複雑・ファジー小説

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シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【氷国の民編】
日時: 2019/09/08 08:53
名前: 姫凛 (ID: 9nuUP99I)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=19467

これから綴る物語は忌まわし呪われた血によって翻弄され
哀しき封印から少女達を救い
少女達と共に謎の不治の病に侵された小さき妹を
助けるため小さな箱庭を行き来し愛と絆の力で闘い続けた
妹思いな少年と個性豊かな少女達の絆の物語である

-目次-[シークレットガーデン〜小さな箱庭〜]

登場人物紹介 >>166-168
-用語紹介- >>169
-魔物図鑑- >>23
-頂きもの-
高坂 桜様(元Orfevre様)より シル(オリキャラ)>>10
はる様より リア・バドソン(オリキャラ)>>11
ブルー 様より ヒスイ(オリキャラ)>>12 ヒスイ(キャラ絵)>>205
レム様より エリス(オリキャラ)>>66
華那月様より ヨナ(キャラ絵)>>08 ランファ(キャラ絵)>>09 シレーナ(キャラ絵)>>38
むらくも(キャラ絵)>>39
むお様より リオン(キャラ絵)>>37
自作:エフォール(キャラ絵) >>217

-あらすじ(第九章)

山の国の何処かにあると言い伝えられている女神が誕生した遺跡 アンコールワットで見事試練を乗り越え真実の歴史を知ったルシア達は遺跡を出てリオン、リティと別れ時渡の樹が生えた広場でヒスイと合流を果たした。

新たに出来た旅の目的。四つの国にある四つの遺跡を巡りかつて女神と共に邪神と戦った王達の力を受け継ぐ旅の始まり。

——さてどこの国の遺跡から行こうか?


-章の目次-
*1分〜10分(読むスピードで個人差があります)で物語の概要が分かるスキップ物語☆
*本編を読むだけでも物語を楽しめますが個別の短編も読むことでより深く楽しむことが出来る作りとなっています。

序章 出会いと別れ >>05-07 -スキップ物語- >>22

第一章 物静かな看護師の闇
荒くれ者 ザンク編 >>13-20 -スキップ物語- >>40
シレーナの封じた過去編 >>24 >>26-36 -スキップ物語- >>50-51
(より抜き「 魔女と呼ばれた少女の物語」完結済み)>>152

第二章 汚された草競馬大会 >>43-47 -スキップ物語- >>52

第三章 大都市で起きた不可解な事件
宿屋での選択肢 >>48-49 -スキップ物語- >>53
[ムラクモを探す- >>55] [後をついて行く- >>54 …正体END]
遺体のない葬儀編 >>56-61 -スキップ物語- >>68
立食パーティー編 >>62-63 >>67 -スキップ物語- >>79

第四章 監禁・脱走 >>69 >>73 >>76-78 -スキップ物語- >>124
(叢side「椿の牢獄」>>158完結済み)
(別side「菊の牢獄」>>)

第五章 美しき雌豚と呼ばれた少女
コロシアム編 >>82 >>85-90 >>93 >>97 >>100-101 >>104 >>107-108
-スキップ物語-上中下>>125-127
シルの封じた過去編 >>111-113 >>119-123 -スキップ物語- >>128
(続編「美しき雌豚と呼ばれた少女とおくびょう兎と呼ばれた少年」完結済み)>>153

第六章 闇と欲望の国
アルトの封じた過去編 >>129-133 >>136-138 >>143-145 -スキップ物語- >>146
裏カジノ編 >>147-150 -スキップ物語->>151
(幕間「感情のない少女の物語」>>224
敵の本拠地へ編 >>154-156 -スキップ物語->>157

第七章 賢者たちの隠れ里 >>159-163 -スキップ物語上下- >>164-165

第八章 からくり遺跡
女神の試練編 >>170
[勇気の試練>>183-186 ] [知恵の試練>>177-182] [力の試練>>171-176]スキップ物語->>187-189
[仲間->>185…生贄end] [友人->>186…見損ないend][本当->>181] [嘘->>180…神のお遊戯end]
[棺を開けない- >>173-176][棺を開ける- >>172…死神end]
隠された真実編 >>194-197 -スキップ物語->>193
      (修正前>>190-192
第九章 荒くれ者の最期 >>198-202 -スキップ物語->>207
(幕間「殺戮人形と呼ばれた少女の物語」>>224

第十章 殺戮人形ト色欲妖怪
王家の墓編 >>208-216 -スキップ物語->>
リアの封じた過去編 >>218-2231
[受け入れる>>220-221]…喪失END [受け入れない>>222-223]…永眠end
(→狐の銅像「親殺しの青年の物語」>>)

第十一章 嘘ツキな臆病者
氷国の民編>>225-229 …達筆中
ひと時の休息編

第十二章 賽は殺りと投げられて
偽りの仮面編>>
真実の泉編 >>
???の封じた過去編>>

最終章 最終決戦
Aルート >>
Bルート >>
cルート >>
Dルート >>


 
-掲示板-
達筆開始日 2014/3/4
2017/11/25:URL先を新しくしました。雑談板にあります、設定資料集スレにしました。
2019/9/8:URL先を新しく書き始めたリメイク版の方に変えました。

-おしらせ-
2017夏☆小説カキコ小説大会【複雑・ファジー小説部門】で【銅賞】を頂きました。
投票してくださった皆様、本当にありがとうございました<(_ _)>
完走(完結)目指して頑張りたいと思います!
20119/9/03→『氷国の民編』『新章』追加

参照100突破!3/6 200突破!3/11 300突破!3/15 400突破!3/21 500突破!3/28 600突破!4/4 700突破!4/9 800突破!4/15 900突破!4/22 1000突破!4/28 1100突破!6/2 感謝♪
2017年 2600突破!/1/30 2700突破!1/31 2800突破!2/7 3200突破!8/31 3300突破!9/1 3400突破!9/7
3500突破!9/12 3600突破!9/19 3700突破!9/26 3900突破!10/10 4000突破!10/17 4100突破!10/31
4200突破!11/6 4300突破!11/14 4400突破!11/23 4500突破!11/28 4600突破!11/3 感謝♪
2018年 5000突破!1/7
返信100突破!2014/4/28 200突破!2017/11/14 感激♪

-神様な読者の方々-
蒼欒様:初コメを下さいました!もう嬉しさMaxです♪
レム様:エリスちゃんの生みの親様です♪いつも温かい励ましコメありがとうござます!
ブルー様:オリキャラ ヒスイちゃんを投稿してくださいました!
出せるまでに一ヶ月以上もかかってしまったのに、見捨てずに見て下さっているお優しい方です(T_T)

Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【隠された真実編】 ( No.196 )
日時: 2017/11/07 17:40
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: 0j2IFgnm)

女神は俯き口を閉じた。

「裏切り者……僕の父さんのことですよね」

胸元をギュッと握りしめてルシアは答える。苦しそうに震え腹の底から絞りだすような声で自分の父親こそが、女神をアンコールワットに封じ、世界を我が物にしようと他の種族の王達を虐殺して周りそして失敗したメシアの王だという事を歯を食いしばり、吐き出すように言い放った。
苦しむルシアの頬をそっと撫で女神は微笑み、

"安心なさい ルシア”

耳元で囁くように、過去に起きた歴史の続きを語り始めた——。


生み出した子供達からの裏切りに合った私。
アンコールワットに囚われの身となった私にはただ世界で起きた出来事を観る事しか出来ましてんでした。目の前で起きる惨劇を第三者として世界の外から見守る事しか出来なかった。

