複雑・ファジー小説
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- 超能力者と絶対に殴り合う能力
- 日時: 2018/03/26 17:23
- 名前: 波坂 (ID: KLUYA2TQ)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=359
初めましての方は初めまして。それ以外の方はこんにちは。
波坂と言う者です。
意見や感想、アドバイスなどは大変嬉しいのですが、それが的確なものであるかどうかを一度確認してから投稿して下されば幸いです。
宣伝などはできる限り控えて下さい。
※リンクは能力の募集に繋がっています。よろしければどうぞ
2015/10/17 スレッド設立
2017/01/18 受験の為、更新停止
2017/03/07 受験終了。更新再開
2017/03/28 参照回数8000突破
2017/05/14 参照回数9000突破
2017/9/01 参照回数10000突破
2017/12/15 参照回数11000突破
2018/2//13 参照回数12000突破
Twitter創作アカウント→@namisaka_sousak
【目次】
第一章>>1-21 第二章>>23-31
第三章>>32-46 第四章>>47-67
第五章>>68-77 第六章>>78-104
第七章>>105-202 番外編>>203-215
第八章>>219-236 第九章>>237-269
第十章>>270-現在更新停止
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.258 )
- 日時: 2017/12/16 11:13
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: KLUYA2TQ)
平野平子はぼんやりとした意識の中にいた。そのせいか、周囲の状況が把握出来ずにずっとボーッとしていた。
平子が頭の中で自問自答を繰り返す。ここは何処だ。私は何をしていた。何がどうなってこうなった。
「んん……」
平子には何かに座っていた感覚があった。だから立ち上がろうと思い膝を伸ばして立ち上がろうとする。
しかし、ガタッと椅子と床とが打ち合わされて鳴る音が聞こえるばかりで、一向に立ち上がれる気配がない。
「ん?」
その時、平子は初めて気が付きた。
自分は今、パイプ椅子に括りつけられているのだと。括りつけているのはロープなどではなく、電化製品についている電源のコードのようなものだ。
イスの背もたれにあたる場所に自分の胴体と手が何重にも電源コードで縛られ、足はパイプ椅子の足と一本ずつ括りつけられ、太ももの辺りはクッションの部分と電源コードで密着することを強いられている。
「んんんんん!?」
パニックになって声を挙げようとした平子。しかし、彼女の口は何かに塞がれていて、声が言葉としての意味を成さなくなっている。この唇などに吸い付く感覚から、これはガムテープだと平子は悟った。
周囲を見回してみる。全く見覚えのない景色に、再び心が揺れる平子。
灰色に煤けた窓、老朽化の模様が刻まれた床、器具の残骸が溜まっている部屋の隅、そして朽ち果て電気の供給も無い電灯が虚しく上にぶら下がっている。
まるでホラー映画のワンシーンのような情景の部屋に、一人。しかも体は縛られている。これ程の恐怖は、あのDHAの一件以降初めての事だった。
「あ、目が覚めたんだね」
平子は声の方に首だけ回し、その姿を捉えた。それは、平子の感覚で先程まで近くにいた一つ歳上の少女の姿だった。手には電気式のランタンを下げていて、顔に下からの光で影がかかり、まるで顔を下から懐中電灯で照らしたようになっている。
「んんんんんん!」
裁華さん、そう喋ろうとしたのに意味の無い声に換えるこのガムテープが、平子には心底恨めしかった。
「あはは、平子ちゃん可愛いね。うん、お人形さんみたいだよ?」
今、裁華が何と言ったのか、平子はもう一度だけ聞きなおしたかった。
平子の聴覚が問題なければ、今の声はこう聞こえたのだ。可愛いと。この状況でそんな事が言えるということは、少なくとも裁華は被害者ではない。
そして、この場に被害者と加害者以外の人間がいるわけが無い。
平子はそこまで考えて、不意に目の前に裁華の顔があるのに気が付いた。
