複雑・ファジー小説

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竜装機甲ドラグーン
日時: 2015/01/18 02:14
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: Re8SsDCb)

 

 それは、突如として世界中に現れた。

 竜、龍、ドラゴン。

 お伽噺の怪物たち。

 『竜種』

 地上、地中、空中、海中のありとあらゆる場所に出現し、あらゆる対象を喰らい、蹂躙する凶暴な生命体。

 そして、地球上のほとんどの文明都市は彼らによって崩壊し、人類史上に類を見ない未曾有の危機が訪れたのだった。

 彼ら、竜種の前では既存の兵器は無力であり、軍や政府は完全に無力化されてしまった。

 人々に残された道は終焉の時をまつことのみだと思われた。

 そのとき、ある生化学企業が画期的な兵器を開発させる。

 竜種細胞を取り込んだ生体機動兵器。

 —————————『ドラグーン』。


 ドラグーンを乗りこなすためには、搭乗者自身の身体に竜種細胞を摂取する必要があった。

 その適合者たちはすべて十代の少女であり、彼女たちにしか扱う事が出来なかった。

 だがその力は絶大で、人類は滅亡の一歩手前で喰い止められた。

 人類は新たなる切り札を手に入れた。

 彼女たちの任務は竜種から人類を守ること。

 しかし、無尽蔵に出現する竜種に対して、戦いは決して優勢とはいえなかった。

 それでも大切な人を守るため、己の存在理由を知るため、さまざまな想いを胸に集結した『少女たち』の、終わりなき戦いは今日も始まる——————





皆様いかがお過ごしでしょうか、Frill(フリル)です。
新小説を始めようと思います。作者の妄想と何処にでも在るありきたりな設定ですが御付き合い下されば幸いです。更新は超スローなので御勘弁ください。コメントは御自由にどうぞ。但し、中傷、荒らし、宣伝広告などは受け付けておりません。返信はかなり遅れて仕舞いますので何卒御容赦下さい。
スピンオフ作品『竜装機甲ドラグーン テラバーストディザイア』公開中。
和風伝記小説『朱は天を染めて』もどうぞ。


目次

登場人物&竜機ドラグーン紹介
>>6 >>7 >>8 >>19 >>20 >>21 >>42 >>43 >>44 >>53 >>54 >>55 >>58 >>59 >>60 >>81 >>89 >>95 >>100 >>101 >>102 >>107 >>113 >>124 >>125  




竜種実質調査報告書
>>126 >>127




本編

Act.1 竜を駆る、少女たち
>>1 >>2 >>3 >>4 >>5
Act.2 君の蒼 空の青
>>9 >>10 >>11 >>12 >>13 >>14 >>15 >>16
Act.3 紅の誇り 熱砂の竜
>>17 >>18 >>22 >>23 >>24 >>25 >>26 >>27
Act.4 黄金の絆 ふたつの魂
>>28 >>29 >>30 >>31 >>32 >>33 >>34 >>35
Act.5 咆哮、蒼き飛龍 激動の果てに
>>36 >>37 >>38 >>39 >>40 >>41 >>45 >>46
Act.6 邂逅、再開 想い重ねて  
>>47 >>48 >>49 >>50 >>51 >>52 >>56 >>57
Act.7 竜よ知れ 目覚めよ、真なる力
>>61 >>62 >>63 >>64 >>65 >>66 >>67 >>68 >>69 >>70 >>71
Act.8 黄昏、追憶の彼方
>>72 >>73 >>74 >>75 >>76 >>77 >>78 >>79 >>80 >>82
Act.9 哀しみの遺産 父の形見
>>83 >>84 >>85 >>86 >>87 >>88 >>90 >>91 >>92 >>93 >>94
Act.10 堕ちた龍蛇 這いずる、闇の底
>>96 >>97 >>98 >>99 >>103 >>104 >>105 >>106
Act.11 想いはせる少女 見つめるその先には
>>108 >>109 >>110 >>111 >>112
Act.12 死闘、誰がために 大砂海に潰える涙
>>114 >>115 >>116 >>117 >>118 >>119 >>120 >>121 >>122 >>123
Act.13 星が呼ぶ 遥か遠き、竜の楽園
>>128 >>129 >>130 >>131 >>132 >>133 >>134 >>135 >>136 >>137
Act.14 すべての始まりにして終わりなるもの
>>138 >>139 >>140 >>141 >>142 >>143 >>144 >>145 >>146 >>147
Act.15 すべての始まりにして終わりなるもの(後編)
>>148 >>149 >>150 >>151 >>152 >>153 >>154 >>155 >>156 >>157
Act.16 流星が降る、蒼き星の輝きは永久に
>>158 >>159 >>160 >>161 >>162 >>163
Act.17 そして少女たちは竜を狩る
>>164 >>165

