複雑・ファジー小説
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- 超能力者と絶対に殴り合う能力
- 日時: 2018/03/26 17:23
- 名前: 波坂 (ID: KLUYA2TQ)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=359
初めましての方は初めまして。それ以外の方はこんにちは。
波坂と言う者です。
意見や感想、アドバイスなどは大変嬉しいのですが、それが的確なものであるかどうかを一度確認してから投稿して下されば幸いです。
宣伝などはできる限り控えて下さい。
※リンクは能力の募集に繋がっています。よろしければどうぞ
2015/10/17 スレッド設立
2017/01/18 受験の為、更新停止
2017/03/07 受験終了。更新再開
2017/03/28 参照回数8000突破
2017/05/14 参照回数9000突破
2017/9/01 参照回数10000突破
2017/12/15 参照回数11000突破
2018/2//13 参照回数12000突破
Twitter創作アカウント→@namisaka_sousak
【目次】
第一章>>1-21 第二章>>23-31
第三章>>32-46 第四章>>47-67
第五章>>68-77 第六章>>78-104
第七章>>105-202 番外編>>203-215
第八章>>219-236 第九章>>237-269
第十章>>270-現在更新停止
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.223 )
- 日時: 2016/12/22 19:15
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: cGVBDhbB)
ーーーー同時刻。
平野平子は彼女の通う学校、待舞高校の体育館にいた。
パイプ椅子に座った平子は眠たそうにあくびをしながらぼんやりと前を見ていた。
平子の視線の先には教頭が演台の後ろに立ち、マイクに向けて長々とした言葉を連ねていた。
待舞学校では今日、夏休み明けの学校の初日にある『始業式』と呼ばれる行事が開かれていた。夏休み中、色々な事はあったものの時間にルーズな生活をしていた平子にとっては最早苦行以外の何でもない。
チラリと横を見ると、緋奈子が背筋をピンと伸ばして教頭の話を眠い様子も無く聞いていた。行儀の正しい彼女の佇まいは、まるで一輪の花のようである。
流石お嬢様様って訳ですよ。そんなことを口に出さずに思った平子。因みにこの二人が隣な理由は、二人の出席番号が31と32だからである『は』の字が名前の頭に来ている緋奈子と『ひ』の文字が名前の頭に来ている平子の出席番号が近いのは必然である。
「今日、紡美ちゃん来てないのかな……?」
呟くように、小さな声で平子が発した声は、隣の緋奈子には聞こえていた。
「遅れて来るそうですよ……相川先生が言っていました」
そんなことは朝話していなかった為、恐らくは朝のHRの後に個別で聞いたんだろうな。と想像しつつも平子は会話を続ける。
「……何だか怪しいって訳だよ」
「私も同意見です」
緋奈子がそう返答したとき、教頭の話は終わりを迎えていた。
〇
ガヤガヤと少し騒がしい教室も、チャイムと同時に少しずつ収まっていく。平子の所属する1-b組もその例の通りに、チャイムが鳴り終わる頃には教室を静寂が包んでいた。
日直の合図と共に、起立、礼、着席を済ませると、1-bの担任教師である相川悟が話を始めた。
「今日は夏休み明けの一日目だ。……さて、本来ならここで夏休みの課題を集めるところだが……先に転校生の紹介を済ませておこう」
そう言って相川は一度教室を出て行った。恐らくは転校生を呼びに行ったのだろう。
暫くすると相川が戻ってきた。それに遅れて一人の男子生徒が教室に入ってくる。
ーーーー思わず、平子と緋奈子が声を上げそうになる。
