結ばれぬ2人 作者/白牙 ◆tr.t4dJfuU

0 o °〇 †第5日目 印† ○ ゜ o 0
「ふぅ~……」
美沙姫は小さな溜め息を吐いた。
あれから急いで家に入り、竜一を寝かせるための布団を敷き、そこに竜一を寝かせるという、単純だがとても辛い事をやっていたのだ。
着替えて、今、こうして落ち着ける時間ができるまで1時間位かかっただろうか。
だが、そんな美沙姫の苦労を知ることもなく、当の竜一は幸せそうに眠っている。
「ったく……こいつは……」
美沙姫は呆れた目で竜一を見た。
「これは……」
美沙姫の目に、竜一の右手の甲の印が止まった。
蜥蜴をかたどった5cm位の印。
「宿命……か」
美沙姫は再び大きな溜め息を吐いた。
藤鷹一族と火駕一族の因縁の上に成り立つ宿命。
それは両一族の利き手に刻まれる。
藤鷹一族は手首に鷹の印が、火駕一族は手の甲に蜥蜴の印が刻まれているのだ。
そしてその印は、両一族の者同士が結ばれることを許さない。
そんなことがあれば、魂をどんどん削り取っていく。
宿命は藤鷹一族と火駕一族の同じ代の者同士が、殺しあうというもの。
勝った者からは印が消え、宿命から解放される。
一族の者はそれを夢見て、戦ってきたのだ。
「嫌な宿命……だな」
美沙姫は右手首の印を見つめた。
「こいつと……殺しあう……のか」
0 o °〇 †第6日目 握手† ○ ゜ o 0
「う……う~ん……」
むくり、と竜一は起き上がった。
「お、起きたか」
美沙姫は竜一の顔を覗き込んだ。
「あ……あ~、美沙姫殿……ここは?」
「ここは私の家だ。それより、美沙姫殿なんてやめてくれ。美沙姫、でいいぞ」
美沙姫は殿を少し強調して言った。
「あぁ、美沙姫。ん……もう怪我が治って……」
竜一の身体からは、痛みなどはすっかり消えていた。
「我が藤鷹一族秘伝の痛み止めを塗っておいたからな。あれ位の怪我、1分でもあればすぐに治る」
美沙姫の手には黄色を帯びた液体の入っている瓶が握られていた。
「ほぉ……すごいな。どうやって作っているんだ?」
竜一は瓶に顔を近づけ、まじまじと薬を見つめた。
「ドクダミ、ハコベラ、月見草などを三日三晩乾燥させ、そして……」
「そして?」
美沙姫は後ろの棚に置かれている救急箱を手に取った。
「ここからは秘密だ」
「だぁっ! 秘密なのかよ!」
美沙姫は薬を大事そうに救急箱の中にしまった。
こんな漫才のようなことを繰り返しているうちに、日は暮れていった。
「それじゃぁ、世話になったな」
「ふふん、お前が家の敷地から出たら、晴れて我々は敵同士だ」
美沙姫はわざと鼻で笑ってみせた。
「そうだな、またいつか戦おうか」
「あぁ、その時はその怪我、治しておけよ」
美沙姫と竜一は握手を交わした。
しばし見つめ合った後、竜一は帰路に着いた。
竜一は、美沙姫の家に居た時も、今もあえてなぜ自分を助けたのかということは聞かなかった。

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