複雑・ファジー小説
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- 超能力者と絶対に殴り合う能力
- 日時: 2018/03/26 17:23
- 名前: 波坂 (ID: KLUYA2TQ)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=359
初めましての方は初めまして。それ以外の方はこんにちは。
波坂と言う者です。
意見や感想、アドバイスなどは大変嬉しいのですが、それが的確なものであるかどうかを一度確認してから投稿して下されば幸いです。
宣伝などはできる限り控えて下さい。
※リンクは能力の募集に繋がっています。よろしければどうぞ
2015/10/17 スレッド設立
2017/01/18 受験の為、更新停止
2017/03/07 受験終了。更新再開
2017/03/28 参照回数8000突破
2017/05/14 参照回数9000突破
2017/9/01 参照回数10000突破
2017/12/15 参照回数11000突破
2018/2//13 参照回数12000突破
Twitter創作アカウント→@namisaka_sousak
【目次】
第一章>>1-21 第二章>>23-31
第三章>>32-46 第四章>>47-67
第五章>>68-77 第六章>>78-104
第七章>>105-202 番外編>>203-215
第八章>>219-236 第九章>>237-269
第十章>>270-現在更新停止
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.183 )
- 日時: 2016/09/13 21:21
- 名前: 波坂@携帯 (ID: hSqi2epP)
場所は変わり、階層は三つ上へ。
時雨の怒りの拳が、加速者の知覚スピードを超えて、体のどの部位に当たったかすらもわからぬ内に加速者が吹き飛ばされた。
その拳は、踏み込みだけで床に浅い凹みを作り、インパクトの際には爆発したかのように音が爆ぜた。
「ごばぁっ!」
壁に高速で直撃する加速者。強い吐き気を感じ口から吐き出す。
グロテスクな色に染められた嘔吐物。そして鉄の臭いと胃液の臭いが混じり合い吐き気を促す。
四つん這いの状態の加速者の顔面目掛けて、いつの間にか接近していた時雨の足が振り抜かれる。
「図に……乗るなぁっ!」
加速者の腕が弾けるかのように音が鳴り、ジェット噴射のような閃光に後押しされて時雨の足と衝突する。
だが均衡も束の間。すぐに加速者が吹き飛ばされた。
加速者が足からエネルギーを噴射。閃光が飛び出し器用に空中で体制を整え、床に足をつく。が、運動エネルギーは残っているようで、足裏を床に付けたまま数メートルほど後退を余儀なくされる。
時雨の表情は、俯いているのか猫背になっているのかダランとしているのが原因なのか、目は見えず、表情の半分以上は髪と陰で隠れていた。
そして、戦闘の余波で破壊された照明の生き残りが、申し訳程度に時雨の表情を照らす。
そこにはーーーー時雨の顔など無かった。
正確には、それは自らを【偽善】と名乗り、憧れの先輩を目指していた時雨の、笑った表情、呆れた表情、けだるげな表情、悲しげな表情、楽しそうな表情。そのどれにも当てはまらない、酷く濁った表情をしていた。
ーーーー怒りと憎しみという名の真っ赤で真っ黒で濁った表情をしていた。
それはもう、時雨ではない。この場合。使う固有名詞は時雨であって時雨ではない。
時雨が道を踏み外していた頃の固有名詞ーーーー【機械仕掛けの喧嘩屋】。
今のそれには、その固有名詞がとても似合っていた。
真っ黒な髪のそれが、床に踏み込みを入れる。
