二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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モンスターハンターX【a RevengeTrage】
日時: 2017/02/10 15:56
名前: 敷島クルル (ID: p6ulpWex)

〜〜物語紹介〜〜

【プロローグ】

狩猟都市ドンドルマで酒場【ガルフレッド】に務めているアオト=フリーデ、そしてその幼馴染のサクラ=フリーデには両親がおらず、幼い頃拾ってもらった【ガルフレッド】のマスターの手伝いをすることで日々を生活していた。
元ハンターのマスターが営む【ガルフレッド】は入り組んだ路地に店を構えており、毎夜マスターとの話目当てで来るハンターによって店は大繁盛していた。
ある日、いつものように店の手伝いをしていたアオト、サクラ。店に来客を告げる鐘が鳴る。
白い服、帽子を携えた男は密猟グループ【シックバザル】。
店の退去を命じる帽子の男。
そして現れる【シックバザル】を追う不思議な男女。

それは——クロスへと繋がるプロローグ。
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【一章邂逅】

【シックバザル】を追うミナト=カイムと少女ナナは、ドンドルマの【シックバザル】幹部から、龍歴院に拠点があることを聞き出す。
ポッケ村でネコートと呼ばれるギルド特殊管理職のアイルーに命じられ、龍歴院へ内部捜索を行うことになり、ドンドルマを経由する飛行船へと乗ることになった。
時を同じくして、若くしてギルドナイトの職に就いている少女、シュート=フィン=ウィングはここ最近の【シックバザル】の被害が激減していることに気付き自ら調査に赴く。
限られた情報から、龍歴院へ調査することを決意し、カイム、ナナと同じ飛行船へと搭乗する。
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二章【青き英雄】←執筆中!!
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【重要!!】
・この作品では常時、読者からの要望を募集しています。
出て欲しいモンスターやキャラクター、このキャラとこのキャラを絡ませて!このキャラ達でこんなクエスト行ってみて!
等々、自分に書けるものであれば積極的に書きたいと思っております、ますは気楽に書き込みを下さい。

・またページリンクを目次に設けてあるので、そちらから話に飛んでいただけると、快適に読むことが出来ます。
そのまま1ページから読んでしまうと、途中から外伝などの話が挟まってしまうので、混乱を招く一因となっております。
何卒この目次からのリンクから飛んでいただけることをよろしくお願いします。




【リクエストしてくださった方】
・脱穀さん
・にゃん太さん


【来ていただいたお客様】

・にゃん太さん
・脱穀さん
・風死さん




脱穀さんからのリクエスト作品
【リベトラ読者企画】ルカ、古代林にて
>>83
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にゃん太さんからのリクエスト作品
【リベトラ読者企画】エピソードナナ
>>90-91
>>93-94
>>117
>>119-125
>>127
>>129
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一章【邂逅】 ( No.43 )
日時: 2015/12/09 17:01
名前: 敷島クルル (ID: QRmoI/Ul)

「ほらほら!【ガルフレッド】ってお店のマスターが沢山お土産くれたんだ!ほい!ドスマタタビ酒!」
「ニャに!?それは通常のマタタビ酒よりも上質でマタタビが豊作の時にしか作れないというあの!」
「まだまだあるよー、マタタビゼリーにマタタビプリン!」
「…ふむふむ!よくやったニャ!…、ごほん、良くやったナナ、後で褒美をやろう。」

ネコート様、彼女がアイルー特有の語尾を発するときは彼女自身が興奮や驚愕をしたときだ。
普段は滅多なことではないのだが、ナナとは色んな気が合うようで、任務先でのお土産をナナが渡すとたびたび彼女の変わった一面が見られる。

「…、さて、話の途中だったな。」

再び咳払いをしてこちらを見据える。
しかし髭が嬉しそうに上下しているのは見なかったことにしておこう。

「カイム、ナナを龍歴院所属志望のハンターとしてわたくしからベルナ村村長へと推薦しておこう。」
「ほい!龍歴院ね!分かったよ。」
「は。」

…、龍歴院所属のハンター。
言われた事柄を頭で整理してると「はい!」とナナが手を上げる。

「龍歴院ってなに?ネコートさん。」
「…。」
「すみませんネコート様、自分から後で言い聞かしておきます。」
「いやいい、丁度カイムにも伝えなければならない事もある。」
「はっ。」

