複雑・ファジー小説
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- シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【氷国の民編】
- 日時: 2019/09/08 08:53
- 名前: 姫凛 (ID: 9nuUP99I)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=19467
これから綴る物語は忌まわし呪われた血によって翻弄され
哀しき封印から少女達を救い
少女達と共に謎の不治の病に侵された小さき妹を
助けるため小さな箱庭を行き来し愛と絆の力で闘い続けた
妹思いな少年と個性豊かな少女達の絆の物語である
-目次-[シークレットガーデン〜小さな箱庭〜]
登場人物紹介 >>166-168
-用語紹介- >>169
-魔物図鑑- >>23
-頂きもの-
高坂 桜様(元Orfevre様)より シル(オリキャラ)>>10
はる様より リア・バドソン(オリキャラ)>>11
ブルー 様より ヒスイ(オリキャラ)>>12 ヒスイ(キャラ絵)>>205
レム様より エリス(オリキャラ)>>66
華那月様より ヨナ(キャラ絵)>>08 ランファ(キャラ絵)>>09 シレーナ(キャラ絵)>>38
むらくも(キャラ絵)>>39
むお様より リオン(キャラ絵)>>37
自作:エフォール(キャラ絵) >>217
-あらすじ(第九章)
山の国の何処かにあると言い伝えられている女神が誕生した遺跡 アンコールワットで見事試練を乗り越え真実の歴史を知ったルシア達は遺跡を出てリオン、リティと別れ時渡の樹が生えた広場でヒスイと合流を果たした。
新たに出来た旅の目的。四つの国にある四つの遺跡を巡りかつて女神と共に邪神と戦った王達の力を受け継ぐ旅の始まり。
——さてどこの国の遺跡から行こうか?
-章の目次-
*1分〜10分(読むスピードで個人差があります)で物語の概要が分かるスキップ物語☆
*本編を読むだけでも物語を楽しめますが個別の短編も読むことでより深く楽しむことが出来る作りとなっています。
序章 出会いと別れ >>05-07 -スキップ物語- >>22
第一章 物静かな看護師の闇
荒くれ者 ザンク編 >>13-20 -スキップ物語- >>40
シレーナの封じた過去編 >>24 >>26-36 -スキップ物語- >>50-51
(より抜き「 魔女と呼ばれた少女の物語」完結済み)>>152)
第二章 汚された草競馬大会 >>43-47 -スキップ物語- >>52
第三章 大都市で起きた不可解な事件
宿屋での選択肢 >>48-49 -スキップ物語- >>53
[ムラクモを探す- >>55] [後をついて行く- >>54 …正体END]
遺体のない葬儀編 >>56-61 -スキップ物語- >>68
立食パーティー編 >>62-63 >>67 -スキップ物語- >>79
第四章 監禁・脱走 >>69 >>73 >>76-78 -スキップ物語- >>124
(叢side「椿の牢獄」>>158完結済み)
(別side「菊の牢獄」>>)
第五章 美しき雌豚と呼ばれた少女
コロシアム編 >>82 >>85-90 >>93 >>97 >>100-101 >>104 >>107-108
-スキップ物語-上中下>>125-127
シルの封じた過去編 >>111-113 >>119-123 -スキップ物語- >>128
(続編「美しき雌豚と呼ばれた少女とおくびょう兎と呼ばれた少年」完結済み)>>153)
第六章 闇と欲望の国
アルトの封じた過去編 >>129-133 >>136-138 >>143-145 -スキップ物語- >>146
裏カジノ編 >>147-150 -スキップ物語->>151
(幕間「感情のない少女の物語」>>224)
敵の本拠地へ編 >>154-156 -スキップ物語->>157
第七章 賢者たちの隠れ里 >>159-163 -スキップ物語上下- >>164-165
第八章 からくり遺跡
女神の試練編 >>170
[勇気の試練>>183-186 ] [知恵の試練>>177-182] [力の試練>>171-176]スキップ物語->>187-189
[仲間->>185…生贄end] [友人->>186…見損ないend][本当->>181] [嘘->>180…神のお遊戯end]
[棺を開けない- >>173-176][棺を開ける- >>172…死神end]
隠された真実編 >>194-197 -スキップ物語->>193
(修正前>>190-192)
第九章 荒くれ者の最期 >>198-202 -スキップ物語->>207
(幕間「殺戮人形と呼ばれた少女の物語」>>224)
第十章 殺戮人形ト色欲妖怪
王家の墓編 >>208-216 -スキップ物語->>
リアの封じた過去編 >>218-2231
[受け入れる>>220-221]…喪失END [受け入れない>>222-223]…永眠end
(→狐の銅像「親殺しの青年の物語」>>)
第十一章 嘘ツキな臆病者
氷国の民編>>225-229 …達筆中
ひと時の休息編
第十二章 賽は殺りと投げられて
偽りの仮面編>>
真実の泉編 >>
???の封じた過去編>>
最終章 最終決戦
Aルート >>
Bルート >>
cルート >>
Dルート >>
-掲示板-
達筆開始日 2014/3/4
2017/11/25:URL先を新しくしました。雑談板にあります、設定資料集スレにしました。
2019/9/8:URL先を新しく書き始めたリメイク版の方に変えました。
-おしらせ-
2017夏☆小説カキコ小説大会【複雑・ファジー小説部門】で【銅賞】を頂きました。
投票してくださった皆様、本当にありがとうございました<(_ _)>
完走(完結)目指して頑張りたいと思います!