Xct.00 機械仕掛けの竜は少女の夢を視るのか
>>166








 『竜装機甲ドラグーン』スカーレッド・クリムゾン

 >>167 >>168     

Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.129 )
日時: 2014/04/25 18:50
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: TV9sr51/)

 日が落ち窪み、夜の闇に紛れる砂の海。


 延々と白薄さのみを映し取る月明かりだけが照らす砂丘の一角、漆黒のドラグーン、ワイアームのコックピットに乗り込み、起動させる黒衣の少女シズク。

 その後ろでリーシェ、リーファもそれぞれダハーカとザハークを稼働させる。


 「・・・あれは・・・」


 シズクがハッチを閉めようとした時、月光が染める砂の丘から、蒼いパイロットスーツの少女がこちらを見ていた。


 「・・・」



 互いに無言。

 シズクはバイザーを外し、玲瓏と月の光りを帯びる蒼衣の少女セツナを見やる。


 セツナも滑らかに輝きを浴びる漆黒のドラグーンに搭乗する黒衣の少女を見つめる。


 それだけで、ふたりの間には大切な、言語では言い表されない何かが交わされた。




 言葉は必要ない。



 今はまだその時ではないから。


 すべてが終わった時、それは成されるだろう。


 だから・・・。






 バイザーを装着し、ワイアームのコックピットハッチを閉ざすシズク。

 そして、ゆっくりと砂塵を波立たせ、機体を上昇させる。

 背後の二機のドラグーンも、それに合わせて、次々と飛び立つ。


 漆黒の竜機は大きく左右に両翼を広げ、最後に、仰ぎ見る少女を一別し、夜闇の彼方へと飛翔して行った。






 静寂を残し、夜の帳へと去りゆく機影を眺めていたセツナは、踵を返し砂丘を降り、その場を後にする。



 その先にエリーゼルとマリアが待っている。


 「・・・よろしいのですか? ミス・セツナ。せっかく逢えたのに何も話さなくて・・・。あの方が貴女の・・・」

 エリーゼルが何か言いたそうに話す。

 「言葉が無くても通じ合うことはできるよ、家族ってそういうものだと思うな・・・」

 マリアが胸に手を当てる。


 「・・・わたしは大丈夫。離れていても伝わってくる気がするから、あの人の気持ちが・・・」


 セツナは砂地に定置するワイバーンを見上げる。



 本当は今すぐにでも追いかけたい。
 
 だけど後ろは振り返らない。

 己のやるべき事があるから。







 
 篝火のように浮かぶ朧月が荒涼とした大砂海をどこまでも映えさせる。






 その明りに照らし出されるたる竜騎士がいつまでも蒼く輝きを放っていた。

   

Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.130 )
日時: 2014/04/25 20:59
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: TV9sr51/)


 忽然と倒れ伏すシャオ。

 「ぐ、うぅううっ・・・!!!」

 胸を押さえ、苦しみ出す。

 「先生!!?」

 「メイちゃん!!?」

 駆け寄るミヅキとエウロペア。

 「・・・シャオ、先生・・・? 一体、何、が・・・」

 目覚めたヴェロニカが横たわるメディカルマシンから混乱する現場を横目で窺う。


 「う、ぐぁあああああああああああっっっっ!!!!」

 一段と苦しむシャオ。
 
 突然すぎる事態の連続でパニックになる、その場の者たち。


 悶え、うずくまるその幼い身体が急激に大きく、急速に成長していく。


 「・・・えっ、これは・・・!?」

 「・・・そんな!? メイちゃんが・・・!!?」

 その場の全員が再び信じられない現象に驚愕、注目する。

 
 











 そこには、年の頃、二十歳前後の長く伸びた白桃色の髪を蓄えた美女が収まりきれないパイロットスーツから豊満な双丘をまろび出し、括れた曲線を讃える肉体を晒していた。



 









