複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

超能力者と絶対に殴り合う能力
日時: 2018/03/26 17:23
名前: 波坂 (ID: KLUYA2TQ)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=359

初めましての方は初めまして。それ以外の方はこんにちは。
波坂なみさかと言う者です。
意見や感想、アドバイスなどは大変嬉しいのですが、それが的確なものであるかどうかを一度確認してから投稿して下されば幸いです。
宣伝などはできる限り控えて下さい。

※リンクは能力の募集に繋がっています。よろしければどうぞ

2015/10/17 スレッド設立
2017/01/18 受験の為、更新停止
2017/03/07 受験終了。更新再開
2017/03/28 参照回数8000突破
2017/05/14 参照回数9000突破
2017/9/01 参照回数10000突破
2017/12/15 参照回数11000突破
2018/2//13 参照回数12000突破

Twitter創作アカウント→@namisaka_sousak

【目次】
第一章>>1-21 第二章>>23-31

第三章>>32-46 第四章>>47-67

第五章>>68-77 第六章>>78-104

第七章>>105-202 番外編>>203-215

第八章>>219-236 第九章>>237-269

第十章>>270-現在更新停止

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力【更新再開】 ( No.233 )
日時: 2017/03/15 23:29
名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: rMeeZFi3)

具列鎖は一人で夜道を歩いていた。
一人だけ組織への参加を断った鎖。理由は単純だ。彼は他人の下に置かれるのが好きなのだ。
別にマゾヒズムを持っている訳ではない。鎖は自分が責任を取ったりすることが大嫌いで、他人から命令されて何も考えずに動く方がよっぽど楽だと考えているのである。
最初は組織の設立と聞き期待していたが雅が出した案は自分の求めるようなカースト制のような『縦構造の組織』ではない『横構造の組織』だった。同じ権力の者しかいない組織など、鎖の好みでないどころか嫌いですらある。彼は群れることも嫌いなのだ。
自分が責任をとりたくない。だが群れていては36歳という現役の能力者にしては歳を食った方である最年長の自分が責任をとらされる事になる。だから群れなければいい。群れなければ、他人の責任を自分がとる必用など無いのだから。このような考えから鎖は雅の『横構造の組織』を嫌い、参加を断ったのだ。
帰りに適当なつまみでも買って帰ろうとコンビニに寄ろうとする鎖。
しかしそんな鎖の肩が誰かの手によって掴まれた。

「なぁオッサン。ちょっと来てくれね?」

鎖がため息をつきつつ振り返ると、鎖よりも大柄な制服を着崩した学生が肩を掴んでいた。耳にピアスをしていて、髪型はリーゼント。絵に描いたような不良の姿だ。
後ろにはニヤニヤしつつもこちらを見るニット帽を被ったダボダボのジャージの学生(と思われる年齢)と、頭を丸めサングラスをかけた学生が控えている。
鎖が黙っているとそのままコンビニの裏まで連れられる。
ここは超能力の誕生によって必用とされなくなり捨てられジャンクになった工場や倉庫などの建造物が建ち並ぶ地区だ。
このあたりには廃墟を根城とする不良が棲息しているという情報もあったな。そんな過去に耳に挟んだ程度の知識を引っ張り出していると唐突に肩を押された。
何も出来ずに倒れる鎖。若いときの様に受け身を取ることはできず、硬い地面に無様にはいつくばる。

「なーオッサン。小遣いくれよ小遣い。……さっさと出せや」

リーゼントの不良が鎖の胸倉を掴んで圧をかける。しかし鎖の視線は不良にすら向いていない。自分の持っていた持ち物が散らばっていないかどうかを確認している。
確認が終わると、ゆっくりと不良の方を向き、鎖は不良に向かってこう放った。

