複雑・ファジー小説
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- 超能力者と絶対に殴り合う能力
- 日時: 2018/03/26 17:23
- 名前: 波坂 (ID: KLUYA2TQ)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=359
初めましての方は初めまして。それ以外の方はこんにちは。
波坂と言う者です。
意見や感想、アドバイスなどは大変嬉しいのですが、それが的確なものであるかどうかを一度確認してから投稿して下されば幸いです。
宣伝などはできる限り控えて下さい。
※リンクは能力の募集に繋がっています。よろしければどうぞ
2015/10/17 スレッド設立
2017/01/18 受験の為、更新停止
2017/03/07 受験終了。更新再開
2017/03/28 参照回数8000突破
2017/05/14 参照回数9000突破
2017/9/01 参照回数10000突破
2017/12/15 参照回数11000突破
2018/2//13 参照回数12000突破
Twitter創作アカウント→@namisaka_sousak
【目次】
第一章>>1-21 第二章>>23-31
第三章>>32-46 第四章>>47-67
第五章>>68-77 第六章>>78-104
第七章>>105-202 番外編>>203-215
第八章>>219-236 第九章>>237-269
第十章>>270-現在更新停止
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.127 )
- 日時: 2016/06/04 14:23
- 名前: 波坂@携帯 (ID: PtJSydhi)
メデューサさんありがとうございます。
二人にはこれからも頑張って貰いますので良かったら楽しみにしていてください。
二次元大好きさんありがとうございます。
これからも頑張って行きます。
続きです。
「助けに来たって、本当の事?」
「そう、本当。さ、付いてきて」
紡美の部屋の奥に進む五音に三人は言われるがままについていく。
ふと五音が立ち止まり、壁に手を合わせる。
次の瞬間、人が通れるほどの穴が壁に空いた。
しかしそれは静かな破壊だった。壁も切り取られたかの様に綺麗な切断面である。
そして五音はその穴から容赦なく踏み出す。平子が「えっ?」と予想外の行動に呆気を取られ、緋奈子の顔が驚愕に染まる。
が、五音は落ちなかった。
何故なら先程三人を守った薄い、青色の付いたガラスの様な壁が今度は五音の足場となっていたのだ。
「驚いた?これが私の能力[障壁を司る能力]よ」
平子の顔が再び呆気に取られ、そして驚愕する。
「あの……」
「聖なるの聖に林に寺、数字の五に音で聖林寺五音よ」
「聖林寺さんは……司る能力者何ですか?」
平子は恐る恐ると言った感じだ。とは言うものの彼女は司る能力に置いて余り良い感情を抱いていない。
具体的にはーーーー貯水施設に投げ込まれたり、片足麻痺させられたり、右腕凍らされたり、コンテナ投げ飛ばされたりーーーー等。
「ええ、中々珍しいでしょう?」
珍しい所の話では無い。
彼ら彼女ら【司る能力者】達は今の所十人程しかおらず、また既に三人が死亡している。彼らに特に共通点は無い。あるとすればその稀少さと、能力の強度である。
現に聖林寺五音は、[障壁を司る能力]を所持しているが、この能力は基本的に一定の圧力に耐え切る壁面を設置したり、また彼女が障壁と判断したものを操る事もできる。
この能力によって生み出される壁は工事用の鉄球を受け止める程堅く、彼女の前ではどんなに強固な壁も意味を成さない。先程の様に静かに破壊される。
また他にも応用的な要素があり、防御系の能力ではハリックジーナの[錠を掛ける能力]を超える存在である。
四人が障壁によって生み出された階段を下っていく最中、燃焼者とアカネ、そして円の戦いは苛烈になっていた。
