複雑・ファジー小説

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竜装機甲ドラグーン
日時: 2015/01/18 02:14
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: Re8SsDCb)

 

 それは、突如として世界中に現れた。

 竜、龍、ドラゴン。

 お伽噺の怪物たち。

 『竜種』

 地上、地中、空中、海中のありとあらゆる場所に出現し、あらゆる対象を喰らい、蹂躙する凶暴な生命体。

 そして、地球上のほとんどの文明都市は彼らによって崩壊し、人類史上に類を見ない未曾有の危機が訪れたのだった。

 彼ら、竜種の前では既存の兵器は無力であり、軍や政府は完全に無力化されてしまった。

 人々に残された道は終焉の時をまつことのみだと思われた。

 そのとき、ある生化学企業が画期的な兵器を開発させる。

 竜種細胞を取り込んだ生体機動兵器。

 —————————『ドラグーン』。


 ドラグーンを乗りこなすためには、搭乗者自身の身体に竜種細胞を摂取する必要があった。

 その適合者たちはすべて十代の少女であり、彼女たちにしか扱う事が出来なかった。

 だがその力は絶大で、人類は滅亡の一歩手前で喰い止められた。

 人類は新たなる切り札を手に入れた。

 彼女たちの任務は竜種から人類を守ること。

 しかし、無尽蔵に出現する竜種に対して、戦いは決して優勢とはいえなかった。

 それでも大切な人を守るため、己の存在理由を知るため、さまざまな想いを胸に集結した『少女たち』の、終わりなき戦いは今日も始まる——————





皆様いかがお過ごしでしょうか、Frill(フリル)です。
新小説を始めようと思います。作者の妄想と何処にでも在るありきたりな設定ですが御付き合い下されば幸いです。更新は超スローなので御勘弁ください。コメントは御自由にどうぞ。但し、中傷、荒らし、宣伝広告などは受け付けておりません。返信はかなり遅れて仕舞いますので何卒御容赦下さい。
スピンオフ作品『竜装機甲ドラグーン テラバーストディザイア』公開中。
和風伝記小説『朱は天を染めて』もどうぞ。


目次

登場人物&竜機ドラグーン紹介
>>6 >>7 >>8 >>19 >>20 >>21 >>42 >>43 >>44 >>53 >>54 >>55 >>58 >>59 >>60 >>81 >>89 >>95 >>100 >>101 >>102 >>107 >>113 >>124 >>125  




竜種実質調査報告書
>>126 >>127




本編

Act.1 竜を駆る、少女たち
>>1 >>2 >>3 >>4 >>5
Act.2 君の蒼 空の青
>>9 >>10 >>11 >>12 >>13 >>14 >>15 >>16
Act.3 紅の誇り 熱砂の竜
>>17 >>18 >>22 >>23 >>24 >>25 >>26 >>27
Act.4 黄金の絆 ふたつの魂
>>28 >>29 >>30 >>31 >>32 >>33 >>34 >>35
Act.5 咆哮、蒼き飛龍 激動の果てに
>>36 >>37 >>38 >>39 >>40 >>41 >>45 >>46
Act.6 邂逅、再開 想い重ねて  
>>47 >>48 >>49 >>50 >>51 >>52 >>56 >>57
Act.7 竜よ知れ 目覚めよ、真なる力
>>61 >>62 >>63 >>64 >>65 >>66 >>67 >>68 >>69 >>70 >>71
Act.8 黄昏、追憶の彼方
>>72 >>73 >>74 >>75 >>76 >>77 >>78 >>79 >>80 >>82
Act.9 哀しみの遺産 父の形見
>>83 >>84 >>85 >>86 >>87 >>88 >>90 >>91 >>92 >>93 >>94
Act.10 堕ちた龍蛇 這いずる、闇の底
>>96 >>97 >>98 >>99 >>103 >>104 >>105 >>106
Act.11 想いはせる少女 見つめるその先には
>>108 >>109 >>110 >>111 >>112
Act.12 死闘、誰がために 大砂海に潰える涙
>>114 >>115 >>116 >>117 >>118 >>119 >>120 >>121 >>122 >>123
Act.13 星が呼ぶ 遥か遠き、竜の楽園
>>128 >>129 >>130 >>131 >>132 >>133 >>134 >>135 >>136 >>137
Act.14 すべての始まりにして終わりなるもの
>>138 >>139 >>140 >>141 >>142 >>143 >>144 >>145 >>146 >>147
Act.15 すべての始まりにして終わりなるもの(後編)
>>148 >>149 >>150 >>151 >>152 >>153 >>154 >>155 >>156 >>157
Act.16 流星が降る、蒼き星の輝きは永久に
>>158 >>159 >>160 >>161 >>162 >>163
Act.17 そして少女たちは竜を狩る
>>164 >>165