浅めのクレーターを残し、爆音を置き去りにして、その凶悪になってしまった拳を、加速者めがけて振るう。
加速者は、拳にありったけのエネルギーを詰め込み、肘や肩等の加速装置から噴射。まばゆい閃光から打ち出された機械の腕を、その悲しい哀しい拳に合わせて打ち付ける。
轟音、後、拮抗。
発せられた衝撃波が二人の周りのものを吹き飛ばす。穴の空いた鸛を紙くずのように吹き飛ばし、鉄製のドアをひしゃげさせてねじ切り、窓ガラスを全て玉砕する。
お互いの拳が、自己主張を繰り広げ、お互いの拳がお互いの拳を破壊し、お互いが傷付いていく。
床で爆発ーーーー否、真っ黒なそれが踏み込んだ。
それだけで、たったそれだけで拮抗は崩れる。
真っ黒なそれの、傷つきボロボロの拳が、加速者を壁に叩き付けるどころか、壁を貫通するほどの威力をもってして殴り飛ばした。
加速者は、壁を貫いた衝撃で頭が回らない状態と化していた。虫の息、と言って差し支えないだろう。
そして、その真っ黒なそれは、その虫の息に対して、その赤黒いグロテスクで中途半端なコーティングがなされた腕を振り抜こうとしーーーー唐突にその場で倒れ込んだ。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.184 )
- 日時: 2016/09/16 02:43
- 名前: 波坂@携帯 (ID: hSqi2epP)
一時間。
時雨に与えられていたのは、長いようで短い一時間というタイムリミットだった。
『私の能力、[体調を引き上げる能力]だよ。ただし効果は一時間だ。
それを過ぎれば身体は殆ど動かなくなると言っていい』
扇堂医師の言葉が、時雨の頭の中で繰り返された。
段々と冷えていく思考回路。
しかし、体は依然として動こうとしない。
ガラッという音が、時雨のすぐに近くで発生した。
加速者だ。加速者が時雨によって吹き飛ばされ、壁を貫通した際に崩れた瓦礫をどかしたのだろう。下敷きになっていた証拠として、左手の真っ黒い義手は無残にもコード数本が飛び出した状態で肘から綺麗とは言えない断面で無くなっていた。おそらく瓦礫をあされば真っ黒い肘から指先までの義手が見つかるだろう。
フラフラと立ち上がり、懐から見覚えのあるものを取り出し、時雨に向かって構えた加速者。その見覚えのあるものーーーー散弾銃のトリガーに指をかけた。
「死んで、下さい」
その散弾銃にしては銃身の短い、二連の銃口を時雨の頭に狙いをつけーーーー無慈悲にもトリガーを絞る。
空薬莢が数本排出され、火薬が弾け、十数発の弾丸が飛び出す。
それらはロクに拡散せず、殆どの弾丸が時雨めがけて空気中を疾走する。
瞬間的に時雨の脳裏に『END』の三文字が浮かぶ。
しかし、時雨の体に弾丸は当たらなかった。
何故なら、止まっているのだ。停止しているとは言えないが、まるで何かに遮られているように、空気中で、時雨の直前で止まっている。
そう、鸛の念動磁場によって。
「その人に……手を出すのはゆるさな……げほっ!」
顔は青白い。
体調は明らかに良くない。
たった今も喋る途中に血を吐いた。
体には、目にするだけで痛覚を感じるような、痛々しい、体を腕で貫かれた傷がある。
それでも、鸛は立ち上がった。
抹殺者であることを否定してくれた、唯一の人間のために。
誰よりも、鸛弥夜を肯定してくれた、唯一の男性のために。
生きる価値を教えると言ってくれた、唯一の時雨という存在のために。
激痛と朦朧とする意識と戦い、体から溢れ出る血液など無視し、死ぬことを前提として、それでもなお、時雨を守り抜くと言うのだ。
フラフラの加速者に、鸛が背中の【鋼鉄の茨】を伸ばし、体に纏わり付かせた。
加速者に、最早振りほどく程の余力など残っていない。
ーーーー彼のためなら、言える。
「モード、スパイク」
