複雑・ファジー小説
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- 超能力者と絶対に殴り合う能力
- 日時: 2018/03/26 17:23
- 名前: 波坂 (ID: KLUYA2TQ)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=359
初めましての方は初めまして。それ以外の方はこんにちは。
波坂と言う者です。
意見や感想、アドバイスなどは大変嬉しいのですが、それが的確なものであるかどうかを一度確認してから投稿して下されば幸いです。
宣伝などはできる限り控えて下さい。
※リンクは能力の募集に繋がっています。よろしければどうぞ
2015/10/17 スレッド設立
2017/01/18 受験の為、更新停止
2017/03/07 受験終了。更新再開
2017/03/28 参照回数8000突破
2017/05/14 参照回数9000突破
2017/9/01 参照回数10000突破
2017/12/15 参照回数11000突破
2018/2//13 参照回数12000突破
Twitter創作アカウント→@namisaka_sousak
【目次】
第一章>>1-21 第二章>>23-31
第三章>>32-46 第四章>>47-67
第五章>>68-77 第六章>>78-104
第七章>>105-202 番外編>>203-215
第八章>>219-236 第九章>>237-269
第十章>>270-現在更新停止
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.72 )
- 日時: 2015/12/29 19:32
- 名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)
あれ? おかしいな。何で能力が使えないの?
アタシの能力。[【錠】を掛ける能力]で服に鉄の【錠】を掛けたからこれを破るにはそれ以上の硬度の物や超高温や酸化とか膨大な電気とかじゃないと破れないはずなんだけど……。そもそも南京錠すらも現れない。もう能力が発動できてないとしか考えらんない。
しっかし……ボディブローが派手に入ったせいで……大分ダメージが大きい。
アタシが数歩たたらを踏んだ時、右耳につけた小型無線通信機からビーッ! と音が流れた後に男の声が流れた。
『もう充分だ。戦闘を中止して構わない』
それだけ言ってさっさと無線の通信を切ってしまう。ちょっとさぁ……向こうはまだまだやる気満々なんだけど。アタシのやる気メーターは底をつくどころかカラッカラに砂漠化してるけど。何? アンタのやる気はオアシスですか? アタシがあのオアシスの水を飲んだら拒絶反応が起こるわ。絶対。
あのさぁ……。
「……何ですか」
ああ、一応会話する気はあるみたいだね。良かった。戦闘大好きな某戦闘民族的な人だったら殴りかかられてたよ。
もう止めにしない? アタシの仕事は終わったからもう闘う理由とか無いし。多分だけどアンタと私の能力って相性悪いと思うんだよね。それに美女同士が殴り合って傷つけ合っても誰得じゃん。
少なくともアタシは自分が美女だとは思っている。……少々遅れて能力が発言した時のアイツらの態度の変わり様でわかったんだよね。
まぁ目の前にいる高校一年もそこそこ整った容姿だし案外モテそうだし。アタシ? 私は17。
「……じゃあどうするんですか?」
じゃあついてきて。
私こと平野平子はジーナと名乗った謎の女性(笑)に連れられています。
うわぁ……私どうなっちゃうんだろ。不安でいっぱいって訳ですよ。
「ここでいっか」
ついた場所はと……ただのファミレスじゃないですか! 私の不安を返せ!
なんて私の憤慨に目もくれずにジーナさんはファミレスに入っていく。
私も何かやけくそ気味になって入ったって訳ですよ。
「じゃあ名乗っとくよ。アタシはハリック・ジーナ。別に本名じゃ無くてコードネーム的なアレだけどね」
平野平子です。って知ってますか…。
取り合えず名乗ってきたのでこちらも名乗っておきます。でもこの人初対面から私の名前知ってましたね……。ま、まさかストーカー!