Xct.00 機械仕掛けの竜は少女の夢を視るのか
>>166








 『竜装機甲ドラグーン』スカーレッド・クリムゾン

 >>167 >>168     

Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.119 )
日時: 2014/04/23 08:35
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: D486Goe5)

 ティアマト・アルヴァΩが繰り出した暗黒球が至近距離でユグドラシルに直撃し呑み込み、荒れ狂う。

 暗黒の乱流と磁気嵐が吹き荒れ、光さえも喰らい啜る次元の虚無が口を開け、白光の機体を貪ろうと噛り付く。

 「うわぁあああああああああっっっっ!!!!!!!」

 「きゃああああああああああっっっっ!!!!!!!」

 「いやああああああああああっっっっ!!!!!!!」


 無慈悲なまでの暴虐の嵐。

 装甲は瞬く間に解体細断され、超重力の力場がユグドラシルの腕を足を砕き、へし曲げ、機体を押し潰そうと一層破壊力が増す。

 絶体絶命。

 間近に迫る冥府の入り口。

 闇の大穴がすべてを消し去るべく、ドミネアたちを待ち構える。

 死だ。

 皆等しく訪れる安息の刻。

 脳裏に浮かぶ様々な過去の幻想。

 これが走馬灯なのか。

 


 













 中近東、荒涼とした大地。

 碌に作物も育たない痩せた土地が延々と広がる貧しい街。

 人々はいつ来るだろう竜種に怯え、細々と暮らしていた。

 街の一角、外れに古びた教会が乾いた砂塵に晒され、その姿を寂しく佇まわせる。

 この教会は孤児院としての役割も持ち、若いシスターがひとりで切り盛りし、なんとか数人の子供たちを養っていた。

 だが、それも一昨日で終わってしまった。

 シスターが亡くなってしまったのだ。

 優しかったシスター。

 病を患いながらも皆の為に働いた。

 街の住民も見兼ねて、僅かばかりの金銭や作物を届けてくれた。

 皆が食べるのもやっとだったが、楽しかった。

 


 葬儀は実に呆気なかった。

 とても簡素なものだった。



 
 ドミネアは知っていた。

 シスターは自らを身売りして、生活費を得ていたことを。

 それでも貧しいこの街では幾らにもならない。

 それでも子供たちを養おうとした。

 街の住民たちはそんな彼女を憐れに思いながらも、影で淫売と罵っていた。

 ドミネアは幼心にもそいつらを殺してやろうと思った。

 だが、それを感づいたシスターはきつく叱った。

 力に振るわれるのではなく、自らが力を振るうのだと。

 己の行動に責任をもて、と。

 何を信じ、どうするのか、自分が判断し、決めなければならない。

 悪とするのか、善とするのか。

 邪とするのか、正義とするのか。

 己が認め、そうあろうとすること。

 そして最後に淋しく笑ったのを今でも忘れない。














 教会の入り口でボーッとしていた。

 ドミネアに近寄るふたりの少女、ペルーシカとその手を握るセラフィナ。

 三人ともこの教会で知り合い、友達になった。

 少ない食べ物を分け合い共に遊び、学び、過ごした。

 しかし、これからどうなるのか、どうすればいいのか、三人の少女は悩んだ。

 今の自分たち何ができるのか。

 犯罪や身を売るのは極力避けたいが、生きるには仕方ない。

 それは本当に最終手段だ。

 他の子供たちはどうか知らないが自分たちだけでもシスターの意志は貫き通したかった。

 そんな時、教会にひとりの妙齢の女性がやってきた。

 眼帯をした強面だが、とても綺麗な人だった。

 なんでも生き残った人々を巨大な船で助け集めているそうだ。

 そして年若い少女たちに、竜種と戦うための兵器と適合するかどうかも調べているそうだ。

 決して強制ではなく、受けるかどうかも自由だ。

 不適合だとしても問題無く、生活は保障されるという。



 ドミネアたちは適合試験を望み、そして三人とも高い適合率を示した。





 己が決めた事。

 それはドラグーンパイロットとして人々を竜種の脅威から守る事。

 

Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.120 )
日時: 2014/04/23 10:51
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: D486Goe5)


 ヨルムガントに集められた適合者の少女たち。

 その中でもズバ抜けて、適合率が高く戦闘のセンスが顕著だったドミネア、ペルーシカ、セラフィナ。

 艦長ヴェロニカは、過去に竜種と最前線で戦った元パイロットでドラグーン乗りのエキスパートだった。

 自ら直接、戦い方を指導し、ドラグーンの操縦法、竜種との立ち回り方を教導した。訓練は過酷で、その後訪れた実戦の数々は熾烈を極めた。

 厳しくもあり、暖かな眼差しのヴェロニカ。

 確固たる信念、想いをドミネアたちは感じた。

 いつしかそれは家族の絆のような、仲間を慈しむかけがえのない大切なものが己の心に育まれていた。

 亡きシスターの想い、ヴェロニカの意志。

 
 それらは、ひとつに繋がっているのだ。

 自分たちが進むべき道へと。

 













 終りを誘う虚無が間近まで歩み寄る。

 ユグドラシルは崩壊寸前だ。

 なんとかしたい。

 あきらめたくない。

 だけど、どうすればいいのか。

 そういえば、昔もこんな風に少ない頭をフル活動して悩んでいたな、とドミネアは朦朧とする意識の中で、自嘲気味に笑った。

 ここまでなのか。

 ごめん、みんな。

 反重力が包み、コックピットに浮かぶ三人の少女。

 既に意識がないのか、ペルーシカもセラフィナもただ、流れに身を任せるままだった。

 終焉が訪れるのを待つことのみ。

 そう思われた。








 「諦めるなっっっ!!!!!馬鹿者っっっっ!!!!!!!」











 
 突然ヨルムガントの搬入ドッグが勢いよく開き、瞬駆の巨体が神速で飛翔してすべてを飲み込む渦巻く暗黒の球体に突入すると、半壊したユグドラシルを抱え飛び出した。

 対象を失った暗黒球はそのまま彼方の地平線に消え、その数瞬後黒い閃光が天に昇り、砂塵を撒く衝撃波が伝わってきた。

 
 ユグドラシルを砂の海にそっと、横たえる巨躯のドラグーン。

 前頭部に槍のごとき角を構え、鎧を纏う強健な胴から伸びる猛禽の腕爪、下半身は強靱な獅子のような四足がまるで、神話の生物を思わせる姿だった。

 だが、その機体は歪な肉が覆い、不気味に脈動しており、神聖とは真逆の悍ましさを放っていた。


 「・・・私は言った筈だぞ?何時如何なる時も、決して諦めるな、と。・・・まったく、世話が掛かる教え子たちだ・・・」

 優しく語りかける良く知っている声。

 「・・・ヴェロ、ニカ、艦長・・・?」

 ドミネアは横たわったまま、画像が乱れるモニターを見つめる。

 「・・・今は体を休めるがいい、後の事は私にまかせておけ」

 そう言ってほほ笑むヴェロニカ。

 そしてドラグーンの巨躯を、この状況を創り出した元凶に向ける。

 


 相対する魔を体現する竜と、獅子の勇猛さを現すドラグーン。
 
 一触触発の緊張感が流れる。



 そこに場違いなヘリの駆動音が響き、上空に飛行してきた。

 「・・・久しぶりね、ヴェロニカ。その機体、ファブニルを見るのは随分昔のことだけど良く覚えているわ」

 ヘリから灰色の長髪をたなびかせ、アリーザが顔を覗かせる。


 「・・・アリーザ!!やはりお前か、裏でエキドナと手を結び、暗躍していた者は!!!何故だ、何故、こんな事をする!!?」

 ヴェロニカはドラグーン、ファブニルのコックピットで険しい表情をしてヘリを睨む。

 「・・・こんな事?何を言ってるのかしら、私はいつでも理想の世界を創るために頑張ってるのよ?昔のように。・・・平和な世界を取り戻したくて、ね。貴方だって、そうでしょう、ヴェロニカ?」
 

 アリーザの当たり前のような態度の言葉に、悲痛の顔をするヴェロニカ。

 「・・・アリーザ。お前の気持ちは解る。だが、これでは『あの時』の繰り返しではないか?エキドナは信用してはならない。ロゼが命を賭けて守った世界を・・・」

 ヴェロニカの発した台詞に即座に反応するアリーザ。

 「貴様がっ!!!貴様らがっ!!!!、あの人を語るな!!!!!見殺しにしたくせにっ!!!!!見捨てたくせに!!!!!あの人は、あの人は・・・最後まで・・・!!!!!!」