加速者の全身に、体に纏わり付く【鋼鉄の茨】から飛び出た棘が突き刺さった。
拘束を緩めると、全身を血に染めて倒れた加速者。
それを見て、鸛が全ての能力による動作を停止した。
ーーーー次の瞬間、加速者が足からエネルギーを噴射して飛び掛かって来るというのに。
爆発音と共に、加速者の足から爆発的なエネルギーが噴射され、閃光を発しながら鸛へと接近する。
もう、鸛にはそれに反応できない。
その真っ黒と真っ赤のコントラストを生み出す、加速者の義手が、鸛へと吸い込まれる。
「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
加速者の足からエネルギーが噴射され、狙いを悟った時雨の髪がーーーー真っ赤な紅に輝く。
時雨の倒れ込んでいた床が破裂。否、時雨が体を瞬間的に起こし、思い切り足を踏み込んで、跳んだのだ。
超スピードで砲弾のように、加速者の拳が鸛に当たる一歩手前で、時雨が加速者の体に体当たりをぶちかました。
加速者が、割れた窓ガラスへと突き進みーーーー窓から外へ出て、ブラックアウトした雨の中へと吸い込まれて行った。
「良かった……貴方が生きてて……良かった……」
崩れ落ちる鸛を、髪が紅に染まった時雨が抱き留める。
それだけで、時雨の服が血で濡れていく。
「鸛!」
口から血を垂れ流しながら、鸛はなんとかその顔を時雨に向ける。
そして、必死に言葉を紡ぐ。
「私もう限界みたい……ゴメンなさい……」
「なんで……なんでそんなこと言うんだよ」
時雨が、鸛を壁に任せる。
鸛が吐血。時雨の服に生々しく血が這う。
「……私が死んでも、引きずらないでいいのよ。……私のことは、さっさと忘れるべきよ」
「お断りだ!大体……なんでお前が死ぬ前提なんだよ!わけわかんねぇよ!なんで!なんでお前が!お前が死ななくちゃならねぇんだよ!」
「……世の中は理不尽だらけよ。私だって……交通事故にさえ遭わなければサイボーグになんてならなかったんだもの……」
こうして話している間にも、留めなく溢れる鸛の血液。
「……だから、ね?私を……忘れて?」
「……忘れないからな!俺は!絶対に!忘れない!
お前がいたこと!俺の人生にお前がいたことを!俺は絶対に忘れないからな!」
「……貴方は本当に頑固ね……そんなところが、私は好きになったんだけどね」
「鸛……お前」
時雨が鸛の手を握り、気付く。
「後悔はあるわ。未練なんて数えられないわ。でも一つだけ、どうしても諦めきれない未練があるのよ」
鸛は、冷たくなりはじめていた。
それはーーーー死に向かっているということでもある。
鸛が、時雨の首に腕を回した。
「できれば……貴方の隣に……ずっといたかった。
貴方の傍にいて……貴方とーーーーゴハッ!」
再び血を吐いた鸛。もう余命はほんのわずかであることは明白だ。
「……今、私は念動磁場で血液をやりくりしてなんとか生きてるの。
お願い……私を貴方の手でーーーー殺して」
「何……言って」
「お願い。私は……最後は苦しまずに好きな人の前で死にたいの」
時雨が反論しろうとしたとき、唐突にドアが開けられた。
「時雨さん!?」
「……時雨か」
「平子!?司?!お前達何をやって……」
そしてドアから現れたのは、平子と風間だった。
駆け寄った平子と風間が、鸛の容態を見て思わず絶句する。
そして部屋を見渡す風間。最早風間には爆発物を大量に使用した部屋にしか見えなかった。
「……悪い、こっちが先でいいか?」
無言。それを肯定と見なした時雨が鸛に向き直る。
「時雨、私は、好きな人の前で死にたいの。最後のわがまま…………聞いてくれないから?苦しくて苦しくて仕方がないの……お願い」
「……無理だ!俺にはお前を殺すなんて……」
「どけ」
その短い二文字を時雨にかけたのは、風間だった。
