複雑・ファジー小説
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- 超能力者と絶対に殴り合う能力
- 日時: 2018/03/26 17:23
- 名前: 波坂 (ID: KLUYA2TQ)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=359
初めましての方は初めまして。それ以外の方はこんにちは。
波坂と言う者です。
意見や感想、アドバイスなどは大変嬉しいのですが、それが的確なものであるかどうかを一度確認してから投稿して下されば幸いです。
宣伝などはできる限り控えて下さい。
※リンクは能力の募集に繋がっています。よろしければどうぞ
2015/10/17 スレッド設立
2017/01/18 受験の為、更新停止
2017/03/07 受験終了。更新再開
2017/03/28 参照回数8000突破
2017/05/14 参照回数9000突破
2017/9/01 参照回数10000突破
2017/12/15 参照回数11000突破
2018/2//13 参照回数12000突破
Twitter創作アカウント→@namisaka_sousak
【目次】
第一章>>1-21 第二章>>23-31
第三章>>32-46 第四章>>47-67
第五章>>68-77 第六章>>78-104
第七章>>105-202 番外編>>203-215
第八章>>219-236 第九章>>237-269
第十章>>270-現在更新停止
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.132 )
- 日時: 2016/06/17 21:34
- 名前: 波坂@携帯 (ID: PtJSydhi)
今部屋には二人が夕飯を食べている。カチャカチャと空虚な音が余計にこの部屋の静寂を強調する。
片や、ユニ〇ロで購入したTシャツに短パンを着て何食わぬ顔でカレーを食す風間。
片や、少し大きめのサイズのジャージを着て行儀良くカレーを食す天澤。
電源の入ったテレビではバラエティー番組を垂れ流しているのだが、二人には笑う気配すらない。
まあ、この前にあったことを説明すると長々と語る事になるので省略しよう。
簡単に言うなら、風間が天澤の着ていた服(下着含む)を自分の服と一緒に乾燥機にかけたり、コンビニに天澤の替えの下着を買いに行ったり、そしてそれらを風間が殆ど無表情で行った事だ。
天澤が自分の下着が無いことに気がつき、風間に言ったところ風間はシャワーも浴びずにコンビニに行ってしまった。
ずぶ濡れになり、無表情の真顔で、片手に女性用の下着、片手にコーラを持ってレジに向かう風間に怪奇の目を向けるなという方が無理な程にシュールな光景だった。
帰宅した風間は天澤にブツを放り投げた後、シャワーを浴びにシャワールームに行く。そして風間は服を脱いで洗濯機に放り込み、洗濯を開始。その後シャワーを浴びた風間は服を着てついでに洗濯が終わっていた洗濯物を乾燥機にかけたのだ。ーーーー女性の下着を何食わぬ無表情で乾燥機にかける風間はなんとも言えなかった。決して良い意味では無い。
そして天澤といえば風間に自分の着ていた下着を乾燥機にかけられた事を知って文字通りオーバーヒートしてしまうのは最早お決まりである。
その後落ち着いたところで夕飯が開始したが未だに二人とも口を開いていない。
そもそも風間は喋らない。天澤に至っては羞恥心を堪えるのがやっとでそこまで意識が回っていない様だ。
「天澤」
と、ここで風間が声を掛けた。
「なにぇっ……何ですか?」
少々噛んでしまったものの一応平然と返す天澤。頬に朱色が混ざっている時点で虚勢だとまる分かりだが。
「……お前の皿には何が入っている?」
ふと天澤は自分の皿を見下ろす。
「あっ」
皿の中身は空で、天澤のスプーンはずっと空気をすくっていた。
天澤の頭の中の整理がついていない事は明白だった。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.133 )
- 日時: 2016/06/19 08:54