「オッサンさぁ、実は今金に困ってんだよ。小遣いくれね?」

不良の顔が一瞬固まった。直後、爆笑が起こる。

「オイオイ!今の台詞聞いたか!このオッサン状況がわかってねーよ!ヒャッハッハァ!」

笑い声をあげる不良。それを遮ったのは、鎖の鉄拳だった。
そしてその拳が打ち抜いたのは、ちょうど右目の辺りだ。
鎖の胸倉を離し、のたうちまわるリーゼントの学生。壮絶な悲鳴がコンビニの裏手に反響する。

「アッガァァァッ!」

「悪いなぁ。オッサン、普通にやって勝てる気しないから目、潰させて貰ったわ」

次の瞬間、不良の顔面に目掛けて容赦の無い鎖の蹴りが放たれた
鼻が折れたのか、鼻血が噴き出した。その鼻血が鎖の靴を赤く、紅く汚す。
鎖は面倒臭そうに「あ〜あ、靴って洗うの面倒なんだよな」とぼやいている。 それは人を傷付けている者の台詞ではない。まるでゴミ掃除をして服が汚れた時の反応だ。
他の二人の不良は固まっていた。仲間の惨いやられ様に怯え、それを平然と行う鎖に脅えたのだ。
鎖は固まっている二人の不良に向き合うと表面上はニコニコとした笑みでこう語りかける。

「いやな?オッサン状況理解してる上で言った発言全否定されてちょいと怒ってんだよ。わかる?ま、こうすりゃわかるな」

鎖が二人の不良と距離を詰め、強引に二人の服を掴み、密着させた。
次の瞬間、鎖の能力である[接着を操る能力]が発動した。
鎖の能力は辞書で『張り付ける』と引いた際に書いている事が大体できる。
例えば、今のように不良の服同士を接着して離れなくしたりする事ができる。
他には評判操作などだ。この場合は『レッテルを張り付ける』という意味になる。
制服がくっついた事により二人三脚以上の束縛を受け、上手く動けず転んで地面に激突した不良。そして不良に襲い掛かるのは、鎖の蹴り。
容赦の無い蹴りは身を打ち骨を砕く。例えどれだけ叫ぼうが喚こうが鎖は止めないし、容赦もしない。
暫く鎖が蹴り続けていると、不良は誰も動かなくなった。正確には、動く体力も叫ぶ気力も無くなったのだが。

「ふいー、終わったかぁ。じゃ、財布の中身は貰ってくな。オッサン、つまみかうから」

三人の財布から札を抜き取り変わりに一円玉を三枚入れる鎖。それは最早やっていることは不良達と変わらないカツアゲ行為である。

「まあアレだ。カツアゲっつーのは常にカツアゲされる覚悟の無い奴がすることじゃねぇって事だな。ほら勉強になっただろ?じゃあ授業料は貰っていくぜ」

他に比べ歳を取った能力者、具列鎖。
だが、その身に宿る能力者としての本質はなんら衰えてはいなかった。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力【更新再開】 ( No.234 )
日時: 2017/03/19 22:13
名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: rMeeZFi3)

解散した後、黄昏雅にとって長い時間話していた気は全く無かったのに、気がつけば陽はとっくに沈み、代わりに街灯が静寂な夜を照らしていた。
首からかけてある懐中電灯を見ると既に時計は七時を回っていた。
この頃ならまだ間に合うだろうか。そう思いながら雅は指を鳴らす。
直後、周囲のものが全て無彩色に染まった。時間が停まった証拠だ。
雅の能力、[一時停止を操る能力]は指定した物体、現象、または指定したもの以外の全てを停止させる事のできる能力だ。正確には『物質、現象、力をその時点で凍結し、解凍するまで保存する』という能力だ。例えば林檎を投げたとする。雅が能力を使うと林檎はその場で停止するが、能力を解けば林檎は地面に落ちずに先程の運動を再開する。ビデオの一時停止と再生ボタンを想像すると理解が容易いだろう。
そして停止した物体は絶対に傷付けたりは出来ないし絶対に動かすことはできない。つまり停止している人間にいくらナイフを突き刺そうとしても絶対に突き刺さる事は無いのだ。だから停止した人間を傷付ける際には時間停止を解かなければならない。そこが雅の能力の弱点だった。

