結ばれぬ2人 作者/白牙 ◆tr.t4dJfuU

0 o °〇†第9日目 2度目の勝負† ○ ゜ o 0



「どうかした……のか?」

竜一が心配そうな顔をして美沙姫を見た。

「いっ……いや! でもない……! はそろそろ帰るぞ!!」

美沙姫は部屋から出ようとした。だが、竜一がその腕を掴んだ。

「待て、帰る前に一戦交えてもらえないか?」

「え……。別にいいが……」

***

「ここが……我ら火駕一族が代々身体、技、精神を鍛えるのに使う訓練場です。ここで我らが両一族の命運を決めるのに使われるのは嬉しきことです……」

少し年老いた、落ち着いた雰囲気の女性が言った。

「あの人は火駕 真知。火駕一族15代目であり、俺の母親だ」

「あの方が……」

美沙姫は真知を少々きつい目で見た。

真知は、美沙姫の両親を殺めた張本人である。

だが、そんな事気にも留めていないのか真知は笑顔だ。

「それでは、この勝負の審判、及び証人として私も立ち合わせていただきます。それでは、双方どちらがやられても悔いのないよう! それでは、勝負!!」

真知の合図で、美沙姫と竜一はほぼ同時に駆け出した。

今回はどちらも本気らしく、燈霊山での戦いよりもスピード・攻撃回数などが格段に上がっている。

「やぁぁあ!!」

「くっ!」

竜一の攻撃を、美沙姫は見事に防いだ。

だが、力は竜一の方が当然上だ。どんどん美沙姫は竜一に押され、後ろへと下がっていく。

「っやぁぁぁああ!!」

間一髪、美沙姫は竜一の剣を跳ね返した。

力では敵わないと悟ったのだろう。走っては剣を振り、再び走っては剣を振るというスピード勝負へと出た。

「早いっ……!」

竜一は驚きの声を漏らした。

流石の竜一でも、美沙姫の素早い動きにはついていけない。

「今だっ! 藤鷹流奥義! 疾風夢幻斬っ!!」

美沙姫がそう言い放った瞬間、風鈴丸は上へと投げ出された。

「何だ……?あれは……!」

竜一の視線の先には、美沙姫の手と風鈴丸の間を追っていた。

灯されている火から放たれる光を浴びて煌く、糸。

それで美沙姫は空中の風鈴丸を操っているのだ。

「このっ……これでは手を確実に追っていかないと……!」

だが、風鈴丸は容赦なく四方八方から竜一に襲い掛かる。

「今まで手先の器用さでは誰にも負けたことがないのでな! 昔からそろばん裁縫と指を使うことばかりやってきた! それ故にこの技は私の必殺技! この技を見て生きて帰れた者など1人も居ない!」

美沙姫は言い放った。

その間も、風鈴丸は竜一を攻撃する。

「っく……! ぐあああぁぁぁああ!!」

風鈴丸が、竜一の肩に突き刺さった。

「竜一!」

真知が竜一に急いで駆け寄った。

いくら一族の宿命でも、実の息子がやられるのは見ていられなかったのだろう。

「美沙姫さん……。すいませんがこの勝負、次に持ち越させてください」

「……はい、かまいません。竜一さんも、まだ怪我は完治していないようですし」

竜一の肩には、まだ包帯が巻かれていた。

無理をして美沙姫と戦っていたのだ。

「それでは、私はこれにて……」

「はい、本当にすいません。貴方達! 美沙姫さんを、お見送りしなさい!」

真知は竜一を抱きかかえると、門番達に命令した。

「はっ!」

門番はそれに従い、美沙姫を出口まで案内する。

(竜一……)

美沙姫の胸は再び高鳴り始めていた。

一族の宿命のことも忘れて。



0 o °〇†第10日目 涙† ○ ゜ o 0



ガラリと自宅の玄関の扉を開けた。

美沙姫は送ってくれた門番にお礼を言うと、家に入る。

「竜一……っ」

帰り道にはおさまっていた胸の高鳴りが、再び起こる。

「ダメ……ダメだ! こんな事を……望んではっ!!」

美沙姫は必死で自分に言い聞かせた。

だが、胸の高鳴りはおさまる所か締め付けられるような痛みに変わっていく。

「やっ……だぁ……! ダメ……!」

美沙姫の大きな茶色の瞳から、大粒の涙が次々と流れ出す。

まだ会って1週間位なのに、美沙姫は竜一の事を好きになってしまっていた。

「うぅ~……。っくぅぅう……ひっ……」

美沙姫はしゃくりを上げた。

そしてそれは大きな泣き声へと変わった。

「うわああぁぁん!! 竜一っ! 何なんだぁあ! うわあああん!!」

美沙姫は泣いた。大きな泣き声を上げて。

今まで誰かに負けた時も怪我をした時も病気にかかって医者にもしかしたら命は無いかもしれないと言われた時も泣かなかったのに。

まるで、今まで溜めていた涙が一気に溢れ出したかのようだった。