複雑・ファジー小説
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- シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【氷国の民編】
- 日時: 2019/09/08 08:53
- 名前: 姫凛 (ID: 9nuUP99I)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=19467
これから綴る物語は忌まわし呪われた血によって翻弄され
哀しき封印から少女達を救い
少女達と共に謎の不治の病に侵された小さき妹を
助けるため小さな箱庭を行き来し愛と絆の力で闘い続けた
妹思いな少年と個性豊かな少女達の絆の物語である
-目次-[シークレットガーデン〜小さな箱庭〜]
登場人物紹介 >>166-168
-用語紹介- >>169
-魔物図鑑- >>23
-頂きもの-
高坂 桜様(元Orfevre様)より シル(オリキャラ)>>10
はる様より リア・バドソン(オリキャラ)>>11
ブルー 様より ヒスイ(オリキャラ)>>12 ヒスイ(キャラ絵)>>205
レム様より エリス(オリキャラ)>>66
華那月様より ヨナ(キャラ絵)>>08 ランファ(キャラ絵)>>09 シレーナ(キャラ絵)>>38
むらくも(キャラ絵)>>39
むお様より リオン(キャラ絵)>>37
自作:エフォール(キャラ絵) >>217
-あらすじ(第九章)
山の国の何処かにあると言い伝えられている女神が誕生した遺跡 アンコールワットで見事試練を乗り越え真実の歴史を知ったルシア達は遺跡を出てリオン、リティと別れ時渡の樹が生えた広場でヒスイと合流を果たした。
新たに出来た旅の目的。四つの国にある四つの遺跡を巡りかつて女神と共に邪神と戦った王達の力を受け継ぐ旅の始まり。
——さてどこの国の遺跡から行こうか?
-章の目次-
*1分〜10分(読むスピードで個人差があります)で物語の概要が分かるスキップ物語☆
*本編を読むだけでも物語を楽しめますが個別の短編も読むことでより深く楽しむことが出来る作りとなっています。
序章 出会いと別れ >>05-07 -スキップ物語- >>22
第一章 物静かな看護師の闇
荒くれ者 ザンク編 >>13-20 -スキップ物語- >>40
シレーナの封じた過去編 >>24 >>26-36 -スキップ物語- >>50-51
(より抜き「 魔女と呼ばれた少女の物語」完結済み)>>152)
第二章 汚された草競馬大会 >>43-47 -スキップ物語- >>52
第三章 大都市で起きた不可解な事件
宿屋での選択肢 >>48-49 -スキップ物語- >>53
[ムラクモを探す- >>55] [後をついて行く- >>54 …正体END]
遺体のない葬儀編 >>56-61 -スキップ物語- >>68
立食パーティー編 >>62-63 >>67 -スキップ物語- >>79
第四章 監禁・脱走 >>69 >>73 >>76-78 -スキップ物語- >>124
(叢side「椿の牢獄」>>158完結済み)
(別side「菊の牢獄」>>)
第五章 美しき雌豚と呼ばれた少女
コロシアム編 >>82 >>85-90 >>93 >>97 >>100-101 >>104 >>107-108
-スキップ物語-上中下>>125-127
シルの封じた過去編 >>111-113 >>119-123 -スキップ物語- >>128
(続編「美しき雌豚と呼ばれた少女とおくびょう兎と呼ばれた少年」完結済み)>>153)
第六章 闇と欲望の国
アルトの封じた過去編 >>129-133 >>136-138 >>143-145 -スキップ物語- >>146
裏カジノ編 >>147-150 -スキップ物語->>151
(幕間「感情のない少女の物語」>>224)
敵の本拠地へ編 >>154-156 -スキップ物語->>157
第七章 賢者たちの隠れ里 >>159-163 -スキップ物語上下- >>164-165
第八章 からくり遺跡
女神の試練編 >>170
[勇気の試練>>183-186 ] [知恵の試練>>177-182] [力の試練>>171-176]スキップ物語->>187-189
[仲間->>185…生贄end] [友人->>186…見損ないend][本当->>181] [嘘->>180…神のお遊戯end]
[棺を開けない- >>173-176][棺を開ける- >>172…死神end]
隠された真実編 >>194-197 -スキップ物語->>193
(修正前>>190-192)
第九章 荒くれ者の最期 >>198-202 -スキップ物語->>207
(幕間「殺戮人形と呼ばれた少女の物語」>>224)
第十章 殺戮人形ト色欲妖怪
王家の墓編 >>208-216 -スキップ物語->>
リアの封じた過去編 >>218-2231
[受け入れる>>220-221]…喪失END [受け入れない>>222-223]…永眠end
(→狐の銅像「親殺しの青年の物語」>>)
第十一章 嘘ツキな臆病者
氷国の民編>>225-229 …達筆中
ひと時の休息編
第十二章 賽は殺りと投げられて
偽りの仮面編>>
真実の泉編 >>
???の封じた過去編>>
最終章 最終決戦
Aルート >>
Bルート >>
cルート >>
Dルート >>
-掲示板-
達筆開始日 2014/3/4
2017/11/25:URL先を新しくしました。雑談板にあります、設定資料集スレにしました。
2019/9/8:URL先を新しく書き始めたリメイク版の方に変えました。
-おしらせ-
2017夏☆小説カキコ小説大会【複雑・ファジー小説部門】で【銅賞】を頂きました。
投票してくださった皆様、本当にありがとうございました<(_ _)>
完走(完結)目指して頑張りたいと思います!