「さあ——始めましょうか」

ユダの王として先の戦争で活躍したバーナード。ですがそれは偽りの姿でした。
本当の彼は貪欲で野心の塊のような男。この世界に誕生した時から彼はこの世界の支配者になろうと計画を立てていたようなのです。
彼の計画がこう。表向きは他の種族の王達と協力し、ギムレーを弱体化させ弱らせたところでギムレーの持つ力を奪いそしてこの事実を知る王達を皆殺しにし、自分に都合の良い歴史を語り民を騙し世界を自分の好きなようにするというものでした。

「ああ……なんて恐ろしい子を生み出してしまったのでしょう」

これは母である私の責任、ですが力を失い、囚われの身になっている私にはなにもなす手段がありませんでした。
このままでは世界はまた暗雲に包まれ希望の無い混沌が支配する絶望の世界となってしまいます。それだけは……それだけは絶対に許すわけにはいきません。
もう残された手段は一つしかありませんでした。

「これはあなたにしか頼めない事。頼みましたよ——ソヴァール」

「承知いたしました。女神ナーガさま」

六種族の王達の中で最も信頼における人物。メシアの王、ソヴァールに全てを託しました。

ソヴァールはすぐに動いてくれました。
他四種族の王達を集め弱体化させ動けなくさせていたギムレーの身体を五つの部位に切断し、それを王達のシークレットガーデンへと封じ込めたのです。ここならでならいくら聡明な知性を持ったバーナードでも気づくことはないだろう、というソヴァールが出した考え。

頭はドラゴンネレイド。
胴体はフュムノス。
腕は壊楽族(かいらくぞく)。
脚はリリアン。
そして一番厄介な邪神の魂 心臓部はメシアの王ソヴァールが請け負いました。

この事は私と五種族の王達の間だけの秘密とし、例え家族で会っても、誰であって口にしてはいけない禁忌とし、硬く口を閉ざしました。
その事実を知らぬままバーナードは、奪う前にギムレーを奪われたとして怒り狂い、五種族の王達皆を虐殺しました。
口に出すのも恐ろしい方法で。
そのせいで壊楽族(かいらくぞく)とドラゴンクエストの間で勘違いによる小さな火種が起こり、やがてそれは大きな戦火の炎となり、沢山の命の炎を奪っていきました。

それでも力の欲望に溺れたバーナードの怒りは静まらず、世界中にいる全ての樹族の民に向けて

「メシアの王が女神ナーガさまを遺跡に封じ込め、邪神ギムレーを復活させようよしているぞ!」

と、嘘の演説をしたのです。そんなことはない。そんなのあり得ないとメシアの民は言いました。ですが何も知らない他の種族からしてみれば、他の四種族の王達を共に戦ったバーナードの言葉の方が信憑性が高く最も信頼できるものでした。

「さあ——武器を取れ! 女子供も関係ない! これは戦争だ。
 己が欲望に負け、世界を、女神を。我々を、裏切ったメシアの一族への復讐戦争だ——」

「おおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」

世界は瞬く間に戦乱の火の渦となりました。
何も知らない無垢の魂は、力に溺れた魔王に騙され、同じ無垢の魂を虐殺していったのです。

これも全てバーナードの計画通り。

ギムレーの身体が五つの部位に別れ、五つの種族の王たちのシークレットガーデンへ封じ込まれていると何者かから聞いだバーナード。
彼は生きた捕らえ拷問にかけて殺したまだ幼いメシアの子供達の血を集め、メシアだけが持つ異常なる再生能力を遺伝子の研究、改造を重ね、長い月日をかけて遂に完成させました。

全種族共通、大小様々、罪を犯し、その罪意識、罪悪感で、畏れ、恐怖し、怯え、汚れ苦しむシークレットガーデンを持つ者達に投与すると、プリンセシナ内部に穢れと呼ばれる異物をまき散らし、やがてシークレットガーデンを破壊し、人ならざる者へと変化させる、ウイルスを開発したのです。

一度穢れたシークレットガーデンを治す方法はない。
……そう思われていました。
ですがランファ。あなたの持つ精霊石が全てを変えました。

治す手段のない不治と呼ばれた闇病を治す唯一の方法。精霊石を使い、直接患者となる者のプリンセシナ内部へと入り、ウイルスである穢れを倒し、シークレットガーデンを縛る過去の罪から患者を解放させること。
そうすることで闇病治ります。……治りますが。


また女神が顔を伏せ口を閉ざした。
その表情は悲しみと恐怖に震え、瞳にはうっすらと雫を浮かべいる。

”ルシア もう一度問います。
 あなたが訊きたいと言う真実とは いつでも貴方に優しいく微笑むものではありません。
 牙をむきあなたを絶望の淵に立たるものあります。
 聞かなければ良かった。聞かない方が良かった。そんな真実でもあなたは聞きますか?”

涙を浮かべ震える身体を押さえ必死そうに苦し気に女神はルシアに問う。
ルシアの答えは

「それでも僕の意思は変わりません。聞かせてください、女神さま」

変わらない。此処へ来る前、リアに問われた時からもう覚悟は決めていた。
例えどんなに目を逸らしたくなるような、辛く、惨い、尽日だったとしても受け入れ前に進むと、仲間達と約束したのだ。
それを今更変える事なんて、そっちの方があり得ない。
ルシアは真っ直ぐに女神を見つめ「僕は大丈夫です」と大きく頷く。それを見た女神も顔を上げまっぐにルシアの瞳を見つめ、

”わかりました。それでは話しましょう。話の続きを——”


女神は語る。
騙されていた方が良かった。
間違った歴史のままで良かった。
知らぬまま生きていた方が良い真実というものを——。



Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【隠された真実編】 ( No.197 )
日時: 2017/11/08 10:20
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: lvVUcFlt)

"封印とは呪いのようなもの。例え持ち主が死んだとしても、封印はその者の子へ孫へその先の子孫へと永遠に受け継がれてゆきます。子供だからと言っても全員が全員受け継ぐわけではありません。選ばれた者只一人だけ、いくら賢いバーナードであっても誰が受け継いだのか分からないはずと、ルシアあなたの父を始め四種族の王達、そして私も手出しできないものと高を括り過信し過ぎていました。

しかしバーナードは聡明でとてもずる賢い男、メシアの子供達の血で作り出したウイルスを気化させミトラスフィリア中にまき散らし、不治の病 闇病を流行らせ人々を混乱の渦に巻き込むのと同時にもう一つの意味を用意していたのです。

シークレットガーデンは一度穢れそして浄化されると元あった姿に戻ろうと、プリンセシナ内部にいる全ての異物を排除しようとします。そこにバーナードは狙いを付けたのです。
シークレットガーデンにとって、ギムレーは異物以外の何物でもありません。元の姿に再生するための邪魔な存在でしかないのです。
シークレットガーデンから排除される。それは同時にギムレーの封印が解けることを意味します。
賢いあなたならもうおわかりでしょう ルシア”

女神からの問いかけにルシアは何も答える事が出来なかった。
今語られた真実とは、ルシアが今まで命懸けでやってきたことは全てバーナードの思惑通りでただ奴の手のひらの上で踊らされていただけだという事実。
目の前にいる困っていた人を助けて回った旅は全て無意味だったという真実を突き付けられ、ルシアは驚愕しその場に崩れ落ちるように膝をついた。
虚ろをうつす瞳は絶望に染まり、開いた口は塞がらない。

