結ばれぬ2人 作者/白牙 ◆tr.t4dJfuU

0 o °〇 †第1日目 暑い日のこと † ○ ゜o



外ではセミたちが合唱をしている。

今は6月。普通ならばとっくに入梅しているはずだが、まだ雨は降らない。

「暑い……」

少々古びた家の縁側に座っている少女はつぶやいた。

少女の名は、藤鷹 美沙姫。

風を司る、藤鷹一族の16代目である。

「暑い……が、入梅すれば湿気が上がる。かといって……」

ひとり言のようにそんな事を言いながら、美沙姫はガラスのコップに注がれた麦茶を飲み干した。

「もう1杯……。なっ!!?」

麦茶を淹れに行こうと立ち上がった美沙姫の頬を、何かがかすった。

ドスッと音を立て、壁に刺さったのは矢文だ。

「誰からだ……? こんな物騒な……」

美沙姫は壁から矢を引き抜くと、手紙を外し、読んだ。
         
「本日5時30分、燈霊山へお越しください。その際、剣と胴着を着る事をお忘れなく……」

果たし状のようなその内容に、美沙姫は首をかしげた。

「まぁいい。行ってやろうではないか!」

そしてこれから、悲しく切ない宿命と恋の物語が始まる。



0 o °〇 †第2日目 竜一† ○ ゜ o 0



「燈霊山か……」

燈霊山は村の外れにある大きな山だ。

頂上は野原のようになっており、杉の木が一本生えているだけ。

だが、そこからの眺めは良く、観光スポットとしても名を響かせている。

「よし、行くか……」

帯を固く締め、剣を腰の鞘にしまうと、美沙姫は草履を履き、燈霊山へと向かった。

***

「あと少し……」

美沙姫が一歩踏み出す度に、茂みに隠れていた鳥達がバサバサと飛び立った。

「雲行きが……怪しくなってきたな」

美沙姫がふと、空を見上げると、西の方角に灰色の雲が見える。

今日は久しぶりに雨が降りそうだ。

「これで少しは涼しくなるぞ……良かった良かった」

美沙姫は微笑んだ。

暑がりの美沙姫にとって、雨は大変嬉しいものなのだ。

***

「誰も居ないではないか……」

頂上へ着いたものの、そこには人一人居ない。

「もしかしてあの武蔵と小五郎の巌流島の決戦のように私を待たせておいて……」

美沙姫は昔聞いた話を思い出した。

「やぁ~っと来たかぁ……」

後ろから低い、男の声が聞こえた。

「誰だ!」

美沙姫が振り返った瞬間、人影のようなものが目に見えない程の速さで動いた。

「後ろにも気を付けな……藤鷹の娘よ……」

「なっ……いつの間に!?」

突然美沙姫の後ろに、黒髪の男が現れた。

「俺が火駕の竜一。火を司る火駕一族の16代目。娘、お前は名を何という……?」

「私は……藤鷹 美沙姫。風を司る藤鷹一族の16代目よ」

いきなり現れた竜一の威圧感や素早さにも動じず、美沙姫は言った。

「美沙姫……お前が俺の相手……か」

「えぇ、それでは……」

2人はニヤリと笑った。

「「いざ、尋常に勝負っっ!!!」」