20119/9/03→『氷国の民編』『新章』追加
参照100突破!3/6 200突破!3/11 300突破!3/15 400突破!3/21 500突破!3/28 600突破!4/4 700突破!4/9 800突破!4/15 900突破!4/22 1000突破!4/28 1100突破!6/2 感謝♪
2017年 2600突破!/1/30 2700突破!1/31 2800突破!2/7 3200突破!8/31 3300突破!9/1 3400突破!9/7
3500突破!9/12 3600突破!9/19 3700突破!9/26 3900突破!10/10 4000突破!10/17 4100突破!10/31
4200突破!11/6 4300突破!11/14 4400突破!11/23 4500突破!11/28 4600突破!11/3 感謝♪
2018年 5000突破!1/7
返信100突破!2014/4/28 200突破!2017/11/14 感激♪
-神様な読者の方々-
蒼欒様:初コメを下さいました!もう嬉しさMaxです♪
レム様:エリスちゃんの生みの親様です♪いつも温かい励ましコメありがとうござます!
ブルー様:オリキャラ ヒスイちゃんを投稿してくださいました!
出せるまでに一ヶ月以上もかかってしまったのに、見捨てずに見て下さっているお優しい方です(T_T)
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【隠された真実編】 ( No.191 )
- 日時: 2017/10/27 10:57
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: mKkzEdnm)
"この世界は創造主???様が作り出した、世界樹呼ばれる巨大な樹に生えた枝葉のような物。無数に、無限に、存在する世界の一つなのです。
創造主様は小さな世界ミトラスフィリアを創り出しました。そして光から誕生と繁栄を司る役目を担った私 ナーガを創りました。同時に闇から死去と混沌を司る ギムレーを創りました。
私は創造主様の命に従い、命溢れる豊かな世界にしようと沢山の子供達を生みました——ですが、ギムレーは私の可愛い子供達を次々と殺していったのです。創造主様の命に従い、増え過ぎた命は消去すると。
……なんて酷いことを。永遠に皆で仲良く生きて暮らすことはそんなにもいけないことなのでしょうか。
私はギムレーと戦う事を決意致しました。可愛い我が子達を護るために。それは想像以上の熾烈な戦いでした。
人々の負の感情を力のエネルギーとしているギムレーにとって、人が死ぬ戦場は絶好の食事場でした。代わりに人々の生の感情を力のエネルギーとしていた私にはとても不利な戦いでした。
無意味に消耗されてゆく力。無意味散ってゆく愛しい我が子達。
ああ……このままではいけない——私が最期の力を振り絞り新たに強靭なる六つの種族を生み出しました。
それはフュムノス、ドラゴンネレイド、壊楽族(かいらくぞく)、リリアン、ユダ、メシア、彼らは私の願いを聞き入れ、ギムレーと共に戦ってくれました愛しい我が子達なのに"
ここで一度女神の言葉が途切れた。女神は俯き唇をかみしめ悲し気な表情をしている。
「裏切られたんですよね」
声をかけたのはルシア。自分の父が裏切り者なんですよね……と俯き女神に申し訳なさそうな顔をして言ったのだが、ルシアの頬へ手を添えて女神は顔を上げ優しく微笑みまるで母親が泣きぐずる子供を諭すかのような優しい声で、
”いいえ。あなたの父ではありませんよ、ルシア”
「え」
”あなたの父はとても勇敢な男でした。誰よりも勇ましく、優しく、そして誰よりもあなたの事を思っていました。
あの者ははめられたのです、真の裏切り者に”
「真の裏切り者……ですか? それって……」
”あなた方もよく知っている者。古の時代から変わらず王位に君臨し続けているユダの王——バーナードです”
「————ッ!!!」
その場にいた全員に衝撃が走った。バーナード。また奴の名を聞くことになろうとは。
ドルファフィーリング社長であると同時に世界に何らかのあくどいことを働こうとしている男、ルシア達の憎き倒す相手、バーナードの名前をまさかこんなところでもう一度聞くことになろうとは誰も想像してなかった事態だ。
皆、驚きと困惑した表情で固まっている。
”昔から野心が強かった、彼は考えたのでしょう。神ですら倒すことの出来ないほどの力をもった邪神をこのまま世界の底へ封じ込めるのは惜しいと、だからその力を逆に自分のものとして世界を支配しようと考えたのでしょう。
その策略に気が付かづ、まんまとはめられた私はこの遺跡に封じ込められました”
女神は好きでこの遺跡にいた訳ではなかったようだ。邪神との戦いで披露し疲弊していた隙を突かれこの場に封じ込まれ身動きが取れなくなっていたそうだ。
