複雑・ファジー小説
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- シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【氷国の民編】
- 日時: 2019/09/08 08:53
- 名前: 姫凛 (ID: 9nuUP99I)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=19467
これから綴る物語は忌まわし呪われた血によって翻弄され
哀しき封印から少女達を救い
少女達と共に謎の不治の病に侵された小さき妹を
助けるため小さな箱庭を行き来し愛と絆の力で闘い続けた
妹思いな少年と個性豊かな少女達の絆の物語である
-目次-[シークレットガーデン〜小さな箱庭〜]
登場人物紹介 >>166-168
-用語紹介- >>169
-魔物図鑑- >>23
-頂きもの-
高坂 桜様(元Orfevre様)より シル(オリキャラ)>>10
はる様より リア・バドソン(オリキャラ)>>11
ブルー 様より ヒスイ(オリキャラ)>>12 ヒスイ(キャラ絵)>>205
レム様より エリス(オリキャラ)>>66
華那月様より ヨナ(キャラ絵)>>08 ランファ(キャラ絵)>>09 シレーナ(キャラ絵)>>38
むらくも(キャラ絵)>>39
むお様より リオン(キャラ絵)>>37
自作:エフォール(キャラ絵) >>217
-あらすじ(第九章)
山の国の何処かにあると言い伝えられている女神が誕生した遺跡 アンコールワットで見事試練を乗り越え真実の歴史を知ったルシア達は遺跡を出てリオン、リティと別れ時渡の樹が生えた広場でヒスイと合流を果たした。
新たに出来た旅の目的。四つの国にある四つの遺跡を巡りかつて女神と共に邪神と戦った王達の力を受け継ぐ旅の始まり。
——さてどこの国の遺跡から行こうか?
-章の目次-
*1分〜10分(読むスピードで個人差があります)で物語の概要が分かるスキップ物語☆
*本編を読むだけでも物語を楽しめますが個別の短編も読むことでより深く楽しむことが出来る作りとなっています。
序章 出会いと別れ >>05-07 -スキップ物語- >>22
第一章 物静かな看護師の闇
荒くれ者 ザンク編 >>13-20 -スキップ物語- >>40
シレーナの封じた過去編 >>24 >>26-36 -スキップ物語- >>50-51
(より抜き「 魔女と呼ばれた少女の物語」完結済み)>>152)
第二章 汚された草競馬大会 >>43-47 -スキップ物語- >>52
第三章 大都市で起きた不可解な事件
宿屋での選択肢 >>48-49 -スキップ物語- >>53
[ムラクモを探す- >>55] [後をついて行く- >>54 …正体END]
遺体のない葬儀編 >>56-61 -スキップ物語- >>68
立食パーティー編 >>62-63 >>67 -スキップ物語- >>79
第四章 監禁・脱走 >>69 >>73 >>76-78 -スキップ物語- >>124
(叢side「椿の牢獄」>>158完結済み)
(別side「菊の牢獄」>>)
第五章 美しき雌豚と呼ばれた少女
コロシアム編 >>82 >>85-90 >>93 >>97 >>100-101 >>104 >>107-108
-スキップ物語-上中下>>125-127
シルの封じた過去編 >>111-113 >>119-123 -スキップ物語- >>128
(続編「美しき雌豚と呼ばれた少女とおくびょう兎と呼ばれた少年」完結済み)>>153)
第六章 闇と欲望の国
アルトの封じた過去編 >>129-133 >>136-138 >>143-145 -スキップ物語- >>146
裏カジノ編 >>147-150 -スキップ物語->>151
(幕間「感情のない少女の物語」>>224)
敵の本拠地へ編 >>154-156 -スキップ物語->>157
第七章 賢者たちの隠れ里 >>159-163 -スキップ物語上下- >>164-165
第八章 からくり遺跡
女神の試練編 >>170
[勇気の試練>>183-186 ] [知恵の試練>>177-182] [力の試練>>171-176]スキップ物語->>187-189
