複雑・ファジー小説

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超能力者と絶対に殴り合う能力
日時: 2018/03/26 17:23
名前: 波坂 (ID: KLUYA2TQ)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=359

初めましての方は初めまして。それ以外の方はこんにちは。
波坂なみさかと言う者です。
意見や感想、アドバイスなどは大変嬉しいのですが、それが的確なものであるかどうかを一度確認してから投稿して下されば幸いです。
宣伝などはできる限り控えて下さい。

※リンクは能力の募集に繋がっています。よろしければどうぞ

2015/10/17 スレッド設立
2017/01/18 受験の為、更新停止
2017/03/07 受験終了。更新再開
2017/03/28 参照回数8000突破
2017/05/14 参照回数9000突破
2017/9/01 参照回数10000突破
2017/12/15 参照回数11000突破
2018/2//13 参照回数12000突破

Twitter創作アカウント→@namisaka_sousak

【目次】
第一章>>1-21 第二章>>23-31

第三章>>32-46 第四章>>47-67

第五章>>68-77 第六章>>78-104

第七章>>105-202 番外編>>203-215

第八章>>219-236 第九章>>237-269

第十章>>270-現在更新停止

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.32 )
日時: 2015/11/28 15:24
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 第三章、存在の意味と正義の無能力


 青年が、グラウンドに立っている。
 青年の目の先には、暴走している自動自転車。青年こと十橋時雨はその自転車をじっと見つめる。
 自転車との距離が、目前に迫る。が、時雨は避けようとしない。
 ガシャァン! 時雨と自転車が激突し、時雨は後ろに5m程吹き飛ばされる。
 キャー! と悲鳴をあげる生徒もいれば心配する生徒もいた。
 だが、時雨は何事も無かった様に立ち上がってこう言う。
「暴走した電動自転車は軽く大人を吹き飛ばす位の威力があるからな。ちゃんと安全装置を付けるんだぞ」
 今日、時雨は本職であるスタントマンをしていた。暴走した自転車への対処と言う名目で。


 今日は自転車だから楽だったな。
 俺こと十橋時雨はそんな事を呟いた。
 俺はスタントマンをしているが、自転車は楽な部類だ。自動車。バイク。時々能力事故なんてのもあるその中ではやっぱり自転車は簡単な方だ。
 夜道を歩く俺は今は歩いている。何故歩いているかと言うと雨が降っているからだ。カッパを着れば? と思うかも知れないが、俺はただ、近所のスーパーに買い物に行っていただけなので、わざわざカッパを着るより歩いた方が楽だと判断した。証拠に俺の傘を持っている右手の反対の左手には買い物袋がぶら下がっている。
 しばらく歩くとアパートが見えてくる。【上原荘】と書かれた看板を見ながら中に入り、十階建ての内の五階を目指す。
 エレベーターは……崩れている。まあ格安アパートだし仕方ない。
 階段で五階まで登る。
 ちなみに503号室が俺の部屋だ。
 さ〜て。夕食何にすっかな〜。等と独り言を呟いていると五階についた。
 自分の部屋に近寄った時、事件は起きた。
 緑色の髪の……幼女が俺の部屋の前で倒れている。顔はうつ伏せになっているためわからない。
 ……こんな幻覚が見えるとは……今日頭打った時にやったかもな。
 目を擦ってもう一度見てみる。
 ……緑色の髪の幼女が倒れている。
 どうやらこれはリアルの様だ。
 おーい。生きてるかー。
 ……返事が無い。ただ気絶している様だ。
 兎に角、俺のポリシー的にも放っておけないので俺の部屋に入れる事にした。言っておくが俺に幼女趣味は無い。


