複雑・ファジー小説

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シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜【氷国の民編】
日時: 2019/09/08 08:53
名前: 姫凛 (ID: 9nuUP99I)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=19467

これから綴る物語は忌まわし呪われた血によって翻弄され
哀しき封印から少女達を救い
少女達と共に謎の不治の病に侵された小さき妹を
助けるため小さな箱庭を行き来し愛と絆の力で闘い続けた
妹思いな少年と個性豊かな少女達の絆の物語である

-目次-[シークレットガーデン〜小さな箱庭〜]

登場人物紹介 >>166-168
-用語紹介- >>169
-魔物図鑑- >>23
-頂きもの-
高坂 桜様(元Orfevre様)より シル(オリキャラ)>>10
はる様より リア・バドソン(オリキャラ)>>11
ブルー 様より ヒスイ(オリキャラ)>>12 ヒスイ(キャラ絵)>>205
レム様より エリス(オリキャラ)>>66
華那月様より ヨナ(キャラ絵)>>08 ランファ(キャラ絵)>>09 シレーナ(キャラ絵)>>38
むらくも(キャラ絵)>>39
むお様より リオン(キャラ絵)>>37
自作:エフォール(キャラ絵) >>217

-あらすじ(第九章)

山の国の何処かにあると言い伝えられている女神が誕生した遺跡 アンコールワットで見事試練を乗り越え真実の歴史を知ったルシア達は遺跡を出てリオン、リティと別れ時渡の樹が生えた広場でヒスイと合流を果たした。

新たに出来た旅の目的。四つの国にある四つの遺跡を巡りかつて女神と共に邪神と戦った王達の力を受け継ぐ旅の始まり。

——さてどこの国の遺跡から行こうか?


-章の目次-
*1分〜10分(読むスピードで個人差があります)で物語の概要が分かるスキップ物語☆
*本編を読むだけでも物語を楽しめますが個別の短編も読むことでより深く楽しむことが出来る作りとなっています。

序章 出会いと別れ >>05-07 -スキップ物語- >>22

第一章 物静かな看護師の闇
荒くれ者 ザンク編 >>13-20 -スキップ物語- >>40
シレーナの封じた過去編 >>24 >>26-36 -スキップ物語- >>50-51
(より抜き「 魔女と呼ばれた少女の物語」完結済み)>>152

第二章 汚された草競馬大会 >>43-47 -スキップ物語- >>52

第三章 大都市で起きた不可解な事件
宿屋での選択肢 >>48-49 -スキップ物語- >>53
[ムラクモを探す- >>55] [後をついて行く- >>54 …正体END]
遺体のない葬儀編 >>56-61 -スキップ物語- >>68
立食パーティー編 >>62-63 >>67 -スキップ物語- >>79

第四章 監禁・脱走 >>69 >>73 >>76-78 -スキップ物語- >>124
(叢side「椿の牢獄」>>158完結済み)
(別side「菊の牢獄」>>)

第五章 美しき雌豚と呼ばれた少女
コロシアム編 >>82 >>85-90 >>93 >>97 >>100-101 >>104 >>107-108
-スキップ物語-上中下>>125-127
シルの封じた過去編 >>111-113 >>119-123 -スキップ物語- >>128
(続編「美しき雌豚と呼ばれた少女とおくびょう兎と呼ばれた少年」完結済み)>>153

第六章 闇と欲望の国
アルトの封じた過去編 >>129-133 >>136-138 >>143-145 -スキップ物語- >>146
裏カジノ編 >>147-150 -スキップ物語->>151
(幕間「感情のない少女の物語」>>224
敵の本拠地へ編 >>154-156 -スキップ物語->>157

第七章 賢者たちの隠れ里 >>159-163 -スキップ物語上下- >>164-165

第八章 からくり遺跡
女神の試練編 >>170
[勇気の試練>>183-186 ] [知恵の試練>>177-182] [力の試練>>171-176]スキップ物語->>187-189
[仲間->>185…生贄end] [友人->>186…見損ないend][本当->>181] [嘘->>180…神のお遊戯end]
[棺を開けない- >>173-176][棺を開ける- >>172…死神end]
隠された真実編 >>194-197 -スキップ物語->>193
      (修正前>>190-192
第九章 荒くれ者の最期 >>198-202 -スキップ物語->>207
(幕間「殺戮人形と呼ばれた少女の物語」>>224