その男子生徒の最も目立つ特徴はその車椅子だった。そしてそれは手によってではなく超能力ーーーー念動系の能力によって操作されていた。
暗い紅の短髪は照明をうっすらと反射している。
鼻にも口にもこれといって特徴はない。紫の瞳に鋭い三白眼。
待舞高校の制服に身を包んだその男子生徒は、車椅子に座ったまま、教卓の前に立ち、黒板に名前を書きはじめた。
名前を書き終えたその男子生徒が今度は平子達1-bの面々の方を向いた。
「不知火、自己紹介を頼む」
相川の言葉を聞いて頷く男子生徒。
「俺は不知火円。親の事情でここに転校してきた」
ーーーー【シャドウウォーカー】の一員、不知火円は無表情のまま、はっきりと聞き取れる低い声音で自己紹介を始めた。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.224 )
- 日時: 2017/01/08 19:44
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: O0NjrVt8)
円の自己紹介が終わると、円に席が充てられる。とは言っても車椅子のまま座れる特別な机だが。
「ああ、それともう一人転校生がいるがどうやら遅れて来るそうだ」
相川はその発言の後、夏休み明け最初の授業を開始した。
〇
時は流れ、一時限目の授業が終了した頃。
平子は新しく用意された、特別な机に車椅子のまま座っている円に声をかけた。
「……あのさ、不知火君……」
すると円は教科書の整理をしつつも顔だけを平子へと向ける。落ち着いているのか無表情なのかはわからないが、転校初日だと言うのにその顔は平常心一色である。
「……平野平子。詳しい話は後でする」
円はそうとだけ言い、再び視線を机へと戻した。
平子としては些か疑問が残るものの、後でと言っているので後回しにすることにした。どうせ時間が経てば聞けるのだ。今聞く必用など無い。そう考えて。
平子が円から離れると、他の何人かの生徒が円に話かけていた。どうやらコミュニケーションが取れないほど無口という訳でも無く、しっかりとした会話は成立しているように見えた。
悪目立ちをしている訳でも無いので何故か安心を覚えた平子。だが大して気にする事もなく次の授業の準備をし始めた。
〇
同時刻。
『司る能力者』達の円卓会議も終盤に差し掛かっていた。
後は今後の方針とそれぞれの意志を確認するだけで終わり。そう聞かされた紡美は安堵のため息をつく。
「それじゃあ今後の方針について話すわ。まずは……」
この発言から、織香が今後の中央エリア元首としてのスタンスや、能力者や能力者集団などの運用について話すはずだった。
だがそれは、一人の乱入によって掻き消される羽目になる。
ーーーー突如として、その部屋に一人の人間が現れた。
その神々しい姿は威圧感に似た何かを放っていた。オーラ。と言っても間違ってはいない。
その真っ白で煌めく白髪は足首までストレートに伸ばされている。
肌は透けているかの如く白く、瞳は金色を放ち、髪には黒薔薇のヘアバンドが付けられている。
白、黒、金で縁取られた煌びやかなドレスは袖口はラッパのように開いており、肩はふわりとしたパフスリーブ状。二の腕には左右対称の位置に小さめの黒いリボンが付いており、胸元は大胆に開かれ、かなり豊満なそれをより強調しているようにも見える。
ロングスカートは二重構造となっており、外には腰マントのような作りがある。正面からはスカートと両足が見えるような構造である。
白く長い手袋を両手に付け、左腕には腕輪がついており、左手には外れた腕輪を持っている。ーーーーおそらくは右手の腕輪を何らかの理由で外したのだろう。
白いニーソックスにドレスと似た柄のハイブーツ。首には黒いチョーカーが巻かれていて、それには金の錠前が下げられている。また、耳には十字架のピアスが付けられている。
そしてーーーーその少女の神々しさを放つものは、その翼だった。
