複雑・ファジー小説

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超能力者と絶対に殴り合う能力
日時: 2018/03/26 17:23
名前: 波坂 (ID: KLUYA2TQ)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=359

初めましての方は初めまして。それ以外の方はこんにちは。
波坂なみさかと言う者です。
意見や感想、アドバイスなどは大変嬉しいのですが、それが的確なものであるかどうかを一度確認してから投稿して下されば幸いです。
宣伝などはできる限り控えて下さい。

※リンクは能力の募集に繋がっています。よろしければどうぞ

2015/10/17 スレッド設立
2017/01/18 受験の為、更新停止
2017/03/07 受験終了。更新再開
2017/03/28 参照回数8000突破
2017/05/14 参照回数9000突破
2017/9/01 参照回数10000突破
2017/12/15 参照回数11000突破
2018/2//13 参照回数12000突破

Twitter創作アカウント→@namisaka_sousak

【目次】
第一章>>1-21 第二章>>23-31

第三章>>32-46 第四章>>47-67

第五章>>68-77 第六章>>78-104

第七章>>105-202 番外編>>203-215

第八章>>219-236 第九章>>237-269

第十章>>270-現在更新停止

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.158 )
日時: 2016/08/06 06:33
名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)

平野平子はただの一般人であった。
しかしーーーー偶然が幾重にも重なり、少女はいつしか裏側に辿り着いてしまった。
そして、裏側を知った少女は。

もう、表の人間にはなれない。

理不尽な迄に一方通行の境界線。

片足を突っ込めば、そのまま全身が呑まれていく。

それが、この国の裏側。







「ー私達と一緒に来んか?」

唐突なそのセリフに平子の頭は完全な迄に思考回路が凍結し始める。
そもそも、何故自分なのか。
これは、何を問う質問なのか。
そして、私は一体何をしたのか。
平子の頭の中を疑問達が駆け巡り軽いパニックを引き起こす。

「え?あれ?え?え?はい?」

混乱した状態で何とか返事をしようとするが、文が頭の中でミキサーにかけられたかの様にバラバラのぐちゃぐちゃになっていく平子の脳内。

「……済まぬ。おぬしには少々説明が足りんかった様じゃな」

未だに整理の付かない平子を前に、出雲悠は少々考え込んだ後、ポンと手を叩く。

「そうじゃな。まずは私達の実態を説明せねばならぬのう」

「実態?」

混乱した平子の頭が徐々にクリーンになっていき、思考回路が解凍されはじめた頃にようやく平子は返事らしい返事を返す。ただし言われた事を繰り返すだけの単調な言葉だが。

「私達は政府直属の所謂秘密組織じゃな。主に政府の要望に応じて活動をしておる。
組織名は『シャドウウォーカー』。影を歩く者。という意味じゃ。
私はそれの長を勤めておる。聖林寺は副長じゃな」

「ちょ、ちょっと待って下さいって訳ですよ!
な、何ですかそれ。政府の組織?シャドウウォーカー?意味と訳がわからないって訳ですよ!」

慌てた様な、焦る様な、そんな様子の平子は空気中に忙しく手を動かし身振り手振りでひたすらに『意味がわからない』とジェスチャーを繰り返している。



「出雲さん、相手は詰め込むだけでは理解してはくれないわよ。
平子ちゃん、貴女もただ理解で出来ないと喚くだけでは何も解決しないわ。理解しようとしなければ、理解なんでできるはずもないわ」

扉から一つの声が二人に投げ掛けられた。
音源にいたのは聖林寺。手にはボコボコにされた中野を引きずっている。

「理解……しようとしていない?」

「ええ、そうよ。
貴女は本当は分かっている。だけど目を逸らしている。
紛れも無い事実があるというのに、それをひたすらに見ないようにして、いつものように振る舞っている。
生憎だけど……そんな事をしたってもう貴女は【裏】に入り込んでしまったわ。
もう貴女は……普通の『表』の住人には……戻れないわ」

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.159 )
日時: 2016/08/07 07:15
名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)