 あの後、夕食を済ませた俺はテレビを見ていた。
『続きまして、工場地帯で謎の事件があった模様。鉄骨が散らばり、コンテナが潰れているようです』
 へぇー。
 ああ、あの幼女は今俺のベットで寝ている。目を覚まさないからな。良かったと思ったのは濡れて無かった事か。濡れていたら脱がさないといけなかったからな……。俺が変態見てぇじゃねぇか。
「……ん」
 布団が擦れる音がする。見ると緑幼女が上体を起こしていた。
 服装は……ワンピースに白衣っておかしく無いか? 髪は肩辺りまで伸びており、カチューシャでまとめられている。目付きは……特に普通だ。ただ、将来は期待できる容姿だな。
 緑幼女はこちらに気付いたらしく顔を向けてこう言ってきた。
「貴方は変態ですか?」
 オウ。何て事を言いやがる。
 違うわ。
「? じゃあ何で碧子みどりこを拾ったの?」
 困っている人がいたら助ける。それが俺のポリシーだ。
「ふーん。……甘すぎだよ……そんなんじゃ殺されちゃうよ……こんな風に」
 ガチャリ。と碧子って名乗った幼女は俺に銃を向けてきた。
 俺が一言発声する間もなく引き金が引かれた。
 空気銃だったのか銃弾は発射されなかった。
 だが、俺は額に強い圧力を感じた。
 そして俺の額はーーーー何事も無かった様に元に戻った。
 イタズラか……?
「えっ」
(嘘でしょ。この改造空気銃は人の体位なら撃ち抜ける筈なのに!)
 何か碧子の顔がひきつってるけど何かあったのか?
 おい、碧子どうした。
「な、何でもないよ……あと碧子って呼ばないで化け物」
 ひっでぇ……。
 じゃあ何て呼べばいいんだよ?
「……義義理碧子ぎぎりみどりこ。義が二回に理由の理が一回で義義理。苗字で読んで」
 そうか義義理。俺は十橋時雨。好きに呼べ。
「分かったよ化け物さん」
 こいつ……!
 ……ま、いいや。
 で? 飯どうする?
「? 要らないよ。化け物さんの事信用できないし」
 ……こいつ何かあったのか?
 見たところ13歳とは思うんだが……精神年齢が明らかに違う。
 つーか髪が緑って事は能力者か。
「ああ、能力については聴かないで。心配しないでも碧子単体じゃあ意味無いから」
 ……頭は良いのか。
 まぁ気になる要素が消えたし……勉強するか。
 俺は一応高校の勉強を独学でしている。高卒試験の合格が目標だ。
「? 何それ?」
 高校の教科書。
「へー。……何これ。簡単じゃん」
 ……こいつ本当に頭いいな。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.33 )
日時: 2017/10/01 09:58
名前: 波坂 (ID: KLUYA2TQ)

 じゃあベッド使っといてくれ。
 俺はそう言ってリビングのソファーに寝転がる。
「ふーん……よく他人と一緒の部屋で寝られるね」
 義義理の奴、どこまで人間不信なんだよ。
「考えてみなよ。じゃあ碧子が仮に化け物さんを殺しにきた人だったら? 逆に化け物さんが碧子に襲いかかってきたら? そんなこと無いって証明できる? 出来ないよね。人間なんてみんな心は真っ黒だよ。いつ誰が裏切るかわからないんだよ」
 じゃあ言わせて貰おう。
 俺はソファーに横になったまま言葉を続ける。
 反論その1、まずお前は俺を殺せない。チャンスはいくらでもあったからな。
 反論その2、俺が先に寝ればお前は俺を殺せないから解決。
 反論その3、そもそもの話証明なんて必要ない。
 理解できたか?
「ふん……そんなこと言って心では黒い事を思ってるんでしょ」
 ……もう寝るわ。
「そういって寝ないんじゃないの?」
 俺の意識は睡眠に吸い込まれていった。


 今日は特に予定も無いが……昨日厄介なもん拾ってきたからな……。
 俺はソファーから起き上がる。義義理はまだ寝ているようだ。
 ……黙ってりゃいい顔なのにな……。
 おおっと。危ない危ない。俺は幼女趣味は無いんだ。
 朝は……トーストでいいや。
 トースターにパンを二枚セットする。
 ジジジ。
 さてと……今日はどうすっかな……。
「ああ……そうだった。碧子、化け物さんの所にいたんだった」
 おはよう義義理。
「化け物さん。何日間演技続けるかは分かんないけどさ……早めに止めた方がいいよ」
 ……だぁ〜面倒な奴だな。
 チン!
 あ、トーストが焼けたみたいだな。
 皿にトーストを乗せてジャムとマーガリンを出してと……。
 朝くらい食えよ。
「信用できる確証は?」
 ああもう!
 俺は義義理のパンと自分のパンを交換する。これでいいだろ!
「ま、化け物さんそこまで頭よくなさそうだしいいや。頂きまーす」
 もういいや。こいつはこういう奴なんだ。
 脳内結論を出した俺は八つ当たりの様にトーストにマーガリンを塗った。