髪に隠れて見えない肩甲骨辺りから生えた双翼は、それを構成する一つ一つの羽根が輝きを放っているようにも見えた。
そのテレポートによって現れた少女ーーーープルミエル・アンファングが突如として現れたことにより、場は騒然となった。
〇
「あらあら……皆さんどうしたんです?そんな死神を見たような顔をして……うふふっ」
クスリと笑うプルミエル。だがその微笑みは同時に得体の知れない恐ろしさのようなものを放っている。
「あら……エルちゃんじゃない。久しぶりね」
だがそんな中、聖林寺だけが平然と挨拶を返しひらひらと手を振る。
「久しぶりですねぇ……聖林寺さん」
お互い微笑んでいるだけなのだ。だが重圧はどんどん増していく。
これに笑顔でいられる聖林寺も聖林寺だが、重圧をはなつプルミエルもプルミエルである。あの無表情の頼弥ですら明らかな動揺を示している。普文字は平然とした様子で二人の話を聞いているだけのようだ。
そして紡美もまたーーーー微笑んでいる。
「今日はどうしたのかしら?円卓会議ももう終盤よ?」
「ちょっと面白い話を聞いたんですよぉ……」
プルミエルがすっと手を出す。それはまるで紡美を指しているようだ。
「新しく『司る能力者』になった人が黒髪という噂を聞いたけど……本当だったようですねぇ」
プルミエルはそのまま体の軸ごと紡美の方向を向いた。
「君が古都紡美さん?」
「はい、そうですよ」
「じゃあ……ふふっ」
プルミエルは右手を紡美に伸ばした。
それはまるで何かに狙いを付けているようだった。
「あはっ」
プルミエルがそう声を上げたとき、既に彼女の背中から生える翼が紡美の体を貫こうとしていた。
〇
「うわぁ!」
紡美が危機を感じて無意識に能力を発動した。
紡美の能力の発動は他人には知覚できない。使ったことは本人にしかわからないのだ。
ーーーーまた使っちゃったな。
紡美が咄嗟に左に避けると、さきほどまで紡美がいた場所を、プルミエルの光り輝く翼が通り過ぎた。
「ッ!」
すると紡美の横にいた、聖林寺ではない方の席の人物に向かって流れ弾が飛んでいく。その人物に向かって翼が直進し、このままでは翼がその人物に当たることは確定しているようにも見えた。
ーーーーまた、他人を不幸にしちゃった。
紡美はその自責の念に捕われてしまう。
だから気が付かなかった。
ーーーーその人物もまた、『司る能力者』の一角であると。
その濃い緑色の髪をした人物は翼の攻撃を一瞥した後、目を伏せてこう言った。
「吹っ飛べ!」
次の瞬間、その人物を中心として全てのものに対して遠ざける圧力がかかった。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.225 )
- 日時: 2017/01/08 19:42
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: O0NjrVt8)
急激な圧力によって、その光り輝く翼の攻撃は形もなく吹き飛ばされた。
それと同時に、小柄な紡美は一瞬の内に足が地面から離れてしまう。
足が浮いた感触に恐怖を覚える間もなく、体が一気に吹き飛ばされ、壁に向かって一直線を描いて飛んでいく。
だが、今紡美は自分の能力である[結果と選択を司る能力]を使用している。ありとあらゆる事象現象は紡美に対し都合よく働くのだ。
「落ち着きなさい……」
その呆れたような聖林寺の声が響いた直後、放出されていた圧力がピタリと止んだ。
なぜなら、聖林寺が自分の能力、[障壁を司る能力]によって障壁を生成、それを圧力を放っていたであろう人物の周りを囲んだからだ。聖林寺の能力はその気になればありとあらゆるものを一定値まで遮断することができる。圧力を放っていた人物を囲んでいる青色ガラスのような長方形状の障壁達は、運動量ならば工事用の鉄球ですら真正面から容易に受け止めることができる代物だ。当然ながらその障壁が破られることは無かった。
しかし、紡美は未だに勢いづいたままだ。このままでは高速で壁に激突してしまうだろう。紡美と似たような状況の能力者達もまた、命の危機に陥っている。
