複雑・ファジー小説
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- 超能力者と絶対に殴り合う能力
- 日時: 2018/03/26 17:23
- 名前: 波坂 (ID: KLUYA2TQ)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=359
初めましての方は初めまして。それ以外の方はこんにちは。
波坂と言う者です。
意見や感想、アドバイスなどは大変嬉しいのですが、それが的確なものであるかどうかを一度確認してから投稿して下されば幸いです。
宣伝などはできる限り控えて下さい。
※リンクは能力の募集に繋がっています。よろしければどうぞ
2015/10/17 スレッド設立
2017/01/18 受験の為、更新停止
2017/03/07 受験終了。更新再開
2017/03/28 参照回数8000突破
2017/05/14 参照回数9000突破
2017/9/01 参照回数10000突破
2017/12/15 参照回数11000突破
2018/2//13 参照回数12000突破
Twitter創作アカウント→@namisaka_sousak
【目次】
第一章>>1-21 第二章>>23-31
第三章>>32-46 第四章>>47-67
第五章>>68-77 第六章>>78-104
第七章>>105-202 番外編>>203-215
第八章>>219-236 第九章>>237-269
第十章>>270-現在更新停止
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.153 )
- 日時: 2016/07/31 19:30
- 名前: 波坂@携帯 (ID: nYs2x9iq)
自分の最初の頃の文章を読んでは死にたくなる波坂です(泣)
外は雨が降り続いていた。
どうでもいい。
雷は収まった様だが、その雨粒達は視界を遮り、傘を差していない俺に対して鬱陶しさを感じさせるには十分過ぎた。
どうでもいい。
ひたすらにがむしゃらに走り続ける俺ーーーー十橋時雨は今までに無いほどに熱くなっていた。
目的地迄はあと数百メートル行った辺りだ。
と、赤信号が煌めき俺の走行を止めようとする。
今は時間が惜しい。
俺は赤信号を無視して自動車が通る道路の上を跳躍して向こう側まで跳んだ。
周りからは多少どよめく様子が伺えたが、今となっては塵埃だ。
着地を決めて再び走り出す。
少し息が上がってきた頃。ようやく地図が指す目的地辺りに到達した。
キョロキョロと回りを見渡す。
目に付いたのは、一つの廃屋。元々工場だったのだろうか。
どうやら地図はこの場を指しているらしい。
意を決して入ろうとするが、案の定鍵は閉まっている。
俺がどうやって侵入したかなんて、最早言うまでも無かった。
電気もロクに通っていない薄暗い廃工場の中を進む。
一体何処に何があるのか皆目検討も付かないが、取り合えずしらみ潰しにするしかなさそうだ。
ドアノブに手を掛けてみたところ、錆が酷く、俺が強く握ったところドアノブが取れてしまった。仕方なくドアを蹴破って入室する。
蜘蛛の巣があることを除けばここは恐らく事務室だろうか。一世代前のコンピュータが腐りかけたデスクと共に鎮座している。
ここにはいない様だと退室し、明かりを持ってくるべきだったかと毒づいたところで何も変わらないので一つ一つ見ていく。
と、とある部屋のドアは、何故か最初から開いていた。
違和感を覚え、慎重に部屋に入る。
そこの部屋には、ありきたりのテーブルと椅子が数組。割れた窓ガラスにぼろぼろのカーテンと生活感がある部屋だった。
テーブルの上に置かれていた謎の物体が目に付き、気になったので取ってみる。
どうやらスマートフォンの様だ。一応電池は残っているらしく使い物にはーーーー待て。
これ、俺のだ。
そう思った直後、狙い済ましたかの様に一通のメッセージが届いた。
差出人不明
『馬鹿ですか?そんな所に義義理碧子を置いておく訳無いでしょう?