[仲間->>185…生贄end] [友人->>186…見損ないend][本当->>181] [嘘->>180…神のお遊戯end]
[棺を開けない- >>173-176][棺を開ける- >>172…死神end]
隠された真実編 >>194-197 -スキップ物語->>193
(修正前>>190-192)
第九章 荒くれ者の最期 >>198-202 -スキップ物語->>207
(幕間「殺戮人形と呼ばれた少女の物語」>>224)
第十章 殺戮人形ト色欲妖怪
王家の墓編 >>208-216 -スキップ物語->>
リアの封じた過去編 >>218-2231
[受け入れる>>220-221]…喪失END [受け入れない>>222-223]…永眠end
(→狐の銅像「親殺しの青年の物語」>>)
第十一章 嘘ツキな臆病者
氷国の民編>>225-229 …達筆中
ひと時の休息編
第十二章 賽は殺りと投げられて
偽りの仮面編>>
真実の泉編 >>
???の封じた過去編>>
最終章 最終決戦
Aルート >>
Bルート >>
cルート >>
Dルート >>
-掲示板-
達筆開始日 2014/3/4
2017/11/25:URL先を新しくしました。雑談板にあります、設定資料集スレにしました。
2019/9/8:URL先を新しく書き始めたリメイク版の方に変えました。
-おしらせ-
2017夏☆小説カキコ小説大会【複雑・ファジー小説部門】で【銅賞】を頂きました。
投票してくださった皆様、本当にありがとうございました<(_ _)>
完走(完結)目指して頑張りたいと思います!
20119/9/03→『氷国の民編』『新章』追加
参照100突破!3/6 200突破!3/11 300突破!3/15 400突破!3/21 500突破!3/28 600突破!4/4 700突破!4/9 800突破!4/15 900突破!4/22 1000突破!4/28 1100突破!6/2 感謝♪
2017年 2600突破!/1/30 2700突破!1/31 2800突破!2/7 3200突破!8/31 3300突破!9/1 3400突破!9/7
3500突破!9/12 3600突破!9/19 3700突破!9/26 3900突破!10/10 4000突破!10/17 4100突破!10/31
4200突破!11/6 4300突破!11/14 4400突破!11/23 4500突破!11/28 4600突破!11/3 感謝♪
2018年 5000突破!1/7
返信100突破!2014/4/28 200突破!2017/11/14 感激♪
-神様な読者の方々-
蒼欒様:初コメを下さいました!もう嬉しさMaxです♪
レム様:エリスちゃんの生みの親様です♪いつも温かい励ましコメありがとうござます!
ブルー様:オリキャラ ヒスイちゃんを投稿してくださいました!
出せるまでに一ヶ月以上もかかってしまったのに、見捨てずに見て下さっているお優しい方です(T_T)
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【王家の墓編】 ( No.211 )
- 日時: 2017/11/29 08:39
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: oyEpE/ZS)
「……殺殺殺」
和の国から東に船で渡ったところにあるコローナ島。人口百にも満たない小さな島だ。
この島の奥、人里離れた東北に行った場所にある台風(ハリケーン)並みの嵐が吹き荒れる風吹く谷と呼ばれる、島の住人も誰も近づかない場所に和の国歴代王達が眠る王家の墓があった。
「……殺殺殺」
鋭くとぎった山岳地帯に置かれている無数の墓石。
「……殺殺殺」
どれも似たように見える墓石。
王家の墓へやって来たところまでは良かったが、女神のいうかつての英雄が残したという力は何処に隠されているのだろう。
……まさか間違えた、ということはなかろうか? 少しだけ不安な気持ちになる。
「うわ。すごい風だな。目を開けるのだけでやっとだせ」
片目を瞑りリアが言う。
確かに台風並みの風をなんの防具なしで受け止めるのはきついものがあった。
「向かい風になる前に早く行こう!」
と、シルが先頭立って歩き出した。