「盛大かつ壮大な勘違いしてる様だけどアタシは単に国から依頼があって標的がアンタだったから名前だの身長だの体重だのスリーサイズだの知ってるんだよ」
心を読んだか突っ込みを入れてきたジーナさんはそこまで言ってニヤッと口を歪ませた。そして、
「アンタのスリーサイズここで暴露していいww?」
とんでもない事を言い始めた。当然純粋(笑)な乙女の私は。
止めて下さぁぁい!
叫ばすにはいられないって訳ですよ。
「ハハハ。冗談冗談」
こ、この悪魔めぇ……。私は口に出さずにそう思いました。
一方ブロンドデーモンことジーナさんは「ハハハ」と笑うばかり。
「で、その事は兎に角」
兎に角じゃないって訳ですよ!
「国はアンタに対して特にお詫び的な事はしないんだよ。アタシにもやっぱ申し訳ない的な思いはあるからさ、アタシにできる範囲でアンタの言うこと三つだけ聞いてあげるよ」
無視ですか。三つってジーナさんはランプの魔神ですか?
私の冗談っぽい問いにジーナさんは
「ま、制限つきの拒否権ありきだけどね」
そう返してきた。
さてと、三つか……図々しいかと思うかも知れないけど私は被害者だ。だったら行使する権利があるって訳ですよ。
じゃあ……。一つ目はジーナさんの能力について教えて下さい。
「えーっと……まぁ国のなんたらとかあるけどいいや。……アタシの能力は[錠を掛ける能力]……でも何か私、今は能力が使えないんだよね……」
頭を掻くジーナさんを見て私は思い出したように能力を解除します。
すいません。それ多分私の能力です。
私の能力とできることについて簡単にジーナさんに説明する。
「それは……なんと言うか応用が少なそうな能力だね……ああ、アタシの能力だけどさ……簡単に言えば弱点を追加したり弱点以外から無敵になれるんだよ」
ジーナさんはポケットから何かの銀色の物体を取り出す。
「これは鉄。例えばこの鉄を元にした鉄の【錠】をこの服に掛ける」
ガチン! と先程聞いた音が鼓膜を揺らす。ああ、この音は能力の発動音だったんですね。
「因みにこれが【錠】」
コートの右腕の袖口辺りに手のひらの1/2位のダイヤ柄の南京錠がかかっている。触ると熱くも冷たくもなかった。
「じゃあここにライターの火を押し付ける」
あっ!
ジーナさんは容赦無く火をレディーススーツに押し付ける。私は燃え移る映像を予想しましたが……びっくりなんと燃え移らないって訳ですよ。
「これは【鉄】の融点や沸点が高いからなんだよ。勿論それくらい過熱したら燃えるけどね。あ、南京錠自体に弱点攻撃を加えれば【錠】は解ける。と……これぐらいでokかな?」
じゃあ二つ目です。私と電話番号交換して下さい。
「何でまたそんなこと……」
ジーナさんと居ると楽しいので、友達になりたいんです。
「何それ」
それを言ったジーナさんの声は先程とはうって変わって冷たくなっていた。
「そんなんじゃこの国の裏でやってけない。アンタはまだ表の人間でしょ? だったらやめときな。大体アタシはアンタを信じられないし、アンタはアタシと友達になんてなれない。なれるはずがない」
突き放す様な口調。冷たい眼差し。向こうが拒否してるのはわかってますけど……。
まぁ良いじゃないですか。たまに相談に乗って貰う位ですし。
諦めませんよ。私が信じられないなんて絶対に間違いだと認めさせてやるって訳ですよ。
そしてそれを聞いたジーナさんは沈黙した後。
「プッ……ハハハハ!」
急に笑い始めた。
そして声色も眼差しも先程の冷たさはどこかへ飛んでいってしまった様に明るくなっている。
「ハハ! アンタちょっと気に入ったわ。いいよ。これ番号ね」
とか言いながら渡された名刺には連絡先だのの個人情報、ジーナさんの写真、そして肩書きが書かれている。
ジーナさんの名刺に書かれていた肩書きはこうだった。
臨時的【日本国直属一等超能力者】
臨時的【単発依頼募集超能力者】
【日本国中超能力者特権行使可能能力者】
……一応説明しときますけど一番上の奴は国直属で契約している能力者の事です。臨時的の意味がわかりませんが一等って事はかなり優秀です。