精々そこで遊んでいてください』
それを読み終えた直後、先程完全に閉めた筈のドアが開く音がする。
誰だ?そう思い後ろを振り返ると、見覚えのある顔が一つ。
「まー、なんつーか、運悪いな、オマエ」
所々跳ねたウルフカットの金髪の髪。
同じく金色の瞳。
白シャツのインナーの上にはテーラードジャケットを羽織り、ボトムスにスニーキーパンツ。
その男性ーーーー風折影雪は手をかざして一言。
「ワリーな」
次の瞬間、俺の身体に大量の熱気と光が押し寄せた。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.154 )
- 日時: 2016/08/02 17:20
- 名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)
時雨が取った行動。
それは思い切り床を蹴り、飛び上がった上で天井に拳を突き刺し、めり込ませてそのままぶら下がると言うキテレツそのものな行動だった。
爆発の様な攻撃は消えてなくなり、影雪の姿だけが時雨の視界に映る。
「風折……ッ!」
「……ア?テメーは……十橋じゃねーか」
その日常会話するかの様な言葉とは裏腹に影雪は壁を殴り付けた。
次の瞬間、殴り付けた際に発生した作用・反作用によって起こった運動エネルギーを影雪が光エネルギーに変換しそのまま空気中に発散する。
時雨の目が閃光に焚かれホワイトアウトする。
思わぬ事態に時雨は間違えて天井にめり込ませていた手が抜けてしまう。
あ、と時雨の口が後悔げに開かれた時にはもう遅い。
床に落ちた時雨に向かって熱エネルギーを奪い全てを冷凍する悪魔の手が襲いかかる。
「クソ野郎がぁっ!」
影雪の能力を断片的にしか知らない時雨だが、あの手に触れてはならないと床に手を付いたまま足でテーブルを蹴飛ばす。
影雪の手にテーブルが触れた瞬間、そのテーブルが一瞬にして、まるで真冬の木の枝の様に霜に被われた。
その光景を目撃した時雨は一目散に部屋立ち上がり、部屋から出る。
が、部屋から出ようかという辺りで、背中に照明が着弾し、ガラスが割れる特有の音を響かせる。あわや転倒するところを回りの機材に手を付いてなんとか防ぐ。
「なんで……お前がいるんだよ……風折」
「テメーには関係ねーだろうが。仕事だ仕事。
……あー、だりー。
オイ、確か義義理とか言うガキを探してんのか?」
「……碧子はどこだ」
「教えるかバカ」
廃工場であるが故に転がっている機材の残骸や鉄パイプ等を風折が能力によって熱エネルギーを奪い冷却。奪った物質達が霜に被われる。
その熱エネルギーを電気エネルギーに変換した影雪は電撃を床に伝導させ、そして自身で伝導する経路を操りそのまま時雨の立っている場所に伝導させる。結果的に影雪は時雨に直接電流を流し込んだ。
時雨の足が痙攣し、膝から力無く崩れ落ちる。成す統べもなく床に倒れ伏す時雨。
「まー、あれだ。いまんとこ敵のオレが言うのもなんだが……ここは素直に諦めろ」
頭を掻きながらポツリと零す影雪の言葉に必死に立ち上がろうとする時雨が「は?」と疑問を口にする。
「この際言っといてやるけどよー、オレ、『司る能力者』もしくはその権利を持つヤツラの中でも……結構強いの部類に入ってんだぜ?
そんなオレに無能力のテメーが勝てる道理はねー。諦めるのが利口な判断ってんだ」
「うるせぇ……」
「オレは別に殺すつもりはねーが仮にテメーがこれ以上刃向かうってんなら容赦無く殺す。オレはそこまで出来た人間じゃねーんだ」
影雪の言っている事は本当だ。決してハッタリや脅しの類ではない。
そもそもの話、影雪は平子や時雨の様に人を殺すことに対して躊躇が無い。
平子にわざと敗北したのも、実際のところは影雪のたった一人の妹、風折雪花に負い目を感じさせたくなかったと言うのが理由だ。
実際のところ。仮に過去、影雪を使い平子を殺害しようとした里見甲人は雪花を盾にして影雪に命令したが、影雪は雪花を盾にされておらず、普通に依頼されていたら殺していた。