燃焼者は平子達に逃げられた事に舌打ちをしながらポケットからトランシーバーを取り出す。
「こちら燃焼者ぁ。A班……は古都紡美に殺られたか。B班、取り合えずJK三人とその近くにいる護衛を分断しろ。C班、てめぇらは他にも敵がいねぇか見張ってろ。移動者、お前は仕事しろ」
突如トランシーバーから雑音が聞こえはじめる。どうやら誰かが喋っている様だ。
『こっ、こちらC班!た、大変です!こちらにも能力者が……うぐわぁぁぁ!』
C班の通信役の悲鳴と共に爆発音が聞こえる。
そして燃焼者は一言呟く。
「おいおい……あの無能力者はどれだけの価値があるんだ……?」
飛来するアカネの投げナイフを野球のスイングの要領で弾きながらも燃焼者は劫火を放つ。
そしてその劫火にあるものが念動磁場によって投げ込まれた。
それはーーーー消火器。
爆発音と共にアカネと円の視界がカラフルに染まった。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.128 )
- 日時: 2016/06/06 20:57
- 名前: 波坂@携帯 (ID: PtJSydhi)
一方、平子達四人は障壁によって作られた階段を下り終えていた。
四人の視界に映るのは、激しい戦闘。
赤黒い髪のビニールのレインコートを着た二十代前半の男性と青いメッシュの掛かった銀髪の同じくレインコートを着た女性がその中でも一際目立っていた。
赤黒い髪の男性はレインコートの下にはこの季節にしては暑いであろうトレンチコートを着ていた。その男性は空き缶や石などとにかく手の平サイズの物をひたすらに武装した集団ーーーーDHAに投げ付けていた。
その空き缶等は一瞬潰れた様にひしゃげ、次の瞬間爆発する。その威力は軽く手榴弾に匹敵するだろう。
「ほらほらほら!上手く避けないと死んじまうぜ!」
その男性はこの状況を面白がっている様にも見えた。爆発が起こる度に地面や壁の形が変えられ、それを見た平子は背中にぞっとしたものを覚える。
青いメッシュの銀髪の女性は軍隊の様な帽子を被り、ミニドレスの様な軍服を着ていた。チェーンで装飾されている箇所もあり、履いているブーツには輝く十字のエンブレム。目は色が違い片方は青色。もう片方は淡い緑色。
女性は地面から生える何かを操っていた。あるものは何かを飛ばし、あるものは触手の様なものを伸ばし相手を拘束する。よく見れば銃弾程の速度で打ち出されているのは種で、触手は緑色のみずみずしさがある。
女性が操っていたのは植物だ。ただしその植物はその女性の何倍も大きく育っているが。
「この程度、私には造作も無いことじゃ」
事実、彼女は殆ど動いていない。なぜなら彼女は植物で攻撃し、植物で防御をしているからだ。異常な程長いツタはそれをしならせムチの様に攻撃する。異常な程分厚い葉は彼女への攻撃を守る壁となる。異常なサイズの種を飛ばすホウセンカは、最早一つの大砲となっている。
しかし流石は未だに生き残るテログループDHA、彼らの戦闘力は野外戦でこそ発揮される。多人数による波状攻撃、攻撃を阻害する後衛の手際、何より統率の執れた動き。彼等は強力な能力者の二人を押さえ込む事に成功していた。
「出雲さんと俊介君は頼れないわね……」
五音はあの二人ーーーー中野俊介と出雲悠ーーーーを押さえ込まれた事に対してDHAの厄介さに舌打ちをする。俊介は[爆弾を操る能力]、自分の触れたものを一つ爆弾にする事ができる能力を持っていて、悠は[植物を操る能力]を持っている。この二人を同時に押さえ込むとなれば司る能力者である五音にも難しいかも知れない。
仕方なく一人で平子達を避難させなければならなくなった五音はここから移動しようとする。
突如、発砲音が耳を貫く。
五音が反射的に自分の前に障壁を作らなければ、赤い液状の花が舞っていただろう。障壁によって弾いた銃弾をみて五音はそう理解する。
発砲した人間を特定し、五音は少し固まった。それ程までに、目の前の人物は意外だったのだ。
