複雑・ファジー小説

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超能力者と絶対に殴り合う能力
日時: 2018/03/26 17:23
名前: 波坂 (ID: KLUYA2TQ)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=359

初めましての方は初めまして。それ以外の方はこんにちは。
波坂なみさかと言う者です。
意見や感想、アドバイスなどは大変嬉しいのですが、それが的確なものであるかどうかを一度確認してから投稿して下されば幸いです。
宣伝などはできる限り控えて下さい。

※リンクは能力の募集に繋がっています。よろしければどうぞ

2015/10/17 スレッド設立
2017/01/18 受験の為、更新停止
2017/03/07 受験終了。更新再開
2017/03/28 参照回数8000突破
2017/05/14 参照回数9000突破
2017/9/01 参照回数10000突破
2017/12/15 参照回数11000突破
2018/2//13 参照回数12000突破

Twitter創作アカウント→@namisaka_sousak

【目次】
第一章>>1-21 第二章>>23-31

第三章>>32-46 第四章>>47-67

第五章>>68-77 第六章>>78-104

第七章>>105-202 番外編>>203-215

第八章>>219-236 第九章>>237-269

第十章>>270-現在更新停止

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.62 )
日時: 2015/12/09 13:48
名前: 麦茶 (ID: y7oLAcgH)

波坂さん、僕の小説にも同じようなことがきました。一応関係ない話は控えるように注意しときました。小説、頑張ってください!応援してます!

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.63 )
日時: 2015/12/09 20:36
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 麦茶さんアドバイスありがとうございます。
 ここで関係無い話はほんの少しならいいのですが、勝手に続きを書くとか予想を書くとかは遠慮して欲しいです。(予想ならリク板の方でお願いします)
 

 続きです。




 会場の中は静寂に包まれていた。
 たった今、人が目の前で射殺された。
 それだけでも、この場を恐怖によって掌握するのには充分だった。
 緋奈子はガクリと地面に膝を着く。当然だ。今まで喧嘩に巻き込まれたりした事はあっても、人が血を吹き出しながら死ぬ。何て物は見たことがあるはずが無かった。

『よし、じゃあコイツの親。出てこい』

 テロリストの男はマイクを使っている為、会場中に声は響いているはずだ。が、親は名乗り出なかった。

(え? 何で? 何でなんですか?)

『さっさと出てこい! 子供が殺されていいのか!』

 男が声を荒くして脅迫する。が、緋奈子の両親は出てこない。
 ふと、緋奈子はある事に気が付く。
 目の前の二人の死体は、見覚えがある。いやありすぎるのだ。

「嘘……いや……いやですよ…」

 しかし、緋奈子の脳はこう伝えていた。
 あの死体は、自分の両親である、と。

「何で……そんなの無いですよ……」

 緋奈子は泣き出す訳でも無く、叫ぶ訳でも無く、ただ、呆然とした。

『ああ? ……まさか撃ち殺した奴がテメェの両親か?』

 緋奈子は小さく呆然とした表情で頷く。

『フフフ……ハハハハハ! コイツはたまげたぜ! まさか今撃ち殺した奴がコイツの親だったとはな! ハハハハハ!』

 その罪悪感など微塵も浮かんではいない表情と笑い声に、緋奈子に一つの感情が灯った。

 ーーーー殺してやる。




「おい! 時雨! ちょっと会場が心配だから行くぞ!」

「わかった! ……お前ら大丈夫か」

 大分、テロリストは片付いてきた為、火英は時雨に自分と会場に戻るように伝える。時雨も向かおうとしたが、残りが心配だった。

「大丈夫だ、行け」

 風間の短い返事。

「大丈夫っす!」

 ザンの威勢の良い返事。

「気をつけるんだぞ!」

 そして火麗の心配する返事が返ってきたところで時雨と火英は会場に戻った。




 時雨がドアを開けると、会場は随分と変わっていた。
 富豪だけしかいなかったはずの会場にはテロリスト達が大勢いる。前にいるのは人質だろうか。
 少し探せば銃痕が見つかり、食器や食物が散乱している。