風折影雪はもう汚れているのだ。彼が絶対に護るのは雪花だけであり、それ以外は全ての人間関係さえ切り捨てる事ができると思っている。
そして、そんな狂ったとさえ言える影雪の前で時雨は言い放つ。
「諦め切れたら……こんなに苦労しねぇよ!」
「そーか。じゃー死ね」
先程奪ったエネルギーの全てを影雪は自分の足に運動エネルギーに変換して伝導。そしてその莫大なエネルギーを持った物体を時雨の顔面目掛けて思い切り放った。
次の瞬間、先程まで動く事すら難しかった時雨の身体が強制的に壁に向かって吹っ飛ぶ。
壁に激突し轟音を鳴らすも勢いは止まらずそのまま壁を貫く。
そして次の壁で再び轟音。今度は止まった様だ。
コンクリ粉が舞い視界を阻害する中で影雪は興味なさげにその場を立ち去ろうと
「待てよ」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.155 )
- 日時: 2016/08/04 00:26
- 名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)
「マスター、紅茶を用意しました」
コンコンとノックの音と共に聞き慣れた声が私の耳に飛び込んできた。
「入って良いわよ」
「失礼します」
全く、気を使わないで良いと言っているのにこうして律儀にノックしたり入室の際に頭を下げる辺り本当に生真面目ね。
入ってきたのは私の直属の部下……と言うより私としてはこの子は私の子供として見てるわ。
真っ白い髪を肩甲骨の下辺りで切り揃えたロングヘアー。前髪は二つのヘアピンで五分五分に分けている。髪質はサラサラで動く毎にゆてrらゆらと揺れている。
色白な肌に黒い水晶見たいな目をしたこの子はいつもの様にこの時間帯になると私好みの紅茶を用意してくれる。
「マスター、ここでよろしいでしょうか?」
「ん、大丈夫よ。……別に貴女は私の子供と同義なのだからそこまで気を使わなくて良いのよ?」
彼女は無表情で首を横に振る。
「いいえ、マスターは私の恩人です。私に生きる意味を与えて下さったマスターに私はこれ以上を求めていません」
「全く堅物なんだから……もう」
恩人と言ったらそうだけど、私としては普通に接して貰いたい。
「それにマスターは中部エリア元首であり、私はその部下に過ぎません」
まぁ……そうだけど。
こういう時に限って中央エリア元首の織宮織香の肩書は邪魔になるわね。堅苦しいのは好きじゃ無いのだけれど。
「マスター、ところで今は何をなさっているのですか?」
「……ちょっと気になる事があったのよ」
首をカクンと傾けて露骨に疑問を表す彼女。
「最近、妙に事件が多いのよ。しかもそれの大半が中央エリアで起こってるわ。
そろそろ私も対策をしなければならないのよ。
……だから今、『司る能力者』の様子を把握していたの」
「なるほど。それで成果は出たのですか?マスター」
「分かってるのはビリリ君とシン君、ひじりんにユッキー、あとはマキマキにやみちー、テレパッギーとホリちゃん……あ、つむりんと私もね。今のところ所属や立場、今現在が分かってるのはこれくらいかしらね。
実際はジーナっちとかの能力者の力も借りないとだけど」
「マスター、済みませんが私にはマスターの命名センスを到底理解できません。何より自分が誰一人として特定できません」
私は人にあだ名を付ける事が好きだから仕方ない。異論なんて認めないわよ。
「でもね……ちょっと問題があるのよ」
そう、これこそが私を悩ませている事柄の一つ。
「問題?一体なんの事ですか?」
「……『司る能力者』ってプライド高いのが多いのよ。もうマキマキとかやみちーとか引き合わせたら科学反応起こして爆発するわよ」
だってお互いに周りを見下しているんだもの。マキマキはまだしもやみちーはホントに歩く爆薬だから困ったわ。
「そうですか。それでは引き合わせる際にはガスマスク及び消化器の準備をお勧めします」
今の冗談なのだけれど……まぁ、それぐらい相性悪いわよあの二人。