 美しい髪を振り乱し、鬼の形相で捲し立てる。

 しかし、すぐに冷静な能面の表情に変わり、静かに話す。


 「・・・私は世界を変える。そのためには、手段は選ばない。例えすべてを犠牲にしても、あの人が変えようとした、救おうとした世界を、今度は私が救って見せる・・・」


 
 そして、氷のような微笑みを浮かべた。



 「そのために、まずはヴェロニカ。あなたの中のオリジナル『スヴァラ』を貰うわ」


Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.121 )
日時: 2014/04/23 17:23
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: O35iT4Hf)


 アリーザの宣言と同時に襲い来る魔竜、ティアマト・アルヴァΩ。

 巨腕の剛爪をかなぐり振るい、ファブニルの猛爪と衝突し組み合う。

 「くっ! 何て力だ・・・! 聞こえているか、パイロットの者よ!! やめるのだ、このような暴挙は何も意味はなさない!! 世界が本当に滅びるぞ!!!」

 互いの巨腕を軋ませ、ギリギリと押し引き合う二体の巨大かつ歪なドラグーン。

 ヴェロニカは眼前の魔竜を駆る者に訴える。

 「・・・滅ぶ?違うぞ、生まれ変わるのダ。世界は真に救われる時が来たのダ。そのためには、別たれた『器』が必要なのダ、ソウ、其レガ星ノ意志。・・・呼ビカケル原初ノ囁キ・・・」

 蛇眼の瞳孔をギョロリと拡大させるミカエラ。

 既にそれは人ではない。

 「・・・うぅっ!!? ここまで取り込まれてしまったのか!!! アリーザ、お前は何という事を・・・!!! 自分が何をしているのか分かっているのか!!! 未来ある若者の明日を奪うなど・・・!!!」


 アリーザはさも、つまらなそうに、一別する。

 「言ったでしょう、犠牲はいとわないと。それにその娘が望んだ事なのよ、力の渇望を。私は少し、手伝っただけ・・・」

 ティアマトが咆哮を上げると、急速に周囲の力場干渉値が跳ね上がり、著しく上昇する。

 黒い澱みが揺らぎ、負のエネルギーが一点に集中していく。

 「皆を巻き込むつもりか!!? やらせはせんっ!!!」

 ファブニルが頭部を反らし、強烈なヘッドバットを喰らわせる。

 二体の顔部が直撃し、その勢いのまま体当たりを仕掛けるファブニル。

 織り重なる様に吹き飛ぶ二機の超竜。

 だが、それでもティアマトの力場集束は止まらない。

 巨大な腹口部が大きく顎を開き、汚泥のごとき濁流が流れ込み、暗黒球を形成する。

 「くっ!! すまん、ファブニル!!! 少しの間、辛抱してくれ!!!!」

 ヴェロニカは激しく振動するコックピットで、操縦桿を強く握る。


 ファブニルが豪腕を大きく振りかざし、魔竜の腹腔口内に烈震の一撃を叩き込んだ。

 








 迸る漆黒の閃光。



 








 二機の超竜を起点に闇の帳が暗幕を降ろす。













 砂漠を覆う衝撃波。























 「コントロール不能!! この場は危険です!! すぐに退避するべきです!!」
 
 ヘリは迫る衝撃の余波で操縦不能に陥っていた。

 「チッ!! 仕方ないわ、急速離脱!! この場から退避する!!」

 アリーザを乗せたヘリはその場から離れていった。





 
 その後を荒れ狂う砂嵐が巻き起こり、突き抜けていく。



 














 吹き荒ぶ砂塵が過ぎ去り、暴風が止む。



 暗澹とした暗闇が拭われ、姿を現す二匹の超竜。








 両腕と腹腔より下半身部が融解し、消え去ったティアマト。

 右肩腕部から上半外装、前肢部分がおおきく削り取られ、消失したファブニル。



 互いが嘶き、咆哮を上げる。

 双方、瞬時に失われた欠損箇所を復元する。

 だが、気力全開のティアマトに対し、ファブニルは復元途中で瓦解してしまう。

 断末魔の悲鳴とも嘆きともつかない呻きを上げ、ボロボロとひび割れ、形が崩れていく。

 そこにティアマトが激突し、殴る。

 砕かれ、千切れ飛ぶ機片、崩壊する機体、更に拳が打ち込まれ、破壊される。

 