「僕は……僕がいままでしたことは全部……無意味だったのですか」

今にも泣き出してしまいそうな、喚き散らし叫びたい、感情を押さえ至って平常心を偽り絞りだした声は怯え震えていた。
「そんなことはない」「ルシアがいなかったら」「貴方は命の恩人」だとルシアに助けられた少女たちは言う。だがその励ましの声は残念ながらルシアの心にまで届かない。

"フュムノスの封印。
 ドラゴンネレイドの封印
 リリアンの封印。
 あと残る封印は壊楽族とメシアの二つ”

「メシアの封印……まさかヨナ!?」

そう考えればバーナードがヨナを攫った理由、殺さないで生かしている理由に説明がつく。
まだ邪神の封印が施されたままのヨナを今死なせてしまえば、次の後継者が現れるまで邪神の復活が出来ない。
そして邪神の心臓を他の物に受け渡されでもしたらそれこそ面倒な事になる。邪神の心臓はそれだけでも強大な力を持つ代物で絶対に奪われたくない逸品。ならば自分の手のひらの中に収めてくのが一番安心ということだ。

「なんだか面倒な事になってきたなー」

苦笑いしながらリアがぼやいた。冗談っぽく言ってはいるが本音だろう。

「……邪神復活……駄目」

俯きシレーナは力のこもった口調で言った。

「そうだよねっ。邪神を復活させたら全てが終わってしまうものねっ」

小さくガッツポーズをし気合を入れ直すシル。

「ここからが正念場なんだ」

胸元強く握りしめ誰にも聞こえないように独り言を呟くランファ。

「……みんな」

今ここにヒスイはいないが、いればきっとここにいる仲間達と同じことを言っているだろう。
旅の目的、闘う理由は皆違うが敵は同じ——打倒邪神! 打倒バーナード! もう二度とあいつらの好きにさせて堪るか 怒りの気持ちはルシアを含めこの場に居る全員が同じ気持ちなのだ。

"今のままでは駄目なのです”

だが女神の表情は浮かないままだ。瞳から大粒の雫を流したままだ。
「どうしてっ」とルシアが訪ねると女神は頬を撫で

”六種族全ての王達ですら、弱体化させることだけで精一杯でギムレーを倒すことなんて出来ませんだ。
 ギムレーを弱らせることは愚か、バーナードに傷一つ付けることすら難しいでしょう。
 彼はミトラスフィリア最強の上級魔術師ソルシエールですから”

腐っても女神が生み出した兵隊の一人。
世界最強の魔術師はそう簡単には倒せそうにないらしい。……ならばどうすればいいと言うのだ。
今から修行しているようでは邪神復活に間に合わない。世界はバーナードのものとなってしまう。
頭を抱えどうすればいいんだと、皆で頭を悩ませていると女神はルシアから離れ高く宙に跳び上がり

”一つだけバーナードを倒す手段はあります”

一筋の希望の光が差し込む。

”こうなることを予測していたのでしょう。五種族の王達はミトラスフィリアにある五つの遺跡にそれぞれ自分達の力を封印し子孫達へ残したのです”

白く輝く光の柱は真っ直ぐにシレーナを照らし包み込む。

"アンコールワットに封じ込められたのは癒しの力 全ての傷を癒し闘う力を力を与える究極魔法 シレーナ 貴方の祖先が残した力です”

シレーナを包む眩く暖かい光は吸い込まれるように彼女の中へ消え、ヒュムノスの王の加護を得たシレーナは究極魔法 天光治癒(エンジェルブレス)を習得した。


『ルシア』

頭の中に直接語りかけていた今までとは明らかに違う感覚で女神はルシアに直接語りかけた。
この心に直接語りかけられているような感覚……どことなくプリンセシナの案内人パピコに現実世界で話しかけられた時の感覚に似ているような気がする。
周りの仲間達を見てみたが皆無反応。フュムノスの加護を受けたシレーナに「どんな感じだった?」「面白かった?」「なんか走馬灯みたいの見えた?」「お爺さんに会えた?」「今日の晩御飯なにかな?」など後半はどうでもいいような質問攻めをしているようだ。
いつもの通り愉快な仲間達に頬が緩むが今は大事な話の最中、頭を振って邪念を晴らしキリッとした真面目の表情で女神を見つめ直す。

『もう既にあなたも気が付いているでしょう——あなたの心の中に潜む黒き邪悪なる獣の存在を』

思い当たるふしはある。
最初にヤツの存在を知ったのは石の遺跡で般若の面を付けた紅き鎧の騎士が召喚したヘンゼルとグレーテルという名前の機械兵士との戦闘時のこと。
一度は敗れ気を失ったルシア。負けられない——こんなところで負けて堪るかという黒い感情に触発され、内に眠る黒き獣が目を覚まし、ルシアの精神と身体を乗っ取り機械兵士を破壊したあの化け物の事だろう。

『その黒き邪悪なる獣は、ギムレーの心です』

女神は語る。
邪神の心臓部は妹のヨナが受け継ぎ、邪神の魂——すなわち心はルシアが受け継ぎ、そのせいでルシアは表に出てこようとする邪神の心に何度も精神を乗っ取られようとしていたのだと。、

『ギムレーの精神支配を食い止めるための対抗手段は、邪神を抑え込むほどの強い精神力を持つことそれしかありません。
 まだ弱い精神力のあなたがをソヴァールの残した強大な力を手にすれば、ギムレーはその隙をついてあなたの精神を飲み込み支配し表世界へと完全に出て来てしまうでしょう。
 そうすれば世界は終わったも同然。ルシア、あなたは絶対にメシアの加護を受けてはいけません。
 ソヴァールはとても優秀で勇敢で信頼のおける男でした。ですが強大な力は人を狂わせることもあるのです、バーナードのように。
 あなたにはそうはなって欲しくない。どうか私の願いを聞き遂げてください』

これは女神とルシアの間だけで交わされた秘密の約束事。
邪神を完全復活させるにはどれか一つでも身体の部位が欠けてはいけない。それは魂——不確定要素の心もまた同じ。

『あなたが飲み込まれない限り、邪神は完全復活を果たせません』

万が一にもルシア達がバーナードとの戦いで負けたとしても、ルシアの精神が邪神に飲み込まれない限り邪神は完全なる復活が出来ない。
完全なる復活を遂げられないと、バーナードの野望を叶えることが出来ない。
全てはルシアの精神の強さにかかっているのだ。
重い十字架を背負いその重さに押しつぶされそうだ。

「ルーシーア」
「なにっ!?」

心の中で女神と会話をしている間、傍から見ればルシアは遠くを見つめ棒立ちしている変な人状態だったのだろう、心配したランファがルシアの肩を掴み身体を大きく揺らした。
そのせいで世界がぐるんぐるん、脳みそもぐるんぐるん、で気持ち悪い。
「何々?」と辺りを見回すルシアにランファは「もお」と頬を膨らませ、その横でクスクス笑っている仲間達と不機嫌そうなリオンの姿。
なんだか気恥ずかしくなってルシアは俯き片手で後頭部をかきながらえへへと苦笑い。

”残る四種族の王達が力を封じ込めた遺跡は海の国、和の国、仮面の国、山の国にそれぞれ一つずつ。
 ギムレーが復活してしまえば、世界は混沌と化し新たな生命は生まれず死だけの絶望が支配した暗黒の世界となりましょう——どうかお願いします”