「ーーーー減速」
だが、普文字がその言葉を放った瞬間、紡美の速度が激減した。そのまま急激な失速の後、床に倒れた。紡美としてはそれなりに痛いが、大怪我をするよりはマシだったと流すことにした。
「やみちゃん……貴女の能力は周りの全てを巻き込んでしまうんだから……」
聖林寺はその人物ーーーー科戸ややみ(しなとややみ)に対して軽率な行動を注意する。
特殊警察の青い制服に身を包んだ、身長160cm程度の女性。髪はかなり濃いめの緑色はボブカットに切り揃えられており、白い花に数枚の鮮やかなパステルカラーの短冊を重ねた髪飾り。鋭い切れ目の青緑の瞳はプルミエルをじっと睨んでいる。
聖林寺の注意にも、当の本人はどこ吹く風といった様子で、堂々と言葉を返した。
「正当防衛よ。それに結果的に重軽傷はプラマイゼロ。なんか文句ある?」
「文句しかねーよクソが」
ややみに食ってかかったのは影雪だ。金色の目は不愉快そうに歪められている。
「ユッキーくん、やみちー、今は控えてくれないかしら」
織香が二人を落ち着かせると、ややみの能力が発動したにも関わらずその場に余裕の表情で留まり続けていたプルミエルに相対した。
織香の表情は硬い。いつもの穏和な顔は、プラスでもマイナスでも無い完全な無表情に変わり果てていた。
「エルちゃん……つむりんに何をしようとしたのかしら?」
「試させて貰っただけです……それより、ねぇ古都さん」
そのまま織香から目を離し、紡美の方へと顔を向けるプルミエル。
紡美と目を合わせると、プルミエルは紡美に問い掛けた。
「ねぇ……君はこの世界をどう思う?」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.226 )
- 日時: 2017/01/19 15:15
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: O0NjrVt8)
「ーーーー難しい質問だね。でも答えることはできる」
「最高で、最低な世界だよ」
〇
プルミエルはその紡美の問いを聞いた後、大人しくすることを条件として円卓会議に参加した。
街の治安について、能力者の法について、等の話はあったものの、特に目立った事件もなく、その日の円卓会議は終了した。
ただ、会議中にある事が決定された。
それは、『司る能力者』全員で同盟を組むというものだ。
基本、『司る能力者』は『司る能力者』に対しての敵対及び武力行使を禁止する。仮に、『司る能力者』が他の『司る能力者』に武力行使をしかけた場合、武力行使を行った『司る能力者』を他の全ての『司る能力者』が武力行使を行った者に制裁を行う。というものだ。
これを発案したのはプルミエルである。
この案に賛成したのは、発案者であるプルミエル・アルファング、古都紡美、霧隠五月(きりがくれ/いつき)、軌城真季、御堂輝(みどう/ひかる)、雨宿頼弥、三田瑠伊(さんだ/るい)の六人、それに対して反対は風折影雪、科戸ややみ、テレス・パルギミナ、堀崎乃々(ほりさき/のの)の四人。普文字理蔵、聖林寺五音、織宮織香、医柱創羅(いばしら/そうら)の四人は無回答。その後の交渉の結果、同盟は決定された。
〇
解散、その一言が織香から放たれた瞬間、紡美はほっとして息を吐き出した。
聖林寺は紡美に別れの挨拶をするとそのまま部屋を退出した。少し急ぎ足だったのには彼女なりの理由があるのだろう。しかし紡美にはそれを知る術もないので考えないようにした。
「……大丈夫?古都さん」
声をかけたのは真季。彼女としてはこういう場合どのような言葉をかければいいのかすらもわからない程に、他人とコミュニケーションの機会が無かった為に、取り合えず気分を聞いておく事にした。
「紡美でいいよ。真季ちゃんって呼ぶから」
真季ちゃん。その単語に真季は電撃が走ったような衝撃を覚えた。
今まで真季のことを下の名前で呼ぶ人間は親を除けば片手で事足りるからだ。新鮮な気分に謎の感動を感じるながらも、真季は何か言葉を返さなければと必死に考える。