 そして、耳に響くのは男の声の高笑い。

「……時雨。俺達はまだ気付かれてねぇ。まず、音を出さずに近くの奴を仕留めるぞ」

「了解だ」

 時雨はしゃがみ、上を見上げている形になっているテロリストに接近し、剥き出しの顔面を掴んで口が開かない様にして、腹パンを決める。

 うぐっ! とは出したものの、その声は男の高笑いの方が大きい為にその声が目立つ事は無かった。

 一方火英はモロに首筋に麻酔をぶち込んでいた。黙ってお休みしているテロリストから剥ぎ取りを行い持ち物を搾取する。

「時雨、次の奴もいけるか?」

「今度は流石に厳しい。火英はどうだ?」

「麻酔があるから後一人ってところだ」

「そうか。俺は……ちょっと努力する」

 火英はもう一人の方に麻薬注射器を持って近づく。時雨は先程倒した男から抜かれなかったハンドガンと手榴弾を手に取る。

 時雨がそれを使ってどうしようかと考えていた時だった。

 ドゴン! 人質を取っていた男が天井に叩きつけられた音だった。
 男は天井から跳ね返った様に離れ、重力に従い床に落下する。

「……仇です」

 緋奈子が能力を使って男を吹き飛ばしたのだった。

 が、それはタイミングを間違えた行為だった。

 緋奈子に向かって、幾らか銃口が向けられていた。
 緋奈子の能力も、銃弾を跳ね返す程の念動磁場は作れない為、緋奈子はしまったという表情をする。

 ドガン!

「うおおおおお!」

 発砲音が、ライフルから響いた。
 その銃弾は不発する訳でも無く、当然緋奈子に向かって飛んでいく。が、緋奈子の前に何かが現れる。

 ブシュ!

 銃弾は肉を抉り、内蔵を撃ち抜いた。

「グガッ!………あああああァァァァ!」

 が、撃ち抜かれた後に叫び声を上げ、高速で移動し始める。

「アアッ!」

 ドゴッ! 短い叫びと共に放たれた拳はテロリストを捉え吹き飛ばす。

「化け物めッ!」

 ドゴン! 別のライフルが火を吹く。人を壊すには充分過ぎる威力の銃弾は。

「アアアアア!」

 カァン! と何かに弾かれる。
 手に持っていたのは折れた警棒。つまり警棒が折れたにも関わらず銃弾を防いだ。

 ドゴッ! 再び人が殴り飛ばされる。

 そしてまたライフルが火を吹こうとした時。

「大人しく…しろッ!」

 今度は時雨の拳がライフルを捉え、ライフルを破壊する。
 拳を振りきった勢いで裏拳を繰り出す。裏拳は顔面を捉え竹トンボの様に回転させた。

「まだだ!」

 その男を掴んで投げつける。まさかの投げるという選択肢を予想していなかったテロリストは巻き込まれて転倒する。
 時雨は別のテロリストが集中していた場所に、ためらい無く手榴弾を投げた。

 直後。

 ドガァァン!

 爆発が起きる。ドアの近くだったためにドアが吹っ飛ぶ。当然そこにうた人間の命は保証できる物ではなかった。

「アアアァァ! アァァ……」

 そして先程までテロリストを倒すのに暴れまわった、被弾した者ーーーー火英はその場に倒れ込む。

 一方富豪達は我先にと一気に逃げ出す。しかし緋奈子は呆然と床に膝をついたままだ。

 つい先程まで暴れていたのが火英だと知らなかった時雨は慌てて火英に駆け寄る。

「火英! 大丈夫か! それよりどうしてあんな事……被弾したばかりで! だいたい何でできたッ!」

「俺の能力だよ……」

 時雨は驚愕する。あの暴れまわった火英は能力によるものなのかと。

「俺の能力は……[暴走する能力]……文字通り暴走する能力だ……心臓の鼓動の速度を引き上げて血液の循環速度を引き上げて、体中のリミッターとかセーブとか限界とかを必要最低限以外全部外して……運動神経を引き上げる能力だ」