第十章 殺戮人形ト色欲妖怪
王家の墓編 >>208-216 -スキップ物語->>
リアの封じた過去編 >>218-2231
[受け入れる>>220-221]…喪失END [受け入れない>>222-223]…永眠end
(→狐の銅像「親殺しの青年の物語」>>)

第十一章 嘘ツキな臆病者
氷国の民編>>225-229 …達筆中
ひと時の休息編

第十二章 賽は殺りと投げられて
偽りの仮面編>>
真実の泉編 >>
???の封じた過去編>>

最終章 最終決戦
Aルート >>
Bルート >>
cルート >>
Dルート >>


 
-掲示板-
達筆開始日 2014/3/4
2017/11/25:URL先を新しくしました。雑談板にあります、設定資料集スレにしました。
2019/9/8:URL先を新しく書き始めたリメイク版の方に変えました。

-おしらせ-
2017夏☆小説カキコ小説大会【複雑・ファジー小説部門】で【銅賞】を頂きました。
投票してくださった皆様、本当にありがとうございました<(_ _)>
完走(完結)目指して頑張りたいと思います!
20119/9/03→『氷国の民編』『新章』追加

参照100突破!3/6 200突破!3/11 300突破!3/15 400突破!3/21 500突破!3/28 600突破!4/4 700突破!4/9 800突破!4/15 900突破!4/22 1000突破!4/28 1100突破!6/2 感謝♪
2017年 2600突破!/1/30 2700突破!1/31 2800突破!2/7 3200突破!8/31 3300突破!9/1 3400突破!9/7
3500突破!9/12 3600突破!9/19 3700突破!9/26 3900突破!10/10 4000突破!10/17 4100突破!10/31
4200突破!11/6 4300突破!11/14 4400突破!11/23 4500突破!11/28 4600突破!11/3 感謝♪
2018年 5000突破!1/7
返信100突破!2014/4/28 200突破!2017/11/14 感激♪

-神様な読者の方々-
蒼欒様:初コメを下さいました!もう嬉しさMaxです♪
レム様:エリスちゃんの生みの親様です♪いつも温かい励ましコメありがとうござます!
ブルー様:オリキャラ ヒスイちゃんを投稿してくださいました!
出せるまでに一ヶ月以上もかかってしまったのに、見捨てずに見て下さっているお優しい方です(T_T)

Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜 ( No.216 )
日時: 2017/12/05 11:06
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: 0K0i.3Zc)

「あの子は何だったんだろう……」

 誰が呟いたわけでもない独り言。
突如襲い掛かって来た少女はうさぎのように岩場を跳ね回り、風に乗って自由奔放に飛び回り、ルシア達を翻弄し、そして最期は跡形もなく——目の前から消え去った。

 呆然と立ち尽くすルシア達。まだ状況が上手く呑み込めない。

「……終わったんだよね?」

 また誰かが呟いた。ああ……背後から聞こえるこの声はシルの声だ。
振り返るとまだ不安そうな顔で仲間達の顔色を窺(うかが)っている。
突如として現れて襲ってきた相手、まだ何処かに身を潜め隠れているという可能性もなくは……

「大丈夫。もう誰の気配もしないよ」

 不安要素を取り除いたのはヒスイの言葉だった。
他人(ひと)の放つ気配に敏感な彼女が言うなら間違いはないのだろう。

 終わった。暗殺者エフォールとの闘いはあっけないと笑ってしまう程にあっけなく終わりを迎えた。
ルシア達の中に残る疑問。あれは何だったのだろう……。だがその疑問に答えをくれる者は誰もいない。

「…………」

 答えを知らない者。

「…………」

 答えを知っているけど言いたくない者

「…………」

 答えも全てを知っているがあえて言わず、デザートは最後に食べるものだと、次のお楽しみにと取って置く者。

 理由は人それぞれ。

「さあ——帰ろうぜ」

 いつも先頭に立ち一番に歩き出すのは、最年長のリアの役目。
今日も一番前に立って、浮き沈んだ仲間達を引っ張り上げて空高くへと持ち上げ羽ばたかせる。無限の大空へと。

「うん!」

 大きく頷き、仲間達も大きな一歩を踏み出す。
先を歩くリアの背中を追いかける形で前へと進んでゆく。振り返らない。前だけ、目の前にある仲間の背中だけを見て進んで行くのだ——もう振り向かない。