「実際、プライドがそこまで高くないのはつむりんとか、あとホリちゃんぐらいかしら」
あとはひじりんくらいかしら?でもあの子は怒ると中々恐いし、信念がしっかりある子だからプライドもあるはあるのよね。
……考えてみればシン君もそこまでプライド高くないわね。
「しかしそれはそこまで問題では無いのではないでしょうか?」
「ええ、でも他にも問題はあるの。コストも勿論そう。それにパワーバランスもあるわ。
ユッキーが全体を纏めてくれるのなら助かるのだけれど……。
そもそも、やみちーはこういう話嫌いだし……」
「マスター、そのユッキーと呼ばれる方は纏められる程の何かがあるのですか?」
「……ユッキーはね、表の世界の能力者の中では最強よ。勿論、テレパッギーやつむりん見たいに相性が悪い子もいるけどね」
「その、ユッキーさんとやらは一体どんな方なのですか?」
「うーん……金髪に金色の瞳の20歳よ。
まあ、彼が表の世界で負ける相手としたら、あの面白い黒髪の人位ね」
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.156 )
- 日時: 2016/08/04 19:55
- 名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)
「マスター、それはそうとお客様がお見えになっています」
「あら?中央エリア元首にアポ無しとはいい度胸ね。何と名乗っているのかしら?」
「平野平治郎と名乗っています」
……あの男、ね。
「良いわよ、通しなさい」
「かしこまりました。案内に向かう為少々お待ち下さい」
扉を閉めて彼女は退室していく。
私は応接様のソファに腰をかけて、はぁ。とため息をつく。
本当に、今年はまだ四ヶ月もあるのに沢山の問題が舞い降りて来る。
長寿の私でもこれは流石に辛いわ。
背骨を伸ばして首を回す。バキバキと音を鳴らすので疲れが溜まっていたのだろう。
「お客様がお見えになりました」
再びノックの音と義娘の声が部屋に響き、今度は私の返事を待つことは無く部屋に入ってきた。その傍らには一人の男。
少しヨレたスーツを着た、30代辺りの男性。実際の年齢は47辺りだったかしら。
髪は特出した点は見られない。強いて言えば色がグレーな事だろうか。
身体付きは普通に見えるが、実際は結構な体力があるはずだ。護身術を教えているのだから、体力が無ければやってられないのでしょうけど。
そして身長は180はあるだろうか。人の良さそうな顔だが目付きは鋭い。
「久しいって訳ですな。織宮さん」
「ええ、本当に久しいわ。平治郎さん」
彼と最後に会ったのはたしか5年前辺りだろうか?正直あまり覚えていない。
「しかし、相変わらず貴女の姿は変わりませんな。
日本は若返りの薬でも作ったって訳ですかな?」
相変わらずの訳です訳ですの口調、私からするとこの人も時間の流れが緩やかな気がする。
「いいえ、これは私の能力によるものよ」
「マスター、マスターの能力は国会機密に相当します。慎みを持って下さい」
むぅ、やっぱり彼女はこういうところ堅物だわ。
ニコニコとした笑顔、声を出して笑うのは平治郎さん。
「はっはっは!いやはや、実にしっかりとした娘さんですなぁ!」
そして彼は急に笑顔と笑い声を止めてこう言った。
その目は、まるで私を咎めるかの様にギラリと睨んでいる。
「本当に……見た目は我が子とそっくりって訳ですな……。
織宮さん、じっくりと話を聞かせて貰いましょうかな?」
〇
「待てよ」
完全に背を向けた影雪の背後から、一人の声が浴びせられる。
影雪が振り向くと同時に、時雨が貫通した壁が吹き飛んだ。
再び舞い上がるコンクリ粉。視界が晴れる頃には一人の男性がそこに立っていた。
「俺はまだ、生きてるぞ」
時雨だ。頭から流血しながらも、時雨はその二本足で立っていた。
影雪の攻撃を受けた瞬間、時雨は自ら、麻痺しておらず動かすことが可能だった上半身の腕で床を殴りつけ、その反作用により後ろに飛んだのだ。