「じゃあ私は紡美って呼ぶから」
また、相手の名前を下で呼ぶことにも謎の感動を感じる真季。彼女にとって今日は円卓会議とは別の意味で忘れられない日になるだろう。
「お取り込み中のところ申し訳ありません。お二人にはそろそろ準備をしてもらいます」
急に現れたその人物、平雨平瀬に紡美は驚いて思わず声を上げた。一方真季は表情は相変わらずクールな顔つきのまま対応する。内面は興奮状態なのだが。
紡美が驚いた理由に、急に現れたこと以外もう一つ存在した。
背丈は高めで真季よりも5cm以上高い。真季の身長は160cmあたりなのでその背丈は165cm辺りとなる。
髪は雪のように真っ白で、肩甲骨の下まで伸ばされている。前髪は二つのヘアピンで五分五分に分けられ、スラリと長い手足に線の細い身体。黒目で大人しそうな顔立ちと、ピンク色の唇。
ーーーー平瀬の容姿が余りに似ていたからだ。誰と言われれば紡美の頭に浮かび上がるのは当然ながら『訳ですよ』が口癖の白髪少女である。違いと言えば一目でわかるのはヘアピンの数くらいである。
オマケに似ている人物とは180度違って表情が殆ど無い。その意味ではかなり不気味にも感じられた。
「わかったわ。それで、私達はどこに行けば良いのかしら?」
「私について来て下さい」
平瀬は部屋の端に置いてあった一つの通学カバンを手に取って、二人を手招きした。
〇
二時限目が終わった頃。
平野平子は鼻にムズムズとした感覚を覚えた。
すぐさま制服のスカートのポケットからティッシュを取り出す。タイミングピッタリでそのティッシュに向かってくしゃみが放たれた。
「……誰か噂でもしたのかな……」
鼻水のついたティッシュを丸めてごみ箱に捨てる。流石に教室でゴミを投げる行為をするほど平子は非常識では無かった。
「ひ、平野さん……ひ、久しぶり……」
平子が席に戻ると横から声がかけられた。反射的に顔を向けると見覚えのある顔が一つ。
空気に透けてしまいそうな程色素の薄い紫色の髪。弱々しい金色の瞳に大人しそうな顔立ち。小柄な身体も相まって小動物のような雰囲気を放つ少年ーーーー能野安だ。平子との対面は夏休みのある一件以来で少し緊張している様子だ。
「能野くん久しぶり。元気してた?」
平子は得に緊張した様子も無い。無論あの一件のことは覚えているが、その後にあった出来事達に比べれば、小さな出来事に過ぎなかったからだ。
思いの他平子がフランクに接してきた為に安も少し緊張が解れる。その後少し話をすると安は若干早足で平子から離れて行った。
ーーーー避けられてるって訳ですよ……。
安としては平子と話せた事が嬉しく、また近くにいるとどうしてもぎこちなくなってしまうので早々に撤退しただけなのだが、平子はてっきり勘違いしてしまった。
そんなことは露知らず、安は心の中でガッツポーズを決めているのであった。
「平ちゃん」
目で安を追っていた平子が突然かけたら声にビクッと反応した。
声の主はーーーー紡美だ。
「あれ?紡美ちゃんさっきまでいたっけ?」
「さっき来たんだけどね」
先程来たなら私が見てないのは当然って訳か。そう頭の中で考えた納得した平子。
そして、少しトーンを落として紡美に喋りかける。
「……それで、なんで遅れたって訳?」
「……後で説明するね。緋奈子ちゃんもいるときに」
そこまで話したところで、シャットアウトするかのようにチャイムが流れた。移動教室ではないのでそのまま自分の席を目指して紡美は平子に背を向けた。
チラリと横目で円を見る平子。円の視線は紡美に向いていた。
勿論その意図を平子が把握できるわけが無く、そのまま気にせず前を向いた。
「さっき言っていた遅れて来る転校生が今来た。入ってくれ」
今度は呼びに行かず扉に向かって呼びかける相川。若干音をたてて扉が開いた。
クラスの大半の表情が、小さな驚きに染まり、その後数名が平子の方を見た。
だが、平子はそれに気づかない。というより、前にいる人物に釘付けになっているのだ。