「待って……ルシア」

 そう決めていたはずなのに。腕を引っ張られてルシアは立ち止まり振り返えった。

「……ランファ?」

 腕を掴んだ犯人はランファだった。今にも泣き出しそうな、苦しそうに唇を噛みしめている。
顔を俯せたまま静かに口を開く。

「ねえ——おかしいと思わない?」
「何が?」

 質問に質問で返したのはまずかっただろうか。少しの沈黙後。

「……行かないで」

 腕を握る指に力が籠められる。痛いくらいに。

「どうしてそんな事言うの? 僕はずっとランファやみんなの傍にいるつもりだけど……」

 違うの、と言いたげにランファは大きく首を振る。

「このまませんちょさんのお家に戻ったら、もう二度と帰って来られなくなるような気がするの。
 だってヒスイさんがリアに"待って"、言ってたのにリアはバッサリ斬っちゃうし……それにたぶんエフォールは……」

 そこまで言いかけてランファは口を閉じた。
力強く腕を握りしめる指に軽く手を添えて優しく声をかけようとして、初めて気が付いた。小刻みに震えていることに。
大きな肉食獣に睨まれた小さな草食獣のようにブルブルと小刻みに震えているランファ。
 
 いつもお茶らけてふざけているランファらしくもない。
本気でルシアの身を案じ心配して言った言葉なのだろう。我慢しきれなくなったのか、灰色の瞳からは大粒の涙が溢れ流れ出ている。

「ランファ……僕は——」



























              第十章 殺戮人形ト色欲妖怪-王家の墓編-終

Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜 ( No.217 )
日時: 2017/12/07 09:07
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: UQpTapvN)
参照: https://img-i.akatsuki-novels.com/40079_20171207085835.jpeg

ドルファフィーリング四天王が一人 殺戮人形『エフォール』を描いてみました。
アナログだし、色なしだし、絵心ないし、ナシナシな絵で皆様のお目を汚してしまわないか心配>M<

Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜 ( No.218 )
日時: 2017/12/11 09:50
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: M.fbnnZK)

第十章-リアの封じた過去編-                  (ルシアside)





 ——♪ ——♪ ——♪


 何の音?

 遠くの方から微かに聞こえてくるのはポンポコ叩く太鼓の音にピューピュー音色を奏でる笛の音が鳴り響いている。
風に乗って僅かに香るのは水飴の甘くて美味しそうな匂い。

 閉じていた瞼を開ければ、左右を濃い闇の竹藪に囲まれた一本道。飛び石で造られた道の左右対称に等間隔で置かれた灯篭と薄暗い闇に良く映える赤の鳥居が地平線の彼方まで続くいているように真っ直ぐ続いている。

 ここはどこ?

 後ろを振り返えってみても、あるのは目の前と同じ光景。
飛び石で出来た道に、等間隔で置かれた灯篭と鳥居。奥へいくほど灯篭の灯りは鈍く淡いものになっていて真っ暗闇の中にぼんやりと橙色の灯りが見える程度。

 前も後ろも常闇の世界みたいだ。

 どちらに進めばいいのかも分からないまま僕は立っていた場所から前方に進んでみることにした。
なんとなくだけど、後ろに進めばもうここに帰ってくることが出来なくなるような気がしたから。

 でもどうしてか僕の足は鉛のように重たく感じる。足元を見てもそんなもの付いていないのに。普通のいつもの僕の足だ。なのにどうして今日ばかりはこんなに重たく感じるんだろう。重い足を引きずるようにして一歩一歩ゆっくりと、前へ進んで行く。一歩進むたび、後ろを振り返って見れば、後ろに広がっていた常闇が徐々にこちらに迫ってきているような気がする。まるで僕を追いかけて襲い掛かろうとしているかのように。

 心臓が波打って痛い。背筋に冷たい汗が流れてゾワリとする。
脳にここは危険だ。早く逃げ出せと命令されているようだ。重たい足を頑張って引きずり前へと進む。後ろから迫ってくる闇もゆっくりと進んでくる。

 進んでも進んでも景色は変わらない。迫ってくる闇との距離も変わらない。

 どうしたらいい? どうすればいい? どう——?