20119/9/03→『氷国の民編』『新章』追加
参照100突破!3/6 200突破!3/11 300突破!3/15 400突破!3/21 500突破!3/28 600突破!4/4 700突破!4/9 800突破!4/15 900突破!4/22 1000突破!4/28 1100突破!6/2 感謝♪
2017年 2600突破!/1/30 2700突破!1/31 2800突破!2/7 3200突破!8/31 3300突破!9/1 3400突破!9/7
3500突破!9/12 3600突破!9/19 3700突破!9/26 3900突破!10/10 4000突破!10/17 4100突破!10/31
4200突破!11/6 4300突破!11/14 4400突破!11/23 4500突破!11/28 4600突破!11/3 感謝♪
2018年 5000突破!1/7
返信100突破!2014/4/28 200突破!2017/11/14 感激♪
-神様な読者の方々-
蒼欒様:初コメを下さいました!もう嬉しさMaxです♪
レム様:エリスちゃんの生みの親様です♪いつも温かい励ましコメありがとうござます!
ブルー様:オリキャラ ヒスイちゃんを投稿してくださいました!
出せるまでに一ヶ月以上もかかってしまったのに、見捨てずに見て下さっているお優しい方です(T_T)
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【王家の墓編】 ( No.206 )
- 日時: 2017/11/24 09:04
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: reIqIKG4)
ブルー様お久しぶりです。約三年ぶりくらいですね笑
ヒスイちゃんのイラスト見ました。めっちゃ可愛い♪
私にはこんな素敵な絵描けないのでうらやま……ありがとうございます(=^・^=)
亀さん更新ですが完結目指して頑張っていきたいと思います!
応援ありがとうございました(≧◇≦)
PS,今別スレでヒスイちゃんの過去編を書いているんです(´・ω・`)
(プロット作らずに見切り発車してら行き詰まり、昨日慌ててプロット作り上げて、改めてヒスイちゃんのキャラシ見直したら設定と全然違う物に笑。
三年前に書いた奴の方が設定にはあったストーリーだった……今の本編ストーリーとは全然違う物だけどorz)
広い心で読んでいただけるとありがたいです……(;´・ω・)
- 第九章 荒くれ者の最期 ( No.207 )
- 日時: 2017/11/25 21:34
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: 6/JY12oM)
スキップ物語-第九章 荒くれ者の最期-
山の国の何処かにあると言い伝えられている女神が誕生した遺跡 アンコールワットで見事試練を乗り越え真実の歴史を知ったルシア達は遺跡を出てリオン、リティと別れ時渡の樹が生えた広場でヒスイと合流を果たした。
新たに出来た旅の目的。四つの国にある四つの遺跡を巡りかつて女神と共に邪神と戦った王達の力を受け継ぐ旅の始まり。
——さてどこの国の遺跡から行こうか?