- 名前: 波坂@携帯 (ID: PtJSydhi)
そのまま微妙な空気に気まずくなっていた二人の静寂を打ち破ったのは秋樹の着信音だった。最近の若手歌手の着メロを聞いて天澤が応答する。
「兄さん?どうしたんですか?」
どうやら兄からの電話の様だ。確か名前は天澤春樹だったなと風間が懐かしく思い出す。実際には対面したことは無いが天澤の兄に興味が無いと言えば嘘になる。
「ああ今日実は……そう電車が……うん、だから帰りが遅くな……ふぇっ?!ちちち違います!おお、お大人の階段なんての、のの登りません!もう!兄さんのバカッ!次からご飯作ってあげませんよ!」
「天澤、声が大きいぞ」
「す、すみません、風間さん……え?風間さんに?分かりました」
天澤がスマホを風間に手渡す。
「兄さんが代わって欲しいと……どういう事でしょう?」
多少腑に落ちない点もあるが風間はどうでもいいか、と切り捨てて秋樹からスマホを受けとった。
「もしもし、風間ですが」
『貴方が風間君ですか!いやぁ中々良い声をお持ちで!聞いたところ結構格好いいらしいじゃないですか!もう家の秋樹が二日や三日に二回は貴方の話をしてーーーー』
「に、兄さん!そ、そんなこと風間さんの前で……あう」
頭を抱えて風間から目を逸らした秋樹。風間は無表情のままこんな事を思っていた。
ーーーー天澤の性格はこの兄を反面教師にしたものだろうか。
もしもこれと似たような性格だったらと考え途中で断念する。流石に今の天澤からこの兄の様な性格になることは想像が難しすぎたのだ。
「はぁ、ありがとうございます」
『いやぁ済みません、秋樹を弄るのがついつい楽しくて。きっとそっちでは羞恥に顔を赤く染めながら涙目になって上目遣いで見てくる秋樹がいるでしょうがそれを見れないのが残念です』
風間が横に首を回すと秋樹がたった今春樹が言った事と同じ状態となっていた。
一瞬保護欲(抱きしめたい)と同時に虐待心(もっと弄りたい)をくすぐられたが顔に鉄仮面を貼付けて風間は返した。
「確かにその通りですね」
『大分話は逸れましたがここからは本題です』
本題、と聞いて心を張る風間。
しかし、スマホ越しに放たれた言葉はその風間の張った心を一瞬にして瓦解させた。
『ーーーー秋樹の事、どう思ってます?』
この声はそれほど大きくなかった為に秋樹には聞かれなかったが、風間は、は?と返し、そのままの意味ですよ。と返答を貰った。
『シスコンの兄からすれば妹の恋愛事情は結構興味深いものでしてね?今秋樹に一番近い異性は貴方ですから』
ーーーーつまりアレか、俺はこの人の肴にされているのか。
風間は少し考えた後、こう答えた。
「可愛い、とは思います」
可愛い、まさかその単語か風間の口から飛び出るとは一体誰が予想しただろうか。
きっとこの場にキャロルがいたら思い切り大爆笑した後に皆に言いふらすだろう。
それを聞いた春樹は少し満足げに「それではこの辺で失礼します」と通話を切った。
「天澤、通話終わったぞ」
秋樹はさっきまでこちらを見ていた筈だがいつのまにか立って頭を抱えていた。
風間は取り合えず軽く肩を叩く。
しかし秋樹は反応しない。いや、想像とは掛け離れた反応をした。
「ううううっ……いやです……止めて……助けて!……嫌です!ああ……ああああああああああああああああああああああああああああああ!」
絶叫しながら床に倒れ込む秋樹。頭を押さえて心底苦しそうな顔をする。
「天澤!どうした!しっかりしろ!」
事態の急変についていくので必死の風間は秋樹に声をかけながらふと思い出す。
秋樹の能力を。そして、観る未来が遠ければ遠い程ーーーー秋樹に負担が掛かると。
風間は迅速にシャワールームへ駆け込みタオルを濡らし、ついでに自分の制服を手に取る。
秋樹をお姫様抱っこでソファに寝せ、額から目元にかけてを濡れふきんで被う。
風間は少し離れて特殊警察の制服に着替える。
風間の予想はこうだ。
ーーーーもし、これが天澤の能力によって起きた症状なら、絶対に良くない事が起こる筈だ。少しでも、準備をしなければ。
ふと、部屋のインターホンが鳴らされた。
不安要素しか無いものの風間は思いきってドアを開ける。
「さようなら」
