複雑・ファジー小説
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- 超能力者と絶対に殴り合う能力
- 日時: 2018/03/26 17:23
- 名前: 波坂 (ID: KLUYA2TQ)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=359
初めましての方は初めまして。それ以外の方はこんにちは。
波坂と言う者です。
意見や感想、アドバイスなどは大変嬉しいのですが、それが的確なものであるかどうかを一度確認してから投稿して下されば幸いです。
宣伝などはできる限り控えて下さい。
※リンクは能力の募集に繋がっています。よろしければどうぞ
2015/10/17 スレッド設立
2017/01/18 受験の為、更新停止
2017/03/07 受験終了。更新再開
2017/03/28 参照回数8000突破
2017/05/14 参照回数9000突破
2017/9/01 参照回数10000突破
2017/12/15 参照回数11000突破
2018/2//13 参照回数12000突破
Twitter創作アカウント→@namisaka_sousak
【目次】
第一章>>1-21 第二章>>23-31
第三章>>32-46 第四章>>47-67
第五章>>68-77 第六章>>78-104
第七章>>105-202 番外編>>203-215
第八章>>219-236 第九章>>237-269
第十章>>270-現在更新停止
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.248 )
- 日時: 2017/05/14 18:29
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: KLUYA2TQ)
響の「まあ座りたまえよ君達」という言葉に甘えて適当な椅子に座る3人。その椅子は細いパイプの4足の椅子で青色のラバー性のカバーでクッションが覆われている、所謂『理科室の椅子』だった。
6つほどある机はどれも黒くそのうち4つ程はフラスコや試験官などの実験器具が所狭しと並べられている。薬品やホッチキスで纏められた紙束なども投げ出されたかのように、多数の瓶に被さっている。
3人と対面するように座った響は口を隠してあくびをして眠たそうな表情を見せる。
「あー、なんだ。すまないね。先程まで資料を纏める退屈な作業をしていて疲れているんだ」
「オイ義義理、テメェの目的はなんだ。どうして此処にはテメェしかいねェんだ。何故俺達の事を知っている」
「質問が多いんじゃないか。まあいいさ。それくらいなら答えてやろう。一つ目の問いに対しては『興味があった』。二つ目の問いに対しては『質問そのものが間違っている』。三つ目の問いに対しては『能力学の研究者だから』と返そう」
「……興味があっただァ?」
「なーに、単純な話さ。『リモデルチルドレン』の完成体がどんなものか見たかっただけ、さ」
3人の顔が、驚愕の色に染まる。
久郎はリモデルチルドレンという単語について。
霞夏はリモデルチルドレンに完成体がいると言う事について。
そして雪菜はーーーー自分の正体を知られている点について。
「驚いたのさ。リモデルチルドレンを製造し続けている組織が、ついに一般の能力者となんら変わらないリモデルチルドレンを作り出したという事をね。だから興味が湧いた。興味が湧いたから実際に見てみたかった。だから逃走補助をしたし、此処に逃げ場を用意した。……最も、君が彼女を救っていなければ今頃は失敗に終わっていただろうがね」
「待ちやがれ!リモデルチルドレンは普通の能力者となんら変わらねぇ存在だろ!それの完成体ってなんなんだよ!」
「落ち着け大見代久郎。君が相方を気遣ってそれを認めたくないのは分かるがリモデルチルドレンは普通の能力者とは決定的なまでに掛け離れているんだ。能力は歪つで寿命も短い。必ずどこかに障害が発生する上に成長期がやたらと早かったりする。キミの連れている縫空霞夏だってそうだろう?君の相方は喉に障害を負っているだろう?10歳にしては体が成長し過ぎている。しかも能力が暴走することもあるだろう?ほらこれのどこが普通なんだい?立派な異形じゃないかーーーー」