最後にそう言い終わると女神は静かにルシア達の目の前から姿を消した。
女神が消えると小鳥達の歌声も風が揺らめく木々の伴奏もなくなり、一時的に静寂な間が訪れた。
暫く沈黙が続いた後。

「さてっと」

皆が沈黙し重たい空気になった時いつも一番に口を開くのはリア。この中では最年長の彼、普段はお調子者でふざけてばかりだが頼りになる時は凄く頼りになり役に立つのだ。
大きな岩に腰を付けていた体を立ち上がらせ、横に座っていたリオンの方を向き、

「リオン、お前はどうする?」
「……どこへでも好きに行けばいい」

これはリオンなりの気遣い、いや皮肉か? 本当は久々に再開した友人と楽しくこれまであったことを酒のつまみに話したりしたい。昔のように三人で馬鹿やって騒いだり、冒険などしたい、だがそれも今は無理な話。こんな傷だらけでボロボロの体の自分が一緒に行けば、確実に足手纏いになる。足手纏いだけはごめんだ。そんなのは彼のプライドが許さない……だから。

「く、ふふっもー、素直じゃないんだからー、リオンちゃんはっ」
「なっ!?」
「可愛いなぁっこのこのっ」
「やめろっ馬鹿!!」

まあそんな照れ隠し幼馴染には通用しないのだが。
リアはリオンの肩に腕を回しぐりぐりと髪をぐしゃぐしゃにしてじゃれ合う。嫌だ止めろと口では言っているリオンもその顔は嬉しそうに歪んでいる。
……その姿を見て頬を染め、うっ羨ましくなんてないんだからっと膨れている、

「リティさん、顔赤いですよ? 風邪ですか」
「あ、赤くなんてないわよ!?」

女性がいたことは別の話。

「俺は俺のやり方でお前らの旅の手助けをしてやるよ」
「ありがとうございます、リオンさん!!」
「ふんっ」

リアとのじゃれ合いが終わったリオンは立ち上がり、そっぽに向いて答える。
このままではリオンとまた離れ離れになってしまうかもしれないと焦ったリティは、

「わ、私も手伝うわっリオン!」
「ハッ、邪魔だからいい」
「ハァァアア!?」
「あっははっ。可哀想なリティー」
「うっさいわよ! 手伝うって言ったら手伝うんだからね!!」
「……チッ」
「そこ! ものすっごく嫌そうに舌打ちしない!」
「あははっ」
「笑わない!」
「だってお前らオモロ過ぎるだろっ」
「「「アハハハッ!!!」」」

様々な理由があって離れ離れになっていた幼馴染三人は涙が枯れるまで泣き、喉が枯れるまで笑い合った。
もしかしたらこれが最期となりもう二度と会えないかもしれないから、と、気が済むまで泣き笑った後悔などないように。

アンコールワットを出て来たところで、二つに道が分かれる。

片方は別れた仲間と合流する為に時渡りの樹が生えた広場へ。

片方は傷を癒す為に賢者の隠れ里へ。

「——死ぬなよ」
「——そっちこそ」

リアとリオンは互いに進むべき道を見つめ、背を向けたまま会話をする。

「レオが命懸けで救ってくれた命なんだ。無駄にして堪るかよ」
「そうかい」

二人の青年に別れの挨拶などいらない。かわす言葉はこれだけで十分。
たとえこれが今生の別れとなったとしても、もう後悔などない。
一度も振り返らず両者は己の道をただ真っ直ぐに進んで行くだけだ——。











第八章 からくり遺跡-終-


Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【荒くれ者の最期】 ( No.198 )
日時: 2017/11/09 10:40
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: EVwkkRDF)

第九章 荒くれ者の最期


「ルシア! それにみんなも……おかえりなさい」
「……ただいま」
「戻ったよー。ヒスイさんっ」

アンコールワットでリオンとリティ達と別れたルシア達は時渡りの樹の根元でヒスイと合流。
長らく待たせてしまったのだろう、ヒスイの傍には読み終わった本の山が積み上がっていた。

「それで……どうだったの?」
「あのねっ、あのねっ、すっごかったんだよ!」
「ランファ落ち着いて、ヒスイが困ってるから」
「ふふ。どんな事があったのかな?」

無邪気な子供の様に目を輝かせて話すランファにヒスイはお姉さんになったような気で優しい微笑みを浮かべ話を聞いてあげた。
ランファはアンコールワットで、見て、体験し、知った事を、ヒスイに全て話した。
あくまでも遠足から帰ってきた子供が親にその日あったことを報告するかのように、明るく元気に、楽しそうな笑みを崩さないまま話し続ける。
ヒスイに要らぬ心配をかけたくないから。
その思いをヒスイも感じ取ったのだろう、

「お友達と再会できて良かったね」
「そうでしょー? 良かったな、リア」
「なんで俺だけ呼び捨てなんだよ、チビガキー」
「ふにゃぁぁ頭ぐりぐりするなー!!」

ふざけじゃれ合うランファとリアの姿を見て、みんなと一緒に笑い合い、それ以上は何も聞こうとはしなかった。
なんとなくだが知っていたから。
元ドルファフィーリングに雇われの殺戮人形として働かされていたヒスイ。
薄々は気づいていた。
バーナードが何か良からぬことを企み実行していることも、そのせいで大勢の無垢の命が犠牲となり、この手は真っ赤な血で真っ黒に汚れていることも全て知っている。

——自分が殺人鬼であることをヒスイは知っているから。


「ヒスイ?」

閉じて見えないはずの目で自分の手のひらのをじっと見つめているヒスイを不思議に思いルシアが顔を覗かせた。もちろんその顔もヒスイには見えていないのだが、ルシアの心配そうな声は聞こえている。

「なんでもないよ。大丈夫だから心配しないで、ね?」
「……そう?」

ニコッと笑い誤魔化してみたつもりだったがまだルシアの声のトーンは変わらずだった。
でも自分から離れていくの気配は感じ取れた。納得はしていないが、理解はしてくれたという事だろう。今はそれだけでも純分だ。

「四つの国にある四つの遺跡……どこから行く?」

円状になってみんなで顔を見合わせて考える。
んーーと首を傾げ考える。

「やっぱりここから一番近い海の国がいいんじゃない?」

シルが答えた。

「山の国にもう一つあるのにー?」

ランファが不思議そうに聞く。

「いや、海の国を先にしようぜ」

リアが深刻そうに答える。なにか思いつめたような表情で。

「別に僕はどこからでもいいけど……どうしたんですかリアさん。そんな深刻そうな顔をして……なにか海の国に心配事でも?」
「別にそんなんじゃねーよ。ただ……」
「ただ?」

リアは一呼吸入れ、

「嫌なことはさっさと終わらしたいってタチなだけ」

ニッと笑い冗談を言うみたいに言った。
ますます訳が分からなくなり、ルシアの頭の中はクエスチョンマークだらけだ。クエスチョンマークのことしか考えられない。もしかしたら頭の上にも浮かび上がっているかもしれない。

「ほらもたもたしてないで行こうぜ」
「待ってくださいっリアさんっ」

先を行くリアの背中を追いかけルシアと仲間達は次なる目的地 大都市ゼルウィンズに行くためまずは山の国と海の国を結ぶ唯一の移動手段、中央列車が通る駅 リヴァプールへと歩き出した。