次の奴は他の個人や企業から依頼を受けて、報酬を貰う事で仕事として能力を行使できる人の事を指します。こちらも臨時がついてますがまあいいでしょう。因みにこれは国の審査が必要です。
そして最後の項目は……以前影雪さんと闘った時に言いましたが、[〜を司る能力]を持った能力者は余りに能力が強すぎる為に能力の事故が起こりやすく、その為に大抵の事件なら事件扱いされない特権を持っています。そしてジーナさんのこれはその特権を扱う事のできる能力者に与えられる肩書きです。つまりジーナさんは……国の抱える超凄い超能力者って訳ですよ。
どうやら私はとんでもない友達を作ってしまった様です。
閲覧1000回突破ありがとうございます。
能力やオリキャラ等も募集しておりますので良かったら上のリンク先でお願いします。
あ、気分転換するために新しい小説書き始めました。あっちの更新は遅いです。波坂でした。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.73 )
- 日時: 2015/12/23 22:14
- 名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)
これは平子とジーナが戦闘している頃。
「なあ兄貴。あのクソアマをやらねぇと気が済まねぇ。どうかして潰さねーか?」
現在ここの路地裏には二人の不良がたむろしていた。今喋りかけたのが有原次郎。もう片方の兄貴と呼ばれたのが井上連。この二人はこの前平子にケンカを売って返り討ちにされたにも関わらず再び平子を襲おうと考えていた。
「そうだな。しかしどうする? ……取り合えず俺は後二人程集めよう。
おお、そういえばだ。コイツも使うか」
そうして倒れている人間を指差す井上。その人間ーー能野安はぐったりしていて意識が無い事がわかる。
「コイツの能力も使えるかもしれねーな。おい起きろ」
ゲシッと安の頭を踏みつける井上。安は苦痛に目を覚ます。
「悪いけどちょっと協力してもらおうか」
「え? いや、でも」
「分かったって訊いてんだよゴラァ!」
「は、はいぃ!」
(つ、疲れた。今日の戦闘では集中力をかなり使ったしその後のプロフィールを見てまた疲れたって訳ですよ)
平子はジーナと別れファミレスから出て現在帰宅している。
ジーナのプロフィールを聞いた事から遠慮と言う物が平子に生まれたために三つ目の願いは保留になった。
それは兎に角。疲れきった平子ちょいちょいフラフラとしながらてくてくと歩いている。
だから、平子は異常に気がつかない。疲れているせいで集中力が散漫になっている。
平子はフラフラと歩いている為に無意識の内に強く地面を蹴っている筈だ。
だが、足音はしない。これは明らかにおかしい事態だが、これだけで済んでいないのがまた厄介なのだ。
足音どころか息をする音も聞こえない。
理由はあった。何故なら現在平子の周りの音は何かしらの能力で全て消えていて無音であるからだ。
そして平子は気がつかない。
背後から音をたてて踏み込んだ上での拳が猛スピードで後頭部に迫っている事を。
ガンッ! 等という音はしなかった。平子の周りはやはり無音だからだ。まるで何処かに奪われた様に。
殴られた後、平子はあっ! と声をあげた筈だった。
だがそれは誰にも、平子自身にすらも聞こえなかった。
あるぇー? 何かおかしいですね。
平子はこう発声したつもりだった。
だがその声も空気を震わせず鼓膜を叩く事もなく誰の耳にも届かない。
平子の顔に驚愕が生まれて隙ができる。
そして二発目の拳ーー否、今度はスタンガンを持っているーーが平子の首を捉えた。
平子の細い首筋に乱暴にスイッチを入れたスタンガンが押し込まれる。暴れる様な電撃が平子を襲う。当然平子は悲鳴をあげるがそれすらも誰の耳にも届かない。
平子はそのまま糸の切れた人形の様にカクリと気絶した。
そして、その光景を見ていた色素の薄い髪の少年は、
(ごめん。平子さん。僕もやりたく無いんだよ)
自分の無力さに打ちのめされながら噛んでいる唇を指で触りながら涙を少しながら溢していた。
(こんな僕を……許してッ!)