次にバーナードが立てた策略は、共に戦った種族の王達を始末すること。口封じをすることだった。
”ですがそのことに誰よりも早くに気が付いたものがいました。それがあなたの父です、ルシア”
「……父さんが?」
”バーナードの策略に気が付いたあなたの父は邪神を世界の底へ封じるのではなく、邪神の体を五つに分解し、五つの種族の王たちのシークレットガーデンへ封じ込めることにしたのです。
頭はドラゴンネレイドが。
胴体はフュムノスが。
腕は壊楽族(かいらくぞく)が。
脚はリリアンが。
一番厄介な邪神の心 心臓部はメシアの王だったあなたの父が請け負い、このことは私とそれぞれの王しか知らない事実として隠し通そうとしました……それは愚かなことでした。
王達が殺されてしまったのです。バーナードの手によって。何処からか知ってしまったバーナードは激怒し、何も知らないユダ族の民たちに嘘をつきました。
メシアの王が世界を我が物にしようと王達を殺し邪神を奪ったと——噂は瞬く間に広がってゆきメシア狩りが始まったのです。女子供も誰もかも関係なく、メシアというだけで殺されていったのです。
争いでも、戦争でもなにもない、あれは……只の虐殺です”
女神は顔を手のひらで覆い隠し大粒の涙を流し訴えた。ごめんなさい、ごめんなさい、私が至らなかったばかりに、あなたの家族は……と。
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【隠された真実編】 ( No.192 )
- 日時: 2017/10/31 12:40
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: jAa55n87)
「……女神様」
"ルシア。バーナードまだ諦めていません。
あなたの父が施した五つの封印を解き放ち、邪神を復活させようとしているのです”
「な、なんだって!?」
「諦めの悪いオッサンだな」
やれやれと息を吐くリアとリオン。
”もう既に四つの封印が解き放たれています。残るはメシアの封印のみ”
「……まさかっそれって!!?」
”そうです。あなたの想像通り、もう一人のメシアの生き残りであるあなたの妹 ヨナが最後の封印の鍵なのです。
彼女の封印を解かれたら最後。世界は邪神の力に飲まれ混沌が支配する暗黒の世界となりましょう”
——そんなの許せない! させて堪るかっ! と次々に仲間達から怒りの声があがる。だがしかし女神の表情は浮かないままだ。伏せた顔を上げない。伏せたまま女神は答えた。
”今のままでは駄目なのです”
と。どうして駄目なのかと尋ねると女神は顔を上げ悲し気な瞳で、
”かつての英雄たちですら封じることでやっとだった邪神。今のあなた方では封じることは愚か、邪神に傷一つ付ける事すら無理でしょう”
静かに諭すように言った。
自然と握りしめた拳に力が入り小刻みに震える。敵が分かり、敵の目的も分かった、でも倒すことも封じ直すことも出来ないなんて、なんて歯痒いのだろうか。
此処に来て色々知ることが出来た。やっと前へ進めるようになった、なのに真っ直ぐに続く道は封じられたまま、勧めない。
絶望に打ちひしがれるルシア達に女神は優しく微笑み、
”ですが手がないわけでもありません”
一筋の光を見せた。
”かつての英雄たちはこうなることを予期していたのかもしれません。自らの死期を悟っていたのかもしれません。
死の前に彼らは自らの力を子孫たちに残す為五つの遺跡に封じ込めたのです”
「……温かい」
一筋の光はシレーナの体を包み込み淡く輝きを放ち消え去るそれは、シレーナの体の中に何かが舞い降りたような……そんな印象を受ける光景だった。なんと神秘的なものなのだろうか——この瞬間だけ時が止まったかのようだった。
”それはシレーナ。あなたの祖先があなたのために残した癒しの力です。
その力を使い皆の傷を癒してあげなさい”
「……はい。女神様」
ヒュムノスの加護を受けたことによりシレーナは過去に失われた究極魔法を取得した。
『ルシア』
先程とは違う。頭なの中に直接語りかけてくるというよりも、心の中に直接語りかけられているような感じ、ルシア本人も良く分からない微妙な違い、違和感を感じる伝え方で女神は語りかけた。
『もう既にあなたも気が付いているでしょう。あなたの中に眠る黒き邪悪な獣の存在を——それはあなたの父がその身に封じた邪神の心の欠片です。
体の封印が解けているのが原因です。そのせいであなたの精神をも奪おうとしているのです』
そんなどうすればいいのっと心の中で不安に思っていると、
『邪神の心の精神支配を食い止めるための唯一の対抗手段は、邪神を抑え込むほどの強い精神力、それしかないのです。
強気力を手にすればあなたの精神力は弱まり、邪神があなたの精神を飲み込み支配する事でしょう。あなたは決して力を受け継いではなりません。あなたの父はあなたのために力を残したのではないのです。邪神を自由にさせないために捨てたのです。強すぎる力を』
