結ばれぬ2人 作者/白牙 ◆tr.t4dJfuU

0 o °〇†第19日目 笑いの後の涙† ○ ゜ o 0



「んっ……はぁ……」

右手首の痛みが治まったのは、あれから2,3分後のことだった。

じんわりと、痛みが消えていく手首を、美沙姫は縦にぶんぶんと振った。

「……治った。今のが……印の……呪いか」

美沙姫はふと、外を見た。

川を挟んだ向こう側に、楽しそうにおしゃべりをしながら歩くカップルの姿がある。

「……ふん……」

美沙姫は心底羨ましかった。

自分は、あんな風に好きな人と散歩をしたりすることなどできないから。

「……利き手に刻まれた印は、罰を与え、宿命の線路へと引きずり込む……か」

数年前に読んだ印についての本の冒頭を呟いた。

その時……。

「お~い、美沙姫殿! 居るか~!!?」

「竜一っ!?」

突然玄関がノックされ、竜一の声が聞こえた。

美沙姫は、玄関の扉を開けた。

「お前も人の事を言えないな! ほら、剣を忘れておったぞ!」

竜一の手には、鞘に収まっている風鈴丸が握られている。

慌てて帰ってきたので、竜一の部屋に忘れてしまっていたらしい。

「……すまんな。ありがとう」

美沙姫は俯いて言った。

「同じ剣士として当然のことだ! ……か?」

竜一は少し意地悪く、美沙姫の真似をしてみせた。

「っぷ……そうだな! っははは! 同じ剣士だ! 同じ……同じ……剣……士……」

なぜか気持ちが込み上げて来た。

美沙姫の瞳から、涙がぽたぽたと零れた。

「なっ……お、おい! 俺は何かしたか!? とっ、とにかく中に入れ!」

竜一は美沙姫の背中を押して、家に入った。

「何かあったのか……はひ!!?」

竜一は変な声を出し、一気に顔を真っ赤にした。

下を見ると、美沙姫がしっかりと自分に抱きついている。

「な……なに……を? 美沙姫……殿?」

突然のことだったからか、言葉が途切れ途切れになっている。

「竜一……私は……お前の事が……好き、なんだ……」



0 o °〇†第20日目 初めての恋だから† ○ ゜ o 0



「美沙姫殿……」

竜一は困ったような顔をした。

だが、美沙姫は顔を上げなかった。

「美沙姫殿、お顔を上げてください。俺に許婚……綺羅が居ることはご存知でしょう? ですから……」

「嫌だ! 初めての恋だから……無駄にしたくない!! 初めての恋を嫌なことばかりで終わらせたくないんだぁっっ!!」

今まで溜めた気持ちがあふれ出したのだろうか。

美沙姫は今まで以上に涙を流し、今まで以上に感情的な声で言った。

「美沙姫殿……そうは言っても、俺は……俺達は宿命が……」

「そんな事わかって……んぁ!!」

美沙姫の腕に、再び痛みが走った。

今度はさっきとは比にならない。とてつもない痛みだ。

「いやああぁぁぁああ!! 竜一ぃぃいい!!! うわああぁぁぁああ!!」

美沙姫は叫んだ。

痛みに耐え切れずに、どさりと倒れこむ。

その時、美沙姫の手に風鈴丸が触れた。

「っく……これ……で……」

美沙姫は風鈴丸を掴むと、鞘から出した。

美しく研ぎ澄まされた刀身が現れ、陽の光を浴びてキラキラと煌く。

「まさか……やめろ! 美沙姫殿っ! やめるんだぁ!」

竜一は美沙姫の腕を掴んだが、美沙姫はそれを振り払う。

美沙姫は歯を食いしばると、風鈴丸を、自らの右肩目掛け、一気に振り下ろした。

「やめろぉぉぉおおおおぉぉお!!!!」