 お前替えの服とかあんの?
「無いよ。別に無くても良くない?」
 いや衛生的にだよ。
「どうしろって言うの? 別に買ってきても着ないよ。信用できない」
 どうすれば信用するんだよ。
「確証を持ってくればね」
 俺はある画期的な方法を思い付いた。
 俺は財布から諭吉を五枚取り出し、義義理に渡す。
 これで服とか買ってこい。あと日用品とかも。
「……ふーん。ま、今は偽善者ぶってなよ。化け物さん」
 それをピッと取って外へ出る義義理。そう言えばあいつエレベーター使えないの知ってたっけ?


 あの後、しばらくすると義義理が帰ってきた。
 買ってきた服は……。
白衣×2、ワンピース×2、ジャージ一式。
 うん、意味不明。
 何で白衣にワンピースなんだよ……。
 と思いつつも俺が勉強していると義義理がこんな事を言ってきた。
「……勉強教えてあげようか? 碧子、化け物さんの数倍は頭良いよ?」
 そうか。それは助かる。
「……ちょっとは疑いなよ」
 ? 疑う意味が無いだろう。
「…ま、いいや。じゃあここだけど」
 と、言う訳で家庭教師が出来た。
 こんな俺たちの関係は続いた。
 風呂入ったか?
「信用できない」
 銭湯行け。

 洗濯してねーだろ。
「信用できない」
 クリーニング行ってこい。


 飯食えよ!
「信用が」
 交換!
 ……モグモグ。

 そんな関係が数日続いた。
 ある日の朝の事だった。
 義義理が、朝食を何も言わずに食った。俺は驚愕したが。
「化け物さんの思考に毒薬って思考は無いらしいからね。確証できたよ」
 ……やっぱりこんな奴か。

 その日の昼過ぎだった。
 インターホンがなったのでドアを開ける。
 そこには見たことの無い、スーツを着た男達がいた。
「我々はとある目的があってここにきた。ここに緑色の髪のガキがいるだろ」
 義義理がどうした?
「義義理碧子を我々に引き渡せ。あの能力は貴様の様な無能力が持っていても宝の持ち腐れだ」
 おいおい、あいつは物じゃないんだぜ? あいつの能力がどうした?
「知らないのか……教えてやろう。義義理碧子の能力は[力を発展させる能力]だ。義義理碧子は他人の能力を強化できる」
 そいつはすげえ能力だな。で? 何で義義理を捕まえる?
「それは保護の為だ。義義理碧子の能力は利用される危険性があるため保護していたのだが脱走されたのでな」
「そいつらの言ってる事は信用できないよ」
 俺とスーツの男達が話をしていると、義義理が入ってくる。
 どういう意味だ?
「だから、碧子の能力を誰よりも利用してるのはそいつらなんだよ。化け物さん」
 まあこいつもこう言ってるし、帰ってくれ。
 俺がそういった瞬間、拳銃が俺の方につき出された。
 俺は思いっきりドアを閉めて腕をドアにぶつける。
「グァァ!」
 ガシャッと地面に拳銃落とした男の腕は完全に折れ曲がっていた。
 もう一人の男には、落ちた拳銃を蹴り飛ばしてぶつける。
 ……勢いでやっちまったけどどうすっかな……。
 この二人は路地裏と違って放置する訳にもいかないし……。
 仕方なく、俺は知人に電話をかけた。
「もしもし、ちょっと来てほしい」


 俺が待っていると、人が階段をかけ上がってくる姿が目に映った。
 ようザン。
 あだ名ザンこと残切山斬のこぎりさんざんが俺に向かってきた。
「はは〜。時雨先輩派手にやりましたね〜」
 ま、正当防衛だ。それでこいつらの処理を頼みたいんだが……。
「良いですよ。あ、でもいつか何か奢って下さいよ」
 そしてザンは一言こう言った。
「早く戻って来て下さいよ。桟橋先輩だって待ってますから」
 ……俺はあの人と会わせるツラが無い。
 少し前に会ったが。
 そしてザンは二人をパトカーに乗せて運んで行く。
 ザンこと残切山斬は、特殊警察であり、時雨の後輩だった。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.34 )
日時: 2015/11/28 15:31
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 ……はぁ。
「? 化け物さんらしくないね。そんなに活力が無いってさ」
 俺にだって色々あったんだ。
「ふーん……それより外について来てよ」
 ? 俺を信用してないのに? こいつ意味が分からない時があるな。
 ……まぁ信用し始めたって事でいいか。
 外ってどこにだよ。
「外は外。野外の事だよ」
 ? 何でだ?
「もうどうでもいいからついてきて」
 何なんだ? いきなり外に出たいだの?
 俺は相変わらずワンピースに白衣という格好の義義理について行った。