雅は静寂に包まれた停止世界の中を早足で歩く。彼女が一度に停められる時間は長くて30分。しかも精神状態によって激しくブレが生じる為、時間が停まっているとしてもモタモタとしている暇は無いのだ。

雅にとって停止した無彩色の世界はもう一つの自分の居場所であり、自分だけの場所でもあった。誰もいない世界は孤独に溢れていて、当時世間そのものを嫌悪していた雅にとっては二番目に優しい居場所だった。
この中では雅は自由になれた気がしていた。自分だけの空間はとても居心地が良かった。
だがDHAの一件でそれは覆された。灰色の髪の特殊警察の人間は指定してもいないのに停止世界に入ってきたのだ。誰もいない世界に招かざる客がやってくる。決してあってはならないことなのだ。
そのことを思い出し、唇を噛む雅。彼女の能力以外で停止世界に入ることは彼女にとっては、自宅に泥だらけの長靴で踏み入られること以上の憤りを覚えることなのだ。
意味のない屈辱に苛立ちを覚えつつも雅は黙って目的地へと歩き続けた。






雅が目的地に到着した頃には、既に時間停止の時が迫っていた。
周囲に誰もいないことを確認し、時間停止を解く。
次の瞬間、無彩色に染まっていた世界が色付き始める。夜なので変化は劇的という程ではないが、昼間にやると劇的な変化が起こる。
雅の目的地は目の前の、四角い巨大な豆腐に屋根を付け、窓を付けたような建物。色は全体的に薄く緑がかかっている。
正面には門があり、ブロック塀で敷地が囲まれている。その門の横のブロック塀に付いているインターホンを押す雅。
十数秒ほど待つと、建物の黒いドアの棒状のドアノブが周り扉が開いた。
中から現れたのは五十代後半程の女性だ。顔にはシワがより、老眼から眼鏡をかけている。緋色の目は優しさのような雰囲気に溢れている。
茶色の髪は白髪混じりで肩辺りまでに切られ、軽くパーマがかけられている。

「あらまあ、雅ちゃんじゃないかぇ。久しぶりだねぇ」

「お久しぶりです。浦崎さん」

彼女の名は浦崎志穂乃(うさらき/しほの)。この浦崎孤児院の院長である。

「立ち話もなんだし入りなさい。子供達も雅ちゃんに会いたがってるからねぇ」








「雅おねーちゃん!久しぶりー!」

浦崎孤児院の中に入った雅を出迎えたのは幼稚園児から小学生までの子供達だ。ざっと数えて二十数人はいるだろう。
そして奥では中学生から高校生の学生達が苦笑しつつその様子を見ている。こちらは十人程だ。
小さな子供達から質問責めに遭う雅。無論彼女は聖徳太子ではないので複数人の質問を同時に受け取ることはできない。

「ありゃ……雅ちゃん相変わらず大人気だねぇ」

一人ずつ質問を受け、それに律儀に返答を返す雅を見て志穂乃は呟いた。
そして、雅はいつに無く楽しそうな声音と表情をしていた。






質問責めを乗り越えた雅は大きく息を吐き出した。流石に両手を使っても到底数えられない人数を相手するのは、能力者相手に戦闘もこなす彼女でも疲れることだった。

「すまないねぇ。疲れてるだろうに」

「いえ、私がやりたくてやっていることですから」

雅は嘘は付いていない。実際雅はここに来て一度も嘘は付いていない。いつもは表面上のみを取り繕い、嘘と建前で自分を塗り固めている雅だが、ここにいる間は正直でいようと決めているのだ。

「そうかい?そりゃ良かった良かった」

シワの多い顔を更にくしゃっと歪めて笑う志穂乃。しかしその何処にも醜さと言うものは存在しなかった。
そして、雅がここへ来た理由についての話を聞き出そうとした時だった。

