複雑・ファジー小説
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- 超能力者と絶対に殴り合う能力
- 日時: 2018/03/26 17:23
- 名前: 波坂 (ID: KLUYA2TQ)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=359
初めましての方は初めまして。それ以外の方はこんにちは。
波坂と言う者です。
意見や感想、アドバイスなどは大変嬉しいのですが、それが的確なものであるかどうかを一度確認してから投稿して下されば幸いです。
宣伝などはできる限り控えて下さい。
※リンクは能力の募集に繋がっています。よろしければどうぞ
2015/10/17 スレッド設立
2017/01/18 受験の為、更新停止
2017/03/07 受験終了。更新再開
2017/03/28 参照回数8000突破
2017/05/14 参照回数9000突破
2017/9/01 参照回数10000突破
2017/12/15 参照回数11000突破
2018/2//13 参照回数12000突破
Twitter創作アカウント→@namisaka_sousak
【目次】
第一章>>1-21 第二章>>23-31
第三章>>32-46 第四章>>47-67
第五章>>68-77 第六章>>78-104
第七章>>105-202 番外編>>203-215
第八章>>219-236 第九章>>237-269
第十章>>270-現在更新停止
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.193 )
- 日時: 2016/09/25 13:42
- 名前: 波坂 (ID: hSqi2epP)
その人物を見て、真っ先に表情を驚愕に染めたのは里見だ。
そして、平子と時雨が驚きながらも首を回す。視界に移った見覚えのある人物に二人がほぼ同時に声をあげた。
「風折!?」
「影雪さん!?」
予想外の人物の登場に、場が静寂に包まれる。唯一何も驚いていないのは明示だけだ。
「オイオイオイ!テメーらしけた面してんな!オレは今最高に興奮してるっつーのによぉぉぉ!ああああああ!最高だぁぁ!今日は最高の日だぁぁぁ!こんなに素敵なことが応酬するような日は久しぶりだぁぁぁ!」
その静寂に影雪の騒がしく嬉々とした様子の、ひび割れた声が響く。堪えきれないとばかりに漏れ出す笑い声は、正常な精神を持つ者が放てるものではない。
平子はそんな影雪に驚きの目を向ける。なぜなら平子の頭では影雪は常に妹以外に関心が薄い、過保護なシスコン程度にしか思っていなかったからだ。
だが、今の影雪はどうだ。
急に現れて混乱した頭だが、平子でも理解できた。
ーーーー影雪は、既に狂っている。
時雨としても、そのような感想を抱かざるを得ない。
壊れた声を響かせながら、影雪が高速で移動し、里見の頭を鷲掴みにした。
里見が音速を出そうとするが、加速はしない。
その里見の心情を覚ったか否か、影雪が吐き出し嘲笑うかのように、壊れた声で話す。
「テメーの音速ってのはよぉぉぉ、よぉぉするに移動速度をマッハ1まで速度を上乗せしてるだけだろぉぉぉが。だったら話は単純だっつーのぉぉぉ。
テメーが加速する為の運動エネルギーは全部オレが変換して横取りしてんだよぉぉぉ!」
そして鷲掴みにした頭を、鉄筋コンクリートの壁目掛け、奪った運動エネルギーをその里見の頭を掴む右腕に伝導し、
「ギャハ!」
一切の慈悲や容赦などなく、叩き付けた。
打撃面から、痛々しく残虐性の塊のような、グロテスクな音が弾けた。
トマトを壁に投げつけたように、大量の赤い飛沫が飛ぶ。
壁を蜘蛛の巣状にひび割れさせ、一部を破壊した里見の頭の行方など、最早言う必用はない。
そして、それを攻撃する必用も無い。
だがーーーーこの程度で、影雪が約二ヶ月間溜め込んできた怒りが晴れる道理はーーーー無かった。