 「・・・ふうっ、やれやれ。儂が何十年も洗練し、費やし溜めた『仙気』がほとんどパアになってしまいおったわ・・・」


 艶やかな色香のある美声で、小さくなった?スーツを脱ぎ捨て、惜しげもなく芳醇な裸身をお披露目するシャオ。





 一同、目が点になっていた。






 そして響く叫声。

 



 「「「えええぇぇぇえええぇええっっっっっ!!!!???」」」


 























 「・・・そうですか、それで私に先生の御力を・・・。なんとお礼を申せばいいのか、先生には昔からお世話になってばかりで・・・」

 血色も良くなり、肉体的外傷もほとんど癒されたヴェロニカはベッドに移し替えられ点滴を受けていた。

 「うむ、儂も実践するのは初めてじゃったからのう。うまくいって良かったのじゃ」

 白衣を一枚羽織り、豊満なボディを申し訳程度に隠す美女、シャオが腕組みし言う。

 その隣で複雑な表情のミヅキ。
 
 「・・・とにかく先輩が助かって良かったです・・・。私からもお礼を・・・、有り難う御座います、シャオ先生」

 さらにその隣で頭を抱えるエウロペア。

 「・・・メイちゃんが、メイちゃんが大人に、バインバインに・・・。あの小さく愛らしい姿は何処へ・・・」

 そこに、慌ただしく部屋に入る集団。

 ドミネア、ペルーシカ、セラフィナ。

 「ヴェロニカ艦長!!! 容態が急変・・・!!!」

 「馬鹿者、ここは病室、それに私は怪我人だぞ? ・・・一応な」

 開口一番飛び込んできたドミネアにヴェロニカは叱責し、優しく微笑む。

 「・・・お前たちが無事なのが、何よりも私は嬉しいぞ・・・、ドミネア、ペルーシカ、セラフィナ・・・」

 「・・・か、艦長・・・」

 「・・・御無事で何よりです・・・」

 「・・・凄く嬉しい・・・」

 涙ぐむドミネアたち、暖かな眼差しのヴェロニカ。

 それを微笑ましく見守るシャオたち。





 つかの間の邂逅。






 だが、それは、ほんの一時の平穏に過ぎない。








 闇の魔糸はすでに、獲物を絡め取る様に、深淵の領域の奥深くまで張り巡らされているのだから・・・。

Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.131 )
日時: 2014/04/27 14:10
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: rD6rLP90)


 南太平洋火山諸島。

 そこは以前セツナたちが戦った場所でもある。

 その巨島が大きく揺れ動き、海原を割り、波しぶきを散らして浮上する。

 諸島は巨大な地繋ぎの、ひとつの島となって全貌を現した。


 噴煙を立ち昇らせる一際目を引く火山の一角、その内部。

 マグマが噴き上げ、灼熱の熱気が満ちる空洞が広がる。

 がらんどうな空間は、どこか神秘的な雰囲気を醸し出しながら悠久の時を感じさせる。

 
 その中心部、溶焔の間欠泉がボコボコと煮立ち、すべてを溶かしてしまいそうな黄泉の世界を幻想させる場所にそれは在った。




 
 繭。




 静かに目覚めの刻を心待つ胡蝶の夢。




 魔卵。



 世界を喰らう日を渇望する龍蛇の堕とし児。






 

 「・・・揃ったオリジナルは、十一体・・・。『アスディーグ』『キュノプロソビ』『サファト』『ロタン』『シルシュ』『ズメイ』『スヴァラ』『スキタリス』『エンディアタ』『エピロテス』『イアキュルス』・・・。あとの二体、シャオ・メイメイのヴァリトラが持つ『ガウロウ』、シズク・アオイのワイアームに宿る『アルクラ』が揃えば、誕生する・・・」


 アリーザは熱風が吹き荒れる火山洞窟内部の大きく開けた空間に鎮座する巨大な肉塊を鈍鉄色のドラグーン、ジズのコックピットから見つめていた。

 繭とも卵とも言い難い醜惨極まる肉の巨塊に包まるティアマト・アルヴァΩ。

 ビクッビクッと血管を浮立たせ脈打ち、マグマの激高温の排熱を物ともせず、揺り籠のように羊膜に抱かれている。



 母の御胎みはからで眠る暗黒の胎児。


 幽幻の海にその躰を浸かる混沌の堕竜。




 「・・・仮に揃わなくても、問題ないわ。十分、『世界の意志』を書き換えられる」


 アリーザはそこで、ふと、考えた。

 気になる者がいた。

 あの、蒼いドラグーン。

 そして、そのパイロットの少女。

 確か、シズク・アオイの近親者。

 名はセツナ。

 かつて頓挫したエキドナが関わったあのプロジェクト。

 超越なるものを創造する計画。

 それはシズクの暴走と脱走によって失敗したが、研究途中の過程で誕生した蒼躯の竜機。

 ワイバーン、だったか・・・。

 あれには、それ程の能力は無かった筈だが・・・。


 あきらかに突出していた力だった。

 オリジナルは組み込まれていない。

 なのに、ミカエラのティアマトと渡り合った。

 