「あのーー」

インターホンが鳴ったのは。

「こんな時間に誰だろうねぇ?」

ゆっくりと立ち上がり玄関に向かうために部屋を出た志穂乃。
そして志穂乃が部屋に戻って来たとき、その後ろに雅にとって見覚えのある大柄な男性が付いて来ていた。

「悪ィっすね志穂乃さん。……あ?雅?」

銀髪の髪に銀縁の焦げ茶色のサングラス。白いボタンの付いた白いシャツに黒のカーディガン、そして薄茶色の長ズボン。
身長は190cmもある彼は入口の上に頭をぶつけないようにしゃがむようにして入ってきた。

「久郎……貴方も此処に?」

「奇遇だな。俺も今日の予定が終わった後に来る予定だったんだ」

そう、大見代久郎だ。雅の提案した案に乗った人物の一人である。
そして、二人にはそれ以上の関わりがあった。

「霞夏ちゃんはどうしたの?」

霞夏、とは縫空霞夏の事だ。彼女は久郎とコンビを組んでいたはずだが傍らにはいない。彼女は他人とのコミュニケーションが非常に苦手な一面があり、久郎に依存しているような印象があった。

「家で待たせてある。今頃は風呂にでも入ってんだろ」

そういえば二人は同居していたなと頭から記憶を引っ張り出しつつも、確かそれで過去に散々ロリコンとなじった記憶があるのを思い出して雅は吹き出した。現在霞夏は13で久郎は23だ。同居を始めたのは二年前だから霞夏は当時11で久郎は21。11の少女に手を出したと此処で暴露してその数日後久郎から苦情の電話が来たのは今でも覚えている。

「……お前今、ロリコンとかおもったよなァ?」

「……うん……ふふっ」

「何笑い堪えてんだコラァ!」

「相変わらず二人は仲が良いねぇ。歳は離れてるって言うのに」

「騙されちゃいけないッスよ志穂乃さん。コイツは時間止められるから実年齢よりも精神年齢と肉体年齢は歳をとってるから、常時サバ読み状態ッスよって止めろナイフを取り出すなバカ!」

騒ぎ出す二人を見て志穂乃は微笑む。
志穂乃は二人の幼少期を知っている。というか彼らを育てたのは誰でもない志穂乃なのだから。
雅を拾ったのは彼女が10歳の頃。彼女は確か他人よりも早期に能力が発現して、周囲からのけ者にされたこと、そして無能力の両親が青から白へのグラデーションの髪に嫉妬を覚えて雅を捨てた。それを拾ったのが志穂乃だったのだ。
久郎を拾った、というか行き場を失った彼を見つけたのは彼が12歳の頃だ。両親を失い、親族もいなかった彼は路頭に迷っていた。
雅を拾ったのは6年前。久郎を拾ったのは11年も前の事だが志穂乃は昨日の事のように思い出せる。いや、雅や久郎だけではない。彼女はこの浦崎孤児院で保護した子供全ての事を覚えている。
志穂乃という女性は良く出来た人格者だ。元はある有名な会社の社長の娘だったらしいが、自分の資産を切り崩してこの孤児院を回している。
そんな彼女だからこそ、彼女は雅と久郎に対してとても申し訳なく思っているのだ。
雅と久郎は志穂乃が資産を切り崩して孤児院を成立させていることを知っている。いや、知ってしまったのだ。そしてーーーーその資産が尽きそうな事も。
彼らにとって志穂乃は自分の人生を変えてくれた言わば親のようなものである。だから彼らは恩を返したかった。だが彼らに出来ることなどたかが知れている。例え二人でアルバイトをしても孤児院を回すための金額には到底及ばない。
だからーーーー二人は裏社会に足を踏み入れたのだ。
そしてそのことを知った志穂乃は自分が許せなかった。自分のせいで二人を社会の汚い面に放り込んでしまったのだと。
だから、志穂乃は二人にせめてと頼み込んだ。