里見だったものが、霜に覆われ、凍り付く。
影雪が全ての熱量を奪ったのだ。0度は水の融点、人体など凍てつく温度だ。
その凍った氷像を、奪った熱量を運動エネルギーに変換し、天井に投げ付けた。
人体が、氷のように砕け散る。四つほどの塊に分かれた里見の屍。
「オレがテメーの屍、残すわきゃねぇぇぇよなぁぁぁぁ!」
それでと飽き足らないと、影雪がその四つの塊に触れる。
次の瞬間、大量の水蒸気とともに四つの塊が粉々に爆ぜた。
影雪は、大量の熱量を押し込み瞬間的に沸騰させるという、自然現象では不可能な行動をとっていた。
凍り付いた血液が急激な沸騰を起こし、結果的に肉体を粉々にしたのだ。
「ギャハハハハハハハ!ヤベー!脳が沸騰しちまうかもしんねー!最高だぁぁぁ!本当に愉快で愉快でたまらねーよ!」
一人で髪を掻きむしったり身体を忙しなく動かしたり、挙動不審な影雪。その興奮は冷めない。
平子はただ、友人の兄に絶句するしかない。
時雨はもう、そんな影雪を見ていられない。
「じゃあ宣言どぉり更地にしてやんよぉぉぉ!ギャハ!」
影雪が床を蹴って窓から飛び降りた。それだけだ。
それだけで、窓ガラスが全てひび割れ、証明がスパークし、モニターが爆発する。
目も当てられない超常現象の後、影雪が過ぎ去り再び静寂が訪れるーーーー訳がない。
下から、爆発音ともとれる轟音がはい上がってきた。
影雪が、暴れているのだ。
彼は、宣言通り、この一帯を更地にしようと言っているのだ。
「早く逃げねぇと!クソ!」
時雨が明示に飛び掛かる。不意をついたつもりがあっさりと避けられ顔面に膝蹴りを貰った。
「諦めろ。お前達では私は倒せん」
「うるせぇんだよ!てめぇが倒せねぇとか関係ねぇ!」
心底馬鹿らしい。そんな風な表情で、明示は呟く。
「なぜ、あんな能力の容れモノ如きにムキになる?」
時雨の怒りが、爆発しそうになった。
平子が、声を荒げて怒ろうとした。
だが、そんな二人の感情さえも、明示の精神すら凍り付いた。
そのーーーー一人の声によって。
「ふ ざ
け
る
な 」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.194 )
- 日時: 2016/09/26 21:53
- 名前: 波坂 (ID: hSqi2epP)
「な……ぜ……だ」
その声が、他の音を全て殺した。
勿論、音が無くなった訳ではない。
ただ、その声の圧倒的な存在感が、他の音を認識させていないのだ。
「何故……だ」
フラリフラリと、何度も何度も崩れ、それでもなお立とうとする、そんな人影の発する声は、まるで怒りを何千倍にも圧縮したような声だった。
「貴様らに……貴様ら如きに……」
その声が、平子を恐怖で支配した。
崩れて膝を着く平子。しかし、その視線をそれから背けることはできない。
「何が……分かる‥…アイツの……天澤の……何が分かる……」
その声が、時雨をその場に縛り付ける。まるで金縛りにあったかのように、微動だにしない時雨。
「アイツほど……天澤ほど……心優しい人間が他にいるのか……!気遣いのできる人間がいるのか……!」
その声は、常に冷静を保ち平然としていた明示ですら、その顔を恐怖一色に染めていた。
「天澤の何が悪い……!天澤の何が気にくわない……!天澤が何をした……!」
絞り出すように、濃密な怒りと哀しみの感情の弾丸が、その灰色の髪の人物から放たれる。
「ふざけるな!いい加減にしろ!何故罪無き天澤が!貴様のような人間の屑の肥やしにされなければならない!
何故お前は!お前達は!天澤を否定する!天澤秋樹という一人の人間を肯定しない!何故『未来を予知する能力』のみを認め天澤を認めようとしない!
天澤を否定するのは許せん!例え貴様にどのような理由があろうともだ!」
涙。
風間の、緋色の瞳から漏れるのは、一筋の水だった。
風間が泣いたことなど、あっただろうか。
それを自分の為ではなく、他人の為に流したことなど、あっただろうか。
「天澤のような人間が損をし、貴様のような屑が得をするだと!?
