結ばれぬ2人 作者/白牙 ◆tr.t4dJfuU

0 o °〇 †第7日目 美沙姫の苦悩† ○ ゜ o 0



あれから1週間程経った。

外は相変わらず、暑い。

今考えると、あの時の雨は2人を近づけるための神様の悪戯だったのかもしれない。

いつものように、美沙姫は縁側で冷たい麦茶を飲んでいた。

「水撒き、薄着、風鈴、団扇、麦茶……暑さを紛らわすための策は全て尽くした……なのに……」

美沙姫の家の庭は水を撒き過ぎてまるでここだけ大雨だったかのようだ。
        
しかも天井からは"風鈴"丸がぶら下げられている。

「あっつぅぅうううううぅいぃぃいい!!!!」

美沙姫は耳が痛くなるような大声で叫んだ。

だが、いくら叫んでも涼しくはならない。

むしろ暑くなっていくようだ。

「麦茶……麦茶……麦茶……」

誰かに呪いをかけるような声と顔で麦茶を淹れに台所へと向かった。

実は部屋に、竜一の忘れて帰った火炎結翔が置いてあり、それが気温を上げていたのだ。



0 o °〇 †第8日目 火駕家へ† ○ ゜ o 0



美沙姫が火炎結翔の存在に気づいたのはさらに3日後のことだった。

「ここが……竜一の家……?」

美沙姫は今、竜一の家の門前に居る。

そこは家、というよりお屋敷だった。

大きな門に2人の門番、そこから見える広い庭園のような庭に驚くほど大きなお屋敷。

それを目の前に見た美沙姫は、文字通り目を丸くしていた。

「あの……何か?」

門番の1人が美沙姫に声を掛けた。

「いや……竜一……さん、の忘れ物を……」

美沙姫は慌てて『さん』をつけた。

この家の者に対して竜一をす『さん』付けしなければ何を言われるかわからない。

「おお! それは竜一様の火炎結翔! わざわざお届けに来て下さったのですね! それでは、ご案内します」

「いっ……いえ! そんな……!」

あくまでも自分は敵だ。

屋敷の中に入れられて、不意打ちでもされたらたまったもんじゃない。

だが、門番は美沙姫を屋敷へ引きずり込むようにして敷地内へと連れて行った。

***

竜一の家はとにかく広かった。

歩いても歩いても竜一の部屋まで着かない。

「あの~……竜一さんの部屋は……?」

「もうすぐ……あ! こです!」

門番の指差した先には、『竜一の部屋』と書かれた表札の掛けてある扉がある。

「竜一様、お客様です」

「入れ」

門番が言うと、扉越しに竜一の声が聞こえた。

「どうぞ、お入りください」

ガラッと門番が扉を開け、美沙姫を室内へと促した。

「はい、失礼いたします」

美沙姫はそっと、室内へと足を進めた。

「お、美沙姫か! どうした?」

竜一が笑顔で美沙姫の方へ駆け寄ってくる。

「どうもこうも……大切な剣を忘れておったぞ! 全く、剣士としてもう少し恥らわんか!」

美沙姫は竜一を一喝した。

だが竜一は、相変わらず笑顔を絶やさない。

「ははは、まぁまぁそう怒るな。ともかく、ありがとう。美沙姫」

「うっ……ま……まあな! 同じ剣士として当然のことをしたまでだ!」

美沙姫は竜一に剣を押し付けると、ぷいっと後ろを向いた。

その時の美沙姫の顔は赤くなり、確かに胸の高鳴りを感じていた。