結ばれぬ2人 作者/白牙 ◆tr.t4dJfuU

0 o °〇 †第3日目 戦い† ○ ゜ o 0
金属同士のぶつかり合う音が響く。
「なかなかやるな……」
「そっちこそ!」
美沙姫と竜一はにらみ合う。
だが、その口元には笑みが浮かんでいた。
「俺の剣……火炎結翔はただ重いだけじゃない。烈火の如く敵を追い込み……一気に倒す!」
竜一は勢い良く剣を振り上げ、それと同時に飛び上がった。
「そうか……私の剣、風鈴丸も軽く、鈴がついているだけではない。素早い動きができ、この鈴は……」
美沙姫も高く跳んだ。
次の瞬間、美沙姫の姿が、消えた。
「なっ……?」
竜一は周りを見た。だが、美沙姫の姿は無い。
「消えた……?」
竜一は地面へと降り立った。
その1秒後、リンという、鈴の音が聞こえた。
「そっちかぁぁぁ!!」
竜一は剣を持ち直し、音の聞こえた方へと走り出す。
「甘いな……」
後ろから、少女の声が聞こえた。
「何だと!? ……いつの間に!?」
竜一が振り返ると、美沙姫が剣を構えていた。
「藤鷹流奥義……旋風かまいたち切りっっ!!!」
美沙姫がそう叫んだ瞬間、竜一の身体に痺れるような痛みが走った。
「何っ……これ……は?」
気がついたときにはもう遅かった。
竜一の身体には無数の切り傷があり、そこから真っ赤な鮮血がとめどなく流れ出ていた。
「う……ぐっは……ぁ……」
どしゃっと音を立て、竜一はばったりと倒れこんだ。
「動くな、傷口が広がるぞ。お前の……負けだ」
美沙姫はそう言い放つと、先程来た道を引き返して行った。
0 o °〇 †第4日目 救助† ○ ゜ o 0
先程よりも雲は近づき、ポツポツと雨を降らしている。
「降って来たな……急ごう」
美沙姫は走って山を降りた。
水が跳ね、胴着を茶色の水が濡らした。
次第に雨は強まり、村中を灰色の雲が包んだ。
「やっと着いた……」
美沙姫は急いで家へと入った。
その時、美沙姫の脳裏に竜一の姿が浮かんだ。
「あいつ……この雨の中だ……もう……」
放っておこうと思ったが、あの場所では誰にも発見されない可能性もある。
それを考えると、放っておくことなどできなかった。
美沙姫は傘を掴むと、再び雨の中、外へと駆け出していった。
***
「おぉ~い! 竜一! どこだっ、返事をしろぉぉお!」
美沙姫は大声で叫んだ。だが一向に返事は返ってこない。
「どこだ……。あ! 竜一っ!」
頂上の杉の木の下で、竜一は寝転がっていた。
流れ出た血が、竜一の周りを染めている。
「その声……美沙姫……殿……か?」
「竜一! 生きていたか! 歩けるか? 手を貸そう」
美沙姫は手を差し出したが、竜一はその手を取ることはなく、自らの力で立ち上がろうとした。
「大丈夫だ……っく!!」
だが、立とうとした時、竜一の身体に再び痺れるような痛みが走る。
「無理だ! やめておけ! 傷がっ……!」
がくり、と竜一は倒れた。
「しょうがない……竜一! 捕まれ!」
***
美沙姫は、竜一を背負ったままの下山を試みた。
途中で何度か転んだものの、やっとのことで麓まで着くことができた。
その時にはもう、美沙姫も竜一も泥まみれになっていた。
「疲れた……それじゃ、私の家まで……」
美沙姫は再び自宅へと歩みを進めた。
その時竜一は、美沙姫の背中で心地よさそうに眠っていた。

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