消す……!殺す……!そんなものは全て全て俺が殺して消して存在そのものを無くしてやる……!」
風間が、そのロクに動きもしない体を、後先考えずに持てる全力を挙げて、明示に殴りかかった。
明示がかろうじて意識を取り戻し、それに応戦しようとするが、フラフラの風間のストレートが顔面に突き刺さる。
「効かぬ!」
明示の放った拳。風間を一メートルほど吹き飛ばしたそれの威力は高い。
明示が膝に手を付き安心したのも束の間、風間の動くはずも無い体が動かされる。
筋肉が悲鳴を鳴き叫ぶ。骨が苦痛を訴える。
だが風間は止まらない。例え何度打ち倒されようとも、そのスクラップ同然の体を動かし、殴られて腫れた顔を上げ、泥臭く無様にしがみつく。
また、一発。みぞおちに拳が入り風間の体が膝を着いて倒れる。だが風間は諦めない。
また、一発。突き飛ばされ風間の体が背中から床に這う。だが風間は止まらない。
また、一発。顔面を殴られて宙を舞い、床に音を発てて打ち付けられる。だが風間の炎は消えない。
もう風間に、止まる理由も思考も選択肢も存在しない。あるのは一つ。目の前の人間を倒すという思考だけ。
なぜなら、明示は、紡美を、碧子を、そして天澤を『容れモノ』扱いしたのだ。
風間はそれを許さない。自分がどれだけ傷付こうがどうでもいいが、天澤を汚すのは許さない。
血まみれスダボロ呼吸難。三拍子揃ったやられ様。だが風間はそれでも往生際悪く、泥臭く、諦め悪く。三拍子揃った無様な格好悪さを見せながら、それでも風間は止めない。
ーーーー後悔、させる。
風間の拳が明示のみぞを捉える。しかし明示は苦しそうに顔を歪めただけで、風間のがら空きの顔面を容赦なく殴る。
もう何度目かすら検討も付かない快音。しかし風間は立ち上がる。
「貴様は……何だ」
明示が小さく呟いた一言。風間は、それよりも小さな声で応じた。
「……貴様を……倒す……それだけだ……」
明示が、小さな動揺を見せる。
それを、風間は見逃さない。
「あああああああああああああああああああああ!」
風間の放った拳。
それは明治の顔面を完全に捉え、鼻を潰して殴り飛ばした。
一メートルほど吹き飛んで、明示が脳震盪を起こして気絶した。
ーーーーざまぁみろ。
そしてーーーー風間がその殴った姿勢を直さずに、そのまま床に倒れ込んだ。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.195 )
- 日時: 2016/09/28 21:34
- 名前: 波坂 (ID: hSqi2epP)
風間が倒れ伏し、そのまま動かなくなる。
意識を失ってしまったようだ。むしろ先程まで本当に意識と言えるものが存在していたかすら怪しいレベルの様子だったが。
風間の最後の一発を受けた明示も、同じくして動かない。
「……限界って奴……か」
時雨の弱々しい声。追い掛けるようにして、ドサリと倒れ込む音。
平子が振り返ると時雨が俯せになって倒れていた。その紅の髪が段々と黒に染まっていく様をじっくりと見つめる平子。
相変わらずよくわからない人って訳ですよ。そんな感想を胸の内で述べながら、手をついて立ち上がる。先程の余韻がまだ残っているのか、膝はガクガクと笑っている。
足を奮い立たせ、取り合えず安定して立つ平子。深呼吸をすると血の臭いが鼻を突き刺して思わず吐き気が誘われる。
回りを見れば世紀末もよいところな戦場跡地が広がっている。余さず砕かれた窓ガラスや爆発した精密機器はここでどの程度の力が使われたか如実に語っていた。
「取り合えず……終わったって訳かな……」
が、その考えが甘い事を平子は思い知らされる羽目になる。
フラリと紡美が立ち上がった。何故か手錠や鎖は全て外されていた。
多少の疑問を抱いた平子だが、正直それはどうでもいい事。むしろ外す手間が無くなったと思ってすらいた。
そのまま平子は紡美に近付く。それを察したかのように、紡美もそちらを向いた。
その距離が50cm程度まで埋まる。改めて紡美の顔が目に映る。
高校生にしては幼い容姿。黒い髪のショートヘアー。柔らかそうな頬。やはり親友の古都紡美である。
ーーーーしかし平子はどうしても違和感を感じてしまう。
それを自分の勘違いと判断した平子に、紡美が抱き着いた。
軽口を添えて頭を撫でようとした平子。
しかし、それは腹部に襲い掛かった強烈な熱さで中断されてしまう。
「ーーーーえ?」
思わず数歩たたらを踏み、紡美から離れた平子。
そしてーーーー自分の腹部に突き刺さった折り畳み式のナイフの刃が、明かりに照らされて妖しく光った。
激痛を腹部に感じた。どうやら切り裂かれた痛みを熱と勘違いしたらしい。
急いでナイフを抜く。すると更なる激痛が平子の腹部を突き刺し、血液が止めなく溢れ出る。藍色と混ざり合い深い紫に染まるブラウス。
反射的にその血に塗れたナイフを放る。クルクルと回転しながら床を滑り壁に当たって小さな音を出す。
「痛ぁい!」
声をあげて痛がる平子。だが思考回路は働いている。
ーーーー誰?誰の仕業?