ネコート様が席を外し、机から地図を持ってきて床に広げる、大陸図だ。

「そもそもベルナ村からポッケ村は地理的にはさして離れていない。」
「へぇー。」
「しかしフラヒヤ山脈が隔てるように連なっているため、移動は飛行船で迂回することとなる。」

棒が地図をつつつ、となぞる。

「龍歴院はここだ、ベルナ村のほとんど隣に位置する。」
「で、ここはなにするとこなの?」
「それを今から説明する。」
「はい!」

「龍歴院とは各地に生息する生物の生態調査や環境の確認、新たなモンスターの観察や未だ開かれていないフィールドの探索が主な仕事だ。」
「うぅん、にーさん、あとで詳しく教えて。」

隣の阿呆に拳骨を食らわす。
短い悲鳴を上げてネコート様の話をしぶしぶ聞く体制になる。

「大体は学者や博士で構成されている為、護衛となるハンターを良く募集している、それを利用してお主達には便宜上ハンターとして潜ってもらう。」
「…。」
「ハンターとなるための試験はパスできるようにわたくしの方から告げておく、それと最近龍歴院の動きが慌ただしい。」
「…、危惧すべきでしょうか?」
「ふむ、するに越したことは無いな、なんでも龍歴院付近のとある空域を通過する飛行船が謎の消失が繰り返されている。」
「…。」
「また募集ハンターの急募、施設の拡大、それは良いことなんだがな、【シックバザル】の者が龍歴院に潜んでいるとなると何が起こるか分からん、慎重にな。」
「はっ。」

事態は把握した。
ハンターとしての潜入任務、そこに潜む【シックバザル】の壊滅。

「お主達の、ハンターとしての道具もわたくしから手配させよう。」
「ありがとうございます。」
「どうだ?カイム、このままハンターになってみては。」
「…、お戯れを、お断りします。」
「一応わたくしはギルドの要人だからな、今の言葉で傷ついたことにしておこう。」
「…。」

自分はハンターの器ではない。
多数の人の血で汚れたこの手が、自然と人間の生活の調律などという大義を果たす資格など到底ない。

「丁度飛行船の出発は明後日だ、しばらくこの村で休まれよ。」
「ありがとうございます。」
「あ、話終わったみたいだね。って痛い!いたたたた!!耳もげる!」

ナナを連れて部屋を出、一礼して閉める。

部屋に入る時より景色が変わったことに気が付き、振り返る。
遠くの山脈から朝の陽ざしが差し込み、人の生活の始まりを告げた。

一章【邂逅】 ( No.44 )
日時: 2015/12/10 19:35
名前: 敷島クルル (ID: QRmoI/Ul)

成人男性の背丈を遥かに超える本棚に囲まれた一室。
赤い絨毯が敷かれ、部屋の壁にはハンターズギルドの紋様が刻まれた装飾が施されており、部屋の角に備え付けられてある蝋燭の明かりがそれを際立たせて影を浮かべ上がらせている。
そして入口には儀礼用の甲冑、その横には主が着るであろう防具。

ハンターズギルド、それも極めて高位のものしか付けられないと言われる、人類の敵、黒い龍の紋が記されており、ここがギルドナイトが生活をする一室ということを物語っている。
しかし奇妙なのはその防具、薄い埃を被っており、誇り高きギルドナイトなら欠かさないであろう防具の手入れを少なくともしていない様子である。

部屋の中央で筆を走らせている人物。
机には山のような資料が溜まり、なかなかその山は切り崩せない。

やがて筆が止まる。




「ったく誰よこんな面倒事起こしたアホは。」




成人前の女性————、だろうか。
少なくとも声は幼女ほどの幼さはないが熟年の女性ほどの滲み出る深さは見受けられない。


コンコン、と扉からノックの音。
机の女性はその音を無視しようか逡巡するも「どうぞ。」と返事をする。
かなり不機嫌そうだ。

「書類が届きました。」
「はぁっ!?まだ増えるのこれ!」
「…申し訳ありません。」

自分は届けに来てくれと命令されただけなのに…と何故か怒られた世の理不尽を感じながらも、不満を表に出すことは躊躇われた。
それは目の前の人物が自分よりはるか上に位置する人間だからなのは、彼の物腰の低さから容易に感じ取れる。