ーーーー必要の無い殺しはしないでおくれ。と。

だからこそ雅は時間を停めて容赦の無い攻撃はしないのだ。彼女の言葉は雅が意識せずとも常に彼女が人殺しになることを防いでいた。

目の前で言い合いを始めた二人の間に仲裁に入る志穂乃。
そして彼女は言い忘れていたことを一つ思い出した。

「雅ちゃん、久郎。おかえり」

二人は瞬きを数回した後に少しニヤつき返事をした。

「ただいま、志穂乃さん」

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力【更新再開】 ( No.235 )
日時: 2017/03/29 07:47
名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: c1MPgv6i)

「ところで雅ちゃん。さっき何か話そうとしてなかったかい?」

「あ、はい。……実はリモデルチルドレンの件についてです」

リモデルチルドレン。この言葉を聞いて久郎が少し眉をひそめた。
その様子に気がついた雅はしまったと後悔しつつも話を進める。そろそろ彼にも知ってもらうべきなのだ。

「リモデルチルドレンは最近増加傾向にあります。彼らは元は孤児や事情によって捨てられた子供。又は売られた子供です」

リモデルチルドレン。漢字では改造児かいぞうじと言う。
リモデルチルドレンとは、改造された子供達だ。具体的には、あまりに幼過ぎる年齢で能力を持っている子供達を指す。
通常能力の発現時期は12歳とされているが、これはあくまでも一般的な基準であり、これよりも早く発現する子供もいれば遅く発現する子供もいる。
例えば、義義理碧子の能力が発現したのは10歳の頃であるし、ハリック・ジーナこと守谷仁奈の能力が発現したのは高校1年生、つまり15歳の頃である。
だが、能力は絶対に10歳未満では発現しないのだ。能力を発現させる薬品は効果に最低五年はかかるものであるし、何より脳が未成熟過ぎて能力を作るということもできない。
だが、リモデルチルドレンは違う。彼ら彼女らは自分の脳の一部を外科的な手術によって改造し、能力の発現のタイミングを7歳にずらしている。
そのため能力が有り得ないほど早く発現する。それはいい。だが問題は、手術の成功率である。僅か10%にも満たない。
そしてもう一つの問題が寿命だ。彼らは早すぎる能力の発現により感じはしないが脳に多大なダメージが来る。そのため20歳程度で脳が麻痺してしまうのだ。

「彼らは最近増加している。少しずつですが増えてきています。つまりリモデルチルドレンを作り出す組織が動き始めたようです……恐らくDHAがいなくなった事により活動が活性化したのでしょう」

「……なるほどねぇ。つまり雅ちゃんは私に引き取りの活動をもっと広げてと言いたい訳だ」

「その通りです」

「しかし……資金面は二人のお陰で問題はないんだが……どうにも人手不足が深刻でねぇ。私にしかできないこともあるし、子供達の負担もある」

雅の顔が少し沈む。
雅は孤児だった。正確には、黒髪の両親の間に生まれた雅は能力が発現した日に激しい拒絶を受けたのだ。雅の両親にとっては能力者は醜い嫉妬を向ける対象でしか無かった。そしてその嫉妬はいつしか暴力に変わり雅は虐待を受けるようになったのだ。
幸いだったのは両親が目立たない部位に傷を付けるなどの配慮をしなかったことだ。怪我が見つかり雅は両親と縁を切り、その後志穂乃と出会った。
だがもしも、仮に自分を引き取ったのがリモデルチルドレンを作り出している組織だったら、と考えると雅はとても他人事には思えなくなるのだ。
そんな組織に引き取られる位なら、志穂乃の元の方が何倍も良い。そう思っていた。
だが考えてみればそれは志穂乃の都合を考えない自分勝手な考えだったのだ。
そのことに気が付き、当然断られるだろうと思う雅。そして自分の虫の良い考えにも腹が立つ。
だが志穂乃の答えは雅の予想とは違っていた。

「分かった。引き取りの範囲を広げようじゃないか」

「……え?」

「え?じゃないよ。分かったって言ってるんだ」

「でも大変って……」

「雅ちゃん。雅ちゃんは子供達を助けたいんだろう?だからアタシにその話を持ち出した。つまりアタシを信頼してくれているって事だ。
……信頼してくれている子供の期待を裏切れるほど、アタシは賢くないのさ」