 あれ? どうして僕はこんなところにいるんだっけ? 何をしていたんだっけ?

 頭の中が真っ白になった。何かを必死に行っていたという事は覚えているのに、それ以外は何も思い出せないんだ。
頭の中は真っ白なのに、目の前は真っ暗なんだ。何も見えない暗闇の世界なんだ。

 そもそも僕は誰だ? どうして僕は僕の事を「ぼく」と呼んでいるの? それが僕の名前? 僕はいったい——

「しっかりしてくださいまし!」

——バチンッ!! 誰かに頬を叩かれた。痛い。頬がじんわりと熱をもって焼けるように痛いです。
誰が……と、思って叩いてきた主を見てみると、その人は良く知っている人物で、でもその人は現実世界には存在しないはずの人で……。

「……パピコさん?」
「そうです。貴方様の恋人、パピコでございます! 正気に戻られました?」

 パピコさんに会ったおかげ? それとも強めに頬を叩かれたおかげ?
霧がかかったようにぼんやりとしていた視界がはっきりとして、真っ白になっていた頭の中も綺麗になり上手く思考が働かせることが出来る。
 自分が何者なのか思い出すことが出来る。ここに来る前の事が思い出すことが出来る。

 そう僕の名前はルシア。攫われた最愛の妹ヨナを取り戻すために旅をしていていたんだ。
仲間達と一緒に。幼馴染のシレーナ。突然空から現れたランファ。草競馬大会で馬の乗り方を教わって、コロシアムでは景品になんかされて色々あったシル。和の国で初めて出会って、カジノでは生き別れになっていたお母さんと再会することが出来たヒスイ。そして……。

「リアさん?」

 あれ……どうしてだろう。リアさんの名前、顔や見た目、性格、好きな物嫌いな物、全部、全部思い出せるのに、リアさんとの出会った時のことや、これまでの旅で思い感じたことが全部ぽっかりと抜け落ちて、頭の中にぽっかりと大きな穴が開いているような、そんな感じ。

 じゃ、じゃあ。どうしてここに居るのか。ここに来るまでの経緯を思い出してみよう。
旅に出た僕達は沢山の仲間に出会い、沢山の人とお別れをした。
途中、山の国にある遺跡で女神様に出会い、歪められる前の歴史を知ることが出来た。邪神が復活しようとしていることも。

 女神様からの依頼で邪神を復活を阻止するためにかつて邪神と戦った英雄王たちの力を受け継ぐ旅に変更することになって、海の国にあるアトランティスで、シレーナの故郷の人たちを滅茶苦茶にした狂犬ザンクと戦いになって、次に訪れた和の国にあるコローナ島の王家の墓で奇襲者と戦って……それから……それから?

「あれ……あの女の子と戦って以降の記憶がない?」

 あの女の子との戦闘後、ランファに腕を掴まれて泣きそうな顔で何かを言われた事は覚えている。でも具体的に何を言われたのかは思い出せない。

 何かを聞かれて、僕は何かを答えたような気がするのに。その内容がぽっかりと抜け落ちているんだ。気持ち悪い。思い出せそうなのに、思い出せない。痒い所に手が届きそうなのに、あと数センチ足りないから届かない。それとよく似てる気持ち悪さだと思う。

「思い出せないんです?」

 俯せて考えて込んでいるとパピコさんが心配そうな顔を覗き込ませた。

「あ、うん……ごめん」

 反射的に謝っていた。心配させてしまってごめんなさいと。

「そんな事お気にしないで下さいまし。私とご主人様の仲でしょう?」

 ニコニコと恍惚とした笑みを浮かべているパピコさんに少しだけ身の危険を感じた事は黙っていよう……。

「それにしても此処はなんでしょう? 妖気に包まれ、なんとゆうか妖艶的でいてなんだかいやらしい気分にさせるところでございますね」
「そ、そうなのかな?」

 そうゆうこと、女の人がはっきりと言っていいのかなあ……?
意気揚々と少し興奮気味に語るパピコさんに僕は苦笑い。こんな時どう反応すればいいのか分からないよ……。

「えっと。少し歩いて見る?」
「デートですね♪ 喜んで♪」

 えっと……ごめん。そうゆうつもりで誘ったわけじゃないんだ。
ただここがどこなのか調べる必要があるかなと思って誘ってみたんだ。ごめんなさい、パピコさん。と、僕は心の中で呟くのでした。口が裂けてもパピコさんに直接言うなんて勇気僕にはありません。



Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜 ( No.219 )
日時: 2017/12/12 15:48
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: lEZDMB7y)

 進むべき道は、目の前に広がる点々と淡い灯篭の光が遠くの方に見える一本道か、後ろに広がる灯りの無い暗い闇の世界へ続いているような一本道のどちらか。
この二つの道なら迷う必要性もないよね。僕たちは目の前の真っ直ぐ続く道を選び歩き出した。

 一本道だと余計な小道がないから迷わなくていいよね。複数ある道は横道にそれたりして、良く分からない場所に出たり、日の当たらない裏路地で変な人に絡まれてたりして大変な目にあうって、前にシレーナに貸してもらった『サ・都会の歩き方伝授』ってタイトルの本に書いてあったもんね。都会は本当に恐ろしいところだよ。

 ——♪ ——♪ ——♪

 なんて考えながら歩いていると、遠くの方から微かに聞こえていた太鼓や笛の音が段々と近くから大音量で聞こえて、音の中に子供の笑い声が混じっているよ。……子供を叱る大人の声も。

「なんの音色が鳴っているのかとずっと不思議に思っていましたが……」

 隣を歩いていたパピコさんが納得って感じで首を縦に動かして頷いている。

「これは祭囃子ですね。どこかでお祭りでもやっているのでしょう」
「まつりばやし? おまつり?」

 聞いた事のない言葉に僕は困惑した。だってそんなもの僕たつが住んでいた村では行われなかったから。
不思議に首を傾げているとパピコさんは微笑み「行けばすぐに分かりますよ」と答えた。見ればすぐに分かるようなものなの? おまつりっていうものは……?

 不思議に思いながら手を引っ張るパピコさんに連れられて駆け足で道を進んで行くと

「わあ……これがお祭り?」
「そうです!」

 目の前には初めて見る幻想的な光景が広がっていました。

『うふふふ……』
『あははは……』

 真ん中の道を楽しそうに行き交っているのは、狐のお面をつけて顔を隠している若い夫婦と、狸のお面を付けて顔を隠している幼い子供たち。

 みんな扇子のような扇ぐために使う平べったい半円の紙に棒が付いた物を持っているみたい。それに着ている服装も見たことがない衣装だ。
確かあれは和の国の伝統衣装、和服って呼ばれている物だったかな。

「そうですがより正確に呼ぶのでしたら浴衣ですね」

 もしかして声に出してたのかな。クスリと笑ってパピコさんが教えてくれた。……ちょっと恥ずかしい。

『いらっしゃい、いらっしゃいー』

 みんなが行き交う道の左右一列に市場の屋台のような建物が地平の彼方まで並んでいる。美味しそうな食べ物を目の前作っている食べ物屋さんに、

『チクショー! また外れた!!』

 頭を抱えて叫んでいる男の人がいるのはクジ引き屋さんかな? 可愛いぬいぐるみからノートや鉛筆といった文房具まで色んな景品がおかれたミニゲーム屋さんまで、色んな屋台が並んでいるよ。

 なんだか隣の町にある大通りに似ているような気がする。

『美味しいね』

 食べている食べ物はほぼ全て見たこともないものばかり。

「じゅるり」

 意図せずともよだれが口からあふれ出て来るよ。でもよだれを垂らしているなんてかっこ悪いから慌ててズボンのポケットからハンカチを取り出してふき取るけどね。

 ダラダラと溢れ出すよだれをふきながら改めて思う。ここはどこなんだろうって。だって僕はここに来た覚えなんてない。いつ、どうやって、なんの為に、ここへ来たんだろう……?