「……ごめんなさい、出雲さん。悪いけど平子ちゃんを借りるわよ」

「まあ、こういった説明は聖林寺の方が向いておるからのぉ。うむ、許可する」

「ありがとう。さ、平子ちゃん、付いてきて」

平子の手をとってその部屋を出ていく聖林寺。
平子はされるがままに連れていかれた。
頭の中で、先程の聖林寺の発言の事を考えながら。







小さな部屋に連れていかれた平子。どうしていいのか、わからなかったが取り合えず目に付いた椅子に座る。その無遠慮さは我を失いそうになっている今も健在だった。
向かい側に聖林寺が平子に向き合うように座り、足を組んで平子に問い掛ける。

「まずは、何から聴きたいのかしら?」

何から、と言われても特に思い付かないなぁ……と思う平子に一つの疑問が頭に過ぎる。

「あの……紡美ちゃんは……どうなっちゃったって……訳ですか?」

その事を質問した時、一瞬だけ聖林寺が唇を強く噛んだ。

「……教えてあげましょう。古都紡美ちゃんは……能力者よ」

「ーーーーは?」

目を伏せながら放った聖林寺の言葉を平子は思わず声を上げてしまう。

「な、なんで……?」

「貴女、確か梅雨の事件に関わっているわよね?」

梅雨の事件。その言葉に平子は手を頭に当てて記憶を漁る。

「あーーーー」

そう、梅雨にあった事件となればあのことしか平子の頭には浮かび上がらなかった。

ーーーーかつて、里見甲人が黒髪を誘拐し、その脳を弄って無理矢理能力を発現させていた事件だ。

しかし、平子には未だに全貌が見えない。
そんな煮え切らない平子に多少なりとも苛立ちを覚えた聖林寺はもういいと言わんばかりに言葉を吐き出し始める。

「教えてあげましょう。古都紡美ちゃんはあの事件の被験者の中のーーーーたった一人の成功者よ」

かつて、平子は無理矢理能力を発現させられた人間を目撃した事がある。
そう、まるで操り人形の様だった。感情と呼べるものが器に入っていなかった。
まるで機械の様だった彼等と、喜怒哀楽に溢れた人間味のある紡美。
どう考えても、結び付かなかった。
でもーーーー。

「そして、発現した能力は[結果と選択を司る能力]。でも本人すら自覚が無かったから、国から通知が行くまで知らなかったみたい」

思い出されるのは、彼女の部屋に横たわっていた、武装した人間のーーーー死体。
考えてみれば、彼女の近くにも、また彼女自身にも、凶器と呼べるものは何一つ無かった。
そう考えるのなら、つじつまが合う。
紡美が何かしらの能力を持っているのなら、妙につじつまが合ってしまうのだ。

「平子ちゃん、少なくとも、これだけは言えることよ」




「貴女一人では、古都紡美ちゃんは救えない。
救うには、私達と手を組むしか無いのよ」

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.160 )
日時: 2016/08/08 06:47
名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)

平子は一人で頭を抱えていた。
もう、自分が何をしていいのか、何をするべきなのか、頭がぐしゃぐしゃになっていく感覚を覚える。
もう!と苛立たしげに机を叩く。バン!と大きな音の後の静寂が、無駄に虚しく平子の心を圧迫する。
頭をワシャワシャと掻き、少し崩れ気味だった髪型がボサボサになっていくが、平子はお構いなしだ。