邪神を倒すにはルシアの精神力が全て。ならばもしルシア達がかつての英雄達から力を受け継ぐ前にバーナードが邪神を復活させてしまったら、どうなってしまうのだろうか。邪神の心本体を封じ込めているのは妹のヨナの方。ルシアでどうにか出来るのだろうか。
『あなたが飲み込まれない限り、邪神は完全復活を果たせません』
と女神は答えた。一部でも体が欠けていれば完全に復活することは出来ないらしい。
パーツが全てそろわない限り、完全復活できない邪神を倒す方法、それは力どうのこうのなんて関係ない、結局はただの精神の強さ、それだけなのだ。
「ルーシーア」
「えっなにっ!?」
心の中で女神と会話をしている間、傍から見ればルシアは遠くを見つめ棒立ちしている変な人状態。心配したランファが腕を掴んで大きく揺らし、体も一緒に名って大きく揺れたことでやっと意識がこっちに戻ってきた。
「何々?」と辺りを見回すルシア。「もお」と頬を膨らますランファとその横でクスクス笑っているその他の仲間達と不機嫌そうなリオンの姿を見てルシアは恥ずかしそうに片手で後頭部をかきながらえへへと苦笑い。
”かつての英雄たちが封じ込めた神殿はあと、海の国、和の国、仮面の国、山の国にそれぞれ一つずつあります。
邪神が復活してしまえば、世界は混沌と化し新たな生命は生まれず死だけの絶望が支配した暗黒の世界となりましょう——どうかお願いします”
そう言い終わると女神は音もなく消え去った。女神が消え去ったその場には静寂な空気が辺り一帯を包み込んだそうだ。
暫く沈黙が続いた後、
「さてっと」
皆が沈黙し重たい空気になった時いつも一番に口を開くのはリアだ。この中では最年長の彼。普段はお調子者でふざけてばかりだが、頼りになる時は凄く頼りになり役に立つのだ。
大きな岩に腰を付けていた体を立ち上がらせ、横に座っていたリオンの方を向き、
「リオン、お前はどうする?」
「……どこへでも好きに行けばいい」
これは彼なりの気遣いだ。いや皮肉か? 本当は久々に再開した友人と楽しくこれまであったことを酒のつまみに話したりしたい。昔のように三人で馬鹿やって騒いだり、冒険などしたい、だがそれも今は無理な話。こんな傷だらけでボロボロの体の自分が一緒に行けば、確実に足手纏いになる。足手纏いだけはごめんだ。そんなのは彼のプライドが許さないのだ。……だから。
「く。ふふっもー素直じゃないんだからーリオンちゃんはっ」
「なっ!?」
「可愛いなぁっこのこのっ」
「やめろっ馬鹿!!」
まあそんな照れ隠し幼馴染には通用しないのだがな。
リアはリオンの肩に腕を回しぐりぐりと髪をぐしゃぐしゃにしてじゃれ合う。嫌だ止めろと口では言っているリオンもその表情は嬉しそうに歪んでいる。
……その姿を見て頬を染め、うっ羨ましくなんてないんだからっと膨れている、
「リティさん、顔赤いですよ? 風邪ですか」
「あ、赤くなんてないわよ!?」
女性がいたことは別の話。
「俺は俺のやり方でお前らの旅の手助けをしてやるよ」
「ありがとうございます、リオンさん!!」
「ふんっ」
リアとのじゃれ合いが終わったリオンは立ち上がり、そっぽに向いて答えた。
このままではリオンとまた離れ離れになってしまうかもしれないと焦ったリティは、
「わ、私も手伝うわっリオン!」
「はっ。邪魔だからいい」
「ハァァアア!?」
「あっははっ可哀想なリティー」
「うっさいわよ! 手伝うって言ったら手伝うんだからね!!」
「……チッ」
「そこ! ものすっごく嫌そうに舌打ちしない!」
「あははっ」
「笑わない!」
「だってお前らオモロ過ぎるだろっ」
「「「アハハハッ!!!」」」
久々に再開した幼馴染組は笑う。
笑い過ぎて涙が流れるまで笑った。もしかしたらまた離れ離れになってしまうかもしれないから。もう公開の無いように喉が枯れるまで大きな声で笑い合った。
アンコールワットを出て来たところで両者の行く道は分かれる。
片方は別れた仲間と合流する為に時渡りの樹が生えた広場へ。
片方はまずは傷を癒す為に賢者の隠れ里へ。
「——死ぬなよ」
「——そっちこそ」
「レオが命懸けで救ってくれた命なんだ。無駄にして堪るかよ」
「そうかい」
二人の青年に別れの挨拶などいらない。かわす言葉はこれだけで十分だ。
背を向け二人は一度も振り返らずに、それぞれの行く道を真っ直ぐに進んで行くのだった。
第八章 からくり遺跡-終-
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【隠された真実編】 ( No.193 )
- 日時: 2017/11/05 22:30
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: 344/XKJR)
スキップ物語(第八章 からくり遺跡-隠された真実編-)