 だったら、何故最初から使わなかったんだ。時雨の考えを覚ったか火英はこう伝える。

「だけど……体に負担がかかりすぎて……足手まといになっちまう……ガハァッ!」

 ベチャリ。と床についたのは真っ赤な血液だった。

「もう喋らないでいい! だから休め。もうテロリストは大半が火英が始末したおかげでいない。助けを待てば……」

「時雨先輩!」

 時雨の声を遮ったのは、焦ったザンの声だった。

「どうした」

「大変です! テロ共が火を放ったんです! ……て火英先輩!」

「更に、火災警報装置や消火装置もテロリストによって破壊されている」

(やべぇ……それじゃあ助けが来ねぇ……少なくともロスした時間の間に火英は……!)

「もう…いいんだ。時雨」

 もう虫の息の火英は時雨に呼び掛ける。

「何でだよ! 諦めたら駄目だろ!」

「……時雨。富豪達が逃げたこの会場を見てみろ」

 火英の声に時雨は周囲を見回し、気づいてしまった。
 会場には気絶したテロリスト達や散乱した食器や料理、そして……恐ろしい程にあたかもホースで撒いたように飛び散っている……血。

「……暴走したら…心臓の鼓動を加速させる…俺は…ずっと、血液を、出し続け…た…つまり俺の血液は…間もなく50%を…下…ま…ガハァッ!」

 再び火英が血を吐く。
 火英が虫の息である事は誰が見ても分かる事だ。血液もじわじわと背中から出血し、命を削っていく。

「そんな……何で……」

「助け…たか…った…んだよ」

 火英は途切れ途切れに話す。もう時雨も止めない。火英の命のタイムリミットを知ってしまったからだ。
 火英が顔を傾けた方向には、先程人質に取られていた、そして人質を取っていたテロリストを倒した緋奈子がいた。顔に生気が無くなっている事が目に見えて分かる。服や顔には火英の血がべっとりとついている。

「何かな……あいつが…撃たれ…そうに…なった時…勝手、に…能力が、は…つ動してて、いつ…の…間にか庇ってた……なぁ時雨…」

「…何だよ火英」

「俺は……アイツ…を助、けら…れたの…か? 確認、して無い、ん…だ」

 改めて緋奈子の様子を時雨は観察する。
 先程見た様に顔に生気が無く、血がべっとりとつき、両膝を床についている。……本来ならアイツは死んでいた。だけど火英はそれを……助けた。

「……お前は、いや先輩はアイツを救ったよ。火英先輩」

「……はは。最後に救えて良かった……そしてお前も…そう呼んでくれる様になったのか……」

 火英は口に血をつけながらも満足そうな笑みを浮かべ、

「火麗に……宜しく頼むぞ…じゃあ……な」

 カクリ。と首が落ちる。
 その閉じた目は自発的に開かれる事は永遠になくなった。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.64 )
日時: 2015/12/11 20:00
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 時雨は火英の亡骸を風間達に任せて立ち上がる。非情と思われる行為かもしれないが、時雨は何も感じていない訳ではない。むしろ一番激情を露にしたいはずなのだ。
 だが、それは後でいい。今することは、火英が救った一人の少女を最後まで救う事。このまま緋奈子を放置して焼死でもしたら火英の行為は本当に無意味で無価値なものになってしまうからだ。
 風間が火英の亡骸を背負いドアを蹴破って外に出る。
 火麗は会場の外にいるのだから、火英を見てヒステリーする可能性を心配していたが、それらしい声は聞こえない。どうやらうまく言いくるめたようだった。