                          †






「あぁぁ腰痛いぃぃぃ!!!」

やわらかな午後の日差しの中、蒸気の鼓動を響かせて、レールの上をひた走る列車の中で盛大に叫んでいる少女が一人。

「ランファっ声が大きいって」

声の主はもちろんランファだ。
中央列車にはランクがある。
前回ルシア達が乗ったのは選ばれし王族貴族様しか乗ることを許されないと言われる最高ランクの中央列車。
そして今回ルシア達が乗ったのは最低ランクのお金さえ出せば誰でも乗せてくれると言った、庶民のための中央列車。
木の座席に布をかぶせただけの厳かな物が左右直線に向かい合うように二十席備え付けられただけの車両。当然個室なんてものはない、トイレお風呂は皆で共同で使い、お食事のサービスものもない、朝昼晩ご飯は自分達で事前に用意しなければならない。
格安で南の国連れて行ってあげるだけありがたいと思え、そう言いたげなお粗末な作りで涙が出てきそうだ。

「まあまあ。みんな文句の一つや二つ言いたくなるのもわかるけどさぁ。ここは我慢するしかないんだからさ? ね?」
「シルさーん。でもお尻痛いよー」
「……いたい」
「こ、腰が限界に近いかも」
「ほらっヒスイさんだっておばあちゃんみたいなこと言い出しちゃってるしー」

文句しか出て来ない娘達。
ルシアとリアの男二人は一本通路を挟んだ、左側の席から彼女達の楽しそうな会話を見守り、

「うちの女子共は元気一杯でよろしいこって」

皮肉を言うリアに、

「そっちは寂しん坊ですかー? にひひっ」

ランファも皮肉で返してみたつもりだったが、

「いえいえ。ご心配いりませんわ。私達も楽しんでいますので」
「わっ!? 近いですってリアさんっ」

リアはオネェ口調の喋り方をすると、ルシアの頭を掴み自分の顔の傍まで寄せ

「どう? 羨ましいでしょう」
「ムキーーー!!」

地団駄を踏むランファに勝ち誇った表情をするリア。どっちもどっちだ。


Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【荒くれ者の最期】 ( No.199 )
日時: 2017/11/13 11:30
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: jmXt2.HO)

列車内で無邪気にはしゃいでいると、

「でもさ」

切り出すようにシルが口を開いた。

「女神さまが言っていた、海の国にある遺跡ってどこのことだろうね」

その言葉に皆一様に首を傾げる。
ミトラスフィリアには女神が邪神を倒す為の兵士として生み出した、フュムノス、ドラゴンネレイド、壊楽族、リリアン、ユダ、メシアの六つの種族以外に沢山の種族が存在し、それぞれの文明をもっているため各地には沢山の遺跡と呼ばれる聖なる場所が存在し、女神が言う遺跡がどこのことなのかピンポイントには分からなかった。

「ほんとっ、俺がいないとダメな奴ら」

やれやれと両手を身体の横に広げ首を振るリア。

「じゃあリアはどこにあるのか知ってるの」

主にリアに対して、反抗期真っ盛りのランファは頬を大きく河豚のように膨らませ尋ねる。

「生まれ育った国の事なんだ。知ってて当然だろ?」

勝ち誇ったような顔でリアは膨れ上がったランファの頬を両手で挟みプシューと潰す。
またこの人達は……と少々呆れたルシアは軽く笑い飛ばそうと思ったが、

「海に沈んだ国"アトランティス”」

神妙な面持ちで言うリアに躊躇した。

「アトランティス……ですか?」

ごくりと一度唾を飲みこんでからリアに尋ねる。

「そ。俺らが生まれるよりもずーと昔、何百年も前に陸あったけど何らかの理由で沈んだ過去の国。なんで沈んだのかは誰にも分からない、海の国最大のミステリーなんだと」

答えたのは先程まで神妙な面持ちとは打って変わって、いつも同じひょうきんなリアだった。
あの一瞬だけ見せた顔は何だったんだろう……。
俯き考えていると

『皆さま、今宵は我がリヴァプールの中央列車をご利用いただきありがとうございました。
 国境を越え海の国、目的地である大都市大都市ゼルウィンズに到着致しました。
 お忘れものなどないようお気を付け下さいませ』

アナウンスが流れ思考は遮られた。

「アトランティスに行くには国王の許可がいるんだ。まずは王様に会わねーと」

列車から降りる際にリアが言った。
そうなんだ。さすがリア物知りだな。と感心すると同時に一つ疑問が湧いた。

「王様ってどうやって会うの」

素朴な疑問。
目の前に立ちふさがる巨大な壁。
海の国は世界最強戦争で敗れた壊楽族たちの国。
裏切りに合い、自分達を導いてくれるはずのの王を失った民の国。
過去に受けた傷と恨みはそう簡単には消えない。

「入るのは簡単なのに……」
「貿易で栄えた国だからね」

貿易、その他観光のの為に国へ入国することは許されても、国王に会う事はおろか城に入る事すら容易ではない。

「紹介状とかあれば良かったんだけどね」
「ねぇー、ねぇー、誰か王様とトモダチだったりしなーい?」
「さすがにそれは」
「……ない」

他の国の王の紹介状などをもっているか、国王の知人か友人でない限り城の門を通ることなど出来ない。
ここまで意気揚々と来てみたはいいが、一国の王に会うなんてどうすればいい。
ただの村人であるルシアにそんな芸当出来るわけがない。
それは他の仲間達も同じ。
列車を降りた駅のホームで皆で頭を悩ませ考えみるが良い案なんてそうそう……。

「ま、大丈夫じゃね」

明るく言ったのはリアだ。

「ど、どうゆうことですか!?」

何かいい案でもっとルシアが食い下がる。

「俺が居ればだいじょーぶってこと」

ニヒッと悪戯っ子のように言うリアに一抹の不安を感じる。
だが他の方法なんて無い。ここでこれ以上考えたとしてもいい案なんれ思いつかないだろう。
ならリアに頼るほかないか。普段は頼りなそうだが、頼りになるときはなる男、それがリア・バドソンだから。

「……心配?」

シレーナが顔を覗かせる。

「ちょっとな」

ルシア達にはああは言ったもののリアには少しだけ不安な事がある。
それは彼の生い立ちにも関係すること。

「……嫌な思いする?」
「だろうな。あのオッサン、俺のこと嫌いだから」

青いどこでも広がる大空を見上げ、フッと鼻で笑い自嘲するように言う。
彼の瞳がうつすのは青い空でも、自由に飛び回る鳥でもない、空虚な世界。

「……大丈夫」
「シレーナ?」

歩いていると不意にシレーナがリアの腕を掴み立ち止まった。それに驚きリアも立ち止まる。
二人の前を歩いている他の仲間達には気付かれてはいない。
俯いていた顔を上げたシレーナの瞳は光に反射し煌びやか宝石を見ているかのように綺麗だ。

「……私がついてる……だから……大丈夫」

途切れ途切れの言葉。
でもその言葉には力が込められている。
リアを勇気づけたいという思いが込められている。

「傍に居るだけか?」

シレーナの言葉に苦笑すると彼女の頭に手を置き優しく撫でてあげる。
急に頭を撫でられてビクンッと身体が震えていたが、気持ち良かったのだろうトロンととろけるような表情になり恥ずかしそうに顔を俯せ

「……それだけじゃ……駄目?」

上目遣いで首を傾げ聞いてくるシレーナにリアは

「駄目じゃねーけど、駄目かなあ」

意地悪に答えた。
よく意味が分かっていないシレーナはさらに首を傾げた。その姿を見て、

「まだキミには早かったか。ごめんっごめんっ」

アハハハッと笑い、優しく撫でていた手を少々荒く乱暴に動かし、シレーナ髪をぐしゃぐしゃになでくりまわした。まるで照れ隠しのように。
整えた髪をぐしゃぐしゃにされて少し不機嫌になったシレーナは、

