複雑・ファジー小説

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竜装機甲ドラグーン
日時: 2015/01/18 02:14
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: Re8SsDCb)

 

 それは、突如として世界中に現れた。

 竜、龍、ドラゴン。

 お伽噺の怪物たち。

 『竜種』

 地上、地中、空中、海中のありとあらゆる場所に出現し、あらゆる対象を喰らい、蹂躙する凶暴な生命体。

 そして、地球上のほとんどの文明都市は彼らによって崩壊し、人類史上に類を見ない未曾有の危機が訪れたのだった。

 彼ら、竜種の前では既存の兵器は無力であり、軍や政府は完全に無力化されてしまった。

 人々に残された道は終焉の時をまつことのみだと思われた。

 そのとき、ある生化学企業が画期的な兵器を開発させる。

 竜種細胞を取り込んだ生体機動兵器。

 —————————『ドラグーン』。


 ドラグーンを乗りこなすためには、搭乗者自身の身体に竜種細胞を摂取する必要があった。

 その適合者たちはすべて十代の少女であり、彼女たちにしか扱う事が出来なかった。

 だがその力は絶大で、人類は滅亡の一歩手前で喰い止められた。

 人類は新たなる切り札を手に入れた。

 彼女たちの任務は竜種から人類を守ること。

 しかし、無尽蔵に出現する竜種に対して、戦いは決して優勢とはいえなかった。

 それでも大切な人を守るため、己の存在理由を知るため、さまざまな想いを胸に集結した『少女たち』の、終わりなき戦いは今日も始まる——————





皆様いかがお過ごしでしょうか、Frill(フリル)です。
新小説を始めようと思います。作者の妄想と何処にでも在るありきたりな設定ですが御付き合い下されば幸いです。更新は超スローなので御勘弁ください。コメントは御自由にどうぞ。但し、中傷、荒らし、宣伝広告などは受け付けておりません。返信はかなり遅れて仕舞いますので何卒御容赦下さい。
スピンオフ作品『竜装機甲ドラグーン テラバーストディザイア』公開中。
和風伝記小説『朱は天を染めて』もどうぞ。


目次

登場人物&竜機ドラグーン紹介
>>6 >>7 >>8 >>19 >>20 >>21 >>42 >>43 >>44 >>53 >>54 >>55 >>58 >>59 >>60 >>81 >>89 >>95 >>100 >>101 >>102 >>107 >>113 >>124 >>125  




竜種実質調査報告書
>>126 >>127




本編

Act.1 竜を駆る、少女たち
>>1 >>2 >>3 >>4 >>5
Act.2 君の蒼 空の青
>>9 >>10 >>11 >>12 >>13 >>14 >>15 >>16
Act.3 紅の誇り 熱砂の竜
>>17 >>18 >>22 >>23 >>24 >>25 >>26 >>27
Act.4 黄金の絆 ふたつの魂
>>28 >>29 >>30 >>31 >>32 >>33 >>34 >>35
Act.5 咆哮、蒼き飛龍 激動の果てに
>>36 >>37 >>38 >>39 >>40 >>41 >>45 >>46
Act.6 邂逅、再開 想い重ねて  
>>47 >>48 >>49 >>50 >>51 >>52 >>56 >>57
Act.7 竜よ知れ 目覚めよ、真なる力
>>61 >>62 >>63 >>64 >>65 >>66 >>67 >>68 >>69 >>70 >>71
Act.8 黄昏、追憶の彼方
>>72 >>73 >>74 >>75 >>76 >>77 >>78 >>79 >>80 >>82
Act.9 哀しみの遺産 父の形見
>>83 >>84 >>85 >>86 >>87 >>88 >>90 >>91 >>92 >>93 >>94
Act.10 堕ちた龍蛇 這いずる、闇の底
>>96 >>97 >>98 >>99 >>103 >>104 >>105 >>106
Act.11 想いはせる少女 見つめるその先には
>>108 >>109 >>110 >>111 >>112
Act.12 死闘、誰がために 大砂海に潰える涙
>>114 >>115 >>116 >>117 >>118 >>119 >>120 >>121 >>122 >>123
Act.13 星が呼ぶ 遥か遠き、竜の楽園
>>128 >>129 >>130 >>131 >>132 >>133 >>134 >>135 >>136 >>137
Act.14 すべての始まりにして終わりなるもの
>>138 >>139 >>140 >>141 >>142 >>143 >>144 >>145 >>146 >>147
Act.15 すべての始まりにして終わりなるもの(後編)
>>148 >>149 >>150 >>151 >>152 >>153 >>154 >>155 >>156 >>157
Act.16 流星が降る、蒼き星の輝きは永久に
>>158 >>159 >>160 >>161 >>162 >>163
Act.17 そして少女たちは竜を狩る
>>164 >>165