ホルスターから実弾銃を抜き、弾を込めた風間。
「おい、執行人は俺でもいいのか?」
「司!?お前何しようとしてんだ!?」
鸛はコクリと頷く。そして少し笑って
「……貴方は優しい人ね。ありがとう」
「鸛!?お前も何を言ってるんだ!?」
「……何か遺言はあるか?」
「本音を言うなら……大好きな人と……一緒に歳をとって、死にたかった……。
……もういいわ。一思いに撃って」
「待っーーーー」
時雨がその言葉を言い終わる前に
風間がトリガーを絞り、銃弾が鸛の眉間に突き刺さった。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.185 )
- 日時: 2016/09/17 08:18
- 名前: 波坂@携帯 (ID: hSqi2epP)
「司ぁぁぁぁぁ!お前は何をやってんだよ!」
時雨が、風間の胸倉を掴み軽々と持ち上げた。多少苦しいのか風間から小さな吐息が漏れる。
時雨が、腕を持ち上げて風間を殴ろうとすると、風間が言葉を吐き出す。
「さっきのアイツは、俺と火麗とザンとキャロルを殺しかけた奴だ。
例えお前がアイツをどういう風に思おうが、アイツは俺にとってはただのテロリストであり復讐の相手だ」
風間の淡々とした口調に時雨がなわなわと体を震わせる。
「だからって……殺すことはねぇだろうが!」
「アイツは死にたがっていた。苦しんでいた。
俺はただそれを解放してやっただけ。ついでに自分の復讐も終わらせただけだ」
「ふざけんな!お前がーーーー」
「ふざけているのは、お前だ」
時雨の言葉を遮る風間の言葉。
「怒りの矛先を間違えるな。俺がアイツを撃ち殺すことになった元凶に向けろ。俺がお前に怒られる筋合いなどありはしない」
「……分かったよ」
時雨が腕の力を緩めて胸倉を放す。
風間が床に足を付けると、平子に目を向ける。
「平野、もう行くぞ」
話し掛けられた平子は少し混乱気味だった。
無論、鸛の容態を見て吐き気がするのも原因の一つでもあり、時雨がいるのも原因の一つではあるがーーーーなによりも気になる疑問があった。
「了解って訳ですよ。
…………ところで時雨さん、その髪……どうしたんですか?」
〇
「……んー、もういいかしらね」
コバルトブルーの髪を二つに束ねた髪型の高身長の女性のハスキーな声が、その人以外誰もいない場所で響く。
その女性がいるのは、ガラスのように透明で青色のかかった薄い【障壁】によって作り出された城、【王城防壁】の内部である。
そしてそれの主ーーーー聖林寺五音は内部でずっと暇な思いをしていた。
その青色のガラスのようなものでできた城の周りには、武装した人間や超能力者達が様々な形で倒れ伏している。
自ら力尽きたものもいれば、聖林寺が内部から放った【障壁】を変形させた槍に貫かれたものもいた。貫かれたもの達には決まって一定サイズの穴が空いている。
聖林寺が靴の爪先でコンコンと地面を鳴らす。
すると、城が段々と透けはじめ、終いには空気中に消えてなくなるように雲散無消した。
すると聖林寺の体に雨が降り注いだ。すっかり忘れていた聖林寺が自分の上に障壁を作り出して雨を防ぐ。
降り注ぐ雨の中、視線を黒ビルに向ける聖林寺。
「……さて、あの娘はうまくやってるかしら?」
そんなことを呟く聖林寺。
聖林寺とて心配なのだ。平子のメンタルは強いようで弱いことを聖林寺は見抜いている。
適度なストレスは発育にいいが、過剰過ぎるストレスはもはやただの害でしかない。今後平子には、沢山の厄災が降り注ぐだろうと聖林寺は予想している。
ーーーー私が支えてあげなくちゃね。
と、一人で考えるのに没頭していた聖林寺に声がかけられた。
「五音っちゃん先輩ちゃん、ちょっといい?」
考え込んでいて下にずらしていた視界を、上に上げるとちょうど前にいたその人物と目が合う。