「……ん」

と言って先に歩く仲間達の方へ走って行った。
ちょっとやりすぎちゃったかなあ、反省。

「……でも。ありがとよ」

大空を自由に飛び回る鳥たちを見上げ、誰にも聞こえないようにつぶやき、スぅ—ハ—と大きく深呼吸をした後、リアも先を歩く仲間達の元へ駆け走り

「何の話ー?」

何事もなかったかのようにその輪の中へと入って行く。
急にリアが入って来て驚いたが、すぐに温かく向かい入れてくれる優しい仲間達。
この輪は全てを失ったリアが手に入れた新しい居場所。

——たとえ一時しのぎの仮の居場所だったとしても。




「ここは海の城」
「王の許可のない者の通行を禁ずる」


やっぱこうなりますよね……という展開。
雪のように白色に蒼い海のような模様と背中にあるマントには国旗にも描かれている、不死鳥(フェニックス)の紋章が描かれている鎧をまとった男達、考えるまでもなく雪白の騎士団の者達だろう。城の正面玄関である門を守る二人の騎士たちは、

「帰った。帰った」

やって来たルシア達の話を聞く間もなく持っていた槍を門前でクロスさせ通行止めとしている。

「あの……僕たち」
「帰れ! 帰れ!」

取り付く島もないとはこのことか。
騎士たちはルシアの話に聞く耳すら持っていない。

「これ以上駄々をこねるようであれば……」
「どうなるか分かっているだろうな」

何かを破壊することに最高の快楽を感じるという壊楽族で構成させれいる雪白の騎士団。
やはり血の気が多い者達が多いようだ。
このままここで押し問答を続けようものなら、その首を刎ねるぞと脅し文句まで出てくる始末。
どこまで腐っているんだ——この国は。吐き捨てるようにつぶやく。

「俺が居れば大丈夫だって言っただろ?」
「リアさんっ」

騎士と交渉するルシアを押しのけリアが前へ。

「なんだっ貴様!」
「我らと殺るつもりか!」

前へやって来たリアに騎士の二人は槍の切っ先を向ける。
鼻の頭すれすれをかすめる槍の切っ先に臆することなく、

「そんな野蛮なこと俺がするわけないじゃないですかあ」

いつもの通りに振る舞い、懐から何かを取り出しそれを騎士たちに見せた。

「そ、それはっ!?」

先程までの勢いはどこへいったのか。騎士たちの顔はどんどん血の気が引いていき、顔面蒼白となり

「無礼の数々お許し下さい!」
「どうぞお通り下さいませ! 王がお待ちです!」

態度も打って変わり礼儀正しいものとなり深々と頭を下げ、ルシア達を通してくれた。
何がどうなったというのか。
リアが騎士たちに見せていたものを横から覗き込んで見ると、それは海の国の国旗に描かれているのと同じ不死鳥(フェニックス)の紋章が描かれた金色の懐中時計だった。
いつの間にそんな貴重品を手に入れていたのだろう? 
いや元を返せばリアは豪邸に一人で住む貴族、貴族ならば国王と面識があってもおかしくは……ないのか?

「なに? お前ら全員変な顔しちゃって」

城に入ると振り返りざまにリアは冗談のような口調で言う。

「いや……だって」

言いにくそうに眼を逸らしもじもじしていると、

「リアって魔法使いだったの!?」

しびれを切らせたようにランファが口を開いた。そこからは質問の嵐だ。
あの懐中時計は何? 
どうして国鳥の不死鳥(フェニックス)の紋章が描かれているの?
もしかしてリアは王族だったりするの?
あんな豪邸に一人寂しく住んでいる理由くらいはあるの?

「ねぇー、ねぇー、どんな理由でそのすっごいもん持って……」
「うるさいっ!」

ついにリアがキレた。これは質問しすぎのランファが悪い。

「いい男には秘密の一つや二つくらいあるもんなの」

先を歩くリアの背中を見ていると胸を締め付けられるような気持ちになるのは気のせいだろうか。
口調はいつも通り平然を装っているつもり。
だが心の奥底に秘めた恐怖の感情は上手く隠せておらず、心の隙間から漏れて仲間達に影響を及ぼしているのかもしれない。

階段を上がり城の奥へと進む。
すると目の前に大きな扉が現れた。ルシア達が扉の前に立つと、ゆっくりと内側に開かれ部屋の中には真っ直ぐ一列に整列した雪白の騎士団の先に

「久しいなジエーゴの子よ」

藍色の玉座に踏ん反り座っている男が一人。
蒼い海を現した服に黒い立派な髭を生やし、色とりどりの宝石を装飾されている王冠を身に着けている。

「そうですね。ブルースノウ王」
「えっ」

リアの言葉にルシアは目を丸くした。
目の前にいる人物こそが海の国の国王ブルースノウ王だったのだから。初めて見る王様に緊張して頭の中が真っ白になり言葉が出てこない。
呆然とその場に立ち尽くすルシア。

「門番の者達から貴様がやって来たと聞いた時はどのツラを下げて来たのだと思ったが……」

ブルースノウ王は愉快そうにルシア達一人一人を見つめ、

「まさか女子供を連れてとはな。フォッフォ」

まるで道化師でも見るような蔑んだ瞳でリアを見つめ嘲る。それは周りにいる騎士たちも同じだ。
軽蔑の目でリア見つめ、クスクスと笑い陰口を言っている。

「……」

唇を噛みしめ、俯せた顔を上げ

「アトランティスに行く許可を下さい」
「何故だ」

黙秘。ブルースノウの問いには答えない。

「フォッフォ」

答えないのがリアの答え。
その意味を知っているブルースノウ王は苦笑し

「一つお前たちに頼みたい案件がある」
「僕たちに頼みたいこと……ですか?」
「そうだ」

ごほんっと大きくわざとらしい咳払いをすると

「今アトランティスでは狂犬が暴れて困っていたところなのだ」

海に沈んだ国に哺乳類の犬が迷い込み暴れている?

「アトランティスは海の中にあるが、その外装は失われた魔法(ロストマジック)によって結界が張られて中は空気で満ちている。
 貴様らのような海の中で呼吸する手段を持たない者でも安心と言うわけだな。フォッフォ」

疑問はすぐに解決された。
ブルースノウ王からの依頼はいたって簡単。
アトランティスに行き暴れているという犬を退治すること、それだけ。それだけ?