「おい! さっさと出るぞ! 火事になってんだよ!」

 緋奈子に時雨は声をかけるが緋奈子は反応しない。

「おい! 死んで良いのか!」

 その問いに緋奈子は呟く様に消えそうな声で応答する。

「……良いんです……私は彼を…私が彼を殺したんです……人殺しが…生きる理由なんて……」

 その言動に対して時雨が行ったのは、慰めでもなければ説得でもない。

「ふざけんなァ!」

怒りの爆発。すなわち激怒だった。

「お前なぁ……火英先輩は命に代えてお前を救ったんだぞ!」

「………?」

 緋奈子は顔にクエスチョンマークを浮かべて時雨の顔を見る。

「なのに……折角助けられた命を捨てる? ふざけてんのか! その命を捨てるのは、何よりも火英先輩に対しての冒涜だ!」

 じれったくなった時雨は緋奈子の手を掴み、強引に立たせ、背に乗せる。
 緋奈子の体重は重くは無いが、人が活動するのには十二分に邪魔になる。が、時雨の運動能力からすれば関係無かった。

「…何してるんです?」

「救助活動だ!」

 バン! ドアを蹴り壊して廊下に出る。そのまま階段を目指して時雨は走り出す。
 少し走った辺りだろうか。

「チッ……」

 目の前が火の海だった。
 時雨はまだ大丈夫だか緋奈子には耐えられない。それを覚って逆向きに走り出す。
 しかし、その先にも火の海が存在している。

「ヤッベ……」

「……私は死ぬべきなんですね」

 時雨の落胆した声に応じるかの様に緋奈子が絶望した声を吐き出した。

「許さん。お前は俺が許さない限り死ねない」

 時雨は解決策を見つける。

「…でもどうやって……」

 緋奈子がそう言った時だった。

 バゴォン! 時雨が床を思いきり蹴る。蹴りつけられた床は蜘蛛の巣の様に亀裂が入る。

「もう一発!」

 ドゴォン! 再び轟音が廊下に響きわたり、ついに床が鉄骨コンクリートの雨となり、下の階にバラバラと落ちる。
 当然、時雨と緋奈子も重力に従い落下する。

「きゃあああ!」

「よっと」

 時雨は見事に着地を決めて、周囲を見回す。
 幸い、片方は火の海では無かったため、そちらに向かう。
 このホテルは20階建てで、会場は7階のため、今時雨がいるのは6階である。
 向かった先には幸運にも階段があったため、時雨はそれを使って下る。
 1階2階と下ったところで事件が発生。
 下に行く為の階段が火の海と化していた。時雨は仕方なく別の非常階段目指して走り出す。
 4階は、大分火の海が少なく、そこまで燃えてはいないように思えた。

「見つけた!」

 時雨は非常階段のドアを見つけてドアノブに触れる。
 そして、ジュワァ! と肉が焼ける音がする。

「熱っ!」

 時雨が反射的に手を放す。どうやらドアノブは高温状態の様だ。

「おらぁ!」

 バガァン!

 時雨は蹴りを非常階段のドアに叩き込む。音を立てて破壊されたドアはくの字に曲がって壁に衝突する。
 非常階段は鉄骨と鉄の板が組合わさったような危なっかしいもの。しかも、階段事態が火事の影響で熱を帯びている為に、ロクに手すりを使う事すらできなかった。
 螺旋状になっている階段を下りて行く時雨を見ている緋奈子はこんな事を考えていた。

(……なんでこんなにこの人は頑張ってるんでしょうか? 私を切り捨てれば自分だけなら逃げられるのに)

 緋奈子にとっては疑問でしか無かったのだ。
 そうこうしている内に、時雨はついに一階に辿り着く。
 非常階段のドアは何故か鋭利な物で切断された様に、くりぬかれていたので時雨はその中を潜り、ロビーに出る。
 そして愕然とする。

 出口まで、既にロビーは火の海だった。

「ははは、もう無理ですね…」

 そんな事を言っている緋奈子を、時雨は肩に担ぐようにして持ち上げる。
 そして時雨は、火の海に突っ込んだ。

 時雨の体に、焼けるような、いや実際に焼ける火傷の痛みが襲いかかる。
 しかしそれでもスピードは落ちず、むしろ速くなる。
 一方緋奈子に一切火は触れなかった。時雨が肩に担いで火から遠ざけているのだから。

