*人魚姫* 作者/ひさこ ◆tON3cp20n

*5*



美波が飛び込み台へ上がり、大きく深呼吸する。

それから手をつま先へと移動させ、体勢を作った。

1秒、2秒。

3秒目に美波は綺麗なフォームでプールへと飛び込む。

俺は驚いた。

だって水しぶきが本当に少しだけしか上がらなかったから・・・

これが、

これが、

もしかして―――・・・・

俺が呆然としている間にも、美波は泳ぎ続けていた。

その泳ぎはバタフライ。

俺は結構苦手なんだけど。

美波のバタフライは蝶の様に美しかった。

けしてうるさくないキック。

静かに水へ入る腕。

俺は一瞬、美波の背中に大きい蝶の羽がついた様に見えた。

本当やばいな、俺。

幻覚なんか見えちまった・・・。

まじどうかしてる・・・・・

そうこうしているうちに美波が25メートル泳ぎ終わった。

美波は水から顔を出し、ゴーグルを外して

「ぷっはぁーっ!あぁ、やっぱりバタフライって気持ちいいなぁ。」

と達成感の溢れる顔で言う。

「ね、あたしの泳ぎどうだったかな?」

俺はプールサイドへ上がり、美波の元へと歩く。

「すっげぇ・・・・綺麗・・・だっ・・・・た。」

恥ずかしくて、俺がボソボソと答えると

「えぇ、聞こえないよー。何なに?」

と無邪気な笑顔で答えるのだった。

でも俺はそんなことより、美波のあのフォーム・・・・

飛び込みのフォームが気になってしかたがなかった。

本当に、美波が[そう]だとしたら・・・・