”目をお開けなさい ルシア”
そう言われるがままにルシアが瞼を開けると眩い真っ白い光が視界の全て奪い少し疎ましく感じたがそれも数秒のこと、すぐに光になれ、その先に見えてきた光景は
「よぉ。久しぶりだな」
巨大な石碑にもたれかかるようにして座っている全身白い包帯で巻かれたミイラ男のような黒髪の青年。あの青年の事を知っていいる。あの青年は——ルシアが青年のことを思い出そうとしていると、傍に居た仲間達が驚きと喜びの声で青年の名前を叫んだ。
「「リオンッ!!」」
叫んだのはリアとリティの二人だ。一目散にリオンの元に駆けよると、リオンを抱きしめ大粒の涙を流し再会を喜び合う、離れ離れになった幼馴染組三人。
海の国で起きた事件で死んだものだと、思われていたリオン。だが彼は生きていた。ある者の手助けあって生き永らえたらしい。そしてその者にここ"アンコールワット最深部”で待っているとルシア達が来ると言われたそうだ。
「ある者とは誰ですか」とルシアが訪ねると、
”それは私のことでしょう”
ルシア達を此処まで導いてきたあの謎の声がリオンの代わりに答えた。
謎の声の主はついにその姿をルシア達の前に表した。白薔薇のドレスに瞳と同じエメラルドグリーンの緩やかなウェーブの腰まで伸ばした長い髪の女性。その姿はまるで「——女神様」と誰かが言った。全てを慈悲深く許す母のような微笑み、息をするのも忘れてしまう神々しいその見た目はまさに”女神”
女神は語った——ルシアが知りたかった真実を 己が過去に犯した過ちを。
世界とは。世界樹を中心となり、その枝葉として無数の大小様々な世界が存在しているのだという。
別名無限の選択の世界。分かれ道で右か左、どちらに進むかで世界樹の枝は二つに分かれ、また世界も二つに分かれる。
右に進んだ世界と左に進んだ世界にだ、そうして世界は無数に分裂し増えてゆき、同じ時間/人が存在していても少しずつ違う世界、それを世界軸と呼ばれている。
前半部分はバーナードが語った内容と同じものだった。
創造主???が生み出した女神ナーガと邪神ギムレーは互いを理解し合えず、小さな争いはやがて世界を巻き込む大戦争へと発展してゆき、女神の子供達である、フュムノス、ドラゴンネレイド、壊楽族(かいらくぞく)、リリアン、ユダ、メシアの六つの種族は協力し闘い邪神を弱体化させることに成功した——かのように見えた。
裏切り者がいた。己の野心を叶える為に邪神を我が物にしようと企んだ者がいた。
バーナードはそれはルシアの父である、メシアの王だと言った。だがそれは違った。真実ではなかった、真相はこうだ。
裏切りを企てたのは他でもないバーナード本人。邪神と闘い、その力に魅入られたバーナードは、手始めに邪魔となる女神を弱体化させこのアンコールワットから動けないように封じ込め、そして口封じにと他の五種族の王達を虐殺しようと計画を立てていたのだ。
その計画にいち早く気づいたメシアの王は、バーナードに気づかれる前に邪神の体をバラバラにそれぞれの王のシークレットガーデンへ封じ込める事に。
頭はドラゴンネレイド。
胴体はフュムノス。
腕は壊楽族(かいらくぞく)。
脚はリリアン。
そして一番厄介な邪神の魂 心臓部はメシアの王。
これは女神と四種族しか知らない事実。バーナードはこれを知らずに五種族を殺してしまった為に邪神を復活する手段を失ったのように思われたのだが、実は一つだけ邪神を復活させる方法があった。
それは王達の子供達・子孫達に受け継がれた邪神の体を封じ込めたシークレットガーデンを一度怪汚し、そして浄化させることでシークレットガーデンは汚される前の清浄な姿を取り戻そうと異物をすべて排除する、その際に邪神体は異物として排除され封印が解けてしまうのだ。
そこに目を付けたバーナードは、まず裏切り者としてメシアの一族を抹殺し、メシアの特殊な血で作り出した、シークレットガーデンを汚す菌(ウイルス)を作り出し、不治の病、闇病を流行らせたのだ。
無意味だった。ルシアが今まで行ってきたことは全てバーナードの計画通り、手のひらで踊らされていただけだったのだ。その事実を知り愕然とする。膝から崩れ落ちる。
ルシアの手伝いのかいあって既に四つの封印を解くことに成功している。底るはヨナが持っている邪神の心臓部のみ。この封印が解かれてしまえば、邪神が復活し人が住めない混沌の世界と化すことになるでしょうと女神言う。
邪神なんて復活させて堪るかと仲間達が怒り立つが、女神は俯せ首を横に振るう。
まだルシア達の実力ではバーナードに傷一つとして与えることは出来ないでしょう、邪神を封印し直すことも無理でしょう、と言うのだ。
じゃあどうしろと? と聞くと女神はかつての英雄たちから力を受け継ぐのです、と答えた。
自らの死期を悟っていた五種族の王達は自らの力を子供・子孫達にへと、己の力を五つ遺跡に封じ込めたのだ。
