮かんでしまう。殺されはしないとしても、身体を傷つけられないとは限らない。相手は邪神復活を企て世界を自分のものにしようとしている奴、何をしてくるか解らない。ヨナが心配だ、僕はリアさんを睨み付けた。
「妹が攫われて騒いでいるだけのお前に、俺の何が解るって言うんだよ……」
片手で顔を覆い、リアさんが自嘲するかのように項垂れ苦笑したのと同時だった——目の前に広がる世界が歪み罅割れ硝子が割れるように砕け散ったのは。
「正気になられたのですね、ご主人様!」
「パピコさんっ!?」
すぐ隣でキーンとなる声が聞こえた。主はほんのり涙を潤ませて、鼻を赤くさせたパピコさん……相当心配させちゃったみたいだ。ごめんなさい、僕がもっとしっかりしていれば……言うとした言葉は
「あーあ。失敗しちまった。あ……あはは……」
乾いた笑い声をあげるリアさんの声でかき消された。
お腹を抱えて笑っているけど、その目は笑っていない。鋭い眼光は僕を睨み付け離さない。
「何を間違えた? どうしてバレた? なあ、教えてくれよ。ルシア、俺は何を失敗してしまったんだ?」
「簡単な事だよ。どんなに記憶を消されたって、心の中にある思い出は誰にも消すことなんて出来ない。ただそれだけのことだよ」
「思い出ねえ……そんなくだらない事に俺は負けたのかよ。あはは……」
全てを諦めてしまったように苦笑するリアさん。その顔は凄く苦しいそうで辛そうだ。手を差し伸べたくなる。もがき苦しそうにしている彼に助け舟を、救いの手を差し出し引っ張り上げたいと思うのは自分勝手な事?
「リアさん……」
「お前は本当何処まで行っても大馬鹿なお人好しだな」
「どうゆう……っ!?」
発言の答えを訊くまでもなく、答えは返ってきた。
——グルシャアア!!
「魔がい物!?」
プリンセシナの中を徘徊する化け物。二本足で立つ人の形をしているけど人じゃない、魚の鱗のような鎧をまとい、ゆらゆらと左右に揺れながらじりじりと距離を縮めて来ている。
「現実世界にはいないはずのパピコさんと魔がい物がいるって事はここは……」
「ご名答! 此処は"俺の世界こと、俺の精神世界(プリンセシナ)"だ。今キミ達の目の前にいるのは俺であって俺じゃない存在、分身(エゴ)だ」
リアさんは自信満々に微笑み両腕を横一杯に広げ、まるで舞台の上に立つ司会者のように大きな声でこう言った。
「紳士淑女皆様ようこそいらっしゃいました。今宵始まりますは、勇敢なるメシアの生き残りとおまけのBBAによる逃走劇でございます!」
「逃走劇?」
「俺の世界のテーマは「祭り」 祭りには楽しいミニゲームが必要不可欠だろ? だからキミ達はこれから鬼ごっこをしてもらう。あ、勿論拒否権なんてものは無しだからな?」
悪戯っ子のように嗤う彼は本当に腹の立つほどにいつも通りだ。いつも通りの陽気なテンションで、こんな狂った事を平然と言っているんだ。
「ショータイムの始まりだ! 文字通り死ぬ気で逃げろよ? そうじゃなきゃ観客が喜ばない」
観客? なんのことだよって言いたかったけど、言う隙さえも与えてくれない魔がい物たちが一斉に飛びかかり襲い掛かってきた。さっきまでノロノロゆっくりと行動していたのに、良しって合図が出た途端、俊敏に動くのはずるいと思うなっ!! 誰に言うわけでもなく、心の中で叫びリアさんをキッと睨み付けた後、
「行こう!」
パピコさんの腕を掴み、僕たちは走り出した。目の間にあった一本の道を何の迷いもなく選び駆け走った。リアさんの手のひらで踊らされているのは良く分かる。癪に障らないとか、色々沸々とした思いがあるけど、今はそんなことどうだっていい。気にしている暇がない。後ろを振り返えれば、はわらわらと群がって来た魔がい物たちで道は黒く埋め尽くされていた。台所に生息するあの黒光りする虫をを彷彿させて余計に気持ち悪くなった。食べたものを吐き出しそうになる口を押さえ、がむしゃらに目の前に蜿蜒と続く道を走り続ける。
「待ってくださいまし!」
そう声をかけて、パピコさんが立ち止まった。急な出来事だったから上手く止まれなくて転びそうになってしまった。すぐに体制を整えたから転ばなくて済んだけど……何があったんだろ?