開けた途端、太いケーブルの様なものが風間に殺到する。
が、風間に触れた瞬間、風間の能力[能力を無効化する能力]が作動し、ケーブル、いや鉄線達が萎れる様に落ちる。
こんな事なら武器も取っておくべきだった。風間は後悔する。
鉄線を蹴り出しドアを閉め、チェーンを掛けて風間は自分のスマホからある番号に掛けながらスマホを肩と頭の間に挟み、秋樹を今度は背負う。
派手な音と共にドアが破られた。
見れば鉄線達が金属製のドアを穴だらけにした上にグシャグシャに曲げている。その鉄線達をたどると一人の人間がいた。
闇色の髪、小柄な身体。冷たい、無機質な瞳ーーーー鸛御弥ーーーー抹殺者。
鸛が、いや抹殺者が再び【鋼鉄の茨】達を風間に襲い掛からせる。
秋樹に当たらない様に神経を使いながら【鋼鉄の茨】達を打ち落とす風間。
風間は舌打ちして片手であるものを持ち、口でピンを抜きおもむろに投げつける。
あるものーーーー手榴弾が爆裂し、抹殺者を爆炎が包み込む。
風間が火を迂回しながらなんとか玄関にたどり着く。
ふと背後に寒気を感じ、玄関から出て廊下に転がり込む。
一瞬後、風間と秋樹のいたところを燃えるクローゼットが通り過ぎる。
風間は背中に重みを感じながらも舌打ちをした。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(2500突破記念回 ( No.135 )
- 日時: 2016/06/24 00:02
- 名前: 波坂@携帯 (ID: PtJSydhi)
逃げる。
それが俺に残された選択肢だ。
俺は天澤を背負いながら戦う事ができる訳では無い。天澤をどこがへ飛ばす事ができる訳でもない。
だから逃げる。
雨は相変わらず降っているが、そんな事を気にしている場合ではない。身体が冷えるよりも運動による発熱が勝っている。
漫画やアニメでは女子は軽いと言われているが実際は40kg以上の物体を背負いながら走っている為に体力の消耗は尋常では無い。息が切れ、足が悲鳴を上げ始めた。
無理、無駄、諦める、三つの言葉が頭を横切る。
俺は虚弱な奴だ。たったこの程度の事で諦めるという選択肢が浮かび上がる程に虚弱な精神と肉体しか持っていない。
息が切れようが、息を吸い続ける事ができれば死にはしない。
足が悲鳴を上げようが、激痛を無視すれば問題ない。
そんな横暴とも無理矢理ともとれる言葉で自分を奮い立たせ虚勢を張る。
だか所詮精神論でしかない。借宿の駐車場まで行ったところで、俺の虚勢も糸が切れた。
不意に上から謎の音がして真上を見上げる。
雨が視界を妨げる中、一つの影があった。
その影が十数枚の背中の薄いなにかを震わせたと思えば、こちらに落下してくるのが分かる。
恐らく一歩後ずさりしていなければ俺は下敷きになっていたのだろう。目の前にその影が降ってきた。よく見るとそれは人型だった。背中から羽の様な十数枚の薄い金属片が生えている事を除けば。
「貴方が所持している人間を要求します」
お断りだ。
その言葉を聞いた瞬間、目の前の女性の様な人影が殴り掛かって来たのが見えた。その拳を受け止めると距離が近くなりはっきりと姿が見える様になった。
外人の様に白い肌。淡い緑の一つに束ねられた髪に鋭い目付き。視界を落とせば見える体はスラリと細くスレンダーで身長は俺より高い。見に纏うのは灰色に緑色のラインが入ったライダースーツ。そして背中からは薄い羽の様な金属片が生えている。
「それでは戦闘による実力の格差を貴方に学習させます」
がら空きの腹部に鋭いパンチが打ち込まれる。危うく天澤を落としそうになるが懸命に支えながら後退する。
足を狙ったローキックを跳躍して回避するーーーー筈が足に蓄積した疲労がそれを阻み、その足にローキックが叩き込まれ派手に転倒する。
眉間に何か固いものが突き付けられた。マズイ。
「これで失礼します」
そして眉間に突き付けられたーーーー銃の引き金が引かれる。
そしてそれと同時に、銃身がバラバラに切り分けられた。
「オイコラ」
突如として現れた人間が敵を武光で撲った。派手に吹っ飛ぶが背中の金属片をはためかせ空中に静止した。
そしてその人間ーーーーザンはこう言った。