「……殺殺殺」
「………え?」
ヒスイがなにか違和感に気づいた。何かの気配を感じ取り。
「どうしたのヒスイ?」
急に立ち止まり後ろを振り返るヒスイに事が気になり声をかけるルシアだったが
「向かい風になる前にはやくー」
その声は先に進んでいたシルの呼び声でかき消さてしまった。
「……殺」
一抹の不安を感じつつもヒスイは仲間達の背を追いかけ歩き出した。
「殺……殺……殺」
それはルシア達の後を付ける何者かも同じ。
「殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺」
†
風を背に受けながら奥へ奥へと進んでいると
「あ、あれ!」
ついに見つけた。
それは一軒の家屋くらいはありそうな大きな墓石だった。表面には今はもう失われた古代の文字で何かがびっしりと壁一面に書かれている。
ここには古代文字専門の考古学者などいないため何が書かれているのか、ルシア達には分からなかった。だがおそらくこれのことだろう、女神が言っていたかつての英雄が残した力を隠し場所というのは。
アンコールワットではシレーナがヒュムノスの治癒を受け継ぎ。
アトランティスではヒスイがおそらくドラゴンネレイドの召喚魔法を受け継いだと思われる。
ではここ、王家の墓では誰がどの王から受け継くのか
「殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺!」
皆で話し合おうとしたその時だった。
「ひぃいぃ!」
黒い塊がランファに向かって一直線に飛びかかって来たのは。
「く……手間かけさせんな」
「リア!」
振り下ろされた鎌。だがそれを受け止めたのはランファではなく、咄嗟の判断で彼女を押し出し庇ったリアの方。致命傷は避けられたが腕に深く切り傷ができそこから大量の赤い血が溢れ流れ出ている。
「リアさん大丈夫ですか!?」
駆け寄る仲間達にリアは
「大丈夫だって、こんな怪我なんて唾つけてりゃ治るって」
頭に巻いていたスカーフを解きそれを腕に縛りつけ止血しながら言った。
傷口に唾なんて付けたらばい菌が入って余計に悪化すると看護師のシレーナに怒られもしていたが。
「そんなことよりも……こいつは?」
スカーフを縛り終えるとリアは自分を襲って来た人物を睨む。
「殺殺殺。殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺」
目の前にいるのは鎌を握りしめ殺殺と言っている、紺色のパーカーを着て顔はフードを深くかぶるとことで隠し、短パンのズボンからは太ももがちらりと見え黒いニーハイブーツを履いた水色の長い髪の少女が一人。
「はーい、みなさん、これから死んでもらいます。
よろしくー、とエフォールは申しております」
そして少女の肩にふわふわの高級感漂うお上品そうな顔立ちをした白い猫が一匹。
「あ、自己紹介が遅れました。私はエフォールのパートナー・ケットシーのケティと申します。
ちなみにエフォールの通訳も兼ねております」
そう少女の肩に乗った白猫はあくまでも礼儀正しく優雅に振る舞い言った。
どうしてこの少女は自分達を襲うのだろう。色々思考を巡らせてみるが思い当たるふしと言えば、殺殺と言うエフォールという少女……どこかで見たことがあるような気がする。でもどこで見たのか全く思い出せないのだ。
少女との睨み合い。動いたら試合開始の合図。相手の目的が分からない今動くのは危険だ。
相手の出方を見極めなくては、と
「久しぶりだね。エフォール」
そう考えている時だったヒスイがエフォールに優しく微笑み話しかけたのは。
だが少女から帰ってきた言葉は
「殺!」
「通訳します。殺す、殺すと申しております」
「そのままじゃん!!」
ランファからのツッコミも炸裂したが、どうやら彼女に会話をする気はないらしい。
「ちょっと待てよ。キミは一体何者なわけ? なんで俺達がキミ達に殺されなくちゃいけないんだよ?」
リアがそう訊ねると
「必殺! 激殺! 滅殺!」
「答える必要なんてない、戦うことこそが私の人生、エフォールはそう申しております。それと……」
果林はそこで一度言葉を区切りエフォールの顔を見て頷き
「四の五の抜かすな、カマトトねーちゃん。エフォールはあんたみたいな、身体中から、リア充オーラ出してる女がDieッキライ!
