複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 超能力者と絶対に殴り合う能力
- 日時: 2018/03/26 17:23
- 名前: 波坂 (ID: KLUYA2TQ)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=359
初めましての方は初めまして。それ以外の方はこんにちは。
波坂と言う者です。
意見や感想、アドバイスなどは大変嬉しいのですが、それが的確なものであるかどうかを一度確認してから投稿して下されば幸いです。
宣伝などはできる限り控えて下さい。
※リンクは能力の募集に繋がっています。よろしければどうぞ
2015/10/17 スレッド設立
2017/01/18 受験の為、更新停止
2017/03/07 受験終了。更新再開
2017/03/28 参照回数8000突破
2017/05/14 参照回数9000突破
2017/9/01 参照回数10000突破
2017/12/15 参照回数11000突破
2018/2//13 参照回数12000突破
Twitter創作アカウント→@namisaka_sousak
【目次】
第一章>>1-21 第二章>>23-31
第三章>>32-46 第四章>>47-67
第五章>>68-77 第六章>>78-104
第七章>>105-202 番外編>>203-215
第八章>>219-236 第九章>>237-269
第十章>>270-現在更新停止
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.173 )
- 日時: 2016/08/26 17:40
- 名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)
「つまりね〜、その人は時を止められるんだよ〜。で、止まった時の中であの人は動けるんだよ〜。
多分風間っちくん後輩くんじゃ勝てないよ〜」
「早夜先輩。悪いが、俺は止められた時の中でも動けたぞ」
早夜の忠告に風間が反応的な切り返しをする。が、早夜は首を横に振って「違うってばぁ〜」と風間の意見を否定した。
早夜は身体準備体操のように伸ばしながら言葉を続けた。
「風間っちくん後輩くんの身体は〜、誰が治療したと思ってるのー?
私はね〜、風間っちくん後輩くんがイケナイ方向に向かってる事くらいは知ってるよー?」
風間は図星と言わんばかりに多少たりとも眉をひそめた。
風間の身体は、表面上は治っていても、実際に肋骨数本は未だに固定しているし、歩くことも多少の不便を覚える程には、体調が悪かった。
風間の少しの動作だけでも、図星を付いたとわかった早夜は雅に対面する。
「だからね〜、ここは早夜っちゃん先輩ちゃんが引き受けてあげるから〜、先に行ってて〜。私なら勝てるから〜」
一体その自信はどこから沸き上がるのか。相手は時を止める事すらできる能力者だと言うのに。風間はそう思わずにはいられない。
そんな風間の肩にそっと、手を乗せたのはーーーー足から縄を解いた平子。
「風間さん。何が起こってるか分からないって訳ですが、ここは任せて行くべきです。少なくとも、今の状態の私達じゃ、太刀打ち出来ないって訳ですよ」
風間はそれを理解していた。
多少の屈辱的なものを感じながら。風間は「任せた」と一言置いて部屋から飛び出す。平子も早夜に一礼してから部屋を出て行った。
「あらあら、残ったのは可愛らしい先輩ですか」
「もぉー!子供扱いしないでよぉー!私26なんだからねー!」
微笑みながら吐かれた雅の台詞に早夜は子供扱いされて、目に少しの水を溜めながら、プンスカと子供のように怒る。
ーーーーそして、いつの間にか早夜の目前には手榴弾があった。ピンは抜かれている。
雅の唇がニヤリと黒く歪む。そして手榴弾がそのまま破裂。
「きゃー!」
した瞬間。早夜の白衣からにゅるりと液体が出現し、そのまま手榴弾を包み込み、その液体が爆発を減衰させた。