「二人っきりなのに、まだ私だけを見てれないんだね」
裁華は不満げな顔をしつつ、平子の口に着いているガムテープをゆっくりと剥がす。それが完全に剥げた時、平子が何かを言おうとした。
「噛んじゃダメだよ?」
が、その前に裁華が小さく囁くように言う。
次の瞬間、平子は何か唇に生暖かいものが触れる感覚がした。少し湿っていて、とても柔らかいものが。
妙に息がしづらいと思った頃には、口の中に何か、先程よりもかなり湿っている、同じように柔らかいものが口の中に入ってきた。自分の口に動くものを入れられるというとてつもない異物感に襲われる平子。だがそれはお構い無しに平子の舌を絡め、容赦なく上に下にと忙しなく動く。まるで貪るかのように、平子の舌をじっくりと味わうかのように。
少し頭がふわっとしていたが、平子は状況にようやく気が付いた。間一髪程の距離で目の前にあるのは裁華の顔。そして唇と口の感覚。
ぷはぁ。と裁華が息を止めていたのか、まるで水に潜っていた人間が水から出た瞬間に、無意識的に出すような声を上げた。
「これで私だけを見てくれるよね?」
平子の頭はパニックを起こし過ぎたせいか、一周回って逆に冷静を取り戻していた。
「裁華先輩! 何やってるんですか!」
平子が立ち上がろうとしてもがく。ガタガタと音が平子の代わりに暴れ回るが、決して平子を縛る電源コードが緩む気配はない。
「何って、見て分からない?」
「分からないって訳ですよ! こんな場所に私を連れ込んで! あ、あんな事を!」
平子の必死にもがく様子を見て、裁華は楽しんでいるようにも思えた。裁華はゆっくりと平子の死角である真後ろへと移動すると、しゃがんで平子の耳に息を小さく吹き掛けた。
「ひっ!」
「落ち着いて、ね? 私の平子ちゃん?」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.259 )
- 日時: 2017/12/23 16:39
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: KLUYA2TQ)
「私のって、何ですか?」
まるで心臓を握られているかのような不安に陥った平子が、ザワつく心を無理やり押さえつけて、裁華の言葉の一部分に対して疑問を述べる。
相変わらず平子の背後に立っている裁華は、平子の首に自分の腕を絡め、後ろから抱きつくような姿勢になり、平子の耳元で小さく喋る。
「文字通りだよ。平子ちゃんは私の、も、の」
耳元で甘く囁かれる一言一句に、むず痒い感情を抱く。しかし今の一言は流石に無視する訳には行かなかった。
「おかしいって訳ですよ。私は誰のものでもないって訳でひぅっ!」
首の後ろ、すなわちうなじの部分に、平子は何かが這うようのを感じ取った。しかも、湿っぽいものを纏った何かが。
裁華はそんな平子の反応を楽しむかのように、舌の先で平子の首の後ろにあたるうなじの部分を、一瞬だけ軽く這うように舐めた。
「ふふふ、平子ちゃんはほんとに感覚が良いんだね。打てば響くって言うのかな?」
「裁華さんっ……!」
「はは、冗談冗談。そうだよね。平子ちゃんの言うことも最もだよ」
その一言に、ようやく分かってくれたかと心の中が安堵で満たされた。
「だってこれから私のものになるんだから」
その安堵が二秒後に音を立てて瓦解する事など、当然知らずに。
「──え?」
「え、じゃないよ。ねぇ平子ちゃん、私のものにならない?」
「……冗談ですか?」
「冗談でこんなことするかなぁ?」
裁華がまたも、平子のうなじに舌を当てる。しかし、先ほどと違い今度はかなりゆっくりだ。じっくりと上に上にと上がっていく変な感覚に、平子は少し息が荒くなり、体を動かそうともがく。が、体を締め付ける電源コードがそれを許さない。平子の抵抗はギシギシという意味の無い音に変わって終わった。
「……ぁっ……ひ……ぅ……」
歯を食いしばって声が漏れないように必死な平子の様子すら、今の裁華にとっては虐待心を燃やす燃料でしかないことを、平子はまだ知らなかった。
「ガマンしてる平子ちゃんは可愛いなぁ。ふふふ、もっと虐めたくなっちゃう」
「止めて…………下さいっ!」
「そうだなぁ。平子ちゃんが私のものになるなら止めてあげようかなー?」
「そん……なっ……!」
それから平子が味わったのは、地獄のような時間だった。
別に痛覚があった訳では無い。何かを壊されたりした訳でも、嫌いな事があった訳でも、暴言を吐かれた訳でもない。