「どうすれば……」

助けに行く?無理だ。私一人じゃ何もできない。
助けを求める?周りの人を巻き込んで被害を増やすだけ。
じゃあ聖林寺さん達に?私にはあんな世界にいる勇気は無い。

その事を考えて、ふと紡美が住んでいたアパートに幾つか転がっていたものを思い出す。


ーーーー焼け焦げた死体。
ーーーー撃ち殺された死体。
ーーーー砕かれた死体。
ーーーーそして、親友の近くに転がっていた、死体。

「あああああああああああああああああああああ!」

平子の絶叫が狭い部屋の中で反響する。
喉か痛くなる程に叫んだ平子はそのまま机に突っ伏してしまう。

ーーーーもう、ダメだ。私にはできない。こんなの無駄って訳だよ。

平子の心に徐々に諦めの感情が湧き出る。
それと、同時にーーーー平子の瞳から一つ、また一つの水玉が零れはじめた。

余りにも、酷だ。たかが普通の高校生には、重過ぎる問題だったのだ。
そして、何故こんなに自分が悩んでいるかという理由さえ、今の状況的には酷過ぎた。

ーーーー私が弱いから。
ーーーー私には時雨さんみたいな力は無いから。
ーーーーだから、紡美ちゃんも助けられなかった。
ーーーー今から救う事もできない。

自分の無力感に打ちのめされた平子は更に瞳から水玉を零す。
その涙を拭おうとポケットに入れてあったハンカチを取ろうとして、手が震えていてそのまま床に落としてしまう。
そんな事すらできない自分に、平子はまた鬱な感情を抱く。

ーーーーもう、いっそのことーーーー全部、全部、全部ーーーー諦めてしまおうかな。

そんな言葉が思い浮かんだ平子の頭を誰かが優しく撫でる。
え?とその手の先に視線を伸ばす。

「もう、一人で悩んで、そんなになっちゃ駄目じゃない。
相談してくれたって、良いでしょう?
確かに、【シャドウウォーカー】副長の聖林寺は貴女を絶望に突き落としたわ。
でもね、私はそんな貴女を、私として、個人として、見ていられないわ」

聖林寺だった。その顔は優しく彩られていて、平子は少しのゆとりが心にできた様に感じた。

「なん、で、ですか?」

涙ながらの平子の問いに、聖林寺は平子を正面から抱きしめて答える。
聖林寺に暖かい温もりを感じる平子。

「私はね、可能性が好きなの。
だから、その塊でもある子供達が大好きなの。
中でも、貴女は可能性に満ち溢れているわ。そんな貴女を、そんな可能性を、私は潰したくないの。
だから、辛かったら私が相談してあげる。悩みを聞いてあげる。励ましてあげる。慰めてあげる。
勿論変な事したりしたら怒るわよ。でもね、これだけは覚えておきなさい」



「私は貴女を見捨てない」

「ひじ、りんじざぁん!」

平子が聖林寺を強く抱きしめる。
まるで、赤子の様に。

「ひっぐ、えっく、ひじ、りんじ、さぁん!」

嗚咽を漏らしながら、自分の顔を聖林寺の胸に押し付ける。
そんな様子を見て聖林寺はニコニコと笑いながら頭を撫でる。

「あらあら、そんなに辛かったのね。よしよし」






私は可能性が好き。
だって、環境や運等の要素次第では思いもよらない方向に伸びたり、期待以上の成長をしたり、面白いじゃない。
でも、可能性を潰すのは嫌い。
そんな芽を摘み取る真似は、私の前では許されない。
だからかしら。
ーーーー開花しそうな、だけど折れそうな、潰れそうな可能性を見て、助けたくなったのは。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.161 )
日時: 2016/08/09 08:07
名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)

少し前は聖林寺さんの三人称での表記は「五音」でしたが、最近は「聖林寺」にしています。






「それで、結論は出たの?」

聖林寺が平子に問いかける。
平子は明確な、強い意志を持って答える。

「はい」

「そう、それで、どうするのかしら?」

「私はーーーー」








「ただいまー」

と、言っても家の中からは誰も返事をしない。
胸を撫で下ろす平子。玄関を上がり真っ直ぐ自分の部屋を目指す。
引き出しから自分の服を取り出し、そのままシャワールームへ向かう。

「ふぅ」

約一日ぶりに浴びたシャワーはとても気持ち良いいなぁ。と感想を抱く平子。
雨に打たれて凍えていた身体も温めたいのだが、身体の前に髪を洗わなければならない。
平子の場合まず髪を洗うのだが、これがまた面倒である。
まず髪をクシでとかしてから水で濡らす。髪が長いのでこれがまた結構面倒だったりする。
シャンプーをよく泡立ててから、頭皮をマッサージするかの様に馴染ませて髪を丁寧に洗っていく。いつもの平子からは考えられない様に丁寧にだ。
再びシャワーでシャンプーの泡を流し、髪のぬめりが無くなるまで続ける。
身体をボディーソープで洗い、その泡をシャワーで流す。身体を擦ると滑る様な音がしたことに平子は若干のどや顔をした。
その後もシャワーを浴びていた。その間少し考え事をしながら。