黒い爆発を起こすはずが、爆煙すら起こらない手榴弾。
得意げに笑う早夜の顔にはしてやったりという言葉が嫌ほど滲み出ていた。
「私だってこれでも暗部の人間だよー?」
更に白衣から液体が飛び出し、その液体が壁面に取り付けられている半透明のガラスを割り砕く。
そして、そこから一気に大量、とまでは行かずとも、多少の水が入り込んできた。
それは早夜の能力[H2Oを操る能力]によって集められた水だ。どこらか集めたのかと言われたら、それは降り注ぐ雨を見ればわかることだ。
早夜の周りに、徐々に水が集まり、早夜よりも大きい水の塊を数個形成される。
そして、その水の塊から水鉄砲のような水が放出された。ただし、発射された速度は、最早水鉄砲の域では無いが。
雅が指を鳴らし、時を止めて移動。水流を余裕の表情で避け、停止を解く。
時が流れ始めると、その水流が壁を穿ち、コンクリートに爪痕を残す。
「あら、これは随分と荒っぽい攻撃ですね」
「ごめんね〜。先輩の余裕とか見せる暇ないんだ〜」
更に水の塊から水を噴射するが、その水流は雅に当たる気配は無く、ただひたすらに壁や床を傷付け、水浸しにしていくだけだ。
「そんなに乱射しても、数撃てば当たるものではありません」
「んー?別に当てようなんて思ってないよー?」
そう切り返した早夜の腕には、紫色に煌めきほとばしる電気が纏わり付いていた。
そして、その腕を無造作に水浸しの床にたたき付ける。
直後、電撃が水に伝わり床中を這い回った。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.174 )
- 日時: 2016/08/26 07:54
- 名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)
雅が慌てて指を鳴らす。
次の瞬間には浸水していない場所へと移動していた。
「ありゃー?結構いい作戦だと思ったんだけどなぁ〜」
早夜が手を突いている床に、既に水と呼べるものは無かった。
なぜなら強力な電圧によって流された電流が水そのものを電気分解してしまったからである。乾いた床では電気を伝える事はできない。
「惜しかったですね」
止めなく外から流れ込んで来る水が、再び早夜の周囲に集まる。
雅が早夜に気付かれないように、指を小さく後ろで鳴らす。
そしてーーーー早夜の周りに大量の爆弾が出現した。
その爆弾らが連鎖的に爆発を起こす。先程のように無効化された訳でも無いようで爆煙も上がっている。
「……さて、どうなりますかね」
その独り言を呟いたのは雅。
徐々に徐々に、爆煙が晴れて視界がクリアになっていく。
「ケホッ!ケッホ!……酷いなぁ〜」
そして、早夜が姿を現したーーーー白衣が少し弾け、所々から傷が覗く姿で。
「さて、そろそろお時間なので終わらせて頂きます」
「……もうこうなったら出し惜しみは無しだね〜」
早夜のその台詞を、雅はハッタリと考え結束バンドに止めておいた投げナイフを三本雅の頭に向かって投げた。
だが、突如として早夜に変化が起こる。
早夜が半透明な水に包まれたかと思えば、その水はナイフを弾き飛ばした。それはまだ当然の事と言える。雅は再びナイフを構えーーーー半透明の水が取れた時、驚きの余りナイフを手から零した。
「……ふぅ、この姿も、ちょっと久しぶりかな」
半透明の水から姿を現したのは、高身長の女性だった。
そのバストは豊満で、伸縮性のある服の一部を押し上げている。
髪は細長いツインテールとそれ以外をまっすぐストレートに伸ばした、長いツインテールとロングヘアーが混ざった様な髪型。ピンク色の髪は色彩豊かに輝く。
全体的にピッチリとした服、そしてちょうどいい丈の白衣を着た女性は、高くも低くも無い声で雅に喋りかける。
「ん?どうしたの?雅ちゃん後輩ちゃん?」
はっきりとした口調のその女性は、ゆるゆるとした口調であった早夜と同じ様な台詞を吐いた。
「…‥どちら様ですか?」
その問いは、手に手榴弾を持っていなければ穏便に見えただろう。