そう、響が言い切ろうとした瞬間。
久郎の右手に青色の炎が宿り、握られた右拳が一直線を描いて響の顔面に迫った。
咄嗟に体を後ろ向きに倒し、椅子から転がるようにして背中から床に倒れる響。髪の毛が数本ほど分離されて虚空に消える。
響が何か言おうとするのも束の間、今度は左手が響に迫る。無論、それは青色の炎を帯びている。
椅子を久郎の顔面の方向に器用に蹴飛ばす響。咄嗟に出していた左手で椅子を薙ぎ払う久郎。椅子の触れた部分のみが削られる。
その間にそっと久郎の腹部に触れた響はすぐさま手を離して久郎から距離を置く。
「それ以上」
久郎のサングラスの内側から、先程とは比べ物にならない程の鋭く冷たくまた怒りの熱を帯びた眼光が響に向けられる。
「それ以上霞夏を『異形』扱いするんじゃねェ」
決して大きい声量ではない。しかし何故かのしかかるような重みのある声音。
だが響はそんなもので怯みはしなかった。鼻で笑うように息を吐く。
「ハッ、落ち着きたまえよ。君が暴れたところで相方が普通になる訳じゃないんだ。無駄な事はよしたまえ。なによりもその両手に点る凶器を仕舞うんだ。さもなくばこちらも凶器を出さざるを得ないからね」
「発言を撤回するなら仕舞ってやる」
「嫌だね」
「なら木っ端微塵決定だァ!」
久郎が脚に力を入れて走り出そうとした瞬間、響が握っていた右手の人差し指だけをピンと立てる。
すると次の瞬間、久郎の頭の上に矢印の赤いマークが浮かび上がったと思えば、久郎の体が天井に向かって高速で移動し、激突した。
その右手を右斜め下に響が振る。すると矢印が右斜め下を向き、その方向に向かって久郎の体が再び飛ぶ。机の上に激突し空気を吐き出す。
「さて問題だ大見代久郎。私は今2回君の体を動かした。私の能力、[矢印を操る能力]は1時間以内に触れた90kg以下の物体を自由な方向に3回動かすことができる。では何故最後の1回をしないか分かるかい?」
「……知らねェよクソが……」
「少しは考える意欲を見せたまえよ……答えは君との平和的解決を望んでいるからだ。君は一応高森雪菜を救いここまで連れていた恩人といえば恩人だからね」
「恩人の頼みくらい……聞けよ……」
「悪いが私は事実が否定されることが許せない性分でね。そういう事はしたくないんだ。例えそれが恩人の頼みであろうとね」
「……チッ……分かった……だから霞夏、もういいんだ」
久郎がそう言うと響の近くから霞夏が姿を表した。いままで透明になって響に近付いていたらしい。
その事に気がついた響は口笛を吹いて「わぁお危ない危ない。あのまま攻撃を続けていたらこちらが死んでいたかもね」などと軽い調子で独り言を言っている。
「さて、話を戻そう。高森雪菜はリモデルチルドレンの代償が一切無い……つまり寿命もあるし障害もない。能力の暴走も無ければ成長も人並みだ」
「……だから私にメッセージを……」
雪菜は覚えている。
暗い部屋の中。その中で檻に入れられて捕まえられていた日々。周囲とは違う生活を強いられた日々の中、突如としてある日来たメッセージ。
それが、まさか雪菜が捕えられていた原因が理由で送られてきたものとはなんとも皮肉な事だ。
「さて、二つ目の質問について詳しく説明してやる。此処には私の他にもう1人私の助手がいるのさ。まあ今は帰宅しているだろうけどね。三つ目の質問についてだが、私は能力学の研究者でね。日々能力について研究しているーーーーと言えば少し違うな。能力について研究したのもを紙にまとめる日々を過ごしている。その課程で、国から送られてきた資料のサンプルに君たちの名前があった、ただそれだけさ」
○
『雪菜さん、大丈夫かなぁ?』
ホワイトボードに書かれたその文字に久郎は「大丈夫だろ。多分な」と適当に返す。
久郎は義義理響という人間がイマイチ掴めなかった。ただ、少なくとも胸糞悪い悪人でないという事は分かる。無論それも勘でしかないのだが。