「あーいーよ、それ置いてさっさと出てって。」
「はっ、……。」

「なによ、まだ何かあんの?」
「それが…。」

中々要件を切り出さない若年のギルド職員にイラつきながらも言葉が続くのを待つ。

「シュート様には現地へ赴いて調査をして欲しいとの通告でした…。」
「………は?」

いよいよ拳が飛んでくるか、と若い職員は目を瞑る。
しかしいくら経っても痛みが身体を走ることはない。

「やっと書類地獄から解放されるのね!ラッキー!明日までには戻ってくるから!」
「えっ!?あの!そこの書類の提出期限は今夜まで……——

言葉を全て言い終わる前に、少女は部屋を突風のように駆けて行った。

彼女の名はシュート=フィン=ウィング。
狩猟都市ドンドルマに12人しか居ないギルドナイト、その中の一人である。

一章【邂逅】 ( No.45 )
日時: 2015/12/11 23:26
名前: 敷島クルル (ID: QRmoI/Ul)

見てくれガリヒョロのウチの職員が追いかけてきて地図を渡しに来たけど無視。

私服のまま詰所を出て何人かの職員が目を丸くしてるのが見えたけどあたしの顔を見た途端納得したかのようにそれぞれ持ち場に戻っていく。
そのままドンドルマへ。

太陽は多少傾いてはいるがまだまだお昼時。
仕事をこなす猶予はまだ余裕にある。

久しぶりの下町の空気を思いっきり吸う。

「ぅん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」

思い切り伸びる。
ここ連日資料に追われていたお蔭で部屋に缶詰にされていた鬱憤を晴らすかのような深呼吸とあくび。

これ。

これが無いとやってられない。
何が悲しくて年端もいかない花も恥じらういたいけな少女があのようなかび臭い部屋で延々と書類とにらめっこしなければならないのだろう。
理不尽だ、不公平だ。

もうずっとこういった現地での調査でいい、部屋に行きたくない、文字嫌い、身体動かしたい。

「さて、と。」

脳内で下町の地図を思い浮かべる。
私のちょっとした得意技で、記憶した景色を第三者目線、芸事で言うといわゆる俯瞰が私は長けている。
舞台俳優やパフォーマンスをする人間は、自分が舞台のどこを立っているかを役に集中しながらもう一人の自分が見ているというが、私の場合は少し範囲が広い。

「なによ、大分近いわね。」

距離にして1キロあるかないか。
しかし直線距離で1キロであり、入り組んだ路地を含めれば体感はその半分以上だろう。

そこまで走ってもいいけど、別に急ぐ必要はない。

ここは下町の味覚を堪能しましょ。

商店街へと入り、昼飯を探す。

「ん!サクラージャンボのパイ!ヤマツカミルクのホイップクリームのクレープ!!」

目当ての、いや、目当て以上のものを早速デザートを取り扱っている店で発見する。
即座に購入。

私はお金を出し、店の外へ。
店主がお釣りを渡そうとしたけどそれを無視、早くこれを食べさせて頂戴。

形さまざまな雲をぼんやりと見つめながらパイをほおる。
…。

素晴らしい。

ラージャンのような雷模様が入った極デカ一粒のサクランボからはじけるような果汁が溢れる。
詰所の中では決して味わえない酸味に舌が震える。

わたしはいよいよ本命の果実の中心をほお張ろうと。









「あぁーーーーーーっ!!そこの人!!危ない!!」






「ん?————ちょっ!まっ!」





突然の叫び声、しかも標的がわたし。
一瞬パニックになるが、それも一瞬、状況判断。

飛んできているのは片手で持てるほどの袋。
中に何が入ってるかは分からないけどさっきの男の声からするに重いものか鋭いものが袋に入っている可能性がある。

袋の手提げは幸いとりやすい位置にある。

そして私に直撃する直前の手提げの位置を計算、うん。





「—————よっと。」






難なく両手でキャッチ。

…、思ったより軽いわね、何が入ってるのかしら。







「あっ!ダメ!!見ないで!見ないでください!」


突然の懇願の声、女の子だ。
声に従い、顔をそっちに向ける。


「貴女の?気を付けてね?」
「はいっ!!あのっ、ごめんなさい!!」
「僕からも謝ります!こいつを監視してなかった僕の責任です!ごめんなさい!」
「私はお前のなんだ!」