”アンコールワットに封じ込められたのは癒しの力 全ての傷を癒し闘う力を力を与える究極魔法 シレーナ 貴方の祖先が残した力です”
天から白い光がシレーナを照らし眩う光が彼女の体を包み込んだ。
ヒュムノスの王の加護を得たシレーナは究極魔法 天光治癒(エンジェルブレス)を習得した。
残るはドラゴンネレイド、壊楽族(かいらくぞく)、リリアン、メシアの四種族と四つの遺跡だ、となったところで女神はルシアだけに語りかけてきた——ルシアは力を授かるべきではないと。
ルシアの心には邪神の心も同時に存在しているのだ。時折出てきたルシアではない黒い感情のナニカ、それはルシアの精神を乗っ取り表に出てこようとする邪神の心。
強すぎる力は心強いと同時に強気者を引き寄せてしまう。今ルシアが父の残した力を受け継いでしまうと同居している邪神の心までもが力を得て表に出て来てしまう恐れがあるのだ。
邪神は全ての体が揃わないと完全に復活は出来ない。心という不確定なものが書けるだけでも復活することは出来ないらしい。
決してルシアは父が残した力を受け継がない、これは秘かに交わされた女神とルシアの約束事。
女神は消え去り、アンコールワットを出たところで別れの時だ。
ルシア達はヒスイと合流する為に時渡りの樹の元へ
リオンとついでのリティは傷を癒す為にまずは賢者の隠れ里へ
「——死ぬなよ」
「——そっちこそ」
「レオが命懸けで救ってくれた命なんだ。無駄にして堪るかよ」
「そうかい」
二人に別れの挨拶なんていらない、交わす言葉はこれだけで十分なのだ。
背を向けリアとリオンはそれぞれの行く道を真っ直ぐに見据えて進んで行く、振り返らずにただ真っ直ぐに進んでゆくのだ、自身が選んだその道を——。
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【隠された真実編】 ( No.194 )
- 日時: 2017/11/06 12:17
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: O62Gt2t7)
第八章 からくり遺跡-隠された真実編-
薄暗い空間に閉じ込められていたルシア達を眩い白き光が包み込み、その眩しさにルシアは瞼を閉じた。
"目をお開けなさい ルシア”
そう謎の声に従い閉じた瞼を開けると、まず最初に見えたのは真っ白い光の世界「うっ」と少し光を疎ましくも思ったがすぐに目は光になれ
「よお——久しぶりだな」
巨大な石碑にもたれかかるようにして座っている全身を白い包帯で巻かれた黒髪の青年が皮肉そうに口元を歪めている。
あの青年のことをルシアは知っている。あの青年の名は——とルシアが思い出す前に
「「リオンッ!!」」
この場に居る誰よりもその青年に会いたいと願っていた二人が先に青年の名前を叫んだ。
彼の名前はリオン。海の国にある本屋の若き店主であり、皮肉屋で照れ屋なリアとリティの大切家族同然の幼馴染で、とある事件に巻き込まれ今の今まで死んだと思われていた青年。
真っ先にリオン駆け寄るリアとリティの二人はリオンを抱きしめ、何度も何度も「リオン」「リオン」と彼の名前を呼んだ。その声は再会の嬉しさに震え、その瞳からは大粒の雫が零れ落ちる。
「リオンさんっ!!」
「死んでなかったんだっ」
「……ランファ……不謹慎」
「ごめんなちゃい」
先に走って行ったリアとリティの二人の後を追いかけるような形でルシア達もリオンの元へ駆け寄った。ただ、事情を知らないシルだけは首を傾げ、良く分からなと言った表情でとぼとぼと歩いて近寄った。彼女とリオンは今回が初対面だから仕方ないのだ。
「お前っ生きてるなら連絡の一つくらいよこせよなっ」
このこのっとリオンの肩に腕を回し、頭を摺り寄せるリアを疎ましそうに睨み付け
「ある奴に助けられて、ここに連れて来られたんだよ。
ここで待っていればお前らが来るからと言われたから……っていい加減離れろっ男女!」
自分の体から離れさせようとするリオンだったが、怪我を負っているためあまり派手に動けないのだろう、その攻撃は弱々しくいとも簡単にリアにはかわされ、さらにきつく抱きしめられている。
かなり嫌がっているように見えるが、これも仲の良い幼馴染のスキンシップというもの。二人のじゃれ合いが終わるった頃を見計らい、
「あの……ここで待ってれば僕達がくるって、誰に言われたんですか?」
気になっていた事を尋ねてみる。
先程リオンはこう言っていた「ある者に助けられ、ここに連れて来られ、ここで待っているとルシア達がやって来る」そう言われたと。誰が何のためにリオンを此処へ連れて来たのだろうか? 何故ルシア達がここへ来ることを知っていたのだろうか? と色々思考を巡らせ考えていると、
”それは私のことでしょう”
また謎の声が頭の中に直接語りかけけてきたのだ。三つの試練をルシア達に与え、ここへ来るように誘導したあの母のような温かさと厳しさを感じさせるあの声が聞こえてきたのだ。