「へぇ〜ここが外か〜」
 義義理は興味深く街を見る。別に珍しくも無いんだが……。
「外ってこんな感じなんだ〜。逃げる時も服の時も走ってたからゆっくり見れなかったしな〜」
 ? 走ってた? 何の為に?
「化け物さんさっき見たよね? あのスーツのあいつら。あいつらから碧子は逃げてるんだよ」
 逃げる? 能力の保護とかから?
「ここからは喋れ無いよ。信用できないし」
 はぁ〜。話してくれたら力になれるかもしれないのにな……。
 ま、気が向いたら話してくれよ。
「……そろそろ偽善者止めなよ」
 ……はぁ。
 別に俺は偽善者でもなければ善人でも無い。ただ人が見捨てられないだけなんだ。
 何処の誰でも救えるヒーロー何かじゃない。ただ目の前の奴を助けて、自己満足をする。それが俺だ。
 別に偽善者でも『善』を気取ってる内はその『善』に甘えとけ。
「……それもそうだね」
 義義理はそれから黙っていた。


 その日の夕方の頃だった。
 義義理が「そろそろ帰ろうよ」と言うので帰る事にしたのだが……。
 義義理が、服を急につかんできた。
 どうした?
 返事は返って来なかった。
 不意にそちらを見ると、義義理はいなくなっていた。
 義義理!
 考えろ。急に服をつかんだ後にアイツは消えた。だからそこまで遠くには行っていない。でも視界には入って来ないから……路地裏か?
 一番近くにあった路地裏に入る。
 ビンゴ。
 そこには……まぁガラの悪そうなチンピラが十人程いた。
 その黒い髪の中に一人、緑の髪があった。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.35 )
日時: 2015/11/28 21:34
名前: 波坂 (ID: DJvXcT4Z)

 碧子、油断していたよ。
 まさか……たしかこういうのって『ちんぴら』って言うんだっけ?
 兎に角、黒髪の人に腕を捕まれて路地裏に引きずりこまれて……化け物さん服引っ張ったの気がつくかなぁ?
 じゃあ大声でも出してーー。
 って!。
 口が何かに塞がれた。
 ベッタリと張り付くこの感じ……ガムテープだね。
 でもマズイな……。これじゃあこの人達に何かされちゃうよ。
 腕も羽交い締めにされてるけど、目隠しはされて無かった。視界には13人のおんなじような人達がいた。暇な人達……。
 全く。皆頭悪そう。心の中きっとぐちゃぐちゃ真っ黒だろうな。
「リーダー! こいつっすよ! あのスーツのやつらが捕まえたら五百万と交換するって言ってたやつっすよ!」
 ……あいつらこんなのに頼んだの? 馬鹿なの?
 ……あ、スーツの大人が碧子を追いかけるよりもちんぴらの馬鹿が碧子に絡んだ方が日常的なんだ。
 あ〜あ。これで碧子の脱走計画も終わりか〜。
 ……ま、こいつらも依頼されてるんだしいらない事はしないでしょ。
「で、こいつどうしますか」
「寄越せ」
 何かリーダー風の人が碧子を寄せてくるの。
 何がしたいの?
 でも碧子は質問できない。ろくに喋る事ができないから。
 するとリーダーさんは碧子の顔に手を伸ばして、
 ベリッ!
 ガムテープを急に剥いだの。痛いよ。
 まぁ好都合だし大声を出してーー
 ベロッ。
 そんな音と共に、碧子の頬に冷たい感触がしたんだよ。
 …………え?
 そのリーダーさんは……碧子の頬を……舐めてたよ。
 見間違いかな…あれ?
 でも現実は変わらなかった。その人は碧子の頬を……舐めていたよ。
 キャアアアア!
 碧子にもこんな声出せたのかって、驚いた。そして、嫌悪感にも驚いた。