ぶっ殺すから、まずはお前が死ね、と申しております」
続きを申されました。
男のリアをカマトトねーちゃん……なんとも言えない違和感を感じてしまうが、今の彼の完璧なリア充オーラ出しまくりの女装姿を見たならしょうがない反応だと言えよう。
と、言ってもいくらか言い過ぎなようも気がする。
そんなことをきっぱりはっきりと言ってしまった暁には
「上等だコラ! こっちこそ必ず殺すと書いて必殺して差し上げますから、覚悟しなさい!!」
リアもブチ切れである。しかもなぜか語尾がお嬢様言葉で。
「とゆうことで、あたし達は怒りMaxだもんね!」
ぷくぷく足をジタバタさせて怒り背中に背負った大剣を抜くランファに続けと、その他の仲間たちも武器を取り目の前にいる敵、エフォールに剣の切っ先を向けて構えた。
アイツらには悪いがここで復讐の前菜を楽しませてもらうぜ。
誰かが呟いた独り言。誰にも聞こえなかった独り言。
復讐は力の源。憎悪の気持ち程、気持ちい物はない。
だがもしそれが無くなってしまったら?
憎むべき相手がいなくなってしまったら?
次は誰を憎み殺せばいいんだ——?
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【王家の墓編】 ( No.212 )
- 日時: 2017/11/29 08:38
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: oyEpE/ZS)
「殺!」
エフォールは後ろに大きく飛び上がる。
彼女の持っていた鎌が折りたたまれ一度三十㎝くらいにまでなると、また開き始め別の形へと変わった。
鋭利な鎌からくの字に曲がった弓へと変形した新たな武器を構え、無から出現させた稲光を曲線状に曲がった弓の端を繋ぐ弦へと持っていきそれを
「殺殺殺殺!」
「雷矢(サンダー・アロー)と申しております」
ルシア達目がけて空中から解き放った。
「あ、危ない!!」
雷矢は火花のように飛び散り、雨のように降り注ぐ。
「ビ、ビリビリすーるー」
避け損ねたランファはまともに雷矢を受けてしまった為、身体が痺れ動けなくなってしまった。
「……回復」
「滅殺!」
「回復なんてさせるわけねーだろ! とエフォールは申しております」
ケティのその言葉通りもう一度高く飛び上がったエフォールは武器を弓から鎌へと変化させ
「……ッ!」
「危ない! くっ」
「ルシア!!」
落下する勢いそのまま鎌を振り下ろす、がルシアがシレーナの前に立ち代わりに攻撃を受けた。
防御の体制をとっていた為、斬られたのは腕の皮だけで済んだが受けたダメージの程は思っていた程よりも大きかった。
このエフォールと言う名の少女。華奢な見た目に反し中々の手練れ。それ相応の修羅場を潜り抜けていると見られる。
まだ十と数年といったところの少女なのにこんな歴戦の戦士のような戦いが出来るのか、その背景にはどんな人生を歩んで来たのか、想像しただけでゾッとする。
エフォールはぴょんぴょんと兎のように飛び上がりルシア達を翻弄する。
あっちこっちに飛び交うエフォールを目で追っていると途中から何処へ行ったのかわからなくなり、それを探している間に背後から鎌で斬りつけようとしてくるのだ。
目で追わず気配で判断し攻撃を仕掛け斬撃を放つのだが
「そこ!」
「殺殺殺殺殺殺殺!」
それは兎のような跳躍力前では役に立たず、いとも簡単に飛び上がって避けられてしまうのだ。
ぴょんぴょんと兎のように飛び上がり、ルシア達を翻弄するエフォール。
深々とかぶられたフードによって隠された顔は今どんな表情をしているのだろうか。
玩具のように遊ばれているルシア達を見て嗤っているのだろうか。
それとも彼女の言葉通り、目の前にいる敵を殺す、それしか考えていないのだろうか。
オモシロイ。アア——ホントウニオモシロイ。
誰かが呟いた独り言。誰にも聞こえなかった独り言。
何が面白い? 誰が言った言葉? 何がそんなに面白い?
