結ばれぬ2人 作者/白牙 ◆tr.t4dJfuU

0 o °〇†第31日目 ひぐらしの声†〇°o 0
ひぐらしが、夕暮れを知らせる。
その声は、どこか寂しくて切ない声だ。
空き地で遊んでいた、着物を土で汚した子供達が駆けっこをしながらそれぞれの家へと帰っていった。
玄関の扉の前で「ただいま」と言えば、鍵が開けられ、母親が出迎えてくれる。
美沙姫は、それを見て、どこか寂しくなった。
美沙姫の両親は、13年前に、亡くなった。
宿命のために火駕の者――竜一の両親と戦い、負けてしまったのだ。
その時、まだほんの4歳だった美沙姫は幼いながらに、自分が両親の仇を討つ、と決意した。
だが、今自分は、敵である者に恋心を抱いている。
それは、両親の死に恥じるものであり、自分に対する戒めだった。
「……」
美沙姫は、のろのろと起き上がり、いつものように縁側に腰を下ろした。
夏のぬるい風が、体を撫でる。
「ふぅ……」
美沙姫は小さな溜め息をついた。
頭に浮かぶのは、自分の恋のために一生懸命協力してくれた楼と竜二、綺羅の肩を抱きながらすまなさそうな顔をしていた竜一、敵であるにも関わらず、礼儀正しく優しく接してくれた真知。そして、自分に笑いかけてくれる、父と母の姿。
それは、美沙姫にとって、ひぐらしの声のように切ないものだった。
0 o °〇†第32日目 終幕†〇°o 0
「……」
美沙姫はゆっくりと立ち上がると、おもむろに胴着を着た。
「そろそろこの戒めとも……お別れしなければな」
***
「綺羅……いつまで入っていれば良いんだ?」
「まぁ~だ! ほら、竜一! いっくよ~!!」
大きな倉の中から、竜一の声が聞こえた。
倉の扉にはがっちりと鍵が掛かっている。
「いい? それではこれからこの鍵を超能力で開けてみせます~!」
綺羅は扉に手をかざした。
次の瞬間―……。
「えいっ!」
綺羅の手から放たれた光が凝縮したかと思うと、それはすぐに放出された。
辺りが眩い光に覆われ、思わず目を瞑ってしまうほどだ。
ガキンッ、と何かが壊れるような音がし、光は止んだ。
「……綺羅、無理矢理すぎるぞ」
木製の扉を開けて出てきた竜一は、呆れ顔だった。
「これは鍵を開ける、というより鍵を壊すじゃないか!」
竜一は見事粉々に砕け散った元は鍵だった物を指差して言った。
「へへへ~……。この力は最近習得したものだから……。……誰か来るよ、竜一」
綺羅は近づいてくる足音を聞き取り、竜一に知らせた。
「……美沙姫殿!?」
やってきたのは、美沙姫だった。
「……竜一……」
美沙姫はポツリと言った。
「どうしたんだ? 暗い顔をして……」
美沙姫の瞳は、暗く沈み切っており、以前の様な輝きは無い。
「……私は……死ぬべき存在だ。だから……ころ……してくれ……」
美沙姫は途切れ途切れにそう言った。
「美沙姫殿!? 何を言っている! 美沙姫殿!」
竜一は美沙姫の肩を揺さぶった。
「あの時……お前が腕を切り落とそうとした時気付いた。お前には親も、友達も、将来を誓い合った者が居る。だが私はどうだ? 親を亡くし、友達とは喧嘩して……。だから……待ってる人が居るお前は生きるべきだ。死ぬのは……私だ……」
美沙姫は俯いたまま言った。
「……バ……か……」
「え?」
竜一は小さな声で何かを言った。
「バッカかお前はぁああ!!!」
「!!!!???」
耳を劈くような大声に、思わず美沙姫と綺羅は耳を押さえた。
「親が居るとか……友達が居るとか……将来を誓った人が居るとか……そんなのはどうでもいい! 親を亡くした者など世界中にはたくさん居る! 友達と喧嘩した者なんかもっとたくさん居る! 将来なら……俺が誓ってやる! だからまだ死ぬな! 宿命を終わらせる時は……お互いが戦い、どちらかが死んだときではない! 老いて、病気でもなんでも良い……そういう死に方をした時だ!」
「……!」
今まで竜一がこんなに感情的になったことなどあっただろうか。
美沙姫の瞳から消えていた光が、戻っていった。
「……そーだな。こんなのは納得できない。もう宿命なんか放り投げて好きなように生きる方がいいな」
「そーゆーことだ!!」
「竜一ったら男らしぃ~」
「うおっ! 綺羅、くっつくな!!」
その夜、倉の前で数分間続いていた笑い声は、どこか吹っ切れたようなそんな笑い声だったとか……。
***
その夜――火駕家。
「竜一、私ね。薄々気付いてたよ。竜一は本当は美沙姫の方が好きなんだって」
「ぶばぁっ!!!」
竜一は真っ赤になって吹き出した。
「……知ってた……のか」
「女の子はこういうことに関しては敏感なの。それに、私もそっちの方がすっきりするし」
綺羅はうーんと背伸びをして、布団の上にごろんと転がった。
「私もも~っと良い男を見つけてやるんだから!」
「……ああ。頑張れよ」
***
次の日――……。
「んで、何だ? こんなところに呼び出して」
「いや……」
美沙姫と竜一は、燈霊山の頂上に居た。
「……実は……俺……と……つ……ってあぁああぁぁあああ!!!」
「だっ……大丈夫か!!?」
いきなり叫びだした竜一に驚き、美沙姫は思わず駆け寄った。
「もうはっきり言う! 美沙姫殿……いや、美沙姫! 俺はお前のことが好きだ!!」
「……っ!!??」
お互いが顔を真っ赤にしたまま、数分間が過ぎた。
「……やっ……たぁあああぁぁああああ!!!」
美沙姫は嬉しさのあまり、空に向かって大声で叫んだ。
「嬉しい嬉しい! 嬉しいぞっ竜一!!」
「ぬぉおっ! いきなり抱きつくなぁ!」
次の瞬間、2人の印が光を放った。
「これは……?」
光に包まれた印は、ゆっくりと消えていった。
「……印が……」
「消えた……」
印が消えたという事は、宿命から解放されたという事。
「あぁ……あ……」
美沙姫は口をパクパクさせたが、声にならない。
「ダブルでやったな!」
竜一は腕を伸ばし、ビッとVサインをした。
「ぁ……あ……ああ!!」
その夜、藤鷹家と火駕家の宴が行われ、2人の交際が正式に認められことは言うまでもなかった――……。
今回の事件で、美沙姫はどれだけ苦しいことがあっても乗り越えられる、という事を知った。
そして、支えてくれる人が絶対に傍に居ること。
だからきっと……絶対に、何があろうと乗り越えられる。
それ相応の努力があれば。
そして、それに負けない心と支えてくれる人が居れば――……。

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