ルシア達が選んだのは山の国から国境大橋を通る列車に乗って行く海の国大都市ゼルウィンズ。
リアの故郷であり彼と初めて出会った街である。
ここにある遺跡。それは海に沈んだ王国アトランティス。
沈んだ理由は未だ解明されていない。何千、何億、何年前から海の中にあるのか詳しいことは何もわかっていない不思議な王国。
行くには王の許可が必要ということでルシア達は海の国の現国王であるブルースノウ王に謁見する。
リアに向けられる畏敬の目。
ヒスイに向けられる軽蔑の目。
そしてブルースノウ王がルシア達にアトランティスへ行く許可を出す条件として狂犬退治を依頼した。
海の中でなのに哺乳類である犬が暴れている? と少し疑問に思ったが騎士に誘導されるがまま城近くの港に泊められている潜水艦へと乗り込んだ。
暫く海中の美しい景色に目を奪われていると、古代に失われた魔法(ロストマジック)によって作られた結界に水圧から守られているアトランティスへと到着した。
アトランティスは円形のドーナツ型。街の中心に広場があり、そこから外壁に向けて細い道(水路)がまるで迷路のように伸びている。
建物は皆朽ち果て緑色の苔だらけだ。
潜水艦を運転していた雪白の騎士が言った。五時間だけ待つ、と。それ以上かかれば自力で地上まで帰って来いということだろう。
細い通路を通り中央広場へ訪れるとそこでは
血飛沫がまい
肉が躍り
楽しそうに 愉快そうに 嗤っている
玩具というなの餌で遊んでいる狂犬がいた。
「——ギャハハハハッ!!」
狂犬の名はザンク。ドルファ四天王の一人にして、南の森でヒュムノスの娘達を虐殺した張本人、シレーナの怨敵。
恐怖に震え怖気づくシレーナ、でもこの敵だけは倒さなければならない、絶対に許してはいけない、杖を握る手に自然と力が入る。
ザンクはもう一度ルシアと戦えることに喜びを感じそして
「グオオオオオオ……グォォォン!!」
人型生物だったザンクの身体は何百メートルもある巨大なものとへと変化し、ワニやトカゲに似ている頭部、ひたいには二本の鋭く尖った角、背には悪魔のような大きな四枚の翼、鋼色の鱗で覆われた生物、この世界では存在しないはずの最強生物ドラゴンへと姿を変えた。
——血解(けっかい)
異世界に存在するドラゴンをベースにして創られたドラゴンネレイド。
彼らは命の灯(魂)を対価として支払うことで本来の姿、ドラゴンへと変化することが出来る。
世界で最強の生物ドラゴンに生身の人が勝てるわけがなかった。
闘いは劣勢のものとなり、闘いというよりそれはドラゴンのお遊びへと変化してゆく。
——このままでは負ける。また負けてしまうの? 二度目の敗北は死を意味するのに。
ヒスイの中に過るある想い。もう誰も失いたくないという心からの願い。
「ヤメテェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」
その願いに答えるかのようにヒスイを照らす一筋の光。
"よくぞ叫んだ我の血を引く弱き者よ。貴様のその願い聞き届けたり——我を呼ぶのだ弱きものよ”
心の中に直接語りかけてきた傲慢で偉そうな謎の男の声。
その声に従いヒスイは叫ぶ。
彼の名は——
「来て——英知の園全てを得るが為に大地の全てを支配した破壊者の王ルティーヤー!!」
獣の咆哮を上げその者は現れた。
空間を破り、世界を砕き、黒い大きな翼を羽ばたかせ現れたのは漆黒のドラゴン「ルティーヤー=バハムート」
仲間をここではない何処か遠くへ逃がした後ヒスイはザンクを閉じた瞳で見つめこう言うのだ。
「ああ——なんて可哀想な人なんだろう」と。
そして静かに命じるのだ。ルティーアーよ。
「帝竜の息(カイザードラッヘアーテム)」
その命答えるが如く、ルティーヤー=バハムートはあぎとにため込んだ膨大な魔力(マナ)を強烈な光の束として放射した。
ザンクも狂犬竜の咆哮(黒炎のブレス)吐いて応戦したが、その結果は刹那の如く一瞬のことだった。
ザンクはヒスイの前から消え去った。
全てを焼き尽くす閃光のあとに残ったのはぼっかりと抉られ中身がむき出しとなった地層と朽ちた建物の内部だけだった。
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【王家の墓編】 ( No.208 )
- 日時: 2017/11/26 07:11
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: 6/JY12oM)
第十章 殺戮人形ト色欲妖怪-王家の墓編-
アンコールワット中央広場にて血解しドラゴン化狂犬ザンクとの戦闘を終えたルシア達は地上へと浮上する潜水艦の中で雑談を楽しんでいた。
「んんー、終わったー!!」
狭い潜水艦の中で腕を伸ばし背伸びしているのはランファ。だが狭いため腕を完全には伸ばしきれておらず途中で折り曲げている。