「平子……なんでアンタここに居る訳?」
その声は平子にとっても衝撃的だった。
ブロンド色の髪を肩甲骨の下まで伸ばしたロングヘア。サルファイエローの瞳に線の細い身体。
「ジーナ……さん?」
そこに居たのは、銃口を五音に向けるハリック・ジーナだった。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.129 )
- 日時: 2016/06/09 19:57
- 名前: 波坂@携帯 (ID: PtJSydhi)
今回約3000文字くらいあります。
分かりにくい事があったら言ってください。
続きです。
ジーナは苦虫を噛み潰した様な表情をした後にため息を着く。
そして銃を持つ逆の手で頭を掻きながら平子に話し掛けた。
「全く……なんでアンタは頼まれても無いのに【裏】(こっち)に来ちゃうんだろうね?アンタみたいな奴は、【表】(そっち)で平和に生きるのが良いに決まってんのに……ね」
「ジーナさんこそ……何してるんですか?」
平子も分かりきっていた。確証していた。
だが認めたく無かった。嘘であって欲しかった。
しかし平子の幻想は打ち砕かれる。
なぜならこの国は超能力という異能が横行する夢の様な国でもありーーーー
「仕事だよ。私の仕事」
ーーーー最も闇の深い国だ。
「危ない!」
緋奈子がそう叫び、次の瞬間平子が横殴りの圧力に襲われる。
平子は成す術もなく念動磁場によって吹き飛ぶ。
そのまま街路の植え込みに突っ込んだ平子は少し怒り気味に顔を上げた。だがその数秒後に顔を青く染める。
平子が先程まで存在した位置に男の拳が刺さっていたのだ。
誤字は無い。男の振り下ろしたであろうその剛拳はアスファルトを容易く破壊し肘あたりまでを地中に捩り込んだのだ。
よく見れば緋奈子が平子に手をかざしている。恐らく彼女はジーナに気を取られている間に狙われた平子を吹き飛ばしたのは彼女立ったのだろう。
「やらせないわよ」
その破れたレインコートにネクタイを外したブラックスーツを着た茶髪の男性に向けて五音が障壁を作り出し、それを高速で移動させぶつける。
少しばかり大きな衝突音が耳を突き刺し男性が吹き飛んでいく。
そして五音は吹き飛ばした男性に追い撃ちをかけようと再び障壁を作り出した。
銀に煌めく刃が一閃。
五音の右頬が皮一枚切り付けられた。
「あのさぁ……これアタシも仕事だからさぁ……まぁ、恨みとかは無いけど、相手してくんない?聖林寺さん?」
ジーナが軽い調子で少し鮮血に塗れたナイフを片手で踊らせながら五音に対峙する。
五音は障壁を周りに生成しながらポケットからハンカチを取り出して頬の切り傷に当てる。
「ハリック・ジーナ。貴女は誰にものを言っているのか理解しているのかしら?」
「理解してるも何もアンタも理解してる?アンタの攻撃はアタシに一切通用しないってのにさぁ」
「その言葉、そのまま返させて貰うわ。貴女の攻撃は武器に頼ったもの以外何かあるの?悪いけどそれだけなら私の障壁は破れないわよ」
お互いに言葉を交わすだけで動く事は無い。
なぜならお互いはお互いの事を知っているからだ。
ジーナは知っている。自分の攻撃では五音に通用しないと。
五音は知っている。自分の攻撃はジーナに通用しないと。
そう、お互いに理解しているのだ。自分の攻撃が相手に通用しないことを。
そしてお互いが奥の手を隠していることもまた、理解していた。
五音が障壁を細くし、槍の様な形状で打ち出す。
ジーナはポケットに入れておいた炭に触れる。
錠を掛ける音と共に槍が弾かれた。
ジーナの能力、[錠を掛ける能力]は触れた物体に触れている物質の【錠】を掛ける能力だ。それを使いジーナは服に『炭素』の【錠】を掛けたのだ。
そう、炭ではない、炭素だ。
能力はそもそも能力者の解釈によって成り立っている。この場合、ジーナは炭を『炭』ではなく『炭素の塊』として解釈したのだ。
そして炭素は構造によっては自然物最高のモース硬度を持つ物質ーーーーダイヤモンドとなる。