「シャドウウォーカーへのお誘い……断ります」

「ふーん、じゃあ紡美ちゃんは諦めるのかしら?」

「私、考えてみたんです。仮に、私を助けるために紡美ちゃんが、こんな腐った世界に入ったら、多分私は罪悪感で押し潰されそうになると思うって訳ですよ。
だから私は、シャドウウォーカーの力は借りません」

「……全く、その腐った世界とやらの住人の前でそんなこと言わないの。
わかったわ。貴女が【シャドウウォーカー】に入る気は無いことを出雲さんに伝えておくわね」

「はい、よろしくお願いします」

「じゃあさっさと行きましょう」

「ほぇ?」

「だって貴女、面白いんだもの。まさか断るなんて思いもしなかったわ。
やっぱり貴女は可能性に満ち溢れてる。
そんな貴女を私はむざむざ死なせたくないのよ」






濃い藍色のブラウスに水色の短パン、白いベルトに白ニーソックスに着替えた平子は部屋の中で準備をする。
とは言っても、平子が持って行くのは今平子が手にしているスタンバトンだけなのだが。
因みにこのスタンバトン。結構高性能なギミックがある。
例えば、今まで説明していなかったスタンガン機能。これはスイッチを入れるとスタンバトンの打撃部分に電流が流れるという機能だ。
スタンバトンバトンを収縮させてスカートのポケットに突っ込む平子。
自分の部屋からキッチンへと向かい、そこの引き出しに入っていたカロリーメイトを数箱取り出してビニール袋に下げ、玄関へと戻る平子。
と、そこである人物に鉢合わせした。

「父さん……」

「こんな時間にお出かけって訳か?平子」

平子の父、平野平治郎だ。
平子は目を逸らす。今から危険な場所に足を突っ込もうとしているのだ。親である平治郎が止めないはずが無い。

「父さん、私、行ってくる」

「流石にこんな時間に出かけるのはおかしいって訳だぞ。平子、戻りなさいって訳だ」

平子がごまかそうとしても、平治郎はそれを良しとせず、頑なに通そうとしない。
しかし平子も諦めはしない。じっと平治郎の目を真っ直ぐに見つめ続ける。
そんな平子に根負けした平治郎はため息をついて家のドアを開ける。

「お父さん、用事ができたって訳だ」

そのまま平治郎は何処かへ行ってしまう。実はこれは平子の様子の原因を知るために中央エリア元首、織宮織香の元へ向かっていた。

「……ありがとうって訳だよ、父さん」

平子は家の鍵を閉めて、約束の場所へと向かった。
聖林寺との、待ち合わせ場所に。







カロリーメイトをモキュモキュと食べ、傘を差しながら歩いている平子の視界に一つの人影が映り込む。
コバルトブルーの髪が風に吹かれて揺れていた。雨が降っているが、その人影に傘を差す様子は無かった。
なぜなら上に薄青色のガラスの様な壁ーーーー障壁が雨粒が入ってこない様にしているからだ。

「あら、来たのね」

「はい」

「じゃあ、行きましょうか」

聖林寺がポケットから取り出したのは鍵。
平子が何の鍵か聞こうとした時、聖林寺が近くに止まっていた軽自動車な鍵をボタン操作で解除した。聖林寺に手招きされるがままに乗り込む。
平子は知らない車内に座りながら、窓の外に広がる雨模様を見つめていた。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.162 )
日時: 2016/08/09 18:26
名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)

