*人魚姫* 作者/ひさこ ◆tON3cp20n

*6*
その後俺は職員室へ行き、顧問の先生に質問してみた。
「先生、あの・・・」
「ん、何だ?珍しいな、お前が質問なんて。」
先生が不思議そうな顔で俺を見る。
「島津のことなんですけど、あいつの飛び込み・・・見ましたか?」
「いや、見たことないけど。それがどうした?」
「えっ・・・と、島津のフォームがすごく綺麗で、水しぶきもほとんど上がらなかったんです。」
先生の表情が変わったのはその時だった。
先生はしばらく考え込んでから、口を開く。
「水谷、それは・・・・伝説のフォームだ・・・・・」
やっぱりそうだったんだ・・・・。
俺の予感は的中した。
昔、水泳について調べていたら[伝説のフォーム]について書かれていた本があった。
その内容は・・・・
天性の才能だから、努力して[伝説のフォーム]にたどりつくことはできない。
そのフォームは本当に美しく、見た者全てを魅了する。
水しぶきもほんとど上がらない。
静かに水へ身体が[滑り込む]感じ・・・・
らしい。
本当に美波はその通りだった。
先生は難しそうな、嬉しい様な顔で
「そうか、島津が・・・そうだったのか・・・・」
と独り言を言う。
俺も動揺していた。
表面では平然を装っていたけど・・・・
しばらくの沈黙の後、先生が言った。
「よし、今から島津の泳ぎを見に行こう。」
え?!
今から?
え、え・・・・
まだ心の準備が・・・・・
って何で俺、心の準備なんてしなきゃなんないんだよ!!
たかが美波に会うだけだろ?!
しかも泳ぎを見るだけ。
よし、落ち着け俺。
うん、大丈夫だ。
「先生、行きますか・・・」
「行くぞ、水谷。」
俺と先生はプールへと向かう。

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