、
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜 ( No.213 )
- 日時: 2017/11/30 08:33
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: C0FcWjM6)
「だーーーもう!! さっきからピョンピョン跳ねてーー!!」
ルシア達を嘲笑うかのように、ウサギのように飛び跳ねるエフォールに向かってランファは叫ぶ。だがその声は台風並みの強風によってかき消されエフォールまで届かない。
たとえ届いたとしても、
「殺殺。殺殺殺殺殺殺殺殺!」
「殺します。特異点はより残虐的な方法で殺す、と申しております」
こちらの意見など聞く耳を持たない彼女に意味はないだろうが。
風吹く谷。和の国の歴代王達が眠る王家の墓。沢山の亡霊たちが眠る場所であり強風吹き荒れる場所。
岩がゴロゴロと転がり、鋭利な刃物のように鋭くとぎった土壁、目も開けるのもやっとな強風では思うように身動き一つとることだってできない。
「やああ!」
追い風にのり攻撃を仕掛けてみるが
「殺殺」
自慢の跳躍力でかわされ、次に吹く向かい風にのって遠くへ跳び上がり
「殺殺殺殺殺!」
「雷矢(サンダー・アロー)と申しております」
稲妻の矢を放つ。それに当たれば身体が痺れ動けなくなり、その隙をついて鎌で斬りつけようとする。
エフォールの方が地理を理解し有効活用している。此処は完全に彼女の独擅場と成り果ててしまっている。
「そっちがピョンピョン、ウサギのように跳ねるのなら、あたしはヒラヒラとチョウのように舞ってやる!」
エフォールの動きを真似ようとするランファ。
「とう! ってわわっああー」
だったが……。
「うそうそうそうそっ!? こっちに来ないでー」
飛び上がった身体はそのまま強風に煽られ
「キャアー……げふ」
そのままシルが立っていた場所に飛ばされ激突した。
何やってんの……ランファ、と心の中でツッコミを入れるルシア達。
いや待て——可笑しい。ランファが可笑しいのはいつもの事だが、いつもランファが変な事をするとすぐさま光の速度並みの早さで飛んでくるリアのツッコミがないのだ。
別に彼らは大芸能人のコンビというわけでもないのだが、ランファがボケてリアがツッコミ入れてそして二人でじゃれ合っている姿は一種のお約束ネタのようなものであり、それがないと逆に気持ちが悪いのだ。たとえ敵との交戦中であっても。
「リアさん……?」
心配になったルシアは前に立っていたリアの正面へと回り込む。そういえばエフォールと戦いが始まってからすぐくらいからか、リアが武器を構えたまま動かなくなっていたのは。
最初は不思議にも思わなかった。相手は無中浮遊に飛び交い攻撃が中々当てられない相手。賢明なリアならもしかしたら、何かいい作戦でも考えているんじゃないかと俄かに期待しそう思っていたから。
だがしかし、実際のところはルシアの思っていた事とは違ったようだ。
回り込んで見たリアは
——ククククッ。
嗤っていた。
まるで悪魔のような不敵な笑みを浮かべて嗤っていた。
「リアさん!!」
肩を掴み大きく身体を揺らす。
「…………ん、ルシア?」
良かった正気に戻ったようだ。
「俺は……何を……えっと……今は……」
どうやら記憶が曖昧で何をしていたのか覚えていないようだ。今どうゆう状況なのか分かっていないみたいだ。
リアは頭を抱え左右に揺らし、何処かへ落としてしまった記憶の断片を探す。
リアの身に何があったというのだろう。
もしかすると墓場なのに、こんな争い事をして、尚且つエフォールは墓石を踏み台にして飛び上がっている、それが此処に眠る王達の怒りを買い強風を暴風に変えルシア達を困らせ、怨霊的なナニかがリアに何かしたのだろうか。
ん? いや待て。暴風に墓場、そしてぴょんぴょんとウサギのように跳ねて攻撃が当たらず、かといって捕まえることも出来ない敵——そうかそれなら!