ダイヤモンドはハンマー等で簡単に砕けてしまう様な脆弱さもあるが、それはあくまで小さなサイズの話である。ジーナの服程のサイズのダイヤモンドならば、障壁の槍を動かしただけでは貫かれる事は無かった。
ジーナが銃を立て続けに三発発砲。だが工事用のクレーンを受け止める障壁はそんな物ではびくともしない。
勿論、ジーナの狙いはそれでは無かった。
ジーナが銃を手放し、腰からあるものを取り出してオーバースローの要領で五音に投げつける。
その物体ーーーー閃光式スタングレネードは障壁に当たり、地面を転がった後に強力な閃光と衝撃を撒き散らしながら爆ぜる。
ジーナは予め目を閉じていたが、五音は反応が遅れ、直にその閃光に目を焚かれるーーーー筈だった。
しかしジーナの狙いに反して五音の前には漆黒に染まった黒い障壁が鎮座していた。その障壁は、まるでプラスチックで出来ているかの様だった。
「私の障壁が物理攻撃だけを防ぐなんて貴女の様な容易い能力と思っていたのかしら?残念だけど私の障壁はいざとなればありとあらゆるものを一定まで遮断するわ」
「丁寧な説明ご苦労様だね。でもさ、流石にそんなあまり日常生活に使えない様な能力と比べられて私の便利な能力を容易いなんて言われても困るだけなんだけどねぇ」
二人の高位防御系能力者の戦いが、そう簡単に決着する筈も無かった。
一方平子達には別の能力者が襲い掛かっていた。
それは移動者である。
先程平子の背後を音もなく襲ったのは移動者だ。無論、テレポートを用いての話。
五音がジーナと戦闘している中で最初に狙われたのは緋奈子だった。
恐らく彼女が一番の厄介だと理解したのだろう。移動者は明らかにおかしい腕力を用いて路上に停められていたバイクを緋奈子に向かって投げ飛ばした。
余りの予想外の事態に緋奈子は焦燥を覚えつつも念動磁場を使ってバイクを押さえ付けようと試みる。
しかし、減速したもののバイクを止められなかった緋奈子は自分自体を通常有り得ない軌道で移動させて回避する。
平子が果敢にスタンバトンで移動者の脚を殴り付けるが、金属を殴った様な感触と共に平子の腕が痺れに侵された。そして、一瞬の隙が生まれる。
移動者は鬱陶しい小虫を払うかの様に腕を振るう。
その腕が平子の腹部にヒット。平子の華奢な身体が宙を舞い、アスファルトに這いつくばる。肺から息を吐き出した平子はそのままスタン。
友人の退場に動揺した緋奈子の背後に、移動者がテレポートし無慈悲な蹴りを叩き込む。勢いのままに飛び、アスファルトを跳ねて植え込みに突っ込む。
邪魔者二人を排除した移動者は紡美の方に振り返る。
そして、鈍い音と共に移動者の身体が宙を舞った。
突然の事に対応が遅れ、諸にアスファルトに全身を打ち付ける移動者。すぐに立ち上がり体制を立て直す。
紡美のやった事は単純だった。
鉄パイプを持って、移動者を下から殴り付けた。ただそれだけだった。
しかし幾重にも偶然と奇跡がたまたま積み重なり、少女の一撃はサイボーグの中でも一番の重量である移動者を吹き飛ばした。
まぐれだ。そう片付けて移動者は再び紡美を狙う。
今度はテレポートして背後に回った移動者。
そしてーーーー彼の顔面を鉄パイプの鋭いスイングが襲う。
偶然にもその鉄パイプがへし折れ、その折れた部分が街灯に跳ね返って移動者の頭を再び殴り付ける。
とっさにテレポートして距離をとる移動者。かなり動揺している自分と血の溢れる頭を押さえ付けながら次の一手の考える移動の思考を中断させたのは能力でもない、兵器でもない、背後から迫るクラクションだった。
一瞬後、移動者の身体がトラックに吹き飛ばされて宙を舞った。そしてーーーー五音が作り、ジーナが弾いた障壁の槍が移動者の肩を突き刺した。
ああ、またやっちゃったな。
また人を、理不尽な目に合わせちゃった。
この力は、私には大きすぎるんだよね。
こんな能力なら要らなかった。私は能力なんて要らなかったし、あっても平ちゃんや緋奈子ちゃんと同じ位の平凡な能力でよかった。
でもなんでだろうね?
なんで私に
[結果と選択を司る能力]なんてものが付いちゃったんだろうね?