大見代久郎は帰路を走っていた。
久郎はあの場に留まれなかった。雅を話を最後まで聞くことはできなかった。
無理だったのだ。雅の話し方を、リモデルチルドレンの存在を否定しているように感じてしまったのだ。
無論雅に関してそんなことはないと分かっている。だが久郎は聞けなかった。あの場にいたら、自分は暴れてしまいそうだったから。
霞夏と二人で暮らしているアパートが見えてくる。二人暮らしをするには狭いし窮屈な広さのアパートだ。
階段を駆け上がり乱暴に扉を開けようとして、一度深呼吸をする久郎。こんなことで霞夏を怖がらせる訳にはいかない。と思っての行動だった。

「ただいま」

ゆっくりと扉を開けるとトタトタという足音と共に彼の相棒である霞夏が姿を現した。まだ風呂上がりなのか顔が少し赤い。
霞夏は抱えていたホワイトボードを久郎に見せる。そこには可愛らしい文字で『お帰りなさい』と書かれている。
それを見て少し安堵の表情を浮かべる久郎。
久郎が暴れてしまいそうだった理由。それは極めて単純な事だった。
彼の相棒の霞夏も、リモデルチルドレンだからだ。
彼女の能力は[透明を操る能力]自分と自分の触れているものを透明にしてしまう能力だ。時々だが情緒不安定になると周りのものを透明化させ始めるので久郎は何度かそれで痛い目を見ている。
今は13歳だが出会った当初、彼女は9歳だった。10歳未満の能力の発現。それだけでもリモデルチルドレンの証拠としては十分過ぎた。
久郎は今でも信じることができない。
目の前の豊かに表情を変える元気な少女の寿命は20歳程なのだと。
そんな久郎の少し憂いを帯びた表情に霞夏は『久郎さん、どうかした?』と記入したホワイトボードを見せる。
なんでもねェ。そう言うと同時に自分に言い聞かせた久郎は家の中に入って行った。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.236 )
日時: 2017/03/27 16:19
名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: rMeeZFi3)

第8章、十人十色の始まり方、エピローグ?





身が弾けたように鮮血が撒き散らされた。
背中から血が吹き出し、白かったブラウスが赤黒い色で染まる。

「ッ!」

その血の主である女子生徒は壮絶な表情と共に、声に成らない悲鳴をあげた。
逃げなければ。その言葉のみを頭の中に浮かべ、歯を食い縛って笑う膝を必死に動かし、裂けた肩口を抑えつつ壁に手を当てて歩く。
壊れかけの電灯が僅かな光を放つのみの、静まり返った薄暗い闇の中、出口を目指して一歩、また一歩と激痛と闘いながら踏み出す。
その速度は焦りとは反比例するように遅く、あくびが出るような速度だ。だが今の女子生徒はそれすらも認識できていなかった。
ーーーーそんな状態の人間が、後ろから迫り来る高速の『刃』を回避できる訳が無い。
血が噴き出す音と共に、盛大な噴水を打ち上げながら、女子生徒の腰に激痛が走った。
何が起こったかもわからず、何に攻撃されどのように傷つけられたか。それすらも知ることができないまま、あまりの激痛にたたらを踏んで床に倒れ込む女子生徒。倒れ込んだ際の衝撃が傷口に塩水を塗り込むように追い討ちをかける。

「ネェ、待ってよ……アハ」

その幼さの残る、女性の声が女子生徒の耳元で囁かれた。その声は無邪気な様で、歪んだ狂気を孕んでいた。
全身の身の毛のよだつような恐怖が女子生徒を襲う。反射で女子生徒が能力を使い、念動磁場によってその人物を吹き飛ばした。
吹き飛ばされた緑色の髪をした女子生徒は壁に激突する。が、意識が朦朧とする中で行使された能力の出力などたかが知れている。当然気絶させる威力も無く、その緑髪の女子生徒はすぐに起き上がり、血まみれの女子生徒に向かって、カマイタチのような『刃』を飛ばした。
再び、鮮血の噴水が上がる。鉄の臭いが鼻を突き刺し、吐き気を誘う臭いに変わる。
血まみれの女子生徒の意識の糸が切れた。あまりの激痛により意識が切れてしまったようだ。ピタリと電池の無くなった玩具のように動かない。
緑髪の女子生徒は満足げに口を三日月形に歪め、狂気的な光を瞳に灯して、笑った。