「みんなちょっと集まって!」
ルシアは皆、と言っても
「コンニャロウメー! 降りてこーい!!」
「殺殺殺。殺殺殺殺殺殺」
エフォールと睨み合いをしているランファ以外の四人を呼び集め円状になってひそひそと自分の考えを伝える。
「確かに持ってるは持ってるけど……ルシア君ってたまにとんちんかんなこと思いつくよね」
「ええっ、そうかな……?」
シルにはちょっとばかり呆れてしまったが、ルシアの考えは仲間に受理された。
——よし反撃の開始だ。
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜 ( No.214 )
- 日時: 2017/12/02 16:35
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: hr/PPTT1)
「エフォールこっちだよ!」
ランファと睨み合いをしていたエフォールの注意を自分に向ける。
思った通りにエフォールは飛び上がりルシアに向けて稲妻の矢を放つ。放たれた矢は風に煽られ、何処に飛んで行くか誰にも分からない。そう分からなくていいのだ。
「わっと」
当たりそうになった矢をスレスレで避ける。
苛立ちを募らせるエフォールは一本、二本と矢を放つ。それをルシアはよろめきながら、当たるスレスレの所をなんとか、といった感じでかわしてゆく。
「もしかして矢が無くなるのを待っているのですか?」
ずっとエフォールの通訳に徹していたケティが口を開いた。ルシアの動きがあまりにも不自然だったから。
それを聞いたエフォールはキッとルシアを睨み付け
「殺殺殺殺。殺殺殺殺殺」
「矢は無限。血が無くなるか、お前たちが全滅するまで矢を造り続けられる、とエフォールは申しております」
その宣言通り、一本ずつ放っていた矢を十本に増やしそれを天に向かって放ち雨のように広範囲へ降り注ぐ。
ターゲットはルシアだけではない。この場に居る全ての生命の命を奪う事だから。
「ビリビリすーるー」
「ホントッ、キミはこの攻撃避けるのヘタだよねー」
また避けきれず当たってしまいびりびり小刻みに震えているランファのをしり目にリアは言い、構えた剣を振り上げ
「ほらよっ!」
エフォールに向かって斬撃を飛ばす。
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜 ( No.215 )
- 日時: 2017/12/04 09:36
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: GbYMs.3e)
「殺!」
……が、ごく当たり前のようにエフォールは飛び上がりかわす。普通に放つ攻撃が駄目だというのなら、次に吹いた追い風に乗ると何処飛ぶのか予測しその場所で待ち構え
「逃がさない」
「殺殺殺殺。殺殺!」
流れるような刀捌きでエフォールを斬りつける。
目が見えないヒスイだからこその攻撃か。目で見るのではなく五感が他の人よりも優れている彼女にしか出来ない攻撃方法である、が。
「あぶねーなあ。あともう少し反応が遅れてたらエフォールの玉のような肌がズタズタに切裂かれたじゃねーか! と、エフォールは申し訳ております。
それに酷いではありませんかヒスイさん。元友人にこんな仕打ちをするなんて、エフォールが可哀想です」
表彰台のような段差の岩の上に仁王立ちしエフォールの言葉を通訳するケティ。
後者の言葉はエフォールの言葉と言うよりケティの言葉だろうか? そういえば戦いが始まってすぐのこと、ヒスイがエフォールに「久しぶり」と話しかけていたような気がする。
元々ヒスイはドルファ四天王ナナの元で暗殺者として働かされていた。