「ああ、そうだね。雅ちゃん後輩ちゃんにこの姿を見せるのは初めてだったね。
私はーーーー立待月早夜、さっきのちんちくりんと同一人物だよ」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.175 )
- 日時: 2016/08/28 07:37
- 名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)
「…………何を言って」
「私の能力。それは液体を分子単位で操作する事ができる。
だったら話は簡単だよ。私の体の一部を液体に状態変化させて、適当な容器に詰めてただけ。そしたら私の体は小さくなるのは道理だよ。
どっちかと言えばちんちくりんな姿が変身かなー。寧ろこっちが本体だよ。
で、ちんちくりんな姿の利点はエネルギーの消費が少ない事。で、こっちの利点は‥‥‥‥気分が大人になって理論的に考えられるようになる。つまりは能力が強力になるかな」
早夜が足を上げ、そ床を強く踏む。
それに呼応したかのように、水が丸くなり、水の弾が形成され、瞬く間にそれが雅に向かって発射されていく。
指を鳴らして時を止めてから避けるが、幾ら避けても早夜の弾幕が尽きる様子は見当たらない。
早夜が床を再び踏む。
すると雅の足元の飛び散っていた水が浮き上がり、雅の足を捕らえる。
「しまッーーーー」
雅が時を止め、絡み付く水を外そうと試みるが、逆効果だったことに気がついた。
雅の能力によって時を止めた場合。空気と重力と雅以外を全て止めてしまう。勿論除外設定を作る事も可能だが。
そして止まっている物質は絶対に動く事はない。たとえどのような力が加わろうと決して凍り付いた流れは動かない。
つまりーーーー雅は自分の足に絡み付く水まで停止してしまったのだ。これでは何をしようと逃げ出すことはできない。
時が流れはじめる。
そして早夜の水の弾が雅に殺到した。
大量の弾に晒された雅が壁まで水に押され壁に押し付けられる。
「もういいかな?」
早夜が水を止め、自分の知覚に引き戻す。
その瞬間だった。
雅が指を鳴らしたと思えば、雅と早夜以外の全ての時が凍り付いた。
雅が時間を止め、除外設定に早夜を含めたのだ。これにより、早夜だけは動くことができる。そうーーーー早夜だけは。
「……なるほどね。これじゃあ私は動けても水は動かせない」
「ええ、それでは」
雅がナイフを持って早夜に近づく。
二人は体術に関しては、少し早夜が上手である。
しかし、雅には凶器があった。強い凶器を持つ者が勝つのがこの世の道理なのは既に、世の中で大量の事例がある。
だから勝つのはーーーー早夜だ。
なぜなら早夜は持っているからだ。
「一つ忘れてない?」
「何をですか?」
ーーーー能力という武器を。
早夜の腕に、煌めく電流が走った。
それを見て、雅が口を開けた頃にはもう遅い。
「私、電気も使えるんだよ」
早夜が電流が纏わり付く右腕で雅の腹部を殴り付ける。
「かはッ……!」
そしてお構い無しに電圧を上げて雅に電流を流した。
ぐったりとした様子でその場に倒れ込む雅。
「……はぁー、疲れた。この姿燃費悪いなぁ」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.176 )
- 日時: 2016/08/28 21:01
- 名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)
「ああああああああああああああああ!」
十橋時雨は空を飛んでいた。
無論、それは自ら起こした現象ではなく影雪によって引き起こされた現象だが。
時雨の視界は常に雨と夜の薄暗さが遮り、殆どのものにフィルタがかかって見える。
時雨自身は今もそこそこ速いスピードで絶賛空を未だに角度20〜30度程で上昇中である。
その赤に染まっていた筈の黒い髪が空気によって激しくはためき、時雨の髪型はオールバックと化している。
ーーーーコレ、どうすんだ?