「そいつはとにかくだ、今日の夕飯はなんかリクエストあるか?」
次の瞬間、霞夏は急いでホワイトボードに「カレー」と大きな文字で書いて両手で掲げる。
その歳相応の無邪気さに半分笑いつつも久郎は下げるように手を振った
○
「すまないね。今服はそれしかないんだ」
流石に無惨に破かれたドレスで過ごすさせる訳にもいかないので服を探す響。だが見つかるのは白衣だったりスーツだったりと完全に年頃の女子が着るものでは無い。
「大丈夫ですよ。もう慣れてますから。むしろまだ有り難いほうです」
「…………そうか」
その言葉は、決して子供が喋る言葉ではないのだ。そんな言葉を、言わせる世界であってはならないはずなのだ。
「……なぁ、雪菜君。少し、私の独り言に付き合ってくれないか」
「ん?どうぞ?」
わからないと言った様子で首を傾げつつも許可する雪菜。響は、少しだけ息を吐き出して喋り始めた。
「私にはね、ある大切な人間がいたんだ。私よりも歳下さ。……でもなまじ価値のあり過ぎる能力を早い内から発現してしまってね……ある日、私の目の前で連れて行かれたんだ。その日私は何をしたと思う?」
何も言えずに沈黙が続く。雪菜はそもそも何の話をしているかすら分からずにキョトンとしているだけだ。
「沈黙していたんだ。ただ黙って、それを無表情で見過ごすことしか出来なかったんだ。必死に助けを求める……妹を……見捨てることしかできなかったんだ」
少しだけ、何かを感じ取ってしまった雪菜。無論それが良いことではない事だと知っているためにいい気分にはなれない。
「親の圧力を後ろに、私は何も出来なかったんだ。ただひたすらに、悲鳴をあげて助けて、助けて……そう言って……お姉ちゃん、お姉ちゃんって……私を呼ぶ妹に……背を向けることしか出来なかったんだ」
「だからだ、本当は君の逃走を補助した理由の1部には君と妹を重ねたということもあったかもしれない。いいやあった。君を救うことで、あの日の事を少しは忘れられるかとね。……どうだい?私は最低だろう?」
雪菜は、頷くことも、否定することも出来ず、ただ沈黙するだけだった。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.249 )
- 日時: 2017/10/04 20:16
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: KLUYA2TQ)
「終わったよぉー緋奈子ちゃぁーん」
「ひぇっ!」
次の日、平子は修理された自転車で登校し無事に日直の義務を果たすことに成功した。具体的には、朝の教室の机の配置のチェックや時間割の変更などの連絡などである。
そしてそれらを終えた平子は教室で立っていた緋奈子に背後から抱き着く。一瞬ビクッと反応した緋奈子だが、どうやら背後から急に抱き着かれた事に驚いただけで、それを行ったのが平子だと気が付くと、落ち着いて平子の手を解いた。
「もう……急に抱き着くのは止めてく下さいって……ビックリするじゃないですか……」
「えへへ。ごめんごめん。ビックリする緋奈子ちゃんが可愛いからついやっちゃったってわけだよ」
「もう……そうやって丸め込もうとして……」
軽く怒る緋奈子も本気で起こっている訳では無い。それを分かって平子も冗談げに返しつつ舌をチロッと出して楽しげに笑う。そんな友人に、それ以上注意する気になれなかった緋奈子は少し呆れたような表情を浮かべた。
「すみません。そこ、いいですか」
突如として背後からかけられた抑揚の無い超えに今度は平子が軽く驚いた。振り返るとそこには瓜二つの顔。それを見て平子は軽く鏡を見ているような錯覚に陥った。
彼女の名前は平雨平瀬(ひらさ/ひらせ)。ついこの前転校してきたばかりの女子生徒だ。どうやら紡美は彼女を知っているようだが、紡美からは何を訊いても曖昧な返答をされるだけなので、彼女についての情報を平子は一切持っていなかった。強いて挙げるとすれば、平子とかなり外見が似ている事だ。姉妹や双子と言うと一瞬で信じられるレベルである。