ーーーーまず風間さんと時雨さんは除外だ。勿論碧子ちゃんも紡美ちゃんも青い髪の人も除外。だったら、あの人?
平子の視線が明示が倒れていた場所に向く。
明示は倒れていたーーーーが、目は開いていた。そして平子が視界に入れると同時に瞬きをした。
ーーーーアレを、止めれば。
紡美がナイフを拾う。それを傍目に腹部を押さえて明示の元へ向かう平子。
この時幸いだったのは、人質の中でまともに体が動くのが紡美だけだったことだ。他の二人まで動かされては最早平子に希望の二文字は見当たらなかっただろう。
紡美が平子に向かって走る。平子は気にせず明示を目指す。
平子と明示の距離は残り3m、対して紡美と平子の距離は5m。
それは間に合うかのように思えた。がーーーー平子の腹部が強烈な激痛を発信し続けてていて、平子の足取りはフラフラだ。
そして明示との距離が1mほどになったときだった。
紡美が、親友に向かって、そのナイフを振り下ろし、背中に突き立てたのは。
「ぎあぁぁぁっ!」
堪え切れずに漏れた、痛々しい悲鳴。
そのまま紡美が、ナイフを深く押し込む。
当然、燃え上がるように激化するのは痛覚。
「ああっ!ぎっ!あっ!」
だが、平子はそれに負けない。点滅する視界と段々と無くなっていく触覚という、頼りない感覚神経共に頼り、ポケットかあるものを引き抜く。
重く冷たいそれは、どこか危険なフォルムをしていた。
『使え。とは言わないわ。ただ、それ脅し目的なら大分使えるわよ。あ、安全装置は外してないから。……じゃ、後頼むわよ!』
聖林寺の声が、平子の頭で反響した。
そして、平子が真っ先に思ったこと。それはーーーー
ーーーー安全装置を外して。
ーーーーえっと……こう?
そして平子がーーーーそのポケットから取り出した、黒光りする拳銃の引き金を、明示に向かって絞った。
強い衝撃が伝わり、思わず銃を落とした平子。
銃声に刺激された耳がキーンと鳴る。
そして、明示の頭が、真っ赤に弾けた。
血の噴水に鉄の香りを感じながら、平子はそのまま俯せに倒れた。
「……駆け付けてみたらこの有様ねぇ……。
平治郎さんの頼みを聞いて正解だったわ」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.196 )
- 日時: 2016/10/01 07:16
- 名前: 波坂 (ID: aU3st90g)
第7章、〜無彩色は何の為に〜、エピローグ
エピローグ1.黒は守るべき少女の為に
十橋時雨は右手に花束を手にぶら下げていた。左手にはビニール袋が下げられている。
身に纏うのは喪服の代わりの真っ黒いスーツ。
背丈の高い時雨が見下ろしていたのは、元々黒ビルだった瓦礫達。影雪によって完膚無きまでに破壊されたそれは最早原型がどうのこうのと議論を重ねるだけ無駄なように思える。
三日。
そう、時雨が寝込んでいた期間だ。
その三日の間に、特殊警察は現場の取り調べを終えていたらしい。ここに来た際には黄色いテープが事件現場を取り囲んでいただけ。他は数名の見張りがいたのみだ。
「……」
何も言わない時雨。無表情で花束を置き、ビニールから線香を取り出し、今時使う機会も少なくなったマッチ棒で火を付け線香の先端を燃やす。
その蛇のような、くねくねとした動きで白い煙りは空へと上がっていく。
その線香を適当な瓦礫の上に置き、黙って両手を合わせて目を伏せて合掌。
暫く不動。束の間の静寂。
耳に入るのは、ただ遠くに聞こえる街の喧騒。
その後時雨は目を開けて、ただ目の前の瓦礫達に目を向けた。
「……ゴメンな……鸛……お前を……守れなくて……」
時雨がその言葉を発し、踵を返して帰宅しようとしたその時だった。
ーーーーその血色に染まった鉄線が目に映ったのは。
「……」
無言でそれの元に近寄る時雨。不安定な瓦礫達を踏み越えた先にそれはあった。
その細い鉄線を頼りに、瓦礫を次々と退かしていく。ガランガランと瓦礫の破壊音が流す、粗い合奏曲。
その一際大きな瓦礫を両手で持ち上げ後ろに投げた時、それは姿を現した。
ーーーー周りの灰色の景色とその闇色の長髪の奏でるコントラストは刺激的過ぎた。
ーーーー顔に付いた幾つもの赤い斑。それはまるで液体を乾燥させたような質感だった。