その女子生徒が黒板にチョークで名前を書いていく。その名前にすら驚愕を隠せない平子。
黒板には、白い文字でこう書かれていた。
『平雨平瀬』
「初めまして。平雨平瀬と言います。宜しくお願いします」
緋奈子も、能野も、平子に視線を向けた。
平子は、ただ平瀬に視線を向けるだけだった。
紡美だけが、何故か苦笑を浮かべていた。
〇
昼休み。
大半の生徒は弁当を広げるか食堂へと向かう頃。
平子、紡美、緋奈子、円の四人は屋上に上がっていた。
屋上。というと弁当を広げている生徒がいそうだが、実際のところソーラーパネルが所狭しと並べられているので非常に行動範囲が限られているので生徒は誰ひとりとしていなかった。
紡美は購買で買ってきたパンを。紡美と平子は持参した弁当を広げつつ、円の話に耳を傾ける。
「俺達はここに監視の意味でやってきた。この学校……待舞高校には危険分子か多くてな。無論、お前達もそれに入っている」
「達?一人じゃなくて?」
紡美の問い掛けにピックアップするのはそこじゃないと言いたかった緋奈子だった。
だが円はその質問にも律儀に答える。
「もうすぐやって来るはずだ」
その言葉を待ってましたと言わんばかりに屋上のドアが勢いよく開かれた。
「ご主じ……不知火くぅぅぅぅぅぅん!」
言い直しつつも円の名前を呼び、そのまま抱き着こうと突撃して来る女子生徒。
だが激突する寸前で円の能力、[念力を操る能力]によって止められた。
そのことに若干不満げな表情をするものの、円の「落ち着け」の一言に素直に従う。
オレンジ色から黄色のグラデーションのセミロングの髪は言わば夕焼けのような色だ。高校の制服を身に纏い、パッチリとした黄色の瞳の女子生徒。
そう、アカネだ。
「……奥間、学校では苗字で呼べと言っているだろうが」
奥間、とは苗字を持たないアカネに円が付けた苗字である。
少ししょんぼりとした表情で円に謝るアカネ。
「ごめんなさいご主じ……不知火君」
円がため息をつくと諦めたように「昼食はあるか?」と聞くと一気に明るい表情となって円に弁当を渡した。
表情豊かって訳ですよ。……何この人達。愉快な人達だなぁ。三者三様の反応を示す三人。
「まあいい。俺達の役目は問題を明るみに出さないこと。つまりは隠滅だ。
……仮に表に出たら困るような事をしたら消されると覚えておけ」
重圧のある円の言葉。
しかし、平子はそれを全く感じていないのか「了解って訳だよ」と軽い調子で返した。緋奈子はそんな平子に驚きつつも「わかりました」と返す。
だが、紡美の返答だけは違った。
「じゃあ私を怒らせないでね」
「……何不知火君に喧嘩売ってるの?」
紡美にアカネの先程とは全く違う種類の視線が突き刺さる。それは剣のように鋭く氷のように冷たい。
だが紡美もその視線に毅然とした態度で応じる。一触即発の空気の中、アカネの頭に円の手が乗せられた。
「古都は俺に喧嘩など売っていない。警告しただけだ。だからお前が怒る理由はない」
「でも不知火君!」
「落ち着け」
ポンポンと頭を撫でると表情が途端に柔らかくなるアカネ。そのまま円は紡美に謝罪する。
「済まない。奥間は多少抑えが効かない性格でな」
「大丈夫だよ。こっちもちょっと悪かったしね」
その様子を見て平子は「アカネちゃんってご主人に刃向かう奴殺す人かな?」と予想し緋奈子はただ冷や汗をかいていた。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.227 )
- 日時: 2017/01/18 14:15
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: O0NjrVt8)
*お知らせ
更新を暫く凍結します。
理由は受験に専念する為。再開は早くても二ヶ月後となります。
こちらの小説は荒らし対策としてロックさせて頂きました。なので意見や感想等は>>0のURL先にどうぞ。
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