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.130 )
- 日時: 2016/06/12 23:00
- 名前: 波坂@携帯 (ID: PtJSydhi)
油断禁物。
そう、この場において油断することは敗北を意味する事と言っても過言では無かった。しかし紡美はしてしまった。
移動者が紡美の背後にテレポートし、スタンガンのスイッチを入れたときは既に遅かった。
電子が弾け、電光と特有の音が弾ける。首筋に当てられたスタンガンは所詮肉体は一般人の紡美には致命的な一撃。
痙攣した後に気絶する紡美。テレポートが瞬時に紡美を抱えてテレポートする。
その場に残されたのは争い合うジーナと五音、倒れ伏した平子と緋奈子だけとなった。
ジーナが隙を見て逃走を謀る。五音が引き止めようとするものの、ジーナがアスファルトに紙の【錠】を掛け、100円ショップで購入可能なライターをその場に放り投げた為に五音は炎に包まれジーナを逃がしてしまった。
障壁で囲んだ小さな部屋で炎を凌ぎながら五音は連絡用の片耳イヤホンを耳に当て、小型マイクを口に当てる。
「こちら聖林寺。悪いけど保護対象を連れ去られたわ。追跡は不可能。そちらの現状は?」
『こちら不知火及びアカネ、こっちも逃げられた』
『出雲及び中野じゃ、こちらも奴らはしっぽ巻いて逃げよった』
五音は下唇を噛んで苛立ちを押さえ込む。
もし、ハリック・ジーナの乱入さえ無ければ保護できていた筈だと思い、無意味なIF論だと切り捨てた。今自分達がやるのは叱咤でも反省でもない。五音はそう気を取り直す。
『うむ、それでは皆の衆、一旦ここから撤退じゃ』
逃げる事だ。
自分達は非合法活動をする組織なのだから。
平子と緋奈子を障壁に乗せて五音は歩き出した。
軽自動車のドアが血で汚れる。
移動者は血を流しながら紡美を荷台に詰め込む。一応手足には手錠が掛けてある。
移動者はテレポートしたのはに逃走用に置いてあった軽自動車を停めた駐車場だった。
荷台を閉めると同時に移動者の足から力が抜け、その場に倒れ込んでしまう。
移動者はずっとある人物について考えていた。
古都紡美。
彼女はただの人間だった筈だ。しかし自分をここまで追い詰めたのもまた彼女だった。色々と疑問はあるが何より疑問は二度目に彼女が鉄パイプを振った時の事だ。あれは流石に出来すぎている。
背後にテレポートした自分に偶然振った鉄パイプが当たり、たまたま鉄パイプが折れ飛んでいき、奇跡的に街灯に当たってそれが跳ね返り自分の頭を殴り付けたのだ。
偶然、たまたま、奇跡、とにかく彼女にはこの三つの単語が多く当てはまる。
運、この三つの単語は全てこの要素に集結する。
では彼女の能力とは?
と、そこまで考えた移動者に声を掛ける者が一人。
「おいおい、いつものクールは何処に落としたんだよ?」
「……燃焼者」
「おいおい、二人きりの時ぐらい名前で呼べよ有人」
「……仕事中はコードネームだ照友」
移動者の本名、無幽有人。そして燃焼者ーーーー照友はそれをしる数少ない人物である。
「……しっかしよぉ。プロフェッサーは何考えてんだ?こんな黒髪のJK連れ去って何するつもりだ?」
「……俺達が知る必要は無い」
「そうかよ。じゃあさっさと車出すか」
「ちょっとアンタ達アタシを置いていくつもり?」
ジーナが近くの車から現れた。
ジーナ本人はDHAとの関係は無いが、今回はDHAが雇った能力者として行動を共にしているため、燃焼者はジーナを車内に入れた。
ジーナは車の中でタバコをくわえる。別にジーナはニコチン中毒ではないが、一定の間布団に入っていないとイライラしてタバコを吸いたくなるのだ。社会的引きこもりは伊達ではない。ちなみに銘柄はLUCIA(ルシア)である。
「ライター持ってない?さっき撒くのに使っちゃってさ」
「いやライターで逃走って何したらそうなるんだよ」
そう言いながら左手のみで車を動かしていた燃焼者が右腕ーーーー機械筒をジーナの方に向け小さな、ロウソクに灯る様な火を出した。