 何者なのか。



 「・・・まあ、いいわ。どちらにしても、もうすぐ世界は生まれ変わるのだから・・・」



 もう後戻りはできない。


 とうに覚悟は出来ている。







 すべてが色褪せたあの日から。



Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.132 )
日時: 2014/04/28 18:21
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: 2rVK2fl9)

 砂漠での激戦から数日後、世界規模の壮絶な地震が各地で起こった。

 まるで、地球が身震いするかのごとく。

 それと同時に竜種細胞を宿す、すべての者、ドラグーンを駆る者に危機感を憶えさせた。





 胎動している。


 とてつもなく巨大で禍々しい『何か』が。








 整備員と共に己のドラグーン、ヒュドラのメンテナンスを施していたマリアは、巨大地震が収まると、突如、金色の瞳に切り替わり、各々のパイロットたちにテレパシーを送る。


 
 『・・・皆さん、突然の交信ごめんなさい。ですが、緊急を要するのでお知らせします。至急、ヨルムガントのブリーフィングルームにお集まりください。・・・先程の地震について、皆さんも感じた筈です。それについて、どうしてもお話しなければならない事があります・・・』



 そして、瞳が元の彩色に戻り、一緒にいた整備員と驚く。


 「・・・イリア!? どうして突然・・・。うん、わかった。みんな集合だね!!」

 マリアは胸に手を添え頷くと、格納庫から走って行った。

















 意識に直接語りかける少女の声。

 皆、一様に驚いたものの、大砂海の一件で、それぞれ思う所があった者たちは、ヨルムガントの作戦会議室に集合していた。




 セツナ、エリーゼル、ドミネア、ペルーシカ、セラフィナ、シャオ、フェン、ルウミン。

 そして、それぞれの艦体の艦長が顔を合わせる。

 バハムートからミヅキ、シェンロンからエウロペアが。

 ヴェロニカだけはまだ安静を要するため、病室からのモニター越しであった。 


 マリアが皆の前に立ち話す。

 「・・・えっと、みんなに話があるって、あたしの妹のイリアが・・・。あっ、イリアは私の中にいるもうひとりのあたしで・・・」

 しどろもどろに説明するマリアの瞳が金色の光を帯び、落ち着いた雰囲気に変わる。

 「・・・皆さん、急にお呼び立てして申し訳ありません。私がイリアです。ですが、直接お話ししなければと思いましてこのような形を取りました・・・」

 突然別人格に変質したマリアに事情の知らぬ者は驚く。

 シャオは眉を上げ、イリアと名乗るマリアの身体に憑依する者に尋ねる。

 「ふむ、ひとつの身体にふたつの精神か。魂魄レベルで癒着しておるのう。お主が何者かは後にするとして・・・。して、イリアとやら、お主の話と言うのは、先程の天変地異で感じた不穏な気配についてじゃな・・・?」

 新調した成人サイズのパイロットスーツを着こなし、腕を組むシャオ。

 「はい。皆さんも無意識だとしても感じ取ったはずです。巨大な闇の鼓動を・・・。あれは『世界の意志』に成り変わろうとする者の力の波動です。余波であれだけの影響があるのであれば、目覚めれば世界が、星が未曾有の危機に見舞われるでしょう・・・」

 イリアが淡々と語る。

 「ちょ、ちょっと待てよ! 全然話が視えてこないんだけど・・・!!」

 ドミネアが包帯で覆った頭を抱える。

 モニター越しのヴェロニカが話す。

 「・・・それは、もしやあの時戦った巨大なドラグーンの事ではないか? アリーザがオリジナルを欲していた理由がそこにあるのならば合点がいく。・・・シャオ先生、あの時と経緯は違えど同じではありませんか?エキドナが成そうとしていた事と・・・」