「あ、ごめんね」
どうやら平瀬は自分の席に座りたいだけのようだ。平子が偶然平瀬の席辺りに立っていたので話しかけただけらしい。
平子がその場から数歩移動すると、平瀬はペコリと頭を下げて無言で着席した。
その平瀬の顔をじっと見つめる平子。見れば見るほど自分に似ていることが分かる。外見の違いはせいぜい髪の長さが微妙に違ったり、ヘアピンの数が違っているだけだ。恐らく話しかければ声の抑揚や表情などで判別できるだろうが、遠目に見れば見間違えられる事間違いなしである。
「ねぇ平雨ちゃん」
今までなんとなく絡み辛かった平子はこれを機に接触を試る。平瀬は基本的に誰にでも避けられるような雰囲気を放っていて、今まで友人らしき人物がいるのを見たことは無い。無論、真面目で大人しいので決して嫌われている訳では無いのだが。
「どうかしましたか?」
「平雨ちゃんってどこの高校から転入してきたの?」
「……私は限条高校の生徒でした」
なんとなく感じた歯切れの悪さと少しおかしな言い回しに違和感を感じつつも「ふーん」と返して別の話題で話を続けようとする平子。
「限条高校!?」
だがそれは緋奈子の大声によって遮られた。本人も思わず出してしまった声なのか、口を押さえて少し恥ずかしそうにしている。
「緋奈子ちゃんどうしたの? 叫びたい思いに駆られたの? そんなに時雨さんが恋しいって訳なの?」
「違いますからね!? 大体時雨さんは関係無いでしょう!?」
「アハハ。冗談冗談。緋奈子ちゃんって時雨さんの話題になると急に焦り出すって訳だよねー」
顔を少しだけ朱に染めつつも緋奈子は深呼吸をして話題を元に戻す。こういう時の平子に何を言っても冗談げに返されることは知っているからだ。
「限条高校って……あの最難関とも呼ばれる名門校の事……ですよね?」
限条高校。中央エリアで最難関と呼ばれる程の超エリート校だ。積極的なスカウトによって優秀な生徒を集め、多くのプロフェッショナルやアスリート、単発依頼募集能力者、政治家や科学者などを輩出している。
入学するにはスカウトされるまたは超難関の一般試験を受験する必要がある。試験内容は面接、筆記で分かれている。そしてその試験の合格率は毎年1割ほどだ。また合格した後も自主退学する生徒が片手では数えられないほど出るので、卒業率は7割ほどである。
「世間ではそう呼ばれているようですね」
平瀬は肯定も否定もせずにただ他人事のように呟いた。
「へー」と感嘆の声を漏らす平子。これは限条高校の存在を知らない平子だからこその反応であり、知っている人間からすればこんな反応は中々できないだろう。
「……なんでそんな人がここに?」
「……ごめんなさい。私はそれを話すことができません。言うなれば、私の事情というものです」
「あっ、ごめんなさい!」
「……大丈夫です」
その後も緋奈子と平瀬の間には気まずい雰囲気が流れ、平子も楽しくお喋りという気分にはなれず、結局ホームルームが始まるまで3人は無言だった。
○
4限目が終わった頃。
平子はいつものように緋奈子と弁当を食べる前にトイレへと行っていた。トイレから出てきた平子はハンカチをスカートのポケットにしまいつつ教室へと戻ろうとしていた。
「ねぇ、平野ちゃん、だよね?」
だが後ろから聞こえた、若干聞き覚えのある声に平子は振り返った。
廊下に立っていたのは小柄な女子生徒だった。緑色の腰辺りまで伸ばされたツインテールと琥珀色の瞳にはなんとなく見覚えがあった。そして白いブレザーに入っている刺繍の色は赤。つまり2年生という事だ。
「えーっと……山瀬先輩……でしたっけ?」
そう、声を掛けたのは以前平子と道端で出会った山瀬裁華だった。
平子が名前を呼ぶとパァっと笑顔を満面の笑みを咲かせる裁華。溢れそうなほどに幸せそうな顔である。
「そう! 山瀬裁華だよ!覚えててくれて嬉しいな!」
にこやかな笑みを浮かべる裁華。平子も微笑みを浮かべようとする。
が、何故か平子は口元が引き攣ってしまう。どうも以前感じた違和感が拭えないのだ。何故かこの人物といると、寒気を感じてしまう。
「それで……どうかしましたか?」