「よお、大将楽しんでるか!」
「えっ?」

 突然誰かに肩を叩かれて、バッと振り返ってみると、そこには短髪の黒髪に整った顔立ちの赤色の瞳をした僕も良く知る美青年が威風堂々と立っていた。知らない場所で見知った顔に会えたのが嬉しくって、僕は彼の名前を呼んだ。

「リアさんっ!?」
「にひっ」

 まるで悪戯が成功したことを喜ぶ子供のように微笑んでいるリアさん。
どうしてここに? と、僕が聞く前にパピコさんが

「なんですこの色欲魔は?」

 まるで不審者を見るような目つきでリアさんを睨み付けて、僕を護るようにして前に出て片腕を僕の前に出している。それはどちらかと言うと僕の役目だと思う。その前にリアさんはそんな警戒しなければいけないような人じゃないよ。違う意味で警戒はしないといけないかもしれないけど……。

 呆れた表所でパピコさんを見ていたはずなのに、ちらりと彼女が睨み付けるリアさんを見てみと、なぜか彼もパピコさんと同じような視線で見つめ合っていた。
リアさんの方がパピコさんよりも背が高いから、ちょっと見下ろすような形で。

「それはこっちの台詞なんだけど? 俺はルシア"だけ"を招待したはずなのになんでBBAまでいるんだよっ」
「なっ!?」

 BBAの意味は良く分からなかったけど、その言葉はパピコさんにとって禁句の言葉だったらしくて……挑発するには効果抜群の言葉だったらしくて……。

「誰がBBAですか!! 私はまだそんな歳ではありませんっ!
 お肌だってまだ、こんなにぷるんっとしていまし!!」

 目を見開いて怒っているパピコさんを放置してていいのかな。
リアさんは僕の肩に腕を回して自分の身体に引き寄せると、耳元でひそひそと

「……いいか、ルシア。お肌がまだぴちぴちとか言いだす奴は相当歳がいってるって証なんだぜ?」

 小声で話して凄くどうでもいいことを初めて見るような真剣な表情で教えてくれた。

「へ、へぇ……そうなんだ……」

 苦笑い。……しか出来ないよ。

「そんなッご主人様までっ!? パピコ、ショック!!」

 背を向けてこれ見よがしにわざとらしく落ち込んで見せるパピコさん。足元に小石なんてないのに、悔しさを表現する為に小石を蹴るふりをしているよ……頑張屋さんなんだね。

「どうだ"俺の祭り"は、よ?」

 すぐ近くにあるリアさんの顔が満面の笑みだ。

「もしかしてまだ遊んでないのか? そんな勿体ねー。
 せっかく来たんだ。存分に遊んで行けよっ! 嫌な事なんて全部忘れちまうほどによっ」

 リアさんからの誘いは嬉しい。でも断らなくちゃいけない、僕にはやらなくちゃいけないことがあるから……僕はここで遊んでいる暇なんてないから。

 どうお断りすればいいのか分からない。だから助けを求めるようにパピコさんに視線を向けると

「いいではありませんか」
「パピコさんっ!?」

 ケロッとした表情で彼女は答えた。

「ご主人様も仰っていたではございませんか、お祭りは初体験だと。
 それならせっかくの機会なのです。ここはお言葉に甘えて楽しんでみては如何でしょう♪」

 まさかの返答だった。稀に可笑しな言動をするパピコさんだけど、基本は真面目で僕の意見にいつだって肯定的だった彼女がそんなことを言うなんて……思いもしなった。

——だって僕達には大切な

「あれ……?」

 僕は何をしていたんだっけ? 大切な……、続きの言葉が出て来ない。僕は……?

「ご主人様? どうなさったのです? ぼーとなされて……」
「疲れてるんだろ? ルシアは真面目だから」
「そうでございますね。貴方様とは違ってご主人様は繊細なお方ですから」
「へいへーい」

 また頭の中に白い靄のようなものがかかって上手く思考が働かなくなってきた。記憶がどんどん消されているような……大切な、大切だったものがどんどん消されているような……そんな気が……。

「思い出が消えていくような気がするよ……リアさん」

 縋りつくように僕は彼の胸板にしがみついた。

「怖いよ、リアさん。
 どんどん僕が僕であることを証明できる、記憶が誰かに消されているようなんだ。僕が僕で亡くなるようで怖いんだ」

吐き出すようにそう言うと、リアさんは優しい僕の頭を撫でて、

「大丈夫だ。そんな心配すんな、ルシア。
 お前がお前自身の事を忘れちまったとしても、俺の事を忘れてしまったとしたとしても、な?
 お前がお前であることは変わらないねえよ。俺はお前を忘れたりなんてしないから、安心しろ」