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.74 )
- 日時: 2015/12/26 14:00
- 名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)
そこからの不良達の行動は決して早いとは言えなかっただろう。盗難車に平野さんを乗せるのに三十分程を要したのだから。
だけど周りはあまり反応しない。表向きから見れば路地裏の前に車を止めているだけに見えるのもあるが、僕の能力、[無音を操る能力]で音が無くなっているから目立たないのだ。
僕の能力の使用方法なんてこれと言って無い。精々気付かれにくくなったり、物を気付かれない内に移動させる事が可能になる位だ。
それをまさかこんな事に使わせられるなんて思ってなかった。現在僕の体は罪悪感で破裂してしまいそうだ。何よりも自分が好意を持っている人に対してこんなことをした僕はもう何が何だかわからなくなってきた。
僕がボーッとしている内に不良達は車を出す。当然僕も乗せられたがボーッとした状態から抜け出せたのはB-6の廃墟に入り、平野さんの監視を命令されてからだった。
そして現在、僕は廃墟で平野さんの監視をしている。廃墟には後二人ほど不良が残っている為に逃げ出す事はできない。
どこから入手してきたのやら手錠がついている。そんな犯罪者でも無いのに手錠を掛けられた平野さん連れ去って一時間程経った今も彼女は目を覚まさない。
…………
僕は初めて彼女の顔を至近距離で見ている。見ていると鼓動がバクバクとする。顔が熱くなる。ずっと影から彼女を見たり少しだけ話して喜んだりしていた僕が、彼女の無防備な場面に居合わせている。
…………
無防備な彼女の夏休み前までは肩よりもした辺りだったのに今は更に伸びた髪を持つ。サラサラとしていてとても綺麗な髪だった。
彼女を自分の物にしたい。
そんな衝動が感情の壺から沸き上がる。頭を振って自分の煩悩を振り払おうとするが中々頑固な油汚れの様に取れない。それを落とす洗剤もスポンジも僕は持っていない。
髪を触る手は徐々に毛根へと向かう。そして頭に到達した。
ゴクリ。
唾を呑み込んでじっと顔を見つめたまま触る右手をそのままに左手を服に伸ばそうとするーーーー
「オイ! ちゃんと見張ってろよ!」
不良の声にビクッと反応し我に帰る。
ぼ、僕は何て事を……。
自分の左手を見つめてもやろうとしたという事実は変わらない。やりなおしのロードやリセットボタンもない。既に時間と言う常時セーブ機能に記録されてしまった。
とりあえずゴスッと自分の頭を叩く。
だけどそんな事で自己嫌悪の警報ベルが鳴り止む訳が無かった。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.75 )
- 日時: 2015/12/26 21:49
- 名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)
僕がずっと監視をし続けてもう三時間程が経っただろうか。
腕時計の針も、もう5時を指していていつもなら帰宅を考え始める時間帯だ。
だけど僕にはそんなことを考えている余裕は無かった。理由なんて簡単だ。
「そろそろ始めるか」
目の前にいるやたらと図体だけはでかいチンピラに脅されているからだ。僕はコイツに勝てないから逆らえない。やられるとわかって挑む奴なんてのは追い詰められたネズミかよっぽどのバカだけだろう。
今現在僕は廃墟の中にいる。僕の視界には今だ意識を失った平野さんが4人位の不良に取り囲まれている。
これから何が始まるのだろうか。と言ってもだいたい分かっている。どうせ性欲盛んなチンピラがあれやこれやするだけだろう。最も先程の行為の為に僕が言える立場ではないが。
「おい! お前!」
この兄貴と呼ばれるチンピラがお前と呼ぶのは僕しか居ない事を学習した僕は直ぐに振り向く。
「お前はとっとと帰れ」
今更帰れ? 僕の能力を散々こき使っておきながら何の代償も謝礼もせず?