「俺の先輩と後輩に何してんだぜお前」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(2500突破記念回 ( No.136 )
- 日時: 2016/06/25 14:09
- 名前: 波坂@携帯 (ID: PtJSydhi)
いつの間にか3000突破。
続きです。
「貴方は何処の人間でしょうか?」
「ただのお巡りさんだぜ!」
空中に静止している敵に向かって残切が空気銃を立て続けに発砲する。
それを敵は空中で右に左に鋭く動き回避する。
あの背中の金属片は空中での制御装置、あたかも鳥の羽の様なものかと風間は思い、どちらかといえばトンボに近いなと自己完結した。
「では何故警官が此処に存在しているのかを自身に拝聴させることを要求します」
「何言ってんだか分かんねぇ、ぜ。それより答えろ!お前は一体誰なんだぜ!」
敵は少し考えた後にこう言う。
「自身は飛翔者です。以後知覚することを要求します」
飛翔者が再び風間に襲い掛かる。
残切は上から背中の金属片を振動させて推進力を上げている飛翔者の攻撃を竹光で弾き風間を守る。そのままとんぼ返りで後退する飛翔者。
「その程度か、だぜ」
「はて、貴方が一体どんな妄想を脳内で加速させようと自身がその程度と発言をされる事象は発生していないと自負しています」
残切がなにかを言おうとした瞬間、残切の持っていた竹光の刀身が粉々に砕けた。
残切は冷や汗を流して柄の部分だけとなった竹光を捨てて素手を構える。
飛翔者はそれを見て再び背中の金属片を振動させ、推進力を付けようとする。しかしーーーーそこに暴れ回る竜巻が空気を乱した。
飛翔者の飛行は背中の金属片十数枚を振動させ、空気を叩く事によって空中を移動する。当然、空気自体が掻き回されては飛行もままならない。
そして竜巻を発生させたのは勿論ーーーー。
「おねーさんはぶっ飛ばしちゃってもいいよね♪」
キャロル・シェイキーだ。
その隣には桟橋火麗もいる。
火麗は疲れた風間と気絶した秋樹を一瞥し、飛翔者に問う。
「一応聞いておく、自首をすれば罪は軽いぞ」
「明確に、この状態は不安を記憶します。しかし貴方とその仲間は勘違いをしています」
「自身が一人で此処に到来すると思考しましたか?」
風間が先程の存在を思いだすと同時に、後ろからはとてつもないものが迫って来ていた。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(2500突破記念回 ( No.137 )
- 日時: 2017/10/01 20:07
- 名前: 波坂@携帯 (ID: KLUYA2TQ)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=11370
作家プロフィールとやらに手を出してみました。
まあ報告書的な感じで使っていきます。
プロフィールは上のリンクからどうぞ。
風間だけが、偶然後ろを向いた風間だけが気がついた。
背後から超高速で軽自動車が地面と平行線をなぞりながらこちらに飛来してくるのを。少なからず音を立てているが、それは到底雨音に勝る事は無い。現在進行形で軽自動車は風間達に接近している。最早口頭で伝えて回避できる間合いでは無い。
ーーーーどうするーーーーキャロルに頼む?ーーーーいや、間に合わないーーーーザンや火麗もーーーーそもそも誰が?ーーーーまさかあの時のーーーーいや、それより目の前の事だーーーー被害が一番少なくなるのはーーーーよし。
もし気付いたのが残切だったら、軽自動車をバラバラに切断して小さな無害の欠片に変える事ができただろう。
もし気付いたのが火麗だったら、空気摩擦で減速させ、皆が回避できる時間を作れただろう。
もし気がついたのがキャロルだったら、竜巻を意のままに操り軽自動車ごと吹き飛ばしただろう。
もし天澤が起きていれば、事前に予知し全員で対処することができただろう。
だが、気がついたのはこの中で唯一対抗策の無い風間だった。残酷な運命とはまさしくこれだろう。これを不幸と言わずして何と言う。
無力な自分に歯がみしながら風間は考えた。被害を最小最低限に抑える方法を。
思い付いた策はネジが飛んでいるとか、そのレベルの策だった。しかしこの方法が一番だと風間は決断を下す。