 「・・・やめ、ろ・・・もう、や、めて、く、れ・・・」

 砂海に埋もれるユグドラシルからその有り様を見せつけられていたドミネアは涙を流し、弱々しく懇願する。








 ティアマトが大きく機体を仰け反らせ、ひと際巨大な雄叫びを放つ。








 太く禍々しい狂爪がファブニルの胸部を貫いた。

 

Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.122 )
日時: 2014/04/23 22:33
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: IFeSvdbW)


 魔竜の凶刃がファブニルのコックピットを抉り出そうと迫る。

 だが、ヴェロニカは動かない。

 いや、動くことさえできなかった。

 「・・・すまない、ファブニル。こんな形でお前を目覚めさせてしまって・・・」

 ヴェロニカは全身を血に染めていたのだった。

 操縦席は夥しいほどの赤い鮮血で満たされていた。

 既に限界なのだ。

 ドラグーンを起動させるだけでも無理があった。

 ましてや、戦闘など望むべくもなかった。

 それは、苦楽を共にした愛機、ファブニルも同じだった。

 この機体に宿るオリジナルは強すぎた、暴走し、ヴェロニカ自身の肉体をも蝕み、朽ちさせた。

 代償に多くの者を救った。

 しかし、救えぬ者もいた。

 故に想う、何のために得た力だったのか。

 アリーザの言葉が痛烈に胸に響く。

 見殺しにした。

 そうだ、その通りだ。

 助けられなかった。

 大切な友を。

 その手をすり抜けたのを掴めなかった。


 俯く口元から紅の雫が零れる。

 「・・・ロゼ・・・。お前は笑うだろうが、私は自分を許せそうにない・・・」

 霞む瞳は、とうになにも映していない。眼帯は落ち、爛れた肉が覆う傷痕の眼腔が、虚しく虚空を見つめる。

 「ああ・・・もう一度あの頃に・・・」



 鋭利な爪が通り過ぎた。


















 ファブニルの胸部から上半部が貫き薙ぎ払われた。

 霧散する機片、粉砕する機体。

 砂糖菓子のように木端微塵に砕け散った。

 




 それを視ていたドミネアはすべてが空白になった。

 なにも考えられなかった。

 考えたくなかった。

 ただ呆然と視ていた。















 それはヨルムガントの皆も目撃していた。

 なんとか援護しようとしたが、艦体が機能不全に陥ってしまっていた。

 それは、言い訳に過ぎないかもしれないだろう。

 恐怖でまったく動けなかった者が大半だった。

 だが、この結末はあまりにも・・・。
















 半身を細断されたドラグーンの残骸は巨大な音を立てて、崩れ落ちた。

 勝ち誇る様に、高々と咆哮を響かせる魔竜。







 遠くからヘリが接近し、ティアマトに向かって来る。

 「ご苦労様、ミカエラ。ちゃんと生かしてるわよね?折角の適合者を見す見す手放したく無いもの」

 アリーザが意味深な発言をすると、ティアマトは頷き、巨大な掌をゆっくりと開く。

 そこには小さな人影が血濡れで横たわっていた。

 「ふふふ、そう簡単に殺すわけないじゃない、ヴェロニカ。貴方には、もっとちゃんとした役割が有るのよ。・・・実験材料としてね・・・」






 



 瞬間。











 ティアマトの巨腕を断ち切る黒い彗星のドラグーン、ワイアーム。瞬時に赤銅のドラグーン、ダハーカが炎弾を放ち、青白のドラグーン、ザハークが追撃し、氷塊を撃ち込む。








 掌から放られたヴェロニカを受け止める白亜のドラグーン、ヴァリトラ。








 すぐさま奪還するべく魔竜が腕を再生させ、かざすと、濃紺のドラグーン、ショクインが長大な弓から連続して矢を放ち、薄朱のドラグーン、ペクヨンが幾重にも分割した根で殴打の連撃を繰り出す。








 魔竜が背部から無尽蔵の黒蛇の波を沸き立たせ、周囲の竜機たちに襲い掛からせるが、明黄のドラグーン、ヒュドラが現れ、ロケットとミサイルの弾幕を撃ち込み大爆発を発生させ、遮断する。








 逆巻く爆煙の中から、咆哮する魔竜が暗黒球を創り出し、放とうとすると上空から極大の赤い閃光を浴びせて蒸発させ、阻止する紅のドラグーン、ペンドラゴン。








 そして、魔竜の正面に神速で斬り込こんで両極剣を薙ぎ払い、その巨躯を弾き飛ばす蒼い流星のドラグーン、ワイバーンD.R。


 