急に漫才かコントかが始まる。
正直興味のないそれを見てその場を立ち去ろうとする。


「あ、あのぅ。」


申し訳なさそうな男の声。
まだ何か用事があるのか、振り返る。

薄い蒼色の髪の男と、それと同じような明るさの桜色の髪の毛の女。
2人とも同じ年齢のように見える。


「なに?」

「その、服に…。」

「え?」

身体を、同じ一点を凝視している2人。
一体なんだというのだ。

「服がなによ。」

「パイが服に。」


…、ここでようやく事態を理解する。
片手で持っていたパイを放っといて袋を両手で掴んだのだ。
パイがあらぬ方向に飛んでいくのは自然の道理だ。

しかしそれを許せないのが人間というものだろうか。
私の怒りの沸点はすでに越し、目の前の2人に発散される。


「ちょおっと!どうしてくれんのよ!このパイ最後の1個だったのよ!!」
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
「ごめんなさいで済むならね!ギルドナイトはいらないのよ!」
「はいぃ!!ごめんなさい!」


男の胸倉をつかんで揺らす。
「あー」「うー」とか情けない声を出しながら私の暴力を受け入れている。


「あ!そうだ!ねえ貴女!お詫びとして私たちのお店に招待します!」

手を止める。

「なによ、あんた達どっかの従業員?サービスしてくれんの?」

私の声に、何かアイコンタクトを取る。
悪巧みは感じない、純粋な善意。
やがて人懐っこい笑顔を振りまき、女の子が答える。

「私たち、店を営んでいるんです、どうか、お詫びさせてください!」

一章【邂逅】 ( No.46 )
日時: 2015/12/12 04:56
名前: 敷島クルル (ID: QRmoI/Ul)

特に時間を急ぐわけでもない私はこの2人。
アオト、サクラと名乗る男女が営むという店【ガルフレッド】という、下町の更に奥。
事件でも起きない限り立ち入ることはないエリアに構える酒場に招待された。

「へぇ、下町にはこういった店があるのね…。」

店に入って鼻孔を突いたのはまず酒の臭い、それとキッチンから漂ってくる多種多様の香辛料の香りだった。
装飾品は無駄がないが、華やかでもない、といった印象。
いつもの詰所に比べれば質素と思う人間もいるかもしれないが私はこういった方が落ち着く。
とりあえず促されるままカウンター席に座り、サクラが何か作っているのを待つ。

「はい!パリアプリアプリンです!どうぞ!」

出されたそれの大きさにまず驚く。
バケツに入ったプリンをそのままひっくり返したんじゃないかと2度見するほどの大きさ。
しかしボリュームからくるインパクトとは裏腹に表面の質感、外見から察する弾力は食事会で出されるシェフが作ったデザートよりも魅力的に見える。

「…あの、ご招待しておいてなんなんですが…、食べきれなかったら残していいですよそれ。」

店内の装飾品の位置の確認をしていたアオトが困り顔でこちらに告げる。

「サクラの今度店で出そうかと考えている実験作なんですが…量が多いですよね…。」
「何を言ってるの!私くらいの目になればね!目の前にいる人間が腹を透かしてるか、そしてその人の好みが何かくらい分かるのよ!そして私の計算ではこの人はかなり食える…人間だッ!」

ドヤ顔を亭主にさらしているサクラを自分でも驚くほど冷めた心境で見つめている。
しかしその眼力は確かなもので、サクラ、彼女は私がスイーツに目が無いこと、そして良く食べることを見抜いていた。

「じゃ、じゃあいただきます。」

目をキラキラして覗くサクラ、それを心配そうに覗くアオト。
スプーンを手に取り、直径30センチはあろう金冠サイズのプリンへと接触させる。

————ッッ!!