ーーーーレディーススーツにリュックサック。そしてリュックサックからは何十本もの鉄線が伸びている。
ーーーー一際目を引いたのは、その腹部に開いた大きな傷。水筒一つ分程度の大きさの円柱をくり抜いたかのような傷。
ーーーーその唇は紫色となっていた。目は伏せられている。そして安らぎを得た安堵の表情。
時雨の顔に、水玉がまた一粒。また一粒と伝う。
それを起こし、そのまま両腕でガッシリと抱きしめる。
こんなこと、時雨にはできなかった。
相手が死んでいなければ、時雨にはできなかった。
「畜生……」
「畜生がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!鸛ぃぃぃぃぃぃ!」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.197 )
- 日時: 2016/10/02 12:50
- 名前: 波坂 (ID: aU3st90g)
散々涙を零した時雨は、鸛だったものをその場に置いて、その場から立ち去った。
黄色のテープの前で待っているのは碧子だ。頭に包帯を巻いていたり、左腕と右足に包帯を巻いているが、それでも相変わらず白衣にワンピースの奇抜な服装をしている。
「時雨、終わった?」
碧子にはあえて来ないように頼んでいた時雨。自分の情けない姿を見せたくなかった。というのも理由の一つとして上げられるだろう。
時雨は碧子の言葉に全くの反応を示さず、黙っているだけだ。
「どうしたのー?時雨?」
「……なぁ、碧子」
ようやく言葉を発した時雨は、とてもどんよりとした目をしていた。
そして、唐突にその場に膝を付き、碧子に抱き着いた時雨。
突然の行為に驚愕を覚え、慌てる碧子。
「し、時雨?何をやってるの?碧子、そんな趣味があるなんて知らなかったよ?」
軽口を混ぜて冗談気味で言葉をかける碧子。
だが、時雨はそんな言葉に耳を貸してはいなかった。
ただ、碧子の体に、涙を零しつづける顔を押し当てて、華奢で折れそうな体を抱きしめ、言葉を続ける。
「お願いだ……頼む……碧子‥…。
お前は………‥お前だけは……俺の前から……消えないでくれ……死なないでくれ……碧子……!」
「俺を……‥…一人にしないでくれ……」
時雨は、無敵で完全で、全てを救えるヒーローではない。
弱虫でちっぽけな存在なのだ。人の屍を、一人では踏み越えられないほどに、弱虫だ。
ではそんな時雨に、碧子は失望するだろうか。
「……うん。分かったよ」
答えは『否』
碧子は知っている。
時雨は、常人離れしているのは肉体だけだと。
偽善者を名乗っている時雨は、ただの仮面でしかないと。
精神は、心は、普通の人間と、なんら変わらない。ヒーローみたいな強さは無いと、知っている。
それでも、碧子はその仮面の時雨と『本当の時雨』を愛し続ける。
なぜなら、碧子は救われてしまったのだ。時雨の一言で、たった一つの言葉だけで救われ、時雨によって、人生を変えられたのだ。
だから、もう後戻りなんてできない。それほどまでに、碧子は時雨に恋をしてしまっているのだ。依存にも置き換えられらほどの愛情を、碧子は持ってしまったのだ。
ーーーー碧子は、ずっと時雨を愛し続けるよ。例え時雨が凶悪な犯罪者になっても、碧子を嫌いになっても、碧子は愛し続ける。
ーーーーだって、好きになっちゃったから。
その小さな手を、時雨の頭に乗せて、赤子をあやすように撫でる。
いつもは撫でられる側だった碧子。撫でられるのが好きだった碧子。だけどこれも悪くない。碧子はそう実感していた。
「碧子は、時雨が……時雨が守ってくれてる間は、ずっと時雨の傍にいる。
勿論、碧子を守るために時雨が傷つくのは嫌だよ?だけど……時雨はいいって言っても守るもんね。
だから、時雨は……碧子のヒーローになって?碧子の前では、ヒーローでいて?」
「……ああ、俺は碧子のヒーローだ……ずっと守る。誰にも渡さない……」
そして、時雨は再び碧子を一層強く抱きしめ、嗚咽を漏らし始めた。
まるで、今まで溜めていた全てを吐き出すかのように、小さな温もりを感じながら、時雨は涙を零し続けた。
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