「キャアアアア!」
 その黒髪の集団から義義理の悲鳴が聞こえた。
 何してんだてめぇら!
 とりあえず近くにいた奴を壁に向かって蹴り飛ばす。
「うぉっ! 誰だ!」
 関係無い!
「ぐあっ!」
 反応してきた奴を殴り飛ばす。
「おい! 行くぞ!」
「「「「「おお!」」」」」
 五人のチンピラが突っ込んでくる。
 一人は平手打ち竹トンボの刑(時雨の攻撃速度でビンタをすると相手が竹トンボ見たいに回る)にして、そのまま二人目の顔面に肘うちを打ち込み、そいつの足を持って投げ飛ばす。
 投げ飛ばしたチンピラは他のチンピラと衝突。あと一人は背負い投げで地面に叩き付ける。
「動くなよ!」
 そっちを向くと、義義理の首にナイフの刃が添えられていた。義義理は何を言いたいのか、んー。んー。とガムテープで塞がれた口で発声しようとしている。
「こいつを傷付けられたく無かったら大人しく殴られな」
 クソ野郎が……。
 ……いいぜ。好きにしろ。ただし……義義理に何かしたらーー全身の骨を粉砕してやるからな。


 化け物さんが助けに来てくれた。だけどまだ嫌悪感は晴れないよ。むしろそのままガムテープで塞がれたせいで余計気分が悪くなっちゃったよ。
「動くなよ!」
 碧子の首にナイフが添えられる。
 こいつら馬鹿なの? 碧子が死んだらこいつら殺されちゃうよ?
「こいつを傷付けられたく無かったら大人しく殴られな」
 化け物さん。……もう本性を表しなよ。別に幻滅なんてしないよ。だからとっとと逃げなよ。
 だけど、化け物さんの吐いた言葉は碧子の予想と違っていた。
「……いいぜ。好きにしろ。ただし……義義理に何かしたらーー全身の骨を粉砕してやるからな」
 碧子、初めて化け物さんの本気の声を聞いた気がした。
 ……ってちょっと待ってよ。何で逃げないの? 何でやられるって分かってるのに逃げないの? 意味が分からないよ。
「おいおい。今時正義のヒーローかよ」
「どっかのクソチンピラ噛ませ犬よりマシだ」
 化け物さんの周りに人が集まる。
「さっきはよくもやったな!」
「オラ!」
「死ねよ!」
 ドッ、ドガッ、バシッ、ガッ、ゴッ、ドッ、バシッ、ドッ、ドガッ、ドガッ。
 沢山の音が、碧子の耳に伝わってきたよ。
 でも……何で化け物さんは逃げないの?
 何で抵抗しないの?
 何で叫ばないの?
 まさか……碧子を助ける為……?
『お前は道具だ』
 碧子の耳に、聞き慣れたフレーズが蘇る。
『さっさとやれ!』
『命令に逆らうな! 道具の癖に!』
『お仕置きが必要だな』
『誰も【人間】のお前は必要とはしていない。必要なのはあくまでお前の【能力】であってお前ではない』
 ……やっぱりそんな訳無い。
 碧子は所詮道具。必要とされているのは[力を発展させる能力]であって【義義理碧子】じゃない。
 超能力すら無い化け物さんに、碧子を庇う理由なんてない。きっとすぐに、今にでも逃げ出すに決まってる。裏切るに決まってる。本性を見せるに決まってる。
「こいつ堅いな!」
「おいこれとか効くんじゃね!」
 ガン!
 今までとは少し違う音が碧子の耳に届いたよ。
 そのチンピラは……金槌で化け物さんを殴ってた。
「じゃあ俺これ!」
 ある人は廃材。
「これもいいだろ!」
 ある人はスタンドライト。
 チンピラさん達は化け物さんを鈍器で殴り続けていた。
 少し、化け物さんの顔が見えた。
 流血してた。
 何で……。
 何で! 何がそこまで彼を繋ぎ止めるの!? 意味が分からないよ!? 彼の心が分からないよ!?
「これでも喰らえ!」
 ドガンッ!
 化け物さんは……金属バットの打撃を頭に受けて、壁に倒れこんだ。
 そのままズルズルと下に落ち、血で太い線が壁にできた。
 チンピラの一人が碧子の方を見てこう言ってきたよ。
「じゃあ今度は俺がしよっかなー」
 え?
 嘘でしょ。
 その人は碧子の顔に手を伸ばしてーー。
「待てよ」
 碧子は自分で碧子の耳を疑ったよ。
 さっき、崩れ落ちたはずの彼が、すぐ近くにいたんだから。
 化け物さんの手が、リーダーさんの手を掴む。ボギャリ! と音が鳴って手からナイフが落ちた。
「義義理に何かしたら……全身の骨を粉砕って……言ったよなぁ!」
 次の瞬間、二人のチンピラが同時に物凄い轟音を立てて壁に飛んでいった。
 その先程まで二人が立っていた場所には、化け物さんが立っていた。
 髪が紅い、化け物さんが。