「あら、早夜ちゃんじゃない。それも大人バージョンとは珍しい。
それで?そこの二人はお持ち帰りかしら?」
そう、聖林寺の前にいたのは早夜だ。ただし身長は聖林寺に並ぶ程に高いが。
所謂早夜は大人の姿になっているのだ。そして早夜の大人姿は中々見られないので聖林寺が物珍しげに話したのは道理である。
その早夜はというと、両手に花と言うよりは両肩に薔薇状態となっていた。
なぜなら早夜はその二人を肩で支えて引きずったりしていて、その二人は棘があることでもある意味有名な二人だ。
「こんな味の強そうな二人はお持ち帰りしないよ。五音っちゃん先輩ちゃんはどっちかいる?」
聖林寺はその言葉を聞いて、じゃあと言い右肩に肩を借りる形で歩いている人影を指して言う。
その人影はブロンドヘアーで、上はシャツ姿となっている。
「じゃあジーナを貰おうかしら」
「……悪いけどアタシには、バイのばあさんと遊ぶ趣味なんて無いんだよ」
聖林寺の言葉に対し、ハリック・ジーナこと本名守谷仁奈は相変わらずの減らず口で言葉を返す。
「あらそう、それは残念だわ」
「……聖林寺、アンタそれマジで言ってたの?」
割と本気で残念そうな反応をしたので、ジーナは少し戦慄しながらも真実を問う。
「うふふふ、さあ?」
「そんなこと言うからアンタは変態とか言われるんじゃない?」
聖林寺はギリギリのセクハラ行為を繰り返すことでもある意味有名である。そのため変態と言われることもあるがーーーー実際は変態である。
特に貧乳の胸をわざと揉む等という奇行を繰り返すので、ある一部から憎まれていたりする。
「じゃあこっちはどうするの?」
こちらは完全に気絶しているようだった。その青から白へのグラデーションの髪は特徴的過ぎるので誰しもがそれを誰だか知っていた。
「雅ちゃんじゃない。
……雅ちゃんも雇われていたのかしら?」
「そうだよ。私がちょっとお仕置きしておいたけど」
お仕置き、今の姿の早夜にはする側が似合うが、仮に小さな姿の場合だったら最早早夜はされる側である。
「ジーナは?」
「ジーナっちゃん後輩ちゃんは、一階の玄関あたりで壁に背を任せて倒れ込んでたから、多分テロの方とやりあったんじゃないかな?」
〇
「俺の……髪?」
平子のように長くも無い髪を自分で見ることは不可能なので時雨がそれに気付きもしなかったのは、当然と言えよう。
時雨が髪を一本だけ引き抜く。
一本では細くて見え辛かったがーーーー色が黒ではなく赤だと言うことに気付く。
「……どういうことだ、これ」
「時雨さん……まさか……能力者に……」
「お前達、落ち着け」
二人が風間の冷静な声に耳を向ける。
「時雨の髪がどうなろうと、俺達にはもっと重要な目的があるはずだ。今までの階層に、天澤達はいなかった。
そして、このビルは残り一階。
……俺はいち早くアイツを助けたい。お前達と目的は同じはずだ。ならさっさと行くべきだ」
「……ああ、そうだな。
……これも気になるが、碧子を助け出してからでいい」
「じゃあ、早く行こうって訳ですよ」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.186 )
- 日時: 2016/09/19 10:45
- 名前: 波坂@携帯 (ID: hSqi2epP)
「我々も佳境の様だな、里見」
「案ずるな。サイボーグ共はよくやったさ。最早あのメンツは押せば倒れるような人間が半数以上。我々だけでも十分対処できる。
最も抹殺者の裏切りさえ無ければ十橋時雨は仕留めていたがな」
椅子に腰掛け、ミネラルウォーターを喉に押し込む明示はその老いた風貌に多少の焦りと心配を含めていた。
里見もそれと向かい合うようにして椅子に腰掛けていた。電子タバコをくわえながら監視カメラのモニターを眺めている。