僕の感情に少しの怒りの炎が灯る。
しかしそんなものは現実と言う越えられない壁に直ぐに消される。
どうせ僕が抵抗したって、暴れたってこいつらには効かない。だったら諦めよう。
僕の感情は怒りどころか諦めの氷付けになっていき、やがて凍り付く。もういいや、全部もういいや。
そんな僕みたいな人間に残された選択肢は負け犬の様に惨めに引き返す事だけだった。
廃墟から出てきて道をてくてくと歩く。まだ十数秒しか経って無いが。
今日は災難な日だ。何で僕ばっかりこんなにシャワーみたいに厄が降ってくるんだ。僕は神様の加護や運命の赤い糸を打ち消す右手も他人から厄を吸い寄せる力も無いのに。
今日の事は忘れよう。嫌な事は忘れるんだ。全部全部。
明日からはできるだけ無音になっておこう。そうすれば気づかれないでまた影の人生を送れる。
ほら、そうして生きて、いつもの日常を過ごせばいいじゃないか。最高のノーマルルートじゃないか。
僕の頭にふとこんな単語が出てくる。
ーー平野さんの事は。
忘れよう。忘れるんだ。彼女に持った憧れも、希望も、好意も、全部全部。諦めるんだ。諦めて何が悪い? 諦める権利位僕にもあるよね? 平野平子なんて人間は僕の人生には名前も知らぬ他人。そうすれば良いじゃないか。
僕にとって最高の結末じゃないか。僕は傷つかない。負い目を感じる事も無い。罪悪感に縛られる事も無い。
あああああああ!
思いきりコンクリートの壁を殴り付ける。拳に鈍い痛みが走るがどうでも良かった。
できるわけ無い! 僕が忘れるなんてできるわけ無い!
大体彼女がああなった原因は僕だ! 僕が弱いから、僕が脅しに屈して能力を使ったから! だから彼女は捕まったんだ!
なのにっ! 僕って奴は!
そんな自分に怒りを抱いて、何もできない自分が情けなくて、好きな女の子一人助けられない自分が悔しくて、僕は泣きながら壁を殴り続ける。
痛い、痛い、痛い。だけど止めない。感情の暴走は止まってくれない。
僕はいつの間にか走り出していた。
跳ね返ったボールの様に180度の方向転換をして。
僕が廃棄に戻った時には既に平野さんの服に手がかかっていた。
その光景を見た僕は、
平野さんに……手を出すなぁぁぁ!
いつもの自分ですら弱々しいと思ってしまう声からは想像のつかないほどの大声量と共に拾った鉄パイプを降り下ろしていた。
ゴンッ!