 「・・・ううむ、アリーザか。・・・ロゼが命を賭して守った世界を引っ繰り返そうなどとは思えなんだが・・・」

 シャオは眼を閉じる。

 そこにペルーシカが話に割って入る。

 「・・・ロゼ、と言う人は、もしや初期ドラグーンパイロットの立役者で竜種激戦の影の英雄、ロゼ・カミューアではないのですか?・・・データベースにはそれ以上の事は記載されていませんでしたが・・・」

 ペルーシカの言葉にシャオ、ミヅキ、ヴェロニカ、エウロペアが苦い顔をする。



 「・・・影の英雄か。言い得て妙じゃのう・・・」



 シャオは溜息を吐き、静かに語りだした。

Re: 竜装機甲ドラグーン ( No.133 )
日時: 2014/04/28 22:08
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: 2rVK2fl9)


 どことも知れぬ大陸、荒野の果て。

 遠く木霊する竜の咆哮と生き残った人々の祈りとすすり泣く声が惨壊した街に響く。

 竜種との戦闘の最中、巻き添えになってしまった小さな街。

 紅緋色のドラグーンから降りた茜色の髪とパイロットスーツの凛々しい少女の胸を居た堪れない痛みと悲しみが苛ませる。

 それでも彼女は戦い続けねばならない。

 それが、己の使命だから。

 守るべき命。

 その命を狩るものを屠る。



 最小の犠牲で押さえられたと、胸を撫で下ろすべきか?


 竜種に抗するため、与えられた力。

 ドラグーン。

 しかし、それも人の創り出したもの。

 命を奪う力。

 自分の足元に横たわり並ぶ、幾多の亡骸こそ自分が守りたかったものではないか。

 葛藤と後悔、憤慨と懺悔。

 降りしきる雨の中、込み上げる虚しさと共に曇天の空を見上げた。
 
















 軍艦のデッキ甲板。

 瓦礫を渡る風、鳴り止まない雨音。

 やや離れた船内へと続く扉が開き、中から灰色の髪の少女が顔を覗かせる。


 「あっ! こんな所にいたっ!! もう、ロゼ先輩ったら〜!!」

 その髪と同じグレーのボディスーツを身に付けた少女が小走りに駆け寄ってくる。

 「先輩っ!? びしょ濡れじゃないですか!! 風邪引いちゃいますよ!!!」

 ロゼと呼ばれた少女が振り向く。

 「アリーザ」

 「早く艦内に入りましょう。エースパイロットが体調不良で出撃できないなんて洒落になりませんから!! 直ぐにお風呂の準備をします!!」

 アリーザはロゼの手を引く。

 「それぐらい自分で出来るよ」

 「いいえ! 先輩はどうせシャワーだけ浴びてカラスの行水でしょう? 風邪を引かないよう、私が監視します!」

 ロゼは苦笑いをしつつ艦内に連れて行かれた。

 

 













 熱いシャワーの水滴が少女の瑞々しい肢体を曲線に沿って流れる。

 雨で冷えた身体を温め、暗澹とした思考を拭い払う。

 

 「・・・あ、あの、先輩? わ、私も濡れちゃって・・・。一緒に入って、いいですか・・・?」

 アリーザがバスタオル一枚でおずおずと、聞いてくる。

 「・・・うん、いいよ。おいで、アリーザ」

 ロゼが快く受け入れる。

 「やった♪ お邪魔しま〜す!」

 アリーザが仕切りから裸身で飛び出し、シャワーを浴びているロゼに抱き付く。

 「えへへ♪ ロゼ先輩、いい匂い、柔らか〜い!」

 「こらこら、身体を洗ってる最中だぞ」

 困った様に、しかし優しい眼差しで甘える後輩に微笑み、頭を撫でるロゼ。

 姉のように慕ってくる可愛い後輩。

 戦いでは、まだおぼつかなく、いつもヒヤヒヤさせられるが、場を和ませるムードメーカー。


 自分も本当の妹のように接する。


 守りたいと想う。
 

 命を賭しても救いたい大切なものたち。


 生ける者の宿命、生きるが故に背負う業。


 その意味を探り、共に生きていくのだ。

 
 ネガティブな考えを追い払い、ロゼは胸の中の少女を強く抱きしめる。


 「・・・先輩?」


 「・・・誰も欠けさせはしない。私が守る・・・」

 







 この先、何が待っているのか、それはまだわからない。

 だが、決して歩みは止めない。

 例え、手足が折れ、五感のすべてを失っても、





 その意味を知るまでは・・・。



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