モニターには階段を駆け上がる三人が映っている。
が、明示と里見は逃げようとはしない。何故なら、三人がやってくるのは彼らの狙いのキーパーツを説得するための材料が転がり込むのと同義だからだ。
「しかし……義義理碧子の説得はどうした?奴は反抗的だったはずだが」
里見の問いに、そんなことあったなと、どうでもいい過去を思い出したかのような話し方で明示は返す。
「なに、単純な話、心身共に徹底的に痛ぶっただけだ」
チラリと壁と鎖で繋がれている碧子を見る里見。
チラリと見ただけでも、傷だらけと把握するには十分だった。白衣はボロボロで頭には血が付き、肌が覗けばそこは痣だらけだ。本人は起きているのか寝ているのかすら分からない程に虫の息である。
その隣には気絶している紡美。こちらはまだ割りと綺麗な方である。傷という傷は見当たらない。
更に隣には、未だに目を開けている秋樹がいる。無論、鎖に繋がれていて動けない状態だ。破れにくい防弾制服は一切破れてはいないが、秋樹の頬は腫れ上がっていて、足には血の色が滲む包帯が巻かれている。
天澤秋樹がマインドコントロールを受ければ、今回の目的はほぼ九割達成できたと言っても過言では無いが、奴は一向に明示に刃向かっているのか。そう感想を抱きながら電子タバコを一度手に持って息を吐き出す里見。
「さて……どうやらもうそろそろこの事件もクライマックスのようだな」
明示のその言葉に数秒遅れ、装飾が施されていた扉が無惨に玉砕される。部屋に響き渡る破砕音。そしてその奥には蹴りを放った姿勢の人間が一人。
明示が椅子から立ち上がるのと同時に、その人物が部屋へと入り込む。
そして遅れて二人の人物も入ってきた。
それは紅の髪だった。深紅の赤い紅。それは無造作に切られていて短めだ。
それは灰色の髪だった。白でも黒でもない、灰。それは目にかかる程度までに切られていて長めだ。
それは白色の髪だった。雪のような、真っ白い白。それは長いものでは腰の上辺りまで伸びていた。
「精々盛り上げるんだなーーーー正義のヒーロー達よ」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.187 )
- 日時: 2016/09/21 21:49
- 名前: 波坂 (ID: hSqi2epP)
「死ね」
物騒な一言を挨拶代わりに風間が銃弾をありったけ撃ち込む。
度重なる発砲音。弾き出された弾丸達が明示に襲い掛かる。
明示はそれを数歩動くだけで回避した。それも殆ど動かずにだ。
「不意打ちとは、まるで悪役だな」
「悪役で何が悪い?」
風間が銃をホルスターにしまい、その流れの中で残り一つとなった手榴弾を取り出してピンを抜き、オーバースローで投げつける。
しかし明示はその爆発寸前の物体を傍目に直立しているだけだ。
その光景に驚く風間。
そして爆発ーーーーは起こらない。たとえそれが床に落ちても、爆発する気配は一向に無い。
その手榴弾を明示がそれをゴミでも蹴るかのようにどうでもよさげに蹴っ飛ばした。
その先にいたのはーーーー平子。
次の瞬間、平子の体が横殴りの圧力に襲われる。
「きゃぁっ!」
軽い悲鳴が手榴弾の爆発音に掻き消される。
熱風が平子を襲うが、爆発によるダメージは一向に現れない。
「大丈夫か!?今変なところ触っても文句言うなよ!?」
そう、時雨が平子を抱き寄せて横に飛んでいたのだ。時雨の脚力ならば爆発による破壊の起こり得る範囲から抜ける事など余裕である。
「い、言いませんよ!は、恥ずかしいって訳ですよ!」
平子に手を伸ばして立ち上がらせる時雨に平子が顔を軽く羞恥に染めて返す。平子としては普通にそういうことは言わないで欲しかったのだ。
一方そんな二人には目もくれず、風間は明示を睨み続けている。
ーーーー何故手榴弾が爆発しない?