「道が二つに分かれています」
振り返ったパピコさんは目の前を指さしている。もう一度、目の前を見てみると、確かに真っ直ぐだった道は二つに分かれていた。
左側の道には膝丈サイズの左手を挙げて毛繕いをしている狐の銅像が置かれている。
右側の道には膝丈サイズの右手を挙げて毛繕いをしている狸の銅像が置かれていた。
「狐と狸の銅像……?」
「挙げている手が左右で違うというのは、招き猫を思い出させますね」
まねきねこ? ああ、お店屋さんの前に置かれている三毛猫の置物だよね。右手を挙げている猫は金運を招いて、左手を挙げている猫は人を招くって言われているんだよね。
「でもどうしてその招き猫と関係がありそうな、なさそうな狐と狸の銅像がこんなところに置いてあるの?」
誰かに聞いたわけじゃないけど、でも誰かに答えてほしかった質問。それを答えてくれたのは——グルシャアア。魔がい物だった。
「もうここまでっ!?」
気づけば一メートルもない距離にまで迫って来ていた。背後から迫る化け物、目の前は二つに分かれた道と意味ありげな狐と狸の銅像。前門の虎、後門の狼とはよく言ったものだよね、昔の人は凄いや!
「なんて感心してる場合じゃないよ」
一人でボケてツッコミ。なんてどうでもいいことをしてる余裕なんて今の僕たちにはないんだった。本当に生か死か、どちらか一つ。狐の道か、狸の道か。どちらの道も暗闇になっていて先がどうなっているのか分からない。
僕はどちらの道に進めば——?
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜 ( No.223 )
- 日時: 2018/01/05 10:20
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: f..WtEHf)
グルシャアア!! 魔がい物たちの遠吠えが聞こえる。じりじりと距離を縮めてくる化け物たち。わらわらとどこからともなく溢れて来る黒の集団。逃げ道は、左右二つに分かれた道しかない。左手を挙げて毛繕いをしている狐の銅像の道か、右手を挙げて毛繕いをしている狸の銅像の道か、そのどちらか一つを選ばないといけない——僕が選んだのは。
「狸にしよう! 行くよ、パピコさん!」
「はいっ!」
決めてしまったらもう迷わない。後は出口か行き止まりまで走り抜くだけだ。蜿蜒と続く薄暗い道をひたすら駆け走る。背後から聞こえて来る魔がい物たちの声は一向に遠ざからない。同じ距離感を保っているような気がする。
「……もしかして僕達ッ!?」
——手遅れの時っていうのはいつだって同じ展開、気づいた時にはもう既に終わっているんだ。
「ざ〜んねん。無事逃げ切ったら、外の世界へ帰してやるのもありかと思ってたが……元居た場所に帰って来ちまったら話にならねえよなあ?」
パチパチと盛大に拍手を贈る主はもちろんリアさん。見覚えのある赤い鳥居にもたれかかり、まんまと罠にかかった僕達を嘲嗤っている。周囲一帯には沢山の魔がい物たちで覆い尽くされどの道も塞がれているた。逃げ場は……もうない。真正面からリアさんと向き合うしかここからの脱出法は残されてないかった。
「どうやらあの色欲魔の策にはまり一周して来てしまったようですね」
「そうみたいですね」
背中合わせに立ち、腰に下げていた剣を鞘から抜いた。本当はこんな事をしたくない。でも生きて現実世界に帰るためにはこうするしかないんだ。魔がい物たちを斬ることでしか……リアさんを傷つけることでしかここから脱出する方法はないんだ、だから仕方ない事なんだ。自分にそう言い聞かせて、今からやろうとしている行為を正当化しようとする。
「もしかして俺と殺る気か? 臆病で虫も殺したことないって顔してた奴がね……ずいぶんと勇ましくなったもんだな?」
「……ヨナの為だったら、なんだってするつもりだよ」
絞りだした声は震えていた。生きるために動物を殺したことはある。でも自分の為に人を傷つけたことはあるけど、殺したことはない。それだけは絶対に越えてはいけない一線だと思っているから、でも場合によっては超えなければならないかもしれない。目の前に"敵"は僕たちを現実世界に返す気も、生きてここに残すつもりもないようだから。
「口を開けばヨナ、ヨナ、ヨナ! そんなに妹が好きなのかよ、シスコンがっ」
ハッと笑いリアさんは言った。シスコンの意味は解らないけど、僕を馬鹿にして言っている言葉なのかニュアンス的に理解できる。
「そんなにヨナが欲しいなら創ってやろうか?」
「何を言っているの? 人が人を創れるわけないじゃないか」
錬金術という魔術で人体錬成というものがあるらしいけど、それは成功しなかった。それのせいでシレーナは左足を失い、アルトさんはお父さんを亡くしたんだ。人が人を創り出すなんて神様みたいな事をしたから。そんな僕の考えを読んだのかリアさんはにんまりと笑い、