Xct.00 機械仕掛けの竜は少女の夢を視るのか
>>166








 『竜装機甲ドラグーン』スカーレッド・クリムゾン

 >>167 >>168     

Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.154 )
日時: 2014/05/12 00:36
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: UXIe.98c)


 虚龍に取り込まれたドラグーンを見つけたセツナは両極剣をかざし、すぐさま斬り込んだ。

 「シャオ先生!!!」

 蒼刃がヴァリトラに癒着する肉腫を刻むが、分厚い肉壁がたちまち再生してしまい、切り離せない。

 それどころか密着するワイバーンを無数の触手が襲い機体に絡みついてくる始末だ。

 「くっ!!」
 
 何度も切り払うが触手は数を増し、武器さえも取り押さえられ、全身を肉の中へ取り込まもうと蠢く。

 肉壁からミカエラの人型をしたのっぺらとした塊が浮き出る。

 『セツナ・・・貴様モ取り込んデ、ワタシたちの一部にしてやろうカ・・・ククク』

 ワイバーンを覗き込むように伸びてくる不気味な肉塊。

 「ミカエラ・・・!!」
 
 機体が徐々に埋没していってしまう。

 このまま飲み込まれてしまうのか・・・。



















 下方で戦うドミネアたち。

 倒しても倒しても後から湧いてくる竜種、キリが無い状況に陥ってしまっていた。ジリ貧が続けば、こちらがスタミナ切れを起こすのは明白だ。


 その時、マリアが上空を視る。

 「感じる・・・今、あの巨大龍が少し弱まっている・・・そのおかげで、星の意志が強く表面に出てきた・・・今なら私の代行者としてのパワーを全力で行使できる」

 イリアとしての意識を全面に表出し、ハイドラが並み居る竜種に向かって両手を大きくかざし構えると、機体全体から波動片が滲み出る。

 「お父さん、今こそハイドラの真の力を見せるよ」

 金色の波動が包み込む。

 「キルリアン・パルサーゲノムエフェクト!!!!!」

 瞬時に黄金の波光が周囲に発せられ、その波がさらに広がり、ドラグーンたちを、竜種の軍勢を、艦隊を、そして上空の虚龍をも広大に覆う。

 空間に煌めく燐光の幻幕。

 キラキラと虚空を舞う。

 「綺麗・・・」
 
 ルウミンが手をかざす。

 「これは一体・・・」

 フェンが見上げる。

 「ん!? おい、竜種の様子が変だぞ!!」

 ドミネアが気付き、皆に呼びかける。

 黒く埋め尽くす竜種、原竜種。それらが一様に動きが鈍り、苦しみだす様は、あきらかに弱体化している。異変はそれだけではない、ドラグーンとそのパイロットたちにも変化が訪れた。

 「何て、暖かい光り・・・身体から力が湧いてくきますわ・・・」

 エリーゼルが身体を抱く。

 「これは・・・私達の中の竜種抗体細胞が活性化してる・・・?」

 ペルーシカがほのかに輝く身体に触れる。

 「一緒にドラグーンも強くなってる」

 セラフィナが頷く。


 「皆さん! 今なら竜種の力が極限まで弱体化しています!! そして、皆さんの細胞が活性化しドラグーンも強化されています!!」

 ハイドラのコックピットでイリアが光のオーラを放ちながら皆に告げた。

 みんなが頷き合う。

 これなら勝てると、確信した。



 