ジーナはタバコに火を付けながらその小さな火に対して一言。
「それ戦闘用じゃないの?ライターじゃん」
『すまんのぉ織宮殿。私達も手を尽くしたのじゃが……』
「大丈夫よイズモン。いざとなれば私が出向くわ。それにまだ貴方達には仕事があるのだから」
『はて、仕事とはな?』
「ええ、前々から思っていたのだけど…………そろそろDHAを【潰す】わ。あの組織は災禍の種を蒔きすぎたわ。伸びすぎた茨を刈り取るのは私の仕事だから」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.131 )
- 日時: 2016/06/14 21:45
- 名前: 波坂@携帯 (ID: PtJSydhi)
結論から言おう。
風間司と天澤秋樹はずぶ濡れだった。
とは言うものの雨はあの後、更に強くなり相合い傘等と言う甘い雰囲気ではなく天澤の出すことが可能な最高速度で風間の家へと向かったのだ。当然ながらそんな状況で一つの傘が役に立つ訳も無く、雨に打たれた末に水を通しにくい性質がある筈の防弾制服が水を吸い、下着に被害をもたらす始末。
取り合えず玄関に一応置いてあった小さめのタオルを天澤に渡す風間。天澤が寒さに震えながら受け取ると肩辺りで切り揃えた青い髪を拭きはじめた。
風間はこれからの事について考えておく。確か今日はカレーを二日分程作る予定だったので冷蔵庫の食材が無い等という事は無い。まずはこの冷えた身体を何とかしなければ。そこまでたどり着いた風間の思考は次の瞬間、そこそこの爆弾を投下した。
「天澤、シャワー使ってこい」
一瞬、天澤が固まる。そして、
「ふぇぁっ?!かかかかか風間さんんん?!なななな何を!?」
風間は馴れた様子で天澤の両肩に手を置いて、錯乱した子供を落ち着かせる様にーーーーその顔には相変わらず鉄仮面が嵌められているがーーーー少し柔らかな声で喋る。
「落ち着け。お前は、少なくとも震える位には身体が冷えているだろう。そのままだと風邪を引くぞ」
妙に落ち着いた風間の声に段々と赤い実が弾けた様子だった天澤も落ち着きを取り戻していく。
深呼吸深呼吸と風間が言うと天澤は言われた通りに深呼吸をする。そして大方天澤が冷静を取り戻しーーーー
「きゃわわわ!」
再び赤い実が弾けた。
とは言うものの冷静になるとはつまり周りの状況が先程よりも見えてくると言う事であり、それはつまり今まで興奮して気が付かなかった風間が両肩に手を置いた上に顔を近付けているという状況を天澤が把握したと言う事だ。
そういうものに対して極端に免疫が無い天澤がどんな反応をするかは最早見らずとも分かる事だった。
因みにこれを落ち着けるのに風間は少々の時間を使ったという。
実際にシャワーの音とは響くものだな。そんな感想を抱きながら風間は人参の皮をピーラーを使って剥くという作業を行っていた。
一方シャワールームは天澤が使用している。
ひたすらに野菜の皮を剥くだけの簡単な作業を行っているとやけに水滴がシャワールームの床を打ち付ける音が耳に入ってくる事に対して風間はふと思った事があった。
ーーーー考えてみれば、初めて入った男の部屋でシャワーを浴びる事はーーーー。
そこまで考えて風間は剥いた野菜の皮を入れておいた冷水の入ったボウルに頭を突っ込む。
ーーーー馬鹿か俺は。何を考えている。しっかりしろ。
しかし一度考えると人の考えとは中々止まらないものである。
ーーーーそういえば天澤の奴、あの身長の割には火麗や平子よりもーーーー。
風間は再び冷水に頭を突っ込む。
しかしながら風間は一度意図的にといえば意図的にその豊満なソレに触った事があるのだから余計にイメージに無駄な修正がかかってしまう。
風間は自分の頭を一度リセットすべく額を壁にぶつける。
しかし予想以上に大きな音がし、シャワールームから天澤の小さな悲鳴が聞こえてきた。
そしてその声によって再び風間の思考はそちらに傾いてしまいーーーー。
風間はもう一度、額を強く壁に打ち付けた。
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