時雨の思考などお構いなしに、段々と速度が低下し始める。
つまりーーーー降下を始めた。
「きゃああああああああ!」
可愛いヒロインのような台詞を男の声変わり済みの声で言う時雨。その声は最早気持ち悪いというニュアンスの形容詞以外を見つける事ができない。
そして、降下しはじめたと思えばーーーー時雨の目の前が真っ黒に染まる。
否、染まっているのは時雨の視界ではなく目の前の建造物だ。
「死ぬううううううう!」
冗談では無いと時雨がもがくが、成す術があるわけもない。そのまま建造物へと吸い込まれて行きーーーー
ーーーーガラスの破砕するような音と共に、時雨の肌が少しガラスの破片に切られ、床に打ち付けられた。そして床に亀裂が入り、着弾地点には浅めのクレーターが作り出さる。
時雨本体はそのまま床や天井にバウンドし、スーパーボールのように二度ほど跳ねた後に床に倒れ込んだ。
「畜生……‥‥痛い‥…」
しかし時雨は痛いと呟きながらも立ち上がる。体が頑丈とか言うレベルではなかった。
「……ここ、どこだ?」
時雨が辺りを見回す。
あるのは用紙が敷き詰められたり整理しておかれている棚。要するに資料などが置かれている。
どうやらビルの一室見てぇだな。そう結論を出した時雨のポケットが、振動する。
どうやら振動の源はスマートフォンだったらしい。時雨はあの激戦の中でよく耐えたな。と感想を呟いてスマートフォンを取り出した。
「買い替えないとな……」
時雨のスマートフォンには蜘蛛の巣状に亀裂が入り、液晶画面がそれはそれは無惨な姿に成り果てていた。多少涙を堪えつつひび割れたスマートフォンの液晶をタッチし電話に応答する。
『……よー。十橋」
「風折……?なんでこの番号を……」
『誰がテメーのスマホをアッコに置いたと思ってんだよ」
「……風折、教えろ。碧子は何処にいる」
『教える訳ねーだろ。オレの独り言でも聞いてろ』
「おい!ふざけんなよ!」
時雨が激を飛ばして電話に怒鳴るが影雪はどこ吹く風な声色で話始めた。
『あーあ、全く最悪だ。…………十橋のヤツをまさか依頼主のところまで殴り飛ばしちまった』
その言葉を聞いて、時雨が閉口した。
『めんどくせーな。テロ組織のDHAの本部に殴り飛ばしちまうなんてオレもまだまだだな。
言える訳ねーよな。十橋の探してた義義理とか言う奴と一緒に天澤秋樹と古都紡美がいるなんてよー。
それが最上階の辺りに居るなんて言える訳もねーよな』
「風折、お前……」
『ああ?独り言中に喋りかけんじゃねーよバカ』
「……ありがとな」
『……ハッ。罵倒されて喜ぶなんて、テメーマゾかよ』
それを境に、影雪との通話が切れた。
「…………此処、なんだな」
時雨が拳を握り締め、部屋の天井を見上げる。
「んでもって、あっちに碧子がいるんだな」
時雨が見据えたのは上へと繋がる階段。
「風折…………お前の言葉、信じるぞ」
時雨は、力を込めて階段の全ての段を一歩で飛ばして駆け上がった。
〇
「…………ハリック・ジーナ、風折影雪、立待月早夜、天澤春樹、聖林寺五音。これだけの強力な能力者達があの三人に味方している。特に、ハリック・ジーナと風折影雪に関しては我々が雇っていたにも関わらず、だ」
一人でビルの窓から外の景色を見つめる一人の男の視線は、駐車場で展開された聖林寺の【王城防壁】に向いていた。
振り返り、監視カメラの映像が映し出されるモニターには、白、灰、そして黒の三人ーーーー平野平子、風間司、十橋時雨が映し出されている。風間と平子より時雨が一足先といった様子だ。
「非常に私は残念で仕方が無い。なぜなら君をじっくりと掌握する時間が無くなってしまったからだ」
銀色に輝くその髪は証明の光りを反射し輝いている。
体には新品のようにシワの無いスーツを纏い、その風貌は多少老いを感じさせるものの、何処かカリスマ的な威圧感を放っている。
その男ーーーー羽舞明示(ばまい/めいじ)は目の前にいる幼げな雰囲気を纏う少女ーーーー古都紡美に向けられていた。
「じゃあどうするの?」
紡美は両手両足に手錠を掛けられ、首には首輪をつけ、それを壁に繋がれた状態で拘束されていた。
「なに、簡単な話だ。
取引をしよう。君は私のマインドコントロールを受けるんだ」