「貴様らがあの国に何をしに行くかなど興味もない。
 じゃが……お前の死体には興味があるのお……なあドラゴンネレイドの娘よ?」
「…………」

いやらしい瞳が今度はヒスイの身体を撫でまわす。
何処へ行っても彼女はこんな辛い思いをしなければならないのか。

「こいつは関係ないですよ。それじゃ」

乱暴にそう吐き捨てると、リアはさっさと王の玉間から出て行ってしまった。
ルシア達はブルースノウ王に軽く会釈をした後、背中を追いかけるように続けて王の玉間から出と、

「アトランティスに行くための潜水艦を用意しました。どうぞこちらです」

案内役の騎士に出会い、そのまま外を出て城のすぐ近くにある港に泊めてあった潜水艦へと乗り込むと、潜水艦はすぐに海の底へと沈み始めた。
この間誰も口を開かなかった。
沈黙を破る担当のリアが固く口を閉ざし、どこか遠いくの空を見つめていたから。

Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【荒くれ者の最期】 ( No.200 )
日時: 2017/11/14 18:45
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: yZSu8Yxd)

ルシア達を載せた潜水艦は沈んでゆくどこまでも。
陽の光を反射し白く輝く青い海の中には沢山の小魚や大型魚が泳いでいる幻想的な世界が広がっていた。
少し気まずい雰囲気になっていたのも忘れ皆、海の宝石箱に見とれ

「なにあの魚うまそー!!」
「えっ可愛いとかじゃなくてっ!?」
「ランファは花より団子だなっ」
「なによーぶぅ」

いつも賑やかで愉快な集団へと戻っていた。
ランファがボケてリアがそれに乗っかりルシアが巻き添えに会い恥ずかしい思いをして周りの皆で笑い飛ばすいつも通りのやりとりをしていると、すぐに楽しい風景は終わりを告げ、陽の光がほとんど差し込まない深海エリアへと変わっていき泳いでいた色鮮やかな魚も

「アンコウ!」
「キ、キモカワイイ?」

地味な色に微妙な見た目の魚ばかりになり、盛り上がっていたテンションも駄々下がりだ、などと文句を言っているうちに、

「海の底に沈んだ王国 アトランティスに着いたぞ」
「さあ降りた。降りるんだ」

潜水艦を動かしていた騎士たちにせかされ追い出されてしまった。

「もうなんなんだよー」
「まあまあ……ランファ」

無理矢理降ろされて不満たらたらのランファを諭しつつ視線を前の前に向けてみると、

「……これが海の中にある国 アトランティス?」

そこには緑の苔に覆われた巨大な街が広がっていた。
下はワカメや海藻類が生えた砂浜。
上には深海魚たちが空を飛ぶ鳥たちのように自由に泳ぎ回っている。
本当に見えない壁がアトランティスを囲い、深海の水圧から守っているような感じがする。

「スゥーハー」

大きく腕を広げ深呼吸。

「うん。空気はある」

ブルースノウ王の言ってことを信じていないわけではないが、でも万が一の事だって、嘘をつかれているかもしれないという不安要素はあった。
あまりあの王様はルシア達のことを良く思っていないようだったから。

「五時間だけここで待つ」
「五時間経っても帰って来ないようならば」

分かっているなと騎士たちの目が語っている。雪白の騎士の者達は重要なことを目で語る者が多いようだ。
タイムリミットはたったの五時間しかないのか。
五時間で過去の英雄王達の誰かが残したという力を受け継ぎ、ついでにブルースノウ王に頼まれていた狂犬とやらを懲らしめてこないといけないのだ。
出来るだろうか。いや出来なければ置き去りにされ帰る手段を失うだけのこと。

「わかりました」

騎士たちに頭を下げてアトランティスの中を進んで行く。
建物に使われている素材は全て今の時代には存在しない物のようだ。苔まみれにはなっているがどれも壊れておらず、作られた当時のままを維持している。今現在の文明でこれを再現することはとても難しいことだろう。

初めて見る大昔の王国に見とれる一同。
だがしかしどうしてかいつも楽しい時間と言う者は他社の手によって打ち砕かれるもの。

無数に伸びまるで迷路のようになっている細い通路を真っ直ぐに歩いていると街の中央広場と思われし場所。円状の広場の中央にはアトランティスの国王と書かれた台座の上に立ってたと思われる粉々になった銅像が堕ちているその下では、

肉が踏まれ

肉が切断され

血飛沫が舞い

楽しそうに

愉快そうに

嗤っている

狂犬がそこに居た。

「——ギャハハハハッ!!」

狂犬は持っていた剣を振り回し、退治する為に訪れていた屈強な雪白の騎士団の者たちの身体を切り裂いてゆく。
まるで人形の手足をもぎ取る子供のように。
なんの躊躇もなく、生きたまま騎士たちの手足を切り裂き、引きちぎり、

「ハグハグッ」

ごく普通にソレを食べた。
気になった果物をもぎ取り食べるように、騎士たちからもぎ取った四肢を

「んぐっ——ギャハハハハッ!!」

噛み砕き飲み込んだのだ。

「キャアアアアアアアアアア!!!」

この光景を黙って見ていることに耐えられなくなったランファが悲鳴をあげた。
その悲鳴に気づいた、狂犬はゆっくりと背を向けた体を動かしルシア達と目が合う。

「——サンク!!」

ドルファ四天王狂犬のザンク。
シレーナの故郷でフュムノスの娘達を誘拐し己の快楽を満たすための玩具として弄び、いらなくなれば肉体は粉々になるまでに破壊し、隔離した魂は召喚獣を使役するためのエネルギーとして利用した破壊の使者。

「よぉ。ルシアやっぱ来たなあ?」

ニヤリ、牙を輝かせザンクは口元を歪める。

「どうゆう意味だ!?」

腰に下げた剣を手に取りいつでも抜ける体制をとる。

「バーナードの奴に言われたんだよ。ここで待ってればテメェがやって来るってな」

ギャハハハハッ!! と辺り一帯にザンクの狂った嗤い声がこだまする。

「血の匂い……そう貴方がザンク」

刀を抜き去り切っ先をザンクに向ける。

「お前に私怨はないがっ、こんな惨劇見せられたらなあ?」

剣を抜き、いつでも戦える体制をとる。

「シレーナは後ろで皆の支援をお願い」

ルシアも剣を抜き構える。
それに続けてシルとランファも戦闘態勢を整える。

「……わかった」

因縁の宿敵を前にあの時の恐怖が蘇り震えが止まらないシレーナ。
南の森でザンクに捕まってからずっと見ていいたのだ。
同じ町に住む自分とそう変わらないヒュムノスの娘達が目の前に無意味に無慈悲に殺されていく様を嫌と言う程に見せつけられ、恐怖を植え付けられたのだ、この男によって。
それでもここで立ち止まるわけにはいかない。
ここまで連れて来てくれたルシアの為にも
辛い思いをすると分かっているのに無理をして連れてきてくれたリアの為にも
様々の苦楽を共にしてきた仲間達の為にも
今ここで自分が立ち止まるわけにはいけない、目の前にいる怪我人を放っておくなんてそれでも看護師かっ!
自分を奮い立たせ治癒の杖を握りめ目の前にいる憎き相手を睨み付ける。

「いいぜえ、オレが憎くてたまらない、殺したくてたまらないその目! ギャハハハハッ!!」

血のように赤いザンクの瞳がさらに赤く輝く。

「なあルシア。せっかくの勝負だ? 愉しもうぜえ——ギャハハハハッ!!」

いつものザンクの嗤い声。
違う。人ではないなにか別の生物の咆哮がザンクの腹の底から噴き出し

「グオオオオオオ……グォォォン!!」

刹那——ザンクの身体を黒い靄のようなものが包み込み身体の形態を変化させてゆく。
人型生物だった彼の身体は何百メートルもある巨大なものとへと変化し、ワニやトカゲに似ている頭部、ひたいには二本の鋭く尖った角、背には悪魔のような大きな四枚の翼、鋼色の鱗で覆われたこの生物は、