 ひっさしぶりにキレたぞおい。
 何かゴチャゴチャ言ってるけど聞くのが面倒だ。
 とりあえず……こいつら全員病院送りにしても大丈夫だよな。
 という訳で更に二人吹っ飛ばす。
 何か力が出るな。気のせいか?
 殴ってきたから拳を握り潰してそのまま投げ捨てる。蹴ってきたから足を蹴って90度曲げる。
 金属バットを振ってきた。どうでもいい。受け止めてバットを握り潰した。ついでにバットを取り上げて投げ付ける。
 走ってきたから殴って方向を反転させてチンピラ同士をぶつけて纏めて回し蹴り。
 逃げようとしたから後ろから蹴って吹っ飛ばした。
 腰を抜かしていたから顔面を蹴った。
 そうこうしている内に残り一人になったようだ。
 おい。全身の骨を粉砕って……冗談と思うなよ。
 何かを言う前に一気に距離を詰めてまず腕を手から肩にかけて16発殴り反対の腕もこれをする。
 次に肋骨に12発打ち込み、後ろに回り込んで肩甲骨に7発ずつ打ち込んだ。
 まだ止めない。足をやって終わりだ。
 両足合わせて29発殴る。これで充分か?
 そいつ、と言うかチンピラは全員気絶しているようだ。
 義義理は自分でガムテープを剥いだらしくこう言ってくる。
「何で! 何でなの! そんなになるまで……! 何でそんなに碧子を庇ったの!
 もう良いから! 幻滅なんてしないから! もう本性を出してよ!」
 ……いやこれが素なんだよ。
「嘘でしょ! 碧子みたいな……必要とされてない人間を庇うような人なんて……いるわけない!」
 義義理。……お前、泣いてるの気付いてるか? 俺の為に泣いてくれたのなら嬉しいが……。
 義義理。ふざけるなよ。
「碧子の何処がふざけてるのよ!」
 いい加減にしろ! 義義理碧子をそれ以上貶すな! 自己嫌悪も大概にしやがれ!
「化け物さんには……分からないよ! 道具として扱われた碧子の気持ちが! 人間としての存在理由を否定された碧子の何がわかるの! 来るのは能力目的の奴等だけ! もう誰も人間として碧子を見ない!」
 俺がいるだろ!
「……えっ?」
 碧子は驚いた表情をしている。
 俺はお前を道具として見たりしない!
「う、嘘だよ。信用できないよ……確証が無いよ……」
 だったら確証をぶつけてやる!
 確証その1! 道具に服なんて買わせない! 確証その2! 道具の衛生を気にする訳無いだろ! 確証その3! 道具を……こんなになってまで助けない! 確証その4! 道具を……抱き締めたりしない!
 俺はそういって碧子を抱き締める。
「確証は揃った! だから……俺を信じろ義義…いや碧子!」
 碧子の表情は分からない。が、首に水が当たった。泣いてるのなら、俺の言葉も少しは届いたか……な。
 ……やばい…血が出過ぎ…た。
 俺は遠くなる意識の中でずっと考えていた。
 俺を信じろ、碧子。




平子「私の出番はいずこに?」

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.36 )
日時: 2015/11/29 05:48
名前: モンブラン博士 (ID: 6HmQD9.i)

波坂さんへ
はじめまして、モンブラン博士です。
少しアドバイスします。
更新率が早く話も面白いのですが、行間がないため読みにくいです。
セリフと字の文の間を離すとファンが増えると思います。


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