明示の言葉に反抗的な瞳と口調で切り返す紡美。
「そういうのは取引じゃなくて一方的な命令って言うんだよ」
「淑女なら最後まで話を聞くべきだ。私が切るカードは『鋼城緋奈子の命』だ」
それを聞いて、紡美が口を閉じた。
「今現在、鋼城緋奈子はある病室で寝かされている。そしてその傍には私の部下がいる。これ以上は言わなくてもお分かりだろう?」
「証拠は?」
「では、部下に送って貰おう……………。これが証拠だ」
明示のスマートフォンには寝顔の緋奈子が写っている。
「……合成、って訳でもなさそうだね……」
「さあ、取引の再開だ。君にはイエスかノーかの二択しか与えられていない」
「……分かったよ。イエス」
ニヤリと明示の口元が三日月のように歪む。
「では古都紡美、『私に従うか?』」
「……イエス」
そう紡美が答えた瞬間、電源が切れたかのように紡美が床に倒れた。
「…………さて、残るはーーーー」
〇
「おい、天澤秋樹はどうなった」
明示がある部屋へと入室しながら問う。
明示が部屋に入った瞬間、部屋にいた一人を除く全員が背筋を伸ばす。
「ハッ!未だ反抗しており、マインドコントロールは難しいかと!」
報告をした部下に「ご苦労」とだけ声をかける明示。そのままスタスタと部屋の奥へと歩く。
この部屋には、鉄格子等による檻が数多く設置されていて、その中には鞭等の拷問用具が並べられている。
いわば此処はーーーー拷問部屋。
そして、とある檻の中へと入る明示。
その中にいたのは一つの人影。
着ている白衣とワンピースはボロボロになっていた。
体中に、鞭などで打たれた痣が痛々しく浮かび上がっている。
緑色の髪は薄汚れていて、何本かが床に抜け落ちていた。
頭を軽く切ったようで血が一筋、顔に流れている。
その少女ーーーー義義理碧子を無造作に掴み、檻から出る。そして碧子を一人の人間に投げる
「俺の部屋に放り込め。それは既にマインドコントロール済みだ」
「ハッ!」
部屋から出ていく部下を傍目に今度は別の檻へと入る明示。
そして、目の前に拘束された少女に話し掛けた。
「元気かな?」
「……貴方は……」
返事をしたのは、青い髪を肩辺りで切り揃えた、薄汚れた防弾制服を着ている、天澤秋樹だ。頬は腫れており、体は鎖で壁に固定されている。
「いい加減、君からも許可を取りたいのだが」
「……嫌です……もう私は……あの人に迷惑を掛けたくないんです‥…!」
「そうか。それは立派な事……だっ!」
その言葉と共に、明示が秋樹の腹部を膝で蹴る。
「がはっ!」
空気を吐き出して苦しそうな表情をする秋樹。しかし目には強い意志が感じとれた。
「もう一度聞く、君からも許可を取りたいのだが」
「絶対に……嫌げほっ!」
再び明示の膝が、秋樹の腹部に付き刺さる。
「……余り私を苛立たせるな」
「そんなの……知りません」
今度は秋樹の腫れた顔面を殴った明示。秋樹がロクに抵抗もできないまま汚い床に転がる。
「言え、イエスとな」
「嫌…‥です!」
返答として、明示が秋樹の頭を踏み付けた。
グリグリと靴底で秋樹の頭を踏み付ける明示は、心底飽き飽きしていた。
ーーーーたかがあの程度の人間に、左右されるとはな。
「…………ッ!」
秋樹の表情が厳しいものへと変化していく。耐えがたい激痛を必死に唇を噛んで抑えている秋樹の口元からは、血が零れていた。
明示がため息を吐きながら、足を離す。そしてスーツの胸ポケットから黒光りする銃を取り出す。
「言え。これは命令だ」
「嫌‥…!絶対に……言いません……!」
「そうか」
その返答を聞いた後に、短い返事をした明示が引き金を引いた。発砲音が檻に響く。
「ああああああああああああ!」
秋樹は耐え切れなくなって悲鳴を上げ、ジタバタと床の上でもがく。
秋樹の足元が、真っ赤な血で染まっていた。貫かれた足を庇おうとするものの、拘束する手錠等が邪魔で庇う事すらできない秋樹。
「……次は左だ。言え」
「あああ!…………ぜ、絶対、言いません!」
尚も気丈な目を向けて、意志の篭った瞳を向けて秋樹に対し、明示は覚った。
ーーーー コイツは折れない。
仕方なく、明示は部下に秋樹を治療した後に自分の部屋まで連れて来るように命令した。