「やっ、柔らかい!!」

本当に掬っているのか、スプーンに支えを失い蠱惑的に揺れているこの物体にこの世の物理法則が機能しているか思わず不安になるかのような錯覚。
それほど柔らかく、重みを感じない。

「ふっふっふ、そうでしょうお客さん、そのパリアプリアプリンはかの有名な……———ってもう食べてるーーー!!」
「サクラがツッコミなんて珍しいね。」


朝から何も食べていない私にこのプリンは刺激的すぎる。
何度口にスプーンを運んでも飽きを感じさせず、甘味による倦怠感も絶妙な調節で抑えている。


「———ッ!!サ、サクラ!これは!!」

スプーンがプリン内部で何かに当たる、それをそのまま取り出すと、これはまたとろみがかかっているカラメル、そしてそれに絡まる多種多様な果物がこれでもか、と発掘される。


「パリアプリアプリン…、飛竜パリアプリアと同じく粘膜に似た表面に覆われた身をほぐしていくと、胃液をイメージしたカラメル、そしてそれにくるまれた内容物をイメージして作ったわ!!」
「サクラさん、その制作テーマを聞くと食欲が無くなる気がするのと、中に入ってる果物は昨日の余り物ですよね、再利用ですかそれ。」


食べるのに夢中でサクラとアオトが何を言っていたか分からないが、何故かアオトがサクラに綺麗な体捌きで脚技を喰らっていた。










「おや、お客さんかい、ようこそ【ガルフレッド】へ。」
「「あ、マスター。」」


すぐ近くの通路から声、聞こえた場所から察するに地下への階段から妙齢の男性の声が聞こえた。


「まぁ若い店主達の相談相手になってください。」


整えられた髭を揺らし、マスターと呼ばれた男性は通路から現れる。

「…。」

見事な体格だ。
ギルドナイトに就任してからハンターの指揮を執ったことは何度かあるが、これほど鍛えられた体躯は久しく見たことが無かった。
そして声音からは柔和な印象だが、彼の目線の運び方、身体の運びは、数多くの死線を潜り抜けた戦士のそれが伺えた。


「…、失礼、あの、マスター。」
「ん?なんでしょう。」


気付けば釘づけになっていた。
それほどの気迫を持ちながら、何故。


「つまらない事を聞いてもいい?」
「あぁどうぞ、最近は毎日がつまらないからな、一つや二つ増えても構わないよ。」


「貴方のその腕、誰にやられたのかしら、詳しく聞いてみてもいいかしら?」

一章【邂逅】 ( No.47 )
日時: 2015/12/12 16:26
名前: 敷島クルル (ID: QRmoI/Ul)

「ふむ。」

私を見る目が変わる、深く身体が食い込むような視線。
戦いに身を置くものが敵の情報を整理する目だ。

数秒、されど数秒この場の時間は彼に完全に支配された。

「…、質問を聞き返すようで悪いが、嬢ちゃん、あんた何者だ?」

未だ解かれぬ警戒の目、目の前の思いがけない気迫の壁にわずかに指先が震える。
だけど私だってこなしてきた仕事や任務の数なら負けないし、誇りがある。
負けじと下っ腹に力を込める。

「ドンドルマでギルドナイトをやっているわ、ある事件を調査している。」

———、アオトとサクラの動きが変わる。
今まで傍観に徹していた彼らだったが、今この瞬間、私の言葉を皮切りに雰囲気、が変わった。
あまり心地の良いものではない。

「それとこの腕については何の関係がある?」
「単なる勘よ、事件と直接的な証拠はないけれど、確実に、何か繋がっているわ。」

確信をもって言える。
度重なるドントルマ南区域にての暴力事件、窃盗の急減。
ここ最近の南区域での暴力沙汰、そして目の前の。

私よりも遥か高みに存在しているといっても過言ではない妙齢の男。
そこらの人間相手では確実に相手にならないであろう彼が不自然に折られている、包帯を巻いた両腕。

時間が流れる。

下手な動きをすれば、今この瞬間にでも白兵戦になってもおかしくない緊張感。


「…、嬢ちゃん、悪かったな。ほらお前らも引っ込め。」
「マスター!でもギルドナイトって!」

サクラがマスターに訴えているのを手で制するアオト。

「サクラ、マスターの意図を汲め、マスターは彼女を信じた。」
「……ッ!」

私が声をかける暇もなく、階段通路へと髪を乱しながらサクラが消える。
彼らの事情は知らないが、ギルドの関係者が下町の人間から疎まれることはあまり珍しいことではない。
ちくり、と胸にかすかな痛みを覚えながらも視線をマスターへと戻す。

「この腕は少し事情が入り組んでいて、話せない部分が多いが、それでもいいかい?嬢ちゃん。」
「えぇ、ありがとう、助かるわ。」


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