 光りのヴェールは上空にも届き、波動の波が虚龍を包み込んだ。

 『がっ・・・! ・・・こ、れ、は・・・! 星の・・・意志、の・・・!!』

 悶えだす龍の巨体、ミカエラの形をした肉塊も苦しみだすと触手と肉壁に囚われたワイバーンの拘束力が弱まり出す。

 「この光は・・・! 今ならイケる! ハァアアッッ!!」

 振るう蒼刃が絡みつく触手を断ち斬り、ワイバーンが肉の中から抜け出て、捕らわれたヴァリトラを包む肉腫をも大きく切り落とした。

 脇に抱え離脱し、飛ぶワイバーン。空中で滞空しながら自身の操縦席の扉を開け、身を乗り出し、ヴァリトラに飛び乗るセツナ。

 ヴァリトラは手足が大きく欠損していて外装はボロボロだが、胸部装甲が無事なのを確かめ直ぐにハッチを開口する。

 「シャオ先生!」

 コックピットの中は血だらけで力無くシートにもたれるシャオの姿があった。

 セツナの呼び掛けに薄っすらと目を開けるシャオ。

 「・・・お・・・お・・・なん、じゃ・・・光り、が・・・気力が、流れ込んで、きおる・・・これは・・・」

 燐光が揺らめいて、シャオの傷付いた肉体をほんのりと包むと急速に輝き出し、その身体が小さくなっていく。


 光りの輝きが緩やかになると、シャオは以前の幼女体に戻っていた。

 「これは・・・! 失われた気が満ち溢れておるぞ!!」

 ぶかぶかのスーツの袖を振るシャオ。傷も完治していた。

 「先生! 御無事ですか!」

 セツナが手を貸し助け起こす。

 「セツナ! お主が助けてくれたのか、しかしこの不思議な光は・・・」

 「マリアたちが力を貸してくれたようで、竜種細胞が強化されています」

 「そうか、僅かだがヴァリトラも機能を回復したぞ。これならブースターで飛行できる」

 コンソールを操作するシャオ。するとブースターが噴射され、機体が浮上する。


 「先生、今ならこの光りで巨大竜も弱体化しています・・・だから、倒せます・・・倒して見せます・・・」

 セツナは力強い視線で眼下の虚龍を視て、シャオを見る。

 「わたしにやらせてください。いえ、これはわたしにしか出来ないと感じるんです。ワイバーンとわたしにしか・・・」

 シャオはセツナの心に燈る固い意志の灯火を感じ取り、頷く。

 「・・・そうか、これも因果か・・・だが、セツナ・・・約束じゃぞ、必ず生きて帰ってこい。これが儂が教えてやれる最後の修行じゃ」


 目の前の少女の瞳を真っ直ぐに見据えるシャオ。


 「はい、その試練、絶対に乗り越えて見せます」

 そう言ってセツナは微笑み、ワイバーンに乗り込んだ。



 そして滞空するヴァリトラを残し、眼下の虚龍に蒼い軌跡を描いて向かって行った。

Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.155 )
日時: 2014/05/13 17:32
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: OJjBESOk)