そして拷問部屋から出ようとしたとき、先ほど一人だけ背筋すら伸ばさなかった男に声をかける明示。
「おい里見、サイボーグ共が二人やられたぞ。お前の残りの商品は期待出来るんだろうな?」
「当たり前だろう。燃焼者は元々低スペック。飛翔者は本人の使い方が単調。どちらも所謂失敗作だ」
そう答えたのはーーーーネズミ色のボサボサとした不健康そうな髪。電子タバコを口に加え、ヨレた白衣を身に纏った里見甲人ーーーー教授だった。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.177 )
- 日時: 2017/04/24 01:24
- 名前: 波坂@携帯 (ID: SkZASf/Y)
「移動者、加速者、抹殺者。命令だ。
移動者、お前は風間司を連れて来い。ただし殺すなよ。
抹殺者、お前は足止めだ。
加速者は待機。二人のどちらが危うい状態となったら救援に向かえ」
〇
「はぁぁぁっ!」
平子の右拳の一撃が、相手の腹部に突き刺さる。
更に平子がそのまま両手で肩を掴み、膝を腹部に打ち込んだ。
相手が息を苦しそうに吐き出すもお構いなしに、駄目押しの右ストレートを打ち出す平子。顔面に直撃してよろめく相手。
相手は能力を発動させようとするが、既に平子の能力、[相手と自分を平等にする能力]が発動している為、能力そのものが作動しない状態となっていた。
その隙に、平子がポケットから携帯型スタンバトンを取り出し、一閃。
確実に首を捉えたスタンバトン。相手が短い悲鳴を上げて倒れようとしたところで、スタンバトンの柄で後頭部を殴り付ける。
今度こそ、相手の名も知らぬ人物の意識は途切れた。
「…………ふぅ」
「平野、お前容赦無いな……」
風間が他人に言えないような台詞を吐く。
実際、風間は先程まで何人も撃ち殺している。勿論、平子が見ているときは自重していたが。
「こういうのは確実にやる方がいいって訳ですよ」
そのまま携帯型スタンバトンを折り畳み、ポケットに収納する平子。
「まあ、それもそうだが」
風間と平子は言葉を交わしながら、階段を駆け上がった。
〇
十橋時雨は急いでいた。
ーーーー一分でも早く。
道を塞ぐ能力者が、何やら防壁のようなものを作り出す。
時雨がそれを思い切り殴る。そう、ただ拳で殴っただけだ。
たったそれだけで、防壁が砕け散る。
ーーーー一秒でも早く。
時雨がそのまま接近し、今度は能力者自身を殴った。
それが時雨の視界からフェードアウトした頃には、既にそれは時雨の頭から消え失せていた。
そのまま階段を駆け上がり、次の階段を目指す時雨。
しかし、いつまで通路を探しても階段が無く、部屋の中にあると予想した時雨が一つの大部屋の扉を開けた。
「…………やっぱり、来ちゃったのね……」
そう呟いた人影は、黒いレディーススーツを身に纏っていた。そして背中にはリュックサックをかるっている。リュックサックからは数本のコードのようなものがはみ出していた。
「…………嘘だろ?」
時雨がそうポツリと呟く。
その人影は、黒と紫が混ざったような、言わば闇色の髪を伸ばしていて、前髪はでこが見えるように左右に分けられている。
「…………なんでだよ…………嘘だって言ってくれよ…………」
「……………」
時雨が、答えの分かっている問い掛けを目の前の人影にするが、目の前の人影は目を伏せて首を横に振るだけだ。
その人影は、異常な迄に無機質な瞳だった。顔のラインは少し丸く、幼なげな顔立ちだ。
「…………なぁ、なんでだよ。なんでなんだよ」
時雨の問いは、最早時雨でさえ、自身に問いたのか目の前の人影に問いたのかは、わからない。
その人影は、時雨と同い年である18歳にしては低い身長だった。その身長の低さから時雨はいつも見るときは視界を下にずらしていた。
「…………どうしてなんだよ!教えてくれ!教えてくれよ鸛!」
そして目の前の人影ーーーー鸛御弥は、目を伏せたままこう答えた。
「…………それは私がテロリストの一員、抹殺者だからよ」
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55