「アっ!…アアア!」

 時雨の口から声にならない声が漏れる。

「ァァァアアアアアア!」

 それは次第に絶叫に変わる。
 時雨の足は既に火傷の状態で、ズボンには炎が燃え移っている。時雨の足は放って置いても激痛が走るのにそれに走る事によるダメージと燃え移った炎のダメージが時雨に耐えがたい激痛をもたらす。
 しかし時雨は速度を緩めはしない。歯をくいしばり、我慢というよりその感情を絶叫と速度の加速に費やす。
 歯をくいしばり過ぎて何本か折れたがどうでもいいとばかりに疾走する。
 そして遂に出口が見える。

「アアアアア!」

 緋奈子をお姫様抱っこに持ち変えた上で時雨は外と内を隔てているガラスに背中から激突し、バリィーン! と音を響かせながら脱出する。
 勢い余って外のコンクリートに火傷をぶつけたりして、それが時雨に決定打をもたらす。

「ーーーーッ!」

 時雨は声にならない声を挙げたのを境に意識が薄れていく。

「お…時雨せ……ぱ…しっ…して……救き…」

「お…時…大丈…な…お…!」

「時…! …雨!」

 仲間の声を聞きながら時雨の意識は奥深くに沈んでいった。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.65 )
日時: 2015/12/13 22:51
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 ザザァ……ザァ……

 静かな浜辺に静かな波の音が静かに響く。
 夜の海は月を写し出していてとても幻想的な雰囲気だった。
 そして、そんな浜辺に立つ二人の男女。
 一方は、平子の親友であり鋼城家のお嬢様である鋼城緋奈子。
 もう一方は、元特殊警察第00部、通称【問題児部】であり今現在はスタントマンとアルバイトで生活費を稼ぐ十橋時雨。
 二人は共通の事に思いを馳せていた。
 とても綺麗とは言えない、苦くも辛くもある昔話である。

「十橋さん」

「なんだ?」

「何で、あの時私を庇って悪役になったんですか?」

 この言葉を理解するには、もう少し昔話を語らなければならない。
 再び、苦くて辛い昔話へ。




 ここは、とある病院の一室。
 時雨はその病院のベットに横になっていた。
 気絶した後に時雨は救急車で病院に担ぎ込まれた。後遺症の残る様な火傷が無かったのが幸いだが、全治一週間というこの世代では重傷だった。

「…………」

 時雨は、そのベットで上半身を起こしながら無言になっている。
 理由は簡単な事だった。

「…………あの」

 緋奈子がすぐ近くの椅子に腰掛けているためである。
 時雨からすれば、というか緋奈子からしてもお互いに黙っていては気まずい以外の何者でもないのは承知しているのだが、逆にお互いにろくに何も知らないために話を切り出すのに勇気がいるのだ。

「…どうした」

「お名前、教えて下さい」

(そう言えばこいつと俺って名前をお互いに知らないんだな)

「…十橋時雨。漢字は多分イメージ通りだ」

「そうですか。私は鋼城緋奈子です」

「そうか鋼城か」

「よろしくお願いしますよ十橋さん」

 二人の間に、またもや沈黙が訪れる。
 この空気はマズイと思った時雨は当たり障りの無い適当な話題をふることにした。

「き、今日はいい天気だな」

 ポツ……ポツ…ポツサーー……ザーザーザーザー。

 時雨の言葉を境に、そこそこな豪雨が降り始めた。どうやら時雨は大地にふってしまった様だ。

「そう…です……ね。あはは……」

「「…………」」

 時雨の失敗行動により更に空気が悪くなる。雨により湿度まで増えそうだ。

「時雨。入るぞ」

 その時、ドアを開けて病室に入ってきた者がいた。
 多少癖のある髪をセミロングまで伸ばした髪型で色はオレンジ。歳は時雨よりも上。能力は[摩擦を操る能力]。
 桟橋火英の妹である桟橋火麗だった。