逆にしんどそうな体勢だ。
「これで……ふたつめ」
指を折り曲げ、シレーナが呟いた。
「じゃあ次はどこ? ねっ? ねっ?」
身を乗り出して聞いてくるランファにちょっと引きつつ
「次は……和の国かな?」
そう呟きヒスイの方をちらりと見た。和の国は彼女の生まれ故郷のはず。
きっと自分達の中で一番詳しいはずだ。
「……」
だがヒスイは何も喋らなかった。窓の向こうに見える日が差し込まない暗い深海の海を見つめたまま。
「ヒスイ?」
心配になり顔を覗かせると
「ぁ」
虚ろだったヒスイとやっと視線が合った。
「ごめん……なんの話かな?」
ぼうっとしてて話を全然聞いていなかったと謝罪する。
「もうっヒスイさんたらっ、あのねっ?」
ランファが頬を膨らませ怒りつつも次の行き先が和の国に決まった事をヒスイに教えてあげた。
ヒスイはそんなんだ、と頷きじゃあ次は私の出番なんだね、と嬉しそうな笑みを零した。
「和の国にある遺跡って何処のことかな?」
少し考えるような仕草をした後。
「んー……多分、王家の墓かな?」
「おうけのはか?」
初めて聞く言葉にきょとんとした表情で首を傾げている仲間達を見てヒスイは本当に嬉しそうな笑みを零していた。
†
「せーの!」
「海だーーー!!!」
ランファの掛け声からの全員で一緒に叫んだ。
「って叫ぶ意味あるの?」
隣に座るランファに聞くと
「青春だからです!」
さもそれが当然です、と言わんばかりに堂々と答えた。
「青春だからなのです!」
しかも二回も。
「青春……」
「いや、もう分かったから」
仲間達からの反応が薄いと何回でも言う。しつこいくらいに言うかまってちゃん。
「でも青春ってなに?」
そう聞くと何故か仲間達の表情が可笑しいものとなった。
「ええっ知らないの!?」
「……うん」
素直に頷くと
「……青い春」
シレーナが教えてくれたがやはり意味が分からない。
「ルシア君ってなんにも知らないんだね」
ちょっぴり傷ついたが、ルシアは泣かない。だって男の子だもん。
「ガーハハハッ」
ルシア達の会話を聞いて大笑いしているのはこの漁船の船長さんだ。
海の国でブルースノウ王への謁見を済ませた後、宿で一泊したルシア達はすぐに和の国へと向かいたまたま港で会った漁師さんの船に乗せてもらっているのだ。
和の国にある遺跡、王家の墓には船でしか行けないそうだから。
「おっと」
「うわあ」
ざぶん、ざぶんっ、大きな波が来るたびに大きく揺れ今にも沈没しそうなオンボロな船だが乗せてもらってる手前そこは言えない。
船に乗船してからまだ数十分と経っていないが早くも乗る船を間違えたかなと思う一同であった。
†
そしてその考えは奇しくも当たってしまった。
「うっぷ」
「……うう」
「おえぇ」
「荒れずぎだろ」
元々荒かった波は港を離れれば離れる程どんどん荒くなっていき、海に慣れていないルシア達はもれなく全員重度の船酔いとなってしまった。
「ナーハハハッ。まさか途中で大波になるとは兄ちゃん達ついてねーなー」
さすがは海の男。漁師さんだ。この程度の荒波は慣れっこなのだろう、ビクともしていない。
「わ……笑いごとじゃ……おえ」
反論したかったが口を開けば文句ではなく別の液体が溢れ出しそうだ。
「だ……大丈夫……みんな……?」
一応声をかけるが返って来る返事はない。みんな同じ状態なのだから。
「なんでせんちょさんは大丈夫なの?」
自分達はこんなにも船酔いで苦しんでいるのにと恨めしそうな目で船長を睨み付けランファ聞いてみた。
「ナーハハハッ! こんなもんいつもの事だろうよっ。慣れちまったわ」
と、笑い飛ばす船長を最後に恨めしそうに見つめ
「ずっりぃーよ」
と呟やきランファの意識はそこで試合終了となった。
それでも船は進み
「よーしっ着いたぞコローナ島! 大丈夫かお前らっ」
無事ではないが何とか一応目的地に到着し後ろを振り返った船長だったが
「おえぇぇぇぇえええ」
そこにあるのは生ける屍の残骸だけだった。
「駄目だこりゃ。仕方ねぇ、俺の家で休ませてやるからそれまで頑張れ」
とかなんとか言っているような気がするがもう限界だ。意識がどんどん遠のいてゆきやがてプツリと電気のスイッチを切るが如く目の前が真っ暗となった。
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【王家の墓編】 ( No.209 )
- 日時: 2017/11/27 10:50
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: sxkeSnaJ)
夜が更けそして明けた次の日。
「ちょっと、いつまで寝てるのよ!」
「うわっ!?」
スヤスヤと気持ちよく寝ていたルシアの布団を何者かが引はがした。……布団?