「それが出来るんだよなあ。この世界でいえば俺は神様みたいなものだから」
自信満々に語る。ここは自分の精神世界(プリンセシナ)だから好き勝手自由に出来るんだって、何をやってもやらなくても自由、だから僕が欲しいものだってすぐに用意できるし、嫌なものはなんだって排除できてしまう夢のような世界なんだって……でも。
「それがどうだって言うの」
「は?」
「なんでも出来る凄い世界だとしても、そこに本物のヨナはいない。本物のヨナは今この瞬間も寂しくて辛い思いをして、僕が助けに来るのを待ってる。なのに、僕だけが愉しい世界で幸せになんてなれないよ!!」
言った。はっきりとした口調で、優しく甘い囁きで誘うリアさんを突き放した。一瞬悲しそうな顔をしていたけど、すぐに何もかもを諦め、重い溜息を吐き、顔を俯せ大きく左右振った。
「……そうかい、じゃあさよならだな」
最期に見たリアさんの顔は嗤っていた。
——ウウッウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ! 獣の呻き声、周囲を囲う魔がい物たちの声じゃない。出しているのは目の前にいる、リアさんだった人。口から出て来た黒い霧に身体を包み込み、まるでザンクが血解(けっかい)を発動して、ドラゴンに変身した時のようにリアさんの身体が変形してゆく。
細く色白の肌が綺麗だった身体は黒い岩質のごつごつとした太くものとなり、爪が伸び斬り咲かれそう。頭には矢印の尖がった三角みたいな触手が二本生えて、整った顔は小鬼(ゴブリン)みたいな彫りの深い不気味な顔立ちで、背中には蝙蝠(こうもり)のような大きな翼が二枚生え始めた。少しずつ時間をかけて変わって行くリアさんの身体。僕は今の彼の姿を絵本で見たことがある——今の彼の姿はまるで。
「魔界と呼ばれる世界に住む悪魔一族の端くれ、樋嘴(ひはし)みたいじゃないか……」
——オオオオォォォォォォォォォォォォォオオオンッ!!
悪魔の咆哮。完全に人ではない何かへと変貌してしまった、リアさんは自分を見失い、自我を失い、真っ直ぐ僕の方へ向かって突進して来て、岩肌の太く大きな腕を日振りかざし鋭く尖った爪で小さな人の身体を切り裂いた。それは刹那の如く一瞬の出来事で、逃げることも、反撃することも出来なかった一瞬の出来事。
薄れゆく意識の中
おやすみルシア。いい夢を——
誰かにそう言われたような気がした。
あれは誰の声だったんだろう……永い眠りにつく僕にはもう関係のないことだけどね。 永眠end
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜 ( No.224 )
- 日時: 2018/01/09 11:47
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: WTiXFHUD)
【殺戮人形と呼ばれた少女の物語】の紹介文コーナー!!
この作品は本編【箱庭 第九章 狂犬の最期】からの続きとなっています。
ヒスイちゃんはブルー様から頂きいたオリキャラ様となっています。
※後付け設定な為、ちょっとヒスイちゃんの設定とは違う部分がございます。
+冒頭部分+
とある施設で童女は目覚めた。
産声をあげる前にその声で科学者たちを抹消した。
母に抱かれる前に温かい血で全身を包み込んだ。
母乳を飲む前に新鮮な生き血で喉を潤した。
自我を持つ前に武器を手に取った。
命の大切さを知る前に如何に簡単に命を奪う方法を知った。
成長した童女は何を憂い思う?
暗闇の底から救い出された童女は再びあの暗闇へと帰還する。
。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○
タイトル【殺戮人形と呼ばれた少女の物語】
達筆期間【2017/11/17〜】
長さ【ちょっとした長編】
年齢制限【D(17禁)】
テーマ 【人形】
ジャンル【】
完結図書【】
〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜
【感情のない少女の物語】の紹介文コーナー!!
この作品は本編箱庭【第六章 闇と欲望の国 裏カジノ編】後の
話となっております。
上↑同様ヒスイちゃんの過去話回となっています。別世界の話です。これまで歩んで来た過去が全く別物になっています。
※こちらの方がヒスイちゃんの設定に合っているかと思われます。
+冒頭部分+
ねえ__感情ってなんだと思う?
喜怒哀楽怨__人には五つの感情があると言われているそうだよ。
でもね? それは"人"の話。人形である私には関係の無い話。
色々な主様、雇い主様、命令を忠実にこなす操り人形。
無機質で慈悲もなくただ機械的に殺す木偶人形。
人形に感情なんて邪魔な物__必要だと思う?