 のたうつ虚龍、その躰から取り込まれたリヴァイアサンのドラグーンたちが吐き出されるようにまろび出て、雲界の下に落ち、消える。

 「飛空蒼竜断!!!」

 そこにワイバーンD.Rが翔け、首のひとつを両断する。

 「こっちに来い! ミカエラ! 相手をしてやる!!」

 セツナの呼び掛けに残りの頭蓋が一斉に向き直る。

 『セツナ・アオイ・・・貴様ヲ・・・貴様ダケは・・・この手デ・・・』

 高く飛翔するワイバーン。

 高く高く。

 それを掴もうと多数の首を伸ばし、追い縋る虚龍。

 成層圏。

 いつしか大気をも超え、宇宙の暗がりへと突き出る蒼竜。

 あまねく星々に懐かれる母なる海。

 虚龍がそれぞれの首から閃光を撃つが、ことごとく躱し、逸らし、翻弄し、蒼い惑星を背に翼を返し、両極剣をかざす。
 
 巨大な口を揃える虚龍が膨大な闇の塊を創り出し、解き放つ。

 「・・・この一撃にすべてを・・・」

 セツナは眼を閉じ、己が持てる力のすべてをワイバーンに託す。

 そして貫く様に構え、超々速で暗黒流に突入する。

 「超・飛龍剣・斬光無蒼!!!!!!!」

 機体を蒼い波動が包む飛龍。

















 空から降ってきた複数のドラグーンを受け止めていたドミネアたち。

 巨大な竜が蒼い竜を追い、宇宙そらへと昇るのを視た。




















 流れる銀河を背に、蒼光が暗黒流を貫く。

 そのまま多頭を撃ち抜き、中心のコアに突入するが、繰り出す多段斬撃に抵抗するように破壊された外殻が何度も再生されていく。

 だが、徐々に僅かな歪みが生じるとセツナは一気に力を解放した。

 「はぁあああああああああああっっっっ!!!!!!!!」

 亀裂が走り、再生力を上回ると砕ける外殻、刹那、蒼い波動が貫き奥へと突き進むワイバーン。

 だが、同時に両極剣の片刃が折れ飛んだ。

 機体が貫き出たその先は。

 広大な空洞。

 その中心。

 繋ぎ止められたような黒い卵殻。

 すべてを拒絶するように堅く閉ざされている。

 ワイバーンは片刃の蒼剣を振り上げ、斬り下ろした。

 斬撃の剣閃が走る殻。

 響く破砕音。

 砕けたのは片刃の蒼剣だった。

 漆黒の卵殻の表面は無傷。

 まるで何もかも拒み、閉じこもる心の壁。何者をも拒む堅牢な外壁に損傷を与えることすら無理なのか。

 「・・・ミカエラ。本当のあなたはどこなの? 正直わたしはあなたのことをよく知らない。どうして、わたしに拘るのか・・・」

 セツナは折れた蒼剣を投げ捨て語る。

 「あなたは以前のわたしに似ている・・・力さえあれば、それでいいと、すべてが上手くいくと思っていたわたしと・・・」

 ワイバーンの手をかかげる。

 「わたしたちはお互いに知らないことが多すぎる・・・だから・・・」

 拳を握り、構える。

 「まずは一緒に話をしよう」

 そして全力で拳を卵殻に叩き付けた。


 


















 海上で大破したアリーザのドラグーン、ジズが漂う。

 「うご、け・・・動け・・・ま、だ・・・終われ、な、い・・・」

 黒い血泡を吐きながら朦朧と呟く。

 そこに浮上するリヴァイアサン。

 汎用ドラグーンが数機が現れ、機体ごと回収されていった。

Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.156 )
日時: 2014/05/15 16:44
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: hRfhS.m/)

 肉の空間に包まれた虚龍のコア内部。


 打ち込まれた蒼竜の拳撃。

 空洞内に反響する鈍い打撃音。

 振動する漆黒の外殻、しかし、頑強に覆う甲殻は一切揺るがない。

 だが、外殻は無傷では無かったのだ。

 殻の甲殻に僅かな、ほんの僅かな、歪みが、傷を生じさせていた。

 蒼剣の剣痕。

 その小さな傷跡から、拳が与えた衝撃の波動が空洞内に木霊した固有振動波と一致し、内部空間に激しい共鳴を引き起こした。

 そしてそれは、殻の内側のほんの小さな傷一点に振動エネルギーを集中させた。


 ————その結果。


 幾重にも亀裂が、疾り抜ける。


 次の瞬間、漆黒の卵殻は粉々に砕け散った。













 








 少女がひとり、藍色の髪の少女が膝を抱くように座り込んでた。

 ワイバーンから降りたセツナがその少女に歩み寄る。


 「・・・こんな所まで来たのか・・・セツナ・・・本当に規格外だな・・・わたしとは違う・・・」

 顔を上げず、囁くミカエラ。


 「ミカエラ。聞かせてほしい、わたしのことをどう思っているのか」

 セツナはミカエラの前に膝を降ろし、問う。


 「憎い————いや、憎んでいた、お前のことを。だが・・・もう、それもどうでもいい・・・」

 答えるミカエラ。

 「憎しみ・・・それも大事なひとつの感情。決して間違いだなんて、わたしは思わない。今のわたしを形造ったから」

 肯定するセツナ。


 「羨ましかった————お前が、わたしを超える才能を見せた時、わたしも、ああなりたいと・・・お前のようになりたいと・・・」

 己の内を吐露するミカエラ。


 「それは素直に嬉しい・・・でも、あなたはわたしにはなれない」

 否定するセツナ。

 顔を上げるミカエラ。光の無い暗い感情が宿っている。


 「あなたはあなた。わたしはわたし。あなたは何者でもない、紛れもないあなた自身。わたしがあなたになれないように、あなたはわたしにはなれない。それが本当の自分だから」