「私のお人形さんが、逃げちゃダメでしょ?」




第9章、リッパーガールと平等少女





あとがき

平子「えー、今回は割と短かったって訳ですよ」
風間「これが普通だ」
時雨「さて、今回の章だが役割は『7章の影響とそれによる変化』を描写する為だけの章だ。まあ7章の延長線上にある話ばかりだ」
平子「そして最後のは……まあ次の章への繋ぎです」
風間「平等少女も何も俺達の中で少女という時点で平子一択だな」
時雨「平子出番多すぎないか?」
平子「だってぇ!主人公の中の主人公は私なのに皆が平子の影薄くなった薄くなった言うって訳ですよぉ!時雨さんだって二章連続でメイン張ったし風間さんは六章で長々やったじゃないですかぁ!だったら私にも長々やる権利はあるって訳ですよぉ!」
時雨「風折なんてなかったんや」
風間「そういう事だから次回からもお楽しみに」

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.237 )
日時: 2017/04/01 00:28
名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: rMeeZFi3)

平野平子は歩いていた。
ツイてない。そう思い重いため息をつく平子。
彼女の自転車のギアチェーンが切れてしまった為に今日は徒歩で登校している。自転車で通学しているのだからそれなりの距離はある。当然ながらその道のりは徒歩で歩くのに倦怠感を覚える程度には長かった。
しかも今日は日直だ。早く行かなければならないが、自転車は使えない。よって早起きを強いられた平子はとても眠たそうな顔をしている。
突き当たりの曲がり角を曲がる。
が、平子が何かに当たってその進行を阻まれた。
それどころか押されて尻餅をつく平子。漸く寝ぼけた状態から徐々に意識の覚醒しつつある彼女は視界の片隅に1人の少女を捕らえた。
綺麗な金色の髪だった。緩く自然に巻かれた金髪は肩の下当たりまで伸ばされていた。
若干垂れた目は青緑色で、全体的にゆったりとした印象の顔立ちだ。
着ている青色のドレスも特徴的ではあるが、平子はそれよりも少女の履いているものが気になった。
ガラスの靴だ。かの有名な童話でも出てきた代物を彼女は履いていた。
しかしよく見ると履いているのは左足だけだった。そして右足の近くにガラスの靴が一つ転がっている。
咄嗟に落としたものだと判断した平子はサッとそれを広い上げる。

「落し物って訳ですよー!」

「ごめんなさい。私、急いでるの」

そしてそれを渡そうとするものの、少女は既に立ち上がり何処かへ行ってしまった。

「私、王子様じゃないって訳ですよ」

ため息混じりのセリフを言いつつガラスの靴を見る平子。どうやら本当にガラスでできているらしい。
どうしようかとその場で止まって考える平子。交番に預けるべきか、自分が持っておくべきか、それともここに置いていくか。
平子は悩んだ結果自分で持っておく事にした。そもそも平子に交番に行く時間はない。
気を取り直して歩き始めた平子が、ふと何かを感じて後ろを見た。
すると、黒いスーツに黒いサングラスと黒づくめの服装をした2、3人の男がこちらに向かって走ってきていた。
その視線は、明らかに平子に向いている。

「ちょっと待ってって訳ですよぉ!」

平子が駆け出すとその男達は平子を追いかけ始めた。自分が追われていることに漸く自覚が持てた平子は全力で逃走を始めた。

「今日はツイてないって訳ですよぉぉぉ!」

その一言を叫んでから。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55