「ああ、火麗先輩。今日はどうしました?」

「時雨。単刀直入に訊きたい」

 火麗の顔に冗談の様な雰囲気は殆ど無く、また真剣な表情だった。

「火英兄は、何故死んだ?」

 これを聞いた時、時雨は少し納得した。

(そう言えば火麗先輩はあの場に居なかったんだな……)

 しかし、この病室にはもう一人居ることを忘れてはならない。

(…私のせい……ですよね)

 緋奈子はそう考えていた。
 緋奈子の考えている事は事実ではない訳ではない。緋奈子がもっと冷静に場を見れば、死なない可能性もあったのだ。

「そ、その人は私を「俺のせいだよ。火麗先輩」」

 怯えながらも絞り出した緋奈子の告白は、時雨によって遮られた。だが緋奈子からすれば、遮られた事よりも時雨の発言に対しての驚きが強かった。

(えっ?)

「……それはどういう意味だ?」

 火麗の目付きが険しくなる。

「文字通りですよ。でしゃばって撃ち殺されそうになった俺を、火英先輩が助けてくれた。それだけです」

 時雨は、明らかに嘘をついている。
 当然。その嘘は緋奈子にも筒抜けだった。が、
 その場に居なかった火麗がわかるはずもない。

「それだけ?! ふざけているのか! 時雨ェ!」

 火麗が、時雨の病院服の胸ぐらを掴み自分の顔と高さを合わせて睨み付ける。が、自分はそれに怯えずにこう返した。

「ああ、他にも思いましたよ。生き残れてラッキーだなー。まあ自分が助かったしいいやー、とか」

「き…貴様ァ!」

 バチィン! 時雨の頬に平手打ちがお見舞いされた。しかし時雨は言うのを止めない。

「火英先輩死んだなー。まあ残念だけど自分が生き残れたし良かったー。特殊警察とかもうどうでもいいやー。辞ーめた」

 バギィッ! 時雨の頬に今度は拳がお見舞いされた。

「貴様がッ……貴様が居たから火英兄は死んだんだッ! 殺してやるッ! いつか殺してやるッ!」

 そう殺意と怒りと悲しみを混ぜた表情をした火麗は涙を溢してそう吐き捨て病院を走って立ち去る。

「……何で」

「……どうした」

「何であんな事言ったんですか!」

 今度は緋奈子が叫ぶ。

「本当は私が悪いのに! 貴方は悪く無いのに! 何で! 何で庇ったんですか!」

「……悪いが体調が悪いから、病院から出てくれ」

「何でですか!」

「いいから出ていけ!」

 時雨の真剣な声に緋奈子は驚いてしまう。

「頼む…そしてもう来るな」

 緋奈子に残された選択肢は立ち去る事だけだった。




 再び場所は浜辺に戻る。

「……あの人みたいに、なりたかった。んだろうな俺は」

「あの人とは……」

「火英先輩。桟橋火英先輩の事だよ」

 時雨は自分の手を強く握る。

「あの人は、俺にとってヒーローだった。ダメな部分も結構あったが、【格好いい】とは程遠い存在だったが、諦めの悪さと人の良さだけは、俺が一番信じてた」

 緋奈子は黙って時雨の話を聞く。
 時雨の声はどこが自慢する様でありながら、どこか寂しげな雰囲気だった。

「俺は完全無欠のヒーローじゃない。何かを救うのに代償を払わないといけない時もある」

「じゃああの時私を救う為に……」

「代償を払ったさ。火麗先輩との関係と言う代償をな」

「そんな……私のせいで……」

 ポタリポタリ、緋奈子の目から滴が溢れる。それが糸の様な形状になるのには少ししかかからなかった。

「だけどな…火麗先輩とは既に一回だけ話したんだよ」

「えっ?」

「最も、喧嘩だけで終わったけどな」

 時雨の言葉は何処か哀しげな感じをかもしだしていた。

「……ごめんなさい」

 涙を流しながら緋奈子は時雨に頭を下げた。

「鋼城? 別にお前が悪い訳じゃあ「私が悪いんです!」…何でだよ」

 緋奈子が声を荒くした事に時雨は若干驚く。が、すぐに反論を建てる。

「お前が何かしたのか?」

「私は十橋さんに代償を払わせて、兄の桟橋さんを殺して…妹の桟橋さんを怒らせた……それでも私は傷ついて無いんですよ! 私が悪いのに! 十橋さんは何も悪く無いのに!」