「まず、私の事は下の名前で呼んで! 私も平子ちゃんって呼ぶから!」
「分かりました。山……裁華先輩」
「えへへ……嬉しいなぁ……」
口元を綻ばせる裁華を見てやっぱり勘違いかと思う平子。少なくとも、今の裁華には何処にも異常はない。平子はそう感じていた。
「それでね、平子ちゃ」
「平野さん、すみませんが先生が呼んでいます」
裁華の言葉が、誰かの声に掻き消された。
そう、平瀬だ。どうやら平子を呼んでいるらしい。
「うん! すぐに行くねー! あ……それじゃ私行きますね」
「ちょっと待っ……」
裁華が呼び止める前に、平子は駆け足で離れて行ってしまった。
「あのさ、貴女の名前は?」
裁華は、平子に向けたようなにこやかな笑みを浮かべて平瀬に尋ねる。
「私は平雨平瀬ですけど、貴女はどちら様でしょうか」
「私は山瀬裁華って言うの……ちょっと、いいかなぁ?」
この時、平瀬は何かを感じた。
裁華の笑みの下に隠れる、どす黒い何かを。
○
屋上には誰もいなかった。そもそも松舞高校の屋上は、ソーラーパネルが敷き詰められているので生徒が自由に活動できる場は少なく、せいぜい数人で話したりするのが限界であるために、昼休みに人気のスポットではないのだ。なので誰もいないのはいつもの事である。
それを確認した裁華は、一緒に連れてきた平瀬を下り階段のある小屋の壁に力づくで押し付けた。急にかけられた圧力に成す術もない平瀬はされるがままに押し付けられる。
「ねぇ、なんであの時邪魔したの?」
裁華はそれを『笑顔』で問う。
比喩表現ではない、殺してきそうな『笑顔』で。
それを相変わらずの無表情で見つめる平瀬は、感情が欠落してしまっているかのようだ。恐ろしい表情を向けられてもなお、平瀬の目は怯えもしない。ただ、いつも通りの視線を向けるだけだ。
「私は邪魔などしては」
「言い訳しないでよ」
ヒュン。と風を切るような音がした。
平瀬の頬に、浅い赤色の線が走った。その端から血液が僅かに零れる。
ほんの僅かだが、平瀬が痛覚で表情を歪める。その表情を見た裁華は先程とは別の歪んだ『笑顔』を浮かべる。
「貴女もそんな顔するんだね……貴女見れば見るほど平子ちゃんにそっくり……ちょっと鳴かせたくなってきちゃった……アハ」
次の瞬間、平瀬が咄嗟に壁に体を擦り付けるようにして横にスライドしながら身を倒した。運良く制服は壁に引っかかったりせずに綺麗に倒れる。
再び、風を切る音。
平瀬が立っていた壁が、丁度平瀬が立っていた時の腹部辺りの場所に、薄らと細い切れ込みが出来ていた。あのまま平瀬が立っていたら、腹部を切りつけられていて大惨事となっていただろう。
「これが私の能力。[斬撃を操る能力]だよ。この能力は切れ味が良くてね、そこら辺の包丁よりもよく切れるよ……こんな風に、ね」
裁華が指さしているのは、先程の切れ目だ。どうやら壁の向こうまで綺麗に切れているようだ。
平瀬が起き上がり、裁華に向けて右腕で掌打を繰り出す。それを手の平で裁華が受け止める。そして再び歪んだ『笑顔』を浮かべた。
平瀬は表情こそ無いが内心では焦っていた。目の前の人間は、かなり危険だと。頭の中で警報機が鳴り響いていた。
「貴女は普通の人じゃないみたい……アハッ! 揃いも揃って面白そうな人達!」
何故複数形にしたのか平瀬は理解出来ていた。恐らく、裁華は何らかの理由で平瀬を傷つけた後、平子にまで危害を加えるつもりだろう。何としてでも、それは防がねばならなかった。何故なら平野平子の護衛こそが、今朝緋奈子が平瀬に問うた『此処に居る理由』なのだから。
「貴女を平野さんに近付かせる訳にはいかないということが、判明しました」
平瀬が1度裁華から離れる。再び斬撃を放とうとする裁華。
しかし、その時偶然にも学校のチャイムが鳴り響いた。
「戻らなきゃね……だって……貴女も私も表向きは普通の生徒でしょう? 怪しまれるような行為はさけなくちゃ……きひひッ」
狂気に満ちた笑みを浮かべながらそう言った裁華は、ある一言を置いて立ち去る。
「これ以上、平子ちゃんとの仲に入ってくるなら……」
お人形さんみたいにバラバラにしちゃうよ?