風間は意を決して、すぐ隣にいた残切を力一杯殴り飛ばし、その隣に居た火麗を勢いのままに突き飛ばし、秋樹を少し離れた位置にいたキャロルへと放り投げる。
突然の味方からの攻撃に成す術も無い残切と火麗。唯一キャロルだけが天澤を受け止める。しかし体格問題でそのまま後ろに倒れ込む。
なんなんすか!風間!風間センパーイ酷いですよー。各々が数秒後に発しようとした文句は0.7秒後に起こった惨劇により掻き消された。
ガラスが割れる音と物体同士が衝突する音。そして人が壊れる音がミックスされた刺激的かつ残虐な音が雨の音の中を暴れ回った。
文句を言おうと振り向いた彼ら彼女らの視界に映ったのは、いつもの様に鉄仮面を付けて立つ風間ではなく、宙に浮く軽自動車と、それに弾き飛ばされた何かだった。
何かがフェンスに衝突。そしてそれの後を追うかの様に軽自動車がフェンスに突っ込む。フェンスがひしゃげ、白かった軽自動車の前面をトマトが潰れた様に降り注ぐ赤色の染料によって塗り潰される。
雨の音を除く全ての音が死んだ。
水の溜まった駐車場の隅から、赤い色の水が流れてくる。雨が降っている性か臭いはしなかったが、その場にいた気絶した天澤を除く者はそれがなんなのかを理解した。
「一人仕留めたわ。さあ、さっさと終わらせましょう」
ゆらりと姿を現したのは、【鋼鉄の茨】を数十本程背中のリュックから伸ばした抹殺者だった。念動磁場で自分の周りの雨を弾いている彼女は少しも濡れておらず、むしろ少々服は焦げていた。
「了解しました。抹殺者。では回収を開始します」
返事をした飛翔者を、雨粒を含んだ竜巻が襲う。
「おねーさん……ボク今機嫌が悪いんだ……それ以上ボクの機嫌を悪くするつもりなら……」
竜巻が更に膨張し、キャロルの心情を表すかの様に黒く変色する。
そしてキャロルは更にもう一つの逆回転の竜巻を作り出し、それをいま飛翔者が捕われている竜巻とぶつけ合わせた。
巨大な竜巻同士が擦れ合い、飛翔者に風圧を打ち付ける。
キャロルは拳を握り締める。それに呼応して竜巻が小さく圧縮される。
キャロルが手の平を広げた。
閉じ込められていたものが吹き出すかの様に圧縮されていた風圧が解放され、辺りを辺り構わず強風でうめつくす。最早飛翔者がどうのこうのの問題ではない。
「風間センパイの……怨みだ」
キャロルの形相はとてつもない怒りに染まっている。
人の怒りは普段以上の力を引き出す時がある。が、時に怒りとは人の行動を阻害するものである。例えば、怒りに捕われて視界が狭まる。等。
キャロルの目前に、急スピードで飛翔者が迫った。
キャロルが竜巻を作り吹き飛ばそうとする。がーーー。
竜巻は消された。
キャロルの表情が驚愕を表すと同時に、飛翔者は嘲笑う様に言った。
「貴方の攻撃は、所詮空気を媒体とした空力操作。空気自体に強烈な振動ーーーー衝撃を付与すれば、崩壊させるのは容易です。そして自身の能力は[振動を操る能力]。振動を増幅または減衰させる能力です。貴方の竜巻を崩すのは容易でした。貴方は自身と全員の範囲で一番相性が良好と判断したのでしょうがーーーー残念、貴方と自身では圧倒的に自身が有利です」
「なっ!」
「貴方を始末します。衝撃に準備して視界を閉鎖する事象を推奨します」
キャロルが何か言う前に、キャロルの頭に飛翔者の手刀が振り下ろされた。
その振動が飛翔者によって増幅され、キャロルの脳に多大なダメージを与える。
それだけでは終わらない、
飛翔者の背中の金属片達が振動し、推進力を生み出す。
気絶したキャロルを抱えた飛翔者はそのまま急スピードであるアパートの壁面に向かって直進する。
そして壁が大きく見え始めた距離で
「Good night」
飛翔者は急カーブし、殆ど直角に曲がり衝突を避ける。
が、キャロルはカーブの直前で投げ出されーーーーアパートの壁面に高速で激突した。
そして高速で叩き付けられた人体の行方など、駐車場へと戻り始めた飛翔者が知る訳も無かった。ただ言えるのは、もうアレは再起不能という事だけ。
「排除完了。そちらの支援に進行します」
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