人形は訊ねる。自分に感情など邪魔でしかない不確定要素があるのか、当の昔に捨てたそれはいる物だったのかと。
主を失った自分がこの世界にいる価値はあるのかと__少年は答える。この世界にとって君は__。
。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○ 。○
タイトル【感情のない少女の物語】
達筆期間【〜】
長さ【】
年齢制限【】
テーマ 【】
ジャンル【】
完結図書【】
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【偽りの仮面編】 ( No.225 )
- 日時: 2019/09/03 07:37
- 名前: 雪姫 (ID: 9nuUP99I)
第十一章 賽は殺りと投げられて-偽りの仮面編-
冷たい
寒い
始めに感じるは凍えるような冷たい冷気
暗い
瞼を開けているのか まだ閉じているからなのか
辺りは常闇のように暗く静かで何も見えない
息をしているのか 心臓は動いているのか
生きているだけで人が発するという音が全く聞こえない
ここは死後の世界というものなのか
落ちる
もぞもぞと身体を這うナニモノか
蠢くそいつはタコの足のような細くそして分厚い腕を狩ら見つけ”私”を下へ引きづり落とそうしている
やめろ……
私はまだ
私にはまだやらなければならないことが——
***
「……ぉ」
ん。
「……ぃ」
んん。
「お……い……ル……」
あともう少しだけ……。
「いい加減に起きろ! ルシア!」
「ふわっ!?」
ぬくぬくと暖かく身体を護っていた何かを引きはがされ、護りを無くした身体に容赦なく襲いかかる冷気に目が覚め飛び起きた。
「何々? どうゆうこと??」と辺りを見回す。そうして見つけたのは「くっくっく……やっと起きたか」と嫌に自慢げな。厭らしい下卑た笑みを浮かべたリアの姿だった。
今日の彼はいつもの黒髪の似合う妖艶の美を兼ね備えた美女(女装)の姿ではなく、わりとラフな、普段からキリッと決めている彼らしくはないは緩めでダルッとしたT シャツに短パンとサンダルと言うまるで近所にある雑貨屋にでも少し散歩に出かけるかのような格好。
上に来ているTシャツ。デザインから見ておらくは男性物だろう。だが、ぶかぶかでサイズ感がまるで合っていないTシャツ。いつもぴっちりとした自分に合ったサイズの物を身に着けているリアにしては珍しい……いや違和感しか感じない。嫌な予感しか感じないのはルシアの動物的本能ゆえか。
「なーにっぷるぷる小刻みに震えてるんだよー」
「さ、寒いから、だよ!」
剥ぎ取られた布団を取り戻し鎌倉のようにして包まり防御壁を張る。寒いからというもの勿論であるが、一番は目覚め一番に見たリアの不易な笑みが怖かったからだ。
"まるで前にもどこかで見たことがあるような”
「別にとって食ったりなんてしねーよ。ほんとっルシアって……」とまで言って手で口を押さえ顔を牛をに向けると肩が小刻みに揺れ出す。どうやら声を殺して笑っているようで、笑っている間もチラチラとルシアの顔を見てはまた噴き出すように笑いそうになるのをぐっと堪えているよで……。
「なんでそこで止めるんだよ! 気になるじゃないか!」
無駄だと知りつつ一応反論のていをみせてみたのだが返ってきたのは。
「アハハハッ」
堪えに堪えきれなくなって噴き出した笑い声だった。もうと頬を赤らめ膨らませ布団の壁の中に顔を隠すルシア。悪るかってと布団の隙間から謝るリアだが楽し気な笑い声は止まらない。声から悪気がないのは伝わってくる。本当に面白いから笑っているだけなんだとわかるのだがそこまで笑うような事だろうか。まるでケタが外れたかのようにリアは笑い続け最後の方には笑い疲れヒィーヒィーと涙目になっているじゃないか。こんなに笑っているリアを見るのはもしかして初めてじゃないのかと。もしかするとこれってかなりレアなシーンなのではと。布団の防壁から顔を覗かせると。
「え……リア、泣いてるの」
そこにあったのは瞳から溢れんばかりに流れる雫を笑いながら指で拭うリアの姿だった。
「ハハハッ ハア? あぁ……笑い過ぎてな」
はぁーはぁーと呼吸を整えるため深呼吸をしながらリアは答える。確かに笑い過ぎると苦しくなって涙が出て来ることがある。リアのそれはそうゆう事なのだろうか。何故だろう。そうゆう風には感じられない。どちらかというと長年ついていた憑き物が剥がれ落ちたような、長年こびりついていたしこりが取り除かれて、晴れやかになった時に流す涙のように感じるのは何故だろうか——
「ふぅーはぁー」
大きく息を吸い吐く。
「よっし。もう大丈夫だ」
パンッと手のひらで顔を叩き、不自然なリアからいつものリアへ気持ちを切り替えたようだ。その証拠に「ところでよ——ルシア」彼の口から語られた言葉の先、瞳には先ほどのまでの朗らかな明るさはなく、まるで死者その者のような生気ののない物と化し、
「お前さ、昨日寝てから今日起きるまでの間の記憶 あるか——?」
普段の男性にしてた高い声からは百八十度違う、重く伸し掛かるような低く重圧的な声だった。
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