裁華が立ち去った後、平瀬は頬の傷を押さえて保健室へと向かった。傷のついた嘘の理由を考えながら。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.250 )
- 日時: 2017/06/10 19:18
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: eso4ou16)
放課後となったが平子はすぐに帰宅はしなかった。と、言うよりはできなかった。理由は今現在彼女が書いている学級日誌を見れば分かるだろう(因みに今現在でも紙の需要はある。課題などの家庭学習以外では、基本的に紙のノートや紙の教科書を扱う方針の高校もあり、待舞高校はその一つである)
「すみません。平野さん」
「ん? どうしたの?」
そんな平子に声を掛けたのは平瀬だ。平子が振り向くと平瀬はゆっくりと顔を近付けた。一瞬変な事を考えているのかと疑った平子だが、予想に反してその口は耳元に向かう。そして、耳元でそっと、平子にだけ聞こえるような声量でいった。
「山瀬裁華は、危険です」
平瀬としても、なりふり構っていられる状況ではなかった。裁華は放っておけば平子に危害を加えるにちがいない。下手すれば平子を殺害してしまう。平瀬はそんな予測を持ってしまった。
多少は違和感を持たれようとも、優先すべきは自分の正体より平子の命なのだ。彼女はその決意を持って平子に警告をした。最も、まだ不確定要素が大きすぎるために、危険、としか言えないのだが。
「平瀬、個人面談の時間だ」
平子が問い質そうとするが、担任教師の相川が平瀬を呼ぶ。平瀬は平子に礼をして相川に付いて行ってしまった。
あの裁華から感じた謎の違和感と血の匂いを思い出し寒気を感じつつ、平子は再び学級日誌に手をつける。が、集中できてないのは明白だった。
一方で、教室から出た平瀬と相川は個人面談室と呼ばれる、片側だけで3人ほど座れる程度の長机が一つである置かれているだけの小さな教室に来ていた。
「そこに座ってくれ」
指定された席に座る平瀬。相川と平瀬がちょうど真正面から向かい合う構図となる。
「平瀬、これからの質問は正直に答えてくれ。俺ならお前の力になれるかもしれないし、逆にお前は俺の力になれるかもしれないんだ」
「相川先生……?」
唐突に掛けられた意味の分からない言動にクエスチョンマークを浮かべる平瀬。だが次の相川の発言により目を見開く事になる。
「お前は、織宮元首の助手だな?」
平瀬は黙って、右手と左手の準備体操を始めた。
○
あの後なんとか学級日誌の必須項目を全て埋めた平子は、職員室にある相川の机に学級日誌を置いて靴箱へと向かった。結局あの後平瀬は戻ってこなかった。だから頭の中で充満するモヤモヤを消せずにいる。
平瀬が言った言葉が本当であるとは決して断定できない。しかし、平子は彼女の言葉を否定する材料は持っておらず、むしろほんの僅かの肯定の材料しか持っていなかった。
平子からすれば、平瀬も裁華もあまりに不透明で、謎に包まれていてどちらを信じれば良いか、そしてそもそもどちらも信じて良いのかすらも分からない。正体の見えない幽霊を相手にしているかのようだ。
誰かに相談するのも一つの手であると考えた平子だが、必要以上にこういった問題に他人を巻き込むのは彼女の望む所ではない。
どうしようもない問題だと割り切ろうとした平子だが、そんなに簡単に割り切れるはずも無くため息を零す。
「平子ちゃん?」
突如として、気配も全く感じなかった背後からかけられた声に、背筋を思わず無意識に伸ばす平子。そのまま油を差していない機械のように首を回す。
背後にいたのは裁華だ。平子の驚いて口が塞がっていない表情に疑問を浮かべているのが窺える。
「ど、どうしました?」
視線を泳がせながらもなんとか質問する平子。動揺を悟られまいと必死だが、当然最初の反応で裁華には見抜かれている。が、微笑みで塗り潰された表情からその事に平子は気が付くことが出来なかった。
「待ってたんだー。昼休みは邪魔が入っちゃってゆっくり話せなかったし」
「あ、ああ……そうなんですか……」
「うん、そうなの」
「……でも私、もう帰るって訳ですよ」
「大丈夫だよ。私はお話する為じゃなくて誘いに来ただけだから」
「誘い?」
いまいち意図の掴めない平子。無意識のうちに視線が訝しみの感情を帯びる。そもそも目の前の人は何が目的なんだと、平子の思考がエスカレートしていく。だが裁華は全く気にせずに話を進める。
「今度の土曜日空いてるかな? 平子ちゃんと遊びに行きたいな!」
思わず拍子抜けした平子。平瀬から言われた意味深なセリフと、よく分からない裁華のせいで変に考え込んでしまった自分が途端に恥ずかしくなってくる。そう言わんばかりに平子の顔が少しだけ赤くなった。
「た、多分空いてます」
帰宅部に所属している平子の土曜日は基本的にフリーだ。いつも何かしらの予定が入っているのでまるっきり暇という訳では無いが。
「やった! じゃあ次の土曜の11時頃に平子ちゃんの家に行くから待っててね!」
それだけ伝えると、裁華は平子に背中を向けて玄関から出ていってしまった。呼び止めようとしたが、曲がり角で視界から居なくなってしまった。
(私の家の位置知らない……よね?)