勿論、ダメージが0という訳にはいかなかったが、衝撃は半減することができた。
最も、時雨では無かったら意識不明の重体と化してもおかしくはなかったのだが。
「……だりーなオイ」
ため息を付くのは影雪。
それに対して時雨の目には炎が宿っている。
「あのなぁ、今ので命拾ったんだからよー、大人しく帰るって選択肢はねーのかよ?」
「無い、俺の選択肢は一つ。碧子を助ける。それだけだ」
「あー、そうかいそうかい。オマエに期待したオレが馬鹿だった」
心底面倒臭そうに、影雪は露骨に嫌な顔をしてポケットに手を突っ込む。
まるでそれは、かかってこいと言わんばかりの態度だ。
それに対し、時雨は自分の間合い、時雨の絶対的キリングレンジ0.6mまで影雪との距離を詰め、全力の拳を放つ。
時雨はこの時、影雪の能力を断片的にしか知らなかった。
影雪の能力、[伝導を操り][エネルギー変換を司る能力]。もしくは[伝導を操る能力]と[エネルギー変換を司る能力]。
この[エネルギー変換を司る能力]は影雪が計算式を把握しているエネルギーを変換する事ができる能力だ。具体的には熱を光に変えたり、運動エネルギーを電気エネルギーに変えたりできる能力だ。
そしてその能力は、たとえ『あ相手から加えられた運動エネルギー』も例外ではない。つまり影雪にエネルギーによる攻撃をするのはもはや雑草に水と肥料をやるようなものだ。
平子の時は、わざと敗北するためにしなかったが、今は敗北する理由も無い影雪は、当然ながら時雨の放った膨大な量の運動エネルギーを[伝導を操る能力]によって受け流し、[エネルギー変換を司る能力]により熱エネルギー、光エネルギー、運動エネルギーに変換、そして再び[伝導を操る能力]で空気中へと伝導する。
そして、その伝導されたエネルギーがもたらす現象、それは所謂爆発だった。
再び、時雨が吹き飛び大量の光と熱がばらまかれる。
ボロクズ同然に吹き飛ばされた時雨は壁面に背中から激突、床に落ちてその身体が数回バウンドする。
自業自得だ。そう吐き捨てた影雪は背を向けて廃工場を後にしようと
「まだに……決まってんだろっ!」
その起き上がる筈の無い身体は再び起こされる。フラフラと今にも倒れそうに、しかし強い意志と明確な理由を持って、時雨は再び立ち上がる。
服は多少焦げ付き、髪は爆発で崩れた。
頭からの流血は対して変わっていないが、他の部位にはダメージが入っている筈だろう。
そう、そんな時雨の姿を見て、影雪はーーーー。
「……めんどくせー」
そう影雪が言った時、時雨は再び距離を詰めていた。
時雨の拳が、再び影雪に迫る。
影雪はそれに何の関心も示していない。
そしてーーーー、
派手な音を立てて、影雪の身体だけが吹き飛んだ。
「ぐがぁぁぁっ!」
咄嗟に走った激痛。それに耐え切れずに悲鳴を漏らす影雪。
吹き飛ばされた身体の運動エネルギーを変換して0にし、そのまま重力に身を任せて着地する影雪。その変換したエネルギーを電気エネルギーに変換して放つが頭は別の事で一杯となっていた。
何故、何故自分の変換防御が破られたのか。
そして、影雪は時雨の姿を見て、理由の一部が判明した気がした。
「テメー……さっきまで黒髪だった……よな?」
時雨の髪は、紅い紅に染まっていた。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力(3000回突破、アドバイス求む ( No.157 )
- 日時: 2016/08/05 09:22
- 名前: 波坂@携帯 (ID: ZTqYxzs4)
「ハハッ……」
空虚な笑いが、影雪の口元から零れ落ちる。
自分の腹部にできた傷。それを見ては影雪は再び空虚に笑う。
「……何がおかしい」
時雨は相変わらずの様子だ。その紅に染まった頭髪を除けば、の話だが。
影雪は、ただひたすらに愉快で仕方が無かった。
能力を使用している自分を、愚直な拳で殴り付けた者が他に居ただろうか?
能力を使われ、ボコボコにされ、それでも自分に立ち向かって来る者が今まで居ただろうか?