 夜の浜辺に緋奈子の叫び声が大きく響いた。
 緋奈子の顔は涙で溢れ反ったようになっている。
 時雨からすれば、そんな表情はしてほしく無かった。

「分かった。お前が悪いんなら……」

 時雨が腕をあげる。緋奈子は目を瞑って来る衝撃に準備をする。
 そしてーーーー


 ーーーーコツン。と時雨は緋奈子の頭を小突いた。

「……えっ?」

 緋奈子は驚いた表情を見せる。

「俺が泣いてる奴を殴る様な奴に見えるか? ま、それは兎に角だ」

 時雨は、緋奈子の正面にたち、両腕を緋奈子の背中に回した。いわゆる抱き締める。という行為だ。

「ちょっ! なっ!」

「すまなかったな」

 時雨は、泣いた子供をあやす様に優しく頭を撫でながら優しい口調で言う。

「お前が、そんなに悩んでる事を放っておいて」

 男性からのこういった行為に馴れていない緋奈子は顔に朱色を入れながら返す。

「別に十橋さんは悪くなんか「俺だって悪いさ」」

「お前がこんなになるまで放置した。お前の悩みに気づいてやれなかった。お前の話をしっかり聞いてやれなかった。これだけでも俺は充分悪いさ」

「でも!」

「だったらさ。罪滅ぼしと思って、俺を悪役にしてくれ」

 緋奈子は、こう言われれば何も言うことができなかった。

「そして鋼城。俺を許してくれるか?」

「許すに…決まってますよ」

「じゃあ、これで帳消しだ。両方とも悪くない」

 時雨はしてやったりといった感じに満面の笑みを浮かべる。

「十橋さんはずるいですよ……そんなに優しくされたら……また泣いちゃうじゃないです…か」

「そうか……だったら」

 ポンポンと緋奈子の頭に再び手を乗せ、

「泣いたって、いいんだぞ」

 そっと、優しく頭を撫でる。緋奈子の青紫色の髪は夜の海と合わさってとても綺麗だった。

「そう…です、か。じゃあ…お言葉に…甘えて」

 夜の静かな浜辺に、少女の泣き声が波の音と共に静かに響いた。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.66 )
日時: 2015/12/16 06:55
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 更新遅れて申し訳無いです。
 続きです。




「…………」

 ん? あそこにいるのは緋奈子ちゃんかな?

 おーい。緋奈子ちゃーん。

「…………」

 返事が無い。ただの屍の様だ。……本当にどうしたんだろう。
 私は目の前で手を振って「おーい」と呼び掛けると緋奈子ちゃんは

「なじぇっ!」

 と奇怪な声を出した十数秒後に「……あ、平さんですか」と落ち着いた様にため息をついた。何で私を見てため息をつくんですかね。
 それより……。

 緋奈子ちゃん。何か顔が赤いって訳だけど何かあったの?

 私から見て緋奈子ちゃんの顔には少し朱色が入っていました。
 それを指摘すると緋奈子ちゃんは、

「なな何でもありません!」

 明らかに動揺しながら返してくる。いやそれ肯定って意味って訳ですよ。

(十橋さんに抱き締められた上に泣きついた何て恥ずかしくて言えません!)

 何かとてつもなく気になるけど親友の為にここは引いておきます。だって私紳士ゲスですから。
 ここはね。ここは……グヘヘ。
 おっとついついB面が出てしまいましたよ。失敬失敬。
 それにしても今の緋奈子ちゃん……かなり色っぽいって訳ですよ……。


 ああもう恥ずかしくて仕方がない! 十橋さんは気を遣ってくれたんでしょうがその上自分から泣きつくなんて! ああもう私ったら!