なら聞くはずだろう。それなのに彼女は平子から居住地区すら聞き出さなかった。
意外とドジなのかなとかなり失礼な感想を抱いた平子は、どうしようもないと切り捨てて駐輪場へと向かった。
2人の意識外から2人の会話を聞いていた存在の事などーーーー平雨平瀬が、ひっそりと会話を聞いていたことなど、露知らずに。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.251 )
- 日時: 2017/06/25 14:23
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: KLUYA2TQ)
「えへへへへ……」
その部屋は至って普通の部屋だった。壁は白く、賞状やポスター、カレンダーや時計など壁に飾るには至って普通のものが飾られているだけの壁。
壁以外も至って正常な部屋だった。少し散らかり気味だが、足の踏み場がないとかそういうレベルでなく、少しスペースが圧迫される程度であり、致命的なまでに散らかっている訳では無い。床は茶色の木材に黄緑色のカーペットが敷かれていて、その上には小さな丸いテーブルがあり、カーペットが途切れた部屋の隅には学習机が置いてある。
そんな至って普通の部屋の中で、山瀬裁華は1人で笑っていた。
零れる笑顔は幸せの色を示していた。ベッドの上で何回か転がったりと落ち着かない雰囲気で、余程嬉しいのだろう。
「土曜日は~平子ちゃんとデート~」
声も喜々としたものが含まれている。裁華は平子との約束ができたことがとても嬉しかった。
「何を着ようかな? どこに行こうかな? 何をしようかな? しっかり用意しなくちゃ!」
その姿は初めての彼氏と初めてのデートに行く女性のようにも見えた。
そして彼女は持っていたスマートフォンを手放して、自分の服を取りに別の部屋に行った。
スマートフォンの電源は入れっぱなしだった。その画面に映るのは、1枚の画像。
それには、血みどろで倒れる青髪の、制服に身を包んだ女子の姿が写っていた。とても現実味のない写真だが、加工や編集では出せないようなリアリティがある為にフィクションの画像とは思えない。
表情こそ見えないが、壮絶な表情をしているに違いない。そう思えるほどの惨状が映し出されていた。
「……平子ちゃんは私を好きになってくれるかな……?」
鏡に映る自分を見ながら、裁華は独り言を呟く。
「それとも……他のお人形さんみたいに壊しちゃおうかな?」
彼女の口元は、笑っていた。
○
平子のクラス担任こと相川悟は車で夜道を走っていた。車内にはJ-POPの曲が流れており、ライトは一つしか付けられておらずそこそこ暗い。ハンドルはしっかりと両手で握られていて、心配性の相川の性格が見て取れた。
だが、そんな相川でもハンドルから片手を話す時はある。そう、電話だ。どうやら携帯電話に着信が入ったらしく、車内に着信音が響く。バイブレーションしながらけたたましい音を出すそれを手に取って通話に応じた相川。
「少し待ってくれ」
そう電話の向こう側の人物に言うと、ちょうど通りかかったスーパーマーケットの駐車場に車体を停める。しっかりと停まったことを確認すると漸く相川は電話を再開した。
「悪いな。で、用件はなんだ? 平瀬?」
『少々、『相川先生』……いや、『相川さん』に相談したいことがありまして』
「……なるほど。教師としての俺でなく、個人としての俺に、か」
『はい』
この言い回しをされるということは、大体用件は良くない方だろう。そう心に留めて相川は平瀬からの相談内容ーーーー平瀬と裁華の昼休みのやりとり、そして平子が裁華に誘われていた。などについてーーーーを聞いた。
内容は、正直言って信頼性のあるものではなかった。少なくとも、平瀬に確信と根拠はあっても、決定的な証拠と呼べるものが何一つない話。
だが、相川悟は心配性だ。その一つ一つを気に留めたり深く考え気を病んだりはしないものの、多くの物事に対して心配を抱いてしまう。そして相川は出来ることなら心配を潰そうとする。例えば、交通事故に遭うかもしれないという心配を、両手でハンドルを握り、ずっと前とミラーを見て運転し、擬似エンジン音(電気自動車ではエンジン音がしないために、安全のため自動車に備わっている機能)をキッチリと出したり。そして電話をする際にはどこかの駐車場に車体を停めるなど、心配を潰すために出来ることなら何でもやるタイプの人間だ。