ルシア達は気づいていなかったが彼女も同じくドルファに雇われた殺し屋。しかも四天王の一人でもある。ヒスイと何処かで出会っていたとしても可笑しくはない。
変だとすればケティの言った「元友人」
エフォールとヒスイはかつて友と呼び合える存在だったのだろうか。ならばどうして今は片方の死を望み刃を振るい交えるのだろう。
なぜエフォールはルシア達を襲うのだろうか。それがドルファフィーリング社長バーナードからの命令だからなのか。
ヒスイはケティからの問いに
「昔の私はもう死んだよ。あの子はもうここにはいない、だから——」
持った刀を横に一閃。放った斬撃がエフォールの立っていた岩を横真っ二つに斬り崩す。
立っていた足場が崩れよろめき転びそうになったエフォールだがすぐに体制を整え
「殺!?」
「エフォール!?」
吹いた向かい風に乗ろうと空中へ高く飛び上がったエフォール。だが何故か飛び上がり宙に浮いたまま身動きが取れないのだ。
——飛んで火にいる夏の虫とはこのことなり。
ニヤリと思わず笑みが零れてしまったのは誰だったか。
「え? え? どーゆうこと??」
今何が起きているのか分かっていないのはエフォール達だけではない。鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてクスクスと失笑している仲間達の顔を交互に見る。皆がどうして笑いを堪えているのかが分からない。
もしかしてエフォールは手品師(イリュージョニスト)だった? 確かにそれならあの凄すぎる跳躍力にも納得がいく。肩に猫(ケットシー)を乗せていることにも説明がつく。それは手品師だからの一言で全てに説明がつき納得することが出来るぞ、とランファは一人大きく頷き、人で大きな勘違いをしているのであった。
そう大きな勘違いをしているのだ、エフォールが手品師ではないと言う証拠は確かに何処にもないのだが、少なくともこの不思議現象はエフォールが手品(イリュージョン)で創り出した物ではなく
「エフォールに何をしたのですか貴方達っ」
「へ?」
エフォールと一緒に空中に"括り付けられている"ケティの睨み付ける先、こみ上げてくる笑いを必死に堪えクスクスと笑っているルシア達が考えた作戦の一つだから。
「ドウユウコトデスカ?」
異国の民のように片言で聞くランファに
「なんでカタコトなんだよ、お前は」
笑いながら冷たく言い放つリア。そしてなにおーと怒り向かって来るランファ。そうだ、どんなシリアスな場面でもほっこりとさせてくれる彼らのやり取りは重要なスパイス。
これがなくては落ち着いて作戦の一つも立てることも出来やしない。
「殺殺殺。殺殺殺殺」
「な……にを楽しそうに話やがってる、早くエフォールをここから降ろしやがれ、と申しております。
それは私からもですね。こんな宙吊り状態で放置なんて楽しくありません。手短に降ろしては頂けませんでしょうか?」
ケティは至って丁寧に頼んでいるが隣にあるエフォールの眼光はギラリと鋭利な刃物のように輝き、降ろした瞬間お前たちを鎌で斬り、弓矢で串刺しにするぞ、と物語っている。これでは降ろしてあげたくても降ろせない。
「まー待て待て。そう慌てなさんなって。
手品はタネを明かすところがイッチバン面白いんだろ?」
「種明かし……ですか?」
「殺殺?」
初めてエフォールとケティの口を開くタイミングが逆になった。いや今はどうでもいい事なのだが少し気になった。どうでもいいことなのでもう忘れることにしよう。
「よーく自分の身体を見てみてよ!」
「え? なにもないよー」
「だーかーらー、お前じゃなくてあっち! あっち!」
「あっ、エフォールの方か!」
エフォールの身体をよーーく目を凝らして見てみる。……特に何か特別な物は見えないように思える。