「見えて来たわよ」

聖林寺のその言葉に平子は少々眠たげに目を擦って前方を見る。

「ハッカーから貰った情報によると……あの真っ黒いビルね」

「……あのビルだったんですね」

通称黒ビル。かつて平子が紡美と共に見に行った建造物である。
聖林寺が平子にシートベルトをするように促す。平子は少々の疑問を抱きながらもそれに同意しシートベルトをかける。

「うーん、やっぱり警備が厚いわ。
それだけ、古都紡美ちゃんを渡したく無いのかしら」

聖林寺はいつの間にか双眼鏡を覗き込んでいた。自動車は信号待ちなので事故にはならない。
信号が青に変わったので双眼鏡を平子に手渡す。それを覗き込んだ平子は「……わー」と少し絶望気味に呟く。
実際、警備の人数が信じられない。
まるで宗教団体だ。100人は下らない人々が黒ビルの敷地内から敷地周辺をくまなく警備している。

ーーーーあんな、危険なものを相手にするのかぁ………。

平子の心臓がバクバクと音を鳴らし始める。警報するかの様なその音に平子は段々と手が震え始めていた。
ふと手に湿り気を覚えたと思えば、手汗が尋常では無いほど湧いていた。
段々と呼吸が苦しくなっていく。酸素を吸っている心地がしない平子が少しずつ顔色を悪い方向へ変えていく。

「まぁまぁ、そんなに緊張しなくてもいいのよ」

そんな慰めの言葉の直後に平子は謎の違和感を覚えた。
違和感というか、変な感触を覚えた。
聖林寺の方を向くと聖林寺の右腕はハンドルに、左手はーーーー平子の胸に伸びていて、平子の胸を掴んでいる。というか揉んでいる。

「ふふん♪手の平に丁度よく収まるわね♪Cカップ辺りかしら?」

ニヤニヤとしたその顔と、容赦なく胸を揉む聖林寺に平子はたまらず叫ぶ。

「せ、セクハラぁっ!」

聖林寺の手を振り払って羞恥に顔を染める平子。そんな平子を見て聖林寺は「いじりがいがあるわね〜♪」とニコニコとした笑みを浮かべる。

「ひ、聖林寺さん?」

「冗談よ。貴女、緊張で様子がおかしかったもの。だから、ね」

まともな人モードに戻った聖林寺を見て平子はほっと息を吐く。

「でも平子ちゃんの胸は柔らかいわね〜♪」

「聖林寺さん!」







「本当に……見た目は我が子とそっくりって訳ですな……。
織宮さん、じっくりと話を聞かせて貰いましょうかな?」

むぅ。やっぱり実の娘と殆ど同じ容姿だとマズイわよねぇ。
少しの間黙り込んでしまう私を更に怪しむ平治郎さん。
あ、一応伝えておかないと。

「言っておきますが、この子を造ったのは私じゃないわよ?」

「マスター、先程からお客様とマスターの会話の内容が不明瞭です。
確かに私はマスターの手によって生み出された個体ではありませんが」

平治郎さんは少し考えるように顎に手を付ける。
しばらくした後、平治郎さんは彼女に声をかける。

「大変失礼という訳だけどお嬢ちゃん。名前を教えてくれないかな?」

彼女はこちらに目線を向ける。どうやら私に教えてもいいかと許可をとっているらしい。別に許可しない理由も無いので首を縦に振る。

「私の名前は平雨平瀬ひらさひらせです。以後お見知り置きを」








段々と黒ビルが近づいてきた。もう双眼鏡はいらないので適当な場所に置く平子。
そしてもうすぐ降りるだろうとシートベルトを外そうとして、聖林寺に止められる。

「危ないわよ。ちゃんと付けておきなさい」

「え?もうすぐ降りるんじゃ……」

その平子の当たり前の事を聞く問いに聖林寺は全く違う答えを持って回答した。

「このまま突っ込むわ」

平子が数秒間黙る。思考が一瞬だけフリーズしている。
か、それもすぐに解け、平子が説得を試みようとーーーー。

「今から私の車を障壁で囲うわ!でも衝撃は来るから備えてなさい!」

聖林寺のマジな声に掻き消され、一秒後にはエンジンが唸りを上げて車を加速させる。
そして、目の前に敷地を囲うフェンスが現れたと同時に、車の目の前にガラスの薄青色の壁ーーーー障壁が現れ派手にフェンスを破る。
その音に、警備していた人間達が気付かない訳がない。
能力や銃弾。爆弾さえ投げ込まれたが、聖林寺の障壁が周りに張られあらゆる攻撃を弾く。