ルシアは改めて辺りを見回してみることにした。
アンコールワットの外に出たというわけではなさそうだ。周りは崩れ崩壊し苔まみれの壁で囲まれており、外だと思われる森からは小鳥達の歌声が聞こえ、目の前にある石碑には古代人が描き残した物だろうか? 光の輝く女性とその下にいる無数の人々が黒くうごめく大きな陰と闘っている様子が描かれている。
「ここはどこなの」
と誰かともなく口を開いたのと同時だった。
"安心なさい ここにはもう 危険なものはありませんよ”
脳内に秘儀渡る謎の声が耳から聞こえてきたのは。
「……あそこ」シレーナが上空を指さしを驚愕した表情で固まっている。ルシア達は彼女が指さす方向に自然と視線を動かす、
「————っ」
その瞬間時が止まったような感覚に陥り皆言葉を失った。思考の先を失った。雑念というものが全て綺麗に消え去ってしまうような"人の人智を超えた存在”がそこに、いた。
白い薔薇を装飾した純白のドレスに瞳と同じ色の緩やかにウェーブのかかったエメラルドグリーンの髪が風に揺らめき、空中に浮いたその体は光り輝いているように見える、この存在を言葉で言い表すのならば、これはまるで「——女神様」と、誰かかが呟いた。
女神と呼ばれた女はニッコリと優しく微笑み
"よくぞ試練を乗り越え 此処まで来ましたね ルシア そしてその仲間たちよ”
その声はガラスのように繊細で一言一言を発言するたびに美しい音色を奏でる。おそらくこの世界にいるどの演奏者でも、この音色を再現することは出来ないだろう。この音色はきっと、神にしか出せないものなのだから。
突如目の前に現れた不思議な印象を受ける謎の女性。空中に浮いたまま微笑みを崩さない彼女にルシアは、後退りしつつ恐る恐る訪ねてみる。
「貴方は……貴方様は女神ナーガ様ですか」と。
そうですとこくりと頷き、
”私は生み出した子供達(人の子ら)から、女神ナーガと呼ばれている存在です”
「……マジかよ」
「本当に女神様なんだ」
「女神さまって実在したのね」
「……この人が女神様」
女神は存在すると信じられ、言い伝えられているが実際に見た者は誰もいない、なので皆おとぎ話の世界にだけ存在すると思っていた女神がこうして目の前に現れ驚きの言葉を零す仲間達にリオンも「だろうな、俺も初めてみた時は驚いた」と頷き同意している。
「あのっ、女神様! 僕はっ」
"歴史の真実を知りたいのですね”
ルシアが言う前に女神が答えた。その問いにルシアは唾を飲みこみ大きく頷いき、真っ直ぐな瞳で女神を見つめる。その姿を女神は子を憐れむ母のような表情で
"真実というのは何時だって残酷なもの”
天井のない何処までも広がる青空を見上げ、まるで独り言をつぶやくかのように、己が過去に犯した大罪、己の野望を叶える為に全てを犠牲とした男の話を語り始めたのだった。
- Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【隠された真実編】 ( No.195 )
- 日時: 2017/11/07 13:04
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: 0j2IFgnm)
世界とは。創造主???さまが創り出した世界樹と呼ばれる巨大な一本の巨木に無数に生い茂る枝葉なのです。この世界ミトラスフィリアもまた、無数に存在する世界の一つでしかないのです。
それぞれの世界は個々に存在し互いに干渉することはあまりありません。ですが、風に吹かれ揺らめく枝葉の如く、ある世界で大きな出来事があるとその振動は世界軸と呼ばれる枝を通じて他の世界にも良からぬ影響与えてしまい、最悪その世界は地面へと舞い落ちる木の葉の如く、落ちて消滅(ロスト)してしまうのです。その世界に生きる無限の生命と共に消えて無くなってしまうのです。神々の記録からも、記憶からも、何もかもから消えて無くなり、なにもなかったことにされてしまうのです。
消滅は(ロスト)は不慮の事故だけから起きる者ではありません。
生命に寿命という命の終わりがあるのと同じように、世界にも寿命と言う者が存在するのです。寿命を迎えた世界は、その世界に住む住人もろとも創造主さまによって消去(デリート)されてしまうのです。
無数に存在する命の声。消されたくないと泣き叫ぶ生命の声。死にたくないと悲願する子供達の声。
この悲痛の叫びを見て見ぬふり出来るほど私は残忍にはなれなかった。光から生み出され、命を生み出し繁栄へと導く使命を授かった私が、無意味に死にゆく子供達の声を無視することなんて出来ないのです。
これは創造主さまの意思に背くこと。反逆罪として滅せられても可笑しくない行為。それでも私は、寿命を迎え創造主さまに消去されるのを待つ世界に住む子供達を、まだ誕生したばかりでなにもなかった無の世界ミトラスフィリアに招き入れたのです。