「——ドラゴン!!」

としか言えないだろう。

「なんで人がドラゴンになるのよー」

構えた剣を下げシルが慌てふためく。

「……血解?」

杖を握りしめたままシレーナが半信半疑につぶやいた。

「ナニソレ?」

一般人はこの反応。
だってそんな単語聞いたことないのだからしょうがない。シレーナも昔読んだ本にそんな名前のナニカが書かれていたような気がするといった朧げな記憶だった為上手く説明できなかった。

「——血解。私達ドラゴンネレイドが命の灯を費やす事で発現する究極奥義のことです」

ランファとシルからの質問攻めに困っていたシレーナの代わりに答えたのは、ザンクと同じドラゴンネレイドのヒスイだった。
彼女はまるで独り言でも語るかのように

「グアアアアアアアア……グァァァ!!」

半分自我を失い狂ったように暴れ、もがくように苦しむザンクを憐れむかのように

「私達ドラゴンネレイドは世界最強の種族とか戦争屋とかいろいろ好き勝手に呼ばれているけど……本当の異名は始祖竜。
 他世界に存在するドラゴンと呼ばれる世界で最強と呼ばれる生物をベースにして生み出された、竜の一族なの。
 蓋をして無理矢理抑え込んでいる竜としての本能。
 それを命の灯を代償として支払う事によって私達ドラゴンネレイドは本来の姿である竜の姿——ドラゴンの姿に戻ることが出来るんだよ」

光を失った瞳から大粒の雫を零しドラゴンネレイドという種族の宿命を語る。
避けられない運命。
ドラゴンネレイドは自らの意思でなるか、死後自動的になるかで、少々の誤差はあるが全員最期は元の姿で亡骸として発見される。
女神ですら変える事の出来なかった運命。

「グオオォォ……ギャハハハハッ!!」

ドラゴンに意思はない。

ドラゴンに心なんていらない。

ドラゴンになっても残るのは

「殺し合おうぜぇえぇぇルシアァァアアアアア!!!」

血肉を食べたいという本能と執着心のみ。

ひときわ大きな咆哮をあげザンクドラゴンは大きな手のひらを動かし、鋭く伸びた爪でルシアを切り裂かんと振り下す。
たったそれだけの動作だがザンクドラゴンが動くたびに辺り一帯にはけたたましい地響きが鳴り響き、その場に建っているだけでもやっとだ。

「……みんな援護する」

シレーナは杖を握り直し

「みんなに炎態勢を与えて炎の守り壁(フレイムウォール)」

朱色の光がルシア達の身体を包み込む。これである程度の炎の魔法攻撃を和らげる事が出来る。

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」

大きな尻尾が鞭にようにしなり地面を叩きつけさらに大きな地鳴りを起こす。
足を取られ転げてしまい

「オラオラオラァ!!」
「ぐっ!?」

油断したところをあの鋭い爪が身体をエグリ巨大なワニのような口から灼熱の炎が吹き荒れ、ルシアの身体を燃やし尽くす。

「カハッ」

砂浜に叩きつけられ、口からは血反吐が吐き出される。
シレーナが事前に炎態勢の魔法をかけていてくれたおかげで髪が少し焦げて香ばしいいい香りがするくらいでおさまったようだ。
ザンクドラゴンに抉られ切り裂かれた服は痛々しく開かれたまま、せっかくエリスからもらった和服だったのに勿体ないことをした。この戦いが終わったら新しい服を用意しないと、敵を目の前にしながらもこんな日常的なことを考えられるくらいにはルシアも成長しているようだ。

メシアの特殊能力で受けた傷ももう治った。
ある意味、傷を受けたのが自分で良かった。これが他の仲間だったらこうはいかなかっただろう。
たぶんもっと酷いことになっていたに違いない。
ザンクの狙いは自分だ。傷だらけになるのは自分だけで良い。仲間達には一切手出しなんてさせない。
気持ちを新たにルシアはもう一度剣を握り構えた。

「泣け! 叫べ! 血の雨を降らせろ! ギャハハハハッ!!」

黒い炎を吐き出しご満悦のザンクドラゴン。

「はぁ……はぁ……」

それに引き換えじわじわと体力を奪われていっている仲間達は苦しそうに息を荒げている。

「あの鱗硬すぎんだろ。剣が効かなきゃ俺達剣士の出番ないじゃねーかよ」

砂浜に剣を突き立て、膝を付き、しんどそうな表情でリアは言う。
最高の防御力を誇るザンクドラゴンの鱗は生半可刃では切り付けることが出来ない。
何度切り付けてもかすり傷一つとして与えることが出来ない始末でこれをもう何時間と続けている。
受けた傷はシレーナの治癒魔法でいくらでも回復することが出来るが、消耗した体力を回復する手段をいまのルシア達は持ち合わせていなかった。

消耗される体力と消費される時間。

タイムリミットは五時間だと言われた。
だがザンクドラゴンとの戦いにもう三時間は使っているだろう。残る時間はおそらく二時間、もしくは一時間と少しといったところ。
流れは完全にザンクドラゴンのもの。広場はザンクドラゴンにの独擅場となっている。皆の体力のことも考えここで一つ流れを変える大技を出せなければ——ルシア達は負ける。

——また負けてしまうの。二度目の敗北は死を意味するのに。

常闇の世界。
光を失った世界がうつすのはどこまでも広がる闇のみ。

「無駄だって言っているだろ!! ギャハハハハッ!!」
「キャアアア」
「ランファッ! うわっああ」
「ルシア君あぶっきゃあ」
「クソッドラゴンが!」

左右に備わった耳が聞くのは大切な仲間達の嘆き苦しむ悲鳴と

「ギャハハハハッ!!」

血の臭いが染み付いた邪悪な気配の自分と同じ存在の嗤い声。

「……回復をっ」

自分の意思で目を閉じた。

「シレーナ僕はいいから、みんなの方を早くっ」
「そう言ってるルシア君が一番大怪我を負っているよ!」

自分の意思で耳を塞いだ。

「アイツ、落ちてる騎士を食べて力を増してるよ!?」

なのにまだ見える血で血を洗う光景。

「チッ、ドラゴン風情が俺達に逆らってんじゃねえ!!」

なのにまだ聞こえる悲痛の叫び。

「ギャハハハハッハハハハッハハハハッァァァァァァアアアア!!」

——もう見たくない。もう聞きたくない。もう

「ヤメテェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」

罪の花が散った瞬間だった。

ヒスイが心の底から願い叫んだその時、彼女の元に天から一筋の光がさし

"よくぞ叫んだ我の血を引く弱き者よ。貴様のその願い聞き届けたり——我を呼ぶのだ弱きものよ”

心の中に直接語りかけてきた傲慢で偉そうな謎の男の声に従いヒスイは叫ぶ。彼の名は

「来て——英知の園全てを得るが為に大地の全てを支配した破壊者の王ルティーヤー!!」

海が大きく揺れ、足元の大地が大きく揺らめく、世界が砕けるような、硝子が砕け散ったような音が鳴り響き

『ブオオオオオオオオオン』

獣咆哮をあげその者は露われる。
漆黒の大きな翼を羽ばたかせ、藍紫色の瞳は敵と判断したザンクドラゴンをしっかりと捉え睨み視線を放さないまま尻餅をつき動けないでいたヒスイの隣に砂煙を巻き上げ舞い降りた。

「貴方が……ルティーヤー?」

見上げるほどの大きさをほこる漆黒のドラゴンは咆哮をもって肯定だと答えた。
ヒスイにはドラゴンの色や形姿は見えていない、ドラゴンの言葉もわからない。それでも分かることが一つだけあった。

——それは"彼”が自分達の味方であるという事だ。









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