「……作戦変更ね。平子ちゃん、貴女が単独でビルに乗り込みなさい」

「……わかりましたけど……いつ?」

「とにかく、私に凄いことがあるまでこの車に隠れてなさい。凄いことがあったら、全力で入口まで走るのよ。後は貴女に任せるわ。それとこれ」

ガシャ。と平子に差し出されたのはーーーー黒光りする拳銃。

「使え。とは言わないわ。ただ、それ脅し目的なら大分使えるわよ。あ、安全装置は外してないから。……じゃ、後頼むわよ!」

平子が受け取ったのを確認すると、聖林寺は急ブレーキをかけて車内を飛び出す。
地面に擦れる直前で、地面と自分の間に障壁を作り出しダメージを防ぐ。

ーーーーまだ、だよね。

平子は車内からこっそりひっそり聖林寺を見つめている。
聖林寺は思いのほか高い身体能力で敷地の中心へと走っていく。そこは駐車場だ。
敵の能力者が聖林寺を邪魔せんと踊り出るが、聖林寺は容赦なく障壁で作り出した槍で貫く。

ーーーーまだ。

連なる銃声が鳴り、銃弾が連射銃やマシンガンによってばらまかれる。
が、聖林寺を囲う立方体状の障壁にはやはり通じない。
そして、聖林寺が敷地の中央の駐車場にたどり着く。
聖林寺は障壁を全て解き、深呼吸をして高らかにこう叫んだ。

「【王城防壁】!」







超能力とは、創造力ーーーー想像力から成り立っている。
言ってしまえば、人の想像力から超常現象を引き起こしている。
聖林寺が叫んだ言葉。【王城防壁】これは決して中二病的な心からきたものではない。
聖林寺は想像力を更に高める為に、言葉という『実際にあるもの』をトリガーとして更に具体的な想像をした。
普通の能力者程度なら、少し威力や範囲が上がるだけだ。
だか、もしそれを、殆ど尽きる事は無い創造力と、最高スペックを持つ能力者が行ったとすれば。
それの生み出す効果は、計り知れない。








聖林寺が高らかに叫びを上げた次の瞬間、聖林寺を中心に障壁が広がっていく。
その範囲内に入っていた人間や物体は全て押し出された。
が、変化はそれだけでは留まらない。
更に障壁が何十枚として生成され、それらが一枚のパーツとしてまた一枚、また一枚と重ねられていく。
そしてその積み重ねられた障壁はーーーーいつしか巨大なーーーー城となっていた。
勿論、大きさは実際の城ほどでは無いが、そこら辺の住居を軽々と追い越す程には巨大だった。

ーーーーこれだ!これしか無い!

殆どの敵が聖林寺の作り出した障壁の城に釘付けになっている間に、平子は入口へと駆け込む。
ドアを開けると、ホテルのロビーを思い出させる光景が広がっていたーーーー二人の存在を除けば。

「………オイオイ、中々やんじゃん白髪JK。あの包囲網を突破するとかよぉ」

右腕が肘まで機械質の六角柱に侵食されたサイボーグの一人ーーーー燃焼者が感心した様に声を上げ、口笛を吹く。
だが、平子には燃焼者は余り意識されていなかった。勿論、しっかり認識はされているが、平子には驚きの人物がそこにいた。

「……ホンっト。アンタには良い意味でも悪い意味でも驚かされるよ。平子」

ーーーーネズミ色のレディーススーツ。出会った頃と同じ服装。
そのブロンドヘアーは会った時よりも少し伸びていた。
そのサルファーイエローの瞳は、何処か悲しげにこちらを見ている。

「……ジーナ、さん……」

ハリック・ジーナ。彼女はDHAに雇われた能力者としてその場に立っていた。


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