「ここで一から皆でやり直しましょう」と。最初は皆戸惑い不満の声を上げていましたが徐々にその声はなくなり始め、皆で協力し合いなにもなかった世界は緑あふれる豊かな世界へと生まれ変わったのです。異種様々な世界からやってきた者達が協力して作り上げたミトラスフィリアに栄光を——とこの世界に生きる誰もが思い願っていました。なのにそれを良しとしないものが現れたのです。
私と対をなす存在でありながら、破壊と死去と混沌を司る神 邪神ギムレーが、世界誕生時からずっと行っていた沈黙を破り動き出したのです。
「ごきげんよう人の子らよ」
彼は音もなくなんのまいぶれもなく、子供達が住む町村に降り立ちました。
全身を黒き鎧で覆った巨大な神の登場で子供達は慌てふためき哀しみの声を上げるのです。その声はとても嫌な気持ちにさせ心を締め付け痛ませるのです。
その痛みの声が聞こえていないのでしょう、ギムレーはニッコリと似合わない優しい微笑みをすると「さあ選べ人の子らよ」とあくまでも微笑みを崩さないままに、何処から出している声なのか分からない甲高く相手の緊張をほぐすように優しく丁寧な口調で尋ねるのです。
「リーブ オア ライフ」
ああ……なんて……なんて残忍で残虐な質問なのでしょう。
この問いの意味が分かっていない子供達は、問いに答えてしまいます。
「り、リーブ!」
「そうか。貴様はそちらを選んだか。フハハハハハ」
「か、か、身体が熱い! 燃えるように熱い!! アツイアツイアツイアツイ!! アツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイ熱い……ッ」
リーブと答えた、答えてしまった子供達は突如もがき苦しみ始め、目を見開き天へ、私へ助けを求めながら、消去(デリート)さたのです。
リーブ。すなわちこの世界ミトラスフィリアから去るという事。この世界に住むあの子達は元々寿命を迎え死にゆく世界に住んでいた住人達だったあの子達にはもう帰るべき世界も次に行くべき世界も存在しないのです。
行き場のない住人は——ただその世界から消去されるのみ
「ライフ!」
「そうか。貴様はそちらを選んだか。フハハハハハ」
「あ……? アアアアァァッァァアアアアアアアアアアアアアア……ウウウウウ……グググググギャアアアアアアアアアアアアア……ッ!!!」
ライフと答えた、答えてしまった子供達の身体はギムレーの黒い靄の吐息包まれ、吸い込むと体内にある臓器物は全て腐り始め肉や脳、その他のものまで腐りやがて黒い靄が消えた頃に残ったのは意思も自我もないギムレーに忠実なアンデッド(動く腐った死体)となってしまったのです。
「リーブ オア ライフ」
この世界を去るか。我に魂を捧げるか。
そのどちらを選んでも迎えるものは同じ死。
なんて残忍で残虐な光景なのでしょう。見たくないと目をつむり、聞きたくないと耳を塞いでも、子供達の悲痛な叫び声は私の心を縛り痛めつけるのです。
子供達の温かい生の感情が力の源としている私の力はどんどん弱まっていきました。その代わりに子供達の哀しみ恐怖といった負の感情を力の源としているギムレーはどんどん力を付けて行き、ミトラスフィリアを自分だけの者にしようと、生み出した死者の軍団(アンデッドアルメ)を引き連れて私に迫って来たのです。
あんなに緑豊かなで美しかった世界はもう見る影もないアンデッドたち魔物の死の世界と成り果ててしまいました。もう私が招き入れた他の世界の子供達は皆ギムレーによって亡き者とされてしまいました。
ギムレーに消されるくらいなら自らの手でとも考えました、ですがそれでは……先に死んで逝ったあの子達に顔向けができないじゃないですか。
私は残された最後の力を振り絞り、ギムレーと闘うためにフュムノス、ドラゴンネレイド、壊楽族(かいらくぞく)、リリアン、ユダ、メシアの六つの種族で構成された勇敢なる兵士を生み出したのです。
それぞれの種族の代表者を種族の王とし、彼らに残り僅かとなった女神の加護を授けギムレーを倒す指揮官に命じました。
彼らは私思っていた以上の働きを見せました。死者の軍団(アンデッドアルメ)聖なる光の一撃で灰とし、希望の光でギムレーを弱体化させ封じることに成功し光は闇に勝ったのです、世界はまた光に照らされ、全て私の願い通り、全て上手くいったと安心して長き眠りにつこうとしたその時でした。
「——寝るにはまだお早いですよ。女神ナーガ様」
「あ、あなたはっ!?」
油断していました。まさかギムレーを倒すための兵士として生み出した我が子に、不意を突かれ依り代としていた遺跡に封じ込められてしまうなんて。力を枯渇していたのが敗北の原因。いいえ。母でありながら、子供を憎き敵を倒すための兵士としか見なかったことでしょう。それが私の罪。ここアンコールワットに囚われの身となっている理由なのです。
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