「あれ……僕どうしてここに……」
起きたばかりで頭がぼーとする。上手く思考が働かない。
ここは何処だ、と辺りを見回す。
部屋だ。箪笥(たんす)など生活の必要最低限のものしかないシンプルで少し寂しい感じがする知らない部屋だ。
外から波の音が聞こえてくる。海が近くにあるのか?
「ちょっと」
女の子の声が聞こえてきた方向へ視線を動かすとそこには、ヨナと同い年くらいの子だろうか。
栗色の髪とくりっとしたアーモンドのような大きな瞳にウサ耳が付いたカチューシャが可愛い女の子がむぅーと頬を膨らませて何やら怒っているようだ。
「えっと……君は?」
此処は何処なのか。なんで自分が此処に居るのか。など色々聞きたいことがあるがまずは、目の前にいる女の子が誰なのか聞いて見ることにした……のだが、
「貴方何も知らないのね」
何故か怒られてしまった。
女の子はふんっとそっぽを向くと
「人の名前を聞くときはまず自分から名乗るものなのよ」
「ご、ごめんっ」
確かにそうだ。
まさか自分より十も離れていそうな女の子にそんな当たり前のことを教わるとは……少し恥ずかしい。
「僕はルシアだよ」
「いなかくさい変な名前ね」
何故かまた怒られ嫌味を言われた。
ルシアは名乗った。次は女の子が名乗る番だ。
「イオリはこのコローナ島イチのアイドル! イオリちゃんよ!」
くるんっと一回転しまるでアイドルの自己紹介のようにキレッキレのポーズを決め、満面のスマイルでイオリは言った。
「イオリちゃんよろしくね」
握手をしようと手を差し出すと
「馴れ馴れしくしないでよ、いなかもの!」
差し出した手は跳ね除けられた。
どうしてそんなにも田舎者が嫌いなのだろう……確かにルシアは辺境にあるド田舎の村出身だが。
「イオリのことは、イオリ様と敬って敬語で話しなさい下僕!」
「げ、げぼく!?」
「なに? 文句あるっての?」
「……ないです」
なんだろう……ヨナと同じくらいの背丈でヨナと同じくらいの年齢の女の子なのに性格は水と油くらいに違う。
新しい下僕はできちゃった、とイオリはまるで新しい玩具を買ってもらった子供のように喜びはしゃいでいる。
下僕認定されたルシアは複雑な心境なのだけど。
「そうよ、下僕」
あ。と、思い出したようにイオリは言った。
「おとっちゃ……パパがあさご……モーニングの準備が出来たから来いって言ってたわよ」
一々普段の言い方を変えている部分に彼女なりの苦労が滲み出ている。
田舎者を極端に嫌っているが実は彼女自身、都会に憧れる田舎者なのだろう。島のアイドルだと言っていたから。
「行くわよ」
ぷんぷんと怒っているような効果音が聞こえそうな怒り方ををしているイオリは寝具の上で呆然としているルシアを残してさっさと部屋から出て行ってしまった。
待ってと、慌てて寝具から飛び出し部屋を後にする。
服装は昨日のままだったため着替える必要はなさそうだ。
†
以外にも部屋を出るとすぐ隣で先に出て行ったはずのイオリがルシアが出て来るのを待っていた。
言い方はトゲトゲしく強めだが本当は素直になれないだけの優しい女の子なのかもしれない。
イオリはルシアと目が合うとふんっと背を向け歩き出す。ついて来いということだろうか。
ついて行ってみると
「おー起きたか!」
「船長さんっ!」
広い部屋に出てそこでは和の国から目的の王家の墓にまで連れて行ってくれようとしていた船の船長が他の仲間達と楽しい朝食を囲んでいるところだった。
長方形の机には白いテーブルクロスがかけられており、その上には料理? と聞きたくなるようなぐちゃぐちゃの良く言えば海の男料理といったところか、魚料理と思われし物が並んでいる。
中央に置かれているのはカツオの頭か?