 セツナは静かに話す。


 「わたしは・・・わたし自身・・・何者でもない本当の自分・・・」
 
 ミカエラは呟く。


 「探そう、本当の自分を。わたしも探してる、自分を」

 セツナはうずくまるミカエラの手を取る。


 「それにひとりじゃない。みんながいる、助けてくれる仲間が。あなたにもいるはず」

 ミカエラは握られた手を見る。

 伝わる温もり。 暖かい感情。 自身の中に浮かぶ想い。

 過去、傍に居た仲間たち。

 現在いま、共にいてくれた仲間。

 スフィーダ、リヴァネ。


 力が欲しかった。

 何ものをも寄せ付けない力が。

 拒絶していた。

 力にのめり込むあまり、否定していたのだ。

 自分自身さえも。

 拒絶していたのは、世界では無い。

 己だったのだ。


 ミカエラはいつしか己の心にかけがえのないものに満たされていることに気付いた。

 そこには、もう彼女が閉じこもる堅い殻はないのだ。

 セツナの手を握り返した、その時。

 虚龍、そしてその内部が激しく振動し始めた。

 













 虚龍は己の半制御下に置いた少女の意識が剥離したことで、自身の膨大なエネルギーのコントール失ってしまったのだ。

Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.157 )
日時: 2014/05/16 19:56
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: /gz88uq5)

 星を臨む蒼空の成層。

 そびえる虚龍は大きく巨翼を広げ、咆哮する。

 『それ』は生き延びたかった。

 『それ』は還りたかった。

 銀河の彼方へ。

 遠き宇宙の果てへ。

 いつの日か、己を蘇えらせる知的生命体がこの星に誕生することを予期し、分体を分け放った。

 下等な人類を蹂躙し、利用するための踏み台として。

 共存するつもりなどない、星ごと喰らう。

 その筈だったのだが————。

















 歪にボコボコと膨張する虚龍の内部。

 大量の肉の触手が無茶苦茶に動き出し、伸びてくる。

 「!! このままここにいるのは危険だ! ミカエラ、さあ一緒に行こう!!」

 セツナはミカエラの手を引き立ち上がらせ、ワイバーンに乗り込もうとするが肉腫の塊が機体を飲み込み引き離す。

 「くっ!?」

 うねる肉壁が迫る、後ずさりするセツナたち。脱出手段が失われてしまった。

 「・・・何も考えず、こんな場所まで来るからだ・・・」

 ミカエラは片手を肉腫に突き刺すと、強く念じる。

 「来い! ティアマト!!」

 瞬間、肉の壁をぶち破り、藍色のドラグーンが飛び込んできた。

 そして、蠢く触手を機体から複数展開した竜蛇のアームが咬み断ち、ワイバーンを危機一髪救い出す。

 「さあ、早く乗れ!」

 ミカエラに促されようにセツナは直ぐにコックピットに乗り込みワイバーンを起動させる。

 無数の悍ましい触手がわらわらと押し寄せるが、ティアマトが複頭の竜蛇から黒い光線を放ち、斬り伏せ、道を作り上げる。

 「ミカエラ! あなたも早くドラグーンに!!」

 セツナが振り返る。

 だが、ミカエラの身体は半身肉腫に覆われ無惨な姿を晒していた。

 「・・・往け、セツナ。お前は、こんな所で終わる器じゃない・・・」

 驚愕するセツナ。

 「ミカエラ!?」

 「まだ、わたしの制御圏内だな・・・やれっ!!! ティアマト!!!! 喰い過ぎた間抜けな化け物のドテッ腹に風穴ぶちあけてやれぇええええええっっっ!!!!!」

 ティアマトの蛇頭が一斉に口を開け、巨大な漆黒の光球を形成、解き放った。




 

 ————閃光。

 






 虚龍の異様に膨らんだ中心核が張り裂け、暗黒の光りが漏れ出すと闇色の柱が貫いた。


 絶叫を轟かせる虚龍。









 