地面から数十メートル離れたところで、両腕を真横に伸ばし十字架のように空中で停止しているだけのようにしか見え……
「ああッ!!」
何かが太陽の光に反射して一瞬だけ光を放った。それは細い数ミリ程度しかない糸のよう、最初はエフォールが左手に持っている弓矢の弦が光ったのかと思ったが、改めてもう一度よーく見てみるとそれは弓矢の弦ではなく、四方八方から伸びた透明に近い白い数ミリセンチの糸、触ってみるとすぐにわかった。
「このネバネバ……クモの糸?」
極細の蜘蛛の糸が何本も重なり束ねられている物。
「蜘蛛の糸って粘々だしちょっと触るだけすぐに切れちゃうから使い道なさそうに思えちゃうんだけど実は何本も重ねて束にするとね、そこらの丈夫な縄よりも頑丈な糸になるんだよ。
馬車の荷車だって持ち上げてしまうくらいにね」
「マジで!?」
「殺殺殺!?」
敵とかそうゆうの面倒な物は一切忘れてランファとエフォールはシルの解説を食い入るように聞いている。
「本当だよ。前に新聞に書いてあったからね。
ちょっとやそっとじゃ切れないから、私はよくお裁縫用として使っているんだ。
だって……野山を駆け回る元気っ子のランファはいつも擦り傷だらけで服もボロボロになって帰って来るし、ルシア君は戦闘で無茶ばかりするからいつも服はボロボロだし」
だしと言ったところでルシアをじろりと横目で見つめる。
「うちには新しい洋服を買うお金も、余裕もないから私が密に採取していた蜘蛛の糸で縫って直していたんだからね?」
「いつもありがとう……シル」
「アリガトー」
「はい、どういたしまして」
当然のようにボロボロにして宿に帰り、一晩明けると当然のように破れていた箇所が直してあったので妖精さんの仕業? とかなんとか、自分を誤魔化していたがそんなことはなかったか。
今度シルに何かお礼をしないとな、と思うルシアなのであった。
シルの話をずっと黙って聞いていたケティが口を開いた。
「なるほど。蜘蛛の糸を使った蜘蛛の巣作戦なのですねー。それで?
このままエフォールと私を宙吊りにしたままお帰りになるおつもりです?」
言葉使いは心底丁寧だが言葉の端々に怒りを感じる。
「じゃあ一つだけ」とルシアはエフォールにお手製蜘蛛の巣から降ろす条件として
「もうこんな事しないって約束して」
十と少しといった少女がこんな鉄砲玉のようなことをしているのは良くない。良いわけがない。
だからもうこんなことからは足を洗い、普通の女の子として暮らして欲しいと、自分の命を狙って襲い掛かって来た相手に何ともぬるい条件だと呆れるかもしれないが、それが彼の良い所なのだ。
こくりと静かに頷くのを確認すると、彼女の身体に絡みついている蜘蛛の糸を切り外し自由にしてあげた、その瞬間——
「……殺殺殺殺殺殺殺殺。
殺されても殺す。それが私の望み」
「 ——え?」
持っていた武器を弓から鎌へと変形させ、大きく振りかぶった。
「ルシア、危ねえ!」
「リア! 駄目、エフォールは——」
ヒスイの止める声も虚しく、リアはエフォールが鎌を振り下ろすよりも先に、
「殺!」
彼女の身体を斬った。
「私はエフォール……地獄で会ったら、この次はお前を殺す」
最期の言葉を通訳するとケティは移動魔法を唱えその場から瞬間移動し跡形もなく消え去った。残ったのはエフォールの真っ赤な鮮血。
「エフォール……」
死にゆく友の姿を見る事の出来ない彼女は膝から崩れ落ち、言葉では言い表せない複雑な思いを抱え独り静かに涙を隠す。
「…………ククッ」
やっと手にする事が出来た復讐の前菜を舌なめずり。
アア——やっぱりドラゴンネレイドの血は渇いた喉を潤す。
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