否、そんな者など一人として存在すらしなかった。
表の世界で最強。そんな風に言われ続け、実際に最強で有り続けた自分に、目の前の男は核兵器すら防いだこの変換防御を、何らかの方法で破ったのだ。
愉快で仕方が無かったーーーー所詮は天狗に過ぎなかった自分が。
「オマエ……中々素敵な事してくれるなオイ!」
影雪の足が触れた物体達を次々と飛ばし、凶器に変換する。
対して床を走り、壁を蹴り、天井を掴み、常人には到底できない方法でそれらを回避する時雨。
影雪が、自分の手を床に叩き付けると同時に、壁や床から氷の刺達が生えはじめ工場を痛々しく装飾していく。
味の無かった無機質な室内に、美しい氷達が生える光景は絶景だった。ただし、それが人を傷付ける用途でなければ、の話だが。
いつもの影雪なら殆どしない攻撃だ。なぜならこれは、床から熱エネルギーを吸い上げ、その床から更に辺りの水蒸気に干渉し、その水蒸気達からも熱エネルギーを吸い上げる事によって自分の扱えるエネルギーを増やすだけでは無く、冷やされた水蒸気が氷柱となって攻撃するという極めて有効な手段だ。言うなれば一石二鳥である。が、創造力の消費が激しい為に使わない手段だが、影雪はそれ程までに全力だった。
時雨が足に力を込め、壁を蹴り付ける。壁が圧力に耐え切れずに多少のクレーターを生み出すが、時雨はお構いなしにそのまま跳び、影雪に向かって再び拳を振るう。時雨の背後で足場となった壁が風の前の塵の様に崩れたが、二人が気に留める様子も無い。
一方影雪は氷柱を生成した際に奪った大量の熱エネルギーを全て運動エネルギーに変換して拳に伝導する。その手は自らの保持する運動エネルギーに耐え兼ねているのか、ギシギシと嫌な音を立てる。が、影雪はそんな事はどうでもいいと言わんばかりのストレート。
直後、辺りの設備が吹き飛び衝撃波が飛び割れていない窓ガラスを全て玉砕し、それでも暴れ足りんと廃工場に亀裂を入れていく。が、それでも二人は未だにぶつかり合っている。
お互いが譲らずお互いが渡さず、手綱は未だに右往左往。
結局お互いが限界辺りで同時にノックバック。
再び、お互いが相手に向かって駆け出し、相手に向かって拳を振るう。
轟音、そして爆風。更に衝撃。
二度目の激突を勝利したのはーーーー時雨だった。
バットに打たれたボールが一直線に飛んでいく様に、影雪が壁に向かって剛速球の様に吸い込まれる。
影雪が衝突事故紙一重で運動エネルギーを0に変換、その運動エネルギーを電気エネルギーに変換して時雨ーーーーではなく回りの氷柱目掛けて撃ち放った。
氷柱が電撃に穿たれ、それがそのまま状態変化を起こし液体となる。
時雨が気づいた頃にはもう遅い。
影雪から電撃が地面を這い寄る蛇の様に放たれた。氷柱が溶けた水を突き進み電撃は当然ーーーー時雨の足を突き刺さし這い回る。
再び、自由を奪われる時雨。
そして、時雨の周りの水が、再び冷え固まり固体化した。
直後、莫大な運動エネルギーが時雨に上から襲い掛かった。
押し潰される感覚と共にバキバキと床が軋みと言う名の悲鳴を上げる。
直後、浮遊感に捕われた時雨に再び襲い掛かる超重力。周りの床が崩落していき、建物全体が崩壊の災禍に包まれ始めた。
床下に未だに超重力で押し付けられた時雨は、その災禍から逃れる術など持ち合わせてもいない。
影雪が時雨から足を離し、そのまま近くの壁に手を付いた。
まるでそれがキーだったかの様に、天井から瓦礫の雨が降り注ぐ。
当然、未だに脱出出来ていない時雨がどうなったかは、考えずとも容易に理解が可能だった。
破砕音の過激なリズムが鳴り止んだ頃に、雨ざらしとなった崩壊後の廃工場を見て影雪は一言呟く。
ーーー自業自得だ。
まるで、それがキーワードだったかの様に、
爆発するような音と共に一点の瓦礫達が四散する。
「……あぶねぇな。死ぬところだった」
その瓦礫の山から這い出てきたのはーーーー
「十橋……オマエ……」
「まだだ、まだ、終わってないぞ。風折」
十橋時雨だった。
時雨には、諦めるという選択肢は無い。
そしてその拳を握り締め、再び影雪に正面から挑む。
影雪はーーーー時雨の攻撃を受けず、寸前でかわし、そのままそのまま足を無造作に掴む。
次の瞬間、辺りの温度が急激に低下し、夏にしては寒すぎる程の気温となる。
なぜなら、影雪が熱エネルギーを奪ったからだ。
そして、影雪はその熱エネルギーを運動エネルギーに変換し、
「そんなに逝きてーなら………逝きやがれぇぇぇぇぇ!」
時雨を思い切り、明後日の方向に、全てのエネルギーを乗せて
投げた。
まるで、ハンマー投げで投げられたハンマーの様に、
野球で時折見かけるホームランの様に、
雨の降り注ぐ夜空に吸い込まれていった。
「……計算、あってるよな……」
影雪は、一人でボソリと呟き、時雨の飛んで行った方向目指して歩き始めた。
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