まだ生き生きとしたカツオの黒目がしっかりとルシアを見つめ若干恐怖を感じる。
「ここ座れよ」
隣の空いている席をぽんぽんと叩くリアに甘えそこへ座った。
「船長さん。昨日はありがとうございました」
「ナーハハッ。いいってことよっ。困った時はお互いさまだ」
大きな口で笑い飛ばす船長。
「鼻が曲がるかと思ったほどよ」
昨日の光景を思い出したのかイオリはブルブルと小刻みに身体を震わせている。
「まあ食え食え! 話はそれからだ!」
「はいっ!」
目の前に置かれたなんの料理か分からない、おそらくは魚のスープだと思われるぐちゃぐちゃの料理をスプーンですくいぱくりと一口。
「おいしい!」
見た目は何か分からない原型をとどめていないものだったが、味は意外にもちゃんとしっかりとしたもので普通に美味しかった。
「ガツガツッ。ナーハハッ、そうだろ、そうだろ!」
「ちょっとおとっちゃん! 食べながら喋らないでよ! 食べかすこぼしてるから!
それにもっとエレガンスにお上品に食べてよ。お下品ではしたないわ」
隣に座っていたイオリは船長が零した食べかすを布巾で拭いて掃除する。
口では色々言っているが本当はマメで気の利く子だ。正反対のようで似たもの親子というわけか。
「にひひっ」
「なによ」
クスクス笑っているランファをイオリが睨み付けた。
「いいなーってね、仲良し親子」
「これのどこがよ! 貴方の目は節穴なのかしら」
「えー、目玉の親父はちゃんと付いてるよー」
目玉の親父? と少し疑問に思うがそれはそれとして。
「そいえばランファのご両親は?」
彼女の名前以外何も知らないなと何気なく思い、何気なく聞いた質問。
「…………死んだよ」
なのに帰って来た答えは思いがけないものだった。
「父さんはあたしが生まれる前に、母さんはあたしを庇って……」
楽しかった雰囲気が一気にぶち壊され重たい沈黙が流れる。
「ご、ごめん。変なこと聞いちゃって」
「ううん、別にいいよー」
と明るくいつも通りに振る舞うランファだったが
「……その未来を変える為に来たんだから」
ぼそり呟いた心の声は真剣で深刻そうな面持ちだった。
「そういやあ、お前さんたち何しにコローナ島へ?」
重くなった空気を換えようと船長が別の話を切り出した。
「私達王家の墓ってところに行くつもりで」
シルがそう言うと
「貴方たち正気なの!?」
「やめとけ」
何故か二人に止められた。どうしてかと尋ねると
「……出るんだ」
「出るって何がです?」
船長は暗い顔をして怪談話をするかのような雰囲気で語り出した。
「王家の墓ってのはその名の通り、歴代の和の国の王族が眠る墓地だ。
墓地には色々お供え物したりするだろ? 王族のお供え物といったらそりゃあすげえもんに決まっている。
それを狙って今まで様々な賊が忍び込んで盗もうとしたんだけどな……」
そこで一度話を区切りお茶を一杯ぐびり。
「ぷはー。でな、忍び込んだ賊共はお供え物を持ち帰って来るどころか生還してくる者すらいねーんだよ。
ある日たまたま拾った音貝(トーンダイアル)を再生してみるとな……聞こえてきたんだよ」
「何がです?」
「賊共の断末魔と殺殺殺……って言っている幼い子供の声がよお」
ここで船長の怪談話は終わり。
「きっとあれは墓を荒らす賊共から墓を護る亡霊か何かだぜ」
と船長は推測しているようだが
「悪い事は言わねぇ、止めといた方が良い」
忠告し心配して引き返すように勧める船長。
「殺殺殺……言う子供ねえ」
顎に手を添えて感が込むリア。
殺殺殺と話す子供、何処かで会ったことがあるような気がするのだ。
だがしかし何処で会ったのだったのだろうか。思い出せない。
亡霊が怖いくらいで引き返すことは出来ない。