ただ、うなじや脇腹、首筋や腕などにほんと少しの刺激を与え続けられただけだ。だがその感覚がまさに地獄。それが続いて三十分も経った頃、平子は既に抵抗する気力は無く、顔も紅潮し、息は目に見えて荒くなっていた。
「あー、もうこんな時間だ。じゃあ夜ご飯作って来てるから持ってるね」
そう言って、平子の口に新しいガムテープを貼り付けて裁華が出ていくも、平子は反応すら示さなかった。と言うより、反応する気力というものが消えていた。
呼吸を整えていると、段々と気力が戻ってきたのか、徐々に平子の顔が惚けた顔からいつも通りの調子を取り戻していく。
しかし、相変わらずに拘束は緩まないし、パイプ椅子も壊れる気配が無い。平子に出来ることは、待つことだけだった。
諦めたように、ギシギシという音がなり止んだその時だった。部屋の扉が開いたのは。
裁華が来たのかと思い警戒する平子だが、そこには別の姿があった。
茶色のロングカーディガンを黒いシャツの上から羽織り、下は青いショートパンツにハイソックスという動きやすさ重視の服装。頭に被る白い帽子から溢れ出るようにして、今度は雪のように白い長い髪が溢れ出るようにして出ている。
彼女は白い帽子を取り、その白い肌と凍てつくような無表情を晒してこう言った。
「ここにいましたか、平野さん」
平子は知っていた。この人物を。この自分と鏡写しのようにそっくりな人物の名を。
そして平子はガムテープが貼られていることを忘れて、そこに居た人物の名を呼ぼうとした。
「んんんんん!?」
平子が呼ぼうとした名前の持ち主である人物こと、平雨平瀬はそこに居た。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.260 )
- 日時: 2017/12/17 11:14
- 名前: 三毛猫 (ID: J0PYpSvm)
4日連続更新!
めちゃくちゃ嬉しいです!
裁華さんの異常性がどんどんと露見してきましたね。
そして、ここで平瀬さん。
今後とも目が離せない展開ですね!
次回の更新楽しみにしています!
追伸)今日の更新で一ヶ所だけ「平子ちゃん」が「開こちゃん」になっていました。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.261 )
- 日時: 2017/12/21 06:50
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: KLUYA2TQ)
平瀬は相変わらずの無表情のまま、口に人差し指をピンの立てた手を当てる。どうやら『静かに』というハンドサインのようだ。
平瀬は音をたてないように、素早く平子に近付くと、口に張り付いているガムテープをゆっくりと剥いだ。
「大丈夫、ですか」
「……うん」
「そうですか。なら良いです」
平瀬は淡々とした様子のままに、平瀬は平子を縛り付ける電源コード達を解こうとする。少しキツめに縛ってあるのか、全ての拘束を解き終わるのに少しの時間を要してしまった。
「立てますか?」
平子が頷いて立とうとした時、不意に足に力が入らずに転けそうになる。咄嗟に平瀬が受け止めたものの、少し間違えば転倒していただろう。
「疲労が見られます。肩を貸しますから、あまり無理をしないように」
「ごめん……」
平子を抱えてゆっくりと歩く平瀬。彼女がドアノブに手をかけ、部屋から出ると外は薄暗く、目を慣らさないと周囲が細かく見えないほどだった。
「ねぇ平瀬ちゃん」
平子は今まで平瀬に聞きたくてどうしようもなかった悩みを、今打ち明けることにした。
「あなたは何者なの?」
「……それは」
平瀬が口ごもった次の瞬間の事だった。平瀬がハッとしたように、平子を思い切り突き飛ばしたのは。
投げ出された平子は案の定転倒。なんとか左手で手をついて頭が床にぶつかることは阻止したが、それでも急に倒されたので受け身が不完全なようだった。少しだけ苦悶の表情を浮かべる平子。
「痛た……急にどうしたの? 平瀬ちゃ……ん……?」
平子の疑問は、目の前に広がる異様な光景に打ち消されてしまった。
目の前に広がる光景とは、平瀬の突き出した手の先が無い、正確に言うなら、平瀬の肘から先の腕の部分が、消滅してしまっているのだ。
平子が視界を落とすと、そこに見えるのは、落下した平瀬の手。
咄嗟に、平子は口を押さえつける。それが吐き気を堪えるためのものなのか、悲鳴を上げないようにするためのものなのかは、平子にすら分からない。