 私は平子さんの前で平常運転を演じます。多分顔は赤いでしょうが。
 すると何やら「ふふふっ」と言って平さんが何処かへ向かって行きます。正直嫌な予感しかしません。

 ……そう言えば十橋さんがくれたものはまだありましたね……。

 十橋さんは、彼は私の価値観を変えてくれた。
 無能力の彼が私を救ってくれたから、私は無能力を差別していた自分の愚かさに気がついた。
 そして愚かさを知ったから、平さんや紡美さんと親友になれた。正直、あの時は許して貰えるか不安だったけど、二人が優しい人で良かった。
 十橋さん。貴方は自分がしたのは大した事無いなんて思ってるかも知れませんけど、私にとっては、人生を変えたのと同義だったんです。
 だから、もう一度言いますね。

 ーーーーありがとう。


 緋奈子ちゃーん。

 私は女性陣を自分の部屋に押し込み、最後の一人の緋奈子ちゃんを呼ぶ。

「? どうしました?」

 まあいいから来て来て。

 私は強引に体を引っ張って私の部屋に押し込みます。
 部屋の中には女性陣が勢揃いしせいます。今から何をするかと言うと……。
 ズバリ、緋奈子ちゃんの行動を突き止めようかと。

「あの…皆さん何を……」

 あ、とりあえず能力で逃げられない様に合掌しておきます。

 パン。と短く叩いてもしっかり効力は出ていて緋奈子ちゃんの能力を一時的に消しました。

「ねー。緋奈子ちゃーん。さっきまで何してたの?」

 紡美ちゃんが微笑み…訂正、ちょい黒い笑みを浮かべて緋奈子ちゃんに迫ります。

「何って言われましても……」

「さっき平ちゃんが『緋奈子が凄く色っぽかったよ』って言ってたから」

「ひ、平さん!」

 こちらを見て非難する様な目付きでこちらを軽く睨んでくる緋奈子に私は。

 グッドラック。

 と言って親指を立ててあげました。

 緋奈子ちゃんの方からは砕けんばかりの歯ぎしりの音が聞こえます。ざまぁw。

「もう白状しなよー。碧子、そのメロン掴んじゃうよ」

 と緋奈子の胸を観察する様に見ながら手を握ったり開いたりしている碧子ちゃん。いいよいいよ。

「ぜひとも揉んで見たいです」

 そう言いながらこちらも手を握ったり開いたりしている雪花ちゃん。

「え、ちょ、嘘ですよね。冗談ですよね……」

 冷や汗を浮かべて苦笑いをしている緋奈子ちゃんの背後から忍び寄った私は肩に手を回して羽交い締めにします。

「きゃっ! は、放してください!」

 放したら逃げるでしょ♪ さぁ! 何があったのか白状して下さいって訳だよ緋奈子ちゃん!

「い、嫌ですよ!」

 クッ。なら仕方が無いって訳ですよ……。

 雪花ちゃん、碧子ちゃん。

「「何?」」

 揉んでいいよ。

「平さんッ!」

 ひどいッ! と言わんばかりの声をあげてジタバタともがく緋奈子ちゃん。だかしかぁーし! 能力をかけられた今では運動能力は私の八割だ! 逃れる事はでき無いって訳ですよッ!

「「じゃあ…お言葉に甘えて」」

 そして悪ノリして便乗する二人。
 二人は徐々に緋奈子に近寄りニヤッと笑いかけます。その笑顔は緋奈子ちゃんからすれば絶望以外のなんでも無いんですけどね……。

「おお…柔らかいや。時雨もこういうのがいいのかな?」

 碧子ちゃん。その歳ならまだ希望はあるよ。

「ふむ……私より大きい……」

 雪花ちゃん。貴女は充分にあるよね? 何? 私への当て付け? 良いよね巨乳は。

「ひゃあああっ! やめっ! あっ! ひぃっ!」

 胸を揉まれて妖艶な喘ぎ声を挙げる緋奈子ちゃん。ふふ。

 結局この茶番は夜遅くまで続いたって訳ですよ。
 ちゃんちゃん。

「ちょっ! 放して下さいよぉッ!」


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