 ニカッと笑うリアさんを見ると、あれだけ怖かった記憶の消失がなんともなくなった。むしろ嫌なことが全部スッとなくなって、心が軽くなったような気さえする。

「お前は真面目過ぎるんだよ。少しくらい休んだって罰は当たらねーよ」

 そうなのかもしれないね。優しく頭を撫でるリアさんの手は温かくて大きくて、なんだか遠い昔父さんに頭を撫でられた時の事を思い出すようで。

「忘れちまうって事はその程度の想いだったってことなんだよ。
 ならさ、もう綺麗さっぱり忘れちまって、ここで"俺と楽しく暮らそうぜ"なあ——ルシア?」

 僕はリアさんの誘いを——

Re: シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜 ( No.220 )
日時: 2017/12/19 11:05
名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: lEZDMB7y)

[受け入れる]


「そう……だよね。忘れて思い出せないって事はその程度だってことなんだよねっ」

 僕はリアさんの誘いを受け入れることした。

「お祭りの楽しみ方とか教えてよ、リアさん」
「よっし、きた」

 満開の、向日葵のような笑みを浮かべてガッツポーズ。いつもは変な事ばかりしてるリアさんだけど……やっぱり頼りになる時は、すっごく頼りなるんだよね。

「ご主人様!? そんな、色欲魔なぞに頼らなくても、お祭りの楽しみ方くらい私がそれはもう手取り足取りお教えしてあげますのにっ」

 なんだか背後から桃色の熱視線を感じるような気がするんだけど……気のせいかな?
まだリアさんの胸板にしがみつくいていた僕は顔を上げて、アイコンタクトで聞いて見た。それに気が付いてくれたリアさんはウインクを一度すると、

「ヒステリックBBAことなんざ、ほっといて行くぞー!!」

 腕を掴み人混みの中へ引っ張って行った。がやがやと賑やかな人の声に混じって背後から

「きぃぃぃ!!」

 ってパピコさんの悔しそうな悲鳴が聞こえたのは……さすがに気のせいじゃないよね?




                  †



「まずはこれで遊ぼうぜっ」

 と、言ってリアさんが立ち止まったのは足元に踝くらいの深さの水槽が置かれた屋台だった。
屋台の上に張られたいるテントには【金魚すくい】って書かれてあった。
金魚と言う生き物は村の図書館にあった図鑑で見たことがあるから知ってるよ。赤と白のまだら模様が可愛い小さな生き物だよね。
足元にある水槽にも赤と白のまだら模様の生き物が泳いでいるみたい……ん?

『ぎょーン』
「これっ金魚!?」

 変な鳴き声をあげている、赤と白のまだら模様の細長い身体で口元に髭が生えている生き物が水槽の中を自由に泳ぎ回っている。これはどう見ても金魚じゃない……むしろこれは……

「鯉ですね」
「あっ。パピコさん」

 いつの間にか隣にいたパピコさんが口を開いた。そうだよ、この魚も図鑑で見たことがあるよ。そっかー鯉か……じなくて!

「なんで鯉が泳いでいんですかっ」
「金魚すくいならぬ、鯉すくい、な? おつだろ?」
「どこがですか……」

 冷たい視線でリアさんを睨み付けるパピコさん。確かに金魚すくいって書いてあるのに、鯉すくいはないよね。と、ゆうより鯉なんてどうやって取るの?

『はいよー』
「わっ」

 水槽を挟んで反対側でパイプ椅子に座っていたおじさんが急に何かを投げて来たよ。落とさないように、受け取ったそれは……

「デカッ」

 先が丸い針金のような棒に白い和紙を張り付けたもの。でも円の直径が五十センチくらいあって、とにかく重い! 両手で持っているのがやっとで、まともに立っていることも出来ない……あわわっ。右へ寄れ、左に揺れ。

「こんなに重かったら、鯉もなにもすくえないよ!」
 
 隣に居るリアさんに言うと、

「そりゃそうだろ。やるきねーもん」

 けろっとした表情で彼は言った。

「駄目じゃん!!!」


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