風間としては手榴弾のピンを抜き、それが爆発するまでの計算を間違えた記憶はない。それが奴の能力かと疑いつつも拳銃をリロードする。
「風間さん!その人の能力はげほっ!」
「黙っていろ」
風間の存在に気が付いた秋樹が、風間に明示の能力の正体を教えようとするものの、それは里見の靴の爪先が秋樹の腹部に食い込む事で中断されてしまった。
風間の頭が一瞬だけ真っ赤に染まったが、頭を降って正気を取り戻す。今は怒っている場合ではない。そう自分に言い聞かせる。
「行くぞ!」
時雨が一瞬で明示の元まで跳躍した。軽く風が舞い起き、踏み込んだ場所にはクレーターという名の跡が残っていた。
その充分過ぎる威力を秘めた腕を時雨が振るう。
その拳が明示の掌に吸い込まれーーーーそのまま受け流される。
「ーーーーな」
時雨の拳など、そう簡単に受け流せるものではない。
仮に受け流すことに失敗すれば、肩が脱臼してもおかしくはなかっただろう。
だが明示はそれをやってのけた。それも実際に見るのは初めてで、だ。
そして、柔道の要領で床に打ち付けられる時雨。元々時雨の飛びかかった速度とほぼ等速で叩き付けられた為に時雨としてもダメージは大きかった。
時雨がガチャリという音に対して危険を察知。間髪入れずに床を横に転がる。
次の瞬間、弾丸が時雨の耳の横を走る。
弾丸が風を切る音という滅多に聞かない音を聞くが、今更そんなもので時雨は縮こまりはしない。すぐに起き上がり、再び拳を交え始める。
それから時雨が幾度も拳を放ち、蹴りを放ち、攻撃手段の限りを尽くすが、明示はそれを全て体捌きと掌で受け流す。
「クソ!決定打が入らねぇ!」
時雨は常に高速の攻撃を繰り出し続けている。威力を半減させ、その分素早く手数で攻める戦法だ。しかしそれでも明示には全てが見切られているかのように避けられる。
「代われ!」
その声を発したのはーーーー風間。瞬間、時雨が身を引き、その開いたスペースから風間の拳が伸びた。
直後、風間の能力を無効化する際の音が部屋に反響し、数秒後に風間の拳が明示の顔面を捕らえた。
そのまま力を入れて振り抜く風間。ずっしりと重みを感じながら明示を殴り飛ばした。
だが身のこなしは良いようだ。明示は転がりつつも手を付いて後転をする動作から立ち上がった。
どうやらかなり身体能力と技術は高いようだ。
だが、風間としては解せない点があった。
ーーーー何故、俺の能力が発動した?
「……里見、あの灰色の奴を潰せ」
「了解した」
里見の能力、[音速で行動できる能力]が作動。一日三度、五分間だけ音速で行動することが可能になるが、制限が厳しい能力だが、効果のある内は強力な能力だ。
里見の姿が掻き消えた。否、文字通り目にも止まらぬ音速で風間の背後に移動したのだ。
風間が背後を振り返ろうとするがーーーー胸の傷が感覚神経を通して激痛を伝える。それが行動をほんの数秒遅らせた。
たかが数秒。されど数秒。
音速で行動する里見がスイッチを入れた、電流が回路を流れるスタンガンを首筋に流し込むには充分過ぎる時間だった。
能力を無効化する音。どうやら里見が風間に触れた事により能力が無効化されたようだ。だが、既に手遅れ。風間が膝を床に付き、そのまま俯せに倒れた。
まず聞こえたのは、痛々しい秋樹の悲鳴。
「司ぁ!」
「風間さん!」
時雨と平子が風間の名を呼ぶも、風間は意識を落としてしまったようだ。全くをもって反応という反応を示さない。
その動きもしない風間を引きずって明示の前に放り投げた里見。床を転がされても投げ出されても風間はびくともしない。
「ご苦労。これで材料は揃った」
明示が風間の腰のホルスターから拳銃を引き抜き、安全装置を外して風間のこめかみに突き付けた。
「この木偶を壊されたくなければ命令を聞く事だな」
明示の目線は時雨達には向いていない。
その視線に映るのはーーーー唯一、被害者の中で意識のあった天澤に向けられていた。
「さぁ天澤秋樹、『私に従うか?』」
天澤が、悔しそうに唇を噛んだ後、頭に拳銃を突き付けられた風間とそれを突き付ける明示を見て、口を開いた。
「……ごめんなさい。私は風間さんが大切なんです。……弱い私を……許して下さい……イエス」
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