僕の声と鈍い音が廃墟に響く。当然他の三人が気が付いて僕の方を見る。
殴り付けたチンピラは気絶している。だが僕はなりふり構っていられない。そのまま鉄パイプを横に振りもう一人のチンピラをスタンさせる。
そして鉄パイプを兄貴と呼ばれるリーダー格のチンピラに横回転をかけてプレゼントする。結果は見ていないが「うぐっ!」と声が聞こえたので当たったのだろう。
そのまま平野さんをお姫様抱っこで抱える。きっと火事場の馬鹿力って奴だろう。あまり重さを感じなかった。
「オイ! 追いかけろ!」
「ハ、ハイ!」
すぐに一人のチンピラが追いかけてくる。いくら火事場の馬鹿力状態でも足が遅くなるのは当然だ。
兎に角僕は廃墟の階段をかけ上がる。階段の上は歩道橋の様な造りで上から移動できる様になっている。
「待てやゴラァ!」
誰が待つか。そう毒付きながら階段を必死にかけ上がる。先程まで全力疾走した上に平野さんをお姫様抱っこしているまま逃げた為に普段鍛えてない足が悲鳴をあげるが歯を食い縛る。
階段を登りきった僕は一旦平野さんを下ろして周りの廃材やらを階段から落とす。
「おいっ! 止めろコラァ!」
誰がやめるか。転がしてきたドラム缶を階段に落とす。
だかチンピラは階段の手すりにぶら下がって徐々に上ってくる。
「よし、テメェは後でぶっ殺してやるからな」
徐々に近づき余裕が出てきたチンピラはそう言いながら僕を見る。
僕は内心焦りつつも落とすが階段に蓄積するばかりで手すりの外にぶら下がっているチンピラには当たらない。
もうチンピラとの距離があと2m程の時だった。
遂に最後の僕が動かせる範囲の物の鉄塊を階段に落としてなおもチンピラに当たらない。クソッ! 僕は苛立って階段に思いきり武器用に持っていた鉄パイプを階段に叩きつける。
次の瞬間、ギィィン! 鉄の切れる音がし始める。僕もチンピラも驚くばかりだが原因は単純だった。
元々骨組みだけの階段はそれほどの重量を想定していなかった。
そして僕は兎に角、廃材を落としまくった。徐々にそれらは階段に蓄積し、階段に負担をかける。
そして僕が丁度切れ目に鉄パイプを叩きつけた。結果、それが原因で階段が切れ始める。
チンピラの捕まっている手すりは運悪く僕のいる足場と繋がっておらず、ギィィィ……と音を立てて落下する階段と共に落下していった。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.76 )
- 日時: 2015/12/29 08:40
- 名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)
終わった。
僕が落ちていった階段とチンピラを見つめ初めに出てきた単語はこれだった。
もう一度平野さんを抱える。失礼に聞こえるが重い。単純に僕の腕力が無いだけなのだが。
さっきまでの力はやっぱり火事場の馬鹿力とか言う奴だったのだろう。平野さんを抱えて別の階段から降りるのに約10分程かかった僕はおせじにも力強いと言う形容詞は当てはまらない。
だが、もう出口は目前だ。
あと少しで助けられる。ヒーローになれる。
こんな卑屈な事を考えている自分に多少の嫌気が差すがそれでも好意を寄せている相手を助けたと言う満足感の前には塵も同然だった。
僕が一歩踏み出す。
ドガッ!
あれ? おかしいな。僕の足音ってこんなのだっけ?
それにほら、何か床が近づいて来てる。何で? 僕は転けたのか?
そんな呆けた事を考えながら僕は前のめりに転倒する。平野さんは床に打ち付けられ多少苦い表情をする。が、意識はまだ戻らない様だ。
僕はとっさに起きようとして、体を反転させて仰向けになる。
ガシィッ!
ドンッ!
それと同時に僕の頭が鷲掴みにされ、床に叩き付けられる。……え?
僕の目の前には、
「さっきはよくもやったなオイ」
兄貴、とチンピラ達から呼ばれるリーダー的な存在のチンピラがいた。
うぐっ!