 「くぅうううっ!! ミカエラ!!!」

 閃光の余波に耐えながらセツナは呼ぶ。

 コア内部は巨大な大穴が穿たれ、宇宙の星々を覗かせた。

 「往け! 往けよ!! 穴が塞がる前に!!! さっさと脱出しろぉおおっ!!!!」

 ミカエラが肉腫に蝕まれながら叫び、訴える。

 「駄目だ! そんなのは駄目だ!! 助ける!!! 絶対に!!!!だから、一緒に帰ろう!!!!!」

 セツナは逃げずにミカエラの元に向かおうとワイバーンを構える。

 「チィィイイッ! ティアマト!!」

 突然ティアマトがワイバーンに体当たりをし、その四肢をアームで掴み、外へと連れ出そうとする。

 「ぐぅうううっ!? 駄目だ! 諦めるな!! ミカエラ!!!」

 押し返すワイバーン。
 
 穴は蠢く肉塊で徐々に塞がってしまう。

 「・・・分からず屋が・・・くそっ・・・力が、もう・・・」

 ミカエラの身体がぐったりと傾きだす。

 ここまでなのか・・・。

 こんな結末で終えてしまうのか・・・。

 薄れゆく意識の中、こちらに懸命に手を差し伸べる少女。

 もし・・・もしも・・・この少女ともっと早く出会えていたら、自分は今と異なる道を歩んでいたかもしれない。





 『友』として。

 

 『仲間』として。 



 共に傍らを、共に肩を並べ、笑いあい、語り合い・・・









 生きたかもしれない・・・。



 

Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.158 )
日時: 2014/05/17 22:36
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: fbqYC.qT)

 Act.16 流星が降る、蒼き星の輝きは永久に


 薄れいく意識。

 ミカエラは闇の底に己が沈むのを感じた。

 力を得た代償として、喰われてしまうのは仕方がない。

 自業自得だ。
 
 だが、この魂までは渡さない。

 決して色褪せない記憶が、想い出が輝きを失わずに彼女の胸の奥に残っている。

 忘れてなるものか、と。

 傀儡にに成り果てても、奪わせないと。

 彼女はそう、心に期した。




 その刹那、原初たる竜に同化されつつある中、彼女の心に一際大きく響き渡る声が届いた。



 『諦めるなっ!!! ミカエラッッッ!!!!』



 意識の奥から揺さぶり起こす力強い想いが、自身を闇の海から引き上げる者の姿が視えた。

 おもわず伸ばした掌をしっかりと掴み取る暖かい手。

 その先に蒼いパイロットスーツを身に付けた黒髪の少女が————










 「ミカエラッッッ!!!!」




 
  

 大きく眼を見開き、意識が覚醒したミカエラ。

 既に肉体は顔を、そして僅かに伸ばした左腕を覗き肉腫に覆われていた。

 しかし、その腕をしっかりとセツナが握り引き寄せる。

 「ミカエラ! 諦めるな!! 一緒に帰ろう!!!」

 いや、セツナだけでは無かった。

 穴が開いた肉腫の壁を閉じさせないようにユグドラシルが四肢で押さえている。

 外宙で暴れる虚龍をエリーゼル、マリア、ルウミン、フェン、汎用ドラグーンに乗ったシャオ、そして、シズク、リーファ、リーシェのドラグーンたちが相手取り抑え込んでいた。

 内部核では、リンドブルム、ラハブ、ビヒモスが触手群と戦い牽制し、セツナと共にミカエラの腕を掴むスフィーダとリヴァネがいた。


 「・・・なんで・・・」


 驚愕するミカエラ。

 「Oh! まったく世話が焼けるチームメイトネ!! 心配かけないでクダサイ!!!」

 スフィーダが憤慨しながらセツナと共にミカエラの腕を引っ張る。


 「もう十分気は済んだろう? さっさとこんな気分悪いところから逃げるよ!」
 
 リヴァネが蠢き絡め取ろうとする触手を銃で粉砕しながら言う。

 



 「・・・わたしたちはひとりじゃない。わたしたちはみんな、繋がっている。星の命と共に還り、そしてまた生まれる。限られた命の中で、あなたにも精一杯生きて欲しい。・・・さあ、ミカエラ。行こう」

 セツナは優しい笑顔でミカエラに語りかける。





 ミカエラは思った。


 嗚呼、この少女にはやはり敵わない。


 でも、悪い気はしない。


 それも良い。


 とても清々しく、とても満ち足りた気持ちだった。

 
 自然と肉腫の檻から、その躰が解き放たれる。


 心の枷と共に。


 縛る者は無い。


 真の解放。




 少女は本当の意味で自由の翼をその背に宿した。


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