 アリーザは驚きとともに感嘆する。

 「・・・これは・・・。・・・私も予想外ね・・・」











 そこには、それぞれ武器を構え、ティアマト・アルヴァΩと対峙する九体のドラグーンの姿があった。




Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.123 )
日時: 2014/04/24 01:56
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: P4ybYhOB)


 武器を構え、対峙する九体のドラグーン 。

 ティアマトは咆哮を上げ、身構える。


 「ミカエラ、もういいわ。目的は十分果たしたから。これ以上カードを切る必要はないわ。ファブニルの機体を回収して撤退しなさい」

 アリーザは臨戦態勢の猛る魔竜を諌め、なだめる。

 ティアマトは言うとおり、ファブニルの残骸を無造作に掴むと、周りの竜機を威嚇しながら、背中の黒蛇を巨翼に変え羽ばたかせる。

 「待つのじゃ、アリーザ。このままお前たちを帰すと思うか?」

 シャオがヴァリトラで前に進み出る。

 鮮血に塗れたヴェロニカがヨルムガントに運び込まれているのを横目で視て、アリーザに視線を移す。

 「・・・変わったのう、お主。・・・やはり許せぬか、儂らを。いや、世界のすべてを・・・」

 「・・・許す? 許すも許さないも、偽善ごっこは貴方たちが得意でしょ、メイメイ? ・・・もう茶番はたくさんなのよ・・・」

 冷たく言い放つアリーザ。

 そこに上空から巨大な船影が覆う。

 バハムートが飛翔し、巨大な砲門を向けている。

 「・・・茶番は今のお前がしていることだろう、アリーザ」

 ブリッジからミヅキが苦悶の顔をして話す。

 「・・・ミヅキ」

 アリーザがヘリから上空の戦艦を仰ぎ見る。

 「そうよ〜、かつての仲間同士が争うなんて、悲しすぎるわ〜」

 砂丘を乗り越え、シェンロンが砲門を並べている。

 エウロペアがブリッジで悲しそうにしている。

 「・・・アイシャ」

 シェンロンを見下ろすアリーザ。

 「・・・アリーザよ、儂らを許せとは言わん。だが、お主のしていることは取り返しがつかぬことじゃぞ? ・・・それは、本当にお主が望んでいることなのか? 本当に許せないのはロゼを助けられず失ってしまったお主自身ではないのか・・・?」

 シャオは静かに問う。




 「・・・帰艦するわ、ミカエラ」

 数瞬、間を置き、アリーザは言う。

 「待てっ!!帰すわけには・・・!!!」

 その時、遠方から超速で複数のドラグーンの機影が迫る。

 瞬時に、アリーザたちを守る様に立ちはだかるドラグーンたち。

 リンドブルム、ラハブ、ビヒモス、ケツァルカトル、ユルング。

 「・・・」

 無言で佇むリヴァイアサンのドラグーン。

 「力づく、と言うならどうぞ。相手するわ。ただし、艦体に相当の被害が出ると思うわ・・・」

 アリーザは眼を細め、冷たく言い放つ。




 「・・・行くがいい。この場は見逃してやろう」

 シャオはアリーザが本気の眼をしていることに気付き、促した。

 今このまま戦えば、パイロット、艦の人間とも、凄まじい死者が双方に出ていたろう。

 「・・・そう、ありがとう。・・・それとメイメイ、あなたのオリジナル『ガウロウ』必ず頂くわ。そして、黒いドラグーンの貴方、貴方の『アルクラ』も、ね・・・」

 「・・・取れるものならな」

 シャオは仁王立ちで答える。

 「・・・エキドナに関わる者に渡す訳にはいかない」

 シズクは静かに答える。

 アリーザを乗せたヘリはそのまま飛び立って行った。

 残りのドラグーンも後を追い、飛び去る。

 しかしティアマトだけが残り、ワイバーンと双見している。

 「・・・セツナ・アオイ。お前だけは必ず、この手で・・・」

 不気味に呟くと、ファブニルの残骸をぶら下げ飛翔して行った。

 「・・・ミカエラ」

 セツナはかつて対峙した少女のあまりの邪悪な気配に言葉が詰まった。 










 
 後には無尽の砂の海と後味の悪さだけが苦々しく残っていた。



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