結ばれぬ2人 作者/白牙 ◆tr.t4dJfuU

0 o °〇†第29日目 楼の言葉†〇°o 0
「美沙姫……それは何?」
「え……」
門から出た所で、むっつりとした顔の楼が立っていた。
楼の目は、真っ直ぐに雑草の方を向いている。
「あ~……んと……それが……」
美沙姫は楼と竜二に竜一の部屋であったことを話した。
全て正直に。
「ふ~ん……。よし、奪うのよ! その綺羅とかいう女から竜一を奪うの!!」
「へぇ!!?」
楼は時折、出すぎたり無茶なことを言ったりする面もあり、美沙姫もそれをよく知っていたが、今回のは流石に驚いてしまった。
なんといっても綺羅は竜一と正式に婚約をした仲だ。
無断で綺羅から竜一を取る事など、到底できない。
「初恋なんでしょ! 無駄にしてもいいの!? 嫌でしょ?」
「う……」
楼の言うことはもっともだ。
だが、今の美沙姫にはなぜか頷くことはできなかった。
「ゴメン……今日はもう帰る」
美沙姫は振り返ると、そのまま自宅へ足を進めた。
「美沙姫……」
「楼ちゃん、俺らも帰ろうか」
楼はこくり、と頷くと竜二と共に帰った。
***
「何でかなぁ~……」
自宅に着いた美沙姫は、畳の上に寝転がった。
畳特有の草の様な匂いが鼻をくすぐる。
「自分でもわからない……自分が何をしたいのか、何をするべきなのか……」
美沙姫はぶつぶつとつぶやいた。
「何でこんなものが……」
美沙姫は右腕の印を見つめて、言った。
0 o °〇†第30日目 畳†〇°o 0
「ん~……」
美沙姫は畳の上でごろりと横になった。
着物が捲れようがみっともない格好だろうが、誰も居ないので気にしない。
い草の香りが体を包んだ。
もうとっくに嗅ぎ慣れた、なんだか懐かしいようなくすぐったいような匂い。
美沙姫はこの匂いが好きだった。
この匂いを嗅ぐとほっとするし、少し眠たくなる。
「んんん~……」
美沙姫は寝返りをうった。
「そういや竜一の家の畳もこの匂いだな……」
美沙姫は竜一の家の畳の香りをまじまじと思い出した。
「う~ん……まったり……」
久しぶりに心休まる、ゆったりとしたある夏のひと時であった。

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