ルシア達がかつての英雄たちの残した力を受け継がないと、バーナードが邪神を復活させ世界はまた混沌と化した暗黒の世界となってしまうからだ。
世界の危機を前にお化けが怖いなどと可愛い事を言っている場合じゃない。
食事を終えると、船長とイオリに御礼を言ってルシア達はコローナ島の奥地、人里から遠く離れた場所、風吹く谷にある王家の墓目指して歩き出した。
「……殺殺殺」
もう既に付けられていることも知らずに。
- 零れ話。 ( No.210 )
- 日時: 2017/11/27 11:31
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: sxkeSnaJ)
※追加。入れるのを忘れていたネタ。
「ここ座れよ」
隣の空いている席をぽんぽんと叩くリアに甘えそこへ座ろうとしたのだが
「リアさん?」
「ん? どーした鳩が豆鉄砲を食ったような顔して」
ルシアの驚愕し固まっていることにきょとんと首を傾げるリア。
これはルシアが可笑しいのではない、リアが可笑しいのだ。彼の恰好が可笑しいのだ。
ここに来る前、和の国から船に乗った時までは男装、男性用の衣服を着用していたはずなのに、朝起きてみると女装、女性用の衣服へと変わっていた。いつの間に。
ゆるやかにウェーブのかかった栗色の長い髪を首元で一つに束ね左肩から前へ流し、カラーコンタクトをしているのだろう、瞳の色はレモン色で唇にはオレンジ色のリップを塗っている。
頭には南国風のスカーフをカチューシャのように巻き、ターコイズがあしらわれたネックレスのようなリゾートワンピースを着て、足元にも小さなターコイズが使われた紐がクロスしアミアミとなっているサンダルを履いている。
「リアさん……なんで女の人の恰好をしているんですか?」
と、聞くと
「可愛いでしょ?」
と、返された。
「おかあちゃ……ママの服を勝手に着てるのよこの変態!
この服はイオリが将来着る予定だったのにー」
ぷくーと頬を膨らませブチ切れ中のイオリにルシアも苦笑いするしかない。
「それっていつの話だよ。
そんな来るかもわからない話を待つより俺が来た方がマシだろっ」
「なんですって!?」
もおーとポカポカ、リアを殴るイオリ。
リアはこの手のお子様の怒りを買うのが上手いようだ。上手くていいことなんてあるのかは分からないが。
「でも兄ちゃん、本当よく似合ってるなあ、死んだかあちゃんの服がよ」
ナーハハッと大きな口で笑いながら船長は言う。
そうかリアが居ているのは亡くなった奥さんが残した物なのか……ますますそんな大事な物を何故リアが着ているのかと不思議に思う。
……ったが理由は簡単な事だった。
「兄ちゃんの服が一番ゲロまみれだったもんなあ」
「いやー吐いた吐いた」
アッハッハッハ、と下品に笑う男達。
別に大層な理由なんてない。ゲロまみれで汚れ洗っても洗ってもとれることの無いゲロの臭いで着る事の出来なくなったリアの前の服は捨てられ、代わりに船長の服は体格が違い過ぎて無理だ。
体巨漢の船長の服だと細身のリアじゃぶかぶかで赤子が大人の服を着ているよう。
イオリの服は問題外、ならば……。
「イオリの服になるはずだったのに」
まだはぶてているイオリ。
亡き母の服しか着る者がなかったので仕方ない。寝巻があるのだからそれでいいじゃないかとか、そもそもオシャレにうるさいリアは普段から沢山の洋服を鞄に入れているのだからそれを着ればいいのではないかとか、色々思う所はあるのだが
「へへーんっだ」
「もー!!」
あんなに嬉しそうにしているのだ、それを言うのは野暮と言う物だろう。
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