頭を握る握力が徐々に強くなっていく。僕の頭に指がめり込み頭蓋骨が軋み悲鳴を上げる。
「テメェはぶち殺して灰にして海にぶけちまけてやんよ」
僕が返事をする間もなく、体が浮遊感に囚われる。視点が移り変わりバックの背景が天井主体から壁面主体になった事から上に頭を掴まれて持ち上げられている事がわかる。
「クソチビが。弱い癖に調子こいてんじゃねーぞ!」
次の瞬間、物凄い横の圧力がかかり、僕のちっぽけな体が紙屑の様に吹き飛ぶ。手は何とか圧力に逆らおうとするも空気を掻いても何の抵抗も生まれずに壁に激突床に落下頭がぐるぐると回る様な症状に陥る。
「全く手間かけさせやがって! おかげでお楽しみの時間が減っちまったじゃねーか!」
無様に倒れているところに容赦の無い蹴りが叩き込まれ、頭を踏みつけられる。
ぐがぁぁ……。
「チッ。もういいか」
舌打ちをしてチンピラが僕から目線を外す。
このままだと平野さんのところへ行くだろう。駄目だ。それは駄目だ。兎に角駄目だ。
体、動け。
意識、働け。
僕は唇に人指し指に触れ能力を使う。消した音は<僕の発する音>。これで僕は見られなければ気付かれない。因みに触れる指に関係はない。
[無音を操る能力]なだけに発動後はもちろん発動時も音は無い。なぜ発動したかが分かるかは、無音に指定した音が頭に直接入ってくる感覚があるからだ。頭に入る理由は無音にした音は僕の頭に情報として鼓膜などの感覚器官などを介さず直接脳に入って来る為にどれだけの大音量を聞いても鼓膜が破れるなどと言う事は無い。
『カツ…カツ…カツ』
『はぁ、はぁ、ふう、はぁ』
『ドクン! ドクン! ドクン!』
足音、息、いつも聞こえない心臓の鼓動までが頭に響く。その聞き慣れたBGMをバックにチンピラに思いきり殴りかかる。
ゴッ。
「……あ?」
だけど悲しい事に僕の腕力ではチンピラの鎧の様な筋肉を通してダメージを与える程の力は無かった。
バギィッ!
頬に高速の硬い鉄拳がめり込みそのまま僕の体勢は約90度入れ替わり床に倒れ込む。
「ウゼーんだよ。そんなんやって格好いいと思ってんのか?」
そんな訳…無い…よ。僕の、格好悪さは僕が一番わかってるん、だ。
だけど…こんな僕だって譲れないものがある。愛しいと思える人がいる。
だから…倒れる訳には…いかないんだ!
膝がガクガクと警報器。体がやめろそと赤信号。
関係無い。警報器なんてぶち壊して、赤信号なんて無視して、後は目の前の壁を倒せばいい。
立ち上がり、床を蹴って突撃する。
「もうメンドクセーよテメェ」
ゴガッ!
がぁっ!
繰り出された膝打ちを僕は避ける事はできず顔面に受ける。
仰向けになり視界が天井一色に染まる。
まだだ、まだいける。
それから何度繰り返しただろうか。
ゾンビの様に立ち上がる僕。
それを倒すチンピラ。
そして、ある一回だった。
チンピラが右ストレートを繰り出した時だった。
足がもつれてフラフラとなる。そして大きく体が揺れる。
その時に右ストレートが目の前を通過した。それを見た僕はここぞとばかりにチンピラに飛び付く。
チンピラと言えど僕から飛び付かれて倒れない程の力は持ち合わせていなかったらしい。僕もろともチンピラと床に這いつくばる。
僕はチンピラに馬乗りになり右左右左右左とめちゃくちゃに拳を振るう。
チンピラは黙ってやられるかと思いきやカウンターで左フックを放ってきた。もろに直撃するが、歯を食い縛り攻撃を続行。
そんな僕を見たチンピラは恐れたかの様に右ストレートを放ってきた。
ゴギャァ! 肉がめり込みリンとカルシウム性の骨格が折れる音がする。
ドバドバと流血しだす。どうやら鼻の骨が折れた様だ。
構わない。どうなってもいい。
僕はめちゃくちゃ振るう腕を止めて、思いきり頭を振りかぶり、振り下ろす。
ゴォォン!
僕の頭突きはチンピラの意識を刈り取った。ざまあみろって言おうとするけど……あれ? 何かし、かいがぼ…やける。
僕の頭突きは、僕の意識すらも刈り取っていった。
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