そして彼は、放置していれば自分の生徒が傷付くかもしれない、という『心配』を抱いてしまった。そして相川は心配を潰すためなら出来ることなら何でもする。
この時の相川に、『動かない』という選択肢は無かった。
- Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.252 )
- 日時: 2017/08/18 18:26
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: KLUYA2TQ)
平子はドライヤーで髪を乾かしながら考え事をしていた。暖かい風が髪越しに皮膚にぶつかり確かな熱を伝えてくる。
考え事、とは勿論のこと裁華の事だ。彼女は平子の家に来ると言ったが、平子は彼女に家の位置どころか住所すら教えた覚えはない。しかも平子の家の表は護衛術教室となっているため、生活スペースを訪ねるには、玄関と化している裏口から入らなければならない。これもまた、彼女は知らない。
つまり、彼女は平子に会うことができず、当然デートなんてできる訳もないのだ。せっかちな人なのかなと自己完結した平子は、ドライヤーのスイッチをOFFに切り替えた。
○
次の日、インターホンが鳴らされた為に平子は玄関に駆け付け扉を開いた。
「平子ちゃんおはよー!」
「……夢かな」
平子は目を擦りながらドアを閉めてもう一眠りしようかと自分の部屋へと戻ろうと踵を返した。
が、それを留めるかのようにノックが3回、ドアの向こうから聞こえた。それに意識が起こされようやく状況を理解した平子は急いでドアを開けた。
「さささささ裁華先輩ぃぃぃぃ!? なぜここに!?」
「えー、この前言ったじゃん。平子ちゃんの家に行くよーって」
「でも教えてませんでしたし……」
「まあそこら辺は愛の力だよ愛の力」
「愛の力って……」
怪訝な表情を向ける平子だが、文字通り満面の笑みを咲かせている裁華の表情を見ながら疑う気にはなれなかった。
「とりあえず今日の行く予定は大体決めてあるけど、平子ちゃんはそれで大丈夫?」
「大丈夫です。ちょっと用意してくるので、待っててください」
呆れからか、少し目眩のようなものを感じながら平子は自分の部屋へと戻った。
○
「で、今日はどこに行くんですか?」
平子はバスの中で隣に座る裁華にそう訪ねた。先ほどとは違い、白いキャミソールと浅葱色のワンピースを組み合わせた、所謂キャミワンピースという服装をしている。足には脹脛に届かない程度の白い靴下に比較的動きやすい靴を履いている。以前、硬い靴を出かける時に使い足が痛くなった事から平子はこういった足で移動する用事の際には歩きやすい靴で行くことを心がけていた。
「チケットが取れたから映画を観る予定だよー」
そう言って、裁華が平子に見せるようにして取り出したチケット。それを見た平子が、思わず顔をギョッとした表情に歪めた。
なぜなら、それは赤や黒などの色がプリントされて明らかに明るい話ではない……というか、一時期有名となったホラー映画の続編だったからだ。平子は一応これの前編を知っているのが、家で観て2日間ほど眠れなくなったことは今でも覚えている。
「これ……観るんですか……」
「そうだよー。この作品の前作は登場人物の心の動きがとっても不安定で面白かったから続きが気になってて」
「私も観たんですけど……」
「平子ちゃんも知ってて良かった~! 知らなかったら困るもんね!」
花が満開になったかのような大きな笑顔に押され、平子はこれを視聴することを拒む選択をすることは出来なかった。
ため息を堪えて平子は車窓から外を見る。景色が流れていく速度は、ゆっくり見るには早すぎて、目で追う気にもなれなかった。
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