「うふふふふ、悲しいなぁ平子ちゃん。どうして逃げようとしたの?」
平子が振り返ると、そこには平子をここへと連れてきた人物、そして平瀬の腕を飛ばしたであろう人物が、立っていた。その幼さの残る黄色の目に、歪な光を灯した人物が。
「裁華……さん」
「ねぇどうして? どうして逃げちゃったの? ねぇどうして平子ちゃん私はこんなにも平子ちゃんのことを思ってるのにさせっかくご飯も持ってきたけど平子ちゃんはそこにいなくて必死になって探したら私以外の子と二人で歩いててもう私はほんとに怒ってるんだよだからついつい能力を使っちゃったけどそれについてはごめんねそこまでやる気は無かったんだでもそんな光景をまざまざと見せつけられたこっちの気分を考えて欲しいよだいたい平子ちゃんは私のお人形さんなんだからそうやって逃げちゃダメだよトイストーリーでもあるまいしそれとも平子ちゃんはまさか自分に意思があると思ってたのかなうんそれは残念かもしれないけどないんだよねだってお人形に意思があるなんて怖いでしょ所詮使い捨てで遊び疲れたり飽きたら壊しちゃうんだからさ平子ちゃんはまだ飽きてないから壊すつもりもなかったのになんで平子ちゃんは自分から壊されようとするのかなまさか平子ちゃんはそういう趣味なのかなでも大丈夫私はそんな平子ちゃんでも好きだよ愛してるそれでもダメならそこの平瀬ちゃんと一緒に可愛がってあげるからねぇいいでしょきっと一人で待つのが寂しかったんだよねそうだよね平子ちゃんが私の所から逃げるはずないものごめんね一人にしちゃってでももう大丈夫だよ平瀬ちゃんと一緒に優しく扱ってあげるからお願い私のところに戻ってきて断るなんてしないよねだって平子ちゃんは私のことが好きなんだもんね私は忘れてないよあああの時平子ちゃんが好きと言ってくれたのは嬉しかったなぁうん本当に嬉しかった平子ちゃんも私が好きなのは本当なんでしょ好きな人のところにいてもいいんだよもう戻って来るしかないよね、平子ちゃん? そうだよね戻ってきてくれるよね。良かった嬉しいなぁふふふふふ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
訳が分からなかった。
並べ立てられるようにして発射されたエゴの塊も、壊れたスピーカーのように連続して打ち出される笑い声を、平子はどのようにして処理すればいいのか、分からなかったのだ。ただ視界を虚空に彷徨わせる平子の目は、理解に苦しむと訴え掛けているようにも思えた。
「うるさい、ですよ」
が、次の瞬間、不意に裁華の壊れた笑い声が止まる。まるで強制終了させられたかのような止まり方だが、そちらを見ていた平子には原因が良くわかった。
何故なら、平瀬が切り飛ばされたように消えた左手を無視して、そのまま平瀬に接近、そしてその右拳で裁華の顔面を殴ったからだ。とても、手加減しているとは思えない殴り方と勢いである。
「ノックバックを付与します。衝撃に備えて下さい」
平瀬の口から業務的に流された警告音、だが裁華が対策を取る前に、平瀬の足に光の線が幾つか走ったかと思えば、直後に左足が爆発的な速度で裁華に直撃、運動エネルギーを余すことなく伝え、裁華を文字通り吹き飛ばす。その距離、およそ10m。
ポカンとその様子を傍観していた平子に、平瀬は足早に近づき、肩を支えてその場から離れる。
その際、平子は平瀬の目に何か違和感を覚えた。彼女の目の中で、生物的ではない何かが細かく、規則的に動いているのだ。
裁華によって中断を余儀なくされた先程の質問は、どうやら平瀬にとってはかなりの重みを待つようだった。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.262 )
- 日時: 2017/12/24 21:30
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: KLUYA2TQ)
>>260
三毛猫様
感想ありがとうございます! そして、長らくお待たせしてしまってすみません……。
裁華さんの異常性を表現できていたようでホッとしています。むしろ複ファジーでやっていいことを越してるんじゃないかなぁとか心配してますけど(
これからもこの作品を宜しくお願いします!
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